著者
林 孝一 御園 秀一 渡邉 誠
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.2_17-2_26, 2014-09-30 (Released:2014-10-25)
参考文献数
16

トヨタ自動車のデザイン部門の現在までの組織やデザイン手法等の変遷を5つのフェーズに区分し解析した。第1フェーズは1933~'48年でまだデザイン組織やプロセス、手法も無い期間であった。第2フェーズは'48~'56年で工芸係が誕生したがプロセス、手法はまだ試行錯誤を繰り返していた。第3フェーズの'56~'73年は'56年の米国アートセンターの来日デザイン講習会でのデザイン手法と材料に衝撃を受け、その手法を吸収しデザインの組織も確立していった。第4フェーズの'73~2003年は海外や国内にデザイン拠点を拡大した時期であった。また車種の多様化で'92年には効率化のための組織変更となった。第5フェーズの'03年~現在はデザインフィロソフィー策定等ブランド戦略強化の組織編成へと移行した。以上、モノ造りの組織は当初、開発手法によりその存在意義が左右された。近年は、時代と共に変化する多様化やブランドイメージ強化等の製品に求められるニーズに合わせ組織が変化したことを明らかにした。
著者
佐藤 敬之輔
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1977, no.25, pp.4-17, 1977-03-30 (Released:2017-07-25)

A. This is one of the famous historical typeface. I studied according to the original punch seals of steel. At the beginning of Meiji era, on 1871, Tokyo-nichi-nichi newspaper imported the lead type from American Missionary Press in Shanghai (China). This was MINCHO style (somewhat mechanized design, developed in Woodcut, and was not popular for the people). 10 years after, the same newspaper exchanged the body type style into this KODOKEN style. The people welcomed this style, because 1) the size became 20% larger in each square side, and 2) the style was the traditional manuscript Kaisho style. 10 years after, again MINCHO style occupied the main position of Japanese body type, and continuously developed into the present stage. The KODOKEN style is used in the name card, until the second war, because it can express the humanistic character. B. Not only to describe this typeface-style, but also I tried to generalize the problems as follow; (1) The system of type size of this KODOKEN type is very special. I traced the historical development of Japanese system of size, from Shanghai to the present JIS System, through KODOKEN type. (2) I indicated many important factors, which decide the typeface-style and tried to express the factors of quality by the numerals. These methods maybe useful to analyze them and we can compare efficiently one style with another.
著者
増田 悠紀子 伏木田 稚子 池田 めぐみ 山内 祐平
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.3_31-3_40, 2023-01-31 (Released:2023-02-15)
参考文献数
31

本研究では,デザイン産学連携プロジェクトに参加した学生の経験とクリエイティブ・コンピテンシー(CC)の獲得実感との関係を明らかにするため,質問紙調査を行なった。78名の学生から回答を回収し,因子分析と相関分析を行った結果,学生のグループとの関わりである「グループでの制作に必要な情報収集」と「グループメンバーとの相互協力」,連携先との関わりである「連携先による制作へのフィードバック」「連携先からの導入の情報提供」「連携先とのコミュニケーション」の経験がCCの獲得実感と関係していた。一方で,教員との関わりはグループ・連携先との関わりと比較すると,CCの獲得実感との関係が弱かった。このことから,産学連携プロジェクトの活動において学生のCCの獲得実感を高めるためには,グループ・連携先との関わりが重要であることが示唆された。
著者
遠藤 律子 宮崎 紀郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.69-78, 2007-01-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
40

書物は印刷を表現手段とするグラフィックデザインの一部であり、印刷技術に支えられ、変化し続けてきた。本研究は、日本の書物の装幀の変遷を、主として印刷、製本、製紙などの技術との関係から参照する。これにより技術が装幀に与えた影響を浮き彫りにすることから、今後の装幀、ひいてはグラフィックデザインやコミュニケーションデザインに資することを目的とする。日本の書物は、主として西洋からの技術の導入により、従来培ってきた書物のあり方から、書物の構造と概念を大きく変えられるに至った。とりわけ、諸技術の導入期である明治の初頭における書物の装幀の改革は、現在の書物のデザインに大きく影響している。本論は継続研究の第1報であり、明治期の装幀についての調査結果を論じている。その結果、明治期を大きく3期に分割することができることが判明した。また、和装本から洋装本への移行の過程、方法が解明された。
著者
小林 桂 星野 准一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.4_59-4_68, 2021-03-31 (Released:2021-03-30)
参考文献数
19

デバイスや認識技術の発展により,利用者の行動認識を利用した体験型展示が増加しつつある。しかし展示環境で利用者にどのような動作をして欲しいのかを伝えるのは難しい。本稿では,メディアアートや博物館の体験型展示で入力のための行動を伝えることを目的としたピクトグラムを使った行動伝達手段を提案する。行動のみを伝える造形や構図の工夫を行うとともに,静止画と動画のピクトグラムを制作して,20 代から70 代までの利用者に対して正答率と行動を達成する平均時間について比較した。20 代を対象にした評価実験では,静止画については正答率のばらつきがあったが,動画については全ての行動を88.5%以上の利用者が理解できた。また中高年層にも行動を伝えることができたが,時間がかかる傾向があることが分かった。これらの成果を神社や風呂敷などの日常的な日本無形文化を伝える体験型展示に適用した。
著者
軍司 円 板垣 順平 砂野 唯
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_1-2_10, 2022-09-30 (Released:2022-10-01)
参考文献数
37

日本国内において、日本酒の消費量減少が危惧されるなかで、新潟県の中部に位置する長岡市では、日本酒を積極的に飲用する若者や潜在的に日本酒を飲用する若者が多く存在する。 本研究では、長岡市に住む20~30 代の若者を事例に日本酒に対する嗜好や趣向に関するアンケートや半構造的インタビューを実施し、それらの情報から、長岡市内の若者の日本酒への興味関心を促すラベルやパッケージのデザイン要素の抽出を試みた。 その結果、感覚的要素と形態的要素の二つがデザイン要素として提示された。前者は、日本酒の「同工異曲」な性質を直感的に理解・イメージできるような視認性の高さと、季節感や可愛さ、馴染みやすさなどの形容表現が挙げられた。後者は、一升瓶や四合瓶に加えて、一度で飲み切ることができる少量の酒瓶サイズを展開することなどが挙げられた。これら二つの要素を日本酒のラベルやパッケージに生かすことで若者の日本酒への興味関心や購買意欲を促すものとなり得ることが明らかになった。
著者
大淵 和憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_41-2_50, 2022-09-30 (Released:2022-10-01)
参考文献数
20

本研究では、九州7 県の伝統工芸産地事業者を対象とした質問紙調査を通じ、伝統工芸産地における社会課題解決に向けた取組みの現状把握を行った。さらに産地の基本属性や経営状況との関連性に注目し、クロス集計を用いた分析を行うことで、単純集計からは見いだせない関係性を抽出することができた。 特に、女性の活躍促進等を従業員に呼び掛けている事業者は、「経常利益が横ばいかあるいは増加している」等のポジティブな要素との関連が見出された。分析を通じて、社会課題解決に向けた様々な取組みが、伝統工芸産地の存続という課題に対して有効であることが示唆された。 今後、実際の取組みに関する調査を通じて、伝統工芸産地の課題解決に向けた実効性に結び付く要素の抽出と検討が必要であると考える。
著者
樋口 孝之 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.11-20, 2004-01-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本稿は,明治期の主要な英和・和英辞書,専門用語辞書によって,日本語「意匠」と英語単語との対応関係を調査し,「意匠」の意味の考察を行なったものである。今日,designと「意匠」の対応は,おおむね「形状・色彩・横様などの結合的な考案」という意味に受けとめられている。「意匠」は,明治初期の主要な英和辞書において,構成する字義の訓「こころだくみ」として解釈された語義から,「ムナヅモリ」の漢字表記として用いられた意味合いが強く,designの'amental plan'の語義に対応していた。これは,美術や工芸の制作に限らない,一般の語法としての「心中における計画・工夫」の意であり,文脈に応じて,「企て」「胸算用」「工夫」などの類義として用いられた。調査対象とした辞書においては,図像を示すdesignへの対応はみられなかった。また,明治10年代に,哲学上の目的論(Teleology)において'adaptation of means toends'の意味で用いられるdesignに対して「意匠」があてられたことが確認された。
著者
翁 群儀
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_73-2_80, 2015-07-31 (Released:2015-10-25)
参考文献数
14

台湾における錫工芸は中国大陸漢民族の台湾移住とともにもたらされたもので,品目としては伝統的祭事道具,茶缶,蝋燭台,香炉などの生活用具が主である。しかし,台湾錫工芸の実態については,今日までほとんど把握されてこなかった。本稿は,現存する錫工芸工房への実地調査を通して,台湾における錫工芸師匠の技術伝承系譜を明らかにしたものである。それにより,次のことが明らかになった。1.台湾における錫工芸は,約200年前に大陸の福州ならびに泉州で展開されていた錫工芸従事者の台湾への移住によってもたらされ,以来,福州派と泉州派の様式が台湾での錫工芸の主流となった。2.かつては台湾西部の北から南の各地域に錫工芸師匠が工房を構えていたが,今日の北部ではその姿が皆無になり,地域的には中南部にわずかの工房・師匠の存在が確認できる。3.生活様式の西洋化などに伴い伝統的錫工芸は衰退の一途を辿りつつあるものの,技術伝承脈絡が明らかになったいくつかの錫工芸工房においては旧弊から脱皮した錫工芸の展開が図られている。
著者
針谷 爽 坂田 理彦 岩原 明弘 伊藤 大聡 中西 美和
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.4_59-4_66, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
10

従来,製品デザインにおいては,ユーザが製品を通してどのような価値を体験したいのかをユーザ調査等によって掴み,それに忠実に応えるよう情報伝達形態をデザインすることが重視されてきた。一方,最近では,開発者側が積極的に発信したいと意図する価値を製品デザインに反映させる試みも見られ,ユーザのニーズを超えた製品デザインに繋がる可能性が期待されている。そこで,本研究では,開発者の意図する製品価値をより的確にユーザに伝えるための情報伝達形態について,家電製品を対象として評価・検討する。まず,開発者及びユーザの両者に対して調査を行い,家電製品に備わる直接的または間接的な情報伝達形態についてパタン化した上で,各パタンに作りこまれた開発者が意図する製品価値がユーザにどの程度伝わっているのかを疎通度として定量化した。次に,この疎通度を用いて,開発者がユーザに与えたいと意図した製品価値をユーザに的確に伝えるためには,どの情報伝達形態のデザインに注力すべきかを導出した。
著者
服部 等作
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.9-16, 2005-01-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
19

本研究の目的は、王、皇帝、あるいは聖職者用に象徴性を備えた玉座に関する研究である。本論文では、紀元前3000年期のメソポタミア文明1期のウルク、及びジェムデド・ナスル様式の印章に表現された3種類の特徴的な座像を調ペた。座像は、地面に直接すわる床座像、敷物にすわる床座像、そして低い座面の原形風スツールの上の床座および椅座の人物像が出現する。これら3種の座像から、地面に直接すわる床座像には、群像が多い、単独像に従い敷物あるいはスツールを利用する図像が増大する。特に単独の座像は、スツールの上の片立て膝の床座姿勢が多数ふくまれ、その表現には特別な人物を想起させる神殿や祭犯の光景が加わる。このことからスツールの上の床座、とりわけ片立て膝の床座姿勢をとる人物座像に玉座の性格の一部を有するとしてその特徴が見いだせる。
著者
井口 壽乃 森脇 裕之
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.3_81-3_88, 2022-01-31 (Released:2022-02-05)
参考文献数
28

本研究の目的は,名古屋市で 1989 年から 1997 年に全5回開催された国際ビエンナーレ「アーテック」(ARTEC)の歴史的意義を明らかにすることにある。アーテックが開催されたおよそ 10 年間は、インターネット社会の到来以前の高度情報社会を背景としたアートとデザインの転換期にあたる。この展覧会の意義は,いわゆる現代芸術の一つのジャンルとしての「メディアアート」の形成にとどまらず,1980 年代から国が主導する地域産業の高度化に寄与する特定事業構想に基づいて名古屋市が推進する「デザイン都市名古屋」の文化政策に貢献したことが指摘できる。 本稿では,第1にアーテックと同時に開催された世界デザイン博覧会および世界デザイン会議 ICSID と名古屋市の地域的課題の関連を考察する。第2に,アーテック企画者の森茂樹と山口勝弘に注目し,ハイテクノロジー・アート国際展からアーテック開催までの過程における彼らの役割を明らかにする。第3に,名古屋市の都市政策,および通産省の政策とハイテクノロジー・アートの関係を考察する。最後に,アーテックは国と地域経済,都市のイメージづくりと文化創造,そして芸術の国際化が複雑に関連した文化事業であったと結論づけた。
著者
松岡 由幸 谷郷 元昭 寺内 文雄 久保 光徳 青木 弘行
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.57-66, 1997-11-30 (Released:2017-07-25)
参考文献数
8
被引用文献数
1

近年, 製品に対するニーズが多様化する傾向にあり, 製品開発においてユーザーの嗜好性の違いを考慮した設計方法の構築が望まれている。そこで, 嗜好性の違いを考慮する方法として, ロバスト設計の方法に注目した。ロバスト設計とは, 製品における機能のばらつきに対処する方法である。本研究では, この方法を基に, 機能のばらつきを人の嗜好性の違いに置き換えることで, 嗜好性の違いを考慮する設計方法の構築を図った。具体的には, 自動車用シートのギャザーパターンをケーススタディーとして, シート設計におけるいせ込み量と引張力を制御因子, ギャザーパターンの外観に対する嗜好性の違いを誤差因子とし, ロバスト設計の手順に従うことで設計方法の構築を試みた。また, 従来の設計方法と比較することにより, 本方法の有効性を検討した。その結果, 今回の方法が製品設計において嗜好性の違いを考慮する上で有効であることを示した。
著者
田村 良一 森田 昌嗣
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.13-22, 2006-11-30 (Released:2017-07-11)
参考文献数
15
被引用文献数
4

本論文は,熊本県阿蘇郡小国町の地域ブランドを構築していくための端緒として,小国町と他の九州圏内11地域を対象として,地域イメージの構造などについて検討したものである。観光地の選定において「全体的なイメージが良い」ことが重視されていることがわかった。住民,一般者,来訪者を対象とした小国町の地域イメージと,一般者のみを対象とした12地域の地域イメージに関するアンケート調査の結果を因子分析した。その結果,地域イメージは文化度,親近度,閑静度の3因子で捉えられることがわかった。また前者の分析から,住民に比較して一般者,さらには来訪者の小国町に対する評価が高いことがわかった。後者の分析から,一般者を性別・観光年齢層別の4グループに分類して比較すると,小国町は評価のバラッキが大きく,因子空間上の付置の様子からも大きな特徴がないことがわかった。小国町から想起されるものやイメージとして,「杉」「温泉」「ジャージー牛乳」などが高頻度であげられたことから,これらをタッチポイントとして有効に活用することで,地域イメージの構築に結びつくと考えられた。
著者
櫻井 かのこ 山本 政幸
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_31-2_40, 2022-09-30 (Released:2022-10-01)
参考文献数
3

シピ・ピネルズ(Cipe Pineles, 1908-1991)は,第⼆次世界⼤戦後のアメリカの出版業界で活躍し,20世紀における経済成⻑と社会変動の時代に重要な役割を果たした。その貢献のひとつは,当時新たに存在感を増した⼤衆雑誌,とりわけ若い⼥性をターゲットにしたファッション誌の編集に携わったことである。⼥性初のアートディレクターとして数々の編集に関わり,10代の⼥性や働く⼥性というこれまで社会的にも経済的にも⽬を向けられていなかった⼈々に注⽬し,誌⾯構成を駆使して広い読者層を取り込むことにより,新しい視覚⽂化を⽣み出した。グラフィックデザイン界で数々の功績を収め,⼥性の社会進出に向けた先駆的な役割を果たす⼀⽅で,仕事のストレスや⼥性としての幸せに思い悩んだ末に⾃殺未遂を図るなど,公私のコントラストが際⽴つピネルズの⼈⽣は,⼀⼈のデザイナーの成功事例を⽰すだけでなく,性差別や社会問題に取り組む現代社会において⽰唆に富む内容といえる。本研究は,新しい⼤衆雑誌づくりの基盤を築き,⼥性のためのデザインの歴史をつくったピネルズの業績を明らかにする。
著者
山崎 和彦 爲我井 敦史 堀 雅洋
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.6_95-6_102, 2014-03-31 (Released:2014-06-10)
参考文献数
17

ユーザビリティ評価におけるインスペクション法では,実際に動作するプロトタイプやエンドユーザーの協力を必要としない.しかし,ユーザビリティ評価について実践的スキルを有する専門家の不足により,インスペクション法を適切に実施することは必ずしも容易でない.本研究では,ユーザビリティ評価の初心者として大学生の協力を得て,2種類のインスペクション法を用いてユーザビリティ評価を実施し予備的検討を行った.その結果,初心者がインスペクション法を実施する際に直面する主要な問題点が,対象ユーザー視点ならびに対象箇所の指定に関わるものであることを確認した.そして,それらの問題点への方策として,対象ユーザーの特徴分解法および壁を利用したヒューリスティック法を提案する.その上で,提案手法をユーザビリティ評価の初心者に使用してもらい,携帯電話端末の評価を行ない,その有用性を検証するとともに提案手法の利点と課題について考察する.
著者
劉 俊哲 植田 憲 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.3_93-3_102, 2012 (Released:2012-11-30)
参考文献数
53

本稿は、中国の南京に伝わる伝統的な「秦淮灯彩」の歴史の源流、変遷、沿革と歴史の諸相を考察したものである。特に、「秦淮灯会」活動を明確に記載した文献の調査を通して、南北朝時代から清末、民国までの歴史を回顧した。その結果、以下の知見が得られた。(1)古くから「秦淮灯会」は、「秦淮灯彩」を用いながら一連の具体的な活動を通して長期間に当該地域の活性化に果たす役割がある。(2)「秦淮灯彩」をはじめ、当該地域に盛んになった手工業から生み出した伝統的な生活文化は、人びとが地域のなり立ちを確認する重要な契機を提供していた。(3)「秦淮灯彩」は身分、年齢、性別を問わず、当該地域の人びとに共有された。そのため、「秦淮灯彩」のあった姿を明らかにすることは、人間関係、調和社会の構築を強調している中国には、現実的な意義がある。(4)近年では、機器導入するによる、量産が多くなされるととに、「秦淮灯彩」の質と意匠の低下が激しい現状を迎えている。今後、伝統的なものづくりを、いかに継承していくかが大きな課題となっているといえよう。
著者
定延 久美子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.87-96, 2010-01-31 (Released:2017-06-29)
参考文献数
20

本研究では,紙衣和紙の性質を生かしたデザインの考察,および実際の作品制作を目的としている。紙衣とは和紙で作った衣服で,17世紀から19世紀にかけて日本では安価な庶民の衣服として広く用いられた反面,おしゃれ着として趣向をこらした紙衣も作られていた。紙衣和紙のテクスチャーを生かしたデザインの考察を目指すため,紙漉きと紙衣和紙の加工についても研究対象とし,紙衣和紙を自作した。さらに,紙衣和紙の材料試験を行い,布地や加工を施していない和紙と比較した結果,非常に強いハリがあり,量高いという特徴を導き出すことができた。この試験結果に基づいて衣服デザインを考察し,あわせて衣服構成法の検討を行い,実際の作品を作成した。方形に裁断した紙衣和紙を組み合わせることにより,材料試験で明らかにした強いハリと量高さによって生まれる襞を最大限に生かすようにデザインした。方形の紙衣和紙は,ミシンで縫合するのではなく紐で綴じ合わせることにより,ユニークなシルエットのブラウス,スカート,ワンピース,ジャケットを完成させることができた。