著者
藤田 義正
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.155-159, 2017 (Released:2017-07-26)
参考文献数
34
被引用文献数
5

レプチンは脂肪細胞から分泌され主に視床下部に作用して食欲の抑制やエネルギー消費の亢進よって体重減少をきたす分子である.一方でレプチン受容体は血球系細胞にも発現しており免疫系に対する作用も知られるようになり,それとともにレプチンの自己免疫疾患における意義も次第に明らかとなった.多くの自己免疫疾患でレプチンが増悪因子として作用していることが示されており,レプチンシグナルの阻害療法が自己免疫疾患の新しい治療方法となる可能性が示唆されている.本稿では現状までの報告をふまえて,免疫系におけるレプチンの意義について概説する.
著者
岩永 希 原田 康平 辻 良香 川原 知瑛子 黒濱 大和 和泉 泰衛 吉田 真一郎 藤川 敬太 伊藤 正博 川上 純 右田 清志
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.478-484, 2016 (Released:2016-10-30)
参考文献数
21
被引用文献数
11

症例は25歳女性.2013年6月前医で原発性シェーグレン症候群と診断.2014年7月発熱,著明な炎症反応,全身リンパ節腫脹,肝脾腫を認め前医に入院.抗生剤(ceftriaxone,meropenem)を投与,ステロイドを増量(PSL 50mg)するも無効で,急速に進行する全身浮腫を認め当院へ転院.リンパ節生検では好中球浸潤を認め,骨髄穿刺では巨核球増加と線維化を認めた.minomycinを併用したところ,発熱・全身浮腫・炎症反応は徐々に改善したが,貧血・血小板減少を認めていた.感染症を疑いステロイドを減量したところ,再び発熱,浮腫・胸腹水の出現,血小板減少・貧血の増悪を認めた.ステロイドパルス,ステロイド再増量を行うも治療抵抗性で,cyclosporin(CyA)を併用し軽快した.典型的なリンパ節の病理像を認めなかったが,本症例の臨床像はTAFRO症候群と酷似していた.TAFRO症候群は,Castleman病の一亜型と考えられているが,感染,リウマチ性疾患,悪性腫瘍などによる高サイトカイン血症により二次的に生じ得るとされている.本症例では原発性シェーグレン症候群を背景に発症し,化膿性リンパ節炎様のリンパ節病理像を認めた点が興味深いと考え報告する
著者
天谷 雅行
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.325-333, 2006 (Released:2006-10-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1

デスモゾームは様々な組織の複雑な構築の形成,維持に重要な役割をしている.デスモゾームの膜構成蛋白として,カドヘリン型の細胞間接着因子デスモグレイン(Dsg)がある.Dsgは,4種のアイソフォームの存在が知られ,自己免疫,感染症,そして遺伝性疾患の標的蛋白あるいは原因遺伝子となっていることが明らかとなった.皮膚・粘膜に水疱,びらんを生じる天疱瘡は,Dsg1とDsg3に対するIgG自己抗体により生じる自己免疫性疾患である.近年,天疱瘡の一部の患者では,Dsg1/Dsg4交叉自己抗体が存在することも明らかにされた.ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)あるいは水疱性膿痂疹を起こす黄色ブドウ球菌産生外毒素(ET)は,Dsg1を特異的に切断するセリンプロテアーゼである.そして,SSSS罹患後に低いながらも抗Dsg1 IgG自己抗体の産生が確認された.DSG1遺伝子に変異があると線状掌蹠角化症となり,DSG4遺伝子に変異がある先天性貧毛症となる.なぜ,これだけ多くの皮膚疾患がDsgを標的としているのか明らかでない.しかし,Dsgを鍵として,感染症との接点から自己免疫の発症機序が解明されることが期待される.
著者
松下 貴史 佐藤 伸一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.333-342, 2005 (Released:2005-11-05)
参考文献数
64
被引用文献数
4 12

B細胞の生存・分化・抗体産生に重要な役割を果たすBAFF (B cell activating factor belonging to the tumor necrosis factor family)はTNFファミリーに属する分子で単球,マクロファージ,樹状細胞の細胞膜上に発現され,可溶型として分泌される.BAFFの受容体にはBAFF-R (BAFF receptor), BCMA (B-cell maturation antigen)およびTACI (transmembrane activator and calcium-modulator and cyclophilin ligand interactor)の3種類が知られておりいずれもB細胞の広範な分化段階において発現がみられる.BAFFシグナルは主にBAFF-Rを介して伝えられ,TACIは抑制性のシグナルを伝達している.BAFFはB細胞上の受容体との結合により未熟B細胞の生存と分化,成熟B細胞の増殖,自己反応性B細胞の生存を制御する.BAFF過剰発現マウスでは全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus ; SLE)やSjögren症候群に類似した症状を呈する.さらにSLE自然発症モデルマウスや関節リウマチ(rheumatoid arthritis ; RA)モデルマウスであるコラーゲン誘導関節炎においてBAFFアンタゴニストの投与にて症状が改善することが明らかにされた.そしてSLEやRA,Sjögren症候群,全身性強皮症の患者において血清BAFF濃度の上昇が報告されている.BAFFは末梢性B細胞の分化・生存に影響することから,BAFF/BAFF受容体の異常が末梢性トレランスの破綻を来たし,リウマチ性疾患の発症に関与していると推測される.近年SLEやRAにおいてB細胞をターゲットした治療が脚光を浴びており, BAFFが有望な治療標的となることが期待されている.

4 0 0 0 OA B細胞

著者
長谷川 稔
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.300-308, 2005 (Released:2005-11-05)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

近年の研究は,B細胞が自己抗体の産生,サイトカインの分泌,抗原提示,共刺激作用などを介して自己免疫とその発症に重要な役割を果たしていることを明らかにした.CD20に対するキメラモノクローナル抗体(リツキシマブ)が作成され,これを用いることにより,B細胞をターゲットとした選択的治療が可能になった.関節リウマチや全身性エリテマトーデスを含むいくつかの自己免疫疾患において,この抗体の有用性が続々と報告されてきている.リツキシマブは,B細胞を消失させることにより長い期間症状の寛解を誘導する.自己免疫におけるB細胞の役割を明らかにすることは,B細胞をターゲットとした治療の開発に重要である.また,逆にB細胞をターゲットとした実際の治療から,自己免疫の病態解明につながる鍵が得られる可能性がある.この総説では,自己免疫疾患におけるB細胞の役割に関する最新の研究知見とリツキシマブによる自己免疫疾患の治療効果を中心に概説する.
著者
崎山 幸雄 小宮山 淳 白木 和夫 谷口 昂 鳥居 新平 馬場 駿吉 矢田 純一 松本 脩三
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.70-79, 1998-04-30 (Released:2009-02-13)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2 3

急性中耳炎,急性下気道炎を反復するIgG2欠乏症の乳幼児を対象に静注用免疫グロブリン製剤(IVIG; GB-0998)による感染予防効果を多施設共同研究で検討した.初回300mg/kg体重, 2回目以降は200mg/kg体重, 4週毎, 6回投与のIVIG療法はIgG2欠乏,抗肺炎球菌特異IgG2抗体欠乏を呈して急性中耳炎,気管支炎もしくは肺炎を反復する乳幼児の感染予防に有用であることが示された.
著者
畠山 昌則
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.132-140, 2008 (Released:2008-06-30)
参考文献数
27
被引用文献数
3 3

胃癌は全世界人口における部位別癌死亡の第二位を占める.近年の研究から,cagA遺伝子を保有するヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の持続感染が胃癌発症に決定的な役割を担うことが明らかになってきた.cagA遺伝子産物であるCagAタンパク質はピロリ菌が保有するミクロの注射針(IV型分泌機構)を通して菌体内から胃上皮細胞内へと直接注入される.細胞内に侵入したCagAはSHP-2癌タンパク質に代表される細胞内シグナル伝達分子と特異的に結合しそれらの機能を脱制御することにより,細胞増殖・細胞運動にかかわる多彩な細胞内シグナル伝達系を撹乱する.同時に,CagAは上皮細胞の極性制御を担うPAR1b/MARK2キナーゼと結合し不活化する結果,消化管粘膜構築を崩壊させる.一連のこうした生物活性から,CagAは胃癌発症に深くかかわることが推察されてきた.ごく最近,ピロリ菌CagAを全身性に発現するトランスジェニックマウスにおいて胃癌,小腸癌さらには骨髄性白血病,B細胞リンパ腫が発症することが明らかとなり,CagAが生体内で直接の発癌活性を示す細菌由来の初の癌タンパク質(bacterial oncoprotein)であることが示された.
著者
中島 友紀
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.17-25, 2015 (Released:2015-03-10)
参考文献数
32
被引用文献数
4

骨は,脊椎動物特有な運動支持の器官であると共に,生命維持に必須なカルシウムなどミネラルの代謝器官であり,免疫系細胞の分化増殖の場となる造血器官でもある.骨と免疫系は,骨髄微小環境をはじめ,サイトカイン・受容体・転写因子などの制御分子を共有し緊密な関係にある.関節リウマチにおける炎症性骨破壊の研究は,両者の融合領域である骨免疫学に光を当てた.破骨細胞分化因子RANKLのクローニングに加え,種々の免疫制御分子の遺伝子改変マウスに骨の異常が見いだされ,骨免疫学の発展を加速させた.近年では,骨の細胞と造血幹細胞の関係も解明され,骨免疫学がさまざまな疾患の制御に重要な知見を提供するようになった.
著者
小西 舞 小荒田 秀一 山口 健 田代 知子 副島 幸子 末松 梨絵 井上 久子 多田 芳史 大田 明英 長澤 浩平
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.154-161, 2011-06-30
参考文献数
17
被引用文献数
1 12

症例は67歳女性.主訴は頭痛,四肢の小結節・紅斑.近医にて慢性腎不全・高脂血症を治療中であったが,インフルエンザワクチン接種を行った.接種2週間後,微熱,頭痛が出現し,CRP高値,MPO-ANCA陽性,腎機能障害,側頭部の圧痛,四肢の紅斑を指摘され,紹介受診となった.紅斑の組織像で動脈周囲に炎症細胞浸潤,フィブリノイド壊死を認め,側頭動脈の組織では炎症細胞浸潤と巨細胞を伴う血管炎を認めた.CTで両肺に多発する斑状影を認め,肺胞出血または間質性肺炎と考えられた.顕微鏡的多発血管炎(mPA)と側頭動脈炎(GCA)の合併と診断し,副腎ステロイドによる治療を開始した.CRP, MPO-ANCAの陰性化を認め,腎機能も改善した.その後,日和見感染症を併発し死亡され剖検がなされた.剖検では,半月対形成性糸球体病変が証明された.本例はインフルエンザ・ワクチン接種を契機として2つの血管炎が同時に発症しており,組織学的に巨細胞性血管炎と微小血管炎が証明された世界初の報告である.血管炎症候群に共通する発症機序を示唆する貴重な症例と考えられた.<br>
著者
村田 卓士 岡本 奈美 清水 俊男 玉井 浩
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.101-107, 2007 (Released:2007-04-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1 6

PFAPA症候群とは,周期性発熱,アフタ性口内炎,頸部リンパ節炎,咽頭炎を主症状とし5歳以下の乳幼児期に発症する非遺伝性自己炎症性疾患である.病因,病態は現在不明であるが,サイトカイン調節機能異常は重要な病態の一つと考えられる.発熱発作の周期は規則的で通常3~6日間続くが,間歇期は全く症状を欠き活動性も正常である.その他,扁桃炎,倦怠感,頭痛,関節痛,腹痛,嘔吐,下痢,咳,血尿,発疹など多彩な症状を呈するが,いずれも後遺症は残さない.発熱時の非特異的炎症反応の他は特異的な検査所見はなく,診断にあたっては他の発熱性疾患の鑑別を含めた臨床診断が重要である.特異的な治療法はなく,有熱期間の短縮効果としてステロイド薬,寛解導入が期待できるものとしてシメチジンや扁桃摘出術などが考慮されることもあるが,症例の集積および検討を要する.他のautoinflammatory syndromeに比して予後は良好で,多くの症例では発症後経時的に発作間隔は広がり4~8年程度で治癒,成長および精神運動発達も正常である.口腔内病変をともなう小児期の反復性不明熱においては,本症を常に考慮する必要がある.
著者
横田 和浩
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.367-376, 2017 (Released:2017-12-13)
参考文献数
50
被引用文献数
11 20

破骨細胞は,骨髄造血幹細胞由来の単球/マクロファージ系前駆細胞から分化した生体内で骨組織を破壊・吸収することのできる唯一の細胞である.その分化はM-CSF(破骨細胞生存因子)/RANKL(破骨細胞分化誘導因子)シグナリングに依存していると考えられている.しかし,最近,関節リウマチのような全身性自己免疫疾患における慢性炎症病態では,関節局所の豊富な炎症性サイトカインが病的な骨吸収細胞の分化を誘導し,過剰な骨破壊を惹き起している可能性が提起されている.そして,著者らはマウス骨髄単球およびヒトCD14陽性単球を炎症性サイトカインであるTNFα + IL-6で刺激・培養することにより破骨細胞の特徴を呈する骨吸収細胞(破骨細胞様細胞)が分化誘導されることを見出した.本稿では,著者らのデータの一部とともにRANKL非依存性の破骨細胞分化誘導機構について,最新の知見を交えて解説する.今後,RANKL非依存性の破骨細胞分化誘導機構が明らかになり,新たな破骨細胞サブセットが同定されることで,炎症性関節疾患における病態解明と新規治療戦略へと発展していくことが期待される.
著者
新納 宏昭
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.412-420, 2015 (Released:2016-01-04)
参考文献数
50
被引用文献数
1

関節リウマチをはじめとした自己免疫疾患の病態におけるB細胞の重要性は,近年のB細胞標的療法の臨床効果によって再認識された.ただここで着目すべき点として,B細胞は,抗体産生のみならず,抗原提示,共刺激,サイトカイン産生などといった抗体非依存性の多彩なエフェクター機能を営んでいることが判明した.また,エフェクターB細胞とは異なった制御性B細胞の存在も近年明らかとなり,自己免疫疾患の病態におけるB細胞の役割は,我々が予想していた以上にきわめて複雑なものと思われる.自己反応性B細胞は,分化過程での複数のメカニズムを介して自己寛容となるが,それが破綻してエフェクター機能を発動することにより自己免疫疾患は発症する.ヒトB細胞には表面マーカーに基づいて複数のサブセットが存在するが,本疾患では特定のサブセット中にエフェクターB細胞が豊富に存在する.自己免疫疾患に対して様々なB細胞標的療法が開発されつつあるが,リスクベネフィットを考慮すると,無差別的な殺B細胞療法ではなく,エフェクターB細胞に対する選択的制御療法が今後の治療戦略として期待される.
著者
伊藤 大介 野島 聡 熊ノ郷 淳
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-10, 2014 (Released:2014-03-05)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

セマフォリンファミリーは分泌型及び膜型の蛋白である.もともとは神経発生のガイダンス因子として同定された.近年,様々な報告から,セマフォリンの中に生理的にも病理学的にも,免疫反応に関わるものが存在することが明らかになってきた.このようなセマフォリンは免疫セマフォリンと呼ばれ,Sema3A,3E,4A,4D,6D,7Aがあげられる.これらの中には,免疫細胞の活性化や分化に関わるセマフォリンもあれば,免疫細胞の輸送を助ける役割を持つものも存在する.さらに,セマフォリンの代表的な受容体には,plexinやneuropilinがあり,これらは細胞特異的な発現パターンを有し,多種のシグナル反応に関わっている.現在,セマフォリンとその受容体は様々な疾患の診断及び治療ターゲットとなる可能性があると考えられている.今回,免疫おけるセマフォリンとその受容体の役割をⅢ型及びⅣ型セマフォリンを中心に述べていく.
著者
内田 立身 国分 啓二 酒井 一吉 五十嵐 忠行 鈴木 照夫 樋口 利行 木村 秀夫 松田 信 刈米 重夫
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.146-153, 1984-06-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
24

慢性関節リウマチの鉄代謝異常を,血清鉄,総鉄結合能,血清フェリチン,フェロキネティクス,網内系細胞内鉄代謝の面から検討した.対象42例中57.1%に貧血があり,そのうち63%が正色性, 24%が低色性, 13%が高色性であった.血清鉄は66%が低値をとり総鉄結合能は82%が正常または低値,血清フェリチン値は83%が正常または高値を示し,鉄欠乏性貧血のそれと異なっていた. 15例のフェロキネティクスでは, PID T〓の短縮, PIT, RITの低値があり,これらは血清鉄低値,骨髄赤芽球系細胞の低形成の所見に見合うものであつた.59Fe標識コンドロイチン硫酸鉄を用いた網内系細胞の鉄動態の検索では,投与4, 6時間目に網内系細胞より動員される鉄量が正常に比し少なく,網内系細胞よりの鉄の動員の障害,いわゆるRE iron blockがあることが示唆された.この動員の障害により,血清鉄低値をきたし,骨髄への鉄供給不足,これに伴う無効造血の存在が病態として観察された.他方,骨髄では,造血幹細胞レベル,赤芽球細胞レベルでの低形成があり,これがPIT, RITの低値と関係していると思われ,貧血の主たる成因であることが類推された.
著者
井田 弘明 江口 勝美
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.90-100, 2007 (Released:2007-04-30)
参考文献数
41
被引用文献数
2 4 2

TNF-associated periodic syndrome (TRAPS)は,TNFが病態の中心と考えられる遺伝性周期性発熱症候群の一つである.TNFRSF1A(TNFR1)分子が細胞表面に留まり,TNFからの反応が持続するため,発熱などの様々なTRAPS症状が出現すると単純に考えられてきた.ところが,最近,TNFRSF1A分子の切断異常がみられない症例や突然変異のないTRAPS症例もあること,さらに孤発例も存在することが判明し,TRAPSとは大変heterogeneousな症候群であることがわかってきた.最近,細胞表面に発現されないTNFRSF1A分子が,TNFと無関係に細胞内で凝集し,NF-κBの活性化やアポトーシス誘導を生じていることも報告され,TRAPSの病因は混沌としている.本邦において,現在までTNFRSF1A遺伝子に突然変異をもつTRAPS症例は5家系15名と少ないが,突然変異のない孤発例は多い.本稿では,TRAPSについて自験例を提示しながら臨床像を紹介するとともに,TNFRSF1A分子の発現制御機構から考えられるTRAPSの病因,その病因とこれまで経験した症例から検討した診断のためのフローチャート,および,現存の治療法と私たちが試みた新しい治療法などを解説した.
著者
橋本 求 三森 経世
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.463-469, 2012 (Released:2012-12-31)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

IL-17を産生するヘルパーCD4 T細胞(Th17細胞)は関節リウマチ(RA)などの様々な自己免疫性疾患の病態に重要な役割を果たす.IL-17は,好中球やマクロファージ,線維芽細胞,破骨細胞などに作用し,慢性炎症を惹起し,骨破壊を促進することで関節炎に寄与する.近年の自然発症のRAモデルマウスを用いた研究により,TLRやC-type lectin receptor,補体,ATPなど様々な自然免疫の活性化が,マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞に作用しIL-6やIL-23などのサイトカイン産生を介して,Th17細胞分化誘導を促し,自己免疫性関節炎を惹起するメカニズムが明らかとなってきた.ヒトRAにおけるTh17細胞の役割については未だ定まっていないが,自然免疫の活性化とTh17細胞の分化誘導は,少なくとも一部のRA患者において関節炎の発症にかかわっていると考えられる.これらの研究は,RAの発症メカニズムの解明やRA発症の予防,早期治療につながると考えられる.
著者
大谷 直子
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.390-397, 2014 (Released:2015-01-06)
参考文献数
32
被引用文献数
2

近年,肥満は糖尿病や心筋梗塞だけでなく,様々ながんを促進することが指摘されている.しかし,その分子メカニズムの詳細は十分には明らかになっていない.今回著者らは,全身性の発癌モデルマウスを用いて,肥満により肝がんの発症が著しく増加することを見出した.興味深いことに,肥満すると,2次胆汁酸を産生する腸内細菌が増加し,体内の2次胆汁酸であるデオキシコール酸の量が増え,これにより肝臓の間質に存在する肝星細胞が「細胞老化」を起こすことが明らかになった.「細胞老化」とはもともと,細胞に強いDNA損傷が生じた際に発動される生体防御機構(不可逆的細胞増殖停止)である.しかし最近,細胞老化をおこすと細胞が死滅せず長期間生存し,細胞老化関連分泌因子(SASP因子)と呼ばれる様々な炎症性サイトカインやプロテアーゼ等を分泌することが培養細胞で示されていた.実際著者らの系でも,細胞老化を起こした肝星細胞は発がん促進作用のある炎症性サイトカイン等のSASP因子を分泌することで,周囲の肝実質細胞のがん化を促進することが明らかになった.さらに臨床サンプルを用いた解析から,同様のメカニズムがヒトの肥満に伴う肝がんの発症に関与している可能性も示された.本研究により肥満に伴う肝がんの発症メカニズムの一端が明らかになったと考えられる.今後,糞便中に含まれる2次胆汁酸産生菌の増殖を抑制することにより,肝がんの予防につながる可能性が期待される.
著者
田中 敏郎
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.433-442, 2015 (Released:2016-04-27)
参考文献数
64
被引用文献数
2 4

インターロイキン6(IL-6)は,多彩な作用を有するサイトカインで,病生物の排除や創傷治癒に役割を果たす.しかし,その過剰なまた持続的な産生は,炎症性疾患の発症や進展に関与することが示され,ヒト化IL-6受容体抗体トシリズマブが開発された.臨床試験での有効性,安全性評価を踏まえ,現在,トシリズマブは慢性炎症性疾患である関節リウマチ,若年性特発性関節炎,キャッスルマン病に対する治療薬として使用されている.また,世界で進められている臨床研究や試験により,IL-6阻害療法は,他の慢性炎症性疾患のみならずサイトカインストームを呈する急性全身性炎症性疾患に対しても有効な治療法となる可能性がある.
著者
三宅 幸子
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.398-402, 2014

腸管は最大の免疫組織でもあるが,常に食物の摂取などを通して外来抗原に接するうえに,100兆個にも達する腸内細菌と共存するなど独特な環境にある.近年,自然免疫研究の進歩に加え,シークエンス技術の進歩による培養によらない腸内細菌叢の網羅的遺伝子解析などが可能となり,常在細菌による免疫反応の調節に関する研究が進み,自己免疫との関係についても注目されている.無菌飼育下では多発性硬化症や関節リウマチの動物モデルは病態が軽減する.また抗生剤投与により腸内細菌を変化させると病態が変化する.特定の細菌の移入による自己免疫病態への影響については,Th17細胞を誘導するセグメント細菌を移入すると病態が悪化する一方,制御性T細胞の増殖に関与するBacteroidesやLactobacillusを移入すると病態が軽減する.これら動物モデルの解析では,腸内細菌が積極的に病態に影響することが示されている.ヒトの疾患では関節リウマチで解析がされており,特定の菌が関与する可能性も示唆されている.免疫調節に最適な腸内環境の維持が可能になれば,疾患治療のみならず予防にもつながることから,研究の進展が期待される.
著者
天崎 吉晴
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.249-261, 2010 (Released:2010-10-31)
参考文献数
97
被引用文献数
1 8

免疫抑制剤シクロスポリンAとタクロリムスは臓器移植においてその利用が始まり,近年はリウマチ性疾患の治療にも使用され,優れた成績を上げている.これらの薬剤は脱リン酸化酵素カルシニューリン(CN)を標的としてその活性を抑制し,T細胞抗原受容体の刺激などによって惹起される細胞内カルシウム依存性シグナルを阻害することで,転写因子nuclear factor of activated T cells (NFAT)の核内移行を抑制する.CN-NFAT系は末梢ヘルパーT細胞のサイトカイン産生のみならず,他の免疫応答分子や制御性T細胞,NKT細胞などの様々な免疫系細胞の機能や分化,および免疫系以外の生命現象に関与している.CN阻害剤の投与はT細胞の機能抑制を及ぼすとともに,固有の機序による免疫系以外への影響をきたし,副作用の原因となる.それらの解明と理解はCN阻害薬のCNの適正・安全な使用のみならず,新たな免疫抑制剤の開発にも資すると考えられる.CN-NFAT系の機能に関する近年の知見と,現行および新たなCN阻害薬の可能性につき概観する.