著者
田熊 保彦 加藤 茂 小島 紀徳
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.85-92, 2005

1970年頃まで使用されていた強力な毒性を有する有機リン系農薬は使用を禁止されたが,一部の農家などで未使用のまま保持され続けている。本研究ではパラチオン等の有機リン系農薬5種類をアルカリにより分解した。2種については室温でも十分速い分解速度が得られた。他の3種類については反応速度論的検討を行った結果,有機リン系農薬とアルカリとの反応は,それぞれに対して一次の二次反応であることがわかった。二次反応速度定数を決定し,さらにその温度依存性を定式化した。これにより,おのおのの農薬を十分分解するための条件を定量的に与えることができた。また,分子構造の違いが反応性に大きな影響を与えていることが確認できた。さらに,分解により生成した物質についてGC-MSを用いて定性分析を行ったところ,いずれも毒性が認められない分解生成物であった。以上のことから,アルカリによる分解は有機リン系農薬の無害化に有効な手段の一つであるといえる。
著者
近藤 敏仁 北島 信行
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.399-407, 2007-09-28 (Released:2011-10-21)
参考文献数
28

土壌汚染対策法の施行(平成15年2月)をきっかけとして土壌汚染の調査事例件数が大きく増加し,これに伴って環境基準超過事例の件数も年々増えてきている。多様化する汚染サイトの諸条件にあわせて,浄化手法の選択肢も多岐にわたることが望ましい。我々は,低コスト・低環境負荷型の土壌汚染浄化の1手法として,ファイトレメディエーションに注目し,技術開発と実汚染サイトへの適用に取り組んでいる。重金属による汚染土壌には,汚染物質を植物に吸収,蓄積させて,蓄積させた後の植物体を収穫することにより土壌を浄化するファイトエクストラクションが有効である。 平成18年11月に発表された環境省の調査結果によると,ヒ素はわが国において基準超過件数が鉛についで多い元素である(累積)。また自然由来の汚染事例が多く報告されており,ファイトレメディエーションの適用が期待される汚染物質である。 2001年にイノモトソウ科のシダ植物であるモエジマシダについて,ヒ素を吸収・蓄積する能力があることが報告された。筆者らは,室内試験実サイトでの栽培試験により,モエジマシダがヒ素浄化用の植物として有望であるものと判断した。 モエジマシダの持つヒ素汚染除去能力は極めて高いものであるが,実汚染サイトにおける浄化効率は土壌条件,とりわけ汚染土壌に含まれるヒ素の化学形態に大きく左右されると考えられることから,トリータビリティ試験の検討も進めている。 本報告では,モエジマシダを用いたヒ素汚染土壌のファイトレメディエーションに対する筆者らの取り組みを紹介し,今後の展望を述べる。
著者
金本 良嗣 中村 良平 矢澤 則彦
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.251-266, 1989-10-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
20
被引用文献数
7

ヘドニック・アプローチは,環境条件の違いがどのように地価あるいは住宅価格の違いに反映されているかを観察し,それをもとに環境の価値の推定を行う。本稿の主目的は,実際にヘドニック・アプローチを用いて環境の価値を測定しようとする人々のための手引として役立つことである。したがって,この手法に関する最近の研究を紹介するとともに,この手法を用いる際の具体的な手順や結果の解釈の仕方などについても解説する。また,誤まった適用を避けるためには手法の理論的基礎の正確な理解が必須であるので,ヘドニック・アプローチの理論的基礎を解説し,実際に適用する場合にどのようなバイアスが生じやすいか,それらに対する対策はどうすべきなのかなどの問題も議論する。
著者
浦野 真弥 浦野 紘平
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.383-391, 2015-09-30 (Released:2016-08-01)
参考文献数
38

PCB含有安定器の処理が進んでいない原因等を検討するため,まず,届出数の経年変化情報を収集し,都道府県別の人口と届出数との関係を指数関数で近似し,7道県が周辺の他県に比べて届出数が推算値より特に少なく,九州・沖縄地区は全体に届出数が推算値より少ないこと等を明らかにした。その上で,中間貯蔵・環境安全事業(株)が示している安定器処理計画と処理費用を解析し,1個あたりの処理費が8.4万円程度となること,都道府県ごとの処理経費を推算し,全数処理には5,000億円以上の経費を要すること,さらに,東京都内の安定器保管数情報から,数億円から数十億円の処理経費を要する保管者が多いことなどを示した。また,(独)環境再生保全機構の公開情報等から,中小企業補助制度の継続が困難になる可能性が高いことを明らかにした。これらから,社会負担が極めて大きいために期限内の処理が難しくなり,長期保管による漏洩・紛失や不適正処理の増加が懸念されることを明らかにした。さらに,国が安全性を確保できる安定器の解体方法を示して型式によらない解体の認定制度を導入するか,低濃度PCB廃棄物の焼却無害化処理施設において,認定(許可)されたPCB処理量の範囲内での安定器の処理を認めることで,処理経費を1/20~1/3程度まで低減可能であることを示した。
著者
立花 潤三 迫田 章義 門脇 亙 山田 強 玉井 博康 稲永 忍 鈴木 基之
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.123-133, 2011

低炭素社会に向けた厳しい目標の達成には産業部門,民生部門等すべての部門における低炭素化の努力が不可欠であり,我が国の燃料消費の約15%を占めるとされる食料生産・輸送も当然にその対象に挙げられる。本研究ではまず,鳥取県において現在生産されている食料によって鳥取県民全員の栄養素を賄えるか(県内食料自給自足)の検討を行った。その結果マンガン,パントテン酸が少量不足する以外,他の19種類の栄養素に関しては県内産食料で賄え,一部栄養素に関しては供給過多であることが分かった。次に,県内食料自給自足の条件下において,移入だけを行わない場合は現状の生産・輸送エネルギーの約1割,生産量を一律1割削減した場合は約2割,現在県内生産量が2000[t/year]を超える食料品のみを生産することを条件とした場合には約3割,そして最もエネルギーが小さくなる食料生産を選択した場合には約5割のエネルギーを削減する事ができることが推算された。
著者
北條 祥子 吉野 博 角田 和彦 佐藤 洋
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.451-463, 2001-09-26 (Released:2011-10-21)
参考文献数
54

児童の呼吸器・アレルギー疾患と生活環境との関係を検討するため,宮城県内20の小学校に在籍する1,401名を対象にアンケート調査を行い,その結果を地域で比較した。地域分類は自動車排ガスの影響,耕作地における農薬散布の影響,およびそれらの複合影響をみるために,1)都市市街地,2)都市郊外地域,3)耕作地に囲まれた市街地,3)耕作地域の4つに分類した。その結果,呼吸器・アレルギー疾患の有症率には宮城県内でも地域差が認められた。全体的には,都市市街地>都市郊外地>耕作地に囲まれた市街地>耕作地の順に有症率が高い傾向があった。ことに,何らかのアレルギー疾患(現在)と花粉症様症状ではカイ二乗検定(比率の差の検定)で有意差が認められた。自動車排ガス汚染と農薬の複合影響があると思われる「耕作地に囲まれた市街地」の児童が喘息様症状,花粉症,百日咳およびアトピーの既往率が他地域より高く,複合影響の可能性が示唆された。一方,児童の生活環境にも次のような地域差が認められた。a)個人特性:耕作地域は他地域と比べて,一人っ子や長子の割合が有意に低く,アレルギー歴の保有率が低い。b)大気環境:二酸化窒素(NO2),二酸化硫黄(SO2),浮遊粒子状物質(SPM)濃度は都市市街地が最も高く,耕作地が最も低い。光化学オキシダント(OX)濃度は逆に耕作地が最も高い。c)室内環境関連要因:最も大きな地域差を示した。すなわち,都市市街地は耕作地域と比べ,鉄筋集合住宅の割合,3年以内に新築またはリフォームした家庭の割合,母親の喫煙率,小鳥や室内犬等の室内ペットの割合,カーペット使用の割合,壁材がビニールクロスの割合が有意に高く,部屋が狭い。上記のような児童の生活環境の差,ことに室内環境の差が,呼吸器・アレルギー疾患の有症率の差に反映していると思われる。
著者
ペッ ペンシャイ 中島 典之 古米 弘明
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.433-442, 2002

水環境への道路側溝堆積物の雨天時流出は,重要なPAHs汚染経路の一つであり,その流出を制御するためには,堆積物中のPAHsの起源解析や各起源の寄与率を知ることが重要となる。そこで,本研究では,自動車排出物(ディーゼル車およびガソリン車),タイヤおよび舗装材を,道路側溝堆積物中の主たるPAHs起源として取り上げ,入手した試料の分析値(22データ)と文献値(64データ)計86データを対象に,16成分のPAH組成比(プロファイル)をもとに,クラスター解析によって6グループに類型化した。タイヤ全8試料は,単一のグループ(S1)として明確に他の起源試料と区別され,平均値としてPyreneが43.5%, Benzo (ghi) peryleneが18.9%となり,両者を多く含有する点が特徴であった。舗装材は,2つのグループ(20%以上を占めるPAHs成分がないS2とPhenanthrene, Pyrene, Fluorantheneの合計が全体の75%以上に達するS3)に別れて類型化された。S2とS3のほとんどは,舗装材と粒子状のディーゼル車排出物試料により構成されていた。ガソリン車排出物はS4~S6の3つのグループに別れて類型化され,Naphthaleneを多く含む点において明確に他の3グループと異なっていた。 都内の側溝堆積物4試料のPAHプロファイルを対象に,重回帰分析によって類型化された各起源グループ(S1~S6)の寄与率を求めた。環七通りの2試料はともに起源グループS1の寄与が大きく,50%以上を占め,S2と合計すると80%を超えた。一方,桜田通りでは起源グループS2の寄与率が全体の75%以上を占めた。起源グループS1とS2に含まれる起源試料から判断して,環七通りではタイヤ,桜田通りでは舗装材またはディーゼル排出物に由来するPAHsが側溝に多く存在している可能性が示唆された。
著者
倉増 啓 鶴見 哲也 馬奈木 俊介 林 希一郎
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.401-409, 2010-09-30
参考文献数
10

本研究では,経済指標,社会・人口統計上の指標および性格指標が幸福に与える影響をコントロールした上で,主観的幸福度指標が環境指標とどのような関係性にあるのかについて検証を行う。分析には,東京都および神奈川県で行ったサーベイデータ及び各サンプルの居住地における局所的な環境汚染のモニタリングデータを用いた。本研究で得た推計結果から,光化学オキシダント排出量の低減が主観的幸福度向上の可能性を有していることが示唆された。
著者
下ヶ橋 雅樹 佐藤 将 迫田 章義
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.379-390, 2008-09-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
25
被引用文献数
3

バイオマス利活用への関心が高まる中,特に近年,エネルギー作物を利用したバイオ燃料生産システムが注目されている。エネルギー作物は食糧生産との競合を避けるため,現状で農地として利用されていない耕作放棄地などへの作付けが望まれる。さらには,耕作放棄地への作物の再作付けは農地復興の上で高い期待も寄せられる。しかしながら一方で,エネルギー作物生産に伴う過剰な施肥等により環境負荷を増加させる可能性も否定できない。したがってエネルギー作物を利用したバイオマス利活用システムを長期継続的なものとするためには,その作付けが与える環境影響も含めた包括的な観点から持続可能性を評価し設計する必要がある。 本研究ではこの持続可能性の指標として,エネルギー作物の耕作放棄地への再作付けに伴う水環境への窒素負荷と,バイオエタノール生産にいたるまでのシステムのエネルギー収支の2点を取り上げ,その評価をもととした設計手法の確立を試みた。バイオ燃料生産システムとしては多収穫性稲からのバイオエタノール生産に注目した。施肥方法と収穫量及び環境負荷の関係の評価には,稲作における稲の生育と農地の水および窒素の循環をシミュレートする数理モデルを構築し,このモデルを用いてある環境条件下で各種肥料を施用した場合の耕作放棄地での飼料用の多収穫性稲の収穫量と水環境中への窒素負荷を推算した。また上記に関連して得られた多収穫性稲の生産に係るエネルギー消費とともに,バイオエタノール生産におけるエネルギー消費を推算した。最終的には,施肥方法や生産するエタノールの純度の違いが水環境への窒素負荷とエネルギー収量に与える影響を同時に評価する方法を提案した。これらの一連の手法は合理的なエネルギー作物利活用システム設計手法として有用である。
著者
岡野 多門 安東 重樹 安本 幹
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.521-530, 2011 (Released:2012-12-05)
参考文献数
20
被引用文献数
3

漂着ライターを鳥取県の複数の砂浜で2004年4月から繰り返し調査し,それらの由来地域を調べた。撤去した総数は27,968個で,印刷文字からそれらの27%の排出由来地域を同定した。日本,朝鮮半島,中国・台湾に由来するライターの個数比は約6:11:10である。しかし同時に調査を行った水・清涼飲料用ペットボトルの由来地域個数比は約6:2:1であった。この由来地域比率の著しい相違は消費量の違いだけでなく,日本に比べて朝鮮半島や中国および台湾での印刷文字入りライターの消費率が高いためと推測された。ペットボトルと異なり,ライターを投棄する時期の偏りは小さいが,両者の漂着時期は似ている。ただし排出地によって海への流出や漂流経路が異なることから,由来地域によって漂着時期が異なる。したがって由来地域別漂着量の測定には漂着時期の相違を考慮した適切な時間間隔の定期調査の継続が必要で,由来地域別漂着量の比較は文字入りライターの使用状況の近い地域に限って可能である。このような調査分析によって,韓国の黄海側からの日本海への流入が少なく,日本海に流入できる日本の南西限界が長崎県付近で,また対馬海流に逆行する漂流が少ないことが分かる。また日本の都道府県まで帰属できたライターの68%が鳥取県由来で,それらを鳥取県の東部,中部,西部の3地域由来に分けると,各地域由来ライターの67-88%が同じ地域内の調査海浜に漂着していた。これらの結果は,河口から流出したライターが直線的な海岸地形でも,沿岸域にとどまる傾向の強いことを示す。沿岸域にとどまりやすい現象とライターの詳細な地名情報を組み合わせることで,狭い地域からの民生由来ごみの排出量の比較や,ごみ流出防止策の実効性を評価することが可能である。ただし狭い地域間の比較を行う場合は,人の往来によるライターの印刷地名と投棄地の乱れを確認することが必要である。
著者
村上 一真
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.401-412, 2013-09-30
参考文献数
16

社会からの影響および社会への影響を考慮した個人の節電意図・行動・効果プロセスを,市民アンケート結果を用いた共分散構造分析により明らかにするとともに,多母集団同時分析により地域(東京都,大阪府)と時期(2011 年夏季,2011 年冬季)別の状況の違いが,個人の節電意図・行動・効果プロセスに与える影響の差異を明らかにした。結果,節電目標の理解が節電意図や節電行動を喚起させ節電効果に寄与すること,停電への不安・恐怖が節電意図を高めること,節電目標の理解要因のほうが停電への不安・恐怖要因よりも節電意図を高めることを明らかにした。加えて,地域・時期別の違いとして,東京では節電意図に寄与する節電目標の理解要因と停電への不安・恐怖要因の大きさに有意な差はないこと,2011 年夏季の「節電意図→節電行動」は,東京が大阪よりも有意に大きく,2011 年冬季にはその有意差はなくなったこと,その東京の夏季の「節電意図→節電行動」と冬季のそれとは有意差があることを明らかにした。これらから,東日本大震災に起因する外部要因に影響を受ける節電意図・行動・効果プロセスの確立は確認されたが,時間経過により各要素の水準が低下することで節電効果が低下することを指摘し,中長期における節電意図・行動・効果プロセスの定着・持続の必要性を議論した。
著者
尾崎 宏和 一瀬 寛 福士 謙介 渡邉 泉
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.3-15, 2015-01-30 (Released:2016-03-05)
参考文献数
38

足尾銅山による環境汚染を通史的に検討するため,渡良瀬遊水地に隣接する沼で底泥表層から深度25cm までのコア試料を2本採取して,重金属濃度の鉛直分布を検討した。汚染レベルは,試料の最深層のすぐ上部から増加し始め,中層部と表層付近でピークを示した。コア1では,とくに深度12~14cmと2cm以浅でMn,Cu,Zn,Ag,Cd,Sb,Pb,Biに増加傾向がみられた。このうち第13層ではCu濃度は最大値51.6mg/kgを示した。コア2では,Cu濃度は深度4~10cmと深度15~19cmで高く,後者ではMn,Zn,Ag,Pb濃度も上昇した。こうした変化を足尾銅山の銅生産履歴と比べると,江戸時代末期から明治初期の近代的操業の開始とともに汚染は明瞭となり,日露戦争後の急速な軍備拡張政策や第一次世界大戦後の好景気,戦後の高度経済成長期の増産でさらに進行したと考えられた。一方,第二次世界大戦末期から終戦直後は汚染の軽減が認められ,当時の生産低迷を反映していると推測された。コア1 最表層部では,とくにAgとSb,次いでCu,Zn,Pbの濃度が明瞭に増加した。高度成長期の増産を支えた外国産鉱石は,足尾産鉱石と比較してAgやSbはCuに対して高い濃度を有している。底泥内での元素の鉛直移動を考慮しても,輸入鉱石はとくにAg,次いでCu,Zn,Pb,Sbの表層分布に影響したと考えられた。以上から,本研究は汚染の履歴は当時の国内外の社会,政治,経済状況と強く関連することを明らかとした。
著者
海老瀬 潜一
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.377-391, 1996-08-31 (Released:2011-03-01)
参考文献数
18
被引用文献数
3

東シナ海と太平洋の境に浮かぶ屋久島には,全国平均より少し低い4.65のpHの酸性雨が4,300mmという年間降水量で負荷されるため,その土壌層の薄さゆえに影響の大きさの評価が重要である。それも水文学的に降水の流出経路から見て,基底流出と洪水時流出の両方からの検討が必要である。屋久島の主要な溪流河川について夏季と冬季の晴天時水質調査と洪水時水質調査を併せて実施した。晴天時水質調査から多くの測定値が,アルカリ度(<0.1meq・1-1),pH(5.5<pH<6.5)および電気伝導度(<40μS・cm-1)といずれも低く,流域としては陸水の酸性化を中和する緩衝能が小さく,これら3つの水質項目間に高い1次比例の関係の存在が明らかとなった。3月上旬の129.5mmの豪雨による宮之浦川の洪水時流出の水質変化調査を実施した。水位ピーク時付近にpH(5.65)とアルカリ度(0.0194meq・1-1)と大きな低下が明瞭に認められた。降雨後のpHやアルカリ度のゆっくりとした回復状況から推定して,浅い土壌層を経た流出成分の評価からも,土壌層の酸性化を中和する緩衝能の小ささが指摘できる。このように,屋久島の陸水酸性化の正確な定量評価には,水文学的に見て酸性雨の洪水時流出の短期的影響と晴天の継続する基底流出の長期的影響に分けて,継続した観測が必要と考えられる。
著者
松本 健一 高木 三水珠
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.346-356, 2017-11-30 (Released:2017-11-30)
参考文献数
25

今後,気候変動が進展すると予測される中,気候変動によるコメの生産量への影響が懸念され,影響回避のための適応策の推進が重要となる。本研究では,気象条件がコメの単収に及ぼす影響を1993~2014年の市町村レベルのパネルデータを用いて日本全国・地域別モデルにより分析した。さらに,パネルデータ分析の推計結果と気候変動シナリオに基づき,将来の気候変動がコメの生産に及ぼす影響と適応策の効果を分析した。分析の結果,コメの単収と気温の間には上に凸の二次関数の関係が,降水量・日照時間との間にはほとんどの地域で負・正の関係が見られた。そして,将来の気候変動の程度が大きい場合,多くの市町村で単収が減少するが,高緯度地域ではその影響が相対的に小さかった。適応策として栽培時期を1カ月前に早めた場合,ほとんどの市町村で影響が低減されることが示された。しかし,すべての影響が回避されるわけではなく,さらなる影響の低減には他の適応策の導入が同時に必要となる。
著者
阿部 達也 松本 茂 岩田 和之
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.203-214, 2017-05-31 (Released:2017-05-31)
参考文献数
47

近年,ハイブリッド自動車等のエコカーへの需要が高まり,政府も補助金や減税等でエコカーへの買い替えを後押ししている。これらの買い替え促進政策は主に自動車の性能に応じて設定され,その適用は全国一律となっている。一方で,燃費改善に伴い走行距離が増加してしまうというリバウンド効果の存在は国内でも確認されているものの,地域間でリバウンド効果に差があるかどうかは今のところ検証されていない。もし,地域間でリバウンド効果に差があるならば,全国一律のエコカー普及制度は非効率的なものとなる。そこで,本研究では地域間,特に大都市圏と地方部との間でリバウンド効果に差が見られるかどうかを,790世帯の家計調査の結果を用いて検証した。分析の結果,大都市圏ではリバウンド効果は確認されなかった一方で,地方部ではリバウンド効果が約34%もあることが明らかになった。このことは,大都市圏と地方部で一律のエコカー普及策を導入した場合,地方部での費用対効果が大都市圏よりも低くなってしまうことを意味する。より効率的に自動車からの温室効果ガスを削減させるためには,現状のような全国一律の普及施策ではなく,地域間で補助金等の価格差を設けると同時に,地方部では公共交通機関への代替を促すような制度設計も必要である。
著者
亀山 康子
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.133-136, 2009-03-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
2

国際関係論(International Relations)において,環境というテーマは比較的新しいが,近年では,環境関連の研究が国際関係論の中でも進展しつつある。本稿では,国際関係論全般の歴史を概観し,その中での環境研究の意義と到達点について考察する。 国際関係論とは,国家と国家の間の関係に関する学問である。しかし,環境問題は,(1)被害の及ぶ範囲が国境を越える,(2)解決に向けた国際的議論において,国内アクターの参加が求められる,という2点において,従来型の国際関係論で前提となっていた国際問題と異なる・そのため,新たな理論が必要となってきた。現在,国際関係論の主な環境研究として,(1)国際環境条約の交渉過程の分析,(2)国際環境条約の効果に関する分析,(3)複数の国際環境条約のリンケージに関する分析,(4)ある特定の国の外交政策の一部としての環境外交,(5)国内アクターの国際的活動等がある。 地球環境問題をテーマに掲げる国際関係専門家の数が増えるにつれ,学会においてもその勢力は急速に増している。欧米では,早くから(2)の中でも環境研究者が1990年代以降勢力を拡大した。これと比べると,日本ではまだ発展途上にある。 環境科学会において,今後,国際関係論との関係はますます密になっていく可能性がある。国際関係論のように学問分野内での環境研究者のフォーラムが未発達の場合,環境科学会のように,すべての学問分野に門戸を開き続ける学会の存在は今日でも貴重といえる。また,環境科学会では,政府関係者,自治体関係者,産業界,市民団体,学生,が集う場を提供しているため,多様な立場の個人の意見交換の場としての機能が今後も期待される。
著者
尾崎 宏和 一瀬 寛 福士 謙介 渡邉 泉
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.3-15, 2015

足尾銅山による環境汚染を通史的に検討するため,渡良瀬遊水地に隣接する沼で底泥表層から深度25cm までのコア試料を2本採取して,重金属濃度の鉛直分布を検討した。汚染レベルは,試料の最深層のすぐ上部から増加し始め,中層部と表層付近でピークを示した。コア1では,とくに深度12~14cmと2cm以浅でMn,Cu,Zn,Ag,Cd,Sb,Pb,Biに増加傾向がみられた。このうち第13層ではCu濃度は最大値51.6mg/kgを示した。コア2では,Cu濃度は深度4~10cmと深度15~19cmで高く,後者ではMn,Zn,Ag,Pb濃度も上昇した。こうした変化を足尾銅山の銅生産履歴と比べると,江戸時代末期から明治初期の近代的操業の開始とともに汚染は明瞭となり,日露戦争後の急速な軍備拡張政策や第一次世界大戦後の好景気,戦後の高度経済成長期の増産でさらに進行したと考えられた。一方,第二次世界大戦末期から終戦直後は汚染の軽減が認められ,当時の生産低迷を反映していると推測された。コア1 最表層部では,とくにAgとSb,次いでCu,Zn,Pbの濃度が明瞭に増加した。高度成長期の増産を支えた外国産鉱石は,足尾産鉱石と比較してAgやSbはCuに対して高い濃度を有している。底泥内での元素の鉛直移動を考慮しても,輸入鉱石はとくにAg,次いでCu,Zn,Pb,Sbの表層分布に影響したと考えられた。以上から,本研究は汚染の履歴は当時の国内外の社会,政治,経済状況と強く関連することを明らかとした。
著者
田中 充
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.284-296, 2010-07-30
参考文献数
22

地球温暖化の深刻化に伴う温暖化対策の促進が求められる中で,地方自治体における温暖化・エネルギー対策の一層の強化が期待されている。本研究では,こうした自治体エネルギー行政に焦点を当て,エネルギー対策の方向性と課題を抽出する「政策マトリックス」 の概念を検討する。これは,自治体の役割である消費主体,事業主体,政策主体という3つの側面と,地域対策の対象分野となる需要側対策,供給側対策,需給両面対策の3つの分野に区分し,自治体エネルギー対策の枠組みを体系化する考え方である。<BR>次に,自治体エネルギー行政の対策体系を分析することを目的に,政策マトリックスに基づく「エネルギー対策チェックリスト」を検討・考案し,その内容を項目体系として取りまとめて提示する。また,大都市近郊の2つの基礎自治体として日野市と枚方市を対象に事例研究を行い,チェックリスト手法の適用可能性と対策課題の抽出を試みる。その結果,各々のエネルギー対策体系に関してこの手法を適用して取組状況を分析したところ,2つの自治体のエネルギー行政は総体的評価である総合点では同じ水準であったが,対策分野別には得点分布の状況が異なっており,自治体が取り組むべき対策課題を把握することができた。これはチェックリスト分析が,自治体が従来から取り組んできたエネルギー対策の実績等を反映したものと考えられる。こうした結果を踏まえて,本研究ではチェックリスト手法の有用性を明らかにし,今後の自治体エネルギー行政の一層の強化に向けた検討課題を抽出している。
著者
メゴ ピナンディト イマム ロザナント イイ ヒダヤ スゴンド サントソ シティ アシアティ アンオンド プラノウォ 松井 一郎 杉本 伸夫
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.205-216, 2000

エアロゾルの高度分布 海岸,都心部,内陸部の3地点に設置したミー散乱ライダーによりインドネシア,ジャカルタのエアロゾルの高度分布を観測した。1997年の9月から10月の乾季の1週間,大気境界層構造を観測した。ラジオゾンデによる観測をジャカルタにおいて同じ期間に実施した。この期間に海陸風循環を伴う大気境界層構造の日変化が明瞭に捉えられた。大気境界層より上空の高度2から5kmにおいてもエアロゾル層が観測された。流跡線解析の結果,このエアロゾル層はカリマンタンの森林火災によるものと考えられる。一方,雨季における大気境界層構造の観測を1997年12月に実施した。観測されたエアロゾル分布構造は乾季のものと異なり明瞭な日変化を示さず,境界層の上部に雲が生成される例が多く見られた。乾季の境界層の高度が最大で約2.5kmであるのに対して,雨季では3-4kmに達する場合も見られた。
著者
三浦 季子
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.75-81, 2017-03-31 (Released:2017-03-31)
参考文献数
56

近年,熱帯地域では,森林から農地への転換によって表層土壌が失われ,土壌の劣化が深刻化している。土壌微生物は物質循環などの土壌の生態系機能を担っていることから,環境変化や人為的攪乱に対する土壌微生物群集の変動を理解することは重要である。しかしながら,農業活動が土壌微生物群集にどのような影響を与えているのか明らかにされていない点が多い。本解説では,耕起や施肥などの農業活動が土壌微生物群集に与える影響に関する既存研究をまとめ,熱帯地域における持続可能な農業活動のための研究の方向性について議論したい。