著者
栗栖 聖 齊藤 修 荒巻 俊也 花木 啓祐
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.307-324, 2017-09-30 (Released:2017-09-30)
参考文献数
31

東京都八丈島を対象に,島への訪問意図を規定する因子の構造をモデル化を通して検討した。特に自然および旅行への態度が,自然環境や地熱発電所といった島の各地域資源への訪問意図を通じて,どのように島への訪問意図に影響を与えているかを明らかにすることを研究目的とした。東京都民を対象にオンラインアンケートを実施し,29,616名のサンプルを得た。八丈島を訪問したいと思うかを尋ねた「八丈島訪問目標意図」では,全体として「やや思う」を少し超えた値となった。同意図は男性の方が女性より有意に高く,50代以上になると年齢とともに有意に意図が上がっていた。同意図へ影響を与える意図としては,自然環境探索意図と温泉訪問意図が高く,また島全般への訪問意図も大きく影響していた。自然への態度としては,「脅威をもたらす存在」「癒しを得る存在」「人により支配される存在」という自然観の3因子が抽出された。また,旅行への態度としては,「健康回復欲求」「文化見聞欲求」「自己拡大欲求」「意外性欲求」の4つの因子が抽出された。これらの因子得点は,性別および年代によって大きく異なっていた。これらの中で,八丈島への訪問意図へ影響を与えるものとしては,自然への態度の中では,「脅威をもたらす存在」および「癒しを得る存在」としての自然観がモデル内に組み込まれたが,その影響は大きくはなかった。一方,旅行に対する態度の中では,「健康回復欲求」と「文化見聞欲求」がモデルに組み込まれ,特に後者が訪問意図に与える影響が大きかった。
著者
姫野 誠一郎 松尾 直仁 鈴木 継美
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.31-39, 1989-01-31 (Released:2010-06-28)

マウスの飼育環境が,個体数増加や行動にどのような影響を及ぼすかを調べるため,実験室内でマウスを自由に繁殖させながら長期間飼育することのできる「populationcage」を製作した。「populationcage」は,openfield(1m×1.5m)とそれに接続した多数の小ケージとから成る。4週齢のICR系マウスの雌雄各4匹ずつを導入し,以後約20週間にわたって自由に繁殖させ,総個体数,性・年齢別個体数構成,出生・死亡数,及び種々の行動について観察を行なった。本研究においては,餌の供給量や居住空間を変化させ,個体群の大きさを制御する要因の解析や,密度増加に伴うマウスの行動変化等について検討した。餌を十分に摂取させた場合,総個体数の増加はほぼ直線的であった。その際,哺育仔総数の増加に伴い,他の哺育仔に押しのけられて授乳されずにいる新生仔の死亡率が著しく増加した。餌の供給量を制限した場合,マウスの総個体数は180匹に達して以降全く増加せず安定した。居住空間を様々な広さに変化させた場合,openfieldに出て来て授乳を行なったり,あたかも壁を越えようとするようにマウスが跳び上がったり等の特徴的な行動が観察されたが,それらの行動が初めて観察された日の個体数密度は,いずれの広さの場合においてもほぼ同じ値であった。
著者
森下 豊昭 月木 博明
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.357-368, 1996

足尾銅山を発生源とする渡良瀬川流域の重金属汚染問題については,古在由直氏による先駆的な研究を始めとして,多くの調査,研究,試験結果が報告されてきた。かつての様な収穫皆無と云う深刻な鉱毒被害という側面が解消するにつれ,また1973年の足尾鉱山の閉山,製錬所の操業規模の大幅縮小もあって,渡良瀬川水系における重金属汚染に関連した諸問題が過去のものとして葬り去られてしまう節さえある。 現在,足尾の鉱山,製錬所周辺では公害の後始末としての煙害地の緑地化,鉱滓堆積場の被覆化等が行われてきており,足尾鉱山の公表されている14の鉱滓堆積場については,使用中の簀ノ子堆積場を除き,覆土植栽等の事業が1972年から87年度にかけて行われ,これをもって鉱害防止事業を終了した。しかしながら,現地を一見しても,また流域の予備調査の結果から見ても環境改善の努力が結実したとは決して云えない状況にあると推定される。足尾の鉱毒は単に過去において流域に被害をもたらしただけでなく,流域と周辺地域における将来の再汚染の問題も含め,現在においてもなお課題を残していると予想される。 日本の各地には多くの休廃鉱山,休廃製錬所が簡単な対策がなされたまま放置されており,潜在的な汚染源となることが危惧されている。本研究は,その典型的な事例の一つとして,渡良瀬川水系における底質~懸濁物質~河川水という水系全体における重金属等の挙動の解析を通じて,汚染の現状と問題点を明らかにしようとするものである。
著者
康 峪梅 大谷 真菜美 櫻井 克年
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.329-335, 2009-09-30
参考文献数
16
被引用文献数
1

クロム(Cr),銅(Cu)およびヒ素(As)を主成分とした木材防腐剤CCAは日本で40年ほど前から使用されてきた。現在その廃材の大量排出が問題となっている。しかし,CCA廃材の非適切な扱いによって土壌に混入したCCAの挙動や周辺環境への影響についてはほとんど報告されていない。本研究では,CCAが混入した土壌のCr,CuおよびAs含量と形態,さらにその土壌に生育していた植物を分析し,CCAの土壌環境中での挙動について検討した。<BR>高知県内にあるビニールハウス解体後のCCA処理廃材置き場で土壌と植物を,またこの地点から約20 m離れた自然林で対照試料の土壌と植物を採取した。土壌の全Cr,Cu,As含量,塩酸可溶性含量を測定し,さらに逐次抽出法を用いて三元素を分画し定量した。植物については全Cr,Cu,As含有率を測定した。<BR>廃材置き場内で採取したすべての土壌は対照試料より高いCr,CuおよびAs含量を示した。その内廃材焼却跡地で採取した土壌は全Cr,CuとAs含量がそれぞれ3450, 2310と830 mg kg<SUP>-1</SUP>と極めて高い値であった。この土壌について塩酸浸出並びに逐次抽出を行った結果,Asの約14%が可溶性画分に,また約50%が可動性画分に存在し,溶出しやすいことが示唆された。Cuは可溶性と可動性画分にそれぞれ4.1%と66%が測定され,土壌のpHや酸化還元電位の変化によって溶出しやすいことが考えられた。CrはAsとCuと比べると可動性が低く,全含量の95.5%が残渣画分に存在した。一方,廃材焼却跡地で採取した植物2個体は三元素ともBowenが提示した陸上植物のCr,CuおよびAs含有率の最大値を上回った。これらの結果から,CCA処理廃材の積み置きや焼却などの非適切な扱いは土壌,植物や水系など周辺環境に影響を及ぼす可能性が示された。
著者
小島 英子 阿部 直也 大迫 政浩
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.343-358, 2015-09-30 (Released:2016-08-01)
参考文献数
22
被引用文献数
1

住民のごみ問題への関心は個人のライフステージの変遷とともに変化するという認識のもと,その関心が何から影響を受け,どのように変化しているのかを明らかにするために,川崎市民を対象にアンケート調査を実施した(回答者数:1,308)。未成年期から現在に至るごみへの関心の変化とその理由を10年刻みの自由記述で尋ね,テキストマイニングと多重コレスポンデンス分析によって解析した。ごみへの関心は年齢が高いほど高く,一人暮らし,結婚,出産,子育て,退職などのライフステージに特徴的なライフイベントの影響を受けて,高まっていた。また,ライフステージの変遷とともに,家庭内でのごみ管理の役割や,時間的な余裕の有無,地域との繋がり,家庭から出るごみ量などが変化し,ごみへの関心に変化を与えていた。他方,ごみ問題の顕在化により世間の意識が喚起されたり,分別制度が始まったりといった,個人のライフステージとは直接関係のない,社会状況や廃棄物管理制度の違いが,個人の関心の高まりに影響している様子も窺えた。また,現在50歳代あたりを境として性差による役割分担の違いが,ごみへの関心に影響している可能性も示された。以上から,ライフイベントなどのライフステージ要因と非ライフステージ要因である社会・制度的背景が,相互に関連して住民のごみへの関心に対して影響を及ぼしていることが示唆された。自治体は,一人暮らしや結婚等の住民がごみとの関わりを変えるライフイベントを捉えて情報提供を行うなど,ライフステージに応じた施策を実施することで,効果的に意識を喚起し,分別の遵守や3R行動を促すことができると考えられる。
著者
成瀬 一郎 後藤 知行 山内 健二 船津 公人
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.231-237, 2001-03-30
被引用文献数
1

現状の社会構造を持続発展可能なものへと転換させるためには,物質循環を機軸とする社会システムの構築が必要不可欠である。本研究ではその具現化方策の一つとして,各種産業から発生する廃棄物を未利用物質と位置付け,必要であれば最適な再資源化技術を適用することにより,それを他の産業における原料として利用するという異業種間ネットワークの構築によって,地域におけるゼロエミッション化を実現する方法論を提案する。具体的には,アンケート調査によって各事業所および廃棄物中間・最終処理業者における原料,製品,廃棄物の量と質に関するデータベース化や未利用物質を原料へ転換する再資源化技術に関するデータベース化を行い,これらを入力情報としてネットワークシミュレータにより解析を行う。本報では,豊橋市および東三河地域を対象地域として,農業・漁業・鉱業・建設業・製造業の各事業所1,139社,廃棄物中間・最終処理業者64社についてアンケート調査を行い,それぞれ236社(回収率:20.7%),32社(回収率:50%)の回答結果からデータベースを作成した。また,文献調査等により,総数383件の再資源化技術情報に関するデータベースも作成した。さらに一例として,作成したデータベースより廃ポリエチレンと燃え殻を入力情報としてネットワークシミュレータによる現状での地域内物質循環について解析を行った。次に得られた結果から,適当な再資源化技術をデータベースより抽出し,仮想的に組み入れた場合の物質循環についても検討した。結果として,各種データベース作成とそれを利用したネットワークシミュレー夕による解析は,最適な地域物質循環ネットワーク構築のための有効なツールになるものと考える。
著者
青柳 みどり
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.197-208, 1990-07-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
16

従来の自然保護行政は,自然公園行政が中心で,貴重種や絶滅の危機にある生態系の保全が中心であったために,自然公園以外の地域にある森林などは余り積極的な保全施策がなされてこなかった。これに対して,最近,これら身近な森林を積極的に保全していこうという動きが高まってきた。それは自然公園などに比べて自然度の低い森林地域も自然保護の観点から大きな役割を果たしており,それぞれの特性に応じて保全していくことが必要であると認識されてきたためである。しかし,一方ではこれらの地域を適切に評価する方法がないために,説得力のある施策の展開には至っていないのが現状である。 本研究では,自然保護のための実用的な森林評価指標を作成した。具体的には,(1)生態系の構成要素として,植生自然度,まとまりの大きさ(面積),特定生物相の有無,土壌の回復困難度の4つを体系的に捉え,(2)デルファイ法とAHP法のアルゴリズムを組み合わせて用いて評価関数を決定し,専門家の判断を反映した定量的な指標を作成した。さらに,(3)乗法型の総合評価式を設定し,神奈川県林政情報システムを用いて,実際に評価値を算出した。 評価関数を採用したことにより,専門家の知見を的確に評価指標に反映させることができた。この際,デルファイ法をAHP法のアルゴリズムを用いたが,専門家の評価をうまく集約し,評価関数に反映することができた。ここで,作成された指標の構造並びに指標作成手法は一般性をもつと考えられるので,広く各地域での自然保護や環境管理計画などの施策に役立つと考えられる。
著者
松村 寛一郎 中村 泰人
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.339-349, 2000-08-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
7

アジア各国における食料供給を植物性食品と動物性食品に分類する。前者は,農地面積と肥料投入により説明されるものとした。農地面積は,土地利用モデルより与えられ,肥料投入量は所得の関数であるとした。動物性食品は,アジア各国ドルベースにおける一人あたり平均所得からの乖離が,その各国における供給量を決定しているものとした。既に構築されたアジア各国食料需要モデル,アジア各国土地利用モデル,今回構築された食料供給モデル組み合わせ,需給量をカロリー換算することにより,実勢値を表現可能なモデルが得られたことを確認した。各国毎に,予想経済成長率,予想就業者人口比率,1994年時点の為替レートを用いた場合に2010年までのカロリーべ一スによる一人あたり食料需給予測を試みた。
著者
相馬 美咲 石川 奈緒 吉田 直登 成田 翔 笹本 誠 嶝野 英子 東山 由美 伊藤 歩 海田 輝之
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.83-90, 2019-05-31 (Released:2019-05-31)
参考文献数
13
被引用文献数
1

近年,1年に700トン以上に及ぶ,多くの動物用抗菌性物質が販売,使用されている。投与された抗菌性物質の一部は糞尿中に排出されている。そのため,その抗菌性物質を含んだ排せつ物を堆肥などに再利用することで薬剤耐性菌の発生および水域環境に抗菌性物質が拡散する可能性が懸念されている。しかしながら,家畜に投与した抗菌性物質がどのくらい排せつ物として体外に排出されるのか報告例は少ない。そのため本研究では,スルファモノメトキシン(SMM)を対象物質として,牛のモデル動物であるめん羊にSMMを投与し,体外への排出率を求めた。その目的のために,まずめん羊の排せつ物中のSMM分析法を検討した。固相抽出やMcIlvaine緩衝液での抽出処理を用い,尿および糞試料で85.9%および93.2%と安定して高い回収率を得ることができるSMM分析法を構築した。その後,2頭のめん羊を用いてSMM投与試験を行った。その結果,SMMの最大濃度は,SMM投与から16 時間後に糞で45.6 mg/kg, 2時間後に尿で532 mg/kgを示した。投与したSMMは排せつ物として平均して尿から10.6%,糞から2.0%,全体で12.6%が体外に排出された。
著者
マックグリービー スティーブンR. 田村 典江 ルプレヒト クリストフD. D. 太田 和彦 小林 舞 スピーゲルバーグ マキシミリアン
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.46-65, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
69

現代の環境科学が取り組むべき課題は,行動を誘因するような説得力に富む情報を提供することだけではなく,社会の想像力を刺激し,これまで目に見えていなかった未来を見るよう働きかけることにある。同時に現代の政策立案プロセスは,制度構造の限界に加えて,マルチステークホルダーのニーズや見解に包摂的に取り組むことに限界を抱えている。シナリオ手法を用いて政策の共創に取り組むことは,双方の課題に解決をもたらしうる。なぜなら,多様な主体が複数の分野とガバナンスのスケールをまたぎ,多様な学習形態を認識し,多元的な未来を批判的に探求するプロセスを促進するからである。本論文では,未来を批判的に「知り」,「遊び」,「実験する」ことを可能にするツールとして,また,政策の共創に対する関わり方(エンゲージメント)の幅を広げ,多様な社会アクターのアクセスを拡大できるツールとして,ソフトシナリオ手法の枠組みを紹介する。FEASTプロジェクトの事例研究から,ナラティブ,シリアスゲーム,インタラクティブ・アート,モデルを用いることで,どのように未来のシナリオが関わりのための超学際的空間を提供し,どのように主体,政策変容,スケールがフードポリシーに関するシナリオ共同作成プロセスの中で相互に作用しているかを示す。フードポリシーのガバナンスは関連諸政策間の縦割りにより分断されているが,各事例研究の成果から,ソフトシナリオ手法を用いることで全く異なるステークホルダー間にコンセンサスを構築し,持続可能なフードシステムの醸成に必要な批判的思考を引き出すことが可能であり,分断を克服できることが示唆された。
著者
大沼 あゆみ
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.573-585, 2006-11-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
24
被引用文献数
2

本論では,生物多様性保全のためにとられているいくつかの政策を概観し,あわせて経済学的に考察する。最初に,国際政策として,ワシントン条約の取引禁止(トレード・バン)の経済効果について,分析し,取引禁止が有効であるかどうかを決定するいくつかの要因を提示する。それらは(1)道徳的理由等での需要減少の大きさ(2)財に代替品があるかどうか(3)ロンダリングの規模(4)合法的供給水準(5)摘発能力と罰則(5)野生動物の保護・監視,である。 つぎに,国内政策として伝統的な国立公園・自然保護区設定型の保全とその問題点について考察する。この保全政策が機能するためにも,(1)適切な監視費用を支出することが財政的に可能であること,(2)開発のインセンティブ(保全の機会費用)が低いこと,(3)地域社会との間に野生生物に代表される自然資源の利用をめぐる敵対関係が大きくないこと,(4)過剰な旅行需要が制御可能であること,あるいは(5)公務員のモラルが低くないこと,などさまざまな条件が必要であることを述べる。一方で,国立公園型保全と対照的な保全政策である,コミュニティー・ベイスト・マネジメント(CBM)について,ジンバブエのCAMPFIREの例を紹介しながら,その特徴と機能について,インセンティブの側面を中心に説明する。つぎに,所有権の観点から国立公園型政策とCBMを分析し,とくにCBMと地域住民の自然資源の利用権に焦点をあてる。最後に,CBMが有効であるための条件を列記し,長期にわたって機能するためには,適度な調整が必要であることを論じる。
著者
豊永 悟史 小原 大翼 宮崎 康平 古澤 尚英
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.28-41, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
37

地方環境研究所(以下,「地環研」)は,都道府県及び指定都市(以下,「都道府県等」)の出先機関として環境行政を推進するための調査や研究を担っており,その研究成果は都道府県等の行政施策へ活用されること(以下,「行政活用」)が求められる。そこで,研究成果の行政活用の実態とそれに影響する要因を把握することを目的としたアンケート調査を行った。全国的な政策課題であるPM2.5に関する研究を対象として,関連業務を担当する地環研と行政部署に対して,それぞれ個別にアンケートを送付し回答を得た。個別の研究単位では,「活用有」と回答された研究は25%(n=36),「活用無」と回答された研究が72%(n=104),「無回答」が3%(n=5)であり,「活用無」の研究が大半を占めた。都道府県等単位では,「活用有」の研究がある地環研では,「活用有」の研究がない地環研に比べて実施した研究の数が多いという関係が認められた(p<0.05)。この結果から,研究の数が多く「活用有」の研究がある地環研(n=12),研究の数が多く「活用有」の研究がない地環研(n=13),研究の数が少なく「活用有」の研究がない地環研(n=22)の3タイプに地環研を分類することができた。個別の研究の行政活用の有無及び地環研のタイプごとに,各回答項目を集計した結果に統計検定を適用し,研究成果の行政活用に影響を与える主な要素を評価した。その結果,研究単位では研究の「立案・計画」及び「取組体制」の二つの要素が,都道府県等単位では「専門性」と「行政部署との連携」の二つの要素が影響していると推測された。これらの要素は相互に関連しており,行政活用を推進していくためにはバランスを維持しながら各要素を強化していくことが重要であると考えられた。
著者
原科 幸彦 田中 充 内藤 正明
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.85-98, 1990-04-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
7
被引用文献数
5

環境の快適さの評価は住民の主観によるところが大きく,環境基準というような一律の尺度で行うことはできない。また,快適さの状態も従来の公害項目のように機器計測により把握することは困難である。そこで本研究では,これまでの環境指標の考え方を一歩進め,環境の快適性を人々の目や耳などの五感でとらえ「計量化」することを考えた。すなわち,住民自らが環境を観察してその結果にもとづき評価できる環境観察指標の開発を試みた。 このため,川崎市において小学校5年生の児童とその保護者を対象に環境観察調査を実施し,市内全小学校111校から約3800票が得られた。この調査では,児童に対しては自然観察を,保護者に対しては都市環境の快適面の5つの側面についての観察と評価を行ってもらった。この調査結果の分析から以下の諸点が明らかとなった。 自然環境の観察結果からは,セミ,カブトムシ,ヘビなど特定の生きものの発見率と快適環境評価との間に強い関連のあることがわかった。また環境の快適さの観察と評価からは,機器による計測にはなじまない「街の落ち着きやたたずまい」と「緑のゆたかさ」の2つが住民観察による有力な指標となりうることが示された。これら2つは快適性の総合評価に,特に強く寄与していることも明らかとなった。そして,従来から機器計測が行われてきた大気汚染と騒音も,「空気のきれいさ」と「静かさ」という観察によりかなり適切に把握できることが明らかとなった。さらに,生活環境を安全,健康,利便,快適,地域個性,人間関係の6項目で総合的に評価した場合,快適面は最も高い寄与を示すことが明らかになり,都市環境評価における快適性の重要性が確認された。
著者
福島 武彦
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.415-424, 2006-09-29 (Released:2011-10-21)
参考文献数
86
被引用文献数
1

持続可能性に関する様々な論文,言説を,1)理念,2)資源・環境3)各種産業分野(生産),4)生活要素(消費),5)地域社会,に分類し,それぞれの持続可能性要件を整理した.こうした結果をもとに,将来の研究課題として,(1)社会・精神の観点の取り込みと指標化,(2)時間スケールの統一,(3)地域,産業分野生活要素間の関係の定量化,(4)持続可能性科学の手法の整理を提案した。
著者
坂村 博康 佐藤 泰史 宇都野 太 安井 至
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.163-169, 1995-05-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
19

地球環境およびリサイクルの問題として,廃プラスチックの処理が世界的に重要な課題となってきている。日本でも年間500万トン以上の廃プラスチックが発生しているが,そのリサイクル量は3割以下であり,かなりの部分が埋立処分や熱回収をしない焼却処分となっている。近年廃プラスチックは焼却してそのエネルギーを回収して有効利用しようとする考えが多くみられるようになってきた。本研究所では,将来廃プラスチックがエネルギーとして回収されるであろうことを予測し,焼却による問題点の一つである燃焼灰に含まれている金属元素の溶出状況を模擬的環境中で調べた。有害金属としては,pb,cdとsbの溶出が比較的顕著に認められた。燃焼灰中の有害金属元素の溶出という観点でみれば,上記3種の有害金属元素を含むプラスチック添加剤の使用を減らすことにより,燃焼灰の安全性は高まるものと推察された。
著者
孟 瑶 矢島 猶雅 有村 俊秀
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.137-145, 2022-05-31 (Released:2022-05-31)
参考文献数
11

本研究の目的は,ごみ袋有料化による非資源ごみの減量効果と資源ごみの分別促進効果に,リバウンド現象が現れるか,及び各分別実施による学習効果の有無を再検証することである。日本の市区町村は,自治体によってごみの排出量に大きな差異がある。これを考慮しない場合,「平均的」な自治体でのごみ袋有料化の効果を過大もしくは過少に評価する可能性がある。よって,本研究では,2009年から2016年までの全国781市区町村のパネルデータを元に,「小排出都市」と「大排出都市」を定義し,これらを含めた場合とそうでない場合の回帰分析結果を比較した。本研究の分析結果は,以下の3つにまとめられる。第一に,資源ごみ排出量に対する効果において,これらの都市を含めた場合とそうでない場合でごみ袋有料化政策の効果の検出のされ方が異なることがわかった。また,有料化政策のリバウンド効果は確認されなかった。第二に,非資源ごみ排出量に対する効果では,両都市を含めた場合とそうでない場合で大きな変化はなく,徐々に排出量が増加するリバウンドが見られた。しかし,両都市のみで分析するとこのリバウンドは確認できない。第三に,分別品目によって学習効果の出方が異なることがわかった。
著者
小杉 素子 馬場 健司
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.227-236, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
26

本研究では,人々の気候変動リスクに対する認知や態度,対策行動への取り組みについて現状を把握するとともに,今後対策行動を促進するための示唆を得るためにオンラインでの質問紙調査を実施した。調査結果から,73.8%が地球温暖化は主に人間の活動によると考えており,世代や国・地域を超えた課題であり,影響を防ぐための対策を行う必要があると考える傾向が強いことが示された。対策行動としては,省エネ(64.0%)や熱中症予防のための水分補給(57.5%)などの実施率が高い。対策行動を緩和策と適応策とに区別して実施数を比較すると,緩和策の方が実施されている行動数が多かった。人々の対策の実施数を規定している要因を重回帰分析で調べたところ,緩和策に対しては地球温暖化の影響実感,将来の影響予測,地球温暖化に対する懸念,多少のコストを払ってでも積極的に取り組むべきという姿勢が有意な効果を持っていた。適応策では影響実感と将来予測,地球温暖化に対する疑念や個人の対策行動の無力さの認知,問題の身近さの認知が有意な効果を持つことが示された。つまり,影響実感や将来の影響予測に働きかけることで,緩和策および適応策の対策行動が増える可能性が示唆されるとともに,緩和策は地球温暖化を自分が取り組むべき問題として認識する中で実施され,適応策はむしろ地球温暖化問題への対策としてではなく個別影響への対応として実施されている可能性が示された。
著者
木村 道徳 河瀬 玲奈 金 再奎 岩見 麻子 馬場 健司
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.213-226, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
29

本研究では,行政によるヒアリングやワークショップなどの質的調査を通じて蓄積されている,気候変動に対する影響の実感や不安に関するテキストデータを対象に,市民およびステークホルダーの影響認識を構造的に把握するための手法を検討するとともに,滋賀県を対象に実践を行った。気候変動適応策の推進には,市民と地域のステークホルダーの関与が重要であり,行政によるこれら主体の気候変動影響の認識の把握が必要になると考えられる。しかし,行政により蓄積が進められている気候変動影響の認識に関する情報は,自然言語で記述されているテキストデータが多く,これまで研究対象として分析が進められてはこなかった。本研究では,行政による質的調査を通じて,滋賀県内の市民および農林水産業,産業分野の主体から得られた気候変動影響の認識に関するテキストデータを対象に,テキストマイニング手法を適用した。その結果,「琵琶湖と自然生態系への影響」と「台風被害と獣害,水稲」,「降雨降雪の極端化による災害および森林と林業への影響」,「夏と冬における気温上昇の影響」,「季節の変化」の5つの話題を特定することができた。また,対象者属性とのクロス集計の結果,市民は幅広い分野に言及しているのに対して,農林水産業の主体は各分野の具体的な気候変動影響の因果連鎖についての情報を補完していた。各主体のテキストを組み合わせることで,地域で顕在化しつつある気候の変化とそれに伴う影響の因果連鎖を市民およびステークホルダーがどのように認識しているのか,詳細に把握することが可能になることがわかった。
著者
有村 俊秀
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-9, 2022-01-31 (Released:2022-01-31)
参考文献数
49

パリ協定を機に,排出量取引制度(ETS),炭素税などのカーボンプライシング(炭素価格付け)が重要な政策手段として改めて注目されてきた。日本でも脱炭素に向けた本格的なカーボンプライシングの導入の検討が必要だ。しかし,日本では国が導入した炭素税(地球温暖化対策税)は低率で,排出量取引は東京都と埼玉県で導入されたのみである。それは,産業界を中心に,排出量取引の効果や経済影響などへの懸念が示されてきたからである。そこで本稿では,欧米及び日本を対象とした事後検証を中心に排出量取引に関して明らかになったことをレビューし,これらの懸念に対して,学術的な回答を示した。特に,多くの事後検証から,排出枠の価格が低下しても,制度が安定しており,将来的に削減目標が厳しくなることが分かっている場合,排出量取引は削減効果を発揮することが示唆された。さらに,炭素リーケージ・国際競争力問題については,排出枠のアップデート方式の配分方法などの対応方法についての経済分析を用いた効果を紹介する。最後に,脱炭素社会に向けた第一歩として,自治体による排出量取引制度の全国展開を提案する。
著者
大野 栄治 森杉 壽芳 高木 真志 鈴木 慎治
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.29-37, 1997

わが国では,ほとんどの大気汚染物質は度重なる規則によって減少しているが,NOxについては増加傾向にある。このNOx問題の主な原因はディーゼル車の増加にあるといわれているが,ディーゼル車は経済優先政策により税制面(特に自動車用燃料に関わる税)においてガソリン車よりも優遇されている。したがって,汚染者負担原則に従うならば,NOx問題を解決するためには軽油税を引き上げるなどしてディーゼル車を減らすべきであると考えられる。そこで本研究では,軽油税の引き上げやディーゼル車の車齢制限策などのディーゼル車抑制策によるディーゼル車台数および大気汚染物質(窒素酸化物NOx,一酸化炭素CO,炭化水素HC,浮遊粒子状物質SPM)の排出動向を分析するためにコーホート型ディーゼル車普及率予測モデルを構築し,種々のディーゼル車抑制策の効果を検討した。分析の結果,NOxのみならず他の大気汚染物質(CO,HC,SPM)の削減効果もあり,また比較的人々の合意が得られ易いという観点から,軽油税(軽油価格)の引き上げが最も適当であるとした。