著者
赤沢 克洋 上杉 恵一郎 田村 坦之
出版者
環境科学会
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.9-21, 2002 (Released:2011-03-05)

世界各国はCO2排出抑制に向けた政策対応を迫られており、炭素税や排出権取引など多くの政策手段が検討されている。そこで本研究では、日本における炭素税の導入可能性と国際間排出権取引参加の是非を検討することを目的とした。評価基準としては、国際競争力と産業間格差に焦点をあてた。 最初に、政策評価のための非線形数理モデルを構築した。本モデルは、応用一般均衡モデルをベースとして、CO2排出削減政策に対する産業主体の行動を組み込んだものであり、各国ごとの利潤最大化行動を定式化した上部構造と3つの下部構造から構成される。下部構造では国内最終需要、輸出量、CO2費用の決定を定式化しており、上部構造と相互依存関係を持たせている。このような定式化により、本モデルは、国際間の競争をも考慮した各国各産業への影響を評価することができる。 炭素税と国際間排出権取引に関するシナリオを設定し、モデルによるシミュレーションを行った。炭素税に関するシナリオ分析から、炭素税導入により国内価格の上昇が1%弱、利潤の低下が2%弱となり、また国際競争力への影響が小さいと推定された。しかし、国際競争力に関して産業間格差が生じていた。国際間排出権取引に関するシナリオ分析から、国際間排出権取引に参加することは、利潤や国際競争力の点から有利であり、炭素税導入と比較して大きな産業間格差を生じないことがわかった。以上から、産業間格差への対策を必要とするものの炭素税が導入可能であり、加えて国際間排出権取引に参加することが有効な政策手段であると結論づけた。
著者
松本 健一 福田 豊生
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.89-98, 2006-03-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
28

京都議定書の発効やポスト京都の議論などにより,先進国のみならず途上国でのCO2排出削減が地球温暖化抑制に向けて今後の重要な課題となる。CO2を削減する方法として,全世界で税率が一律の炭素税(一律炭素税)の導入が費用効果的であるが,一律炭素税は途上国に対して大きな経済的負担を課す。このような政策は途上国の反対にあうのは必至で,またUNFCCCの「共通だが差異のある責任」にも反するため,実現可能性は低い。 このような一律炭素税の問題点を踏まえ,本論文では各国で税率に差異のある炭素税の導入効果を環境的側面と経済的側面を考慮した政策的観点から議論する。差異のある炭素税は帰属価格の概念(帰属炭素税)により実現し,多部門・多地域応用一般均衡分析を用いたシミュレーションにより,一律炭素税導入によるCO2排出削減量やGDPへの影響と比較した。本研究では,世界経済を15産業部門・14地域に分割し,全ての産業部門を炭素税の賦課対象とした。 分析の結果,帰属炭素税はCO2削減効果ではわずかに劣るものの,一律炭素税とは異なり途上国のGDPにプラスの効果をもたらした。世界全体でのCO2排出削減政策の実施と途上国に対する過度な経済的負担の回避の重要性を考慮すると,帰属炭素税の方が一律炭素税よりも先進国・途上国間で経済的な公平性があり,政策的実効性が高いと言える。ただし,帰属炭素税では一部途上国で炭素リーケージが見られるため,その解決策の模索が今後の課題となる。
著者
Hiroyuki KAWASHIMA Junko SHINDO Masayuki HORI
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.279-289, 2007-07-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
10
被引用文献数
2

東南アジアでは経済成長に伴い一人当たり米消費量が減少し始めている。一方,米の単収は増加し続けており,今後,水田が余る事態が予想される。この余剰農地を利用すれば,森林面積を減少させることなく,エネルギー作物の生産が可能である。余剰農地は2050年においてインドネシア,マレーシア,フィリピン,タイ,ベトナムの5ヶ国合計で1,560万haと予測される。そこからサトウキビ11億8,000万トンの生産が可能である。これよりエタノールを製造すると,現在日本が原子力発電より得ているエネルギーの2.4倍のエネルギーを得ることが出来る。
著者
西上 泰子 柳沢 幸雄
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.129-138, 1995

人口増加と食肉需要の増大に伴い,牛の飼育頭数は急激に増加した。かつて牛は草や農作物残滓を食べて,牛肉や牛乳,皮革を人類に提供し,役畜として働き,その排泄物は肥料にも燃料にもなった。現在は大量の牛の飼育のために放牧地の植生が劣化し,熱帯林が草地へ転換されている。特に先進国では穀物飼育を行い,畜産排泄物は淡水資源を汚染する。これら畜産による地球環境負荷を考察した。さらに温室効果ガス(GHG)の地球規模の排出に,牛が関与する割合を計算した。 牛の飼育とGHGの関係には,GHG発生量の増加と,吸収量の減少の二つの側面がある。放出されるGHGとして,牛のルーメンから発生するメタン,呼吸によるCO<SUB>2</SUB>,飼料用穀物の生産のために発生するCO<SUB>2</SUB>などがある。他方,過放牧のために植生が減少したり,また草地を作るために森林が開拓されて,大気からのCO<SUB>2</SUB>の吸収量が減少する。また化学肥料の使用によって亜酸化窒素(N20)も空気中に放出される。これらの植生劣化まで含めて計算した結果,人為的GHG総排出量に対して,牛が関与する割合はCO<SUB>2</SUB>で25%,メタンで19%,N<SUB>2</SUB>0では不確実性を伴うものの18%となった。メタンについては比較的短い寿命のために,大気中濃度安定化のための削減必要レベルは人為メタン総排出量の10%と小さく,牛の存在がなければメタンの問題は解決し,牛の関与分は大きいと言える。他方,CO<SUB>2</SUB>とN<SUB>2</SUB>0については削減必要レベルはそれぞれ60%以上,70~80%と大きく,世界中で牛の飼育を全部削減したとしても,地球温暖化問題を解決するほどではない。
著者
江原 洋一
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.503-509, 2004

埼玉県では1981年の環境影響評価制度導入以来,事業実施段階でのアセスメントの審査実績を積んできたが,事業内容がほぼ決定されてから環境アセスメントが行われるので,環境影響を回避・低減するために選択できる措置が限定されるという課題に直面した。そこで,2000年7月から事業の計画立案段階において環境影響評価の検討を開始し,2002年3月,「埼玉県戦略的環境影響評価実施要綱」を制定した。この要綱によって計画策定者は,事業の計画立案段階において計画の社会経済的側面を考慮しつつ環境影響評価を実施することとなったが,検討過程では,複数案,ゼロ・オプション,社会経済面の評価,収集された情報に対する計画策定者の説明責任の履行等をどう規定するかが議論となった。要綱に基づいて2002年7月現在までに,「地下鉄7号線延伸(浦和美園~岩槻)計画」及び「所沢市北秋津地区土地区画整理事業」に関してSEAが実施されており,その概要を述べる。
著者
手嶋 進 原科 幸彦
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.162-171, 2021-05-31 (Released:2021-05-31)
参考文献数
18

再生可能エネルギーが主力エネルギーの一翼を担うという期待が高まる中,再エネ100%を宣言する企業も増えてきた。しかしながら,再エネ100%の理想を掲げても実際に達成した事例数はまだ限られており,達成の手法もあまり公開されていない。千葉商科大学では,まず,教員有志が再エネ100%の可能性を2014年から検討し,2017年に「自然エネルギー100%大学」に向けたプロジェクトを正式に発足させた。照明のLED化などの省エネ施策と,キャンパスから離れた場所に大学が所有する太陽光発電所の設備を増設し,キャンパス内建物屋上に太陽光発電設備を設置する創エネ施策を実施した結果,2019年1月末までの1年間でキャンパスの年間電力使用量と同量以上の電気を作るという目標を達成することができた。本稿では,再エネ100%を目指す他大学や事業者の参考となるように,再エネ100%達成という理想と経済性などの制約との間でいかにバランスをとって施策実行したかを実行当事者としての立場で報告し,一定の成果を上げることができた要因について考察する。
著者
矢島 猶雅 有村 俊秀
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.121-130, 2017

<p>近年,自治体レベルの温室効果ガスの排出量削減政策が普及している。中でも,「地球温暖化対策などに係る計画書制度」(以下,計画書制度)が多くの都道府県で共通して導入されている。当該制度は,一定規模以上の事業所に対し温室効果ガス排出量削減のための具体的な計画と,その結果報告を定期的に義務づける。更に,計画もしくは報告の内容に対し,自治体が助言などを行う規定も付加されている場合が多い。このように,計画書制度は自治体レベルで事業所に排出量削減についてモニタリングと補助を行う枠組みである。しかし,制度の効果には疑問の声もある。各事業所の排出量削減の水準について罰則が存在していないのである。計画書制度において罰則と呼べるものは計画/報告の未提出や虚偽報告に対するものに限られる。すなわち,実際に排出量削減が実現するかは定かではない。そこで,本研究では計画書制度が削減効果を有するか否かについて検証を行う。具体的には,1990年度から2013年度の製造業部門の都道府県レベル集計データを用い,制度の有無による排出量の変化を計量分析した。その結果,計画書制度を導入した都道府県では,平均的に約8%から約10%製造業部門の従業者一人当たり排出量が削減されていることが示唆された。計画と報告,及び省エネ指導という枠組みが有効な可能性を示唆する結果である。</p>
著者
藤井 紳一郎 伊永 隆史
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.586-592, 2000-12-31
参考文献数
11
被引用文献数
1

本研究では、ワカメ養殖加工業から発生する芽株、茎、根などのワカメ未利用物について、その発生量などを明らかにすると共に、ワカメ加工業における物質収支フローチャートを作成した。物質フロー解析結果から、ワカメ未利用物は微生物分解が可能であると判断し、低環境負荷型生物分解システムを開発した。また、熱水抽出法及び炭酸ナトリウム溶解法を用い、ワカメ未利用物からの有効成分分離利用技術を開発した。特に、熱水抽出法により得られた抽出物の分析を行い、免疫賦活物質(β-1,3-グルカン)の含有が確認された。得られた免疫賦活物質について、バキュロウイルス感染クルマエビへの投与試験を行った結果、免疫賦活物質無投与区画では20日後に100%死滅したのに対し、免疫賦活物質投与区画では最高90%の生存率が確認された。実用化可能な免疫力向上性が確認されたため、クルマエビ養殖用餌への免疫賦活添加剤としての利用を検討した。その他、炭酸ナトリウム溶解法により得られた、粗繊維質成分への酵素(セルラーゼ)処理を行うことで、オリゴ糖生産を行った。ワカメ未利用物からの有効成分分離及びその利用について検討し、ワカメ養殖加工で全国3位の実績を誇る、徳島地域における同業種でのゼロエミッション化ネットワークの形成と、その可能性を示した。同時に、熱水抽出法により得られる免疫賦活物質のクルマエビ等養殖用餌添加剤としての利用を前提に、全国的なゼロエミッション化ネットワークの構築についても検討した。
著者
中崎 清彦 安達 友彦
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.570-578, 2000-12-31
参考文献数
18
被引用文献数
2

多くの産業で排水処理施設から大量の汚泥が排出されている。汚泥を工業原料に変えて他の産業で使用するネットワークの構築はゼロエミッションへの一段階である。本研究では排水処理過程で排出される汚泥から生分解性プラスチックの原料であるL-乳酸の生成を試みた。製紙工場から排出される汚泥はセルロースの含有量が高く,糖化と発酵の組み合わせでL-乳酸の生成が可能であること,また,セルロースの糖化にともなって生成するグルコースによる酵素反応阻害の低減には同時糖化発酵法の適用が有効であり,温度40℃,pH5.0の最適条件下で9.779/Lの高濃度L-乳酸が生成できることを明らかにした。
著者
岡野 多門 森田 晃
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.150-157, 2013-03-29 (Released:2014-04-15)
参考文献数
20
被引用文献数
2

ロープや紐は重大な海浜ごみと言われているが,その量を測ることが困難であった。ここでは直径1mm から6mm 未満を紐,6mm 以上をロープと定義し,複合的な二段階法によってロープ類と他のごみ種との漂着量の比較を行った。すなわち5m より短いロープと紐および中型以下の難分解性素材ごみの堆積量を汀線方向5m 区間で測り,長いロープとペットボトルなどの漂着量を汀線方向500m 区間で測定した。これらの調査は,日本を含めた東アジア地域からごみが漂着し,ロープの漂着量をモニターする適地である鳥取県の砂浜で,堆積量は7年間に198回,漂着量は8海岸で3年間毎月測定した。ただし,長いロープは絡まりやすく,それを解くことは困難であるため,太さと長さを測り,比重を0.67g/cm3として漂着重量を算出した。ロープの年間の平均漂着重量は35.1kg/(hm・Y)で,それに対し1L 未満のペットボトルの年間平均漂着重量は4.0kg/(hm・Y)にすぎなかった。そのうち5~0.3m のロープの年間平均漂着重量は全ロープの漂着重量の半分以下の15.1kg/(hm・Y)であるが,0.5m より短いロープの堆積重量は9.92kg/hm であり,それはレジンペレット,非発泡プラスチック破片,ガラス・金属・紙パック飲料容器の各堆積重量より多かった。この事実はロープが日本海で最も重大な漂着ごみ種であることを示す。さらにロープは劣化すると極めて微細な繊維を生じ,その表面積は同じポリオレフィン素材のレジンペレットより圧倒的に大きい。ロープは日本海だけでなく,太平洋にも流出しているため,この状態を放置すると,日本海だけでなく,将来の北太平洋の生物環境や漁業や観光産業にも深刻な影響を与える恐れがある。このため日本を含めた東アジア諸国でのロープの流出防止対策の導入が緊急の課題であり,その対策の有効性を評価する方法が必要である。ここで開発したロープ類の調査法は流出防止策の実効性を評価できる方法である。
著者
山崎 史織 山岸 晶子
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.19-28, 2009-01-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
16

近年,里山・雑木林は管理されずに放置されているところが多いため,その林床の多くは藪の状態を呈している。市川市北国分にある小塚山公園の雑木林は1977年に植生調査されて以来,またはそれ以前から伐採や下刈りなどの管理がなされていない。この雑木林は1977年にA~Jの10地点で調査されているが,本調査ではB ,E,G,1の4地点の林分に出現する高木およびその林床に生ずる高木の稚樹や潅木等をマッピングし,樹高や胸高直径などの測定を行った。また,林床の地表30cmでの相対照度(%)を測定し,高木稚樹の分布との関係を考察した。その結果林床の相対照度は大半の場所で1%以下であったが,そのような光環境下で1977年当時にはほとんど出現していなかった常緑の低木・潅木や高木の照葉樹の稚樹が多く出現した。特に種子の供給源となる母樹の存在もあってシラカシ(Quercus myrsinaefolia)の稚樹が最も多く,次にシロダモ(Neolitsea sericea),タブノキ(Machillus thunbeygii)が多く見られた。シラカシとタブノキの稚樹では明るさに対する出現ピークに有意な差が認められ,タブノキはシラカシよりもやや明るいところに多く出現した。この雑木林はこのまま放置されれば,落葉広葉樹の雑木林からシラカシを優占種とする照葉樹林に遷移することが予想された。。
著者
中村 邦彦
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-14, 1992-01-31 (Released:2011-10-21)
参考文献数
75

海洋の水銀汚染とその環境に生息する細菌の相互作用を,濃厚な水銀汚染の起こった水俣湾での研究を中心に総括した。 水俣湾の底質では,塩化第二水銀や,塩化メチル水銀,塩化エチル水銀,酢酸フェニール水銀,チメロサール,パラクロロ安息香酸水銀およびフルオレセイン酢酸水銀の有機水銀化合物に耐性のある水銀耐性菌の割合やこれらの水銀化合物を分解できる水銀分解細菌の出現頻度が,水銀汚染のない対照地点に比べて、かなり高いことが明らかになった。 また,水俣湾と対照地点の底質より,Bacillus属,Pseudomonas属,Corynebacterium属の細菌をそれぞれ分離し,これらの細菌の水銀化合物に対する耐性を比較したところ,水俣湾底質中では,水銀に耐性のあるPseudomonas属の細菌ばかりでなく,一般に水銀に耐性が低いBacillus属の細菌のなかにも,水銀濃度に比例して水銀化合物に対する耐性菌が出現していることが明らかになった。特に,水俣湾の底質から分離した1428株の細菌のうち,19株(1.3%)の水銀分解細菌は,上記の全ての水銀化合物を分解したが,水銀汚染のない対照地点の3176株では,この様な分解パターンを示すものはなかった。 更に,この水俣湾のBacillus属の有機水銀分解細菌について,水銀分解遺伝子の位置を,サザンプロットハイブリダイゼーション法で検討した結果,それらの遺伝子は,細菌の染色体DNA上に位置していることが判明した。 以上のことから,水銀に汚染された海洋環境においては,多くの種類の有機水銀化合物に耐性であり,これらの水銀化合物を分解できる能力を持った細菌が,自衛的進化を遂げて,出現して来ていることが明らかになった。また,これらの水銀分解細菌が,環境中の水銀化合物を分解することにより,自然界の水銀循環に深く関与しているものと推測された。
著者
土坂 享成 木村 哲哉 今井 邦雄 妹尾 啓史 田中 晶善 小畑 仁
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.393-398, 1999-11-30
参考文献数
14
被引用文献数
1

前報において,カドミウム解毒に重要な役割を果たすと考えられている(γ-EC)<SUB>n</SUB>G合成酵素の性質について,水稲根を用いて検討したことを報告し,水稲根中で(γ-EC)<SUB>n</SUB>Gを合成している酵素の少なくとも一部がカルボキシペプチダーゼである可能性を示唆した。これを踏まえ,本研究では各種のカルボキシペプチダーゼに(γ-EC)<SUB>n</SUB>Gの合成能力があるかを検討した。更に,イネ由来のカルボキシペプチダーゼ遺伝子を発現ベクターに組み込み,これを大腸菌に導入してカルボキシペプチダーゼ遺伝子を発現させ,それにより(γ-EC)<SUB>n</SUB>G合成能力が増大するかを検討した。 その結果,全てのカルボキシペプチダーゼ標品において(γ-EC)<SUB>n</SUB>Gの合成が認められ,その至適pHはカルボキシペプチダーゼの分解活性のそれとほぼ同じであった。また,その合成活性はカルボキシペプチダーゼの特異的阻害剤により抑制されることが認められた。比較のために行ったアミノペプチダーゼ標品では(γ-EC)<SUB>n</SUB>Gの合成は認められなかった。一方,カルボキシペプチダーゼ遺伝子を導入した大腸菌の抽出液における(γ-EC)<SUB>n</SUB>G合成活性が,導入していない方よりも増大したことが認められた。これらのことから,カルボキシペプチダーゼが(γ-EC)nGを合成している酵素の一つである可能性が更に強く示唆された。
著者
蒲原 弘継 ウィディヤント アヌグラ 熱田 洋一 橘 隆一 後藤 尚弘 大門 裕之 藤江 幸一
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.247-256, 2009-07-31
参考文献数
42
被引用文献数
3

本研究は,インドネシア産のパーム油を原料にしたバイオディーゼル燃料(パームBDF)の生産から,日本国内への輸入に伴う環境負荷として,温室効果ガス排出量とエネルギー消費量を評価した。評価は,インドネシア現地での調査結果に基づき行った。温室効果ガス排出量はバイオマスによって固定された炭素の収支を考慮して評価した。その結果,パームBDF生産・輸送に伴う正味の温室効果ガス(GHG)排出量は,軽油の生産・輸送・消費に伴なうGHG排出量に比べ約60%のGHG排出量であった。ただし,今後,パーム油工場で発生するバイオマス残渣やラグーンで発生しているメタンの有効利用が行われればGHG排出量のさらなる低減が可能であることが示唆された。一方,パームBDF生産・輸送に伴うエネルギー消費量の合計は,約10.4MJ/Lであった。仮に,日本で消費される軽油分のエネルギーをすべて代替するためには,約11万haのオイルパームのプランテーションが新たに必要となることが明らかとなった。
著者
藤井 達也 三橋 正枝 古川 柳蔵
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.184-194, 2020-11-30 (Released:2020-11-30)
参考文献数
30

近年,気候問題をはじめとした様々な地球環境問題が益々悪化している。地球環境問題の原因は人間活動の肥大化である。ライフスタイルを変えられるかどうかが問われており,環境配慮行動の実践を繰り返し,ライフスタイルへ定着が急がれる。ライフスタイル変革を促す環境配慮行動を評価するには,人々の多様で潜在化した無意識に生起され,社会的背景・文化的背景,環境,コミュニティなどと関連性を持って成り立っている日常的な行為を把握する必要がある。そこで,本研究では,オントロジー工学に基づき,実世界で起こる日常的な複数連なる行為をモデル化し,感情を含んだ行動の共通概念を明示化することにより,日常的な行為の変容と感情や意識との関係を評価し,推論する方法を検討することを目的とする。日本の複数の地域の小学生を対象として持続可能な暮らしの構築のための木育ワークショップを実施し,参加者へのアンケート,インタビュー及びビデオによる録画したデータに基づき分析を行った。木育ワークショップに参加した子どもの笑顔に着目し,子どもの笑顔に至るまでの行動をパターン化し,オントロジー工学に基づき行為分解木を描くことにより,笑顔に至るプロセスにおけるその人の感情の共通概念を明示化できることが示された。また,笑顔数などの客観的なデータを用いて,日常的な行為の変容と感情や意識との関係を評価することで,ある特定の行為を通した一人当たりの笑顔数が環境意識の高さや環境意識の向上度合によってどの程度になるか推論できる可能性が示唆された。
著者
立花 潤三 周 敦史 蒲原 弘継 後藤 尚弘
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.277-288, 2014-09-30 (Released:2015-10-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1

陶磁器は少量多種のため使用後のリサイクルが進んでいない。陶磁器の産地では使用済み陶磁器を粉砕して,再生陶磁器の開発が実施されている。しかし,再生陶磁器の環境負荷低減効果,経済的効果は定量的に評価されていない。本研究では,再生陶磁器の環境・経済面の効果を明らかにするために,愛知県瀬戸市において開発された低温焼成再生陶磁器「Re 瀬ッ戸」のMFCA-LCA統合評価を行った。その結果,MFCAに関しては,資源ロスを表す負の製品コストが再生陶磁器製造では既存瀬戸焼と比較して粉砕・製土工程で20%,製造工程で1.0%低下した。また,環境影響については,粉砕・製土工程でLIME統合化指標が9.2%,製造工程で8.6%低下,全体では8.3%低下した。以上より,再生陶磁器の環境・経済面の有効性が明らかになった。
著者
李 進 原嶋 洋平 李 東根 森田 恒幸
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.181-192, 1995-05-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
17

環境政策の発展過程を経済発展とのかかわりのなかで解明することは,「持続可能な発展」を実現する為の政策決定の重要な基礎の一つとなる。これまで日本と韓国の環境政策全般の発展過程について,比較分析した例は見当たらない。ここでは,日本と韓国の環境政策の発展過程を比較分析して,その共通点及び相違点を明らかにした。まず,歴史的事実の検証の結果,時間差はあるものの,日本と韓国の環境政策は,共通の性質を有する事象を,概ね同じ順序で経験していることが分かった。そして,経済指標の検証による考察の結果も,この定性的な分析の結果に反するものではなかった。とりわけ,燃料の低硫黄化対策と乗用車排出ガス規制強化が,同じ発展段階で実施されていることは注目すべきである。しかしながら,日本と韓国の環境政策の発展過程には,4つの相違点があることも明らかとしている。日本の場合と違って,韓国の環境行政は,公害規制,快適性(アメニティ)の追求,地球環境保全という3つの政策課題を同時に抱えている。この相違点は,今後の韓国の環境政策を考えるうえで,とりわけ重要なものである。
著者
田畑 智博 縄井 あゆみ 大野 朋子
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.164-168, 2019-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
12

本研究では,2015年4月に発生したゴルカ地震(ネパール地震)から3年半後における復旧状況を調査したので報告する。筆者らは,2018年11月に現地に赴き,カトマンズ渓谷のカトマンズ及び周辺都市部の調査を行った。カトマンズ市内は建物被害が少なく復興が早かったものの,カトマンズ市外の都市では今なお多くの場所で住宅再建が続いていた。世界遺産であっても,寺院の再建が進行中であったり,崩壊したまま放置されている建物もみられた。住居建物の建築資材を調査した結果,都市部における殆どの建物は,焼成レンガ・日干しレンガとRC造の柱・梁で構成されていた。ネパールでは,家族が複数世代で居住し,その都度住居の上階を増築する行為を行っていることがわかった。このような建築行為が,地震による被害を増幅させたと予想される。
著者
冨塚 明
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.374-387, 2013-07-31 (Released:2014-08-13)
参考文献数
25

現在,北半球の二酸化炭素濃度は南半球と比較して約3ppmv 高くなっている。産業革命以降,この差がどのようにして生じてきたのか,炭素循環のボックスモデルを用いて検討した。南北大気間の交換係数を0.93/年としたとき,マウナロア及び南極点での測定値に近い値が得られることがわかった。この交換係数値は濃度の実測値や他のモデルでの算出結果にほぼ一致した。また現在の南北の濃度差は主に北半球に強く偏在(約95%)している化石燃料からの二酸化炭素発生量によるものであることが明らかとなった。仮に南半球での放出割合がもっと多ければ濃度差は現在よりも小さいものとなったであろう。一方,これまでの森林伐採などによる二酸化炭素放出量,海洋や森林への二酸化炭素取り込み量の南北での差は現在の大気濃度差に影響を与えるほど大きなものではなかった。さらに海洋と森林への小さな取り込みの差も実際にはお互い相殺しているものと思われる。
著者
森田 紘圭 大西 暁生 田畑 智博
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.113-124, 2019-07-31 (Released:2019-07-31)
参考文献数
17

東日本大震災における災害廃棄物の多量発生を契機に,現在,各地域の自治体では,積極的に災害廃棄物処理計画の策定を進めており,それに伴い災害時の広域的な処理体制構築や準備が進められているところである。一方,個々の被災現場におけるがれき処理においては,高齢化による自助努力の難しさやボランティアの不足などの課題があり,十分に対策が進んでいない。本研究は,災害時における廃棄物処理,特に初動期における被災家屋におけるがれき処理段階を取り上げ,地域の世帯特性に応じた対応可能性について基礎的分析を行うものである。具体的には,多摩川水系のうち東京都・神奈川県の洪水想定区域内に居住する住民400人を対象に,水害発生時における災害廃棄物処理への対応に関するアンケート調査を実施することで,世帯特性に応じたがれき処理への対応可能性や支援希望などを把握し,その結果を用いて地域ごとの各世帯における災害廃棄物処理への対応可能性や地域コミュニティや行政に対する支援ニーズの分析を行う。分析の結果,1)初動期の被災家屋のがれき処理においては住民が行政・ボランティアなどに希望する支援として清掃・運搬を行うための機材調達や運搬などの支援ニーズが高いこと,2)60歳以上を中心として構成される世帯では自分や家族のみによるがれき処理が困難であること,3)60歳未満を含む世帯であっても夫婦のみの世帯は支援を依頼する主体が少ない傾向があること,などが明らかとなった。また,多摩川水系で支援の必要性を確認すると,対象地域において比較的高齢化が進んでおり外部支援が必要となることが明らかとなった。