著者
荒牧 草平
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.85-97, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
25

子どもに対する親の教育期待は,親の社会経済的地位と子どもの学歴を媒介する,重要な要因とみなされてきた.一方,近年の研究は,子どもの学歴に対し,親だけでなく,祖父母やオジオバといった拡大家族の学歴も関連することを報告している.こうした分析結果は,回答者にとっての重要な他者である親キョウダイの学歴や態度が,回答者の教育態度の形成に関与していることを反映していると考えられる.また,これと同様の影響は,家族以外の重要な他者である,友人・知人からも受けていると予想できる.したがって,本稿では,拡大家族や友人・知人を含めた家族内外のパーソナルネットワークが,回答者の高学歴志向の形成に与える影響を明らかにすることを目的とした.小中学生の母親を対象とした質問紙調査データの分析から,1)キョウダイ,夫の親,友人・知人の学歴が本人の高学歴志向に独自の正の効果を持つこと,2)ネットワークメンバーの持つ高学歴志向が本人の高学歴志向に独自の正の効果を持つこと,3)本人や夫の階層要因は直接的な効果を持たないことなどが明らかとなった.最後に分析結果の意味について階層論とネットワーク論の観点から考察を行った.
著者
荒牧 草平
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.5-23, 2002-10-31 (Released:2011-03-18)
参考文献数
21
被引用文献数
8 3

This paper carefully examines the effects of family background and two value orientations on the process of formation of learning attitudes and educational expectations among current high school students. One crucial point of this paper is that we clearly differentiate the direct and indirect effects of family background on learning attitudes and educational expectations. The second point is that we consider the functions of two important value orientations, toward status attainment and self-fulfillment, both of which are important for parents and schools in determining their own educational policies. Using data collected from 2, 220 high school seniors, we performed an OLS regression analysis on learning attitudes and a logistic regression analysis on educational expectations, and examined the following hypotheses.(1) Parents' educations and the hierarchical status of schools are positively associated; at the same time, the hierarchical status of schools and educational expectations are positively associated.(2) Parents' educations are positively associated with learning attitudes and educational expectations, independent of the hierarchical status of a school.(3) Value orientations are positively associated with parents' educations.(4) Value orientations are positively associated with learning attitudes and educational expectations, independent of other important factors.The main results are as follows.(1) Although the effects of the educational attainment of parents on learning attitudes have disappeared or weakened, their effects on educational expectations remain strong, independent of the hierarchical status of a school.(2) The two value orientations have no association with family background, independent of the hierarchical status of the school, sex, and academic performance. Therefore, our society does not carry out a social reproduction process via the internalization of these value orientations.(3) The orientation toward status attainment has a statistically significant effect on both learning attitudes and educational expectations, and the orientation toward self-fulfillment has a statistically significant effect on learning attitudes but not on educational expectations, independent of other important factors.
著者
荒牧 草平
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.110, pp.47-67, 2022-07-30 (Released:2024-04-01)
参考文献数
30

日本社会における学歴の世代間再生産を分析するツールとして,ブルデューの「文化資本」概念に着目することの意義を,計量研究の立場から批判的に検討した。初めに,大前ほか(2015)による包括的レビューを参考にしつつ,日本のデータを用いた先行研究の知見を,世代間再生産における文化資本指標の媒介効果の検討という枠組を用いて整理した。また,各研究の用いた方法にも焦点をあてて,それらの妥当性を検討した。次に,ブルデューの意図をとらえるには,多重対応分析(MCA)を用いた社会空間アプローチを採用する必要があることを指摘し,『2013年教育・社会階層・社会移動全国調査』(ESSM2013)のデータを用いて,MCAを適用した独自の分析を行った。主な知見は以下の通りであった。1)子ども時代の文化的経験,中学受験,高校時代の塾通い,中等後教育への進学等は,親の資本総量(MCAの1軸)に強く規定される。2)各学歴段階における学校種の選択は,特に男性の場合,資本総量よりも本人の学力や学習態度および親の教育的地位志向(MCAの2軸)と強く関連する。3)女性の進路分化は,男性の場合よりも資本総量に強く依存する。4)文化資本の分布は経済資本の分布と密接に結びついているため,文化資本の相続は経済資本の相続とも密接に結びついていると考えられる。以上より,これまでの日本社会において,文化資本が経済資本と独立して学歴の世代間再生産を主導してきたとは言えない。
著者
中村 高康 吉川 徹 三輪 哲 渡邊 勉 数土 直紀 小林 大祐 白波瀬 佐和子 有田 伸 平沢 和司 荒牧 草平 中澤 渉 吉田 崇 古田 和久 藤原 翔 多喜 弘文 日下田 岳史 須藤 康介 小川 和孝 野田 鈴子 元濱 奈穂子 胡中 孟徳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、社会階層の調査研究の視点と学校調査の研究の視点を融合し、従来の社会階層調査では検討できなかった教育・学校変数をふんだんに取り込んだ「教育・社会階層・社会移動全国調査(ESSM2013)を実施した。60.3%という高い回収率が得られたことにより良質の教育・社会階層データを得ることができた。これにより、これまで学校調査で部分的にしか確認されなかった教育体験の社会階層に対する効果や、社会階層が教育体験に及ぼす影響について、全国レベルのデータで検証を行なうことができた。
著者
荒牧 草平
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

教育達成に対する拡大家族(祖父母やオジオバ)の影響について、全国規模の社会調査データを用いて分析を行った。その結果、性別や年代にかかわらず、親の影響をコントロールしても、拡大家族の直接効果が観察された。これらの効果が、日本の伝統的な家族制度を背景とした、拡大家族成員から子どもへの直接的な影響(経済資本や文化資本の伝達)をとらえているという理解は分析結果とは整合しなかった。むしろ、彼らが親の準拠集団となり、子どもに対する親の教育期待形成に影響することを表していると解釈するのが妥当だと考えられた。
著者
尾嶋 史章 近藤 博之 阿形 健司 荒牧 草平 近藤 博之 阿形 健司 荒牧 草平 白川 俊之 多喜 弘文 西丸 良一 古田 和久 吉田 崇
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では教育達成過程の国際比較を行うことによって、教育機会格差が生じるメカニズムの日本的特徴を明らかにした。特に中心においたのは、PISAを用いた青少年の学力形成に及ぼす家庭背景の影響である。入学試験による選抜と学校の階層構造、学校外教育など異なる学校教育システム下における家庭背景と生徒の学力形成との関係を分析した結果、日本を含めた東アジアの国々は欧米諸国とは異なる教育達成過程を持つことが明らかになった。
著者
荒牧 草平
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.189-203, 2007-10-31 (Released:2008-01-08)
参考文献数
25
被引用文献数
3

本稿ではRobert D. Mareが提案し、教育達成過程の実証分析で国際的に事実上のスタンダードとなってきた、通称Mareモデルとその応用モデルによる分析(Transitions Approach)を通して、わが国の教育達成過程における不平等とその変動を実証的に明らかにするとともに、不平等生成に関する理論の目指すべき方向性について検討した。分析の結果、先行研究において繰り返し確認された階層効果逓減現象が、わが国の場合は戦前の一定期間にのみ認められること、中等教育機会の平等化と高等教育機会の不平等化の同時進行は、戦後の高学歴化期ではなく戦前における中等教育のマス化に関わって生じたこと、中等教育であれ高等教育であれ格差の拡大は上位層による希少財の先取りと関わって生じた可能性のあること、MMI仮説の主張する上位層の飽和による平等化がわが国の場合には必ずしも認められるわけではないこと等が明らかとなった。