- 著者
-
荒牧 草平
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.110, pp.47-67, 2022-07-30 (Released:2024-04-01)
- 参考文献数
- 30
日本社会における学歴の世代間再生産を分析するツールとして,ブルデューの「文化資本」概念に着目することの意義を,計量研究の立場から批判的に検討した。初めに,大前ほか(2015)による包括的レビューを参考にしつつ,日本のデータを用いた先行研究の知見を,世代間再生産における文化資本指標の媒介効果の検討という枠組を用いて整理した。また,各研究の用いた方法にも焦点をあてて,それらの妥当性を検討した。次に,ブルデューの意図をとらえるには,多重対応分析(MCA)を用いた社会空間アプローチを採用する必要があることを指摘し,『2013年教育・社会階層・社会移動全国調査』(ESSM2013)のデータを用いて,MCAを適用した独自の分析を行った。主な知見は以下の通りであった。1)子ども時代の文化的経験,中学受験,高校時代の塾通い,中等後教育への進学等は,親の資本総量(MCAの1軸)に強く規定される。2)各学歴段階における学校種の選択は,特に男性の場合,資本総量よりも本人の学力や学習態度および親の教育的地位志向(MCAの2軸)と強く関連する。3)女性の進路分化は,男性の場合よりも資本総量に強く依存する。4)文化資本の分布は経済資本の分布と密接に結びついているため,文化資本の相続は経済資本の相続とも密接に結びついていると考えられる。以上より,これまでの日本社会において,文化資本が経済資本と独立して学歴の世代間再生産を主導してきたとは言えない。