著者
武 秀忠 正山 征洋 Xiuzhong WU Yukihiro SHOYAMA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.139-146, 2021

COVID-19 が中国で確認され全世界へと蔓延し現在に至っている。中国では傷寒雑病論に収載される小柴胡湯、大青竜湯、五苓散を組み合わせ、21種の生薬を配合した新処方、"清肺排毒湯"が創出された。本処方は214名の患者に対して、90%以上の総有効率が見られ、そのうち60%以上の患者は臨床症状と画像診断で著しく改善され、30%の患者の症状は安定し重症化には至らなかった。清肺排毒湯を解析すると発熱・咳・インフルエンザ等に有効な麻黄、桂皮、杏仁、甘草を配合する麻黄湯が浮かび上がった。そこで麻黄湯の論文調査を行った結果、麻黄湯の有効性が明らかとなり、特に縮合型タンニンの抗ウイルス作用が強いことが判明した。アユルベーダで用いられてきた穿心蓮も麻黄湯同様な作用が認められ、広範囲の疾病に使われてきた。論文調査を行った結果、臨床的に抗ウイルス作用が明らかとなり、その活性成分はアンドログラフォリド類であった。これらの結果から麻黄湯加穿心蓮が COVID-19 に有効であろうとの結論に至った。
著者
平井 美津子 Mitsuko HIRAI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-9, 2013

ラテン語は現在、死語といわれている。しかし今も英語、特に自然科学分野の書物や文献の中で生き続けている。英語の多くは古典語、すなわち古典ギリシャ語やラテン語に由来しているといわれている。今回、まずラテン語の歴史および学術用語の構造について概説した。そして、自然科学分野の英単語に多く残っているラテン語由来の英語の不規則な複数形を取り上げ、英語への導入年代を調べた。その結果、多くの不規則な複数形は、ラテン語の主格名詞の複数由来で、16~17世紀に英語に導入されたものであることがわかった。18世紀には英語の文法が確立し、国際語として英語が拡大するのに伴い、ラテン語の影響力は衰えていった。
著者
平井 美津子 Mitsuko HIRAI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.45-53, 2009-03

古典ギリシャ語は、古代から近世にかけて西欧文化に大きな影響を与えた。特に医学の分野では、古典ギリシャ語を語源にする用語が多く、そのため難しいと思われがちである。しかし、その語源を理解することがほとんどないままに、単語を習得していかなければならない。今回、古典ギリシャ語と関わりの深いギリシャ神話にまつわる医学英語を取り上げた。物語には興味深いエピソードも多く含まれ、ギリシャ神話を通して、その語源を知ることによって、医学英語に対する興味を引き出すことができるものと考える。
著者
中根 允文 Yoshibumi NAKANE
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.205-212, 2007-01

いま、長崎県における精神科医療の展開に関する歴史を、長崎大学医学部精神神経科学教室の初代教授である石田昇の成果を中心に振り返りつつある。完成させるには今しばらくの情報収集が必要であり、その途中経過として、ここには研究ノートの形で紹介してみたい。現在、長崎県下には39ケ所の精神科病院があり、総数で8,415ベッドが精神科疾患の患者のために準備されていて、入院患者数は7,059人である(図1)。彼等の平均入院日数は440.9日(図2)であり、利用率は83.5%(図3)になっている(いずれも、平成14年6月末現在のデータ)。長崎県の人口と比較したとき、ベッド数は万対55.2床(図4)、入院数は万対51.7人となる。全国の動向と比較したとき、全国でベッド数が万対28.0床、万対在院患者数が26.0人、そして平均日数は364日であり、いずれもその数値が大きく全国を上まっている。医療全体に関わる統計データで、西日本地区が東日本に比して全体的に高い数値をみており(病院数・病床数が多い、個人当たりの医療費が高いなど)、精神科医療では更にその傾向が顕著である。しかし、長崎は同傾向が更に著しくなっているのである。いつの頃から、このような傾向が目立ってきたのであろうか。長崎の精神科医療に関するハードの面が充実していること自体は歓迎すべきであろうが、実際はその内容が問われるべきであることも事実である。ここでは、長崎県における精神科医療の全般について広く言及するゆとりはなく、まずはその展開に大きく寄与した故石田昇教授の足跡をたどりながら、若干の考察を試みてみたい。
著者
濱崎 直孝 Naotaka HAMASAKI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.275-281, 2008-03

血栓性素因とは血栓症を発症しやすい体質のことである。欧米白人種の血栓性素因は、凝固系第五因子の1箇所の変異(Factor V Leiden(R506Q))であることが10年余り前に判明し、欧米白人に対する血栓症対策は急速に進歩した。しかしながら、黒人やアジア人など欧米白人以外の人種では、Factor V Leiden(R506Q)を保因している人は皆無であり、これらの人種での血栓性素因の解明がいそがれていた。我々は日本人ならびにアジア人における血栓性素因の解明を目指して研究を行ってきた。その結果、日本人の血栓性素因は凝固制御系因子 Protein S 遺伝子変異であることが判明した。その後、最近になり、我々の結果を裏付ける結果がタイ、台湾、中国(香港)から次々に発表され Protein S 凝固制御系因子の異常が日本人のみならずアジア人の血栓性素因であることが証明されつつある。凝固制御系因子 Protein S は凝固系第五因子を制御することで過剰な血栓形成が起こらないように制御している因子であり、生体内では、凝固系第五因子と凝固制御系 Protein S のバランスが適切な血栓形成に重要な役割を果たしていることが推測される。今後は、凝固系第五因子と Protein S 凝固制御因子の関係を詳細に研究し、アジア人の血栓症発症予防ならびに治療対策を推進すべきと考えている。
著者
中村 敏秀 相澤 哲 Toshihide NAKAMURA Satoshi AIZAWA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.179-186, 2006-01

日本のソーシャルワーク教育は多くの課題を抱えている。本稿では特にソーシャルワークとケアワークについての関係の明確化とソーシャルワーク実習教育の内容について論考した。そして、次のような結論を得た。ソーシャルワークとケアワークの定義は統合されるべきである。教育はこれを前提に行われるべきである。またソーシャルワーク実習教育は実習時間を大幅に増やすことと、実習指導者の資格認定が必要である。その結果、大学等での社会福祉教育はより実践的なものになろう。
著者
乙須 翼 Tsubasa OTOSU
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-13, 2012-03

本稿は、戦争や惨劇、差別や災害など、「人間の苦痛」に関連した場所や資料を保存、展示し、それらを鑑賞する行為、またその現象を、教育学的課題として検討しようとするものである。ダークツーリズム研究や戦争写真論などで指摘されるように、メディアを通じて語られる「人間の苦痛」や、博物館で展示される「人間の苦痛」は、教育的要素を持つと共に様々なメッセージを見る側に伝える。しかし、そこで指摘されている問題は、学校や博物館での平和教育や道徳教育において、「人間の苦痛」に関連する資料が多く用いられる教育現場の問題でもある。本稿は、「人間の苦痛」を語る際に孕む問題点を検討しながら、その問題を乗り越える可能性についても提示した。
著者
立平 進
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.91-99, 2002-01-31

遠く,故郷を離れて,海を旅する人たちがいた。沖縄糸満の漁師たちは,黒潮に乗って高知県・三重県・千葉県沖へと出漁し,九州の西海岸沿いには対馬暖流で長崎県五島列島・対馬などへ出漁している。また,それとは別に,海外へは,台湾を経て,東南アジア・フィリピン諸島・ボルネオ・セレベス・マレー半島・スマトラへと出漁している。それが昭和20年の終戦を期にすべて終決したのである。本稿では,その中の一地域である,長崎県の沿岸域について記すことになる。そのきっかけとなったのは,糸満漁民の足跡とでもいうべき,ある行動の軌跡を文化財調査の折に確認したことからである。あるモノとは,沖縄糸満の漁師が,ビロウ樹の若芽を,追い込み漁のオドシとして使用するため,これを剥ぎ取るとき,ビロウ樹の幹に登った足跡が残されていたのである。足跡といっても,幹に登るための足掛かりとなる段々(決り込み)を付けたものであるが,それが漁民の移動を証明するものであることは一目瞭然であった。この足跡の主を求めて沖縄糸満の調査を実施したのである。筆者らが行なう民俗学的な調査では,聞き取り調査が主たる手段になるが,このように物証として残る場合はまれで,筆者にとっては衝撃的なできごとであった。結果的には,平戸の阿値賀島に上陸した人の証言を得ることができたため,聞き取り(伝承)と物証が一致したのである。
著者
安部 直樹
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.13-22, 2007

中国より渡来した茶は、僧侶、公家、武士等に広まっていき、やがて足利、織田、豊臣らの大名によって茶道として定着していくのであるが、公家の茶、町人茶、大名茶はその理念、形態等に多少の違いがある。更に織田信長、豊臣秀吉の茶と織部、遠州、石州等の茶道にも若干の相違がある。ヘウケモノとしての古田織部、綺麗さびを特徴とした小堀遠州、武士のあつまりである分相応の茶の片桐石州、この3人の茶道をとりあげ大名茶としての理念にせまってみた。
著者
田中 誠 Makoto TANAKA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.13-21, 2017-03

英語の習得には、まずは基本である中学英文法をマスターすることが重要である。中学英文法の重要性に関する研究はこれまでも様々なものが行われている。本稿では、それらの先行研究を参考に、TOEIC L&R の問題を解く上で、中学英文法の知識がどれくらい重要な役割を果たすのかを検証することにした。調査したのは、TOEIC 公式問題集7冊の Part5の540問についてであり、使用されている単語はすべて意味・用法がわかっていると仮定した場合に、中学英文法の知識だけで解ける問題がどれくらいあるのかを調査した。調査の結果、中学英文法の知識で解答できる問題は、540問中520問であり、その割合は96.3%であった。今回の調査結果は、筆者の予想を上回る数値であった。TOEIC の該当問題の大部分が中学校レベルの文法で解けるということが明らかとなったことで、TOEIC のような難易度の高い問題を解く際にも、中学英文法をマスターすることは重要であること、語彙力の強化が必要であることを再認識させられた。日頃の英語指導においても、コミュニケーションを重視するからこそ、この2点に重点を置いた指導は重要となる。
著者
正山 征洋 Yukihiro SHOYAMA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.247-252, 2017-03

古来よりウマノスズクサ科植物による腎炎が知られておりその原因物質はアリストロキア酸で有ることが明らかになってきた。アリストロキア酸に対する高感度な分析法を開発するために、モノクローナル抗体の作成を行った。それを用いてアリストロキア酸に対するイースタンブロッテイング法を開発した。本法では多くの含有成分の中からアリストロキア酸のみが検出出来る。マウスにアリストロキア酸を投与して腎組織をモノクローナル抗体で染色するとアリストロキア酸の分布を確認出来た。さらにヒト腎細胞にアリストロキア酸を添加して培養し、抗アリストロキア酸モノクローナル抗体と免疫沈澱法によりターゲットタンパクを精製し、加水分解後マススペクトルによりα-アクチニン-4 と同定した。
著者
小林 徹 Tohru KOBAYASHI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.67-77, 2002-03

1994年9月下旬に岐阜県八尾津において、杉原千畝(1941年リトアニア日本外務省職員として勤務中、ユダヤ難民に日本通過ビザを発行して避難の手助けをした人物として知られる)の業績を讃える式典が挙行された。参加者の中には日系元米兵及び救出されたユダヤ人や子孫が含まれており、その式典に著者も参加する機会を得て、以来7年間にわたり日系米人(多くは二世の世代)との交流を通じて様々な歴史的知見を得ることができた。本論は小林がまとめた日系米人年表である。第2次大戦後の日米関係の改善にあたって、二世、三世を中心とする日系米人の果たした力の源泉をこの年表からくみとっていただけたら幸いである。若干のまとめは年表の末尾に記述する。
著者
谷口 佳菜子
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.63-79, 2018

本研究は、本学の3学科の卒業生に対し実施した卒業生データをもとに、卒業生の在学時の教育プログラムへの評価、卒業後10年までの初期キャリアにおけるコンピテンシーの獲得水準と現在の仕事での必要度、本学への満足度について分析した。調査の結果から、国際観光学科の卒業生は、「海外研修・留学のための機会や指導」の充実度に対し熱心度は有意に低かった。また、「専門の授業(講義や演習)」や「卒業論文、卒業制作、卒業発表」は充実度に対し熱心に取り組んだと評価している。コンピテンシーでは、現職において、卒業生は「基礎的・社会的な技能」の「取引先や顧客などに対するコミュニケーション能力」の不足感を感じていることがわかった。社会福祉学科では、「海外研修・留学のための機会や指導」、「外国語を修得するための授業」、「高校までの基礎学力を学び直す授業や指導」、「知識を広げ教養を身に付ける授業」、「研究室・ゼミでの授業や活動」の充実度に対し、熱心度が有意に低かった。さらに、コンピテンシーの「専門的な知識」、「専門的な技能」、「基礎的・社会的な技能」、「総合的な学習知識と創造的思考力」の項目で獲得度よりも必要度が有意に低かった。健康栄養学科では、「海外研修・留学のための機会や指導」と「卒業論文・卒業制作・卒業発表」が充実度に対し、熱心度が有意に低かった。コンピテンシーについてみると、健康栄養学科の卒業生は、現職において「基礎的・社会的な技能」を中心に不足感を感じていることが明らかになった。総合的に振り返っての本学に対する満足度には卒業生は高い満足度を示した。This research is based on analysing the graduate data that was conducted for students who graduated from three undergraduate departments at Nagasaki International University. The graduates were asked to evaluate the educational program at the time of their enrolment and their enthusiasm for studying. They were also asked to measure their ability to demonstrate a competency level for the first career within 10 years after their graduation and the current job to show the needed requirements. Finally, they were asked about their satisfaction towards the university. The result of surveying the graduates of the International Tourism department shows a significantly low amount of enthusiasm towards the university overseas training program and the study abroad program. However, they showed their enthusiasm to study other courses that related to their major and the graduation thesis. In the competency, the feeling of insufficiency was clear in their current job towards the lack of basic and social skills and the ability to communicate with business partners and customers. On the other hand, the graduates of the Social Work department showed a significantly low amount of enthusiasm towards the university overseas training program and the study abroad program, classes of foreign languages, remedial academic skills, lectures to enrich knowledge and education, and the activities in the seminars. In addition, in the competency, a significantly low amount of enthusiasm was clearly shown towards the lack of specialized knowledge, specialized skills, basic and social skills, and comprehensive knowledge and creative thinking. Finally, the result of surveying the graduates of the Health and Nutrition department shows a significantly low amount of enthusiasm towards the university overseas training program and the studying abroad program. In the competency, the feeling of insufficiency was clear in their current job towards the lack of basic and social skills.
著者
中野 はるみ
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.55-64, 2006

留学生の大衆化が進行するというグローバルな世界のなかで、留学生を受入れる日本人の姿勢と政策が試されている。元来好奇心旺盛な日本人が、前世紀のしがらみから抜け出し、異文化に対する寛容性を育むためには留学生との接触場面を多く作りだすことが肝要だろう。そうした接触場面の増加が留学生と日本人の双方にとってポジティブな異文化間の学習効果を挙げ、21世紀の共生に役立つのである。
著者
武 秀忠 正山 征洋 Xiuzhong WU Yukihiro SHOYAMA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.139-146, 2021-03

COVID-19 が中国で確認され全世界へと蔓延し現在に至っている。中国では傷寒雑病論に収載される小柴胡湯、大青竜湯、五苓散を組み合わせ、21種の生薬を配合した新処方、“清肺排毒湯”が創出された。本処方は214名の患者に対して、90%以上の総有効率が見られ、そのうち60%以上の患者は臨床症状と画像診断で著しく改善され、30%の患者の症状は安定し重症化には至らなかった。清肺排毒湯を解析すると発熱・咳・インフルエンザ等に有効な麻黄、桂皮、杏仁、甘草を配合する麻黄湯が浮かび上がった。そこで麻黄湯の論文調査を行った結果、麻黄湯の有効性が明らかとなり、特に縮合型タンニンの抗ウイルス作用が強いことが判明した。アユルベーダで用いられてきた穿心蓮も麻黄湯同様な作用が認められ、広範囲の疾病に使われてきた。論文調査を行った結果、臨床的に抗ウイルス作用が明らかとなり、その活性成分はアンドログラフォリド類であった。これらの結果から麻黄湯加穿心蓮が COVID-19 に有効であろうとの結論に至った。
著者
友池 敏雄 Toshio TOMOIKE
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.173-183, 2013

2011年の東日本大震災は、地震や津波および原子力発電所爆発事故まで引き起こしたため、この被災地からでる"ガレキ"は、放射能汚染と結びついて受けとめられた2)。国からの広域処理の要請で、受け入れの検討が行われた長崎市においては、同市内の被爆者団体は意見が分かれることもあった4)が、受入反対の意思表示を行なった3)5)。そこで、部分的ではあるが市民の意向を一定の範囲で把握すべく、一部長崎市民を対象に調査したところ、統計学的に有意差を見出せなかったが、"震災ガレキ"を長崎で受け入れるべきだとする人は78.49%存在していた。その中で、特に50~69歳代者には、積極的な受け入れ姿勢がみられた。40歳代や70歳代者も受け入れ姿勢は高く見られたものの、難色や拒否する人は他の年代者よりも2~3倍存在していた。これは、自らの子や孫への放射能による影響不安があったがためと考えられた。70歳代者は受け入れ拒否は低かったが、積極的でもなく中位だった。放射能からの影響不安では80歳代者も高かったため、高齢になるほど変化や不安から遠ざかり安泰な生活を望む傾向から来ていると推察された。しかし、もう一つの視点である、被爆者と一般市民との"ガレキ"受け入れ意識の差は見られなかった。尚、2012年7月26日、長崎市長は、"ガレキ"の受け入れの検討作業を中止すると発表した6)。
著者
細田 亜津子 Atsuko HOSODA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.161-172, 2013

東日本大震災から一年余経過し、被災文化財の状況が解明されてきた。国指定および選定、県指定、登録されている文化財の被災状況は744件であった。これは、未指定文化財と東京電力福島第一原子力発電所の事故による立ち入り制限の文化財をのぞくものである。また、地形の変化による遺跡などへの影響についてはまだ解明されていない。1995年の阪神淡路大震災の被災文化財の調査と修復の経験は、東日本大震災で文化財レスキュー事業、文化財ドクター派遣事業などとして施行された。行政と民間のレスキューは阪神・淡路大震災の経験をいかし、流出した多くの古文書、資料、民俗文化財などを救出した。しかしこれまでとは比較にならない震災の規模で、多くの文化財を失った。この経験は、平時の文化財所有調査を継続して行っていくこと、データ化しそれを多くの機関に保管することなどとして提起されている。この経験と蓄積は、ハーグ条約で文化財を尊重し、緊急時の文化財保存の定義に通じるものである。世界の紛争、テロ、自然災害などに対処するためハーグ条約第二議定書が採択された。日本は平成19年(2007年)に締約した。条約で重視しているのは平時の文化財保存、緊急避難の準備などである。東日本大震災の被災文化財救出の経験は、ハーグ条約に合致し、世界の指針となり、継続して実行することが被災地の復興にもつながるのである。
著者
立平 進
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.37-44, 2005

筆者は、「海を旅する人たち」のテーマで、いくつかの論考を記してきた。海を旅する人たちとは、決して楽な旅ではなく、旅の経緯が比較的不明なものが多く、名も無き人々や、記録に残らないような人たちの旅を記してきたつもりである。漁民は、その中心的な存在であるといえる。本稿では、瀬戸内海漁民の移動について、山口県熊毛郡平尾町佐合島の漁民が、対馬の峰町志多賀に出漁してきていたことを記したものであるが、これを聞き取り調査で明らかにすることができたため、漁民の移動の軌跡として記録したものである。近代になって、瀬戸内海漁民が長崎県の近海に出漁してくる経緯について、江戸時代からの歴史的な経緯もあったが、対馬に「各地ノ漁夫群来シテ種々ノ漁業ヲ営メリ」(下啓介、本文注2)と記されるように、遠くから好漁場であった西海地域に各地の漁師が出漁してくる背景についても考察したものである。また、長崎県の漁民が離島へ出漁していく経緯について、民俗学的な調査により明らかにされたものを、旅の歴史・庶民の交流の歴史として提示したものである。
著者
中村 美穂 Miho NAKAMURA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
no.21, pp.17-27, 2021-03

本研究では、長崎国際大学の学生にとって有益な相談環境の整備を目指し、学生相談室を利用しようとする学生の情報ニーズを把握した。学生は、安心かつ信頼して相談できる環境を求め、カウンセラーの人となりや相談室内外の環境、学生相談の利用状況などを確認したいということが明らかになった。また、情報提供の仕方については、学生がアクセスしやすい Web 上のホームページをはじめ、学生の目に入りやすい媒体で行う必要があることが示された。さらに、学生にとっての相談相手として友人、家族、教員、学生相談カウンセラーそれぞれのイメージや相談することに対する抵抗感や不安を把握した。その結果、学生は、自分の問題や状況などに応じて相談相手を選択し、相談することによる良好な予後を期待していることが推察された。つまり、学生相談カウンセラーは、学生の問題や状況などに合う学内外の援助資源の情報を提供し、必要に応じて学生相談カウンセラー自ら学生と支援者との橋渡しをする必要もあると考えられた。
著者
細田 亜津子 Atsuko HOSODA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.83-95, 2005-01

トラジャ社会は農村社会である。就労者の約80%が農業に従事しており、その他の就労者も兼業が多い。しかし、水田面積は全面積の約10%であり、二期作と棚田での収穫という厳しい現実である。水田形態は、Uma Mana、Uma Tongkonan と呼ぶ一族の共有田と個人所有とがある。共有田の収穫物は儀式など公的儀礼のために使用される。儀式での恩恵は一般大衆にも及び社会的役割を持つ水田である。また、地主と小作の関係は、先祖代々からの関係が多い。土地を所有しない小作は、他地域への出稼ぎを行う。伝統的な収穫物の分配は地主と小作は50%―50%が多く、第二期作は30%―70%になる。この地主―小作の元で働く農夫は、Ikat という稲束の単位により、稲刈りの労働に比例して報酬をうけとる。田植えについては、同じ報酬を受け取る。このように平等性と競争性を取り入れた社会である。一方、農村社会の諸規則は、儀礼との関連が強く、分配や遺産相続に影響する事もトラジャの特色である。