著者
柳澤 慧 高橋 陸 中村 文彦 住谷 陽輔 飯田 良 新田 明央 倉 千晴 戸口 侑 小島 遼人 藤吉 隆雄
出版者
北海道大学高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.145-154, 2015-12

記者発表による市民への情報伝達過程では,情報はおおむね研究者,広報担当者,ジャーナリスト,市民の順で伝わる.そこで,記者発表に関与する専門職と考えられる研究者,広報担当者,ジャーナリストの役割を考え,情報伝達過程における課題と解決策を博士後期課程1 年次の大学院生の視点から考察した.市民に研究成果を届ける記者発表をする理由は二つある.税金を原資として運営する研究の市民に対する説明と,「トランス−専門知」が関わる領域での社会の意思決定のための情 報提供である.ここで記者発表をめぐる課題は六つ挙げられるだろう.研究成果の間違った理解と伝搬,研究成果の強調,社会からの関心の研究成果以外への集中,研究者個人と組織の立場の相反,研究不正や倫理的問題の発覚,そして,市民・ジャーナリスト・科学者の態度の違いである.これらの課題の解決策はおおむね,それぞれの専門職としての役割の認識と倫理教育,情報のフィードバック回路の形成に大別できる.ここから,記者発表に関わる三者の役割の違いを認識したうえで, 規範と現実の食い違いは生じるとの前提でシステムの設計をするのが重要である.そして,その設計において大事なことは認識のずれを許容し吸収する仕組みの準備である.そのためには,バッファーとしての役割を担う中間的専門家が活動できる基盤が必要である.
著者
森 玲奈 池尻 良平 濱口 麻莉 北村 智
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.3-15, 2016-07

防災教育において、知識の提供のみで十分と言えないことは周知の事実である。例えば、気象庁では警報を始めとする「防災気象情報」により重大な災害への警戒を呼びかけてきたが、住民や地方自治体が災害発生の危険性を十分に理解することに繋げられない事例、十分な避難行動に結びつかない事例もあった。基本的な情報がどこでどのように入るか、それがどのような情報であるのか、知識として人々が持っていなければ、有事、各々の状況に合わせた判断や行動につなげることも難しいと考えられる。そこで、人々の防災情報の知識を高め、その知識を行動に結びつけるために、災害についての考え方の変容を促進する教育プログラムが必要である。本研究では、大雨に対する防災情報の知識や意識の向上を目的としたワークショップを設計し、その実践の結果からワークショップの学習効果の分析を行った。
著者
後藤 崇志 工藤 充 加納 圭
出版者
北海道大学高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.3-19, 2015-07

サイエンスカフェのような科学技術イベントは,科学技術イノベーション政策(STI政策)のためのパブリックエンゲージメントの推進に有効な手段であると考えられる一方で,そのようなパブリックエンゲージメントのイベント参加者から得られた意見が,母集団である市民全体の意見をど の程度代表したものであるかを測定することは重要な課題となっている.本研究ではこの課題に取り組むべく,セグメンテーション手法が,パブリックエンゲージメントの参加者の多様性の評価においても有効かを調べることを目的とし,インターネット調査を行った.調査の結果から,「科学・技術への高関与層」に分類された参加者は,政策形成に関与しようという意向が強く,また,政治的有効性感覚の内的有効感が高いということが示された.この結果は,「科学・技術への関与度」を定量化するセグメンテーション手法が,「政策への関与度」の違いを量的に指標化する上でも有効であることを示唆している.
著者
吉武 裕美子 勝身 俊之 南口 誠 西川 雅美 宮 正光 近藤 みずき 白仁田 沙代子 田辺 里枝 山本 麻希
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.31-42, 2016-07

科学技術へ関心の低い女性に科学技術を伝えるツールとして、かわいいと感じる要素を取り入れた科学実験・工作を考案し、その効果を調べた。女性が男性よりもより強く感じる感情である「かわいい」は、対象と関わりたい、仲良くなりたいという共感性や、社会的交流を求める感情に関連している。実験・工作を体験した中学生に対し「実験を体験していない人にも話したいか」というアンケート調査を行ったところ、普段の理科の授業や実験はあまり人に話さないのに対し、かわいいと感じる要素を取り入れた実験は特に女性にとって誰かに話したくなる実験であることがわかった。「かわいい」と科学の組み合わせは、実験実施者から体験者だけでなく実験体験者からその知人へと波及していく効果があり、より多くの人へ体験を伝えるという意味で、特に若い年代の女性にとって科学技術コミュニケーションの強力なツールになると思われる。
著者
玉澤 春史 樋本 隆太 礒部 洋明
出版者
北海道大学高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.91-106, 2014-06

We report the exhibition of the artworks that utilize, or are inspired by, the data of artificial satellites operated for scientific or practical purposes. The exhibition was held at the Kwasan (astronomical) observatory, Kyoto University, and the artworks were invited from public. The aim of the exhibition is to search and invoke the demands of the scientific (and practical) satellite data, or research resources in general, from artists and designers, and hence explore the possibilities of new ways of data utilization by non-experts and science communication through such activities. It was found that many artists were interested in not only the data itself but also the scientific significance (or meaning) of the data and the way the scientists (experts) look and feel about the data. Problems and possible improvements for the expansion of the utilization of satellite date are discussed.
著者
佐藤 亮子 標葉 隆馬
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
no.12, pp.31-43, 2012-12

Currently, various challenges fusing science and art (known as "science art") have been encountered. In this paper, we investigate how mass media deal with science art through a text analysis of the articles about the transgenic art of Eduardo Kac. Kac's works were presented when the debates concerning genetically modified organisms (GMOs) got complicated. Particularly, GFP Bunny Alba, one of his works, came to be described as a symbol of transgenic technologies and genetically modified organisms in those news articles. It was found that there are several frames of reference in articles about Kac's works: discussions on GMOs, perspectives on religions and ethics, and the possibilities or wonderment derived from the fusion of different genres. Considering text analysis, we discuss the role of science arts (1) to give scientific knowledge to people, (2) to give speculative images of the future world or alarming derived from new scientific technologies, and (3) to call attention to advances in scientific knowledge.
著者
石井 哲也 大津 珠子
出版者
北海道大学高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.59-71, 2014-06

胎児の染色体異常を検査とする無侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT)は,検査採血の容易さ,妊娠早期の検査実施,および高い信頼性により生殖の自己決定権を向上しうる.しかし,臨床的,倫理的,および社会的問題も同時にもたらした.我々はNIPTに関するサイエンスカフェを実施し,その結果を考察した. このカフェでは,参加者に生殖や先天異常の情報を提供するとともに,NIPTに対する様々な姿勢や関連法についても説明した.アンケート調査の結果,参加者のNIPT受容性は,受容可能(27%),どちらかというと受容可能(32%),どちらかというと受容不可能(14%),受容不可能(1%),回答不能(26%)となり,既報の世論調査と比較すると,一部参加者がより慎重な姿勢となった可能性が示唆された.また,一部参加者は遺伝的疾患や知能の検査へのNIPT利用を受容しうると回答した.NIPTの更なる利用拡大に先立ち,生殖の自己決定権のより倫理的な行使には社会教育の充実が不可欠であるが,サイエンスカフェは親密な雰囲気下での情報提供と参加者間コミュニケーションの促進が可能であることから,有効な社会教育の一つとなりうる.
著者
髙祖 歩美 南崎 梓 マッカイ ユアン
出版者
北海道大学高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.149-159, 2014-06

There is increasing pressure on Japanese universities and research institutions to actively promote their research outcomes to global audiences. One factor driving this phenomenon is increasing global competition among states and organizations for highly-qualified individuals. The University of Tokyo (UTokyo) has set itself the task of becoming a“ world-leading center of knowledge” and there is an awareness within the university of the need to reach a wider audience both domestically and globally to achieve this objective. The university’s Public Relations Office established “UTokyo Research” in 2010 to promote the university’s research domestically and internationally and to nurture personnel able to support the dissemination of research outcomes. This paper introduces the origin and development of UTokyo Research and the efforts of the university’s Public Relations Office to promote research outcomes in English to a global audience.
著者
早岡 英介 高橋 理 中村 奈穂子 小室 崇 村松 秀
出版者
北海道大学高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.15-31, 2013-12

A public recording of NHK educational TV “SciEnCer” which is a popular scientific entertainment program in Japan was held in school of engineering, Hokkaido University on January 22, 2013. Here, on-the-job training for students by the collaboration of NHK and Hokkaido University was carried out. The production technique of the TV program is suggestive for science communication education. In this report, we consider the opportunity of on-the-job training like this from a viewpoint of science communication.