著者
長嶋 洋一
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2016-MUS-110, no.11, pp.1-8, 2016-02-22

主としてリラクセーション (メンタルのエクササイズ) のために開発された脳波センシング・ヘッドバンド "MUSE" について,Computer Music における新楽器/新インターフェースとしての応用という視点から検討した.MUSE は額に 5 電極,耳朶に 2 電極を持ち,さらに 3 次元加速度センサ情報とともに Bluetooth でホストに生体情報を伝送する小型軽量廉価な装置であり,Bluetooth の設定として UDP を指定すると OSC 互換となるため,既存の Computer Music システムとの親和性に優れている.本稿では,時定数の大きさから音楽演奏情報に適さないとされてきた脳波パターン認識,ノイズ除去の状況,加速度による首振りセンシング,そしてアーティファクトを表情筋/外眼筋センサとして活用する可能性について報告する.
著者
矢田部 浩平 石川 憲治 池田 雄介 及川 靖広
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2015-MUS-107, no.11, pp.1-6, 2015-05-16

音は空気の疎密変化であり,疎密によって媒質の屈折率も変化するので,光を用いて屈折率を計測することで音を録ることができる.これは,マイクロホンの特性や音場への干渉が影響することのない非破壊非接触な計測を可能にし,また遠方から音情報を取得可能であるという利点も有するが,一方で,計測された信号の SN 比が悪いという課題がある.これに対し,筆者らは物理モデルを用いた信号処理を提案しており,SN 比の改善に取り組んでいる.本稿では,様々な光学的音響測定手法を概説した後,筆者らが提案する信号処理と,今後期待される応用について述べる.
著者
力徳 正輝
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2016-MUS-113, no.18, pp.1-4, 2016-10-07

符号化された楽曲情報から楽曲生成モデルを構築する場合,メロディー,和音進行,フレーズなどの音符列の部分構造などを利用することで柔軟な生成モデルを構築できることが期待される.しかし,このような部分構造情報が付与されている楽曲データは多くはなく,MIDI のような楽曲データから音楽部分構造情報を自動で抽出する技術の重要性は高い.本稿では,部分構造情報も持っていない MIDI データから,2 種類のクラスタリング手法を用いて音楽部分構造を抽出する手法を提案する.さらに,得られた部分構造情報をリカレントニューラルネットワークによって学習させ楽曲生成モデルを構築する点について議論する.
著者
コンヴェール マクシム 深山 覚 中野 倫靖 高道 慎之介 猿渡 洋 後藤 真孝
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2018-MUS-120, no.1, pp.1-8, 2018-08-14

ニューラルネットワークは自動和声付けにおいて有望な技術である.膨大なデータセットを元に,入力と出力の複雑な依存関係を学習することができるため,旋律と和音の依存関係も扱うことができる.ニューラルネットワークの性能はその入力と出力情報の表現方法が強く影響する.しかし,従来の自動和声付け研究では,出力情報である和音の表現方法について深くは検討されておらず,テンションノートといった和音の詳細な構造が最大限活用されてこなかった.和音の表現方法を変えることで,旋律と和音の関係を更に細かく学習できると考えられる.そこで本研究では,和音の表現方法の違いが Recurrent Neural Network (RNN) による自動和声付けの性能にどれほど影響するかを調査する.従来の表現方法を含む 4 つの異なる和音表現方法に基づいて Gated Recurrent Unit (GRU) を用いたニューラルネットワークを構築し,それらの性能を比較した.実験の結果,和音の構成音を陽に表現した表現方法を用いると,従来の和音ラベル形式を使った場合に近い性能に達成するだけでなく,構成音の細かな違いに対応できる多機能な自動和声付けモデルの構築を可能とすることがわかった.
著者
安井 拓未 中村 篤祥 田中 章 工藤 峰一
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2017-MUS-116, no.15, pp.1-4, 2017-08-17

音響的に類似している部分が周期的に連続して現れることを用いて,楽曲 PCM ファイルからループを検出する手法を提案する.ゲーム音楽用 MIDI ファイルを WAVE 形式に変換したファイルを用いた実験によれば,再生時間の 1/7 の時間で,222 曲中 199 曲で聴覚的に違和感のないつなぎ目で繋げてループさせることに成功した.
著者
小池 誠
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2017-MUS-115, no.52, pp.1-5, 2017-06-10

本稿はテレパシー通信,即ち,マイクロ波聴覚刺激を応用して音声信号を頭部に直接,伝えるマイクロ波通信の起源を探求するものであり,クロード ・ シャノン等が発明者である米国特許 2801281 号を分析することにより,1948 年にクロード ・ シャノン等が公表した 「パルス符号変調の哲学」 は具体的な通信機,電子回路を秘匿しつつ,通信理論に抽象化してテレパシー通信を公表した旨を指摘する.
著者
高橋 響子 赤木 正人
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2019-MUS-123, no.24, pp.1-4, 2019-06-15

歌声には,喉頭および口腔内で生じる乱流雑音が多い.そのため,音声生成過程の数理モデルによる歌声の声道共鳴特性および声帯音源特性の推定は困難であった.本研究では,歌声生成過程の解明に向け,乱流雑音を含む歌声の声帯音源波形と声道共鳴特性の同時推定法を提案する.推定される声道共鳴特性の安定性を保つために,声道共鳴特性は声帯音源特性に比較してゆっくりと変化するという仮定のもと声道共鳴特性を推定した.歌声のシミュレーション波形をデータとして用いた分析実験により,乱流雑音が声帯音源に含まれる歌声において,声帯音源波形と声道共鳴特性が同時推定可能であることが確認された.
著者
飯野 なみ 浜中 雅俊 西村 拓一 武田 英明
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2019-MUS-124, no.13, pp.1-6, 2019-08-20

楽器演奏において上級者のノウハウを抽出し体系化することは,効率的な弾き方や効果的な表現の実現に繋がる.我々はこれまで,多くの演奏技法が求められるクラシックギターに着目し,知識工学的アプローチによってギター奏法オントロジーを構築した.これは,クラシックギターの演奏技法を主概念として分類し,具体的な行為や手順を記述したものである.本研究では,ギター奏法オントロジーの概念を対象として,ギターコンクールで選曲率の高い楽曲における演奏技法の傾向や変遷を調査した.その結果,上級者から記譜情報の約 2 倍の演奏技法を抽出し,それらの使用方法や難しさについて知見を得ることができた.
著者
竹川 佳成 植村 あい子 奥村 健太 高道 慎之介 中村 友彦 平井 辰典 森尻 有貴 矢澤 櫻子
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2016-MUS-112, no.10, pp.1-6, 2016-07-23

「新博士によるパネルディスカッション」 は,音楽情報科学の研究に取り組んできた博士号を取得したばかりの方を集め,研究の紹介,博士課程進学の動機,博士課程在学中のドラマ,今後の抱負などについてパネル形式で議論する.本稿では,今回パネリストとして参加していただく 7 名の新博士を紹介する.
著者
渡邉 彰吾 六沢 一昭
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2017-MUS-115, no.25, pp.1-5, 2017-06-10

本稿は,Perl プログラムから楽曲を作成するシステムについて述べる.プログラムを見た時に感じる印象を,聴いて楽しむことのできる楽曲という形で表現することがこのシステムの目標である.楽曲は,プログラムの 1 行を 1 小節として作成する.まず,プログラムを見た時の印象に影響する情報を解析し,各小節のコードを決定する.そして,コードをもとにメロディとリズム,それにハーモニーを作成する.
著者
宮本 春奈 塩田 さやか 貴家 仁志
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2019-MUS-123, no.28, pp.1-5, 2019-06-15

本論文では,x-vector に基づく話者照合システムにおいて帯域拡張法を用いて生成した広帯域音声によるデータ拡張に着目する.x-vector に基づく話者照合システムにおけるデータ拡張には,様々なノイズを加えるだけでなく,狭帯域音声をアップサンプリングしたデータ,またアップサンプリングしたデータと帯域拡張データとを混ぜ合わせて学習に用いるものがこれまでに報告されており,さらに DNN による帯域拡張を用いたデータ拡張についても報告されている.一方近年,帯域拡張法の一つとして非線形帯域拡張法 (N-BWE) が提案されている.N-BWE はモデル学習を行わず,計算量が非常に軽い手法として提案された.N-BWE は単純な非線形関数とフィルタのみで構成されているにも関わらず,話者照合の等価エラー率 (EER) と二乗平均平方根対数スペクトル歪みそれぞれにおいて高い性能を得られることが報告されている.そこで本論文では,x-vector に基づく話者照合システムを構築する際に,N-BWE を適用した音声を拡張データとして使用して実験を行った.実験結果より,アップサンプリングした音声と N-BWE で帯域拡張した音声を拡張データとして加えて学習を行った結果,アップサンプリングした音声のみを拡張データとして用いたシステムと比較して EER のエラー改善率は 24.5% を達成した.
著者
河原 英紀 榊原 健一 坂野 秀樹 森勢 将雅
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2018-MUS-121, no.1, pp.1-5, 2018-11-14

瞬時周波数と群遅延は,それぞれ位相の時間微分と周波数微分として定義されており,そのままでは,逆三角関数や位相の unwrap という脆弱で効率の悪い演算を必要としていた.Flanagan によって 1966 年に紹介された信号の瞬時周波数を求める式は,これらを必要とせず,群遅延の計算にも応用できることから広く用いられてきた.しかし,マルチメディア処理の普及により,最近の処理系では逆三角関数の計算を高速に実行することができるため,明示的に位相を経由することなく瞬時周波数と群遅延の計算を実装することができようになった.ここでは,サイドローブの減衰が急峻な余弦級数を時間領域の振幅包絡とする解析信号をインパルス応答とするフィルタを用いて有声音の音源を分析する方法を提案する.
著者
小口 純矢 嵯峨山 茂樹
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2018-MUS-119, no.29, pp.1-4, 2018-06-09

本論文は,波形生成モデルである複合ウェーブレットボコーダのさらなる品質の向上を目指す.これまでに我々は,音声分析合成や HMM 音声合成系において,複合ウェーブレットボコーダの安定性を示してきた.ここで,さらに WORLD や STRAIGHT で用いられている非周期性指標のような,音声の準周期性を取り入れることができれば,有声摩擦音やかすれ声のように周期成分と非周期成分の両方を持つ音声を表現でき,高品質な音声を合成できると期待される.本論文では,複合ウェーブレットの基本波形を完全な周期ではなく Jitter を付与した準周期的なパルス列によって駆動させることで実現した.また,主観評価実験により,改良後の音声が改良前の音声より品質が有意に高いことを示した.
著者
長嶋 洋一
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2018-MUS-118, no.11, pp.1-29, 2018-02-13

世界中で開発が進められている自動運転車は安全走行のため多種の搭載センサを外界に向けており,GPS を含むこのセンシング情報を生かして周囲の状況に反応する 「リアルタイム作曲システム」 として,運転の必要がない全ての搭乗者に快適で音楽著作権の不要な BGM をライヴ生成する自動作曲手法が求められている.英国 Forkswagen が 2013 年に発表した "Play the Road" は運転手目線のシステムでありやや目的が異なるが,その音楽スタイルの検討は重要な参考資料となった.ライブ生成の要素を除外するとしても,古今東西の音楽データを収集し深層学習させた AI が良質な音楽を自動生成するためには,教師データとして膨大な音楽嗜好感性ビッグデータを適用すればよいが,いまだに成功例が報告されていない.筆者は 2006 年に IPA 「未踏」 に採択され発表した "FMC3 (Free Music Clip for Creative Common)" において,音楽的ヒューリスティクスを重視した考え方を提案したが,豊田中央研究所に共同研究を依頼され開発した 2016 年版の車載用リアルタイム BGM 生成システムにおいて,この原則を発展させた.自動運転車が生成するセンサ情報と音楽音響的情報との関係を整理した上で,本稿ではこのリアルタイム BGM 生成システムの試作に関して,(1) BGM 進行のための音楽的な基本原理,(2) ループの繰り返しとリズム/ビートのスタイル,(3) センサ/マッピング / 音楽生成のブロック分割,(4) 音楽要素パラメータへの確率統計的な重み付け,(5) 調性とコードとスケールの構成,(6) 試作と実験の模様,などについて詳細に報告する.
著者
横山 真男 八代 月光 植木 一也
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2018-MUS-119, no.41, pp.1-4, 2018-06-09

深層学習を用いて,演奏音からそのヴァイオリン製作者を当てる楽器識別および未知の楽器がどの製作者のヴァイオリンに近いか音色分析を行うプログラムを開発した.音響特徴量としてケプストラム法によるスペクトル包絡を深層学習の学習およびテストデータに用いた.ヴァイオリンは,ストラディバリをはじめとするオールドイタリアンの名器からモダン,国産の新作楽器まで 21 本で評価実験を行った.開放弦の演奏音を学習させたところおよそ 90% 以上の割合で識別ができ,楽曲の演奏音では約 60% 弱の正答率が得られた.また,未知の楽器が学習したどの楽器に類似しているかといった傾向分析についても試みた.
著者
須田 仁志 深山 覚 中野 倫靖 齋藤 大輔 後藤 真孝
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2018-MUS-121, no.17, pp.1-6, 2018-11-14

本稿では,複数人が歌唱している楽曲に対して誰がいつ歌っているかを推定する歌唱者ダイアライゼーションの基礎的な検討を行う.とくに本稿ではグループアイドルソングのような複数の歌唱者が交互に歌ったり同時に歌ったりする楽曲を対象とする.本稿では伴奏音を除去した歌声を用いてアイドルソングのデータセットを構築した.またこれらの歌声に対して,歌唱者の音響モデルを未知とした手法と既知とした手法の 2 手法を用いて歌唱者ダイアライゼーションを行った.歌唱者の音響モデルを未知とした手法には,会話音声に対する話者ダイアライゼーションで広く用いられている修正ベイズ情報量規準を用いた手法を利用した.また音響モデルを既知とした手法では,i - vector を用いた話者認識を利用して短時間での歌唱者認識を繰り返し行うことで推定した.推定結果から,歌唱者の音響モデルの有無により大きな性能の差があること,また音響モデルが既知であっても短時間での歌唱者認識だけでなく適切な後処理によって推定誤りを減らせることが確認できた.
著者
水野 創太 白松 俊 北原 鉄朗 一ノ瀬 修吾
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2017-MUS-117, no.4, pp.1-4, 2017-11-18

演奏者の身体動作は,その動きの視覚的効果によって音楽理解を促進する.特に,旋律の上下動 (旋律概形) は直感的な身体動作と親和性が高い.我々はこれまで,モーションセンサーカメラ,スマートフォンセンサーによってユーザの身体動作を認識する手法を提案し,身体動作による演奏行為を支援するシステムの開発を行ってきた.本稿では,これまで開発してきたスマートフォンを用いた身体動作認識手法と,北原らによる旋律概形からメロディ生成するシステム JamSketch を統合することで,即興演奏支援システム JamGesture を開発した.JamGesture は,スマートフォンを用いて認識したユーザの手の上下動から描画した旋律概形を基に,JamSketch の機構によってメロディを生成することで,ユーザの直感的な身体動作を入力とした即興演奏を可能とする.
著者
糸山 克寿 坂東 宜昭 粟野 浩光 合原 一究 吉井 和佳
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2015-MUS-107, no.55, pp.1-6, 2015-05-16

本稿では,映像と音響信号に対して統合的に非負値行列因子分解 (NMF) を行うことでカエルなどの動物の合唱行動を分析する手法について報告する.カエルをはじめとした様々な動物は合唱 (音声によるコミュニケーション) を行うことが知られており,各個体がどのように合唱に参加しているかを調べることはその生態の解明に重要である.空間的な音場を光に変換するデバイスであるカエルホタルを用いて,ビデオカメラで録画した映像およびモノラル音響信号に対して統合的にNMFを行うことで,各個体の鳴き声を分離抽出する.カエルホタルの輝度とパワースペクトルの振幅をNMFのアクティベーションとして共有させることで,スペクトル形状が類似した同種別個体の鳴き声を相異なる基底へと分解する.