著者
金沢 弘美 窪田 和 谷口 貴哉 澤 允洋 髙橋 英里 民井 智 江洲 欣彦 吉田 尚弘
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.10, pp.1134-1141, 2023-10-20 (Released:2023-11-01)
参考文献数
21

一側性難聴は, 難聴側からの聴取困難だけでなく, 雑音下での聴取困難, 音源定位の困難がある. 両側性難聴者だけでなく, 一側性難聴者もマスク装用下での聞き取り困難を感じている. この困難感は, 雑音の多い学校生活で1日を過ごすことが多い学童児が特に感じていることが危惧された. 今回は, 一側性難聴児の学校生活の中での聞き取り困難感を, マスク装用生活前後で比較した調査を行った. また希望者に対しては補聴器試聴を行った. 対象は, COVID-19 流行時に当院に外来通院していた一側性難聴児31人である. コントロール群として健聴児15人をおいた. 方法はアンケート形式で, 雑音下聴取・音源定位・学業理解に関して4つの問いを設定し, VAS スケールで困難感として当てはまる程度を患児本人が記入した. 補聴器を希望した一側性難聴児は, 装用1~3カ月後に雑音下語音検査を行った. この結果, 難聴のレベルにかかわらず, 多くの一側性難聴児が, マスク装用生活後に聞き取り困難を感じていた. 11人が補聴器試聴を希望し, 9人が雑音下語音検査でその効果を認め購入に至った. 一側性難聴児は, 両側性難聴児と同様に, 学力の低下, 社会性の問題など, 年齢が上がるに連れて顕著になるケースがある. マスク装用生活が続いたことにより, 一側性難聴児が困難感を自覚するようになっている. 補聴器装用のほか, 聴取の環境調整, 心理・社会面など個別にサポートする必要がある.
著者
平野 滋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.8, pp.979, 2023-08-20 (Released:2023-09-01)
参考文献数
9

音声リハビリテーションは, 声の誤用によって起こる嗄声や声帯の病変を回復させるものであり, 対象となる疾患は多岐に渡る. 筋緊張性発声障害や変声障害などの機能性発声障害は最も良い適応であるが, 声帯結節, 一部の声帯麻痺, 歌手の歌唱障害, あるいは声帯の手術後のリハビリテーションとしても重要である. 最近では一部の加齢声帯萎縮も良い適応となった. 音声リハビリテーションでは音声治療が主体となるが, その手法は適切な呼吸と共鳴の誘導にある. 声帯の効率的な振動を導くために, 安定した適度な呼気流と呼気圧が重要であり, また, うまく共鳴を誘導することでソース・フィルター理論に基づく声帯に負担のかかりにくい発声様式が可能となる. 呼吸誘導にはチューブ発声法に代表される flow phonation, 共鳴誘導には顔面前部で響きを誘導する forward focus が用いられるが, 両者を同時に取り入れた semi-occuluded vocal tract exercise (SOVTE) は世界的に普及している. これらの手法は最初は母音ベースで行われ, これを会話音声にキャリーオーバーしていく必要があるが, 米国では最初から会話ベースで行う conversation training therapy (CTT) や歌唱者に用いる singing voice therapy が普及しつつある. いずれにおいても音声リハビリテーションの向かう方向性は一緒であり, 中身の手法については各症例の問題点を抽出して適切に判断するとよい.
著者
村井 綾
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.949-952, 2022-06-20 (Released:2022-07-02)
参考文献数
10

嗅細胞はターンオーバーする特異な細胞であり, 損傷があっても回復可能な細胞である. よって嗅覚障害を生じても, 自然軽快する症例や嗅覚障害の原因治療により軽快する症例がある. 鼻腔から入る嗅素は嗅上皮にある嗅細胞の嗅覚受容体に結合する. 同じ嗅覚受容体を発現する嗅細胞の軸索は束になり, 一次中枢である嗅球に嗅覚情報を伝える. 嗅球で2次ニューロンに乗り換えて, 嗅皮質や海馬, 眼窩前頭皮質などの嗅覚中枢に伝達される. 感覚神経の情報伝達には神経細胞の存在だけでなく, 正しい神経回路の形成が必要である. 胎生期には嗅球上に軸索ガイダンス因子が発現し, 嗅球マップと呼ばれる神経回路が形成され, 生涯維持される. しかし, 一度に多量の嗅細胞が障害されると, 再生した嗅細胞は嗅球上の正しい神経回路が形成できなくなることがある. 嗅細胞の減少や神経回路の形成異常により嗅覚情報が正しく伝達されず嗅覚障害が難治化, もしくは質的変化を来すと考えられる. 現在, 嗅覚障害の治療には嗅細胞再生を促進する当帰芍薬散やステロイドなどの抗炎症薬投与などが行われているが, 満足いく嗅覚レベルに達しない症例も存在する. ドイツで始まった嗅覚刺激療法は嗅上皮で NGF や BDNF などの神経栄養因子や成長因子が増えるという報告があり, 臨床だけでなく基礎的研究も盛んに行われている. 嗅覚障害モデルマウスを用いて嗅細胞の重度の障害によって破綻した嗅球マップの回復に寄与する因子を検討している. 軸索切断後の軸索損傷が遅れる遺伝子変異マウスを用いた実験や臨床的に効果的な嗅覚刺激療法の嗅細胞への効果を検討する実験を行った. Wallerian 変性の遅れは軸索切断後の嗅覚地図の保存に寄与しなかった. 嗅覚刺激療法は嗅細胞の回復を促進した. 嗅覚再生の研究は嗅覚障害に対してだけでなく, 感覚神経細胞そのものの再生過程や複雑な神経回路の形成の解明につながる重要性を持つといえる.
著者
佐々木 彰紀 神人 彪 東野 正明 寺田 哲也 河田 了
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.5, pp.698-703, 2023-05-20 (Released:2023-05-31)
参考文献数
17

唾液腺癌は頻度が低く, その中でも顎下腺癌の占める割合は低く希少癌である. 大阪医科薬科大学病院で加療を行った顎下腺癌31例の検討を行った. 男性23名, 女性8名であり, 年齢の中央値は65歳であった. 最も多い組織型は腺様嚢胞癌および唾液腺導管癌であり, 次いで粘表皮癌と多形腺腫由来癌であった. 病理組織学的悪性度は低/中悪性が12例, 高悪性が19例であった. 術前の穿刺吸引細胞診によって, 悪性と診断できた症例は21例, 悪性度が診断できた症例が11例であった. 5年疾患特異的生存率は59.2%であり, ステージ別では, ⅠからⅣでそれぞれ, 100%, 100%, 71.1%, 25.0%であった. 再発例と非再発例を比較したところ, 再発が有意に多い要因として, ステージⅣ, リンパ節転移陽性, 高齢が挙げられた. 顎下腺癌は耳下腺癌と比較して高悪性が多かった. 耳下腺癌の低/中悪性において頻度の高い基底細胞腺癌, 分泌癌, 上皮筋上皮癌が顎下腺癌では1例も認められなかったことが予後不良の要因であると考えられた.
著者
杉山 庸一郎 金子 真美 平野 滋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.8, pp.983-989, 2023-08-20 (Released:2023-09-01)
参考文献数
34

高齢者の嚥下障害に対する嚥下診療では, 加齢による嚥下機能低下に加え, 高齢者に好発する疾患とそれに伴う嚥下障害を理解し, 嚥下メカニズムに沿って治療を行うことが原則となる. 高齢者では咽頭・喉頭感覚低下, 食道入口部の抵抗増加, 咽頭残留などの加齢に伴う嚥下機能低下に, 脳血管障害や神経筋疾患など原疾患による嚥下機能低下が加わると, 嚥下障害を来す. 原疾患の治療に加えて, 嚥下障害に対して病態に即して対応することが必要となる. そのためには嚥下機能評価が重要となる. 摂食・嚥下は5段階に分類されるが, そのうち咽頭期嚥下障害は誤嚥のリスクに関与するため, 適切に評価し対応する必要がある. 咽頭期嚥下障害に対する嚥下機能評価は嚥下惹起性と咽頭クリアランスの評価に大別される. 嚥下機能評価により病態生理を解析し, 原理原則に沿って嚥下リハビリテーション治療や嚥下機能改善手術などの適応, 治療方針を決定することが重要である.
著者
藤尾 久美 井上 莉沙 荻野 枝里子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.7, pp.863-870, 2023-07-20 (Released:2023-08-01)
参考文献数
20

COVID-19 嗅覚障害は従来の感冒後嗅覚障害とは異なる臨床像を呈することが判明してきた. その一つに CT 画像上での嗅裂所見がある. われわれは, CT 画像での嗅裂所見に注目し, 臨床研究を行った. 対象96症例に対し, CT 上の嗅裂の閉塞なし, ありの2群に分けて, 年齢, 性別, COVID-19 と診断され, 嗅覚障害を自覚した日から受診までの日数 (以下, 発症から受診までの日数), 異嗅症の有無, 嗅覚障害程度について調査した. 嗅覚検査は Visual analogue scale (VAS), 日常のにおいのアンケート, 基準嗅力検査, 静脈性嗅覚検査 (アリナミンテスト), スティック型嗅覚検査 (odor stick identification test for Japanese: OSIT-J) を行った. さらに, 経過を追えた23例に対し, 嗅覚障害改善の予測因子について探索した. CT での嗅裂閉塞あり群の症例では閉塞なし群より嗅覚障害の程度は高度であった. 治癒までの経過を追えた23症例で, 発症から受診までの日数が予後の予測因子となった. 嗅裂の閉塞所見を認める症例では, 嗅覚障害の程度は閉塞なし群の症例より高度であった. 今回の調査では, 経過を追えた症例での予後因子は発症から受診までの日数となり, 治療の早期加入が必要であること, もしくは嗅覚障害が遷延する症例は難治性が多いことが推測された.
著者
池田 怜吉
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.107-111, 2022-02-20 (Released:2022-03-10)
参考文献数
19

医師主導治験を経て, 難治性耳管開放症に対する耳管ピン手術が薬事承認ならびに保険適応となったので, その概要について述べる. 耳管開放症は, 耳管が常時あるいは長時間開放することにより, 自声強聴, 耳閉感, 自己呼吸音聴取などの不快な耳症状を呈する疾患である. 多くの症例では前述のように生活指導ならびに保存的治療にて症状がコントロールされるため, 第一選択となるが, 保存的治療にて改善し得ない難治性耳管開放症が存在する. 耳管ピン手術は, 最低6カ月以上の保存的治療にて症状が改善しない症例を対象としている. 2017年6月~2019年1月に薬事承認・保険医療化を目的として, 難治例を対象としたシリコン製耳管ピンの非盲検非対照多施設共同臨床試験を, 30症例を対象に医師主導治験として行った. 有効率は82.1%であり, 過去の臨床研究での報告とほぼ同等の成績であった. その後, 薬事承認を経て, 2020年12月に保険収載となった. 本手術は, 日本耳科学会「耳管ピン手術実施医」のもとで手術の施行が義務付けられている. 今回の耳管ピンの保険収載においては, 1. 長年にわたる耳管開放症に対する臨床研究の蓄積, 2. 多職種との連携・協力, 3. 全国の耳鼻咽喉頭頸部外科医の協力, 4. 全国の患者さんへ有益な治療を届けたいという思いが重要であった.
著者
竹内 万彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.93-101, 2022-02-20 (Released:2022-03-10)
参考文献数
47
被引用文献数
1

好中球性の慢性鼻副鼻腔炎は滲出性中耳炎と同様, その成因に線毛機能が深く関わっている. 鼻副鼻腔の線毛は協調運動することが大切であり慢性鼻副鼻腔炎患者における線毛を電子顕微鏡で観察すると, 炎症の結果としての融合した線毛などが観察される. 線毛機能不全症候群 (PCD) 患者の線毛では, 外腕ダイニンの欠損や軸糸構造の乱れが見られ協調ある線毛運動は不可能である. 現在50ほどの PCD の原因遺伝子が見出されている. 本邦では DRC1 と呼ばれる遺伝子が原因として最多であり, DRC1 の欠失では内臓逆位は起こらないため本邦の PCD 例では内臓逆位が諸外国より少ない. 本症の診断は容易ではないが, 高頻度ビデオ顕微鏡解析, 電子顕微鏡検査, 免疫組織化学検査, 鼻腔一酸化窒素測定, 遺伝子解析を組み合わせて行う. PCD の臨床症状としては長引く湿性咳嗽が最も重要であり, PICADAR スコアによりその確率を予測する. PCD における慢性鼻副鼻腔炎の重症度はさまざまであり, 前頭洞と蝶形骨洞が低形成であることがヒントとなる. われわれ耳鼻咽喉科医は鼻腔を観察でき, 鼻腔からの電顕用の線毛の採取も可能であるので, PCD 診療において果たす役割は大きい. 診断に至る検査が特殊なため PCD は未診断例が多い. また, 関連する遺伝子が多く, 遺伝子バリアントもさまざまであることが気道疾患の重症度を多様化している. しかしながら, 将来の個別化医療を考えると遺伝学的検査を含めて正確な診断を行うことが肝要である.
著者
平位 知久 福島 典之 呉 奎真 世良 武大 安藤 友希 服部 貴好 伊藤 周 田原 寛明 益田 慎 小川 知幸
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.12, pp.1673-1679, 2022-12-20 (Released:2023-01-01)
参考文献数
24

新型コロナウイルス感染症 (The novel Coronavirus disease 2019, COVID-19) に対して気管内挿管を行った症例の一部において, 声門後部炎症, 声帯固定, 声門下肉芽, 声門下狭窄, 気管狭窄等の喉頭気管狭窄症を来し, 再挿管または気管切開による気道確保を余儀なくされたという報告が相次いでいる. 海外において同病態は COVID-19 関連喉頭気管狭窄症と呼称されている. 当科ではこれまでに3例の COVID-19 関連喉頭気管狭窄症を経験した. それらの病態は両側声帯固定, 声門後部炎症, 声門下肉芽, 声門下狭窄とさまざまであったが, いずれの症例も治療抵抗性であり, 発症から長期間が経過した現在も気管孔閉鎖には至っていない. COVID-19 関連喉頭気管狭窄症の要因としては, 長期挿管管理, 挿管時の喉頭粘膜損傷, 気管内チューブのサイズ不適合, 挿管管理中の腹臥位療法, 患者側背景として糖尿病, 高血圧, 心疾患等の既往歴, 肥満, 上気道炎の合併などが考えられている. いったん発症すると遷延化し難治性となる場合もある. 従って COVID-19 に対して挿管を必要とする症例においては, 適切な挿管操作, 挿管管理を行うことにより抜管後の喉頭気管狭窄症の発症を予防するだけでなく, 挿管前から上気道炎の有無, 程度の評価を含め, 耳鼻咽喉科による積極的なかかわりが重要であると考えた.
著者
白井 杏湖
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.12-15, 2023-01-20 (Released:2023-02-01)
参考文献数
8

2017年に成人人工内耳 (以下CI) 適応基準が改訂され, 平均聴力レベルが 70dB 以上で, 補聴器 (以下 HA) 装用下の最高語音明瞭度が50%以下の高度難聴例に対しても適応が拡大された. これにより, 今まで HA 装用効果が不十分であった進行性難聴を含む両側高度難聴例や左右差のある高重度難聴例に対しても CI によるシームレスな補聴が可能となった. 高度難聴に対する CI の有用性は世界で多く報告されている. HA と CI の適応境界については議論の余地があるものの, HA 装用下の語音聴取能は CI による語音聴取能改善の予測因子として重要であり, 世界でも CI 適応基準として重視されている. また, CI に求められる効果が高度になるほど, 純音聴力検査や静寂下の語音明瞭度での評価には限界が生じる. 今後日本語における機能的アウトカムを含めた評価方法の確立が求められる. 新基準の導入に伴い, 高齢者に対する CI 手術も増加している. 高齢者に対する人工内耳では, 聴取能改善に加え, 認知機能や QOL に効果を及ぼす可能性が示唆されている. 高齢化社会において大きなインパクトを与えることが予想される. あらゆる聴力像に対して複数の選択肢が登場し, 切れ目のない聴覚補償が可能になりつつある. “きこえと QOL を維持する” ために CI を積極的に活用する時代が見えてきている.
著者
本多 啓吾
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.124, no.12, pp.1577-1583, 2021-12-20 (Released:2022-01-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

頸部郭清術は, 頭頸部外科医が主体となる治療 (技) のうち, 最も重要なものの一つである. 頸部のリンパ (脂肪) 組織の多くは, 静脈周囲に存在し, 筋膜によって区分されている. 根治的頸部郭清術に始まった系統的郭清は, 根治的頸部郭清術変法から選択的頸部郭清術へと, 低侵襲化と個別化が進んでいる. 今日では, 症例毎に郭清範囲や切除法 (radicality) の選択と調整が求められている. その際, より戦略性の高い頸部郭清を計画し遂行するためには, 局所指向性の高いリンパ流およびリンパ組織領域の把握が必要である. 本稿では, 頸部のリンパ組織を立体的かつ動的に把握する助けとなる解剖学的事項を整理する.
著者
西村 幸司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.10, pp.1431-1436, 2022-10-20 (Released:2022-11-05)
参考文献数
49
被引用文献数
1

隠れ難聴 (hidden hearing loss) は, 聴覚閾値の上昇を伴わない騒音下での聞き取り障害や無難聴性耳鳴を特徴とする. 主な病態は蝸牛内有毛細胞と蝸牛神経のシナプス障害 (cochlear synaptopathy) であるが, 蝸牛神経の脱髄や軽度の蝸牛有毛細胞障害を含む複数の病態が関与する. 本総説では第一に, 隠れ難聴の疾患概念を支持する, ラセン神経節の一次性障害や蝸牛神経部分切断の聴覚閾値に及ぼす影響を検証した基礎研究を紹介する. 第二に, 加齢, 音響暴露動物の蝸牛組織解析による cochlear synaptopathy と ABRⅠ 波振幅に代表される聴覚電気生理パラメーターの相関について述べる. 第三に蝸牛神経の電気生理学的サブタイプと分子細胞生物学的知見の関連について述べる. 第四にヒトにおける隠れ難聴の診断開発に向けた臨床研究を紹介する. 第五に cochlear synaptopathy および neuropathy の治療を目指した基礎研究について紹介する.
著者
黒野 祐一 山下 勝
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.8, pp.1298-1301, 2022-08-20 (Released:2022-09-01)
参考文献数
7

塩素消毒された水道水に殺菌作用があることはすでに知られているが, 水道水による含嗽の殺菌作用は明らかにされていない. そこで, 水道水および各種処理後の水道水の殺菌作用を観察し, それぞれの残留塩素濃度と比較した. さらに水道水含嗽後の頬粘膜上皮細胞への付着細菌数を測定した. その結果, 煮沸によって残留塩素を除去すると水道水の殺菌作用は消失し, 含嗽後あるいは唾液を添加した水道水からも残留塩素は検出されず, 水道水含嗽後の頬粘膜上皮細胞への付着細菌数も精製水と同数であった. 従って, 残留塩素を含む水道水には殺菌作用があるが, 唾液によって残留塩素の効果が失活するため, 水道水含嗽に殺菌作用はないと考えられる.