著者
赤川 元章
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.221-246, 2005-12

本稿は,19世紀末以降,清朝時代に展開した欧米列強,とくにドイツの銀行業による中国への鉄道投資の分析を主要対象としている。まず,ドイツの中国鉄道投資に関して,初期段階の模索過程を検討した後,鉄道建設を推進するに当たって,イギリス銀行グループとの協調が不可欠であった状況を説明する。そのうえで,ドイツの係わった主要な中国鉄道の設立過程を中心に分析していく。第1は,ドイツのみが独自に認可された山東鉄道会社である。ここでは,株式の追徴払い込みや「享受権証券」などの資本調達の特殊性に言及しつつ,経営状態などにも触れる。第2は,イギリスと共同投資を行った「天津―浦口」鉄道である。ドイツの鉄道事業に関する意思決定機関の構成を明らかにした後,鉄道路線計画,借款分担,返済計画などを検討していく。第3は,国際銀行シンジケートが関与した湖広鉄道問題である。ドイツ・イギリス・フランス・アメリカなど各国の銀行が鉄道建設の利権をめぐって抗争するが,この錯綜する交渉プロセスについて,主にドイツ・アジア銀行監査役会の議事録から追求していく。故玉置紀夫教授追悼号
著者
石井 加代子 樋口 美雄
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.37-55, 2015-08

本稿では, 近年の非正規雇用の増加が個人間の所得格差と世帯間の所得格差にもたらす影響について, 慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターの実施している「日本家計パネル調査(JHPS)」を用いて分析を行う。その結果, 非正規労働者の給与所得は所得分布の下層に集中しており, 非正規労働の増加は労働者間の給与所得の格差拡大に大きく影響していることがわかった。その要因について分析したところ, 単に非正規労働者の労働時間が短いことが原因であるのみならず, むしろ時間当たり賃金率に大きな格差があり, それが所得格差拡大に寄与していること, さらに時間当たり賃金率が低い者ほど労働時間が短い傾向にあることが, 給与所得における格差拡大を助長していることがわかった。一方で, 世帯所得にかんしては, 非正規労働の増加は必ずしも格差拡大をもたらす要因とはなっておらず, 非正規労働者が正規労働者と生計を共にし, 家計の補助的な役割を担う場合は, むしろ世帯間の所得格差を縮小させる方向に働くことがわかった。しかしながら, 非正規労働者が家計の主たる稼得者である場合には低所得に陥る確率が高く, ワーキングプアと非正規労働の関係の強さを改めて確認した。これらをOECDの加盟各国における分析結果と比較すると, 日本では正規労働者と非正規労働者の間で賃金の格差が大きいこと, しかしながら, 非正規労働者が世帯の主たる稼ぎ手となっているケースは, 従来, 少なく, むしろ家計補助的な役割を担っていることが多いため, 非正規労働者の給与所得が低いにもかかわらず, 世帯単位で見ると所得格差を縮小させていることが明らかとなった。もちろん, このことは非正規労働者の賃金の低さを是認するものではなく, これが高ければ, 個人のみならず, 世帯単位でも格差の縮小をもたらすことになる。論文
著者
伊藤 眞
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.31-55, 2016-12

「コーヒーなどを飲ませる飲食店で, 新聞や雑誌がそこで読め, 時の話題について談笑し, 情報交換のできる場所として親しまれているカフェ」を対象としさまざまな観点から事実確認をしたうえで考察する。パリは, カウンター, 室内のテーブル, 外のテラスにより値段が異なるが, ブリュセルはすべて一律, パリのカフェの朝は早く, 閉店時間は深夜2時までであるが, ブリュセルでは閉めたい時間に閉める。パリでは水はコップ, キャラフでのサービスが無料であるが, ブリュセルではミネラルウォーターを注文しなくてはならない。値段はパリの方が高いが, 銀座はもっと高い。店数, 従業員数で, 日本のカフェ・チェーンの1位はスターバックスであり, ドトール, タリーズが続く。2015年から2016年の店数の増減を見ると, スターバックス, タリーズ, ベックスコーヒー, 星野珈琲店, コメダは成長拡大しているが, ドトール, 喫茶室ルノワールは現状維持, UCCグループの珈琲館他と, ドトールのエクセルシオール他は少し減少している。スターバックスの"The Only One", 「ドトール, のち, はれやか」は, セールス・ポイントもしくはブランドスローガンとして秀逸である。これらカフェ・チェーンの食べログ点数(市場の消費者の評価の一端として)は3.00が多く, よくて3.10までである。カフェ・チェーンの競争相手であるDean & Delucaのカフェ, PAULのカフェ, サードウェーブ・コーヒーのカフェ, サロン・ド・ショコラ, 和菓子カフェは, そのお菓子, 食べ物の豊富さ, サービス, 質の高さから食べログの点数は3.50以上であり, カフェ・チェーンより高い評価であるが, 数としては圧倒的に少ない。スターバックスは, 競争相手に対抗し事業拡大を目指し, さまざまな展開を実行もしくは計画している。"A cafe is a type of restaurant which usually serves coffee and snacks, where you can read newspapers and magazines, or chat with other customers about current topics. It is known as a place where information can be exchanged." Consider such café from various viewpoints, after reviewing facts.In Paris, coffee is priced differently depending on the counter, indoor table and outside terrace, but in Bruxelles the price is same. Cafes in Paris open early in the morning and close by 2 o'clock after midnight, but in Bruxelles open later in the morning and close at the time the owner want to close. In Paris water in a glass or a carafe is free, but in Bruxelles you have to order mineral water. The price is higher in Paris, but in Ginza even higher.At the viewpoints of number of shops and staffs, the first place coffee chain in Japan is Starbucks, Doutor and Tully's continue. Looking at the increase and decrease in the number of shops from 2015 to 2016, Starbucks, Tully's, Becks Coffee, Hoshino Coffee shop, and Komeda Coffee are growing and expanding, but Doutor, the Cafe Room Renoir maintains the current number, the UCC group's KOHIKAN (Coffee House) and others, and Doutor group's Excelsior and others are slightly decreasing.Starbucks's "The Only One" and "Doutor, later, Cheerful" are excellent as a selling point or a brand slogan.Tabelog score of these coffee chains' cafe (as a part of consumers' evaluation in the market) is 3.00 mostly, which is up to 3.10. As cafe's competitors, Dean & Deluca's cafe, PAUL's cafe, third wave coffee cafe, Salon de Chocolat, Japanese confectionary cafe, provide high quality of rich sweets and food, service. The Tabelog score is 3.50 or more, which is higher than the coffee chain's cafe, but they are far less as the number.Starbucks Japan aims to expand its business against competitors, and implements or plans various developments.論文挿図表
著者
高橋 郁夫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.85-99, 1998-04

本稿は買物行動における消費者満足を取り上げ,満足形成プロセスとそのフィードバック・プロセスとを統合する買物満足プロセス・モデルの提示とそのテストを試みる。そのためには,まず消費者満足に関する既存研究を概観し,主に製品に対する消費者満足の基本的分析枠組を整理することによって今回の実証分析の研究上の位置づけを明らかにする。次に,百貨店での買物満足プロセスの構造に関し,2つのモデルを提示した上で,その適合度を共分散構造分析によって比較する。その結果,店内購買行動と購買後の製品利用行動とは異時点で行われるものの,
著者
中島 隆信
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.p1-36, 1991-12
著者
工藤 教和
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.1-25, 2013-08

長い歴史をもつ英国コーンウォール地方の主要産業, 錫鉱山業は, 1921年に事実上操業停止の状態に陥った。第1次大戦末期よりこの産業の窮状の原因と対策をめぐって鉱山業当事者, 地方政府当局者, 中央政府の間には様々な議論がなされた。この議論の過程を追うことによって, それぞれの関係者間の対応の相違について考える。第1部(本稿)では, 世界錫産業におけるコーンウォール錫鉱山業の客観的位置を確認した上で, 「非鉄鉱山業に関する商務省委員会」(1919‒1920年)に至る経過と委員会報告書の内容について検討する。第2部(次稿)では, 委員会での証言, 議会討論, 地方新聞などに表された言説を通してそれぞれの立場にあった人々の考え方を明らかにする。衰退産業にどのように向き合うべきかを考える材料を提供する。In 1921 the Cornish tin mining virtually ceased its operation for the first time in its long and prosperous history.A debate about the causes of the suspension and the devices for remedy was invited among the people in the industry, the local authorities, and the Government.Tracing their discussions, the causes and reasons for the difference in their opinions will be examined.In Part 1 (this paper) after confirming the situation of the Cornish industry in the history of the world tin mining, the process led toward the enquiry made by the Departmental Committee (1919-1920) is investigated.In Part 2 (the next paper) the backgrounds of the people with different opinions will be considered mainly based on the minutes of evidence given to the Committee, Parliamentary debates, and articles of local newspapers.論文
著者
工藤 教和
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.35-50, 2007-01

科学技術教育の制度的整備の遅れとイギリス産業の「衰退」を結びつける議論が多い。このような議論を吟味するには,具体的な技術教育組織の成立とそこで育まれた人々の実際の活躍の場を検討してみることが不可欠である。19世紀から20世紀にかけての金属鉱業技術教育と鉱山技術者について大量の観察を行なったディクソン論文の紹介を兼ねてこれを行なう。本稿では,まず前提となる19世紀後半に姿を現す金属鉱業技術教育組織の成立過程を概観する。次稿においては,ディクソンの成果を紹介しながら,それぞれの技術教育組織から育った技術者の特徴を考察する予定である。赤川元章教授退任記念号
著者
池田 幸弘
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.1-21, 2005-12

故玉置紀夫教授追悼号本稿は,若き日の小泉信三(1888-1966)のイギリス滞在,ドイツ滞在時の経験についてできるだけ実証的な論述を与えようとしたものである。初回の小泉の留学は,1912年秋から1916年春にまで及んでおり,文字どおり,悩み多き疾風怒濤の青春時代でもあった。執筆にさいしては,小泉全集のほか,2001年に慶應義塾大学出版会から公刊された『青年小泉信三の日記』を利用した。これは戦時中に焼失した日記のなかで奇跡的に残った資料で,今般小泉家の方々のご好意によってその出版が可能になったものである。いままでも小泉の外遊については彼自身の回想を中心にかなりの情報が入手可能であるが,この日記の公刊がなおも意味を持つのは,原則として日単位で小泉の行動がフォロウできること,そして小泉の集書のプロセスや聴講した講義についてさらに詳細に知ることができることによる。拙稿は,イギリスに足をふみいれてから第一次大戦勃発時までの小泉の行動をこの日記によって追跡したものである。とくに,LSE やベルリン大学で聴講した講義,集書の過程,ジェボンズの子息との面会,そして開戦直前,直後のドイツでの体験に焦点があてられている。なお,本稿の原型たる英文論文はマッコリー大学において,2005年7月5日から8日にかけて開催された第十八回オーストラリア経済思想史学会で報告された。
著者
安藤 光代
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.67-84, 2007-12

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty50周年記念論文近年急増する自由貿易協定(FTA)の経済効果については,日本のFTA を含め,従来からCGE モデルシミュレーション分析等による事前評価が数多くなされてきた。しかし,ここ数年のFTA 締結に向けた日本の積極的な動きを鑑みれば,既存のFTA の経済効果を事後的に把握し,将来のFTA 締結への政策的含意を得ることが重要である。本論文では,日本の経済連携協定(EPA)の経済効果について,初期段階の効果ではあるものの,実質的な関税削減効果の詳細な分析やグラビティ・モデル推計などを通じて事後的に評価し,今後のFTA/EPA の設計における政策的含意を議論した。 日星EPA については,遅ればせながらFTA の波に乗る第一歩を踏み出したという意味で一定の存在意義があっただろうが,実質的な関税削減は少なく,直接的な貿易自由化の効果はかなり限定的である。一方,日本にとって初めて農業分野での実質的な貿易自由化を伴った日墨EPAについては,輸出や投資の面で一定の効果が認められるが,現時点で直接的な貿易自由化の効果が顕著なのは完成車の輸出においてである。また,EPA によって設置されたビジネス環境整備委員会での二国間協議を通じたメキシコのビジネス環境の改善やメキシコの政府調達における日本企業の参加など,貿易自由化以外の面でも一定の効果が認められる。 今後の日本のFTA の設計において,特にMFN 関税の高い国との協定では,EPA 関税とMFN関税の逆転など段階的な関税削減の弊害を考慮すべきである。また,MFN 関税と同様,農業分野の一部の品目を中心に複雑な関税体系が採用される傾向にあるが,よりシンプルでかつ自由化水準の高いEPA が望ましい。そして,とりわけ日本企業の進出が盛んな国との協定では,日墨EPA でのビジネス環境整備委員会のようなチャンネルを活用し,貿易自由化以外の側面も柔軟に盛り込んでいくべきである。
著者
李 建雨
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.p45-53, 1994-08

1970年代初めから本格化した韓国の重化学工業化政策は,様々な副作用にも拘らず,韓国産業の構造高度化と輸出基盤の確立に大きく寄与した。しかし,一方ではこうした重化学工業化政策が,その推進に必要な資本設備と中間財の輸入を通じて韓国経済の対外依存的,特に対日依存的体質をさらに悪化させたという批判も出てきている。小論では,こうした疑問を背景に,韓国の重化学工業化政策が韓国産業の対日輸入連関構造にどのような影響を与えてきたのかを日韓国際産業連関表を利用して究明しようとする。
著者
高橋 美樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.46-59, 1992-10-25

本稿は,「異業種交流」,「戦略的提携」など新しい形態の企業間関係の進展を念頭におきながら,これまでの中小企業研究を整理・検討し,現段階で中小企業の企業間関係を分析する上で必要とされる視点・課題を示すものである。なお,本稿では,中小企業研究のうちでも特に「中小工業研究」を取り上げる。結局,現段階で中小企業の企業間関係を分析する上で必要とされる視点は3つに要約できる。第1に,われわれは中小企業成長の事実・可能性を正当に認めなければならないと考える。この場合,中小企業を一義的に「独占資本による収奪の対象」として把握するのは適当でない。第2に必要とされる視点は,中小企業とほかの企業が結ぶ企業間関係に,「支配・従属」関係をア・プリオリに仮定しないという視点である。第3に,以上のような2つの視点に立つならば,中小企業の企業間関係,あるいはそこでの「問題」を分析する上で,「中小」という「企業規模」がどの程度まで意味をもつかを検討する必要がある。現段階の企業間関係を特徴づけるのは,(1)専門技術をもった企業が,環境への適応を目的に,(2)自発的に参加して,自立的・継続的な企業間関係を構築し,(3)その関係が,環境適応の成功を通して,効率性・経済性を発揮するという点にある。われわれは,このような企業間関係を「ネットワーク型産業組織・企業間関係」とよびたい。そして,このような前向きの中小企業観を前提としながら,「問題」を発見し,解明することが重要だと考える。
著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.55-81, 1994-08-25

今回のサーベイでは,戦後はじめての長期不況に対して各企業が,それぞれどのような固有な問題を持ち,その対処策として,それぞれどのような強み,特に主力製品の強みに集中して,問題を解決しようとしているかを調査するものである。この不況への対処策として各社の社長が共通に考えていることは,人事評価の革新による,組織の活性化であることがわかった。過去の経験から一番手の商品以外は生き残れないことを知り,今は一番手になる新製品の開発にだけ力を入れる。企画マンと営業マンとが議論して目標数値をきめ,営業マンはもちろん,企画マンもその達成値によって人事考課される(メルシャン)。今まで自動車メーカーの特注測定器だけをつくってきた。これからは標準品をつくっていく。リサーチ用機器には技術優位性があるから,円高でも輸出市場で,まだ値上げの余地がある(小野測器)。オリジナリティ,クリエイティヴィティを重視する企画提案型製造小売業になる。企画担当マネジャー,デザイナーの育成を重視する。人事評価では,価値ある失敗を価値なき成功より高く評価する(キャビン)。製品ドメインを国際化にさらされる部分と,さらされない部分にわける。前者では今までの仕組みを保護規制から自由化への関連で深く考える。後者では収益強化の新しい仕組みを考える。人事評価は上に行くに従って能力主義から実績主義に変える。ネアカの人間を高く評価する(明治乳業)。問題点を内と外の2つにわける。前者は大企業病であり,後者は報復関税など国際的政治経済問題である。前者には長期的な組織制度の開発が必要であり,後者には短期的な対症療法しかない。人事評価の中心は能力開発であり,具体的には,前後工程を学ぶ交叉訓練と,上司をとりかえることによる教育とがある(セイコーエプソン)。時計,メガネはその心臓部は大企業にしかできないが,付加価値を高めるフレームなどの部分は零細企業がつくるという,非常に特殊な製品である。この心臓部とフレームをコントロールするのは卸売業である,と自社の強みを浮きぼりにする。バブル崩壊は3年で安定すると予測する。海外派遣人間はネアカを第1条件にする(服部セイコー)。問題点はいくつかあるが,増収増益をつづけているため,長期的な中間管理者の人事評価が問題の中心になる。製品ごとのブランドマネジャー制をひいているため,その人事評価基準は「経営者としての資質」の改善である。社長が全中間管理者170人1人ひとりに面接し,減俸までも相手に納得させる(日清食品)。問題点は,値頃感と品質のよい商品を調達・開発することと,時間欠乏症の顧客に対して,対面販売ではない,セルフサービス方式の導入など,従来の百貨店構造を変えることである。人事評価は,上司,部下,同僚の3者が行う。またプロジェクトに対しては,企画と執行とを同一者に担当させて実績評価する。企画者と執行者を別々に評価しない(三越)。
著者
高橋 正子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.159-182, 2001-12-25

環境経営に対する経営者の意識調査を分析した。環境対策が進んでいるという意識の根拠はIS014001認証取得にある。環境報告書,環境会計は次の段階ととらえられている。環境会計は管理ツールとしての面を重視している企業もある。意識調査結果全体の因子分析により,「環境負荷削減対策に対するポジティブ評価」,「環境投資への積極性」,「環境負荷削減対策に対するネガティブ評価」,「外部報告開示」の4指標が抽出された。4指標を用いた環境経営パターンによって企業評価ができる。上場市場によってパターンは異なり,活動の場が限定的な企業は環境経営に消極的であることが推測される。また,環境負荷の大きいであろう企業年齢の高い企業ほど,環境投資に積極的な傾向がある。経営環境との重回帰分析により(1)広く海外から仕入れて国内で販売している,資金回転期間は長めであるが収益力は大きい企業が,環境負荷削減対策にポジティブな評価をする傾向にある。(2)広くグローバルに活動し,利益は高水準で推移しており,設備投資が大きいが比較的計画どおり順調である非オーナー企業が環境投資に積極的な傾向がある。(3)限定的な市場であるのにコスト面では変動が大きく,付加価値率も低く利益が低迷しているような企業が,環境負荷削減対策に対してネガティブな評価を持つ傾向にある。(4)萌芽的で集中度が高い市場で多角化して積極展開している企業が環境負荷削減対策の外部報告に積極的である,が明らかとなった。このうち環境投資の積極性を左右する要因となった耐用年数は,実態と乖離した税法が環境投資意欲を損ねる一因になっていることをうかがわせる結果となった。概略をまとめるなら,多様な意味で企業の活動の場の広さが環境負荷削減への意識と大きくかかわっていると言うことができる。
著者
山本 勲
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.1-14, 2007-12

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty50周年記念論文本稿では,『慶應義塾家計パネル調査』(2004~07年調査)のパネル・データを用いて,デフレを脱却しつつある2004~06年の日本経済において,労働者個々人の賃金がどの程度伸縮的であったかを検証するとともに,Dickens et al. (2007)の分析結果を用いて名目賃金の下方硬直性の度合いを国際比較する。分析の結果,日本の労働者個々人の名目賃金のうち,パートタイム労働者の時給やフルタイム労働者の所定内月給については,下方硬直性の度合いが国際的にみて大きい一方で,フルタイム労働者の年間給与は,国際的にみて下方硬直性の度合いが小さいとの結果が得られた。つまり,日本の近年のフルタイム労働者の名目賃金は,所定内給与は下方硬直的であるものの,残業手当や賞与による調整幅が大きいために,それらを合わせた年間給与でみれば,国際的にみて大きな伸縮性をもっていると評価できる。もっとも,2004~06年の景気回復期でもフルタイム労働者の所定内月給が下方硬直的であったことには留意すべきであり,日本の名目賃金は,所定内月給の調整を必要とするほどの大規模なショックに対しては必ずしも伸縮的には変動しない可能性があるとの解釈もできる。一方,フルタイム労働者のどのような属性で賃金の据え置きや賃金カットが顕著に生じているかを検証したところ,下方硬直性が確認された所定内月給が据え置かれる確率については,属性による大きな違いはみられず,ある特定の属性に偏って下方硬直性が生じていることはなかった。また,賃金カットについては,所定内月給,年間給与ともに,賃金水準の高い労働者ほど賃金カットを受けやすく,その度合いも大きいことがわかった。このことは,賃金格差が縮小傾向にあることを示唆する。
著者
黒川 行治
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.27-44, 2016-10

本論文の目的は, 会計の利害調整の機能・役割に関連する経営者の報酬と従業員の給料の格差の問題, 労働対価の分配の正義を公共哲学の観点から考察することである。企業の統治形態, 取締役会の位置づけについて, 古典的・伝統的モデル(所有主指向モデル), 修正モデル(企業体指向モデル), 社会企業モデル(多様な構成員指向モデル)の3つのモデルを検討し, コーポレートガバナンス・コードは, 修正モデルを前提としているが, 社会企業モデルに依拠しないと経営者の高額報酬の問題は解決しないことを示す。次に, 公共哲学の諸理論を援用すると, 経営者の高額報酬・大きな格差を肯定する論理とそれを否定する論理がそれぞれ複数存在するが, 筆者の私見では, ロールズの格差原理およびジョンストンの新しいバランスのとれた相互性の理論に依拠し, 大きな格差の存在には否定的である。最後に, 会計の利害調整機能・役割と労働対価の分配の正義との関連性について言及し結論とする。論文
著者
伊藤 規子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.209-229, 2000-08-25

英国の空港産業は,英国空港公団の民営化(BAAに企業名変更)と地方自治体空港の会社化を中心とする規制改革を1987年に経験した。BAAのロンドン3空港および,公的セクターにとどまるマンチェスター空港は,「指定空港」となり,空港使用料の水準について,プライス・キャップ方式での新たな規制が課されている。この方式は,「平均収入方式」である。「タリフ・バスケット方式」との比較からこの方式を考察した文献がいくつかあり,「平均収入方式」が,料金体系に関しての効率性の歪みを生じさせる可能性が示唆されてきた。指定空港の空港使用料に関する平均収入方式は特殊で,収入には乗客料金以外に,着陸料や駐機料からのコントリビューションがあるにもかかわらず,収入を「平均」するための分母に乗客数しか適用されていない形になっている。本稿では,この「空港型平均収入方式」のモデル化を行い,料金とコストのマークアップ比の表現を使って,効率性に関する予見を行った。これに対して,BAAの料金比率に関しての実際のデータを使った検証では,予見を裏付けてはいないことがわかった。規制メカニズムとして考え出されたプライス・キャップ方式とは,元々,水準制約の下で短期的利潤最大化をめざすという企業行動が念頭に置かれていたわけであるが,むしろ,BAAの行動に関する限り,資本ベースの拡大などの戦略を通じての長期的な利潤の最大化といったものがより重視されている可能性があると考えられる。
著者
渡部 直樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.33-51, 1980-12-30