著者
白石 孝
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.53-62, 1973-08-30

これまで本誌2号にわたり,(1)米国産銅会社の地位とBig 3,(2)アナコンダの発展と経営戦略,(3)アナコンダ社のチリー事業活動(以上第16巻第1号),(4)ケネコット社の発展と経営戦略,(5)ケネコット社のチリーの事業活動(以上第16巻第2号)を述べてきたが,本号では引続いて,フェルプスダッジ社の発展と経営戦略を明らかにしておきたいと思う。(なお,本号の見出し,図表の番号は1号より引継がれているので承知されたい。)
著者
寺田 一薫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.171-186, 2000-08-25

交通市場において,弱い調整政策は規制緩和と両立するのであろうか。本稿は,そのようなケースでの弱い最小限の交通調整政策の実行案を提示しようとするものである。英国では,先進国で最初に,1985年交通法によって域内バスの規制緩和が行なわれた。しかし,現労働党政権は,白書(『ニューディール』)と協議文書(『サラブレッド』)から2000年交通法案までのプロセスにおいて,部分的な再規制を立法化しようとしている。この立法化の重要な部分に,地方政府とバス事業者の間での協力があり,それらは「品質協定」ないし「品質契約」と称するものの下で行なわれることになっている。本稿では,その品質協定/契約が英国の域内バス市場においてもつ意味,ならびにその下で政府が果たすべき役割について分析を行なう。比較的中央集権的な国家である英国においても,域内バスに関しては分権的な対応をとらざるをえなくなっており,自治体ごとの対応を通じて,比較制度的な検討ができる。以下,Iにおいて,当該規制緩和の概要と政策修正論議について概観したあと,IIで15年間にわたって行なわれてきた自治体の規制緩和への公式な対応を論じる。IIIにおいては,自治体の行動の前提となる市場の構造と行動について紹介する。IVにおいては,弱い交通調整の一例として,英国で自然発生した自治体とバス事業者間での品質協定について検討する。Vでは,これらの趨勢をふまえての現労働党政権の政策動向について紹介する。さらにVIにおいて,これらの政策論の総括を行なうことにする。
著者
井手 秀樹
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.41-56, 2012-12

論文①平成21年の「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法」(以下「特措法」という)は, その制定の経緯に照らし, 需給調整規制(台数規制)を予定したものであるか。結論「特措法は需給調整規制を予定したものではない。」 特措法は車両台数の増加に関する事業計画の認可基準について, 「輸送の安全を確保するもの」, 「適切な計画」, 「適格に遂行するに足る能力」という要件を定めたものである。増車認可では, これらの要件を満たしているかどうかで判断される。収支計画上の増車車両分の営業収入が, 営業区域における「新たに発生する輸送需要」であることを増車認可申請者が証明しなければならないということは, 輸送需要に対して適切な車両数を算出し, それにより増車を認否するという需給調整規制に他ならず, かかる規制は特措法の下で許されるものではない。②タクシー事業において需給調整規制をすることは規制の在り方として合理的か。需給調整規制により, タクシー業界の諸問題は解決するか。結論「タクシー事業において, 台数規制をすることは, 規制の在り方として合理的ではない。」特措法施行の背景には, タクシー車両の増加に伴い, タクシー運転者の待遇の悪化, 安全性・サービスの低下等の懸念が指摘されているが, 論点2, 3で述べるとおり, データを見る限りではその根拠は希薄である。参入・増車抑制により安全性の確保, タクシー運転者の待遇等の問題を解決するという考え方には疑問があると言わざるを得ない。
著者
李 維安
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.125-141, 1996-06-25

近年,コーポレート・ガバナンスに関する研究は,ますます国際的な課題になってきている。なかでも注目されるのは,一国のガバナンス機構についての研究を超えた比較研究である。ところが,それらの比較研究はいずれも,発達した市場経済制度を有する国について分析を行なったものであり,発展途上国や市場経済への移行を模索している国を視野に入れたものではない。コーポレート・ガバナンスに関する研究は,これらの国をも視野に入れて推し進められる必要がある。なぜなら,これらの国においては,既存の統治制度とは異なった,新たな統治制度の構築が緊要とされているからである。市場経済への移行を目指している中国では,先進市場経済国の企業統治制度を参考にしつつ,新しい企業統治制度をも導入しなければならないという課題がある。こうした課題は,中国等の個々の国の企業統治制度自体の研究にとってのみならず,市場経済先進国との比較企業統治制度の研究にとってもまた興味深い課題である。先進国における企業統治(コーポレート・ガバナンス)がいわば制度の調整の問題であるのに対して,中国のコーポレート・ガバナンスは制度の交替の問題であり,いわば計画経済の企業統治制度から市場経済の企業統治制度への「転形」の問題である。この転形は,計画経済の導入と異なり,政治的決断ではなく,旧計画経済の企業統治制度の「下部構造」の長年にわたる進化のプロセスに「上部構造」が漸く追い付いた結果であると考えられる。従って,こうした制度的進化の視点からみれば,市場経済への移行における企業統治制度の転形を解明するためには,まず計画経済の企業統治制度の進化プロセスを把握しておく必要がある。そこで,本稿では,これまでの研究成果を吸収した上で,比較企業統治制度論の視点から,中国における計画経済の企業統治制度を中心として分析を行ない,その「行政化」等の問題点を明らかにすると共に,今後の改革方向について若干の展望を試みていくこととしたい。
著者
岡本 大輔
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.111-133, 2009-04

資料筆者は2008年,The University of New South Wales = Keio University Exchange Program により,オーストラリア・ニューサウスウェールズ州シドニーに滞在する機会を得,その間,日系企業を数社訪問し,インタビュー調査を行なった。本稿はその現地トップへのインタビューを中心としたケースである。対象企業は,凸版印刷(豪州),豪州新日本石油,キヤノンオーストラリア,みずほコーポレート銀行(シドニー支店),ライオンネイサン,NTT オーストラリア,豪州商船三井,JTB オセアニアである。これらのトップ・インタビューは,故清水龍瑩名誉教授が行なった「社長および各界リーダーのインタビュー・サーベイ」(1987年~2001年『三田商学研究』に連載),筆者の行なった「アメリカ・ニューイングランド地域における日系企業のケース」(1997年)等の続編である。During 2008, the author stayed in Sydney, NSW, Australia, as a visiting professor at The University of New South Wales (UNSW), thanks to the UNSW= Keio Univ. Exchange Program. He visited several Japanese-affiliated companies in Sydney area and conducted interview surveys. In this material, some managerial matters, which Japanese-affiliated companies have when they try to transfer Japanese management system to a company in Australia, will be discussed. Companies dealt in those case studies are as follows: Toppan Printing Co. (Australia) Pty. Ltd., Nippon Oil (Australia) Pty. Limited., Canon Australia Pty Ltd, Mizuho Corporate Bank, Ltd. (Sydney Branch), Lion Nathan Limited, NTT Australia Pty. Ltd., Mitsui O.S.K. Lines (Australia) Pty Ltd., JTB Oceania Pty Ltd.
著者
友岡 賛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-12, 2001-04-25

イギリスの会計士は1880年までに4勅許団体を誕生させていた。この4団体が軈て向かう先は排他であった。排他の目的は社会的プレスティージの維持および市場の独占にあった。次には締め出された会計士たちが新団体の結成へと動く。ただしまた,新団体も軈て排他へと向かう。その結果は団体の濫立であった。各団体はよりステイタスの低い団体との差別化を図り,また,最もステイタスの高い団体以外の各団体はよりステイタスの高い団体との無差別化を図った。1920年代には第4階級の会計士団体が誕生をみるにいたった。しかしながら,間もなくやってきたのは団体統合の時代であった。
著者
齊藤 通貴
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.93-106, 2008-10

樫原正勝教授退官記念号論文本論では,特にグローバル・マーケティングの観点から,社会階層概念を導入したラグジュアリー・ブランド戦略を導出するためのラグジュアリー・ブランド購買モデルを提示し,戦略上の示唆を得ることを目的としている。社会的規範因子を用いたFishbein の行動意図モデルを援用しながら問題点を修整したモデルを考える。準拠集団や個人による主観的規範に加えて,より説明力が高いと思われる社会階層変数を導入し,ブランド選択における消費者知識についても考察される。
著者
今口 忠政 三輪 尚巨 加藤 実禄
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.65-83, 2011-06

研究ノート近年, 国内外のライバル企業同士が互いに独立性を保ちながら, 経営戦略の根幹に関わる部分で協力しあう「戦略提携」が増加している。戦略提携とは, 2つ以上の独立した企業が競争優位性を確立するために他社の経営資源を効果的に活用することを目的とした戦略である。双方の企業が保有する経営資源を相互補完させ, 新規市場開拓や新規技術開発などでシナジー効果を生み出すことができれば, 競争優位性を強化することができる。そのためには, 企業間の提携関係を効果的にする連携のマネジメントが重要な役割を担っている。そこで, わが国企業の戦略提携の現状と, 連携効果を引き出すためのマネジメントに焦点を当て, ハイテク産業である化学産業(医薬品を含む), 電気機器産業, 輸送用機器産業, 情報・通信産業, 精密機器産業に属する企業を対象にアンケート調査を実施した。本稿は戦略提携の理論的考察と, 92社から得られたデータの集計結果および数社のインタビュー調査をもとにして, わが国ハイテク企業の戦略提携について取りまとめたものである。
著者
田邉 勝巳 松浦 寿幸
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.77-97, 2006-08

本研究は,株式市場に上場している電機機械・輸送用機械産業の製造事業所データを用いて,1970年から1998年までの工場の立地選択の要因分析を行った。日本全国の事業所データと企業データを接続し,立地の空間的要素として主要な交通施設(空港,港湾,新幹線駅)までの移動時間,本社と各工場の移動時間を考慮している。工場の立地分析は既存研究でも数多く取り組まれてきたが,交通に関連する要因を考慮しつつ,全国の事業所データを用いた分析は少ない。地方自治体は,一般道路や空港,港湾といった交通インフラの整備に力を入れてきたが,その目的の1つに工場誘致による地域経済の発展がある。当研究は,こうした公共事業が企業誘致にどの程度の効果を持っていたのか,そして近年,どの様に変化したのかを明らかにする。有価証券報告書等により工場の設立年・所在地を特定化し,離散選択分析の一種であるコンディショナル・ロジットを用いて実証分析を行った。分析の結果,最寄りの空港,港湾,新幹線駅まで一定の時間内に到達できることが立地要因の1つであることが分かった。更に,本社までの移動時間が立地選択において最も重要な要因であり,高速道路の延伸は特に本社により近い地域の立地確率を高めることが明らかになった。
著者
飯島 高雄 池尾 和人
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.43-66, 2001-02-25

韓国の先進国へのキャッチアップ期にあたる1960-70年代に,韓国「財閥」は,経済合理性をもつものとして形成された。すなわち,先進国の経験が観察でき,国民経済の規模が小さく構造が単純な発展段階初期においては,政府が経済開発計画を策定し,政府要職と「財閥」オーナーの個人的関係によって,そのプロジェクトに対する信用供与の決定と監視が行われることには費用効率性が存在していた。こうした韓国「財閥」の財務構造上の特徴は,銀行借入(間接金融)中心の外部資金への著しく高い依存度にある。政府系金融機関や国有化された市中銀行からの政策金融による資金調達によって,「財閥」オーナーは,限られた出資にもかかわらず,支配権を維持することができ,株主と経営者の利害対立は存在しなかった。また,政府が主たる債権者となったことで,株主と債権者との利害対立の問題は解決された。しかし,1980-90年代には,経済発展の達成(先進国キャッチアップ完了)と外部環境変化によって,「財閥」という企業形態の経済合理性はかなりの程度失われた。同時に,政府による監視の有効性も低下してきており,支配株主と少数株主の間の利害対立や株主と債権者の間の利害対立が顕在化,深刻化するようになった。けれども,ピラミッド所有構造に加えた株式持ち合いによって,「財閥」オーナーの経営支配権は維持され続けている。特定の組織形態が存在意義を失い,社会的には転換あるいは消滅することが望ましくなったとしても,そうした組織再編成を従来の組織形態の担い手自らが行うことは,当事者の誘因を考えると実現困難であることが多い。韓国においても,「財閥」オーナー・政府の個別合理性の観点からは,改革の当事者である主体に改革の誘因は乏しく,それゆえ非効率化したシステムが継続される可能性は高いとみられる。
著者
清水 猛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.80-94, 1972-08-30

今日における企業環境のダイナミックな変化は企業のマーケティング意思決定と行動に多大の影響を与えずにはおかない。企業が全体社会システムのコンポネントであるかぎり,企業行動の成否はこの環境変化への適応いかんに大きく依存しているといえる。その意味において本稿の目的は,まず環境と行動の関連についてのこれまでの研究成果を一般的なレベルで検討し,次に特殊なレベルとして今日論議の対象となっている広告課税論をとりあげ,法規制環境の変化としての広告課税に対する企業のマーケティング適応行動のプロセスを解明することにある。
著者
清家 篤 山田 篤裕
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.115-144, 1998-10-25

高齢者の引退決定過程に与える,年金,退職管理制度,就業経験,個人属性などの影響にかんする計量分析を行った。分析方法は,就業状態への生存率を被説明変数とするハザード分析である。データは,個人やその個人のかつて勤めていた企業の属性などについての情報などに加えて,個人の引退プロセスや職業経験などにかんする回顧的情報を含むマイクロデータ(財団法人高年齢者雇用開発協会『定年到達者の仕事と生活に関するアンケート調査(1992年)』)を使った。ハザード分析では,カプラン・マイヤー法によるノンパラメトリック分析と,加速モデルによるパラメトリック分析の両方を行った。主な発見事実は次のとおりである。(1)年金の受給可能性は,公的年金,企業年金,私的年金のいずれも引退時期を早める効果を持っている。しかし,その効果の大きさは各々相違している。(2)管理職・専門職等の経験は引退時期を遅らせる効果を持っている。ただしこれは学歴などをコントロールすると必ずしも有意には計測されない。定年前の退職は引退時期を早める効果を持っている。その他の退職管理をめぐる雇用慣行については必ずしも有意な効果は確認できない。(3)現在の良好な健康状態および高度な教育が,引退時期を有意に遅らせる効果をもつ一方で,就業形態のフレキシビリティーのなさは引退時期を有意に早める効果をもっている。(4)いったん会社を退職した後の休養期間は,引退の時期を遅らせる効果を持っている。これは休養による人的資本・健康資本に対する再投資効果や雇用保険受給のための自発的休養効果ではないかと推測されるが,確認には更なる分析を必要とする。
著者
梅津 光弘
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.53-63, 2014-02

今口忠政教授退任記念号#論文功利主義は18世紀にイギリスで生まれた倫理思想であり, 「最大多数の最大幸福」をその規範原理としてきた。本論文ではこの規範倫理学説を現代の視点から再解釈する。まず, 古典的な功利主義の要約とその問題点を跡づけた後, この原則には空間─時間の理論枠の導入が欠けていることを指摘し, さらに現代的な観点から功利計算問題へのビッグデータ技術からの貢献の可能性が論じられる。さらに最大幸福の概念についても, 昨今の幸福研究の成果をふまえた指標化の試みを紹介しながら, 総合的な再定義の可能性と課題が論じられる。
著者
白石 孝
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.35-53, 2000-12

本稿は前稿の浜町1丁目に続き,その町の2・3丁目について,街並みを形成する商業史的特徴を記したものである。江戸時代にこの地がいかなる武家屋敷地であったかを,いくつかの地区に分けて詳述して,その特徴を指摘すると共に,2丁目と3丁目の違いから,明治の新政府のもとでの町の変容に及ぶ。明治初期のこれらの町の土地所有者をみるが,商業化を含め,停滞的な町の姿を探る。これが変化してゆくのは遅く,明治20年後半以降とみるが,明治に入っての最初の商業化の動きであった魚市場開設のいきさつから,更にこの広い敷地利用の陶器商の進
著者
清水 龍瑩 岡本 大輔 海保 英孝 古川 靖洋 佐藤 和 出村 豊 伊藤 善夫 馬塲 杉夫 清水 馨 山崎 秀雄 山田 敏之 兼坂 晃始
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.69-89, 1994-10-25
被引用文献数
1

企業の活性化,個性化は優れた企業の条件である。企業の活性化とは,企業の全経営過程に好循環が起き,企業内のすべての構成員が新しいことへの挑戦意欲をもやし,創造性を発揮している状態をいう。企業の個性化とは,他社にまねられない強みをたえず強化,拡大していくことである。このうち,企業の活性化については,過去30年間,日本企業について行った実証研究による仮説の構築と検証の繰り返しから,ある程度理論が出来上がってきた。しかしながら,個性化については未だ十分な実証研究が行われていない。そこで今回,「企業の個性化」に焦点を絞って,アンケート調査を行ってみた。我々はまず,個性化指標を作成した。議論の中で,考えうる様々な個性化現象のうち,プラスの太い効果に注目しなければ,意味が消失してしまうことが明らかになった。このような観点で,他社にまねられない幾つかの強みを合成し,指標を作成した。更に,他社にまねられない強みの強化・拡大と業績との関連を考えた。そして"個性化している企業は業績をあげている"という体系仮説を基盤として,個性化を推進する変数(トップマネジメント,人事管理方針,製品開発,主力製品,経営管理方針,財務管理方針)と個性化,業績についての多くの単称仮説を構築し,QAQF(Quantitative Analysis for Qualitative Factors)を用いて分析を試みた。調査の結果,様々な体系仮説の構築が可能になった。たとえば,"大企業では経営者の個性化が企業業績の向上に貢献し,中堅企業では製品の個性化が企業業績の向上に貢献する","現在の日本企業では,技術,市場について個性的な戦略をたて,経営管理を行っている企業は高い業績をあげている"などである。もちろんこれら体系仮説が理論にまでなるには,今後相当期間調査が繰り返され,仮説の構築,検証が必要となるであろう。
著者
桜本 光 吉岡 完治 和気 洋子
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.137-148, 2010-06

資料中国遼寧省瀋陽市康平県で実施中の植林事業は,2009年12月4日付けで京都議定書に基づくクリーン開発メカニズム(CDM)プロジェクトとして,日本政府より承認を受けた。本稿では,かねてより砂漠化防止対策として実施中の植林プロジェクトの経緯・概要・CDM 事業化へ向けての手続き・今後の展望について紹介を行う。本プロジェクトは,日本政府が承認した,大学が実施する初めての植林CDM プロジェクトであることから,植林CDM フレームの学際的普及に努め,地球に負荷を与えない研究・教育の推進として役割を果たしていく予定である。Japanese Government approved the project Small-scale Afforestation for Desertification Combating at Kangping County, Liaoning Province China which Keio University has been promoting under the Kyoto Protocol on 4th Dec in 2009.In this thesis, we intend to introduce the outline of this project, procedure to CDM approval by Executive Board, and views in the future of this Afforestation project in China.This is the first Afforestation project among Japanese university which has been admitted by Japanese Government.So this project is expected to value on the importance role of Afforestation CDM project to academic world, and will lead to the enviromental research and educational promotion which will affect favorable effects on the earth.
著者
山田 敏之
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.323-341, 2007-08

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty十川廣國教授退任記念号 = In honour of Professor Hirokuni Sogawa50周年記念論文・退任記念論文本稿は,企業倫理再生の本質をとらえ,従来の企業倫理の制度化や仕組みづくりの限界を示すとともに,企業倫理再生に向けた新たな視点として組織学習の有効性を明らかにすることを目的とするものである。これにより,企業倫理の再生という現象をより厳密に説明するための理論構築の基礎を提示することができるものと期待される。企業の倫理問題は,ステークホルダーからの要請の変化あるいは新たなステークホルダーの出現という形で表面化する社会理念の変化,企業責任に対する社会的合意の水準が企業の理念や価値観と乖離することで生じる。このような乖離を埋め合わせていく作業が企業倫理の再生であり,それには計画的なものと自発的なものとが存在している。再生の有効性の視点からみると,事前に乖離の兆候を発見し,有効な変革行動に移行できる自発的な再生活動の生起ということが重要になる。企業倫理の制度化のアプローチには,①合理性やコントロールへの偏重,②個人の行動や思考の標準化,規格化の促進,③法令や規則遵守の強調,④個人の倫理性の向上を究極の目的としている点,⑤仕組みづくりの目的化といった問題があるため,自発的な再生を生起させるには限界がある。これを回避するには,組織内で自発的な問題発見,原因探索,変革行動が生起されるような倫理自律性を身につけ,個々人の相互作用により支配的な価値観の修正を行い,同時に構造や仕組みの創造プロセスまで遡って批判・検討する組織学習の視点を導入することが重要になる。