著者
前田 淳
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.39-64, 2002-08
著者
鈴木 諒一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.5, pp.105-110, 1958-12-31
著者
伊藤 眞
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.15-39, 2017-02

店舗数でカフェ・チェーントップのスターバックスの設立から2015年の資本構成変更とその理由および2014年3月期までの損益を概観したうえで, 同じシアトル出自のタリーズコーヒーおよび日本出自で店舗数が一番多いドトールコーヒーグループとの損益比較(2014年3月期の決算数値)ならびに1店当たり損益の比較を行う。競争が激しい環境のカフェ業界において, 3社とも売上および営業利益は増加している。その中でもスターバックスは絶対額ではもちろん増加率でもトップで, 2015年3月期(推定値)の売上高は前期比1.094倍, 営業利益は同1.224倍となっており, タリーズおよびドトールを凌駕している。カフェ・チェーンの競争相手として登場した100円のセブンカフェは5度目の挑戦であり取引関係者も含めた開発チームを組織し, すべてにわたりベストを目指した。2013年1月から2016年2月までに累計20億杯を達成し大成功した。それにもかかわらず, セブンカフェはカフェ・チェーンおよび缶・ペットボトルの売上にほとんど影響を与えず, 新規顧客層を創造した。主要なカフェ・チェーンの深煎りの濃いコーヒーを否定, 農場まで行って良質なコーヒー豆を探し出し, その豆にあった焙煎と一杯一杯抽出を行うサードウェーブ, そしてコーヒーに魅入られ, 東京, オスロおよびパリで各々探求され花開いたコーヒー豆の魅力を最大限引き出す個性的なカフェを概観する。また, カフェ・チェーンに対するアンチ・テーゼとして生まれた宇田川カフェグループを概観する。さらに, コンセプトカフェとして, メイドカフェを筆頭とするさまざまなカフェを概観する。起業家であるカフェ・オーナーは根源的無知に基づく新たなカフェという仮説を市場に提示し, 市場の消費者による検証を受けている。果たして如何なるカフェが生き残るのか。Overviewing history from the establishment of Starbucks Japan as the top of cafe chain in the number of shops, and the change in capital structure in 2015 and the reason, then the profit and loss for 5 fiscal years ended March 2014. We compare the profit and loss, and profit and loss per shop, for fiscal years ended March 2014 of Starbucks, with Tully's coffee in Seattle origin and Doutor Coffee Group in Japan origin. In the competitive environment cafe industry, both sales and operating profit increased in all three companies. Among them, Starbucks is top in the amount as well as the rate of increase, the sales (estimate) for the fiscal year ending March 2015 is 1.094 times of the previous fiscal year and the operating profit is 1.224 times, surpassing Tully's and Doutor.The 100 yen Seven Cafe, which appeared as a competitor of the cafe chain, was the 5th challenge and the development team including related business staffs was organized and aimed at the best all over. From January 2013 until February 2016 cumulative 2 billion cups were achieved and it was a great success. Nevertheless, Seven Cafe created a new customer base with little impact on sales of cafe chain, cans and PET bottles of beverages.Overviewing 3rd wave coffee (Blue Bottle Coffee), based on denial of deep roasted coffee in the major cafe chain, going to the farm, finding good quality coffee beans and roasting such beans that match the bean and attracting cup by cup, and the unique cafes that maximizes the charm of coffee beans, whose owner were fascinated by coffee and seeking all the aspect and process, and blooming (Café Bach) in Tokyo, (FUGLEN) in Oslo and (La Caféothèque) in Paris.Overviewing Udagawa Cafe group born as an anti-thesis against cafe chain. Furthermore, as a concept cafe, we survey various cafes to begin with maid cafes. Cafe-owner as an entrepreneur, presents the hypothesis of a new cafe based on radical ignorance to the market and is subject to verification by market consumers. Which cafe will survive?論文
著者
藤森 三男 大内 章子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.51-70, 1996-06-25

短期間で経済発展を成し遂げた日本の企業経営は,これまで良くも悪くも様々に評価されてきた。しかし,その本質は変わっていないのではないだろうか。技術・制度などは万国共通であっても,社会・文化が異なれば,それらをつなぎ合わせる企業経営は,その社会(あるいは国)によって異なってくる。本論文では,日本においてウチ社会が巧みに企業経営に用いられてきたのだとする。ウチ社会とは,長期的なカシカリの関係が公平に成り立つ社会のことで,「ウチ」とは家・家族を意味する,「ソト」に対立する語である。ウチ社会の中では,人々の間のカシカリの関係が心理的・非金銭的なものを含めて長期的に公平に保たれている。そこで,江戸時代末期から昭和期までの代表的な例を挙げて以上のことを検証していく。
著者
小野 晃典
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.13-40, 2001-04-25

社会学者E.M.Rogersを代表とする普及研究はしばしば,革新を徐々に普及させる駆動力としてのコミュニケーションの役割として,「情報の送信と受信」の局面と「革新(新製品)の社会的意味の形成と反応」の局面とを混同している。先の拙稿は,前者の「情報の送信と受信」の観点から,Rogersによる5種類の採用者プロファイルを定式化し,各採用者の新製品採用時期と社会システム内の新製品普及パターンを導出しうる理論モデルを形成した。それとは対照的に,本稿は,後者の「革新(新製品)の社会的意味の形成と反応」の観点から,同様の試みをなす。議論は普及論の枠を超え,経済学者Leibensteinのバンドワゴン/スノッブ効果,心理学者Fishbein&Ajzenの行動意図モデル,経済学者Veblenの顕示的消費論,社会学者Simmelのトリクル・ダウン論に及び,それらは一括して多属性効用型ブランド選択モデルの形態で整序される。最後には普及研究に立ち戻り,それまでの議論を参照しつつRogersの採用者プロファイルを「革新(新製品)の社会的意味の形成と反応」の視点から定式化し,先の拙稿と対を成す理論モデルを形成する。
著者
金子 隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.p125-147, 1994-04

企業の投資が家計の貯蓄によって最終的にファイナンスされる過程でマネーサプライが内生的に生み出されるメカニズムを,金融マクロ・モデルの構築によって明らかにする。現実のマネーサプライは内生的な内部貨幣が大半を占めているにもかかわらず,従来のマクロ・モデルでは外生的な外部貨幣を想定することが多かった。そのようなモデルで,マネーサプライと(たとえば)国民所得の関係を論ずることは,誤った帰結を導きやすく,危険である。また,金融政策論議にしばしば用いられる「金融市場の一般均衡モデル」では,実物経済活動とのリンクが遮断されているため,フローの支出ファイナンスとは無関係に,人々の資産選択行動の結果としてのみマネーサプライが増減するという奇妙な仕組みになっている。我々の金融マクロ・モデルでは,投資主体(企業部門)と貯蓄主体(家計部門)を1つに集計化せず,また,資産の需給を期末均衡の枠組みでとらえることで,こうした問題を解決している。モデルから得られるインプリケーションのなかで特に重要なのは,金融政策の中間目標選択問題に関するものである。すなわち,最終目標変数(国民所得)との間の安定的関係という基準で判断するかぎり,もっとも優れた指標はマネーサプライや金利ではなく,民間非銀行部門の債務残高であるという,クレジット・パラダイムを支持する結果が得られる。
著者
砂田 洋志
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.167-191, 1999-12-25

本稿では1日を4つの時間帯に分けて日本の米国産大豆先物市場における価格変化額と出来高の平均と分散を時間帯毎に計算して,1日のパターンについて1996年から1998年データを用いて分析した。夜間も時間帯として加えたところ,価格変化額の平均には時間帯による差はないが,分散が1日の中で夜間だけで大きくなること,出来高の平均が1日の中で寄り付きと大引けの節で大きくなること,出来高の分散が寄り付きの節で大きく次の前場3節で小さくなることが分かった。日本の米国産大豆先物市場を情報に関する理論に基いて分析すると,情報に基かない取引が存在すると考えられる節があったので,情報に基かない取引をノイズ取引と名づけ,板寄せ法による節取引を行っている商品先物市場に対して情報とノイズ取引という2つの観点から異質的期待に基いて試論的なモデルを構築した。情報とノイズ取引の要素として,節間に流入する情報の個数とノイズトレーダーによる取引の活発さを用いてモデルを構築した。さらに流入する情報の個数をその平均にするという条件付で価格変化額と出来高に関する条件付の平均と分散の式を導出した。その結果,価格変化額の条件付平均は0で,その条件付分散は節間に流入する情報の個数の平均の正の定数倍になることが導出された。次に出来高の条件付平均は節間に流入する情報の個数の平均の平方根の正の定数倍とその節のノイズトレーダーの取引の活発さを示す値の正の定数倍の和になることが導出された。一方,出来高の条件付分散は節間に流入する情報の個数の平均の正の定数倍とその節のノイズトレーダーによる取引の活発さを示す値の2乗の正の定数倍の和になることが導出された。構築したモデルから寄り付きの出来高の平均と分散,そして夜間の価格変化額の分散が大きくなるのは,夜間に流入する情報の個数の平均が大きいことが原因であり,大引けの出来高の平均と分散が大きいのはノイズ取引が大引けで活発化することが原因であると考えられる。
著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.109-160, 1998-06-25

1997年7月から1998年3月までの間,海外では香港,タイ,韓国,インドネシアなどの通貨・経済不安が急速に広がった。国内では北拓銀の倒産,山一証券の自主廃業,大蔵官僚・日銀職員の汚職・逮捕,消費低迷の深刻化などが次々に起き,日本経済はその根底からの大転換の時期を迎えたようである。今回の変化はいままでの経済的な,フィジカルな産業構造の変化ではなく,その底にある人々の生き方,考え方に大きな変化が,起こってきたように思われる。そこで今回はインタビューの対象は,大企業ばかりでなく,一部,中堅企業,病院,地方自治体などに広げてみた。なぜ学生がのべつ携帯電話でお互いに呼び合い,漫画本ばかり読んでいるのか。なぜ中学生がすぐキレて教師をナイフで刺したりするのか。人々は人生についての長い目標を失ってしまったのではないか。いままでは一流大学,一流企業,安定した生活という一つの暗黙の目標およびそれを達成するための手段がはっきりしていた。いまは一流企業もダメ,高級官僚もダメとなって,人々は生きていく目標を失ってしまう。さしあたりの楽しみ,安心以外に求めるものが見出せないのではないか。インタビューの結果,これら産業の業種,民・官の差にかかわらず,そのリーダーはこの政治・経済の変化の底に流れる人々の意識の変化に対応した方策を考えるようになってきた。いまの人々の考え方はテレビで代表されるバーチャル・リアリティをヴェリ・リアリティ(真実のもの)と考え,行動するようになった。政治家もテレビにでるタレントあがりが多く,学者もテレビによく出る人,新聞雑誌によく出る人が評価される。人間に求められる内省,長期的視点,愚直さがなくなっている。ただ経営者はそれを嘆いてばかりいられない。自分達の強みの上にのって,従来と違ってきた,その短期的,表面的な楽しみを求める人々の欲求をさしあたり満足させていかなければならない。その共通の対処策は,「従来の強み,コアコンピタンスはそのままにして,その周辺で従来の常識ややり方を全面転換し,たとえ増収できなくとも増益を確保する」方策のようである。そして,ベンチャー,地域密着,楽しさ,コンビニ,ハイテク,倫理性,市場競争,アングロサクソン型経営,常識を変える,コアコンピタンス,減収増益などのキーワードを使って新しい方向に出ようとしている。<金融・保険関係>[興銀]これからはホールセール,グローバルバンキングの方向に向かう。具体的には証券業進出によるインベストメントバンク機能の強化に力を入れる。拓銀,山洋証券の倒産は,不効率な金融機関は脱落していくというアングロサクソン型経営のデファクトスタンダード化の実例である。強い銀行でありつづけるには,明確な戦略,進取の気象,たえざる革新が必要。特にたえざる革新とそのスピードアップ化が重要。銀行は安定産業でなく成長産業である。[静岡銀行]地域密着,リーテル化強化。そのために200店舗の効率化をはかる。コア店とサテライト店にわけ,前者にスペシャリストを配置し,後者は取り次ぎ業務だけにする。人材は,単なるスペシャリスト,ジュネラリストではなく,2〜3部門のスペシャリストであると同時に,他のことを知っているジェネラリストに育成することが大切。ベンチャー育成には投資,融資に分ける。前者は当たれば株価は数十倍に上昇するから6回に1回ぐらい当たればいい。後者は一発勝負だから慎重。その評価基準は,経営者の過去の経営の仕振り,銀行への対応の仕方でみる。[東京海上]ビッグバンに対して物的な革新より人間の革新に力を入れる。「お客様にえらればれる会社になろう」という,企業倫理を中心にした経営理念を明確にする。具体的には,事故がおきて気が動転している顧客に対して徹底的に親切にする。生保への参入では,医療,介護,疾病の3つを1つにした割安な保険を売りはじめた。またお客様の条件から,これだけ保険をかけておけば十分というときはそれ以上ムリにすすめない。グローバル戦略としては再保険に力を人れるが,再保険にはテイルの長い悪い保険がある。ALMなどの技術の高度化でこれに対応しなければ損のでる可能性がある。<製造関係>[東芝]総合電機メーカーの最大の問題点は,このままの業態で存続しうるかという根元的なものである。多数事業のうちどこの事業からどのように撤退するかが重要な問題,撤退のためには価値の優先順位の共有,情報の共有が不可欠。それを束ねるのが経営者の役割。たとえば撤退事業を決めるとき,労働消費型事業は儲かるものではないという価値観を役員がみな共有する必要がある。また撤退の方法も大切。誰も自分の担当してきた事業はやめたくない。まずアライアンスで外部に肩代わりさせ,誰も気がつかないうちにそーっと撤退する。そして強い事業を強化し,弱い事業から撤退する。[荏原製作所]企業家精神の旺溢した会長と,管理者精神に優れた社長の組合せで,典型的な優良トップ構造をもつ。しかも社長は技術を最重視する。現在の大不況に対して,人件費削減などによるコスト削減策でなく,精密・電子などの新製品開発に注力する。ゴミ処理について,ダイオキシンは400℃で再化合するので,500℃以上の高温を維持したまま処理する,他社にまねられない革新的装置を開発した。[中外製薬]バイオテクのR&Dに注力する。このR&Dには,4つの特徴がある。すなわちターゲットを絞る,研究開発ツールの充実,分散化した研究体制による異なった発想の結合,撤退基準を予め決めておく,の4つである。この中で特に力を人れているのは,バイオテクの中の物質の結合シミュレーション技術の開発や,純粋実験動物の養育である。また研究所を外国にまで分散配置して,欧米に通用するプラットフォームを構築する。撤退はカネのかかる前臨床段階でPPMなどを参考にしてきめる。[明治製果]大変革に対処するには,Extravalue operation, low cost operation, globalized ooerationの3つの考えが重要。extravalueについては,商品価値=商品+情報であるから,正しい情報をたえず発信することによって,消費者満足を増大させる。low costについては,迅速な意思決定によって財務体質の向上をはかったり,新製品開発にあたっては既存の機械をまずみて,それで生産できるものを考えたりする。globalizedについては,日本人の味覚と外国人の味覚は徹妙に違うから,周辺に市場のあるところに海外工場をつくる。[ベンカン]官僚の介入が市場自由競争の効率を低下させている。彼等の行政哲学は「広く,あまねく,公平,平等」である。この哲学は戦後傾斜生産などで経済運営の効率を高めたが,現在は「左足が出すぎて」効率が低下した。財界は自由競争と公平・協調の2つの旗をかかげる。2つの原理を考えながら,右,左と足を出すべき。中小企業はアジア経済の大津波をうける恐れがある。対処策には,撤退,縮小均衡,第2の創業の3つがある。前2者は失業をまねくからダメ。第2の創業には人材,低利の長期安定資金,コアコンピタンスにつながる新規事業が重要。<地方自治体・病院関係>[山口県]人口減少とか所得の相対的低さは問題ではない。「生活を楽しくする」という基準からみて,それに反するものが問題点である。具体的にその問題点をどうやってとらえるのか。「しっかり聞いてしっかり実行」という経営理念をかかげて,たえず現場まわりをする。それでも意思決定は遅くならない。何故ならば県民の大多数が関係する問題は多数決できめるが,大枠の決まっている個別プロジェクトは知事の判断でゴーをいうから。昨年は300の事業をスクラップにし300の事業を起こした。ベンチャー起こしは全面的にバックアップする。[河北病院]いまや医療産業は,1位の建設,2位の娯楽産業についでGDPの6%をしめる第3位の産業。これが効率的に機能するには「市場化」が不可欠。ただそのためには倫理観の確立,たえざる評価,徹底した情報開示が重要。これを実現するため,地域密着の,患者さん中心の医療に全力投球している。「安心して,いつでも何でも相談できる医療機関」でありたい。患者中心とは,医療,看護,介護が1つの窓口で行われること,さらに長期的な視点にたって医師,看護の教育に力を入れることである。<通信・運輸,小売関係>[NTTデータ通信]いままでは官公庁との随意契約であったため利益が安定していた。またいままではコンピュータシステムを構築するときはコンピュータメーカーに発注しソフトまでつくってもらっていたため,ソフト会社はハード会社に隷従していた。いままで利益がでていたのは,NTT時代からの過去の遺産による。これからは競争入札になる。新しい市場競争に勝つためには自らエディティングテクノロジーを強化し,また新しい視点にたったリサイクル型システムの開発に力を入れる。ある1つの基盤技術だけでなく,他の法律,デザイン,経営などを加えた融合技術に創造性を発揮する人間を高く評価する。[東京いすゞ自動車]右肩上りの経済では大量生産・販売が有効であるが,右肩下りの時代にはロットの小さい,強みのある製品,たとえば特装車や修繕業務に注力する。コスト削減のためには,いすゞこの車ばかりでなく,フォード,GMの車も取扱うし,いすゞの車を名前だけ変えて日産アトラスとして売る。組織活性化のためには,転籍,配転によって社員のプロ意識をなくし,アマにする。アマは無限の努力をする。企業全般にわたって活性化・個性化というオーソドックスな経営戦略を展開する。[カンダコーポレーション]いままでのやり方を踏襲して経費削減をやってもダメ。やり方を変えなければならない。運送業から物流業への転換である。物の保管,荷札づけ,在庫管理などの一括受注,途中での荷物の積載,百貨店配送への通販配送の混載などを行う。組織の活性化のためには,「うちの会社」意識の鼓舞,新しい仕事・新しい人の重視,人事評価の客観化が重要。社長は有能でないと言いながら,方向づけだけして,有能な人にこまかい仕事をまかせる。オープン経営はスローガン。個人の性格についての人事評価,市場競争のはげしいサービスの原価などは絶対にオープンにしない。[ファミリーマート]コンビニの基本概念は情報通信に支えられたシステム産業であり「町に帰ってきた小さなお店」である。基本的には消費者の立場に立っているが,裏側には大量生産・大量販売の供給者がいる。裏側が強くなりすぎると人間味がなくなる。いまのところコンビニは,現在の生活目標がはっきりしなくなった人々と,大量生産・販売する大企業とを結びつける数少ない好況業種の1つであり,問題は小さい。将来,医薬品への進出,「町の金融」への進出など問題のでる可能性はある。
著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.117-160, 1995-12-25

今回のサーベイは,次のような環境の下で行われた。1〜4月頃までは景気は回復基調にあると,政府,ジャーナリストに言われていたが,実態はそれ程回復せず,6月になったら足踏状態と言わざるをえなくなり,各企業の経営者は一般論的なリストラ,リエンジニアリングでは対応できなくなった。各企業経営者の対応は各企業ごとの強みを強化し,弱みから思い切って撤退すること,すなわち個性化の一層の深化に力を入れていることである。その個性化の方向を的確にとらえるために,一歩踏み出して情報を収集し,迅速な対処行動をとる。この個性化,積極的情報収集・迅速な行動がこの期の特色である。金融機関のように独自の個性化を出し難いところは,以前よりましてきめ細かな資金管理に力を入れている。また今回の調査には,積極的な経営を行っている,一般企業とは異なった農協についても調査した。農協と一般企業の経営の仕方の最も異なるところは,前者の経営の目的が赤字にならないという制約条件の下で社会的貢献を最大にするのに対し,後者は一定の社会貢献,企業倫理の制約の下で利益・成長を最大にすることであった。<大学>早大総長は,大学の変革は非常に難しいという。民主的手続き・根本的・百年の計という口実で改革に反対する。これに対して従来の延長ではなく,大学の理想をかかげて予算の傾斜配分を行い,突出部分を育てていく。人事で中途採用は易しいが中途追放は難しい。<製造業関係>[大日本印刷];海外進出の必要はない。自社の強みは,顧客の近くに立地していること,シャドウマスクの製造などは装置産業であって人件費に関係ないからである。[宇部興産];従来から事業部ナショナリズムが強かった。個性化をすすめるために,強い事業部はさらに強く,弱い事業部からは撤退する。人事は公平に,財務はアンバランスに,をモットーにする。[東京製鐵]:高炉メーカーとの競争激化。高炉メーカーが価格維持をはかっている分野に進出して,逆に高価格品を売る。当社の1人当りの生産性は5,000トン,高炉メーカーは700トン。十分に競争できる。[日製産業];技術水準が高く海外で生産できない製品は値上げする。日本以外でできるものは生産中止。異能の個性的な人間は1人で仕事をさせる。それをトップが長期的に支援する。[大正製薬]:リポビタンDを中心に大衆薬の販売促進や,新しい効果をもった大衆薬の開発に力を入れる。この大衆薬の研究開発,販売促進にはつねに社長が直接指揮をとる。社長のチェックポイントはあくまで生活者の立場からであり,その薬の将来の発展性がその立場からチェックされる。[大塚製薬];研究所が独創的,革新的な製品を開発できないのは,研究組織中央の大きなミッションに力があるすぎること,および,専門研究者がその専門にこだわりすぎること,とによる。これからは遺伝子研究所に注力する。遺伝子によって発ガン性物質をコントロールする酵素の発生が異なるから,個体の病気予防に役立つ。<流通業関係>[丸広百貨店];カジュアル百貨店という個性を明確にし,都心百貨店と,地域DSとの中間をねらう。価格は中間でも感性,品質は高いものを開発する。この戦略を実行しながら情報を収集し,つねに新しい方向を探していく。[名鉄丸越百貨店];百貨店晩めし論強調。スーパーは昼めし。予め価格をきめておいてその範囲内でおいしいものを探す。晩めしは,おいしくて,雰囲気がよく,楽しいことが第1条件。その条件のもとで安いものを探す。またスーパーは不特定多数の客を取扱うが,百貨店は特定多数の客。[花正];まず一歩を踏み出す。そして新しい視点にたち情報をとり,最適な方向をつかむ。最初に成功した着眼点は業務用食材スーパーの展開であり,次に成功した着眼点は中国進出であり,それを足掛りにして世界展開を考えている。<金融・保険関係>[名古屋銀行];土地問題に抜本的なメスを入れなければ,不良債権問題は解決しない。金融自由化の本格化で,金融機関同士の競争は弱肉強食になってきた。対処策は,金を集めるときは運用までも予め考えるALM管理などのきめこまかい金融業務。[明治生命];逆ザヤ現象と金融の自由化というマクロ問題に直撃され,日本の金融は世界単一市場化の方向に自然に流れていく。株式,不動産の含み益がなくなった現在,個性的な戦略はたて難い。長期的な自由化に対処するために,損保,証券スキルの教育に力を入れている。<農協関係>[東伯農協];農協の目的は赤字にならない範囲内で社会的貢献を最大にすることである。社会的貢献,企業倫理を制約条件として利益,成長の最大化を目ざす一般企業とは異なる。そのためには,集約農業,遺伝子融合などの新技術情報・新市場情報を積極的に収集し,迅速に実行する。[大野市農協];制約条件として最低配当率をきめ,そこから逆算して事業計画をたてる。一般企業の経営とは逆である。一農場方式を標榜し農業をやらない農家から農地を借り,農業専門家を雇い,高品質米を生産する。組合長はつねに地域集会に出席し,組合員に接触しこの一農場方式についての理解を求める。
著者
関場 武
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.247-264, 2005-12

故玉置紀夫教授追悼号明治初期から中期にかけて,夥しい数の字引き・字典類が刊行されているが,その中で多くの啓蒙的な著作を出し,辞書の編集者としてもそれなりに活躍した人物の中から,青木輔清を選び,彼が関わった30余点に及ぶ字書・辞典類について,その半数程を中心に諸版の有様を紹介し書誌的な考察を加えたもの。
著者
鷹野 宏行
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.199-207, 2005-04

植竹晃久教授退任記念号本稿では,わが国における映像製作の典型的なファイナンスパーターンの製作委員会に注目し,その組織,会計,税務などの現況を考察し,その制度的不備を指摘する。さらに,現在注目されている日本版LLC についてその最新動向を踏まえ,コンテンツ製作全般に最も適した組織体であることを主張する。そして,コンテンツ産業振興のためには,LLC を利用した資金調達が可能となるようLLC における諸制度(会計基準,パススルー課税,労務出資)の確立が早急の対策課題であることを述べる。
著者
深尾 光洋
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.123-140, 2006-06

唐木圀和教授退任記念号 中国経済特集中国は1978年の改革開放政策の実施以降,従来の社会主義に基づく統制経済から市場経済に移行してきた。それに伴い,国内市場でも価格統制と配給制が徐々に廃止され,自由な国際貿易が可能となる経済に変貌してきた。1993年には国内における配給切符が全廃されたあと,1996年には国際的な経常取引に関する為替管理が撤廃され,財・サービスの国際取引が自由に行えるようになった。こうした中国の国際金融政策は,日本における敗戦直後の戦時統制から1964年の経常取引の自由化に至る動きと似た側面があるので,二国の経験を対比することで,中国の国際金融政策の展望を試みる。中国は90年代後半以降の経常収支黒字の定着と近年の外貨準備の急増に伴い,米国や日本から人民元の切り上げ圧力を受けるようになった。中国は資本取引については厳しい為替管理を行っているが,中国経済の国際化に伴って資本移動を押さえ込むことが困難になってきている。この結果,中国の外貨準備高は発展途上国としては異例のGDP 比40パーセント程度に達し,さらに増加を続けている。外貨準備を保有する中国人民銀行(中央銀行)は,外貨買い入れ代金の支払いによる金融緩和効果を打ち消すために,保有する人民元建て国債を大量に売却するとともに,自ら人民銀行債券を発行して資金を吸収している。しかし国内金融政策を国内均衡のために運営することと,固定相場制を維持することの両立が困難になりつつある。本稿では,日本における1970年代前半のインフレの原因は,変動相場制移行前後の日銀の金融政策運営の失敗にあることを指摘し,人民銀行はこうした失敗を繰り返すべきではなく,早期に固定相場制から変動相場制に移行すべきであると論ずる。
著者
小西 恵美
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.27-52, 1996-10-25

18世紀のイングランドには様々な時代に起源を持つ,大小様々な権限の行政組織が混在し,地方政府と呼べる機関は存在しなかったが,その中で最も発達した形態をとり地方政府に近い働きをしていた機関は都市コーポレーションであった。そこでは市長とオルダーメン,カウンシラーから構成される市議会が全ての決定権を持っていたが,コーポレーションの資産が饗宴や俸給などメンバーの私的利益の追求に使用されたとして,しばしば批判の的となってきた。ここでは港湾都市の1つであるキングス・リンを取り上げ,収入役会計簿と市議会議事録を中心とする一次史料を分析することにより,コーポレーションが具体的にどのような活動を行っていたかを検討する。キングス・リン・コーポレーションは通常,不動産や賦課金,市場や上水道,波止場等の使用料から収入を得ており,必要に応じて年金証券や債券の発行,借入によって収入を補填していた。その資金は河川・港湾施設を中心とするインフラ整備や慈善活動の他に,俸給や利子の支払い,祭典・饗宴,訴訟を含む行政費に使われていた。また,市民(freemen)や施療院,そしてとくに港湾労働者の管理もその活動の重要な部分を占めていた。従来の研究では「地方政府」にいかに近い性格を持ち合わせるか,すなわちいかに公共利益に沿った活動を行っているかがコーポレーションを判断する際の規準となっていた。これに基づいてキングス・リン・コーポレーションを判断すると,他の都市と同様に,それは清掃や街灯,警備のような都市サービスについて市民の要求にははとんど応えておらず,慈善活動も決して十分なものではなかったが,その公共施設への投資は評価でき,比較的機能していたという結論を導き出すことができる。しかし,1835年を境に地方行政機関のあり方が大きく変化したことは明らかである。そうであるならば「地方政府」の規準からではなく,私的利益追求団体としての別の見地からコーポレーションの活動を追究することが今後の課題として提起される。
著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.1-21, 1992-12-25
被引用文献数
1

現在日本で高い業績をあげている企業は,個性的な経営を行い,しかも企業全体が活性化している企業である。社長の個性的な哲学が企業文化に深く浸透し,企業経営を個性化,活性化させる。社長のリーダーシップは,経営理念の明確化,戦略的意思決定の迅速化,執行管理の効率化の過程で発揮される。この経営理念は,社長の哲学と企業文化(=組織文化)との積集合としてあらわされる。本論文は,社長を創業者,2代目,生えぬき,天下りの4つのタイプにわけて,社長の個性,哲学が,そのリーダーシップによって,どのように企業文化に浸透し,どのように個性化,活性化を促進するかを検討する。創業者社長がいて,しかも現在急成長している場合,あるいは生えぬきで,しかも社長になる前に日の当らない部署を遍歴してきたため,企業内に多くの同調者をもっている場合,社長の個性は企業文化に浸透しやすい。逆に2代目社長でエリート経歴をもっている場合,あるいは生えぬき社長で,エリートコースを一直線に歩んできた社長のいる場合は,社長の個性が浸透しにくい。天下り社長の場合は,社員が従来の企業文化が環境変化に適応しなくなっていると思っているケースが多く,敵対買収などを除けば,社長の強力な個性が受け入れられやすく,案外,古い企業文化は修正されやすい。
著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.101-136, 1996-12-25

今回のサーベイは,以下のような環境の下で行われた。1月から8月までの8カ月間,住専問題処理を中心に政治は動いた。住専処理は,金融不安を避けるためという口実の下で,6千8百億の税金が処理費として投入されることになった。いわゆる母体行も,農林系金融機関も最後まで責任を負わなかった。住専からの大口債務者は,あれだけの担保土地の下落が突然起れば,どんな経営者でも破産してしまうと,大蔵,日銀などの金融担当者の責任を叫んだが,大蔵・日銀の責任は追及されなかった。一般国民の大蔵省,日銀に対する信頼感は薄らぎ,特にグローバル化及び高齢化社会への政府の対応能力の不足に,はっきり危惧の念をいだくようになった。為替レートが大きく変動すれば,少々の国民の努力,企業努力は無意味になってしまうからである。そこで今回は,為替レートは,一般の経済学で言われるように,はたして経常収支によって動くのか,日本政府の国際対応は的確なものであるのか,また一方,この政府の無策に対して日本企業はどのように変身して対応しているのか,さらに高齢化社会に日本政府は対応できるのかの視点からサーベイを行った。<政治関係>[国際協力事業団]教育,健康こそが新しい安全保障の条件である。南の途上国の安定がなければ北の安定はない。JAICAは直接的に技術援助はしない。派遣される日本人,および現地の人の研修に力を入れ,技術者と現地の要望とをマッチングさせるのが本来の仕事である。[日経ワシントン支局]日米間では今後,政治と安保が問題になる。アメリカは日本を対等な,民主主義の国とは考えていないふしがある。これを修正するためには,日米経済の安定成長と,政治におけるはっきりした行動基準を示す必要がある。[大蔵省元財務官]日米間の経常収支の動きで為替レートが動くわけではない。アメリカの政治による部分が多い。クリントンはそれまで円高カードをちらつかせて,気楽に円高をひっぱっていたが,'95年7月から,いわゆるトリプル安がおき,長期金利の上昇・景気停滞が危惧されると,'96年の大統領選挙をにらんで,途端に円安誘導に向った。[国際金融情報センター]為替レートの決定要因は,結果としての経常収支の累積額ではなく,日米の経済成長の差,金利の差である。今後の国際金融問題は,電子マネーとデリヴァティヴとであり,特に電子決済がすすむと,いままでの通貨主権がなくなってしまう可能性がある。<企業関係>[三菱地所]バブル後,未だかつてない賃貸料,不動産価格の値下りがおきた。百年来つづけてきた方針を変えて値下げ,売却を決断した。これからはディベロッパーマインドヘの意識改革が必要であり,従業員1人ひとりが自ら考える独立自尊の意識が必要である。[信越化学]生産拠点を積極的に海外展開させることによって,為替リスクを分散する。海外拠点設置の基準は,人件費,原材料の安さではなく,カントリーリスクの少ないところ。装置産業であるが,従来の考え方を変え,償却年数以上の使用,旧設備の改良,増設などで需要変動に対応する。[リョービ]変身は漸進的に行う。ダイカストから印刷機械に進むまでの技術関連多角化は漸進的な地続き作戦であり,また人事評価も穏健で漸進的な目標管理制度である。そこでは「仕事の成果」ばかりでなく「指導育成」などの日本的経営の評価項目も残している。[朝日ソーラー]企業家精神が横溢している企業。社長が自分の夢,思いのたけを強調して従業員をひっぱっていく。失敗すると社長は気絶するほど叱るが,ふだんは機会をみて従業員と酒をくみかわし,従業員の話をきく。"自然にやさしい"とか"環境との共生"などは一切口にしない。[リクルート]役員の選出は,各事業部から推薦し,その被推薦者を取締役会で記名投票で3人にしぼり,その中から社長がえらぶ。一般社員は自己申告制度があり,ほとんど希望通りに自分の好きな仕事をえらべる。これらが,リクルートの組織の柔らかさの原因である。[東陶]高齢化社会に対応するため,専門技術の結集,コミュニケーションの向上による需要増,高齢者が必要に応じて働けるという新しいテクノ・エイド構想をすすめている。無限に変わる人々の欲求に合わせていけば,需要はつねに創造される。[青梅慶友病院]子供が親をみるという遺伝子は生物の本能の中にない。超高齢化社会になっても子供は親に金を出したがらない。従来の病院は検査,投薬づけにしなければ金が入らない。老人地獄。自分の親だったらこうしたい,自分がこういう所へ入ったらこう取扱ってもらいたいの視点で,老人介護病院を経営している。
著者
前田 淳
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.15-24, 2003-10
著者
伊藤 眞
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.27-56, 2013-10

論文住宅ローンのプールを信託に出し, 信託受益権としたうえで, 優先劣後化を行う。このうち優先受益権は譲渡し, 劣後受益権はオリジネーター(債権の譲渡人)が自己保有する。残存部分として処理されるこの劣後受益権に取得差額が生じた場合, 金融機関は償却原価法を適用する。劣後受益権は取得価額(帳簿価額)が元本金額を上回る場合, 収益配当金として入金したキャッシュフロー(元本については, 優先受益権がすべて回収した後に回収する)を利息部分と元本の回収部分に分けて処理する。これに対し, わが国の税務当局は, この処理を否認し, 入金額をすべて益金計上するものとした。会社は, 不服申し立てをしたが, 認められないため, 裁判を起こした。しかし, 東京地方裁判所(以下「東京地裁」という)において, 予約差額の期間配分は認められず, 敗訴した。会社(原告)は東京高等裁判に控訴し審理中である。会計基準および実務指針ならびにこれらの基礎となった米国基準に即して会計処理(償却原価法を含む)を検討すると, 会社の処理が妥当であると解される。次に, 債権の証券化(優先劣後化を含む)による影響を具体的な数値例を用いた簡潔なモデルで分析すると, 市場金利が下がった場合の優先劣後化に伴う劣後受益権への影響は, 債権プールの加重平均利率が優先受益権の市場利率を上回る場合, その元本額にその金利差を乗じて算出した金額の現在価値(金利のみのストリップ債権と同じ性質のもの)が劣後受益権の現在価値の一部となり, 残存部分である劣後受益権の取得原価を構成することが明らかとなった。当該取得原価は, 劣後持分権の元本を超過するから, 償却原価法を適用し, 利息部分と元本の回収部分に分けて処理しなければならないことは明らかである。言い換えれば, この劣後受益権は, 住宅ローン契約に基づき現金を支出して取得した債権を信託し優先劣後化後に優先受益権譲渡契約による譲渡後の劣後受益権(残存部分)の確定した契約キャッシュフローの当初認識時の現在価値である取得原価(帳簿価額)と元本額との間に生じた差額である。最後に, 東京地裁の判決内容を検討するが, 上記検討結果から見れば, 判決が採用した被告である税務当局の主張は自らに都合のよい主張を述べているだけであって説得力ある論拠はない。したがって, 判決は不当なものであると解される。
著者
李 悳薫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.27-43, 1997-02-25

政府と産業との関係は,資本主義発展の「国際的特質」つまりその国の経済発展の段階及び自主的な生産基盤の如何に規定されている。従って,国の民間企業への開発の仕方は国によって異なる。本稿では世界の関心の対象になっている各国の政府の介入とそのハイブリッド的要因について産業政策を中心に論稿を進めることにする。特に産業政策の各国,地域別での認識と政府介入の変遷過程を中心に産業政策の類型を考察する。
著者
甲 美花
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.117-143, 2002-02-25

本稿は,従来「組織人」と呼ばれた事務系ホワイトカラーを多面的に捉え,組織コミットメント,プロフェッショナル・コミットメント,二重コミットメントヘの影響要因を分析し,さらにそれぞれのコミットメントがもたらす結果要因について実証したものである。製造業とサービス業13社から180名の従業員を対象にした質問紙調査を実施した結果,次の3点の影響要因が確認された。第一に,個人の「キャリア志向」において,プロフェッショナル志向と組職人志向の両方が二重コミットメントに影響を与えるだろうと仮定したが,実際には,組織人志向のみが影響を与えていることが確認される。第二に,「職務特性」を表わす項目が,各コミットメントにさほど強い影響を及ぼしていないことが明らかになっている。その理由としては,よく指摘される日本企業の職務概念の曖昧さに起因していると思われる。第三に,職務満足を表わす項目の中で,「人間関係」という要因は,特に日本企業において重要視されてきたが,今回の研究結果は,いずれのコミットメントにも影響を与えていないことが明らかになっている。つまり,日本型経営の特徴である上司や同僚との間の相互依存する人間関係重視は,すでにコミットメントの影響要因ではなくなっていることを示唆している。各コミットメントがもたらす結果要因については,二重コミットメントが所属組織の「業績」と「転職意志」に有意な影響を与え,組織コミットメントが「転職意志」に影響を与えることが,今回の研究で明らかになった。従来,日本的経営を支えてきた組織コミットメントの高い組職人が高い業績を上げつつ,長期に定着してきたが,今回の研究で組織と専門性に二重コミットメントする人達(ここではプロ組職人と言う)が高い業績を上げると同時に,企業に定着するという分析結果が出たことが新たな発見である。
著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.5-28, 1991-04-25

Creditability取引は,1回1回の取引で利益はでなくてもいい,信頼できる多角的な複数の相手と,細かなルールを決めずに取引し,長期的,全体的にみて利益がでればいいという考え方である。日本の"今回は泣いてくれ"という取引に典型的にあらわれる。この考えは,強力な武士階層が支配し平和が統いた江戸時代に定着した。平和が続いたため武士と君主との間に実質的な価値のある取引ができなくなり,儒教の中の君臣倫理,共同体倫理などの抽象的価値だけがとり出され,滅私奉公の精神が強調された。これが,支配階層の価値観にすり合せようとする日本の商人の集団性,協調性の価値観のもととなった。利より義を重んずる家訓・価値観が拡がった。しかし現実には大名貸,株仲闇取引で実質的な利は確得していた。一方西欧では,人生は闘争であり,そこではカルヴァン派の,神にのみ責任をもつが神にも頼れないという<内面的孤独化>の考えができ上り,そこから<禁欲的職業労働>の価値観ができ,商人の間に資本主義精神が育った。現在,儒教で資本主義のアジア圈の国々の経済成長はめざましい。そのうちでも日本のCreditability取引は,系列企業システムなどによって高い生産効率をあげ,その効用が宣伝されている。しかし日本企業がグローバル化する現在,闘争を前提とする価値観をもった異った国の人々と取引をせざるをえず,平和・協調の価値観のCreditability取引はできなくなる。さらに日本国内のCreditability社会の中では,細かいルールがないため過度の強者が現れると富の配分が大きく偏り,人々の不満がCreditability社会を支えている政治的枠組自体をこわす可能性もでてきた。ここで過度の強者がでないように,意思決定者の深い洞察力と大きな道義感の必要性が強調されるようになってきた。