著者
高槻 成紀
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.293-296, 2009-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
15
被引用文献数
2

Bears are popular, and are often regarded as umbrella species by conservationists and wildlife societies. This is the case for the Asiatic black bear and the brown bear in Japan. The idea is that bears' home ranges are large and, consequently, that the conservation of bears would result in the conservation of other sympatric plants and animals. Buskirk (1999), however, stated that since large carnivores are habitat generalists, they cannot serve as umbrellas. In fact, in the Sierra Nevada, most martens, fishers and wolverines, which are habitat specialists, are extinct or nearly so, while American black bears are common or abundant (Buskirk pers, comm. 2009). Buskirk's opinion is important for the following reasons. 1) Although the concept of an umbrella species has merit, unless a species' habitat and resource requirements are known, the conservation of other species is not assured. 2) If a conservation initiative is enacted under this slogan and some animals disappear, while bears are abundant, as happened in the Sierra Nevada, then the logic underpinning the initiative is flawed. 3) The proposition of "the more, the better" can be unpopular, even with people who have an understanding of conservation efforts, because such a proposition may be difficult to accept, particularly in a small country like Japan. 4) The concept that bears are umbrella species stems from the idea that not only bears but also other organisms should be conserved; however, the term can be misconstrued to imply that, "Bears live here and thus other animals must also be OK." Thus, the slogan can function in a manner contrary to its intent. We should be cautious not to use this concept without confirming the true meaning of umbrella species.
著者
宮崎 萌未 佐々木 晶子 金行 悦子 小倉 亜紗美 木下 晃彦 中坪 孝之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.213-220, 2015-11-30 (Released:2017-10-01)
参考文献数
21

ホンゴウソウSciaphila nana Blume(Sciaphila japonica Makino, Andruris japonica (Makino) Giesen)は、葉緑素をもたない菌従属栄養植物で、環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類(VU)に指定されている。しかし、生態については未解明な部分が多く、また保全に関する研究もこれまでない。2009年に広島県呉市の一般廃棄物処分場建設予定地でホンゴウソウの群生が確認され、早急に保全対策を講じる必要が生じた。そこで本研究では、ホンゴウソウの生育環境を調査し、その結果をもとに移植を試みた。自生地はコナラ、ソヨゴ、リョウブ等が優占する二次林であった。ホンゴウソウの群生を横切るトランセクトに沿ってコドラート(1×1m, n=20)を設置し、環境条件とホンゴウソウ地上茎発生数との関係を調べた。重回帰分析の結果、光環境(平均空隙率)と有機物層の厚さが、自生地におけるホンゴウソウの地上茎発生数に影響を及ぼす説明変数として選択された。そこでこの結果をもとに、ホンゴウソウ個体群を有機物層ごと移植することを試みた。2012年6月および9月に、群生地点の有機物層を林床植物ごと40×40cmのブロック状に切り出し、処分場建設予定地外で植生などの類似した場所に移植した(n=15)。その結果、約一年後の2013年9月には、8ブロックで合計26本の地上茎の発生が確認され、二年後の2014年9月には8ブロックで合計66本の地上茎が確認された。以上のことから、自生地の有機物層ごと移動させる方法により、ホンゴウソウを移植できる可能性が示された。
著者
飯島 勇人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.19-28, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
21
被引用文献数
1

都道府県におけるニホンジカ管理の方針を記した特定鳥獣管理計画(ニホンジカ)を整理し、現在のニホンジカ管理の問題点を検討した。多くの計画でニホンジカの個体数に関する定量的な目標が設定されており、個体数推定の方法として階層モデルが最も多く採用されていた。しかし、事前分布やモデル構造、事後分布について説明している計画はなく、参照可能な文献も示されていなかったことから、推定の妥当性を評価することができなかった。農林業被害や生態系への影響については定性的な目標が多かった。特に、生態系への影響に関する定量的な目標を設定していたのはわずか2計画であった。モニタリング項目としては天然林の下層植生を挙げていた計画が多かったが、定量的な影響把握はほとんど行われていなかった。また、他の影響についてモニタリングしていた計画は少なかった。計画を審議する会合は多くの計画で明記されていたが、行政などから独立した科学者による評価機関が存在したのは7計画のみであった。このため、現在のニホンジカ管理に関する計画は、個体数については目標の根拠となる推定の妥当性検証に関する記述が十分でないこと、農林業被害や植生への影響については管理による効果を検証する体制となっていないことが明らかとなった。計画の改定時には、記述内容について文献を引用するなどして信頼性を高める ことが重要である。
著者
東 広之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1819, (Released:2019-11-08)
参考文献数
9

生物多様性の保全において、保護地域は極めて重要な役割を果たしている。しかしながら、保護地域の定義や種類についてはあまり浸透しておらず、また、保護地域の目的や管理のニーズに保護地域の管理の実態が伴わないことがある。そのため、本稿では、 IUCNによる保護地域の定義を紹介するとともに、 IUCN保護地域管理カテゴリーの特徴を図表で示した。加えて、カテゴリー間の比較についても整理することにより、各カテゴリーの特徴を際立たせた。昨今、保護地域の「量」の確保が進められているため、今後は、保護目的や管理ニーズにあった効果的な管理の実施、つまり管理の「質」がますます重要になると考えられる。
著者
岡 浩平 平吹 喜彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.189-199, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)

本研究は、仙台湾南蒲生の海浜から海岸林のエコトーンを対象にして、2011年大津波後の海浜植物の再生と微地形の関係性を調べた。調査は、津波から約2年4ヶ月後に、海浜に3本、海岸林に1本の調査測線を設置して行った。調査の結果、海浜植物の種構成は海岸林と海浜でほぼ共通していたが、生育密度は海浜よりも海岸林で顕著に高かった。海岸林では、津波時に地盤が堆積傾向であったことから、海浜から埋土種子や地下茎が供給されたため、海浜植物の再生が早かったと考えられた。また、海岸林では、比高の低い立地を除いて、外来草本もしくは木本が優占していた。そのため、将来的には、侵入した海浜植物は徐々に衰退し、樹林へと植生遷移することが予想された。一方、海浜では、海浜植物が全体を低被度で優占していたが、津波による洗掘で形成された深さ2m幅20m程度の凹地だけは、海浜植物の種数と被度が高かった。凹地では防潮堤が建設される予定であるため、種の多様性の高い立地が消失することがわかった。以上のことから、対象地では、安定した海浜植物の生育地は十分に確保されておらず、海浜植物の保全のためには多様な微地形の維持・創出が重要であると考えられた。
著者
向井 喜果 布野 隆之 石庭 寛子 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2206, (Released:2023-09-08)
参考文献数
74

渡り鳥は過去数十年の間に世界的規模で個体数を減少させてきた生物グループの一つである。減少した理由の一つとして、いずれの種も繁殖地、越冬地、および中継地といった多様な生息環境を必要としており、そのどれか一つでも開発などにより劣化や消失が生じると、それぞれの種の生活史が保証できなくなることが挙げられる。渡り鳥のこれ以上の減少を防ぐためには、その食性を十分に理解した上で、餌資源が量的かつ質的に減少しないような生息地管理を適切に進めていく必要がある。本研究では、新潟県の福島潟で越冬する大型水禽類オオヒシクイとコハクチョウにおける越冬地の保全策を検討する一環として、2種の食性をDNAバーコーディング法と安定同位体比分析を組み合わせることにより明らかにした。その結果、オオヒシクイは越冬期間を通して水田ではイネを、潟内ではオニビシを主要な餌品目としていたのに対し、コハクチョウは11月にイネを主要な餌品目としていたものの、12月以降では、スズメノテッポウおよびスズメノカタビラなどの草本類に餌品目を切り替えていた。本研究を通し、オオヒシクイとコハクチョウの餌利用は水田環境と潟環境に分布する植物に大きく依存していることが明らかになった。2種が今後も福島潟を越冬地として利用し続ける環境を保つには、ねぐらと採餌環境としての福島潟および採餌環境としての周辺水田を一体とした保全を施していくことが望まれる。
著者
兼子 伸吾 亘 悠哉 高木 俊人 寺田 千里 立澤 史郎 永田 純子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2302, (Released:2023-09-08)
参考文献数
58

マゲシカ Cervus nippon mageshimae Kuroda and Okadaは、その形態的特徴によって記載されたニホンジカ C. nipponの亜種である。しかし、2014年の環境省のレッドデータブックの改訂に当たっては、亜種としての分布域が不明瞭であり、分類学的な位置づけが明確でないとされている(環境省 2014)。その一方で、近年実施された遺伝解析の結果からはマゲシカの遺伝的独自性が示されつつある。その遺伝的特徴から、マゲシカの分布域を明らかにし、近隣に生息するヤクシカ C. n. yakushimae(屋久島および口永良部島)やキュウシュウジカC. n. nippon(九州本土)との関係性を議論することが可能となってきた。そこで本研究では、マゲシカの遺伝的な特徴やその分布について、先行研究において報告されているミトコンドリアDNAのコントロール領域のデータを中心に再検討を行った。その結果、マゲシカの分布域とされる馬毛島および種子島の個体は、キュウシュウジカだけでなくヤクシカとも明確に異なる塩基配列を有していた。また核DNAやY染色体DNAに着目した先行研究には、マゲシカの生息地である種子島とヤクシカの生息地である屋久島間で対立遺伝子頻度に明確な違いがあることが示されていた。形態については、馬毛島および種子島のニホンジカと遺伝的にもっとも近いヤクシカとの間に明瞭な違いがあることが先行研究によって示されていた。一連の知見から、少なくとも馬毛島と種子島のニホンジカを九州に生息するニホンジカとは明確に異なる保全単位として認識することが適切であること、さらに2島間にもミトコンドリアハプロタイプの頻度をはじめとする集団遺伝学的な差異が存在する可能性が高いことが示唆された。
著者
角田 裕志 満尾 世志人 千賀 裕太郎
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.243-248, 2011-11-30
被引用文献数
1

We investigated the fish fauna in 50 irrigation ponds in Iwate prefecture, northeastern Japan. Four cases of new invasions of alien largemouth bass, Micropterus salmoides, into previously non-invaded ponds were observed during surveys from 2008 to 2009. Given the limitations of natural migration by largemouth bass, all of these cases were likely the result of illegal stocking. In three of the ponds, establishment of new populations of bass was successfully prevented by the removal of collected individuals during our survey. However, the population eradication in the remaining pond failed, and the recruitment of juveniles was observed in 2010 surveys. Our results suggest that the Invasive Alien Species Act was insufficient to prevent illegal stocking of largemouth bass and that further countermeasures such as monitoring surveys and patrolling are needed.
著者
宮本 康 西垣 正男 関岡 裕明 吉田 丈人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.2116, 2022-04-28 (Released:2022-06-28)
参考文献数
45

歴史的な人間活動の結果、沿岸域と汽水域におけるハビタットの消失が進み、これに基づく生態系機能の劣化が世界的に深刻化した。そして現在、沿岸生態系の保全が国際的に重要な課題になっている。福井県南部に位置する汽水湖沼群の三方五湖もその一例であり、沿岸ハビタットの再生が当水域の自然再生を進める上での大きな課題の一つに挙げられている。 2011年には多様な主体の参加の下、三方五湖自然再生協議会が設立され、 3つのテーマにまたがる 20の自然再生目標に向けて、 6つの部会が自然再生活動を開始した。その中の自然護岸再生部会では、既往の護岸を活かし、湖の生態系機能を向上させることを目的に、 2016年より湖毎に現地調査とワークショップを開始した。そして 2020年には、それらの結果を「久々子湖、水月湖、菅湖、三方湖、及びはす川等の自然護岸再生の手引き」として整理した。さらに、当協議会のシジミのなぎさ部会では、かつて自然のなぎさであった久々子湖の 2地点と水月湖の 1地点で、手引き書を踏まえたなぎさ護岸の再生を 2020 -2021年に実施した。本稿では、三方五湖におけるこれらの自然護岸再生に向けた実践活動を報告する。
著者
佐久間 智子 白川 勝信 中越 信和
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.289-298, 2018 (Released:2018-05-01)
参考文献数
43

放牧地や採草地として利用されてきた半自然草地には、草地特有の動植物が生息・生育しているが、半自然草地の減少に伴い、これらの動植物は絶滅の危機にさらされている。大面積の半自然草地だけでなく、小面積で分布する半自然草地も多様な草原生植物の生育地として機能しており、重要な景観構成要素として位置付ける必要がある。山頂部の草地は草原生植物のホットスポットとして重要な環境と考えられるが、生育種やそれらと環境要因との関係について明らかにされていない。本研究では、山頂部に残る半自然草地を対象として、草原生植物の種組成、種数と面積の関係、大規模な半自然草地内における山頂部の特性を明らかにし、草原生植物の生育地としての山頂部草地の位置付けについて考察した。調査地は広島県北西部に位置する8山とした。8山のうち、1山は草地利用の履歴が無く、他の山は過去に半自然草地として利用されていた。山の頂上から標高10 m差の範囲を山頂部と定義し、植物相調査を行った結果、草原生植物の出現種数は現在も草地管理が行われている「管理継続区」で最も多く、過去に草地管理が行われていない「自然区」で極端に少なかった。また、従来の草地管理が停止した「放棄区」でも、「自然区」に比べると多くの草原生植物が生育していた。山頂部における草原生植物の種数と面積の関係を比較した結果、種数と山頂部の面積には相関が認められなかったが、種数と山頂部の草地面積には正の相関が認められた。草原生植物について、周辺の草地と連続している山頂部において、山頂部と草地全域の出現種数を比較した結果、山頂部には、草地全域に生育する草原生植物の61%から75%が生育していた。以上の結果から、過去に草地管理が行われた山頂部の草地には、従来の草地管理が停止しても多くの草原生植物が残存していることが明らかになった。山頂部における草原生植物の種数と草地面積には、正の相関があり、草地面積は草原生植物の種数を限定する主要な要因であることが明らかになった。草地全域に生育する草原生植物のうち、多くの種が山頂部にも生育していることが明らかになった。
著者
佐々木 宏展 大西 亘 大澤 剛士
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.243-248, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
19
被引用文献数
1

近年の保全生態学において、研究者が非専門家である一般市民と共同で調査等を行う「市民科学」(Citizen Science)は、有効な研究アプローチとして受け入れられつつある。しかし、市民科学は本来、市民が主体の活動であり、成果を研究者らが論文としてまとめることを目的とした活動は、市民科学が持つ意味のごく一部にすぎない。市民科学という言葉が定着しつつある今日、これを短期的な流行で終わらせないために、市民科学における研究者、市民それぞれの役割やあるべき姿について再考することは有意義である。筆者らは、中学校教諭、博物館学芸員、国立研究開発法人研究員という異なった立場から市民科学について議論し、研究論文につながる、つながらないに関係なく、全ての市民科学には意義があり、成功、失敗は存在しないという結論に達した。本稿では、上記の結論に達するまでの議論内容を通し、筆者らの意見を述べたい。
著者
山口 正樹 杉阪 次郎 工藤 洋
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.111-119, 2010-05-30

アブラナ科の越年生草本タチスズシロソウArabidopsis kamchatica subsp.kawasakianaは環境省のレッドリストに絶滅危惧IB類として記載されている。生育地が減少しており、その多くが数百株以下の小さな個体群である。著者らは、2006年春に、琵琶湖東岸において3万株以上からなるタチスズシロソウの大群落が成立していることを発見した。この場所では2004年から毎年夏期にビーチバレーボール大会が行われており、砂浜が耕起されるようになった。この場所の群落は埋土種子から出現したものと考えられ、耕起により種子が地表に移動したことと、競合する多年草が排除されたごとが群落の出現を促した可能性があった。2006年には、この群落を保全するため、ビーチバレーボール大会関係者の協力のもと、位置と時期を調整して耕起を行った。その結果、3年連続で耕起した場所、2年連続で耕起後に1年間耕起しなかった場所、全く耕起しなかった場所、初めて耕起し左場所を設けることができた。この耕起履歴の差を利用し、翌2007年に個体密度と面積あたりの果実生産数を調査することで、タチスズシロソウ群落の成立と維持に重要な要因を推定した。2006年に初めて耕起した場所では、耕起しなかった場所に比べて、翌年の個体密度、面積当たりの果実生産ともに高くなった。2年連続耕起後に1年間耕起を休んだ場所では、3年連続で耕起した場所に比べて、翌年の個体数は増えたが果実生産数は増加しなかった。また、結実期間中(6月)に耕起した場所では、結実終了後に耕起した場所に比べて、翌年の個体密度と果実生産数が低下した。これらのことから、秋から春にかけてのタチスズシロソウの生育期間中には耕起を行わないことと、結実後に耕起を行うことがタチスズシロソウ個体群の保全に有効であると結論した。このことは、ビーチバレーボール大会のための耕起を適切な時期に行うことにより、砂浜の利用と絶滅危惧植物の保全とが両立可能であることを示している。
著者
大澤 隆文
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.55-61, 2017 (Released:2018-04-01)
参考文献数
38
被引用文献数
3

保全生物学の分野では長年に渡り、科学と実務の間のギャップの解消が課題になっていた。本稿では、国際および国内の両レベルにおけるギャップの現状を紹介する。国際的には、生物多様性条約の愛知目標の裏付け(根拠)やその進捗を計測するために科学的証拠・知見の必要性が課題とされている。国内においては、不足している科学的知見が明らかにされている場合もあるし、政策立案過程において様々な科学的疑問・課題が急な形で出てくる場合もある。本稿では、こうしたギャップに対応した研究の進展に寄与するため、行政が活用しやすい科学的情報の内容や提示の仕方や、研究者がそうした行政ニーズを知る方法についても意見を述べる。
著者
今村 彰生 速水 花奈 坂田 雅之 源 利文
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.71-81, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
30

サケ科イワナ属のオショロコマ(Salvelinus malma malma)は、国内では降海しない陸封型が北海道にのみ生息し、環境省レッドデータブックの絶滅危惧Ⅱ類(VU)に選定されている。一般に河川最上流域に生息し、オショロコマより下流には同属のエゾイワナ(S. leucomaenis leucomaenis)が分布するとされている。これらは、人工的河川横断構造物と外来種のニジマス(Oncorhynchus mykiss)の定着によって個体数が減少している可能性がある。そこで、環境DNA分析手法を用いて年間を通したサンプリングを行い、オショロコマ、エゾイワナ、およびニジマスそれぞれの生息の有無とその季節変化を調べた。大雪山系周辺の石狩川水系支流の支流系1、ピウケナイ川、オサラッペ川を調査地とし、構造物の上下での採水を含め、計16地点で採水を行った。その結果、支流系1流域ではオショロコマが最上流域、エゾイワナが中上流域で検出され、ニジマスは下流域でのみ検出された。ピウケナイ川流域ではオショロコマとニジマスが全地点で検出され、エゾイワナは検出されなかった。一方、オサラッペ川では3種いずれも検出率が低かった。調査地点ごとの検出の有無について一般化線形混合モデルによる解析を実施したところ、移動の時期や方向性および構造物の障壁としての機能などは明確にできなかったが、オショロコマが上流に多いのに対して、エゾイワナとニジマスは下流に多い傾向を示し、しかもオショロコマとニジマスについては排他的ではない可能性が示された。しかし、これはニジマスによる競争排除が無いことを保証せず、有効性が示された環境DNA分析を駆使し、継続的なモニタリングを行い定量的な把握を目指す必要があるだろう。
著者
北川 久美子 島野 光司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.121-131, 2010-05-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
45
被引用文献数
3

乾性放棄水田の埋土種子による水辺植生再生の可能性をさぐり、埋土種子を用いた水辺植生の再生や保全する方法を検討するため、「放棄水田」、放棄水田から水田にした前後の「復田前」と「復田」、湿性放棄水田から開墾した「池」において植生調査を行った。また復田した場所で確認された種の由来を検討するため、「復田前」から採取した土壌の埋土種子調査を行った。乾性放棄水田から水田にした「復田」とその土壌を用いた埋土種子調査から、「復田前」には見られなかった絶滅危惧種II類のミズマツバが発生した。同時に、水辺植生の構成種であるアゼトウガラシやタマガヤツリなどがみられた。また、湿性放棄水田から「池」にした地点では、絶滅危惧種IA類であるアズミノヘラオモダカ、絶滅危惧種II類であるサンショウモ、絶滅危惧種I類であるイチョウウキゴケがみられた。こうした事から、放棄水田から耕作し、水を入れることによって、放棄された当時の水辺植生を埋土種子から再生し、保全できる可能性があることがわかった。また埋土種子調査では水位によって発生した種が異なったため、再生するには水位コントロールも重要な要素であると考えられる。放棄水田の埋土種子集団が、水辺植生再生のために貴重であると考えられる。
著者
宮崎 佑介 吉岡 明良 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.235-244, 2012
参考文献数
33

朱太川水系の過去の魚類相を再構築することを目的として、博物館標本と聞き取り調査を行った。美幌博物館、北海道大学総合博物館水産科学館、市立函館博物館、国立科学博物館において、朱太川水系から採集された魚類標本の調査を行い、13種の魚類標本の所在を確認することができた。しかし、市立函館博物館の1923年以前の標本台帳に記されているイトウ標本の所在は不明であった。また、朱太川漁業協同組合の関係者18名に過去の朱太川水系の魚類相に関する聞き取り調査を行い、42種の魚類の採集・観察歴について情報を得た。同定の信頼性が高いと考えられるのはそのうちの34種であり、地域の漁業協同組合の保護・増殖の対象種であるかどうかと、聞き取り対象者が生息量の増減を認識していたかどうかは、有意に相関していた。カワヤツメなどの氾濫原湿地を利用する魚類の生息量の減少を指摘する回答者が12名いた。現在は見られないイトウが過去に確かに生息していたこと、カワヤツメの生息量が急減したことが聞き取りからほぼ確かであることが判明し、黒松内町の生物多様性地域戦略における自然再生の目標設定、すなわち「氾濫原湿地の回復」の妥当性が確認された。多くの人々が関心をもって観察・採集してきた生物種については、聞き取り調査によって量の変化に関する情報を得ることができる可能性が示唆された。
著者
上野 裕介 江口 健斗
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.2218, 2023-04-30 (Released:2023-09-05)
参考文献数
26

希少種のインターネット取引は、世界的に喫緊の課題となっている。希少種の中でも採集による地域個体群の消滅が強く懸念される分類群に、小型サンショウウオ類がある。日本には 2022 年 2 月現在で 45 種の小型サンショウウオ類が生息し、うち 42 種が環境省のレッドリスト 2020 に掲載されている。さらに近年も分類学的研究が続けられており、この 10 年間に各地の地域個体群が相次いで新種記載されている。また山中の小さな繁殖池に集まり、集団で産卵する種も多いため、成体や卵のう、幼生の大量採集が行われる危険がある。そこで本研究では、希少野生生物種の取引実態の一端を明らかにするために、個人間取引が盛んなインターネット・オークションに着目し、小型サンショウウオ類の取引状況を調べ、その課題を明らかにした。調査では、国内の各インターネットオークションサイトでの取引履歴(商品名、価格、落札日、商品画像や説明など)の情報を網羅的にアーカイブし、無償または有償で提供している企業の情報を用いて、2011 年 1 月から 2020 年 12 月までにオークションサイトの「ペット・生き物」カテゴリに出品、落札された小型サンショウウオ類(生体)を調べた。その結果、日本最大級のオークションサイトでは過去 10 年間で 28 種、計 4,105 件(落札総額 14,977,021 円)の取引が確認できた。種ごとの取引件数は、環境省のレッドリストで絶滅危惧 IB 類(EN)もしくは II 類(VU)に選定されているカスミサンショウウオ群が最も多く(962 件)、次いでクロサンショウウオ、ヒダサンショウウオ群、エゾサンショウウオの順に多かった。小型サンショウウオ類全体での年間の取引件数は、当初は年 200 件ほどで推移していたものの、近年、急激に増加し、2020 年は年 1,117 件(合計落札額 5,282,518 円)を超えていた。この急増は、出品回数の特に多い数人の個人によるものであった。また分類学的研究が進み、それまで隠ぺい種だった地域個体群が新種として記載された後には、それらの種の取引件数が 2 倍以上に増えることがわかった。それゆえ、希少種や地域個体群保全の観点から早急な対策が求められる。なお本調査手法は、他の動植物の取引実態調査にも容易に適用可能である。
著者
高橋 満彦 早矢仕 有子 菊地 直樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2232, (Released:2023-07-05)
参考文献数
21

野生動物観光(wildlife tourism)は世界中で年間 3436億米ドルの GDPと 21億 8千万人の雇用をもたらしている。バードウォッチングは野生動物観光の中でもっとも持続可能な活動の一つとされているが、非消費的利用とは言え、人が生息地に入り込む等で脆弱な状況にある絶滅危惧種に負の影響を及ぼすような過剰利用が起こるため、日本版レッドデータブックに掲載されている猛禽類 14種のうち 4種は、観察や写真撮影など故意による人の接近が絶滅の加速要因に挙げられている。本特集は、適切な観察方法の遵守を法規制を含めた手段で確保し、リスクを減らした上で観光資源として活用し、得られた収益で地域経済へ貢献すること等で、観光利用と保全を調和的に展開されるための方途を示している。
著者
鎌田 泰斗 清水 瑛人 佐藤 雄大 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.2016, 2020 (Released:2020-12-31)
参考文献数
76

殺虫剤は農業において不可欠であるが、人体や標的外の野生生物に多大な影響を及ぼすことが絶えず問題視されている。カエル類の多くは、産卵期から幼生期にかけて水田に依存しており、その時期が水稲栽培における殺虫剤の施用時期と重複していることから、潜在的に暴露リスクを抱えている生物種といえる。殺虫剤の暴露をうける発生初期は、生体内のあらゆる器官が形成される発生ステージであり、その時期における殺虫剤による生体機能の攪乱は、その後の生存に重篤な影響を及ぼす可能性が高い。本研究では、水田棲カエル類のニホンアマガエルとヤマアカガエルを指標生物とし、両種の初期発生過程における、ネオニコチノイド系殺虫剤クロチアニジン、ネライストキシン系殺虫剤カルタップ、およびジアミド系殺虫剤クロラントラニリプロールの 3種の殺虫剤が及ぼす発生毒性を、暴露試験を通じて検証し、種間による感受性の差異および殺虫剤原体と製剤間における影響の差異を明らかにした。ニホンアマガエルおよびヤマアカガエル両種に共通して、カルタップ暴露により奇形率および死亡率の増加が認められた。一方で、クロチアニジンおよびクロラントラニリプロールにおいては、催奇形性は認められなかった。カルタップ原体に対する感受性には種差が認められ、ヤマアガエルにおいては、 0.2 mg/Lで奇形率および死亡率が増加したのに対し、ニホンアマガエルにおいては、 0.02 mg/Lで奇形率および死亡率が増加した。発症した奇形パターンは、ニホンアマガエルとヤマアカガエルに共通して、脊椎褶曲と水腫が見られ、ニホンアマガエルでのみ脱色が認められた。また、カルタップ製剤処理群においては、原体処理群と比較して、脊椎褶曲の発症率は高く、水腫の発症率は低かった。本研究では、カルタップの分解物であるネライストキシンが水田棲のカエル類、特にニホンアマガエルの初期発生に深刻な影響を与えていることが示唆された。さらに、生存率の低下につながると考えられる脊椎褶曲や脱色が、カルタップの施用基準濃度において発生している可能性が考えられた。