著者
石川 真一 高橋 和雄 吉井 弘昭
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.11-24, 2003
参考文献数
33
被引用文献数
8

群馬県内利根川中流域における外来植物オオブタクサ(Ambrosia trifida)の分布状況を調査した結果,県南端に位置する明和町から,県北端の水上町(源流から約30km下流)の範囲において,大きな個体群が30地点で確認され,このうち最大のものは約687万個体からなり,年間約17億の種子を生産していると推定された.またこの30地点はすべて工事現場や採石場周辺などの,人為的撹乱地であった.温度-発芽反応実験の結果,オオブタクサは寒冷地に分布すると,より低温で発芽し,高温では休眠するようになる可能性が示唆された.水上町の個体群と群馬県南部の伊勢崎市の個体群において残存率調査と生長解析を行った結果,オオブタクサは北の低温環境下においても南部と同等かそれ以上の相対生長速度を有していたが,エマージェンス時期が遅くて生育期間が短いため,個体乾燥重量は小さくなった.しかし水上町では,伊勢崎市に比べて個体乾燥重量あたりの種子生産数と残存率および個体群密度が高いため,単位面積あたりでは伊勢崎市より多くの種子を生産していた.これらの結果から,オオブタクサが今後も低温環境下において勢力を拡大する危険性があるとことが示唆され,拡大防止の一方策として,河川周辺における人為的撹乱の低減と,種子を含む土壌が工事車両によって移動することを防止する必要性が提言された.
著者
田村 淳 入野 彰夫 勝山 輝男 青砥 航次 奥津 昌哉
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.195-203, 2011-11-30

ニホンジカにより退行した丹沢山地の冷温帯自然林において、植生保護柵(以下、柵)による神奈川県絶滅危惧種(以下、希少植物)の保護効果を評価するために、9地区62基で希少植物の有無と個体数を調べた。また、希少植物の出現に影響する要因を検討した。その結果、合計20種の希少植物を確認した。そのうちの15種は『神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006』においてシカの採食を減少要因とする希少植物であった。一方、柵外では6種の希少植物の確認にとどまった。これらの結果から、丹沢山地の柵は希少植物の保護に効果を発揮していると考えられた。しかし、ノビネチドリなど10種は1地区1基の柵からのみ出現して、そのうち8種の個体数は10個体未満であった。このことから環境のゆらぎや人口学的確率性により地域絶滅する可能性もある。継続的な柵の維持管理と個体数のモニタリングが必要である。また、各地区の柵内で出現した希少植物の種数を目的変数として、柵数、柵面積、標高、その地区の希少植物フロラの種数を説明変数として単回帰分析したところ、希少植物の種数は希少植物フロラの種数と正の強い相関があった。この結果から、希少植物を保護ないし回復させるためには希少植物のホットスポットに柵を設置することが有効であり、希少植物の分布と位置情報を事前に押さえておくことが重要であると結論した。
著者
福本 一彦 勝呂 尚之 丸山 隆
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.47-53, 2008-05-30
被引用文献数
1

栃木県大田原市羽田ミヤコタナゴ生息地保護区のミヤコタナゴの減少原因を明らかにするため、羽田産マツカサガイ及びシジミ属の産卵母貝適性実験を行った。その結果、羽田産マツカサガイは久慈川産マツカサガイに比べて産卵母貝としての利用頻度が低く、産着卵数が少なく、かつ卵・仔魚の生残率も著しく低いことが確かめられた。また、シジミ属は産卵母貝としての利用頻度が低く、産卵しても孵化しないことが裏付けられた。以上の結果から、1990年代後半の羽田ミヤコタナゴ個体群の急激な衰退の過程において、水源の水質悪化によって引き起こされたマツカサガイの生理的異常に起因するミヤコタナゴの産卵頻度の低下と、卵・仔魚の生残率の大幅な低下が重要な役割を演じた可能性が高いと考えられた。
著者
森 貴久 高取 浩之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.76-79, 2006-06-25

Nature and wildlife observation is a popular activity that attracts many people. From the viewpoint of conservation ecology, it is important to know the effect of such human activity on the wildlife concerned. The giant flying squirrel (Petaurista leucogenys) is a recent, popular subject of observation in Japan. Yakuo-In Temple in Takao, Tokyo, is a renowned location for the observation of giant flying squirrel. However, the observation of this species at the temple only became popular in the mid1990s. Observation records made by a high school club revealed that giant flying squirrel in Yakuo-In departed their nests 30 min after sunset in 1987-1998; here, we report nest departure data for 2003-2004. Giant flying squirrel that lived in a highly visited nature-observation area departed their nests 60 min after sunset on average, whereas those that lived in a more secluded area departed their nests 30 min after sunset. Giant flying squirrel also departed their nests later when there were >20 observers near the nest. Thus, wildlife observation activity is responsible for the delay in the time of departure from the nest in giant flying squirrel.
著者
丹羽 英之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.2113, 2022-04-15 (Released:2022-06-28)
参考文献数
16

水生植物の生育域は人為的な影響を受けやすいエリアであり、外来生物の侵入が顕著になっている。水生植物の動態を理解し保全していくためには、空間スケールに応じたリモートセンシング技術の確立が重要となる。そこで、 Pole photogrammetryを応用した水生植物の詳細な植生図作成方法を提案し、湧水域で水生植物分布を定量的に把握することで、その有効性を実証することを目的とした。淀川水系桂川の犬飼川の合流点上流の河道内にみられる湧水流を調査対象地とした。カメラスタビライザーに取り付けたカメラで水域を撮影した。撮影した動画を SfM-MVS Photogrammetryで処理し、オルソモザイク画像を作成し、目視判読により種ごとのパッチポリゴンを作成した。作成したオルソモザイク画像の地上分解能は高く混生する種を識別することができた。オルソモザイク画像の判読により植生図データを作成することで、種ごとの分布面積が算出でき、定量的な分析が可能になる。さらに区間に分割して分析することで水生植物の流程分布を把握することができた。調査対象とした湧水流は出現種数が多く希少な湧水域の 1つだといえる。しかし、同時に外来種の侵入もみられることから、流程分布を考慮した生態系管理を実践していくことが重要である。
著者
髙久 宏佑 諸澤 崇裕
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2109, 2021-10-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
27
被引用文献数
6

日本における観賞魚飼育は古くから一般的なものであり、近年では希少性や美麗性から日本に生息する絶滅危惧魚類も取引対象として扱われるようになってきた。さらにネットオークションによる取引の増加に伴い、個人等による野外採集個体の消費的な取引の増加も懸念されているが、一方で絶滅危惧種の捕獲、流通に係る定量的データの収集は難しく、種ごとの取引現況について量的な把握が行われたことはない。そこで本研究では、環境省レッドリストに掲載されている 184種の絶滅危惧魚類の取引の実態把握を目的として、ネットオークションにおける 10年間分の取引情報を利用した大局的な集計と分析を行うとともに、取引特性の類型化を試みた。取引データ集計の結果、ネットオークションでは 88種の取引が確認された。また、全取引数の過半数以上は取引数の多い上位 10種において占められており、さらにアカメ、オヤニラミ、ゼニタナゴの 3種の取引が、そのうちの大部分を占めていた。取引数や取引額、養殖や野外採集と思われる取引数等を種ごとに集計した 6変数による階層的クラスター分析の結果では、 8つのサブグループに分けられ、ネットオークションでの取引には、主流取引型、薄利多売型、高付加価値少売型等のいくつかの特徴的な類型を有することが分かった。また、特に多くの取引が確認されたタナゴ類の中には、養殖個体として抽出された取引が多く認められる種がおり、一部の種については、他の観賞魚のように養殖個体に由来する取引が主流になりつつある可能性が考えられた。
著者
宮崎 佑介 松崎 慎一郎 角谷 拓 関崎 悠一郎 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.291-295, 2010-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
27
被引用文献数
2

岩手県一関市にある74の農業用ため池において、2007年9月〜2009年9月にかけて、コイの在・不在が浮葉植物・沈水植物・抽水植物の被度に与えている影響を明らかにするための調査を行った。その結果、絶滅危惧種を含む浮葉植物と沈水植物の被度が、コイの存在により負の影響を受けている可能性が示された。一方、抽水植物の被度への有意な効果は認められなかった。コイの導入は、農業用ため池の生態系を大きく改変する可能性を示唆している。
著者
辻田 有紀 村田 美空 山下 由美 遊川 知久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.1906, 2019 (Released:2020-01-13)
参考文献数
47

近年、果実に寄生するハエ類の被害が全国の野生ランで報告され、問題となっている。ハエ類の幼虫は子房や果実の内部を摂食し、種子が正常に生産されない。しかし、被害を及ぼすハエ類の種や寄生を受ける時期や部位が、ランの種によって異なることが指摘されており、適切に防除するためには、ランの種ごとに被害パターンを明らかにする必要がある。そこで、国内に自生する 4種のランについてハエ類の被害状況を調査した。その結果、 4種すべてにおいて、ランミモグリバエの寄生を確認した。また、本調査で被害を確認した地域は、福島県、茨城県、千葉県、高知県と広域に及んでいた。調査した 4種のうち、コクランとガンゼキランでは、果実内部が食害を受けていたが、ナツエビネとミヤマウズラでは、主に花序が幼虫による摂食を受け、開花・結実に至る前に花茎上部が枯死しており、ランの種によって食害を受ける部位が異なった。ミヤマウズラでは福島県産の株に寄生を確認したが、北海道産の株にはハエ類の寄生が見られず、地域により被害状況が異なる可能性が明らかになった。本調査より、絶滅に瀕した多くのラン科植物がハエ類の脅威にさらされている現状が改めて浮き彫りとなり、ランミモグリバエの防除はラン科植物を保全する上で喫緊の課題である。
著者
稲留 陽尉 山本 智子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.63-71, 2012-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
27
被引用文献数
2

タナゴ類は、コイ科タナゴ亜科に属する魚類で、繁殖を行う際に二枚貝を産卵床として利用することが最大の特徴である。鹿児島県には、アブラボテTanakia limbata、ヤリタナゴT. lanceolata、タイリクバラタナゴRhodeus ocellatus ocellatus 3種のタナゴ類が生息し、北薩地域は、アブラボテの国内分布の南限となっている。アブラボテなど在来タナゴ類は、外来タナゴ類との競合や種間交雑が危惧されているが、鹿児島県内ではこれらのタナゴ類の詳細な分布の記録が残っておらず、在来種と外来種が同所的に生息する状況についても調べられていない。そこで本研究では、北薩地域を中心にタナゴ類とその産卵床であるイシガイ類の分布を調べ、同時にタナゴ類各種によるイシガイ類の利用状況を明らかにすることを目的とした。調査は、2007年4月から2008年10月まで、鹿児島県薩摩半島北部の16河川で行った。タナゴ類はモンドリワナを用いて採集し、イシガイ類は目視や鋤簾による採集で分布を確認した。採集したイシガイ類の鯉を開口器やスパチュラを使って観察し、タナゴ類の産卵の有無を確認した。アブラボテとタイリクバラタナゴが各5河川で確認され、ヤリタナゴは1河川でのみ採集された。このうち2河川ではアブラボテが初めて確認され、アブラボテとタイリクバラタナゴの2種が生息していた江内川では、両種の交雑種と見られる個体が採集された。イシガイ類については、マッカサガイPronodularia japanensis、ニセマツカサガイInversiunio reinianus yanagawensis、ドブガイAnodonta woodianaの3種の分布が確認された。それぞれのタナゴ類は、産卵床として特定のイシガイを選択する傾向が見られたが、交雑種と思われる個体も採集された。このことから、それぞれの好む二枚貝の種類や個体数が限られた場合、この選択性は弱くなるものと考えられる。
著者
中井 克樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.171-180, 2001-01-15 (Released:2018-02-09)
参考文献数
26
被引用文献数
2

わが国で問題とされている外来生物のなかで,全国的規模で野生化しその状況を歓迎する人々が数多く存在する点で,ブラックバス類は特異である.ここでは,ブラックバス類を含めた外来魚の管理法の検討に資するため,魚の放流にかかわる日本人の文化的・精神的土壌についての考察をもとに,観賞魚の輸入や内水面漁業における放流の現状を概観したうえで,外来魚をめぐる問題の所在と対処の方策を考察する.
著者
浮田 悠 佐藤 臨 大澤 剛士
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2219, (Released:2023-04-30)
参考文献数
43

日本人にとって身近な生き物であるゲンジボタル Luciola cruciata は、レクリエーション目的等により各地で放流が行われている一方で、開発圧等による生息地の劣化、それに伴う個体数の減少も報告されている。地域における遺伝的構造、遺伝的多様性を考慮した上での絶滅地域への適切な再導入(re-introduction)や、個体数減少地域に対する補強(re-inforcement/supplementation)は、必ずしも推奨される手法ではないものの、その地域に生息する種の保全を目的とした手段の一つになりうる。既に各地で放流が行われている本種に対し、適切な放流の方法を示すことは、無秩序な放流の抑制に繋がることが期待できる。そこで本研究は、既存のゲンジボタル放流における指針においてほとんど言及のない、適切な放流場所の選定について、過去から現在にわたる土地被覆に注目して検討を行った。過去の土地被覆は現在から改変等を行うことはできないため、もし過去の土地被覆履歴がゲンジボタルの生息可能性に影響していた場合、現在の土地被覆のみから好適な環境を判断して放流を行うことは、個体が定着できない無意味な放流につながってしまう可能性がある。東京都八王子市および町田市の一部において面的なゲンジボタルの生息調査を行い、ホタルの生息と現在および過去の土地被覆の関係について統計モデルおよび AIC によるモデル選択によって検討したところ、現在の土地被覆のみを説明変数としたモデルでは開放水面面積のみが選択され(AIC 271.11)、過去の土地被覆も考慮したモデルでは、AIC の差は僅かであったものの、現在の開放水面面積に加え、1980 年代の森林面積、 1960 年代の農地面積が選択され(AIC 270.44)、これらが現在のホタル生息に影響を及ぼしている可能性が示された。この結果は、現在の土地利用のみから放流地を選定した場合、放流個体が定着できず、死滅してしまう可能性を示唆するものであり、過去の土地被覆が有効な再導入、補強を行う上で欠かすことができない重要な前提条件になる可能性を示唆するものである。ゲンジボタルの放流は各地で行われてきているため、今後は様々な地域における検証の積み重ねが望まれる。
著者
矢口 瞳 星野 義延
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2039, 2021-08-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
72

武蔵野台地コナラ二次林において、植生管理や管理放棄による植物と昆虫の機能群ごとの種数への影響を把握するため調査を行った。更新伐採、下刈り・落葉掻き、常緑樹の除伐といった管理が行われた林分と放棄された林分で植生調査、昆虫のルートセンサス調査とピットフォールトラップ調査を行った。植生調査で 175種の植物が確認され、ルートセンサス調査で 243種、ピットフォールトラップ調査で 56種の昆虫が確認された。植物の機能特性としてラウンケアの休眠型、葉の生存季節、生育型、地下器官型、花粉媒介様式、開花・結実季節、種子散布型、種子重を、昆虫の機能特性として幼虫と成虫の食性、成虫の出現季節、成虫の体長を文献で調べた。機能特性データを用いて、クラスター解析により機能群に分類した結果、植物は 8つの機能群( PFG)、昆虫は 6つの機能群(IFG)に分類された。 PFGの分類には種子散布型と結実季節が大きく影響し、管理されたコナラ二次林に典型的な草本種や埼玉県レッドデータブック掲載種を含む機能群、コナラ二次林に典型的な木本種を含む機能群、遷移の進行を指標する常緑植物を含む機能群などに分けられた。 IFGの分類には食性と体サイズが大きく影響し、小型・中型・大型別の植食昆虫機能群、肉食昆虫を含む機能群、糞食・腐肉食昆虫を含む機能群に分けられた。植物の種ごとの被度と昆虫の種ごと出現回数を標準化して統合し、 CCAによる調査区と種の序列を得た。また PFG種数と IFG種数を統合し、 RDAによる調査区と機能群の序列を得た。植物の種と機能群は落葉掻きや下刈りなどによる土壌硬度や堆積落葉枚数の変化と関連がみられ、昆虫の種と機能群は伐採や常緑樹の除伐による樹冠開空度の変化と関連がみられた。植物機能群は伐採と下刈り・落葉掻きによりコナラ二次林に典型的な草本種を含む機能群の種数が増加し、管理放棄により常緑植物を含む機能群の種数が増加した。昆虫機能群はすべての管理により小型植食昆虫機能群の種数が増加し、伐採により大型植食昆虫機能群の種数が増加した。以上より、林床の管理が植物の、高木層や低木層の管理が昆虫の機能群構成に大きく影響していた。本研究の植物と昆虫の機能群の分類はコナラ二次林での伐採や下刈り・落葉掻き、常緑樹の除伐といった植生管理の種多様性保全効果の指標として有効と言える。
著者
中村 誠宏 寺田 千里 湯浅 浩喜 古田 雄一 高橋 裕樹 藤原 拓也 佐藤 厚子 孫田 敏 伊藤 徳彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.1816, 2019-11-08 (Released:2020-01-13)
参考文献数
17

北海道中川郡音威子府村から中川町を結ぶ全長 19.0 kmの一般国道 40号音威子府バイパスの建設が 2007年から始まっている。北海道大学中川研究林を通過する区間では、周辺地域のトドマツ及びミズナラ、シナノキ、オヒョウなどが生育する北方針広混交林生態系に対してより影響の少ない管理手法の開発が検討されている。 2010年より検討を開始し、翌年より施工手法や装置の開発、施工対象予定地での事前調査を行った。 2013年に試験施工を行い 2014年よりモニタリングを開始した。本研究では表土ブロック移植に注目して、 1)これまでより安価な表土ブロック移植の簡易工法の開発、 2)すき取り表土と比較して簡易表土ブロック工法が施工初期の草本層植生や土壌動物群集に与える影響、 3)それらの回復について 2014年と 2015年の 8月下旬に調査を行った。本工法では装置開発を最小限にして、一般的に用いられる建設機械を利用したことから、施工費が大幅に削減された。表土ブロック区では在来種の被度がより高かったが、すき取り土区では外来種の被度がより高かったため、植物全体の被度は処理間でそれ程大きな違いはなかった。ヒメジョオンのような 2年生草本の種数はすき取り土区でより多かったが、多年生草本と木本の種数は表土ブロック区でより多かったため、植物全体の種数は表土ブロック区でより多かった。さらに、移植元の植物相との類似度も表土ブロック区でより高くなった。一方、リター層も土壌層も土壌動物の個体数は表土ブロック区でより多く、種数も表土ブロック区でより高かった。リター層を除く土壌層のみ表土ブロック区において移植元の土壌動物相との類似度がより高くなった。本研究の結果から、開発した表土ブロック移植の簡易工法は植物と土壌動物に対して早期の回復効果を持つことが示された。
著者
上杉 龍士 西廣 淳 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.13-24, 2009-05-30
被引用文献数
1

日本において絶滅が危惧されている多年生の浮葉植物であるアサザの生態的・集団遺伝学的現状を明らかにするため、レッドデータブックや地方植物誌などから存在の可能性が示唆された国内の局所個体群について2001年から2003年の開花期にあたる8月から9月に踏査調査を行い、局所個体群の存否、各局所個体群における展葉面積、異型花柱性の花型構成(長花柱型・短花柱型・等花柱型)を調査した。また、それぞれの局所個体群から葉を採取し、マイクロサテライト10座を用いて遺伝的特性を評価した。確認された局所個体群数は64であり、27水系に存在していた。本種は異型花柱性植物であり適法な受粉を行うためには長花柱型と短花柱型の両方が必要であるが、開花を確認した33局所個体群のうちで、それら3つの花型が確認されたのは霞ヶ浦内の2局所個体群のみであった。各局所個体群から2〜57シュートの葉を採集して遺伝解析を行なった結果、同定された遺伝子型は全国で61であった(うち7は自生地では絶滅し系外で系統保存)。また多くの局所個体群は、単一もしくは少数のジェネットから構成されていた。しかし、例外的に長花柱型と短花柱型の両花型を含む霞ヶ浦内の1局所個体群では、遺伝的に近縁な10もの遺伝子型が確認された。有性生殖の存在がジェネットの多様性を生み出したものと考えられる。有性生殖が行われていない局所個体群では、突発的な環境変動によって消滅した場合に、土壌シードバンクから個体群が回復する可能性は低い。またジェネット数が極端に少ないことは、次世代に近交弱勢を引き起こす可能性を高める。これらの要因が、日本におけるアサザの絶滅リスクを高める可能性がある。維管束植物レッドリストの2007年見直し案では、アサザは絶滅危惧II類から準絶滅危惧種に格下げされている。しかし、今後も絶滅危惧種とみなして保全を進める必要があると考えられる。
著者
内藤 和明 菊地 直樹 池田 啓
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.181-193, 2011-11-30 (Released:2017-08-01)
参考文献数
48
被引用文献数
4

2005年の豊岡盆地におけるコウノトリCiconia boycianaの放鳥に続き、2008年には佐渡でトキNipponia nipponが放鳥されるなど、絶滅危惧動物の再導入事業が国内で近年相次いで実施されるようになってきた。飼育下で増殖させた個体の野外への再導入事例は今後も増加していくことが予想される。本稿では、豊岡盆地におけるコウノトリの再導入について、計画の立案、予備調査、再導入の実施までの経過を紹介し、生態学だけでなく社会科学的な関わりも内包している再導入の意義について考察した。再導入に先立っては、IUCNのガイドラインに準拠したコウノトリ野生復帰推進計画が策定された。事前の準備として、かつての生息地利用を明らかにするコウノトリ目撃地図の作製、飛来した野生個体の観察による採餌場所の季節変化の把握、採餌場所における餌生物量の調査などが行われた。豊岡盆地では、水田や河川の自然再生事業と環境修復の取り組みが開始された。予め設定した基準により選抜され、野生馴化訓練を経た個体が2005年から順次放鳥され、2007年からは野外での巣立ちが見られるようになった。コウノトリは多様なハビタットで多様な生物を捕食しているので、再導入の成否は生物群集を再生することにかかっている。このことは、地域の生物多様性の保全を通じて生態系サービスを維持するという地域社会に共通の課題にも貢献することになる。
著者
渡部 俊太郎 大西 信徳 皆川 まり 伊勢 武史
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1822, (Released:2020-03-05)
参考文献数
43

生物の種や群集の分布情報の把握やモニタリングは、環境科学や自然資源の管理の研究を行う上で最も重要な課題であり、これらの遂行のためには正しい種同定の技術が欠かせない。しかし、種同定の作業には大きな労力がかかる。画像に基づく生物種の自動同定は種同定や種の分布のマッピングの労力を削減するうえで有望な技術になるかもしれない。本稿では、近年画像認識や分類の分野で画期的な成果をあげている深層学習(deep learning)の技術に焦点を当てる。まず、深層学習の主要なアルゴリズムであるニューラルネットワークおよび、畳み込みニューラルネットワークの技術的な背景について簡単に説明を行う。次に、深層学習の技術の適用事例として、植物の種識別およびリモートセンシングでの植生マッピングの研究事例を紹介し、今後の展望を述べる。深層学習の実用化により、画像分類や物体検知などの精度が飛躍的な向上を見せつつある。今後、生態学にかかわる様々な画像データを体系的に整理することで、これまで大きな労力を要してきた生物多様性や植生のマッピング・モニタリングを従来よりもはるかに低労力でかつ高い時間解像度で行うことが可能になることが期待される。
著者
寺川 眞理 松井 淳 濱田 知宏 野間 直彦 湯本 貴和
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.161-167, 2008-11-30 (Released:2018-02-09)
参考文献数
27
被引用文献数
3

大型果実食動物が絶滅した「空洞化した森林」では種子散布者が喪失し、植物の種子散布機能の低下が生じていると危惧されている。本研究では、ニホンザルが絶滅した種子島に着目し、サルの主要餌資源のヤマモモを対象に、種子の散布量が減少しているかを調べた。種子島と近隣のニホンザルが生息する屋久島にて、ヤマモモの結実木を直接観察し、散布動物の種構成と訪問頻度、採食果実数を求めた。屋久島で73時間46分、種子島で63時間44分の観察を行い、調査地の周辺では果実食動物がどちらの島でも10種ずつ確認されたが、ヤマモモに訪れたのは、主にニホンザル(屋久島のみ)とヒヨドリ(屋久島と種子島)に限られていた。ニホンザルは、ヒヨドリに比べて滞在時間が長く、採食速度も速いため、1訪問あたりの採食果実数は20倍以上の差があった。この結果は、ニホンザル1個体が採食したヤマモモの果実量をヒヨドリが採食するには20羽以上の個体が必要であることを意味する。しかしながら、本研究では、屋久島と種子島のヒヨドリのヤマモモへの訪問個体数は同程度であった。ヤマモモ1個体あたりの1日の平均果実消失量は、屋久島ではニホンザルにより893.0個、ヒヨドリにより25.1個の合計918.1個、種子島ではヒヨドリのみで24.0個であり、サルが絶滅した種子島では、ヤマモモの果実が母樹から持ち去られる量が極めて少ないことが示された。本研究の結果は、ニホンザルが絶滅した場合にヒヨドリがその効果を補うことはできない可能性を示しており、温帯においても空洞化した森林での種子散布者喪失の影響を評価していくことは森林生態系保全を考える上で今後の重要な課題であると考えられる。
著者
井上 太貴 岡本 透 田中 健太
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2041, (Released:2021-08-31)
参考文献数
48

半自然草原は陸上植物の多様性が高い生態系であるが、世界でも日本でも減少している。草原減少の要因を把握するには、各地域の草原の分布・面積の変遷を明らかにする必要があるが、これまでの研究の多くは戦後の草原減少が扱われ、また、高標高地域での研究は少ない。本研究は、標高 1000 m以上の長野県菅平高原で、 1722年頃-2010年までの約 288年間について、1881-2010年の 130年間については地形図と航空写真を用いて定量的に草原の面積と分布の変遷を明らかにし、 1722年頃-1881年の約 159年間については古地図等を用いて定性的に草原面積の変遷を推定した。 1881年には菅平高原の全面積の 98.5%に当たる 44.5 km2が一つの連続した草原によって占められていた。1722-1881年の古地図の記録も、菅平高原の大部分が草原であったことを示している。しかし、2010年には合計 5.3 km2の断片化した草原が残るのみとなり、 1881年に存在した草原の 88%が失われていた。草原の年あたり減少率は、植林が盛んだった 1912-1937年に速く、 1937-1947年には緩やかになり、菅平高原が上信越高原国立公園に指定された 1947年以降に再び速くなった。全国の他地域との比較によって、菅平高原の草原減少は特に急速であることが分かった。自然公園に指定された地域の草原減少が、全国平均と比べて抑えられている傾向はなかった。草原の生物多様性や景観保全のためには、自然公園内の草原の保全・管理を支援する必要がある。
著者
後藤 然也 小池 文人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1904, (Released:2021-04-20)
参考文献数
29

農業被害などの人間との軋轢や豚熱 CSFの感染拡大が問題となっているイノシシ Sus scrofaの管理には、広域において利用でき持続的かつ容易に利用可能な密度指標が必要であるが、適切な手法が確立されていない。本研究では関東地方西部の 90 km×92 kmの地域に 18 km×23 kmの調査メッシュを 18個設定し、各メッシュにさまざまな植生や地形を通過する約 10 kmの調査ラインを設定してラインセンサスによりイノシシの堀跡密度(堀跡数 /km)の分布を調べた。地形や植生などの局所的環境の選好性の影響を除去するため、堀跡地点とともに調査ライン上の定間隔点をバックグラウンド地点として植生や地形などの環境を調査し、メッシュ固有の効果を含むロジスティック回帰分析を行なうことで、環境の影響を補正した堀跡密度(堀跡数 /km)を得た。別の方法により検証するため一部のメッシュにカメラトラップを設置し撮影頻度(撮影回数 /カメラ・日)を調査した。ここでもポアソン回帰で局所環境の影響を除いたメッシュごとのカメラによる撮影頻度(撮影回数 /カメラ・日)を求めた。野外調査で得られた堀跡密度は関東山地の人里周辺や海沿いで高く、三浦半島の生息地では中程度で、イノシシ個体群の生息情報がほとんどない平地では低く、従来の分布情報とおおむね一致していた。堀跡密度とカメラトラップの撮影頻度は正の相関を示したが、局所環境により補正したものは調査地点数が限られることもあり本研究では統計的に有意でなかった。イノシシは多様な環境を含む景観を利用し、掘り起こし場所の環境に強い嗜好性を持っていたが、このことは堀跡調査で個体群密度を評価するには個体の行動域を超える大きな空間スケールで調査を行い、統計モデルで局所環境の影響を補正する必要を示唆する。今後はカメラトラップによる絶対密度推定法などを用いて、堀跡を用いた密度指標を検証することが望まれる。
著者
石川 哲郎 高田 未来美 徳永 圭史 立原 一憲
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.5-18, 2013-05-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

1996〜2011年に、沖縄島の266河川において、外来魚類の定着状況と分布パターンを詳細に調査した結果、13科に属する30種1雑種の外来魚類を確認した。このうち、温帯域から熱帯域を含む様々な地域を原産とする合計22種(国外外来種19種、国内外来種4種)が沖縄島の陸水域で繁殖していると判断され、外来魚類の種数は在来魚類(7種)の3倍以上に達していた。繁殖している外来魚類の種数は、20年前のデータと比較して2倍以上に増加していたが、これは1985年以降に18種もの観賞用魚類が相次いで野外へ遺棄され、うち10種が繁殖に成功したことが原因であると考えられた。外来魚類の分布は、各種の出現パターンから4グループに分けられた:極めて分布が広範な種(カワスズメOreochromis mossambicusおよびグッピーPoecilia reticulata)、分布が広範な種(カダヤシGambusia affinisなど4種)、分布が中程度の広さの種(マダラロリカリアPterygoplichthys disjunctivusなど5種)および分布が狭い種(ウォーキングキャットフィッシュClarias batrachusなど20種)。外来魚類の出現頻度と人口密度との間には正の相関が認められ、外来魚類の出現パターンと人間活動との間に密接な関係があることが示唆された。外来魚類は、導入から時間が経過するほど分布を拡大する傾向があったが、その速度は種ごとに異なっていた。特に、日本本土やヨーロッパにおいて極めて侵略的な外来魚類であると考えられているモツゴPseudorasbora parva、オオクチバスMicropterus salmoidesおよびブルーギルLepomis macrochirusの分布拡大が遅く、外来魚類の侵略性が導入された環境により異なることが示唆された。沖縄島の陸水域において新たな外来魚類の導入を阻止するためには、観賞用魚類の野外への遺棄を禁ずる法規制の整備と共に、生物多様性に対する外来生物の脅威について地域住民に啓発していくことが重要である。