著者
柳 洋介 高田 まゆら 宮下 直
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.65-74, 2008-05-30 (Released:2018-02-09)
参考文献数
51
被引用文献数
7

房総半島の森林において、シカが土壌の物理環境へ与える影響とその因果関係を明らかにするための広域調査と野外操作実験を行った。広域調査では、シカ密度と森林タイプ(スギ林、ヒノキ林、広葉樹林)の異なる林で、土壌硬度やリター量といった土壌の変数と、下層植生の被度や斜度などの環境変数を調査した。このデータをもとに、パス解析とBICを用いたモデル選択を行い、因果関係を推定した。スギ林においては、シカ密度はリター量や土壌硬度に何ら影響を与えていなかった。ヒノキ林では、シカ密度が下層植生被度の減少を通して土壌硬度を上昇させ、リター量を減少させる間接的な経路が検出されたが、広葉樹林では、シカ密度が土壌硬度に直接影響する経路が選択された。操作実験では、スギ林とヒノキ林においてシカの嗜好性植物の刈り取り処理を行った。その結果、ヒノキ林では、嗜好性植物の除去が土砂やリター移動量を増加させ、土壌硬度を上昇させたが、スギ林では広域調査と同様に、そうした影響は検出されなかった。以上の結果から、シカが土壌の物理環境へ与える影響は森林の樹種構成によって大きく異なること、また土壌の物理性の変化については、雨滴衝撃や土砂移動によって地表面にクラスト層が形成されていることが示唆された。こうした土壌環境の改変は、生態系のレジームシフトを助長する可能性があり、今後詳細な研究が不可欠と思われる。
著者
吉見 翔太郎 井上 幹生 畑 啓生
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.99-114, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
45

愛媛県松山平野では、1990 年からの約25 年間に、淡水二枚貝のイシガイとマツカサガイが減少し、2017 年現在イシガイはほぼ地域絶滅し、マツカサガイも絶滅の危機にある。また、松山平野では、これらの二枚貝を産卵床とするヤリタナゴが生息するが、その分布域も急減し、かつ国内外来種のアブラボテと産卵床を巡って競合し、二種の間の交雑が生じている。そのため、ヤリタナゴ-マツカサガイ共生系の保全が急務である。本研究では、人為的な管理が容易な自然再生地の保全区としての有用性を検討するため、二つの自然再生地(広瀬霞と松原泉)の、それぞれ1 地点と、上、中、下流の3 地点に加え、農業灌漑用湧水地である柳原泉の1 地点の、計5 放流区にマツカサガイを放流し、マツカサガイの生残率を追跡した。同時に、餌となる珪藻量や溶存酸素量などの環境条件の計測を行った。 その結果、広瀬霞で一年間の生残率が37%、松原泉下流で半年間の生残率が75%であった。他の3 放流区では一年の間に全ての放流個体が斃死した。これらの放流区が不適な要因として、珪藻類の密度の低さが挙げられた。生残が確認された広瀬霞や松原泉下流における珪藻類の密度は他の放流区と比べると高いが、国近川や神寄川のマツカサガイが自然分布する地点に比べると低い時期があった。また、広瀬霞と松原泉上流で、2015 年10 ~ 11 月に低酸素状態(3 ~ 5 mg/l)が発生した。追跡調査中、放流したマツカサガイ個体が底質から脱出することが確認された。この行動は、その後二週間以内に死亡する個体で頻繁に見られ、不適な環境からの逃避と考えられた。柳原泉では、アブラボテの侵入と放流したマツカサガイへの産卵が確認された。これらの結果から、マツカサガイとヤリタナゴの共生保全区を策定するには、珪藻類の密度が高く、一年を通して貧酸素条件が発生しない、アブラボテの侵入を管理できる場所とすべきであることが示唆された。放流後のモニタリングにおいては、冬季にマツカサガイの底質からの脱出がないこと、アブラボテの侵入がないことに留意する必要がある。本研究で用いた自然再生地では、珪酸の添加や、水を滞留させる構造を付加するなど、珪藻類を増加させる対策と、外来性の浮葉性植物を駆除し貧酸素状態を生じさせない対策をとり、保全地として再評価することが必要である。
著者
川瀬 成吾 石橋 亮 内藤 馨 山本 義彦 鶴田 哲也 田中 和大 木村 亮太 小西 雅樹 上原 一彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.199-212, 2017 (Released:2018-04-01)
参考文献数
91

淀川流域における外来魚類の生息現況を明らかにするために、採集および文献調査を行った。231地点の採集調査の結果、12種の国外外来種(採集地点が多い順に、オオクチバス、ブルーギル、カダヤシ、カムルチー、タウナギ、コクチバス、ナイルティラピア、アリゲーターガー、ニジマス、カラドジョウ、チャネルキャットフィッシュ、コウタイ)と2種の国内外来種(ヌマチチブ、ワカサギ)が採集された。アリゲーターガー、カラドジョウは当流域(本調査範囲内)、チャネルキャットフィッシュは淀川における初記録となった。河川本流と河道内氾濫原(ワンド・タマリ・二次流路)では、オオクチバス、ブルーギル、ヌマチチブ、カムルチーの、農業水路や支流などの周辺水域ではカダヤシ、オオクチバス、ブルーギル、タウナギの出現率が高かった。オオクチバス、ブルーギルは流域全体に広がっており、カダヤシ、ヌマチチブ、カムルチーも比較的広範囲に出現した。文献調査では、さらに4種(ソウギョ、ハクレン、コクレン、タイワンドジョウ)の外来魚類の記録が見つかった。
著者
風間 健太郎 綿貫 豊
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1916, (Released:2021-08-31)
参考文献数
55

洋上風力発電(洋上風発)の健全な運用のためには、建設時に海鳥への影響が大きい場所を事前に予測する必要がある。本総説では、こうした洋上風発センシティビティマップの作成事例を紹介し、その作成手法や活用における課題について解説する。センシティビティマップには、船舶や航空機により取得した長期広域の洋上海鳥分布データをもとに通年にわたる広域のリスク感受性を予測したマップ(大スケールマップ)と、繁殖個体群を対象とした海鳥のトラッキングデータを用いて繁殖期間のリスク感受性を予測したマップ(小スケールマップ)がある。これらのマップは海鳥の分布に種ごとの飛行高度などリスクに関した指標と絶滅リスクなど保全に関した指標を勘案して作られている。海鳥の長期広域的な分布データの蓄積がある場合は大スケールマップが作成できる。小スケールマップは洋上風発建設にともなう対象個体群へのリスクをより詳細に示すことができる。技術的制約から現状では対象種が限られるが、トラッキング手法の進展により今後小スケールマップはより多くの種で作成されることが期待される。小スケールマップにハビタットモデルの手法を応用することで別の年や場所における採食場所や飛行経路を予測できるので、汎用性の高い手法を確立することが可能である。いずれの手法においても、生息地改変によるリスクと風車との衝突リスクは個別に評価されるので、これらの合理的な統合方法の確立が今後の課題である。
著者
小池 文人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.2101, 2021-05-24 (Released:2021-07-12)
参考文献数
3

世界的に学術雑誌のオープンアクセス化が進んでいる。「保全生態学研究」も誰でも論文を読むことができるようになったが、 2020年 4月の投稿規定からは著作権を著者自身が持ち、 CC BY 4.0のライセンスを遵守すれば許諾を得ずに、自由に図表等をオンライン授業や講義、不特定多数の市民向け公開講座などの資料として配布して利用することができるようになった。同時に掲載料を有料とすることで、会員以外にもひろがる生態学の関連分野の専門家や実務家の投稿を可能とした。ただし筆頭著者が生態学会会員であれば一定のページ数まで出版料を免除することで会員サービスは従来と同等である。保全生態学研究では「読者にとって知る価値のある情報であるか」を中心的な指標として新しい生態学論文のスタイルを開発してゆきたい。
著者
高田 陽 倉本 宣
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1915, (Released:2021-04-20)
参考文献数
30

市民科学プロジェクトの関係者の中で、プロジェクトの主催者の利益については明瞭であるが、ボランティアとして参加する市民の利益は多様で分かりにくい。このため、市民の参加動機(期待する利益)を調査することで市民にとっての利益を明らかにし、十分な利益を市民に与えることができるようなプロジェクトの設計を行う必要がある。本研究では東京都鳥類繁殖分布調査島嶼部において島外から伊豆諸島での鳥類ラインセンサス調査に参加した市民を対象に、遠隔地で専門家が市民に帯同する市民科学プロジェクトに対する参加動機の特徴を明らかにすることを目的とした。対象とした市民科学プロジェクトでは、伊豆諸島外に在住する一般市民からの参加者と東京都鳥類繁殖分布調査島嶼部の主催者が調査地に同行し、最長で 4日間共同生活を送りながら調査が実施された。本研究では市民参加者に対する参加動機のアンケート調査、とそれを補完する聞き取り調査を行った。最も多い参加動機はツーリズムに関する「島の自然の魅力」と社会貢献に関する「調査目的への共感」であり、市民が自主的に自然科学を行う「学び」と「調査の楽しさ」や「科学への貢献」が続いた。「友人づくり」や「家族・友人による紹介」などの一般的な人間関係に関する項目は動機として重要でなかった。既往研究と比較し、「調査目的への共感」が高い傾向は一致したが、本調査結果の特徴として「島の自然への関心」と「学び」に関する関心が高い傾向があった。聞き取り調査から「島の自然への関心」が選ばれた理由として、観光的な動機の他に、生物多様性保全上の意義をあげる意見も見られた。「学び」については、聞き取り調査から市民参加者は調査方法の学習に対する関心が高いことが推測された。それぞれ遠隔地という要素と専門家の帯同という要因が影響していると推察された。この結果をもとに生物多様性保全に関わる市民科学プロジェクトの効果的な企画が可能になると考えられる。
著者
東 悠斗 矢原 徹一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1934, (Released:2021-04-20)
参考文献数
42

屋久島における天然林(照葉樹林とスギ林)の林床における希少植物の減少に対する、シカの採食と林床の光環境の影響を分離して検出するため、林床の光環境の異なる屋久島東部の 4地点(林冠開放度 1.4 -8.2%)に 2006年に設置された希少植物を対象とする植生保護柵内外に、 2 m×2 mの小区画をそれぞれ 8-16個設定し、 2006年と 2016年に種ごとの植被面積と種数を調査した。 Generalized Linear Mixed Model(GLMM)を用いた尤度比検定の結果によれば、シカの採食を排除した保護柵内では、光環境の違いに関係なく全種の植被率が増加し、また被度が 1%以上の種の数が増加した。しかし絶滅危惧植物の加入・消失は種によって異なった。今後は絶滅危惧植物を含む保護柵の効果について、個々の種の生態特性を明示的に扱ったより多くの地点での研究が必要である。
著者
上杉 龍士 西廣 淳 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.13-24, 2009-05-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
79
被引用文献数
2

日本において絶滅が危惧されている多年生の浮葉植物であるアサザの生態的・集団遺伝学的現状を明らかにするため、レッドデータブックや地方植物誌などから存在の可能性が示唆された国内の局所個体群について2001年から2003年の開花期にあたる8月から9月に踏査調査を行い、局所個体群の存否、各局所個体群における展葉面積、異型花柱性の花型構成(長花柱型・短花柱型・等花柱型)を調査した。また、それぞれの局所個体群から葉を採取し、マイクロサテライト10座を用いて遺伝的特性を評価した。確認された局所個体群数は64であり、27水系に存在していた。本種は異型花柱性植物であり適法な受粉を行うためには長花柱型と短花柱型の両方が必要であるが、開花を確認した33局所個体群のうちで、それら3つの花型が確認されたのは霞ヶ浦内の2局所個体群のみであった。各局所個体群から2〜57シュートの葉を採集して遺伝解析を行なった結果、同定された遺伝子型は全国で61であった(うち7は自生地では絶滅し系外で系統保存)。また多くの局所個体群は、単一もしくは少数のジェネットから構成されていた。しかし、例外的に長花柱型と短花柱型の両花型を含む霞ヶ浦内の1局所個体群では、遺伝的に近縁な10もの遺伝子型が確認された。有性生殖の存在がジェネットの多様性を生み出したものと考えられる。有性生殖が行われていない局所個体群では、突発的な環境変動によって消滅した場合に、土壌シードバンクから個体群が回復する可能性は低い。またジェネット数が極端に少ないことは、次世代に近交弱勢を引き起こす可能性を高める。これらの要因が、日本におけるアサザの絶滅リスクを高める可能性がある。維管束植物レッドリストの2007年見直し案では、アサザは絶滅危惧II類から準絶滅危惧種に格下げされている。しかし、今後も絶滅危惧種とみなして保全を進める必要があると考えられる。
著者
森 章
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.45-59, 2007-05-31
被引用文献数
6

近年、生態系や景観レベルでの機能や動態を重視する管理り・保全方策に焦点が当てられている。特に森林生態系は多くの景観における主要要素であり、それゆえ生態系の健全性を包括的に維持する森林管理が、結果として、内包される遺伝子・種・個体群・群集、そしてさらには各森林生態系の存在する地域景観に至るまでの各レベルにおける多様性の維持に貢献できるといった、生態系を基準とした森林管理の概念が認知されるようになった。カナダ・ブリティッシュコロンビア州には、低頻度で起こる大規模な火事撹乱が規定する森林景観、高頻度・低強度の林床火事により維持されてきた内陸の乾燥林、小規模なギャップ形成が主要撹乱要因として卓越する太平洋岸温帯雨林など、様々な森林生態系が存在する。卓越する撹乱体制は州内でも地域ごとに大きく異なり、生態系の動的側面を重視しない管理方策により森林生態系を本来あるべき姿から変えてしまうことを避けるため、そしてすでに変化してしまった森林生態系の健全性の回復のためにも、近年自然撹乱体制に関わる研究が担う役割は大きくなっている。これは生態系を基準とした森林管理を実行する中で非常に重要と考えられている。そして現在、ブリティッシュコロンビア州では、森林を管理運営する立場の機関・団体が、現行の研究により得られる新たな知見を取り入れて、様々な撹乱により維持される森林の動的側面や森林景観の多様性を尊重しつつ、試行錯誤しながら管理方策を改善していく適応的管理が行われている。このように、最新の研究成果が実際の管理運営に反映されることは、これからの持続可能な森林管理において非常に重要であると考えられる。
著者
松本 斉 井上 奈津美 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1902, 2020-05-15 (Released:2020-06-28)
参考文献数
59

世界自然遺産候補地である奄美大島の亜熱帯照葉樹林において、生物多様性保全上重要な森林域の指標のひとつである樹冠サイズの 1960年代以降の変遷を地図化することを試みた。 3つの時期(1965年度、 1984年度、 2008年度)に撮影された 1 / 20,000空中写真(解像度 0.4 m)に対してモルフォロジー解析による粒度分析を施し、優占する樹冠サイズを指標する「樹冠サイズ指数」を算出した。 3つの時期を通じて成熟林が維持されていた地域を基準として撮影年代や撮影日ごとの差異を修正した 1 haメッシュスケールの「補正樹冠サイズ指数」の変遷は、現存植生図および森林への人為干渉の履歴と合理的な対応が認められた。補正樹冠サイズ指数の変遷により、主に伐採などの人間活動に起因する 3タイプの森林パッチを認識した。すなわち、 1)1960年代から継続して大きい補正樹冠サイズ指数を保っている大径照葉樹優占域のパッチ、 2)1960年代には補正樹冠サイズ指数の大きい照葉樹林が存在していたものの、近年は伐採後に成立した補正樹冠サイズ指数の小さい二次林となっている小径照葉樹二次林パッチ、 3)かつては小径木林であったが、先駆樹種が樹冠を広げて補正樹冠サイズ指数が大きな値をとるようになった先駆樹種優占域パッチである。 2017年に指定された奄美群島国立公園の地種区分とこれらパッチタイプの分布を空間的に照合すると、内陸の山地域に分布するまとまった面積の大径照葉樹優占域パッチが概ね特別保護地区および特別地域に指定されており、特別保護地区はいずれの空中写真撮影年度にも補正樹冠サイズ指数の平均値が 3.60を上回っていた。そのような森林域の樹木相には、他ではみられないイスノキを含む多様な樹種の亜大径木(胸高直径 30 cm以上 50 cm未満)も高頻度で含まれており、将来にわたって林冠構成樹種の多様性が維持されて周囲への種の供給源としての役割を果たすことが期待される。撮影年代の異なる空中写真から補正樹冠サイズ指数を算出して森林のモザイク動態を把握することは生物多様性上重要な森林域を見出す上で有効な手法であること、奄美群島国立公園の公園計画は、森林モザイク動態を鑑みても生物多様性保全上重要性が高い亜熱帯照葉樹林を将来にわたって保全する上で有効なものとなっていることが示唆された。
著者
村中 孝司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.89-101, 2008-05-30 (Released:2018-02-09)
参考文献数
114
被引用文献数
1

日本の外来植物(維管束植物)のリスト(合計2,237種)に基づき、外来植物の原産地、導入用途、確認年代を文献によって検討した。外来植物のうち用途では雑草1,022種、鑑賞863種、薬370種、食306種、牧草224種、木材・繊維等161種、緑化125種の順に多かった(ただし複数の用途等を持つ種を含む)。外来植物のうち原産地別では1601-1867年(江戸時代)には東アジア原産の種が多いのに対し、明治以降にはヨーロッパまたは北アメリカ原産の種が多かった。19世紀半ば以前における外来植物は主に観賞用の種であったが、1801年以降には牧草、および緑化植物の種数も増加した。緑化植物のうち34.40%がヨーロッパ原産の種と最も高い割合を示していたが、東アジア原産の種も32.80%とそれに次いで高かった。雑草とされる種(1,022種)は、1801年(江戸時代後期)以降に急速に増加し、そのうち36.69%がヨーロッパ原産と最も高かった。1860年代および1950年代前後に外来植物の侵入が急増していた。各年代の外来植物の原産地と用途は当時の貿易や日本国内の産業的需要を概ね反映していることが明らかにされた。
著者
板谷 晋嗣 清野 聡子 和田 年史 秀野 真理
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1817, (Released:2019-11-08)
参考文献数
21

福岡県津屋崎入江において、カブトガニを対象に航空写真の判読によって、戦後から現在に至るまでの生息地の変遷をたどり、住民からの聞き取り調査結果と繁殖ペアのモニタリング調査結果と照合しながら、カブトガニの減少要因の解明を行った。聞き取り調査では、津屋崎沿岸域には戦後から 1980年代にかけて多くのカブトガニが生息していたが、その数は徐々に減少し 2000年代初めには、ほとんど見られなくなった状況が把握できた。繁殖ペア数は 2005年以降、毎年減少した。この繁殖ペア数の減少は、入江湾口部の累積的改変に伴う産卵基盤の砂州の劣化が一因を担っている可能性が示唆された。本研究の歴史生態学的なアプローチは、カブトガニなどの沿岸域を生息場所とする希少種の保全において、個体数減少と沿岸開発との因果関係をひも解く際の初期解析方法として有効であると考えられる。
著者
大澤 剛士 天野 達也 大澤 隆文 高橋 康夫 櫻井 玄 西田 貴明 江成 広斗
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.135-149, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
54

生物多様性に関わる様々な課題は、今や生物学者だけのものではなく、人類全てに関連しうる社会的な課題となった。防災・減災、社会経済資本、資源の持続的利用といった、人間生活により身近な社会問題についても、生物多様性が極めて重要な役割を持つことが認識されるようになりつつある。これら社会情勢の変化を受け、生物多様性に関わる研究者には、これまで以上に政策とのつながりが求められている。しかし現状では、研究成果が実社会において活用されないという問題が、生物多様性に関係する研究者、行政をはじめとする実務者の双方に認識されている。これを“研究と実践の隔たり(Research-implementation gap)”と呼ぶ。そもそも、社会的課題の解決のために研究者の誰もが実施できる最も重要なことは、解決に必要な科学的知見を研究によって得て、論文の形で公表することである。そのためには、社会的に重要な課題を把握し、それに関する研究成果を適切なタイミングで社会に提供できなくてはならない。これらが容易になることは、研究と実践の隔たりを埋めることに貢献するだろう。そこで本稿は、そのための取り組みの先駆的な実例として「legislative scan」を紹介する。これは、イギリス生態学会が実施している、生態学者や保全生物学者にとって重要な法的、政策的課題を概観する取り組みである。さらにlegislative scanを参考に、生態学の研究者が関わりうる政策トピックの概要を紹介することで、研究者が能動的に研究と実践の隔たりを埋めていくためのヒントを提供する。具体的な政策トピックとして、「生物多様性条約(CBD)」、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」、「地球温暖化適応(IPCCの主要課題)」、「グリーンインフラストラクチャー」、「鳥獣対策」について概要を紹介する。最後に、研究と実践の隔たりの解消に向けて、研究者及び研究者コミュニティが積極的に働きかける重要性と意義について議論する。
著者
比嘉 基紀 師井 茂倫 酒井 暁子 大野 啓一
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.207-217, 2008-11-30
被引用文献数
1

木曽川感潮域の自然堤防帯からデルタ帯への移行帯において、絶滅危惧植物タコノアシPenthorum chinense Pursh(ユキノシタ科)の生育適地を解明することを目的に調査を行った。本調査地は、河床勾配が緩やかなことに加え、様々な人為的インパクトの影響で河床が全体的に安定傾向にある。これまで本種は、河川では自然攪乱にさらされやすい澪筋沿いの明るく開けた立地に出現すると報告されている。しかし草本植物全体の分布特性について検討した結果、タコノアシは比高が高く地表攪乱の痕跡のないアカメヤナギ群落の林縁や林床で多く確認された。このことから本調査地では、タコノアシは地表攪乱以外の要因によって個体群を維持していると考えられた。タコノアシの成長と開花に影響を及ぼす環境要因を、最尤推定法の変数選択で検討した結果、表層堆積物硬度がすべての統計モデルで選択され、標準化推定値も大きかった。個体の地上部乾燥重量と枝数、開花個体数、花梗数は、表層堆積物が軟らかく、上層の開けた明るい泥湿地的環境で増加する傾向を示した。本調査地でタコノアシの成長と開花が良好な環境は、堆積物硬度が0.16〜0.82kg/cm^2、7月のRPPFDが20〜60%、1日の冠水時間が3.97〜5.84h、表層の細粒堆積物厚が32〜40cm、表層堆積物の中央粒径が0.048〜0.053mm、淘汰度が1.24〜1.79であった。比高の低い立地にも表層堆積物が軟らかく上層の明るい環境は存在したが、そこではヨシやマコモ、ミズガヤツリの優占群落が成立しており、タコノアシの出現個体数は少なかった。冠水・塩水ストレスが本種の分布制限要因とは考えにくく、比高の低い立地でも生育は可能と推察されることから、タコノアシの分布特性を解明するためには、種間関係を含めたさらに詳細な検討が必要である。
著者
塚本 康太 辻 和希
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.193-201, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
25

沖縄島に生息するクロイワボタルLuciola kuroiwaeとオキナワスジボタルCurtos okinawanusの2種を対象に、活動成虫数の季節消長と日消長を、2013-2014年に那覇市末吉公園の林内で調べた。季節消長に関しては、クロイワボタルは年1回、4月下旬から5月中旬に活動のピークが見られた。それに対してオキナワスジボタルは年2回、5~6月に加えて、9~10月に活動のピークが見られた。日消長に関しては、両種とも多くの地点において日没直後が活動のピークであったが、クロイワボタルにおいては街灯がある地点で深夜帯に活動のピークが観察された。そこでは、街灯が点灯していた2013年には消灯直後の深夜帯に活動のピークが見られたが、街灯が点灯されなかった2014年は日没直後に活動のピークが見られた。これらのことから、深夜帯に観察されたクロイワボタルの活動は人工光の影響によって活動時間帯が遅れたものであると考えられる。
著者
横畑 泰志
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.87-96, 2003-08-30 (Released:2018-02-09)
参考文献数
47

尖閣諸島魚釣島では,1978年に日本人の手によって意図的に放逐された1つがいのヤギCapra hircusが爆発的に増加し,300頭以上に達している.その結果,この島では現在数ケ所にパッチ状の裸地が形成されるなど,ヤギによる植生への影響が観察されている.魚釣島には固有種や生物地理学的に重要な種が多数生息するが,現状を放置すれば島の生態系全体への重大な影響によって,それらの多くは絶滅することが懸念される.この問題の解決は,尖閣諸島の領有権に関する日本,中国,台湾間の対立によって困難になっている.日本生態学会はこの問題に対し.2003年3月の第50回大会において「尖閣諸島魚釣島の野生化ヤギの排除を求める要望書」を決議し,環境省,外務省などに提出した.同様の要望書は2002年に日本哺乳類学会において.2003年に沖縄生物学会においても決議されている.現在は国内の研究者による上陸調査の実施の可否について,日本政府の判断が注目されている.
著者
平石 優美子 小澤 宏之 若井 嘉人 山中 裕樹 丸山 敦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1914, (Released:2020-02-13)
参考文献数
20

沖縄周辺での地域絶滅が危惧される中型海棲哺乳類ジュゴン(Dugong dugon)の環境 DNA分析による分布調査を可能にすべく、ジュゴン由来の DNAを特異的に検出する PCRプライマーセットの開発を試みた。データベース上の DNA配列情報をもとにジュゴンに特異的な配列にプライマーセットを設計し(チトクロム b領域、増幅産物長: 138 bp)、プライマーセットの有効性と特異性を鳥羽水族館の展示水槽で飼育されているジュゴンの組織片(毛根)、糞、飼育水、および近縁種アフリカマナティーの飼育水を用いて確認した。SYBR-Green法を用いた定量 PCRの結果、ジュゴン飼育個体の毛根、糞、飼育水から抽出した DNAは、設計したプライマーセットによって増幅が確認された。ジュゴンの人工合成 DNAは、ウェルあたり 1コピーの条件でも検出可能であった。一方、アフリカマナティーの飼育水から抽出した DNAおよびアフリカマナティーの人工合成 DNAは、増幅が見られなかった。すなわち、このプライマーセットを用いたジュゴンの DNA検出系が、ジュゴンの糞や生息場所の水に対して有効である一方、近縁種が共存していることで生じうる偽陽性は否定できた。これらの結果より、試料保存や多地点同時調査が容易な環境 DNA分析を従来の目視調査と効果的に組み合わせて、ジュゴンの生活範囲をより詳細に確認することが望まれる。
著者
菊地 直樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2035, (Released:2022-08-03)
参考文献数
32

鳥の観察や撮影を目的とするバードウォッチングは、野生生物を「見せて守る」方法の一つである。バードウォッチングという自然の観光利用は地域収益につながり、保全にお金が回りやすくなるため、固有種等への保全の動機付けが地域で形成されやすいと報告されている。一方、営巣地への接近の増加による捕食率や巣の放棄の上昇といった様々な負の影響も報告されている。「見せて守る」ためには、対象生物、生態系への負の影響の抑制と地域の利益や貢献の創出の両立が必要である。現在、「見せて守る」ことが求められている事例として、北海道知床半島のある生息地のシマフクロウがある。 1984年から開始された国のシマフクロウ保護増殖事業では、生息地を非公開としてきたが、知床半島の一部の生息地において餌付けをして観察や撮影場所を提供している宿泊施設が存在するようになり、非公開である生息情報が拡散するなど、保全への影響が懸念されている。一方、保護関係者から「見せて守る」方針が示されている。第一に餌付けを段階的に中止し自然の状態で見せること、第二に知床地域の世界的価値と地域の価値を低めないこと、第三にシマフクロウの生態や保全に関する学習の場として機能すること、である。「見せて守る」ためには、研究者や行政に加え、地域住民、観光業者、観光客といった多様な人びとの協働と合意形成が不可欠である。本報告では、特に重要な役割を担う地域の関係者への聞き取り調査を実施し、その意見の把握を試みた。その結果、保護関係者が示す方針と地域の関係者の意見の間にはそれほど大きな相違点はなかった。しかし、地域の生活と自然のとらえ方、自然保護や利用に関するイニシアティブ、地域生活のとらえ方について、相違点があることも分かった。「見せて守る」ためには、意見が異なることを前提に、多様な人びとが互いの違いを認め合い、何らかのルールをつくるという創造的で柔軟なプロセスの創出が必要となる。その課題として、第一に価値の複数性を認めること、第二に異なる目的を相互に受容すること、第三に異なる目的の相互受容を可能とする合意形成を指摘した。
著者
大海 昌平 永井 弓子 岩井 紀子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2044, 2021-10-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
16

アマミイシカワガエルは奄美大島の固有種であり、鹿児島県の天然記念物に指定されている絶滅危惧種である。成体の生態調査は行われてきているものの、幼生の生態についての知見が不足している。本種の幼生期間における流下状況を明らかにするため、野外の沢において蛍光タグを用いた標識と追跡調査を行った。幼生 283個体を標識したのち渓流源頭部のプールに放流し、その後 2年間、 1-3か月に 1度の沢調査を計 13回行った。調査沢を 6mごとに区切って沢区間とし、沢の開始点から 303 m下流までを対象とした。のべ 9642個体の幼生をカウントした。標識個体は放流から 736日経過後まで発見された。放流したプールから標識個体が発見された最下流までの距離は、 29日後は 56-62 m、261日後は 62-68 m、320日後から 682日後までは 128-134 mであった。発見した標識個体の分布から推定した推定最長流下距離は、 29日後は 85.3 m、320日後は 89.9 mで 1年間に 85-95 mの間を示し、変化が小さかった。これらの結果から、調査沢における幼生は 2年間で最長 130 mほどの流下を行うが、 85-95 m付近までの流下が一般的であると考えられた。放流 29日後以降、流下した最下流までの距離に大きな変化はみられず、時間の経過と比例して距離が延びるわけではなかった。また、ある調査日に発見した標識個体の総数に占める、放流プールに残留していた標識個体の割合は、時間の経過とともに上昇した。このため、幼生の流下は主に個体サイズが小さい時期の豪雨といったイベントの際に起こり、それ以降は稀である可能性や、流下した幼生の生存率が低い可能性、下流のプールでは上流より流下が起こりやすい可能性が示唆された。本種幼生の生息環境を保全する際には、産卵場所付近のみではなく、流下先としての下流部の環境も対象とする必要性が示された。
著者
越水 麻子 荒木 佐智子 鷲谷 いづみ 日置 佳之 田中 隆 長田 光世
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.189-200, 1998-01-20
参考文献数
19
被引用文献数
17

国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市)内の谷戸の放棄水田跡地において土壌シードバンクを調査した.谷戸谷底面の植生を代表するヨシ群落,チゴザサ群落,およびハンノキ群落から土壌(各0.1m^3,総計0.3m^3)を採取し,水分を一定に保つことのできる実験槽にまきだし,出現する実生の種,量および発芽季節を調べた.出現した実生を定期的に同定して抜き取る出現実生調査法と,実生をそのまま生育させて成立する植生を調査する成立植生調査法とを併行して実施し,5月中旬から12月下旬までの間に,前者では25種,合計6824個体,後者では26種,合計2210個体の種子植物を確認した.出現種の大部分は低湿地に特有の種であり,特に多くの実生が得られたのは,ホタルイ,アゼガヤツリ(あるいはカワラスガナ),チゴザサ,タネツケバナであった.また成立植生調査法で確認された個体数は,出現実生調査法の半数に過ぎないものの,ほぼ全ての種を確認することができた.調査地の土壌シードバンクは,植生復元のための種子材料として有効であること,また,土壌水分を一定に保てば,土壌をまきだしてから数ヵ月後に成立した植生を調べるだけで土壌シードバンクの種組成を把握できることが明らかになった.