著者
菅間 敦
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.55-58, 2017

<p>脚立は業種を問わずあらゆる場所で見かける用具であり,軽作業で利用される機会が多いが,その使用方法を誤れば転落などの災害に繋がり,場合によっては死亡に至るケースもある.本研究では,安全な脚立作業の確立に向けて,脚立使用中の労働災害に関する統計分析によりその実態を明らかにするとともに,災害発生防止に向けた取り組みについての提言を行う.特に,脚立上で作業者がバランスを崩して転落するケースが多いことから,脚立上での作業時における身体姿勢の不安定性の評価結果に基づいて適切な脚立の使用方法について述べる.</p>
著者
高橋 正也
出版者
National Institute of Occupational Safety and Health
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-30, 2014

労働者の安全と健康を確保するためには,労働の量的および質的側面の改善が必要である.現在でも,長時間労働の削減や職場の心理社会的環境の改善に向けて,多くの努力がなされている.このような職場の労働条件の向上に加えて,職場以外における過ごし方,特に余暇,を適正にすることは,労働安全衛生の水準をさらに高めるのに有益であると期待されている.最も基本的な余暇は終業後から次の勤務までの時間である.欧州連合の労働時間指令に示されているように,この時間間隔の確保はなにより重要であり,そこで行われる休養や睡眠の充実に不可欠である.同時に,労働に費やす時間の減少にもつながる.一日ごとの余暇活動の中でも,量的および質的に充分な睡眠は労働者の安全,疲労回復,健康維持に必須であることが実証されている.一方,週休二日制であれば,週末に二日間にわたる休日が得られる.こうした一週ごとの余暇を適切に過ごせると(例えば,長い朝寝を避ける),疲労回復には一定の効果がある.ただし,週内で蓄積した睡眠不足による心身への負担を完全に解消するのは難しいことに留意する必要がある.さらに,良好な睡眠を長年にわたってとれない状況が続くと,高血圧,心疾患,糖尿病,肥満などの健康障害が起こりやすくなるばかりか,筋骨格系障害や精神障害などの理由で早期に退職せざるをえない確率が2~3倍高まることが示されている.多くの労働者では,一生の中で労働者として過ごす時間はほぼ半分を占める.一生涯の生活の質を高めるためにも,労働時間の中,そして外の要因(余暇と睡眠)が最適化されなければならない.この課題を達成するには,行政,事業所,労働者個人それぞれの層で,余暇の見直しと根拠に基づいた実践が求められる.
著者
茂木 伸之 吉川 徹 佐々木 毅 山内 貴史 髙田 琢弘 高橋 正也
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2022-0018-CHO, (Released:2023-09-05)
参考文献数
28

日本では教員の長時間労働や精神疾患による病気休職者数が減少していない状況である.本研究は,過労死等の重点業職種である教職員に該当する義務教育教員の多くを占める公立小中学校教員の公務災害の過労死等防止対策に資する課題抽出を目的として,公務災害として認定された過労死等の負荷業務の特徴について検討した.対象は2010年1 月から2019年3月までに公務災害に認定された全392件(脳・心臓疾患事案146件,精神疾患等事案246件)の内,教員88件(脳・心臓疾患事案52件,精神疾患等事案36件)とした.その結果,脳・心臓疾患の100万人当たりの発症件数は男性が80%を占め,男女の疾患名では脳内出血が最も多かった.精神疾患等は,100万人当たりの発症件数は男性が多く,疾患名はうつ病エピソードが最も多かった.学校別の件数は,脳・心臓疾患は中学校で多く,精神疾患等は小中学校それぞれ半数であった.脳・心臓疾患事案では,負荷業務として「部活動顧問」が最も多く,長時間労働を認定要件とする事案に影響を及ぼした.精神疾患等では,業務による負荷の「住民等の公務上での関係」における保護者によるものが最も多かった.負荷業務である「部活動顧問」,「住民等の公務上での関係」の課題を解決することが,公立小中学校教員の過労死等防止対策のひとつになると考えられる.
著者
久保 智英
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.45-53, 2017-02-28 (Released:2017-03-03)
参考文献数
34
被引用文献数
2 2

本稿では,近未来の働き方とそれによる労働者の疲労問題,そしてその対策について,先行研究を踏まえながら,著者の私見を述べた.その論点は,1)情報通信技術の発達による飛躍的な労働生産性の向上は,これまで労働者の生活時間のゆとりではなく,逆に新たなる作業時間に結びつく可能性があること,2)その影響により,労働者の働き方は,いつでもどこでも仕事につながることができ,ますます,オンとオフの境界線が曖昧になるかもしれないこと,3)その疲労対策としては,オフには物理的に仕事から離れるだけではなく,心理的にも仕事の拘束から離れられるような組織的な配慮と個人的な対処が重要であること,4)最近,注目されている勤務間インターバル制度と,勤務時間外での仕事のメールなどの規制としての「つながらない権利」を疲労対策として紹介したこと,に要約できる.いずれにしても,公と私の境界線がもともと曖昧なわが国の労働者にとっては,オフを確保することが近未来に生じうる労働者の疲労問題に対しての有効な手立てとなるだろう.
著者
榎本 ヒカル 澤田 晋一 安田 彰典 岡 龍雄 東郷 史治 上野 哲 池田 耕一
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.7-13, 2011 (Released:2011-09-30)
参考文献数
17
被引用文献数
4 2

熱中症予防のためには水分摂取が重要であることが指摘されているが,その水分補給量の目安は明確に定められてはいない.そこで,ISO7933に採用されている暑熱暴露時の暑熱負担予測のための数値モデルであるPredicted Heat Strain(PHS)モデルに着目し,暑熱環境における水分補給量の違いが人体に与える影響を検討し,PHSモデルから算出される水分補給量の妥当性を検証した.健常な青年男性8名を被験者とし人工気象室を用いて水分摂取条件を3水準(無飲水,PHSモデルによる飲水,ACGIHガイドラインに基づく飲水),運動条件を2水準(座位,トレッドミル歩行)設定し,生理的指標として皮膚温・体内温(直腸温,耳内温),体重,指先血中ヘモグロビン濃度,心電図,血圧・脈拍数,視覚反応時間,心理的指標として温冷感に関する主観的申告,疲労に関する自覚症しらべを測定した.その結果,暑熱環境での作業時には飲水しないよりも飲水するほうが体温や心拍数が上昇しにくく,生理的暑熱負担が軽減されることが示唆された.また,PHSモデルによる体内温と体重の変化量の予測値と本研究での実測値を比較したところ,PHSモデルは作業時の水分補給の目安の一つになりうることが明らかになった.
著者
池田 大樹 久保 智英 井澤 修平 中村 菜々子 吉川 徹 赤松 利恵
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2023-0006-CHO, (Released:2023-07-19)
参考文献数
28

勤務間インターバルとは,勤務終了後から翌始業までの休息時間のことを言う.本研究は,勤務間インターバルと睡眠時間の組み合わせと職業性ストレスおよび病気欠勤の関連を検討した.本横断調査は,WEB形式で2022年2月に実施した.日勤労働者13,306名に対して勤務間インターバル,睡眠時間,職業性の高ストレス(職業性ストレス簡易調査票),病気欠勤について尋ねた.参加者を勤務間インターバルと睡眠時間に基づき14群に分類し,これを独立変数,高ストレス判定と病気欠勤を従属変数としたロジスティック回帰分析を実施した.その結果,短いインターバル(<11時間)と通常睡眠(≥6時間)や十分なインターバル(15時間)と短時間睡眠(<6時間)の組み合わせで,基準(十分なインターバルと通常睡眠)と比べてオッズ比が有意に高かった.これは,勤務間インターバルと睡眠時間を十分に確保することが職業性ストレスの低減に重要であり,勤務間インターバル制度によりインターバルが十分に確保されても,睡眠時間が短いと健康リスクが生じる可能性を示している.病気欠勤について,短いインターバルと短時間睡眠の組み合わせでオッズ比が有意に低かった.この原因として,勤務間インターバルが短い(長時間働かなければならない)人々は,忙しいために病気欠勤が必要な状況になっても休みを取れずあるいは取らず,結果的にオッズ比が低くなった可能性が考えられる.
著者
松元 俊 久保 智英 井澤 修平 池田 大樹 高橋 正也 甲田 茂樹
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.3-10, 2020-02-28 (Released:2020-02-29)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

本研究は,脳・心臓疾患による過労死の多発職種であるトラックドライバーにおいて,労災認定要件であ る過重負荷と過労の関連について質問紙調査を行った.1911人の男性トラックドライバーから,属性,健康状態, 過重負荷(労働条件:運行形態,時間外労働時間,夜間・早朝勤務回数,休息条件:睡眠取得状況,休日数),疲労感に関する回答を得た.運行形態別には,地場夜間・早朝運行で他運行に比して一か月間の時間外労働が 101時間を超す割合が多く,深夜・早朝勤務回数が多く,勤務日の睡眠時間が短く,1日の疲労を持ち越す割合 が多かった.長距離運行では地場昼間運行に比して夜勤・早朝勤務回数が多く,休日数が少なかったものの, 睡眠時間は勤務日も休日も長く,過労トラックドライバーの割合は変わらなかった.過労状態は,1日の疲労の持ち越しに対して勤務日と休日の5時間未満の睡眠との間に関連が見られた.週の疲労の持ち越しに対しては,一か月間の101時間以上の時間外労働,休日の7時間未満の睡眠,4日未満の休日の影響が見られた。運行形態間で労働・休息条件が異なること,また1日と週の過労に関連する労働・休息条件が異なること,過労に影響 を与えたのは主に睡眠時間と休日数の休息条件であったことから,トラックドライバーの過労対策には運行形態にあわせた休日配置と睡眠管理の重要性が示唆された.
著者
藤井 英彦
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2022-0016-GE, (Released:2022-10-27)
参考文献数
23

近年,長時間労働は労働者の脳血管疾病や精神疾患を発症させ,場合によっては自ら命を絶つケースも見られる等社会的な問題となっている.政府は,働き方改革を提唱し,2019年4月に労働関連法を改正し,時間外労働の上限について,これまでの「実質的な上限なし」の制度から,単月100時間未満,複数月で月平均80時間を上限とし,上限を超過した場合には罰則を設けるという過重労働防止策を実施した.本研究では,政府が設けた時間外労働の上限規制の妥当性を検証する目的で,労働時間と労働者の主観的健康感との関係に関して,労働者の主観的健康感が悪化する労働時間数を,パネルデータを用いて分析した.その結果,月間労働時間が210時間を超えると労働者の健康状態の悪化することが統計的に明らかになった.月間労働時間210時間は時間外労働に換算すると50時間に相当することから,2019年4月に設けられた時間外労働時間単月で100時間,複数月で月平均80時間という上限規制は,労働者の健康障害を防止する観点から見ると必ずしも十分とは言えない.また,性別により労働者の主観的健康感が悪化する労働時間数が異なり,女性の閾値の低いことが明らかになった.一方,仕事の自律性という仕事管理が,長時間労働に伴う主観的健康感状態の悪化を緩和することが明らかになった.
著者
保利 一 石田尾 徹 樋上 光雄 山本 忍
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.97-107, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
13

清掃作業のため喫煙室等に入って働く作業者や喫煙可能な飲食店等で働く作業者の受動喫煙を防止する方法としては,作業環境管理上の対策が困難であることから,呼吸用保護具の活用が有効と考えられる.しかしながら,現在使用されている呼吸用保護具がたばこ煙に有効であるか否かは検討されていない.そこで,防じんマスク,防毒マスクの吸収缶および新たに開発した極性と非極性の性質を有する両親媒性吸着材のたばこ煙に対する捕集特性を調べた.その結果,粉じんについては,現在の区分RL2,DS2以上の防じんマスク用フィルタであれば,98%以上捕集できることが認められた.ガス状物質については,防じんマスクではほとんど捕集できないが,活性炭素繊維入り防じんマスクは若干ではあるが捕集することが認められた.一方,有機ガス用防毒マスク吸収缶は有機物質をかなり捕集できること,また活性炭とセピオライトを7:3で配合した両親媒性吸着材およびホルムアルデヒド用吸収缶では,アルデヒド類やアセトンをほぼ捕集できることが示された.また,活性炭入り防じんマスクは低沸点の揮発性有機化合物(VOC)はほとんど除去できなかったが,ベンゾ[a]ピレンやニコチンは98%以上捕集できることが示された.ただし,臭気については,防じんマスク用フィルタはほとんど効果がないこと,また,防毒マスク吸収缶でも50%程度以下しか除去することができないことがわかった.
著者
時澤 健 岡 龍雄 安田 彰典 田井 鉄男 ソン スヨン 澤田 晋一
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.79-82, 2015-09-30 (Released:2015-10-08)
参考文献数
11
被引用文献数
3 1

暑熱環境における作業は体温上昇をまねき,熱中症の発症を誘発する.作業中には身体冷却の方法が制限されることや,作業による筋活動の熱産生を抑えることは難しいことから,作業前や休憩中に身体冷却を行い,体温を低下させておくことが重要となる.我々は,労働現場で実施することが可能な実用的で簡便な方法による身体冷却について最近研究を行ってきた.従来,実験的な身体冷却方法は冷水への全身浸漬であり,大量の冷やした水とバスタブが必要であった.これは少数人に施す前提で大きな装置を必要とし,身体への寒冷ストレスが大きいというデメリットがあった.したがって,労働現場において多くの作業者が限られたスペースで実施でき,さらに寒冷ストレスがマイルドな身体冷却方法を考案する必要があった.本文では,扇風機とスプレー,少量の水による手足の浸漬とクールベストの着用の組み合わせによる身体冷却方法が,深部体温をどの程度減少させ,作業中の暑熱負担を軽減させるかについて我々の研究成果を中心に述べる.
著者
板垣 晴彦
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.37-43, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
2

労働災害による死亡者数は減少を続けている.この死亡者数の減少をさらに推し進めるために,死亡災害につながりかねない休業が6カ月以上となった重篤な労働災害を防止することが課題となっている.そこで,休業6カ月以上の負傷者数を調べたところ,負傷者数が明らかに増加しているとわかった.そこで,2017年に発生した事例について,製造業,建設業,交通運輸業,第3次産業の4つの業種に区分して事故の発生状況を分析した.そして,負傷者数が多かった事故の型を明らかにするとともに,その典型的な事故パターンを示した.あわせて,これら労働災害の今後の防止対策について提言した.
著者
冨田 一 崔 光石
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.61-66, 2019-02-28 (Released:2019-02-28)
参考文献数
3
被引用文献数
1

休業4日以上の感電に起因する労働災害を厚生労働省の労働災害(死亡・休業4日以上)データベースを用いて平成18~27年の10年間を分析した結果,定性的な状況は平成10年以前と感電災害の多く発生している業種,発生月,感電災害を誘引した起因物などに変化の無いことを明らかにした. 感電災害の起因物として上位を占めるアーク溶接機について,感電災害防止対策用の安全装置である交流アーク溶接機用自動電撃防止装置と同様の機能を有する安全装置を韓国,オーストラリアと比較した.その結果,始動感度,遅動時間,安全電圧の仕様には大きな差の無いことを明らかにした.
著者
翁 祖銓 小川 康恭
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.79-82, 2010 (Released:2010-04-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

コメットアッセイは真核細胞におけるDNAの一本鎖或は二本鎖の切断量を測る上で感度がよく,定量性があり,そのうえ簡便,迅速,安価な方法である.今やこの方法は,産業化学物質や環境汚染物質の遺伝毒性評価,ヒト集団における遺伝毒性影響のバイオモニタリング,分子疫学研究,さらにはDNA損傷と修復の基礎研究などの領域で広く応用されている.本文ではコメットアッセイの基本原理,実験プロトコール,解析方法,利点及び欠点などを述べると共に,コメットアッセイ応用の現状を手短に紹介する.
著者
濱島 京子 梅崎 重夫
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.23-31, 2012

第三次産業における労働災害件数は近年増加傾向にあるが,産業機械に起因する労働災害の実態はほとんど明らかにされていない.そこで本報告では,第三次産業での労働災害多発機種などを明らかにすることを目的に,当該機械設備で発生した労働災害を分析し,業種および機種別に災害件数を分析した.使用した労働災害データは,厚生労働省が件数を公表している死亡災害,死傷災害および重大災害である.調査の結果,死亡災害,死傷災害および重大災害では,それぞれ災害多発業種や機種に差異がみられた.これは死亡,死傷および重大災害の防止対策は,各々個別に検討する必要があることを示唆している.考察の結果,災害防止対策の確立へ向けた重点的な取り組みが必要とみられる機種は(1)死亡災害:廃棄物処理機械(ゴミ収集車など)および昇降搬送機械(フォークリフトやエレベータなど),(2)死傷災害:食品加工機械,フォークリフト,コンベア,(3)重大災害:一酸化炭素を発生する可能性のある燃焼機器,であった.また,洗車機,立体駐車場,介護用リフトやゴルフカート等の第三次産業特有の機械設備による災害についても,災害防止対策の確立に必要な課題を示した.
著者
保利 一 石田尾 徹 樋上 光雄 山本 忍
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2020-0023-GE, (Released:2021-08-18)
参考文献数
13

清掃作業のため喫煙室等に入って働く作業者や喫煙可能な飲食店等で働く作業者の受動喫煙を防止する方法としては,作業環境管理上の対策が困難であることから,呼吸用保護具の活用が有効と考えられる.しかしながら,現在使用されている呼吸用保護具がたばこ煙に有効であるか否かは検討されていない.そこで,防じんマスク,防毒マスクの吸収缶および新たに開発した極性と非極性の性質を有する両親媒性吸着材のたばこ煙に対する捕集特性を調べた.その結果,粉じんについては,現在の区分RL2,DS2以上の防じんマスク用フィルタであれば,98%以上捕集できることが認められた.ガス状物質については,防じんマスクではほとんど捕集できないが,活性炭素繊維入り防じんマスクは若干ではあるが捕集することが認められた.一方,有機ガス用防毒マスク吸収缶は有機物質をかなり捕集できること,また活性炭とセピオライトを7:3で配合した両親媒性吸着材およびホルムアルデヒド用吸収缶では,アルデヒド類やアセトンをほぼ捕集できることが示された.また,活性炭入り防じんマスクは低沸点の揮発性有機化合物(VOC)はほとんど除去できなかったが,ベンゾ[a]ピレンやニコチンは98%以上捕集できることが示された.ただし,臭気については,防じんマスク用フィルタはほとんど効果がないこと,また,防毒マスク吸収缶でも50%程度以下しか除去することができないことがわかった.
著者
松沢 純平 村上 卓弥 小林 一穂 関口 将弘 大崎 馨
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2020-0026-CHO, (Released:2021-09-10)
参考文献数
10

防衛装備庁先進技術推進センターでは,平成27年度から令和2年度にかけて、自衛隊員による災害派遣等の任務における救助活動や物資搬送をはじめとする作業の迅速化・効率化を目的とし,隊員の負担を軽減しつつ野外・不整地での迅速機敏な行動を可能とする高機動パワードスーツの研究を実施した.高機動パワードスーツは,人が装着した状態で災害派遣等の任務を実施することが必要となるため,装着者の安全性確保が重要となる.したがって、本研究においては,高機動パワードスーツの使用場面や仕様を決定していく段階から,研究者・製造者・運用者といった多数のステークホルダーの意見を取り入れたリスクコミュニケーションを踏まえつつ,ロボット介護機器の安全設計の支援のためのリスクアセスメントひな形シートに準拠したリスクアセスメントを行うことにより安全設計を実施した.また,野外での装着試験では,標準性能試験法の考え方を用いた模擬不整地や模擬災害環境等を活用することで試験の再現性と装着者の安全性を確保し,より効果的で安全な試験評価手法を検討した.本稿では、高機動パワードスーツの研究における、一連の安全性確保の取組みの結果について紹介する.
著者
髙田 琢弘 吉川 徹 佐々木 毅 山内 貴史 高橋 正也 梅崎 重夫
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.29-37, 2021

<p>本研究は,過労死等の多発が指摘されている業種・職種のうち,教育・学習支援業(教職員)に着目し,それらの過労死等の実態と背景要因を検討することを目的とした.具体的には,労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターが構築した電子データベース(脳・心臓疾患事案1,564件,精神障害・自殺事案2,000件,平成22年1月~平成27年3月の5年間)を用い,教育・学習支援業の事案(脳・心臓疾患事案25件,精神障害・自殺事案57件)を抽出し,性別,発症時年齢,生死,職種,疾患名,労災認定理由および労働時間以外の負荷要因,認定事由としての出来事,時間外労働時間数等の情報に関する集計を行った.結果から,教育・学習支援業の事案の特徴として,脳・心臓疾患事案では全業種と比較して長時間労働の割合が大きい一方,精神障害・自殺事案では上司とのトラブルなどの対人関係の出来事の割合が大きかったことが示された.また,教員の中で多かった職種は,脳・心臓疾患事案,精神障害・自殺事案ともに大学教員と高等学校教員であった.さらに,職種特有の負荷業務として大学教員では委員会・会議や出張が多く,高等学校教員では部活動顧問や担任が多いなど,学校種ごとに異なった負荷業務があることが示された.ここから,教育・学習支援業の過労死等を予防するためには,長時間労働対策のみだけでなく,それぞれの職種特有の負担を軽減するような支援が必要であると考えられる.</p>
著者
池田 大樹 久保 智英 松元 俊 新佐 絵吏 茅嶋 康太郎
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.51-59, 2019-02-28 (Released:2019-02-28)
参考文献数
28

本研究では,職場環境改善の取組み時における勤務時間外の仕事に関する行動(メール確認,自宅仕事)が,労働者の睡眠や疲労,生産性等に及ぼす影響を検討した.製造業の中小企業において,組織体制の変更,勤務 開始時刻の多様化,勤務体制の多様化,作業環境の変更の4つの職場環境改善取組みが実施された.調査は,職場環境改善の約1か月前(事前調査),3,6,12か月後の計4回実施し,調査の同意が得られた36名を分析対 象とした.調査内容として,基本属性,睡眠の質,勤務時間外における仕事との心理的距離,生産性,疲労回復状況等を測定した.また,勤務時間外における仕事に関するメールの確認,自宅での仕事に関する設問を設け,その有無により,群分けを行った.線形混合モデル分析を行った結果,生産性に群と調査時期の交互作用が見 られ,自宅仕事が有った群のみ,職場環境改善前と比較して3か月後の生産性が低下したこと,無かった群と比較して3,6,12か月後の生産性が低かったことが示された.また,調査時期の主効果が睡眠の質と疲労回復 に見られ,職場環境改善後にそれらの改善及び改善傾向が生じたことが示された.また,群の主効果が心理的距離に見られ,勤務時間外にメール確認が無かった群は,有った群と比較して,勤務時間外に仕事との心理的距離が取れていたこと,一方,自宅仕事が無かった群は,有った群と比較して,心理的距離だけでなく,睡眠の質や疲労回復状況も良いことが示された.以上により,職場環境改善時における仕事関連の行動が労働者の生産性に影響を及ぼすこと等が示された.今後,職場環境改善の一環として,職場外・勤務時間外における働き方・休み方の改善も検討していく必要があると考えられる.
著者
板垣 晴彦
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2019-0005-TA, (Released:2019-03-22)
参考文献数
4

爆発火災事例について,災害規模曲線を用い,発生件数と重篤度について分析した.災害規模として死傷者数,発生頻度の密度関数として事故件数の累積確率を採用したところ,両対数グラフ上において直線関係が認められた.その直線の傾きは重篤度を表しており,発生件数とともにどのように遷移するかを調べた.全産業の平均については,年月の経過に伴い,まず発生件数が減少し,その後に重篤度が低くなったとわかった.化学工業の重篤度は建設業の重篤度よりも明瞭に高かった.ただし,年月が経過した際の重篤度の変化は,いずれも明確ではなかった.さらに,業種や災害の種類別についての分析結果が示された.