著者
浅田 拓海 可知 宏太 有村 幹治 亀山 修一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.22-00168, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
23

市町村が管理する生活道路は,地域住民の身近な存在であるが,沿道環境や利用頻度を考慮した舗装の維持管理はほとんど行われていない.本研究では,筆者らが開発したAI技術により構築した舗装点検データに住宅立地や交通量のデータを空間結合し,生活道路の舗装をネットワークレベルで評価する方法を提案した.本方法の特長は,舗装損傷度と交通量に加えて,周辺の損傷舗装や住宅の分布に基づいた修繕の優先順位付けおよび修繕効果の推計を行う点にある.本方法を用いて,室蘭市を対象としたケーススタディを行い,従来の舗装評価方法との比較を行った.その結果から,本方法では,従来方法よりも住環境の改善効果が大きい修繕対象区間を抽出でき,さらに,シナリオ分析により地域の実情に合わせた効果の大きい修繕計画を策定できることを示した.
著者
小林 快斗 川端 祐一郎 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.22-00061, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
18

近年,地元に根付いた生活を重んじる「サムウェアズ」と,地域や国境を越えた自由な生き方を重んじる「エニウェアズ」の間の価値観対立が先鋭化しているとする理論が,土木計画に関わる議論を含めた総合的な社会評論に活用されている.しかしこれらの価値観の定量分析は不十分であり,その規定要因や他の心理的傾向との関連性の実証的分析も行われていない.本研究ではサムウェア性/エニウェア性を計測する尺度を使用し,それらに影響を与える個人属性や,「大衆性」「利他性」といった道徳心に関わる心理尺度との関連性を分析した.その結果,現居住地に長く住んでいるほどサムウェア的になる一方で,所得,学歴,職業,居住地域等の影響は小さいことが明らかになった.また,サムウェアズはエニウェアズと比べて道徳的である可能性が示唆された.
著者
矢嶋 宏光 小瀬木 祐二
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.22-00045, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
15

各地で具体化が進むスマートシティ構想では,行動履歴などのパーソナルデータを用い行動変容を促すなどの革新的な取組みが試みられている.パーソナルデータの利活用では,データ漏洩やプライバシー侵害などのリスクへの懸念がデータ提供への消極的な姿勢に繋がっていると考えられ,新たな問題解決手段として期待が高まるこれらの革新的な取組みにとって大きな障害となりかねない.本論では,土木インフラ整備における市民合意形成の経験に照らし,データ利活用に関する不安要因と対応策についての意識調査を分析し,ELSIの観点から革新的技術の社会受容について考察した.データ漏洩等のリスクに限らず,データ利活用が社会に及ぼす影響への懸念も大きな不安要因となっていることや,不安払拭の対策として参加型のルール形成の重要性が見出された.
著者
國生 剛治
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.23-00083, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
15

地震時斜面滑りの計算に使われるNewmark法では,地震動が滑り面の降伏加速度を超えることで滑り発生を規定しているが,実際には滑り直前のわずかな変位により滑り開始が一意的に決まる可能性が模型振動台実験などで示唆されてきた.そこで直前変位を表すバネを従来Newmark法のスライダーに直列接続した「バネ支持Newmark法」を開発し,その適用性を模型実験との対比により確認した.小さな滑り開始変位u0を与えることで斜面の滑り開始は従来法での降伏加速度を大きく超過する現象が見られ,模型実験でも類似の加速度超過現象が確認できた.また実測地震動を用いた現実的斜面の滑り計算により,わずか数mmのu0を考慮することで従来法に比べて降伏加速度の大幅超過や累積滑り変位の大幅低下など設計への大きな影響が示された.
著者
秋本 哲平 仙頭 紀明 上野 一彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.23-00025, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
16

溶液型薬液を用いた改良土は,土質条件によって想定した強度が発現しない場合がある.そういった場合,配合再試験や工法自体の見直しといった時間的,経済的ロスが生じる.このような手戻りを防止するには,薬液改良土の強度発現メカニズムを正確に把握し,土質条件に応じた強度推定手法や不足強度を補う手法の開発が必要である.本研究では,これまでに実施した,供試体内に超小型間隙水圧計を埋め込んだ一軸圧縮試験の結果の取りまとめを行った.加えて,薬液改良土の圧裂引張り試験を実施し,薬液と土粒子の付着力に起因する強度が圧裂引張り強さから算定できることを確認した.また,把握した強度発現メカニズムをもとに,事前調査で取得できる土質パラメータを用いた簡易的な強度推定式を提案し,現地土の事例に適用して,その妥当性を確認した.
著者
屋比久 雄斗 松原 仁
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.23-00020, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
29

微生物の代謝反応によって誘発されて析出する炭酸塩鉱物は,離散状態にある土粒子を結合し,土の強度や剛性を高める.微生物を実環境に添加する際には,周辺生態系への影響を考慮すれば,土着の微生物を利用することが好ましい.しかしながら,地盤固化に有用な土着微生物を微生物資源としてストックするための研究はあまり進んでいない現状がある.本研究では,この技術の沖縄地域での適用を指向し,当該地域の沿岸域における有用微生物を同定し,その菌叢を明らかにするために16S rRNA遺伝子解析を行った.分析の結果,試料を採取したすべての地点で有用微生物の存在が確認されたものの,固化の程度は採取地に依存することが明らかとなった.また,分子系統樹解析の結果から,地盤固化に有用な微生物は比較的近縁なDNA配列を有することが分かった.
著者
田代 怜 末政 直晃 佐々木 隆光 永尾 浩一 伊藤 和也
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.22-00184, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
27

新たな液状化対策工法として,改良費用が安価かつ狭隘地においても施工可能な工法の開発が求められている.本研究では産業副産物を母材とする安価な微粒子を用いた微粒子注入工法の実用化を目的とし,高炉スラグ微粉末を用いた非セメント系微粒子注入材の開発を試みた.まず,ジオポリマーやドロマイトの固化原理に着目し,複数の微粒子を用いた供試体を作製し,一軸圧縮試験を行うことで強度特性から適した配合を模索した.最適な配合において水粉体比等の注入条件を変えた一次元注入実験を実施することで浸透性や改良効果を把握した.結果,半水石膏・高炉スラグ微粉末・酸化マグネシウムを用いた配合において1年以内では強度低下は起こらず,液状化対策に必要な改良強度を持つこと,水粉体比や注入流量によって改良効果が異なることを確認した.
著者
油谷 大樹 神野 有生
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.22-00087, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
15

浅水底のUAV写真測量では,水面での光の屈折による水深の過小評価への対策として,推定された各点の水深に一定の係数を乗じる事後補正が行われている.しかし既往研究により,最適な係数(水深過小評価倍率)が条件により変動する問題が指摘され,その挙動の解明が課題となっている.本研究では,水深,波,水底テクスチャなどの条件を多様に設定したCGシミュレーションを行い,水深過小評価倍率が水深・波の増大とともに減少し,従来提案されていた値1.42からも大きく乖離し得ることを明らかにした.さらに,この傾向が生じるメカニズムについて検討し,水深・波の増大による投影点のエピポーラ線からの逸脱,局所的特徴の変化により,特に目標点が画像の外側に写るカメラが点群の座標推定に使われにくくなることを示して,対策を論じた.
著者
月岡 桂吾 坂井 公俊
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.23-00005, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
36

鉄道構造物の耐震設計に位相最適化を導入するためのプロセスを提案した.提案手法ではまず,現在の一般的な耐震設計手法に基づいて構造物の設計を実施する.次に位相最適化によって構造物の構造形態の候補を複数作成し上述した設計結果と比較することで,コストや性能等の観点でパレート最適解の範囲を絞り込む.最後に絞り込まれた解の範囲の中から,予算,施工性および維持管理性等を踏まえて設計者が最適な構造形態を選定する.提案手法の有効性を確認するために,柱高さ6mのコンクリート橋脚を対象に手法を適用した.その結果,パレート最適解として複数の構造形態が得られることや,解の範囲から選定した構造形態は従来のものと比較して性能やコストの面で優位性を有している事等を確認した.
著者
中村 豊 佐藤 勉 齋田 淳
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.22-00260, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
13

構造物などのヘルスモニタリング手法として,波動伝播速度や減衰定数を観測波形から直接リアルタイム計測できるCERS法がある.これをダム堤体の一部であるスラストブロックの物性値計測に適用した.対象は仙台市青葉区の大倉ダム(1961年に建設された日本唯一のダブルアーチダム)であり,竣工後50年の2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)の際にも特に被害は報告されていない.公開されたアーチ間のスラストブロック頂部および点検坑道内の強震記録により,観測点間の波動伝播速度をCERS法により直接測定し,物性の変化を検討した. その結果,Mw9.0の強震動でスラストブロックの剛性が約6割まで低下し,記録終了時には約7割に回復したことが確認されるなど,物性値の変動や減衰に及ぼす貯水位の影響等が把握できた.
著者
藤林 博明 野呂 直樹 辻 翔太 大山 理 松井 繁之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.22-00148, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
12

プレフレックスビーム(以下,プレビーム)は,プレストレスを導入した下フランジコンクリートと床版コンクリートを合成させた二重合成桁である.分割工法では工場で下フランジコンクリートにプレストレスを導入した桁を2~3ブロックに分割して現地に輸送する.近年,プレビームの長支間化に伴い,プレストレス導入時に下フランジコンクリートの分割位置付近でひび割れ発生が見られるようになった. 本稿では,このプレビームの分割工法における下フランジコンクリートのひび割れ発生メカニズムを究明し,ひび割れ防止対策として鋼桁フランジの側面に緩衝材を貼付する方法に加え,ずれ止めの角鋼ジベルを分割配置し,頭付きスタッドを併用する方法を提案した.これらのひび割れ防止対策に対してFE解析と静的載荷試験によって有効性を検証した.
著者
富山 恵介 田中 周平 森岡 たまき 小浜 暁子 李 文驕
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.23-00028, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
10

近年,環境中のマイクロプラスチックファイバー(以下,MPFs)の存在が明らかになり,要因の一つに衣類の洗濯による排出が指摘されている.本研究では,洗濯による生地設計別のMPFsの排出特性を把握することを主目的とした.糸(長繊維・短繊維),編立(プレーン・メッシュ),加工(柔軟剤無し・柔軟剤有り)で設計を分けたポリエステル生地を8タイプ開発し,ドラム型洗濯機の標準コースで洗濯後,目開き10μmのプランクトンネットでMPFsを捕集した.目的変数をMPFs重量とした3元配置分散分析では,糸の寄与率74.5%,加工の寄与率18.7%となり排出量の主要因であることが示された.糸の長繊維は短繊維に対し中央値で42~45%小さく,加工の柔軟剤無しは柔軟剤有りに対し中央値で22~25%小さい結果となった.
著者
根本 拓哉 吉田 翔悟 千明 大樹 古木 宏和 小島 尚人
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00273, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
15

本研究では,ハイパースペクトルデータ(HSデータ)の画像特徴強調・判読支援を目的として,繰り返しコントラストストレッチを取り入れた画像特徴強調カラー合成動画作成アルゴリズム(CCMアルゴリズム)を提案した.このアルゴリズムは,以下の4つのステップから成る.1) HSデータに対する主成分分析を通して,第1~第3主成分画像を作成.2) 主成分画像別に繰り返しコントラストストレッチを実施し,複数のストレッチ画像(s-PCC画像)を作成.3) 相関色温度により,s-PCC画像のRGBプレーンへの割り当てを決定.4) s-PCCカラー画像を繰り返し連続表示したCCM動画を作成.CCM動画を用いれば,コントラストストレッチの全過程を可視化・自動化でき,各種画像特徴の動的強調・判読支援に寄与できることを示した.
著者
寺井 康文 渡邊 法美
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00178, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
21

多くの土木事業の基礎条件となる地質は,その不確実性のため重大なコスト損失をもたらすリスク因子である.事業に関わる担当者が地質リスクや事業を“我がこと”とする役割認識がリスクマネジメントにおいて重要とされるが,これまで役割認識の効果を明らかにした研究はない.本研究では,道路事業における地質調査~設計の過程で,事業者,地質技術者,設計者がどのような役割認識を有し,どのような妥当性でリスクの特定や評価が行われるかを整理した.その結果から事業コストの期待値を求めたところ,地質リスクを“我がこと”と認識する担当者と“他人ごと”と認識する担当者では10%以上の事業コストの差が生じるとともに,事業において地質リスクが存在しないケースは少数であることが示唆された.
著者
新谷 歳三 馬場 美智子
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00163, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
10

災害時の基礎自治体への主な人的支援スキームは,「被災市区町村応援職員確保システム」として制度化された.加えて基礎自治体は,他の自治体間との応援協定の締結を進めているが,それらが災害時にどのように機能するかが十分に検討されているとは言えず,基礎自治体の受援計画が機能しない可能性が指摘されている.そこで本研究では,応援職員派遣と倉敷市の受援対応の状況を客観的に把握するために,平成30年7月豪雨で倉敷市が受け入れた応援職員やその支援業務の実態を分析し,(1) 人的支援スキーム毎に受援プロセスや特性が異なることを踏まえた運用,(2) 応援協定による事前の応援内容の協議,(3) 担当部署のマネジメント機能の確保が,基礎自治体の受援の観点から見た人的支援スキームに求められる要件と受援体制の課題であることを明らかにした.
著者
岩屋 遼 吉田 亮 橋本 忍 森河 由紀弘 太田 敏孝
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00335, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
16

本研究では,コンニャク石に可撓性や衝撃吸収性能をもたらすインターロッキング構造について,遊間をもち三次元にゆるく連結したブロック集合体として提案した.このブロック集合体は,3Dプリンティングにおける付加製造の特性を生かし,ブロックと遊間を同時に作製することで,組立てを不要とし,いかなる方向にも外れずに可動する単純な幾何モデルであり,可撓性や衝撃吸収性能が確認された.また,直接基礎として用いた振動試験においても,一体型のブロックに比べて,加速度を1/3程度まで低減する免振効果が確認できた.そして,このブロック集合体をコンクリートの打設によって製造するための施工方法についても考案した.
著者
伊藤 壱記 桃谷 尚嗣 景山 隆弘 中村 貴久 川中島 寛幸
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00265, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
18

整備新幹線におけるスラブ軌道用の土構造物は,列車速度 260km/h を前提とした設計が行われているが,将来的には整備新幹線の区間においても営業速度を向上させる可能性がある.スラブ軌道は列車荷重により沈下が生じると補修するのが容易ではないため,スラブ軌道を支持する土構造物の設計においては大きな沈下を生じさせないことが重要である.そこで,本研究では累積損傷度理論により,列車速度の影響を考慮して盛土の塑性沈下量を求める手法を提案することとした.はじめに,列車速度による盛土の動的応答の違いを有限要素解析で求め,その結果を考慮した載荷条件で実物大繰返し載荷試験を実施し,累積損傷度理論で求めた塑性沈下量の推定手法の妥当性を検証した.その上で累積損傷度理論を用いて列車速度を考慮した盛土の塑性沈下量を試算した.
著者
俵 道和 田中舘 悠登 本間 一也 呉 承寧
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00213, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
21

早強ポルトランドセメントおよび高炉スラグ微粉末を用いたペーストにCaO·2Al2O3を混和することによってセメント水和物である水酸化カルシウムが反応してハイドロカルマイト族の水和物を生成し,外部から浸透した塩化物イオンを化学的に固定化する効果と,細孔空隙率を小さくする物理的な浸透抑制効果が確認された.これによってペーストの塩化物イオンの見かけの拡散係数が大幅に低減された.この効果について初期養生温度が60℃の場合は低くなる傾向を示したが,中性化を受けた場合はほとんど変わらなかった.
著者
岩本 一将
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00311, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
39
被引用文献数
1

日本の近代港湾史における先駆的な事例である三国港突堤は,設計者であるEscherの図面が未発見であったことから,設計内容に関する詳細は不明だとされてきた.本稿では,Escherの設計図面を発見し,彼の設計を引き継いで事業を実施したDe Rijkeと古市公威の図面を含めた複数の一次史料を分析することで,設計内容の変遷および建設経緯の詳細を明らかにした.EscherとDe Rijkeによって設計・施工が先導された三国港突堤の建設事業は,明治13年の開港式時点で導流堤として十分に機能していた一方で,防波堤としては十分ではなかった.そのため,大波や暴風による被害を完全に防ぐことはできておらず,古市公威が設計に修正を加えたことで防波堤としての機能が補完され,完成に至っていたことが明らかとなった.
著者
小濱 健吾 吉田 伊織 田山 聡 貝戸 清之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00133, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
18

近年では,斜面防災に利用できる多様なモニタリングデータが獲得されている.衛星を用いた測位システムであるRTK-GNSSを活用し,ChangeFinderによる変化点検知手法が提案されているが,実用化のためには適用範囲の拡大が課題として残されている.本研究では,GNSSデータに含まれる測定誤差を処理する手法を新たに提案し,検知精度の向上を試みた.具体的には,マルチパス誤差を除去する恒星日周期補正法と偶然誤差を含むGNSSデータから真の位置を区別する偶然誤差処理モデルを提案し,粒子フィルタによる逐次推定を援用した変化点検知を行う.さらに,実際の高速道路において観測されたGNSSデータを用いて検証し,斜面の変位量が標本標準偏差の1.5倍を超える場合に変化点を検知できることを示した.