著者
Ryosuke Yokoi Kazuya Nakayachi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.22-27, 2021 (Released:2021-10-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1

This study tests the effect of moral value similarity on trust in autonomous cars (ACs). We adopt two moral values: utilitarianism (promoting a greater good) and deontology (condemning deliberate harm). Previous research found that utilitarianism similarity had a significant effect on trust in ACs, whereas deontology similarity did not. The research also revealed that when participants preferred a deontological action, ACs were less trusted than a human driver, even when the ACs performed the same action as the participants. We investigated the replicability of these findings and whether distrust in ACs arises from the ACs’ inability to sympathize with potential victims. Our online experiment (N=609) found that both utilitarian and deontology similarities positively influenced trust in ACs. Mediation analysis also indicated that when the driver was an AC, the participants recognized that the AC lacked the capacity to feel sympathy, thereby decreasing trust in it. The paper also discusses the theoretical implications of our findings.
著者
木原 香代子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.155-164, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
17

本研究では, 2種類の相貌印象判断と2種類の提示方法を用いて顔の再認記憶に及ぼす影響を検討した。実験1では, 2種類の特性語を用いて相貌印象判断を行い, 顔の再認記憶にどのような影響を及ぼすかを検討した。再認課題には記銘時と再認時で提示される表情が異なる異画像再認課題を用いて行った。その結果, 表情独立特性語で相貌印象判断を行った方が表情依存特性語で行うよりも後の再認成績が良くなることが示された。実験2では, 同一人物の異なる3種類の表情が連続提示され, 一括して相貌印象判断を行う一括符号化条件と, 同一人物の異なる3種類の表情がリスト中に分散して提示され, 個々に相貌印象判断を行う分離符号化条件を設定し, それぞれの提示方法が顔の再認記憶に及ぼす影響について検討した。相貌印象判断は実験1同様2種類の特性語を用い, 再認課題は異画像再認課題で行われた。その結果, 一括符号化条件の方が分離符号化条件よりも後の再認成績が良くなることが示された。したがって, 3つの表情の統合を促す符号化が顔の再認記憶を促進することが示唆された。
著者
吉山 尚裕
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.47-54, 1988-08-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
14

本研究は, 第一に少数者行動の一貫性が, 多数者に生起する少数者への同調行動の内面化に及ぼす効果を時系列的に検討し, 第二に多数者の少数者に対する属性認知 (自信と能力) の成立過程について吟味した。被験者は男子大学生80名。5人集団が構成され10試行群と20試行群の2条件に割りあてられた。実験集団の1人はサクラ (少数者) であった。集団状況において, 被験者はスクリーン上に70cmの長さの線分を3.3m離れた位置から実際に構成するように教示された。そのとき, サクラは一貫して逸脱した長さ (85cm) を呈示した。試行終了後, 被験者は個人状況において線分を構成した。結果は次の通りである。1. 多数者は少数者側への同調行動を生起させたが, 時間経過に伴う内面化の進行は見いだされなかった。2. 多数者は少数者に対して自らよりも“能力”を低く, “自信”を高く認知した。3. 多数者の少数者に対する“自信”認知は, “能力”認知に比べ敏感ではなく, その成立に時間を必要とした。4. また, 多数者は少数者との行動のズレが大きい場合に, 少数者の“自信”を自らよりも高く認知した。少数者の行動一貫性および少数者と多数者の行動のズレは, 多数者の少数者に対する“自信”認知成立の決定因であると結論された。また, 実験結果から今後検討すべきいくつかの間題が討論された。
著者
小杉 考司 藤沢 隆史 水谷 聡秀 石盛 真徳
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.16-25, 2001-12-25 (Released:2010-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

本研究は, ダイナミック社会的インパクト理論の一連の研究における, 空間的収束という結果をうみだす要因を特定することを目的としている。そのため, ダイナミックインパクト理論で用いられている, シミュレーションモデルに含まれている変数の効果を検証するべく四つのモデルを作った。派閥サイズモデルや累積的影響モデルでは二種類の連続変数をもち, 影響力の強さに個人差が付与されていたが, 本研究のモデルAおよびBは一種類の強度変数しか持たせず, さらにモデルCは影響力の個人差をなくした。モデルDは距離を離散的に表した, 近傍という変数を持つモデルである。結果は, いずれのモデルにおいても空間的収束が見られるというものであり, 影響力の数や個人差, 人数という変数は空間的収束の必要条件ではないことが明らかにされた。このことから, 結果をバイナリ変数に変換する関数と局所的相互作用という特徴が, 空間的収束に必要な条件であると考えられた。また, ダイナミック社会的インパクト理論を展開する方向性が示唆され, この理論から得られるシミュレーションの結果の, 誤解や拡大解釈という問題点が指摘された。最後に, コンピュータシミュレーション一般における, モデル構築の容易さが引き起こす問題点と, 今後の展望が示された。
著者
樂木 章子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.23-39, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
22
被引用文献数
1

乳児院の集団的・組織的特徴と乳児の発達の関係について検討するために, 対照的な2つの乳児院 (A乳児院とB乳児院) において事例研究を行った。A乳児院は高度な医療機能を有し, 都会の高層ビルの中にある大規模施設であり, B乳児院は温かい家庭的処遇を指向した山間部の小規模施設である。2つの乳児院における集合的行動, ならびに, 集合的行動の背後にあるコミュニケーションの特徴を検討した。すなわち, (1) 「乳児-保育者」集合体, ならびに, 職場集団における観察可能な集合的行動の相違, (2) コミュニケーション過程において形成される意味的差異の相違を検討した。その結果, A乳児院においては <効率-非効率> という差異が主導的であり, B乳児院においては <私物化-非私物化> という差異が主導的であることが見出された。また, それらの主導的差異によって構成される意味的世界は, 互いにとっての外部をなしている世界-A乳児院 (またはB乳児院) にとっては, B乳児院 (またはA乳児院) に構成されているような意味的世界-によってゆらぎを与えられていることも示唆された。筆者の先行研究において, A乳児院で観察された (しかし, B乳児院では観察されなかった) 乳児の行動, 応答の指さし課題における通過率の高低, 集団見立て遊びの成立・不成立等を, 上記の集団的・組織的特徴の一側面として考察した。
著者
田原 直美 三沢 良 山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.74-86, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
20

本研究は,病棟クラークの導入が看護師の業務の安全性と円滑さに及ぼす影響を,看護師の行動的及び心理的側面から検討した。K大学病院のA病棟に2名の病棟クラークを約8ヶ月間試験的に導入し,看護師の,業務中断経験,業務中のトラブル経験,ストレッサー,及びチームワークについて,導入前後の変化を追跡調査した。分析の結果,クラーク導入後のポジティブな変化として,看護師の業務中断経験及びトラブル経験の減少が確認されたが,ネガティブな変化として,患者に対応の遅れを指摘される経験の増加と看護師のチームワークプロセス認知の悪化が認められた。クラークの導入は看護師の業務負担軽減や安全性確保に有効であるが,そのためには,一定の時間とクラークと看護師の連携が不可欠であることが示唆された。
著者
中谷内 一也 野波 寛 加藤 潤三
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.205-216, 2010 (Released:2010-02-20)
参考文献数
26
被引用文献数
2 2

本研究の目的は,沖縄県赤土流出問題を題材として,環境リスク管理組織への信頼が,一般住民と被害を受けてきた漁業関係者との間でどのように異なるかを検討することであった。何が信頼を導くのかという問いへの,社会心理学の長年にわたる標準的な回答は,能力認知と誠実さ認知が信頼を導くというものである。これに対して,リスク研究分野で注目されている主要価値類似性モデル(SVSモデル)は,人々が,リスク管理者に対して自分たちと同じ価値を共有していると認知することこそが信頼を導く基本要因だと主張する。われわれは両モデルが統合可能であると考えた。すなわち,当該環境問題に利害関係の強い人びとは主要価値が明確であるので,SVSモデルが予測するように,価値の類似性評価によって信頼が導かれる。一方,直接の利害関係にない人びとの信頼は代表的な信頼モデルが予測するように,能力評価や誠実さ評価によって導かれる。この統合信頼モデルを検証するために,沖縄県宜野座村をフィールドとして質問紙調査を実施し,一般住民(n=234)と漁業関係者(n=72)から回答を得た。分析の結果は仮説をおおむね支持するものであり,利害関係の強い漁業関係者の信頼は価値類似性評価と関連し,一方,一般住民の信頼は能力評価と関連することが見いだされた。最後に,今回の知見がリスク管理実務に与える示唆について考察した。
著者
村井 剛 猪俣 公宏
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.28-36, 2010 (Released:2010-08-19)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

リーダーシップは集団メンバー個々の行動と集団活動に決定的な影響をあたえるものとして一般に理解されている。本研究では,勝利志向型のスポーツチームの理想のキャプテン像の特徴を質問紙調査によって明らかにすることを目的とした。116項目のキャプテンの理想像に関する質問紙を808名,9競技種目のチームスポーツの選手を対象として調査を行った。項目の因子分析の結果,「目標志向性」,「人間関係の維持発展」,「メンバーへの激励」,「競技知識」,「競技能力」の5つの因子を抽出した。これらの結果は概ね先行研究で得られた見解と類似していた。 信頼性を検討するため,Cronbachのα係数の算出と,再検査法によるピアソンの相関係数を算出した。 α係数,再検査法による相関はともに比較的高い値であった。従って今回得られた結果はある程度の信頼性を有していると考えられる。 妥当性は基準関連的妥当性,内容的妥当性について検討した。また,性差の観点から比較を行った。
著者
東村 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.140-154, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

日本の高校教育は,高校全入の時代を迎える一方,多数の不本意入学者や高校中退者という新たな困難に直面している。サポート校は,こうした事態に対応するものとして生まれ,現在まで急速に発展してきた。サポート校とは,通信制高校に在籍する生徒の卒業資格取得をサポートする私塾であり,不登校や高校中退を経験した生徒が数多く通っている。本研究では,あるサポート校C学院においてフィールドワークを行った。C学院における教育実践は,以下の3つの特徴―(1)教師と生徒が親密な関係にあること,(2)ふだんの授業では,学習よりも生徒が学校を楽しいと感じることが重視されており,高校卒業資格取得については特別な授業が設けられ,徹底した指導が行われていること,(3)教師が生徒一人一人に合わせた丁寧な対応を行っていること―を有していた。これらの特徴が,C学院に多く在籍する,不登校経験のある生徒や学力の低い生徒にとって有効であることを,事例研究から明らかにした。このように,サポート校における教育実践は,一般の学校にはない意義を有するものであるが,サポート校は学校教育を代替することはできない。その理由を,「制度化された教育」と「制度化されない教育」(林,1994)という観点から考察した。「サポート校=制度化されない教育」と「学校=制度化された教育」では,常に後者に正統性が与えられるがゆえに,サポート校は困難や矛盾を抱えることになる。意義と矛盾を共に抱えこむサポート校のあり方は,われわれが暗黙のうちに支えている学校教育制度の正統性に疑問を呈し,その再考を迫るものである。
著者
東村 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.122-144, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究では,就学前障害児の通園施設において,卒園児の親が自らの語る「物語」を通して,通園児の親を支援するという試みを行った。具体的には,かつて施設に在籍した子どもの母親のメッセージを,現在通園している親に伝えることによって通園児の親に対して心理的な支援を行い,世代を超えた親同士のネットワークを作り出すことを目指した。第1部では,この試みを行った背景として,長期にわたるフィールドワークをもとに,障害児をもつ親の抱える問題を通園開始から卒園まで時間軸に沿って詳述し,施設における支援の意義と課題を明らかにした。第2部では,やまだ(2000a)のライフストーリー論にもとづいて筆者が行った具体的な試みについて考察した。その際,物語の「内容」に着目するのではなく,語られた物語と「物語る―聴く」という相互行為が,語り手である卒園児の親と聞き手である通園児の親,および両者の関係性に対してもつ意義に焦点をあてて分析を行った。その結果,語られた物語が,語り手と聞き手の間での行き来を通して,両者にとって自らを映し出す「鏡」のような役割を果たしていること,そのように他者を通して自らの姿を見つめることが,親が障害のあるわが子をしっかりと受けとめ,自信をもって育てていくために必要なプロセスであることを見出した。さらに,通園施設におけるこうした試みを,障害児を育てる親のネットワークづくりのプロセスとして位置づけた。
著者
Takuhiko Deguchi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.105-110, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
12

A questionnaire and a computer simulation were used to investigate the validity of a critical mass model of rule-breaking behavior with local interaction. In this model, individuals were only able to perceive some of their neighbors’ behavior. The questionnaire assessed attitudes toward and the frequency of rule-breaking behavior, and 887 valid responses were obtained from Japanese junior high school students. Computer simulations based on cellular automata were conducted using the questionnaire data. The outputs of the simulations including local interactions showed strong positive correlations with the rule-breaking frequencies obtained with the questionnaire. These findings imply that models taking the limits of perception into account could be useful for describing real micro-macro relationships.
著者
竹ノ山 圭二郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.42-53, 2005 (Released:2005-08-26)
参考文献数
18

本研究の目的は,援助の意思決定における状況の重大性の影響およびWeiner(1995)の認知(原因帰属)―感情―行為モデルについて検討することであった。被験者は,重大性(高:車道で倒れる―低:歩道で倒れる)×倒れる人(病人―酔っぱらい)で構成された4種類のシナリオを読み,それぞれに対して,援助意思,重大性,原因帰属,および困窮者に対する感情を訊ねられた。その結果,重大性高―酔っぱらい条件の被験者は,重大性低―酔っぱらい条件よりも援助意思を高く評定していた。この結果は,重大性が高くなるほど援助意思も高くなるということを示唆していた。しかし,重大性高―病人条件と重大性低―病人条件の援助意思には有意な差がなかった。この結果は,重大性高―病人条件の被験者が困窮者に責任を帰属したことにより援助意思が低下したことを示唆していた。また,相関分析の結果は,酔っぱらい条件における援助意思と原因帰属の相関が病人条件よりも大きいことを示唆していた。
著者
法理 樹里 牧野 光琢 堀井 豊充
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.42-50, 2017 (Released:2017-09-07)
参考文献数
37
被引用文献数
2 3

2011年3月11日に発生した,東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故に伴う風評被害は水産物にも及んでいる。福島県産農産物に対する消費者意識調査で用いられた手法を援用し,二重過程理論に基づき震災後の福島県産水産物の購買意図へ影響をおよぼす消費者意識を調査した。本研究で用いた,二重過程理論のシステム1には,「放射線・原発不安」意識および「被災地支援」意識,システム2には,「知識による判断」意識および「合理的判断」意識が含まれていた。共分散構造分析の結果,「放射線・原発不安」は購買意図を抑制することが示された。一方,「被災地支援」は,購買意図を促進することが示された。さらに,先行研究とは異なり,福島県産水産物の購買においては,「被災地支援」は「放射線・原発不安」を抑制する効果があることが明らかとなった。消費者は不安を抱えながらも復興支援の意識を持ち,福島県産水産物の「購買意図」を培っていることが示唆された。
著者
Claudia Gherghel Takeshi Hashimoto Jiro Takai
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.56-60, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
16
被引用文献数
2 3

Previous research suggests that individuals from interdependent cultures have more congruent views of agency and social obligations. This study aimed to confirm these findings by investigating the moderating effects of culture on the association between perceived social expectations regarding helping and affect. Japanese (n=164) and American (n=177) adults recalled a recent situation in which they helped someone and responded to a questionnaire regarding need satisfaction and affect. As expected, the Japanese subjects showed a stronger positive association between the perceived social expectation that they should help and positive affect than the Americans. For Japanese, the perceived social expectation that they should help increased satisfaction of the need for competence, leading to a more positive affect, while for Americans, the perceived social expectation that they should help reduced satisfaction of the need for autonomy, which in turn, reduced positive affect.
著者
田垣 正晋
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.173-184, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
8
被引用文献数
4 2

本研究の目的は,障害者施策における住民会議のあり方を検討すること,および,その過程を通じて,アクションリサーチにおいて研究者はいかにフィールドと関わるべきかについて方法論的に検討することである。本研究でとりあげた事例は,ある地方都市の障害者施策推進に関する住民会議であり,筆者は住民会議の運営において中心的な役割を果たした。筆者の会議への関わりを,筆者の発言,提出資料,メールから時系列的に再構成した。住民会議の当初目標は,結果的には達成されなかった。その主な原因は,活動の目標が共有されなかったこと,文書資料の準備不足,市職員,座長,筆者の打ち合わせの不足であった。この過程をアクションリサーチの方法論の問題として検討した結果,当事者,すなわち,住民会議のメンバーのセンスメーキングを促すようなセンスメーキングを研究者が行うことが重要であるとわかった。例えば,メンバー間をコーディネートすること,住民会議の場で自明視されていたり,人々がうまく言葉にできなかったりする現象を研究者が言語化することである。また,得られた知見の文脈を同定し,他の事例への転用可能性を高めるために,研究範囲と期間(ローカリティ)を限定することも重要であることが示唆された。さらに,このためには,研究者とフィールドとのコンタクトの記録を保存して,フィールドワークの文脈を明示化することが重要との知見が得られた。
著者
大河内 茂美 杉万 俊夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.63-72, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
11

集団目標の達成を志向するP行動と, 人間関係それ自体の維持を志向するM行動という, 2種類の行動形態によってリーダーシップ行動を把握しようとするP-M論に基づき, P行動とM行動の効果性に関する数理モデルを提出した。P行動の下位形態として, メンバーの能力向上を志向するP行動と, 累積目標達成量の増加を志向するP行動を設定し, これらにM行動を加えた3つのリーダーシップ行動の時間的関数として効果性を定式化した。第1に, 「メンバーの能力」と「人間関係の円滑さ」が, 「集団モラール」に与える効果を, 経済学における生産関数を援用して定式化した。第2に集団モラールは, メンバーの能力向上, 人間関係の円滑化, 累積目標達成量の増加に利用されるものとし, それぞれに対する利用は, 上記3つのリーダーシップ行動によって決まるものとした。数理モデルの解析には, ポントリャーギンの最大値の原理を用いた。本モデルは, これまでの実証的研究の成果に対して, 有効な解釈を与えうることが示唆された。
著者
渡部 幹 寺井 滋 林 直保子 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.183-196, 1996-12-10 (Released:2010-06-04)
参考文献数
42
被引用文献数
19 20

最小条件集団における内集団バイアスの説明のために提出されたKarpら (1993) の「コントロール幻想」仮説を囚人のジレンマに適用すると, 囚人のジレンマでの協力率が, プレイヤーの持つ相手の行動に対するコントロール感の強さにより影響されることが予測される。本論文では, 人々の持つコントロール感の強さを囚人のジレンマでの行動決定の順序により統制した2つの実験を行った。まず第1実験では以下の3つの仮説が検討された。仮説1: 囚人のジレンマで, 相手が既に協力・非協力の決定を終えている状態で決定するプレイヤーの行動は, 先に決定するプレイヤーの行動により異なる。最初のプレイヤーが協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率は, 最初のプレイヤーが非協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率よりも高い。仮説2: 先に行動決定を行うプレイヤーの協力率は, 同時に決定を行う通常の囚人のジレンマにおける協力率よりも高い。仮説3: 2番目に決定するプレイヤーの協力率は, 相手の決定が自分の決定の前に知らされない場合でも, 同時に決定を行うプレイヤーの協力率よりも低い。以上3つの仮説は第1実験の結果により支持された。3つの仮説のうち最も重要である仮説3は, 追実験である第2実験の結果により再度支持された。
著者
横川 和章 上野 徳美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.61-67, 1982-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
18

本研究の目的は, 集団極化現象の生起するメカニズムについて, 社会的比較説の立場から検討することであった。特に, 能力比較を基礎とした意見の比較が, 同質的集団内で生起する極化現象のメカニズムとして意味があるか否かを検討した。被験者は83名で, 彼らは, 比較の対象となる他者が高い能力をもつ条件 (H条件), 平均的な能力をもつ条件 (M条件) の実験条件, および統制条件にそれぞれ無作為に割り当てられた。実験条件の被験者は, 他者の意見 (アドバイスの平均値) に接触した。比較の対象となる他者は同じクラスの学生であった。材料としてはCDQ (Choice Dilemma Questionnaire) 4事例が用いられた。主な結果は以下の通りであった。事例1では, H条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。すなわち高能力の他者との比較を通して極化現象が生起した。事例3でも同様にH条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。また, アドバイスの初期態度の位置によって極化の程度が異なる傾向にあった。以上の結果は, 能力比較を基礎とした意見の比較が起こり得ることを示しており, 自分よりある程度能力の高い他者との比較を通して集団極化現象が生起することを示唆するものであった。また, 筆者らの前研究との考察において, 比較他者の属する集団の性質, すなわち, 被験者にとって同質的であるか, 異質的であるかによって集団極化現象の生起の様相の異なることが示唆された。
著者
清成 透子 井上 裕香子 松本 良恵
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si5-11, (Released:2022-12-01)
参考文献数
26

COVID-19のパンデミックは,行動免疫システムと感染予防行動や態度などの関係を検討する格好の機会である。本研究は,感染拡大の鍵を握る若年層(大学生)を対象に身近にCOVID-19の罹患者がいる群とそうではない群を比較し,行動免疫システムから予測される通り身近に迫る感染脅威が予防行動を実際に引き出しているかを検討した。調査は2021年7月5日から21日の期間にオンラインで実施した。有効回答のうち,感染経験者あるいは検査中の回答者(13名)を除外した456名を分析した結果,予測に反して身近有感染群(152名)は無感染群(304名)と比較すると全体として感染回避反応が低く,予防行動を行っていないことが明らかにされた。若年層では病原体曝露によるリスクと人間関係維持による利益間にトレードオフが生じている可能性が示唆された。