著者
松本 芳之
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.45-53, 1980-10-01 (Released:2010-11-26)
参考文献数
9

本研究はDeutschとKraussのトラッキングゲームを用い, 利害対立を含む相互作用場面におけるコミュニケーションの効果を検討したものである.実験Iでは, ゲームの基本的要件を確認するという目的から, ゲートの有無とコミュニケーションの有無の条件を取りあげた. コミュニケーションは, 各試行終了後メッセージを交換するという方法を取った. ゲートの存在は関係調整の妨げとなることが確認されたと共に, 直接のコミュニケーションは調整を促進させる働きを持つこと, この傾向はゲートの存在する条件で強いという結果を得た. こうしたコミュニケーションの効果は, 相互作用を持続させることで, 被験者の事態の了解に影響する, という点に起因することが示唆された.そこで実験IIでは, コミュニケーションが有効となり得ないという結果は, 何らかの理由で被験者が実験開始時の場面の理解に固執したことに帰因する, という仮説を検証した. 被験者の場面の理解を規定する方法として課題提示, 具体的には実験に先立つ練習試行の内容を変えることで操作した. 調整条件では, 互いに納得できる合意形態を練習することで, 交渉場面に含まれる協力的要素を強調した. 一方, 対立条件では, 互いに対立する結果相手を妨げるためにそれぞれの勢力に訴えるという交渉場面の競争的要素を強調した. この条件それぞれに対してコミュニケーションの有無の条件 (方法は実験Iと同様) を設け, 交渉過程との関係を検討した.結果は, 被験者が交渉場面をどう理解するかが交渉過程に大きく影響し, 調整条件で得点が高いことが示された. 一方, コミュニケーションの有無による差は見られなかった.しかしながら, 他の行動側面を詳しく検討した中で, 従来コミュニケーションが有効性を持ち得ない点で注目されていた条件にあたる, 対立条件では, コミュニケーションの存在が相互作用の展開を両極化させること, すなわち, 容易に調整に至る場合と, 逆にかえって対立が強まる場合とに分かれる傾向があり, その差が増大することが明らかになった. 更に, 相手に依存しない選択手段は, 対立の進行にとって一種の宥和作用を持つことが示唆された.
著者
上野 徳美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.31-37, 1991-07-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究は, 説得メッセージの反復提示と圧力 (自由への脅威) が説得の受容と抵抗の両側面にどのような影響を及ぼすかについて検討することを目的とした。本研究で用いられた要因は, メッセージの提示回数 (1, 3, 5回) と圧力 (大小) の2要因であり, 2×3の要因計画のもとに実験が実施された。実験では順態度的メッセージが用いられ, 被験者にはテープ・レコーダーを通してメッセージが提示された。メッセージの効果は質問紙によって多面的に測定された。本研究では, 説得メッセージの圧力の主効果が生じるとともに, メッセージの反復提示と圧力との交互作用効果 (反復提示の効果はメッセージの圧力の大きさによってかなり異なった様相を呈する) が得られるであろう, と予測した。実験の結果, まずメッセージの圧力の主効果が認められた。圧力の小さいメッセージにおいては説得の肯定的な効果が生じたのに対して, 圧力の大きいメッセージにおいては反対に説得への抵抗や否定的効果が生じた。また, メッセージ評価や意見といった測度において, メッセージの反復提示と圧力の要因の交互作用効果が得られた。すなわち, 圧力小のメッセージでは, 提示回数と説得効果の間に逆U字型 (3回提示の時に肯定的効果が最大) の傾向が生じ, 過度な反復 (5回提示) は否定的効果を引き起こした。他方, 圧力大のメッセージでは反対にU字型の傾向が認められ, 3回提示の時に否定的効果が最大であった。後者のU字型のパターンに関しては予測と一部異なったものの, それ自体注目すべき結果を示した。以上の結果は, メッセージの反復という要因が説得の受容や抵抗を規定する重要な要因になりうることを示した。また, メッセージ反復による説得の受容や抵抗の生起過程は, リアクタンス理論とELM (Elaboration Likelihood Model: 精緻化可能性モデル) をもとに考察された。
著者
木村 泰之 都築 誉史
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.183-192, 1998-12-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
27
被引用文献数
10 8

本研究では, 近年急速に普及しつつあるコンピュータ・コミュニケーションの特質を社会心理学的に検討した。集団意思決定における集団極化現象を扱ったコンピュータ・コミュニケーション条件と対面コミュニケーション条件による実験を行い, 両コミュニケーション・モード間における差異について検討を加えた。被験者は3人1組の実験集団を構成し, ジレンマ課題におけるリスク水準決定を行った。コンピュータ・コミュニケーション条件では対面コミュニケーションに比べ, コミュニケーション当事者から受ける緊張感や心理的負担といった対人圧力が減少することが分かった。こうした対人圧力の減少によって, 通常言われているコンピュータ・コミュニケーション上での立場の平等化という現象が説明可能であることが示唆された。コンピュータ・コミュニケーション条件で, 集団極化現象が観察され, 対面コミュニケーションに比べ, よりリスキーな意思決定を行いやすいことなども確認された。その他, 第1発言効果の検証を行った。
著者
奥田 達也 伊藤 哲司
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.167-174, 1991
被引用文献数
2 2

In social-psychological studies, it is often necessary to observe what role each member of a small sroup has and how the structure of the group is. SYMLOG (a SYstem for the Multiple Level Observation of Groups: Bales & Cohen, 1979) is a method for that kind of observation. But it is not appropriate to use SYMLOG translated directly into Japanese because of cultural differences. The purpose of this study is to make simple rating items of SYMLOG for the Japanese people. In SYMLOG, three dimensions for locating each group member are assumed, which are "Upward-Downward (dominant-submissive) ", "Positive-Negative (friendly-unfriendly) ", and "Forward-Backward (task-oriented-emotionally expressive) ". First of all, it was pointed out that the definition of "F-B" in the Japanese version should be "in-context-out-of-context", and then eighteen items were made which are constructed of sets of three items for each polar of each dimension. Observation 1 examined the validity of these eighteen items through factor analysis of ratings of SIMSOC (SIMulated SOCiety) interaction. The result showed the necessity to improve the items N, F, and B. The validity of the remade twenty four items was investigated in Observation 2 through factor analysis of ratings of discussions by five people. It yielded six factors that almost correspond to each polar in each dimension. Further factor analysis of twelve items extracted from the remade items made six factors, that showed the three-dimension-structure. Correlations between ratings by these twelve items and scorings (that is the other method in SYMLOG) were positive. Therefore these twelve items in Japanese Japanese improved version of SYMLOG-are valid and useful for observation of small group interactions.
著者
日高 友郎 水月 昭道 サトウ タツヤ
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1208, (Released:2014-03-28)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

本研究では市民と科学者の対話(科学コミュニケーション)の場であるサイエンスカフェでフィールドワークを行い,両者のコミュニケーションの実態を集団研究の文脈から検討した。目的は第1 にサイエンスカフェの記述的理解,第2 に集団の維持要因についての検討である。結果は以下の2 点にまとめられた。第1 に参加者の関心の多様性(KJ 法による),第2 に科学者―市民間の会話は,第三者であるサイエンスカフェ主催者(「ファシリテーター」)が介入することで維持されていたこと(ディスコース分析による)である。集団成員間に専門的知識や関心などの差がありながらも,ファシリテーターの介入によって,両者の「双方向コミュニケーション」が実現され,集団が維持される可能性がある。これはサイエンスカフェにとどまらず,専門家と一般人のコミュニケーションが生起する場の理解,またそのような場を構築していくにあたって示唆的な知見となるであろう。
著者
三隅 二不二 石田 梅男
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.148-158, 1972-03-31 (Released:2010-11-26)
参考文献数
5
被引用文献数
1

二段階の監督レベルを含むリーダーシップ類型の相異が, 集団成員の動機づけ, 終末結果に及ぼす効果差を, とくにリーダーシップ・タイプの相補性効果の観点から吟味するため, 実験室的状況を設定した。独立変数として, 第二線監督の指導類型PM型, P型, M型, 第一線監督の指導類型PM型, P型, M型, pm型を構成し, これらの二段階のリーダーシップ・スタイルの組合せのもとで, 集団成員は, IBMカードの穿孔数を3人が協同して数える単純作業に従事させられた。被験者は無作為に実験集団の一つに割り当てられた。一集団は3名の作業者で構成された。3人の被験者よりなる2~3集団は, 1名の監督者のもとで作業を行なったのであるが, これを更にもう1人の第二線監督者が監督した。第二線監督者は, 常時実験室には駐在せずに, ときどき実験室を巡回して, 第一線監督者を指導した。この意味において, 第二線監督者の集団成員に対する影響は第一線監督者を媒介した間接的なものであるが, 第二線監督者と第一線監督者との会話は, すべて部下達の面前で行なわれたので, 第二線監督者の存在とその行動様式は, 集団成員にとって現実的なものであった。被験者は, 平均年齢22才の男子, 63名。第一線監督者は, 心理学専攻の大学院生10名。第二線監督者は, 心理学研究室の助教授3名。1回の作業時間は15分, 1日2回, 全部で8回作業を行なった。結果を要約すれば, 次の通りである。1. 実験者によって設定されたリーダーシップ条件と被験者の認知的反応が一致したものをもって, リーダーシップ条件とした。2. 終末結果としての生産性指数においては, 試行回数の後半において, PM類型群が, 全試行を通じてP-Mが上位であり, 重複類型群であるP-P, M-M及びP-pmは生産性指数が低位であった。3. 集団成員の状況満足度については, 生産性指数ほど明瞭な結果は見出せなかったが, PM類型群全体の得点は, 重複類型群の得点よりも有意に高く, 有意差はないが, 単型Pと単型Mの相補群が中間の得点を示した。
著者
脇本 竜太郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.160-168, 2008
被引用文献数
3

自尊心の高低と援助要請に関しては,正の関係を想定する脆弱性仮説と負の関係を想定する認知的一貫性仮説・自尊心脅威モデルという対立する仮説が提案され,双方を支持する知見が蓄積されている。本研究では,そのような知見を整理する1つの視点として自尊心の不安定性を取り上げ,自尊心の高低と不安定性が青年の被援助志向性および援助要請に及ぼす影響について,対人ストレスイベントの頻度・日間変動を統制した上で検討した。援助要請についてはさらに,家族・非家族という対象ごとの検討も行った。 48名の大学生・大学院生が1週間の日誌法による調査に回答した。階層的重回帰分析の結果,自尊心の高低と被援助志向性・援助要請の関係は,自尊心の不安定性により調節されていた。具体的には,自尊心が不安定である場合は高さと被援助志向性,援助要請の回数は負の関係を,特に自尊心が安定している場合は正の関係を持つことが示された。また,対象別の援助要請の分析では,上記のような関係が非家族への援助要請数でのみ認められた。自尊心の高低と同時に不安定性を検討することの意義・有用性および今後の研究に対する示唆について議論した。<br>
著者
小杉 考司 藤沢 隆史 水谷 聡秀 石盛 真徳
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.16-25, 2001
被引用文献数
1

本研究は, ダイナミック社会的インパクト理論の一連の研究における, 空間的収束という結果をうみだす要因を特定することを目的としている。そのため, ダイナミックインパクト理論で用いられている, シミュレーションモデルに含まれている変数の効果を検証するべく四つのモデルを作った。派閥サイズモデルや累積的影響モデルでは二種類の連続変数をもち, 影響力の強さに個人差が付与されていたが, 本研究のモデルAおよびBは一種類の強度変数しか持たせず, さらにモデルCは影響力の個人差をなくした。モデルDは距離を離散的に表した, 近傍という変数を持つモデルである。結果は, いずれのモデルにおいても空間的収束が見られるというものであり, 影響力の数や個人差, 人数という変数は空間的収束の必要条件ではないことが明らかにされた。このことから, 結果をバイナリ変数に変換する関数と局所的相互作用という特徴が, 空間的収束に必要な条件であると考えられた。また, ダイナミック社会的インパクト理論を展開する方向性が示唆され, この理論から得られるシミュレーションの結果の, 誤解や拡大解釈という問題点が指摘された。<BR>最後に, コンピュータシミュレーション一般における, モデル構築の容易さが引き起こす問題点と, 今後の展望が示された。
著者
杉山 高志 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.49-63, 2023 (Released:2023-04-27)
参考文献数
36

本稿は,高知県黒潮町で展開された防災活動に対して参与観察を行い,Days-Afterの視座から分析を試みたものである。Days-Afterとは,まだ起こっていない災害現象を,もう起こったこととして捉える姿勢・語り方のことであり,災害の発生を確率として捉えるのではなく,将来必ず起こるものとして捉えて語る視点のことである。この視点は,災害の発生が不可避だととらえるものであり,時として災害に対する諦めを引き起こしかねない視点である。しかし,本稿では,逆説的ではあるが,災害の発生を確実なものとして捉えるDays-Afterの視点が,黒潮町の住民を防災に対する前向きな態度に変容させていたことを明らかにした。具体的には,黒潮町の会所地区における防災活動と,黒潮町の住民が作成した津波についての絵画を対象に分析を行った。その結果,南海トラフ地震が将来的に不可避であることを学習する過程で,巨大な津波想定に対する葛藤は生じていたものの,防災活動を通じて住民は自らの生活を振り返り日常生活の価値を再発見し,発災後にも生き残った未来を想起していたことがわかった。
著者
有吉 美恵 池田 浩 縄田 健悟 山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.53-61, 2018 (Released:2018-07-31)
参考文献数
20

従来の研究では,定型業務はワークモチベーションを抑制することが明らかにされてきたが,どのような心理プロセスによってワークモチベーションを抑制するのかについてはさほど注目されてこなかった。本研究では,定型業務のもとでワークモチベーションを抑制する心理プロセスを明らかにすることを目的とした。9企業と1大学で働くオフィスワーカー261名から質問紙調査への回答を得た。質問内容は,職務における定型業務度,職務意義(他者志向,自己志向,報酬志向),ワークモチベーションに関するものであった。調査の結果,定型業務がワークモチベーションを抑制する関係にあることと,定型業務では顧客と社会への貢献感(他者志向)と,自己の成長,達成感(自己志向)が感じられにくいことでワークモチベーションが抑制されることが示された。一方,社会的,経済的な報酬(報酬志向)は影響しなかった。このことは,定型業務のワークモチベーションをマネジメントするうえで単に報酬を高めれば良いという訳ではなく,他者や自己に関わる意義を職務に感じさせる重要性について示唆を与えている。
著者
真島 理恵 木村 多聞
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.169-181, 2023 (Released:2023-04-27)
参考文献数
20

COVID-19のパンデミックに直面し,昨今の日本社会では,感染予防行動をとらない人を,一部の人々が自主的に匿名で取り締まる制裁行動がしばしば観察される。こうした感染蔓延を防ぐために規範を強制するという極端な方法は対象者に対するつるし上げに結びつき,社会に深刻な問題をもたらす可能性が大きい。本研究では,このような攻撃が,ヒトを非常に協力的な存在たらしめているメカニズムの一つとして提唱されている強い互恵性に基づき生じている可能性を検証した。ウェブ調査により,強い互恵性を構成するいくつかの側面(利他的罰,利他的報酬など),感染予防規範からの逸脱者及びCOVID-19感染者に対する印象と行動意図,回答者自身が感染予防行動をとっている程度を測定した。その結果,利他的罰の傾向が,感染予防規範逸脱者及びCOVID-19感染者に対する攻撃に対する正の効果をもつというパターンが,回答者自身が感染予防行動を行っている場合にのみみられることが明らかとなった。人々が感染予防規範に従っている状況下では利他的罰の傾向が感染予防規範逸脱者への攻撃を促進する可能性が示唆された。
著者
吉武 久美子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.65-69, 1989-08-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
7

This experiment was conducted to compare the conformity rates in the case of the suddenly formed consensus and in that of the gradually formed consensus in elective task. Moreover, the effects of public self-consciousness scores in conformity were tested. Subjects were 35 (10 males and 25 females) college students. The results were as follows. The conformity rates under the suddenly formed consensus condition were higher than that under the gradually formed consensus condition. However, follow ing the experiment, no difference was found between the suddenly formed consensus condition and the gradually formed consensus condition with regard to the amount of private acceptance. And High public self-consciousness scorers conformed more than low scorers.
著者
中井 彩香 沼崎 誠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si5-9, (Released:2023-04-04)
参考文献数
31

本研究は,コロナ禍において友人の過去の旅行,あるいは未来の旅行を知ったときの悪性妬み・良性妬み・友人を低める動機・旅行動機の強さを検討した。友人が旅行に行く,あるいは旅行に行った話を聞いたというシナリオを用いて,自分も旅行計画を立てていたが行けなかったという情報を含めるかどうかを変えることで旅行計画の有無を操作した。参加者はシナリオを読み,妬みや他者を低める動機,旅行動機を感じた程度を回答した。その後,コロナ禍において参加者自身が外出を自粛していた程度を回答するように求めた。結果として,外出自粛行動をしている人においてのみ,自分が旅行に行けなかったという情報を与えられた場合は,友人が旅行に行く話よりも旅行に行った話を聞いたときのほうが,悪性妬みが強いことで,友人の悪口を言うなど友人を低める動機と友人よりも豪華な旅行に行く動機が強かった。本研究で得られた知見から,未来の出来事の不確実性が顕著であるときは,他者の過去の出来事よりも未来の出来事に対してのほうが悪性妬みが強いことが示唆された。
著者
安達 智子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.39-50, 2007 (Released:2008-01-10)
参考文献数
31
被引用文献数
1

近年,わが国における若者の間には,フリーターとしての生き方や働き方を肯定的に受けとめる傾向がみられるようになった。本研究は,こうしたフリーターに対する肯定的態度を測定し,その下位構造について明らかにすること,ならびに,結果期待(フリーターのメリット,デメリット)からフリーターに対する肯定的態度への規定力について検討することを目的とした。調査対象は,関東圏の大学,短期大学,専門学校へ通う学生とし,588名より得られた有効回答を分析したところ,以下の結果が得られた。はじめに,フリーターに対する肯定的態度の構造について検討するために探索的因子分析を行ったところ,「貢献承認」,「プロセスとしての受容」,「積極的受容」の3因子が抽出された。つづいて,結果期待からフリーターに対する肯定的態度への規定力を検討するために構造方程式モデリングによる因果分析を行ったところ,フリーターは社会経験になるというメリットの予測が,3つのフリーターに対する肯定的態度へ正の影響を及ぼしていた。一方,フリーターの経歴が将来のキャリア形成にとって支障になるであろうというデメリットの予測は,プロセスとしての受容にのみ負の影響を及ぼしていた。すなわち,若者のフリーターに対する態度を規定する要因として,結果期待による影響力が確認出来た。これらの結果から,フリーターという進路に付随するメリットやデメリットを正確なかたちで予測させるような働き掛けにより,若者層のフリーターに対する考え方が変容し得ることが示唆された。
著者
小川 一美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.63-74, 2003 (Released:2004-02-17)
参考文献数
33
被引用文献数
5 4

対人コミュニケーションは後続する対人認知などの対人的相互作用ときわめて密接な関係にあると考えられる。会話はダイナミックな相互作用であるため,各々の会話者の特徴だけではなく,二人の会話者によって作り出される相互作用そのものに着目をする必要がある。本研究では,Burgoon et al.(1995)による相互作用パターンのひとつである返報性の考えをもとに,二者の発話量の均衡が,会話者や会話の印象に及ぼす効果について検討した。実験1では,より日常に近い場面における発話量の均衡状態と観察者が抱く印象の関係を探索的に検討するため自然会話場面を刺激として用い,実験2では,会話者や会話内容などの要因を可能な限り統制した会話を作成し刺激として用いた。結果,発話量の均衡状態は会話者に対する印象とは関連がなかったが,会話に対する印象では,快印象を生じさせる可能性が示唆された。本研究は,認知的負荷が少なく会話を冷静に観察することができる観察者を認知者としたが,今後,会話者による認知と比較検討することで,発話量の均衡が印象形成に及ぼす効果についてより詳細に検討していくことが課題として残された。
著者
山浦 一保 古川 久敬
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.63-73, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
35

本研究の目的は,医療の質向上に関する行動基準について,その理解と実行の程度がともに高く,かつこれら2つの間の乖離を抑制する要因を明らかにすることであった。ここでは,個人要因として職務遂行に対する自律性,職場環境要因として職場からの期待認知(安全期待と効率期待)を取り上げた。このことを検討するため,3つの病院に勤務する看護師を対象として質問紙調査を行った。その結果,医療の質向上の行動基準は4因子構造(看護計画,ルール遵守,情報交換,変革推進・改善)であり,それぞれの行動基準面に関する理解度は実行度よりも高い水準で評価された。看護師の自律性と職場からの安全期待は,概ね行動基準の実行度を高めることが明らかになった。また,職場からの効率期待は,予想に反して,医療の質向上のための活動を部分的に促進させる傾向が示された。考察では,安全確保と効率向上を別個のものとして捉えず,双方を関連づけるリーダーシップの必要性を指摘し,今後の課題を提示した。
著者
深谷 澄男 田宮 葉子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.25-34, 1971-11-15 (Released:2010-11-26)
参考文献数
23

The purpese of the present study is to investigate personality perception in dyadic peer relations from the view point of cognitive consistency theory, the basic principle of which is that there is a tendency toward consistency maintenance within the P-O-X system.According to this theory, Hypotheses 1-a through 1-c were constructed on the basis of relationships between P-O and Assumed similarity, Perceived similarity, Real similarity, and Accuracy, all of which were constructed from the discrepancy scores that existed between and pair among self-image, other-image, and self-image through other. Hypothesis 2 was constructed on the basis of relationships between P-O and the scores of self-image and other-image.The research on the questionnaire was conducted on October 27 and on November 5, 1969. At the first session, each of 96 girls of the first grade of Yokohama Kyoritsu Gakuen Junior High School was required to answer the sociometric test for the purpose of constructing a set of P-O relationships. At the second session, the girls were required to take Self-Differential scale test, developed by Nagashima and his associates (1967), in terms of the following three criteria: 1) the subject's own self-image, 2) the other-image of a friend appointed for her by the experimenter, and 3) an evaluation of the subject's own self-image as rated by the appointed friend.The conclusions derived from the results were as follows:1) When there existed positive interpersonal feelings in a dyadic peer relation, the person perceived the other-image more similar to her own self-image than when there existed negative interpersonal feelings.2) At the same time, when there existed positive interpersonal feelings in the dyadic peer relation, the person gauged her own self-image as perceived by the other, to be more similar to her own self-image than when there existed negative interpersonal feelings.3) The one who had more positive personal feelings in the dyadic peer relation perceived the other-image more similar to her own than in the case of one who had more negative personal feelings.4) A person who had more Positive personal feelings perceived the other-image more similar to the other's own perception than occurred with the case one who had more negative personal feelings.5) Either of the dyads estimated her own self-image as perceived by the other differently from the other's perception when they had mutually divergent personal feelings.6) Self-image does not depend on the interpersonal relations, while the other-image, at least in part, does depend on the personal feelings toward other. This is to say that if personal feelings toward other is negative, the other-image tends to be more negatively perceived than the other's own self-image.
著者
田垣 正晋
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.45-62, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究は,大都市圏における障害者施策の住民会議におけるメンバーの相互作用,会議の運営とその機能に関して,他地域の同様の会議に転用できる知見を明らかにしたものである。事例となった会議は,多様な障害者,ボランティア,自治体職員によって構成され,6年間継続している。筆者は,自治体職員とともに会議の運営を中心的にした。今回の研究においては,筆者が,フィールドノート,筆者の会議への提出資料,議事資料,メールから,時系列に会議の流れを再構成した。会議の議題は,障害の種類に応じた課題から,障害者全体に共通するニーズや,健常者に対する障害者問題の啓発に移ってきた。自治体職員,筆者,メンバーそれぞれが,自らの役割と施策実現上の限界を意識しながら,会議のコーディネートを行った。会議においては,施策の実現よりも,メンバーがもつ障害の多様性の尊重,意見の共有が重視された。種類の異なる障害をもつ者が参加したことによって,会議は,障害者当事者-非当事者という二分法の相対化につながった。放置自転車の軽減や,障害者向け防災マニュアルの作成に対して,事業費がつき,これらが障害者によって実行された。体験の共有を重視した本会議にとって,この事業化は,最終的なゴールというよりも,メンバーが,障害者としての生活上の経験をセンスメーキングする過程の一部であると考察された。障害の多様性の尊重と,メンバーによる問題の共有は,他地域の会議においても重要になると考察された。