著者
黒川 雅幸 三島 浩路 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.32-39, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

本研究の主な目的は,小学校高学年児童を対象に,異性への寛容性尺度を作成することであった。小学生を対象とするので,できる限り少ない項目数で実施できるように,6項目からなる尺度を作成した。休み時間や昼休みによく一緒に過ごす仲間の人数を性別ごとに回答してもらったところ,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,異性への寛容性尺度得点は有意に高く,妥当性が示された。また,異性への寛容性尺度得点には性差がないことも示された。同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,級友適応得点は有意に高く,異性との仲間関係が級友適応に影響する可能性が示された。
著者
田戸岡 好香 石井 国雄 樋口 収
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si5-3, (Released:2022-10-08)
参考文献数
23

感染症脅威は行動免疫システムにより外国人に対する偏見を生じさせるが,Huang et al.(2011)によればワクチン接種をすることでそうした偏見を低減できることが示されている。本研究では新型コロナワクチンの接種が在留外国人に対する態度に及ぼす影響を検討した。高齢者のワクチン接種が始まる前に,外国人に対する態度をベースラインとして測定する事前調査を行った。その後,全国的にワクチン接種が進んだ段階で,事後調査を行い,感染嫌悪の個人差,ワクチンの接種状況,ワクチンの有効性認知,外国人に対する態度を測定した。調査の結果(n=520),行動免疫システムの想定と一致して,ワクチン接種が完了していない状態では,感染嫌悪が低い場合よりも高い場合に,外国人に対する不寛容な態度が見られた。しかし,ワクチン接種を完了すると,感染嫌悪による影響が弱まっていた。なお,こうしたワクチンの接種が外国人態度に及ぼす影響は,特にコロナワクチンの有効性を高く認知している場合に顕著であった。考察では新型コロナのパンデミック下においてワクチン接種によって偏見が低減することの示唆について議論した。
著者
林 幸史 藤原 武弘
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.17-31, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
63
被引用文献数
3 2

本研究の目的は,日本人海外旅行者の観光動機の構造を明らかにし,訪問地域・旅行形態・年令層による観光動機の違いを比較することである。出国前の日本人旅行者1014名(男性371名,女性643名)を対象に観光動機を調査した。主な結果は以下の通りである。(1)観光動機は「刺激性」「文化見聞」「現地交流」「健康回復」「自然体感」「意外性」「自己拡大」の7因子構造であった。(2)観光動機は,年令を重ねるにつれて新奇性への欲求から本物性への欲求へと変化することが明らかになった。(3)アジアやアフリカ地域への旅行者は,今までにない新しい経験や,訪問国の文化に対する理解を求めて旅行をする。一方,欧米地域への旅行者は,自然に触れる機会を求めて旅行をすることが明らかになった。(4)個人手配旅行者は,見知らぬ土地という不確実性の高い状況を経験することや,現地の人々との交流を求めて旅行をする。一方,主催旅行者は,安全性や快適性を保持したままの旅行で,外国の文化や自然に触れることを求めて旅行をすることが明らかになった。これらの結果を踏まえ,観光行動の心理的機能について考察した。
著者
矢守 克也 高 玉潔
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.13-25, 2007 (Released:2008-01-10)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

本研究は,高等学校と地域社会において,ゲーミング手法を活用して実施した防災学習実践(アクション・リサーチ)について報告したものである。まず第1に,学習という営為について,Lave & Wenger(1991)らが提唱した学習論(実践共同体学習論)に依拠して整理した。第2に,今日の防災学習をとりまく課題を指摘し,Laveらの学習論はそれらの課題にとり組むとき,有力な指針を与えることを指摘した。第3に,以上を踏まえて,防災学習にゲーミングの手法が有効だと考えうる根拠を,Duke(1974)のゲーミング論をもとにして明らかにした。次に,以上の議論にもとづいて,1年あまりにわたって実施した防災学習のアクション・リサーチについて,その内容と経過を報告した。具体的には,高校生と関係者の協働によって,非常持ち出し品をテーマとした防災ゲームが成果物として完成し,その後,それが地域社会における防災教育のためのツールとして活用されている実態について述べた。最後に,以上の成果を総括し,当初受動的な学習者でしかなかった高校生が,本プロジェクトによって防災に関する実践共同体の有力メンバーとして参加するなど,実践共同体の構造に大きな変化が生じたこと,さらに,こうした共同体の柔軟な構造変容を伴った学習こそが,海溝型地震など周期の長い自然災害を対象とした防災実践には要請されていることを指摘した。
著者
鈴木 勇 菅 磨志保 渥美 公秀
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.166-186, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
73
被引用文献数
8 7

本研究は, 阪神・淡路大震災を契機とする日本の災害ボランティアの動向を歴史的経緯を踏まえて整理し, 現在展開しつつある災害NPOの全国的なネットワーク化の意義と課題を以下の3点から検討したものである。第一に, 日本における民間の災害救援活動の歴史を阪神・淡路大震災以前, 震災直後, そして, 震災以降の3つに分けて整理した。その結果, 阪神・淡路大震災を契機として, 災害に関わるボランティアが「防災ボランティア」から「災害ボランティア」へと変容し, 災害ボランティアのネットワーク化が求められてきたことが明らかになった。第二に, 災害ボランティア・NPOのネットワーク化の現状について, 事例調査を基に報告した。災害NPOは, 地元地域における従来の活動を維持しつつ, 効果的な救援活動を行うために全国ネットワークに参加していることが明らかになった。最後に, 災害NPOのネットワークがもつ今後の課題を整理し, 日本における災害救援の今後のあり方を考察した。
著者
和田 実
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.49-59, 1991-07-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
25
被引用文献数
8 3

本研究の目的は, 対人的有能性の下位概念としてのノンバーバルスキルおよびソーシャルスキルを測る尺度を作成することである。データは大学生 (男子68名, 女子174名) から収集された。因子分析の結果, ノンバーバルスキルについては二つの因子-非表出性および統制, 感受性-, ソーシャルスキルについては三つの因子-関係維持, 関係開始, 自己主張-が抽出された。そして, 既成の類似した尺度 (ACT, SM) およびいくつかの社会的変数 (きょうだい数, 親友数, 孤独感およびその変化, 恋人の有無など) との関連から, この尺度が妥当であることが確かめられた。なお, 具体的には以下の結果が見いだされている。: (1) ノンバーバル感受性, ソーシャルスキルの関係維持は男性よりも女性の方が優れている。(2) ソーシャルスキルの関係維持に優れない者ほど, 孤独を感じている。(3) 恋人がいる者の方がいない者よりも, ノンバーバル感受性を除いたすべてのスキルで優れる。(4) 全体でみれば, 孤独感が減少した者の方がソーシャルスキルの関係維持, 自己主張に優れる。今後は, 特にノンバーバルスキル尺度の項目内容のさらなる検討が必要であろう。
著者
Ryosuke Yokoi Kazuya Nakayachi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.46-50, 2019 (Released:2019-08-23)
参考文献数
11
被引用文献数
3 7

This study examined the determinants of trust in artificial intelligence (AI) in the area of asset management. Many studies of risk perception have found that value similarity determines trust in risk managers. Some studies have demonstrated that value similarity also influences trust in AI. AI is currently employed in a diverse range of domains, including asset management. However, little is known about the factors that influence trust in asset management-related AI. We developed an investment game and examined whether shared investing strategy with an AI advisor increased the participants’ trust in the AI. In this study, questionnaire data were analyzed (n=101), and it was revealed that shared investing strategy had no significant effect on the participants’ trust in AI. In addition, it had no effect on behavioral trust. Perceived ability had significantly positive effects on both subjective and behavioral trust. This paper also discusses the empirical implications of the findings.
著者
Haruka Shimizu Kazuaki Abe Ken’ichiro Nakashima
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.119-123, 2020 (Released:2020-03-10)
参考文献数
13

Shimizu, Nakashima, and Morinaga (2016) reported that tendencies consistent with defensive pessimism (DP) are positively associated with considerate and respectful behavioral intentions toward strangers. However, two limitations hinder the generalizability of their findings: (1) their participants were exclusively female students of a women’s junior college, and (2) the cognitive strategy scale used in their study did not take all four types of cognitive strategy; i.e., DP, strategic optimism (SO), realistic pessimism (RP), and unjustified optimism (UO), into consideration. We replicated Shimizu et al. (2016) with adult respondents and used a different scale to enhance the generalizability of the results. Japanese adults (N=337) participated in an online survey. Path analysis of their responses indicated that a relationship exists between DP and behavioral intentions, which was consistent with the findings reported by Shimizu et al. (2016). The study also produced exploratory evidence that individuals that exhibit UO show less considerate and respectful behavioral intentions in interpersonal contexts than those who display SO or RP.
著者
江口 圭一 戸梶 亜紀彦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.84-92, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
30
被引用文献数
3 5

本研究は,使用が簡便な労働価値観測定尺度短縮版の開発を目的として行ったものである。開発にはこれまでに蓄積された全データ(n=720,平均年齢41. 4歳±13. 3,18~74歳)を使用した。労働価値観測定尺度の原版(38項目版)の探索的因子分析の結果に基づき,因子負荷量が高い3項目が短縮版の項目として選択された。短縮版の下位尺度はいずれも高い内的一貫性を示した(α=.814~.878)。いずれの下位尺度についても,労働価値観測定尺度の原版(38項目版)と短縮版の間に高い相関係数が示され(r=.906~.976),基準関連妥当性は支持された。また,検証的因子分析でもモデルの高い適合度が示され(GFI=.929, AGFI=.902, CFI=.953, RMSEA=.056),因子的妥当性が支持された。以上の結果から,短縮版はより少ない項目数で38項目版と同様の構成概念を測定できることが示唆された。
著者
李 旉昕 宮本 匠 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.81-94, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

災害復興に関する課題として,復興に対する支援が十分に提供されるために,かえって復興の当事者たるべき被災地住民から「主体性」を奪ってしまう課題を指摘できる。支援者と被災住民の間に〈支援強化と主体性喪失の悪循環〉が生じてしまうという課題である。ここで「主体性」とは,当事者が抱える問題や悩みを外部者が同定するのではなく,当事者が自ら問い,言語化し,解決しようとする態度のことである。本研究では,東日本大震災の被災地である茨城県大洗町において,「クロスロード:大洗編」という名称の防災学習ツールを被災地住民が自ら制作することを筆者らが支援することを中心としたアクションリサーチを通して,この悪循環を解消することを試み,浦河べてるの家が推進する「当事者研究」の視点から考察した。第1に,「クロスロード」を作成する作業を通じて,一方に,〈問題〉について「主体的に」考える被災地住民が生まれ,他方に,当事者とは切り離された客体的な対象としての〈問題〉が対象化されている。第2に,「クロスロード」として表現された〈問題〉は,多くの人が共有しうる,より公共的な〈問題〉として再定位される。最後に,一連のプロセスに外部の支援者である筆者らが果たした役割と課題について考察した。
著者
青木 俊明 鈴木 温
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.42-54, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
32
被引用文献数
6 5

本研究では,自己関連性と情報提示に着目し,社会資本整備に対する市民の態度形成のメカニズムを検討した。その際,ヒューリスティック・システマティック・モデルおよび精緻化見込モデルに基づいてモデル構造を検討した。インターネットを用いてシナリオ実験を行った結果,情報開示が不十分な状況では,自己関連性の高さに関わらず,プロジェクトの社会的妥当性と信頼感などの周辺情報に基づいて賛否態度が形成されることが示された。その際,どちらの場合であっても周辺情報以上に事業情報の方が賛否態度に強い影響力を持つことが示唆された。一方,十分な情報が開示されている状況では,自己関連性の高低に関わらず,プロジェクトの社会的妥当性と手続き的公正によって賛否態度が形成されることが示唆された。さらに,態度変容モデルに基づいて考察した結果,自己関連性が高い場合には手続き的公正の中身が重要であり,自己関連性が低い場合には手続き的公正が認識させる行為自体が重要であることが示唆された。これらのことから,自己関連性の高さによって手続き的公正の役割や態度形成のメカニズムが異なることが示唆された。
著者
Sumin Lee Ken’ichiro Nakashima
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.107-113, 2020 (Released:2020-03-10)
参考文献数
24
被引用文献数
4

The present study sought to examine the effects of the shift-and-persist strategy on the psychological outcomes of individuals with a low socioeconomic status (low-SES). Although previous research has shown that this type of strategy has beneficial effects on the physiological responses and health of individuals with low-SES, its effects on psychological outcomes have not been thoroughly studied. The present study investigated the relationship between shift-and-persist tendencies, childhood SES, and depressive tendencies using two samples. We performed multiple regression analysis of the obtained data. The results of study 1 (N=99 female undergraduates) showed that an individual’s tendency towards depression was negatively related to their persisting tendency, but not their shifting tendency. This relationship was replicated in study 2 (N=662 working adults). Although the results do not correspond with previous research, our finding that persisting is connected to psychological outcomes, such as depressive tendencies, is important.
著者
中村 国則
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.12-22, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
25

従来の社会的認知モデルは, 主に社会的対象の性質に注目し, 処理過程を記述している。しかしこれまで, 同じ対象に対する評定であっても客観的な数値に基づいて行うか (客観的評定), 主観的な印象に基づいて行うか (印象評定) によって評定結果が相違することが知られている。従来の社会的認知モデルでは, この相違を説明できない。本研究の目的は, 両評定の相違の背後に存在する処理過程を検討することである。本研究は, 代替帰結効果 (Windschitl and Wells, 1998) に基づいて, 両処理過程の相違を関連する事象間の比較プロセスの相違と解釈し, 2つの実験を行った。実験1では, 関連する比較事象が存在しない状況で, 実験2では, 関連する比較事象が存在する状況で, 被験者は架空の国における疫病対策プログラムの効果を評価することを, 両評定で求められた。その結果, 実験2において両評定の相違が確認された。以上の結果から, 客観的評定と印象評定との相違を確認し, 両評定の相違が比較プロセスの影響にあることを示した。また, 社会的認知に対する幾つかの示唆を論じた。
著者
斉藤 耕二
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.121-127, 1978-02-15 (Released:2010-11-26)
参考文献数
9
被引用文献数
4 4

視覚的媒体を利用して, 対象者についての刺激情報を示した際のパーソナリティ判断における規定要因を明らかにするために, 被験者の性, メガネ, 呈示, 対象者の性を要因として25尺度 (特性) について評定されたパーソナリティ判断について分散分析を行なった。その結果メガネをかけることによってかけていない場合より知能が高く判断されることが, これまでこうした事実が明らかにされている諸国と文化的背景を異にするわが国でも見出された。メガネをかけた場合に知能が高く判断されるのは, 対象者についての情報が不十分な条件下に限定されるというArgyleの理論を, メガネ要因と呈示要因の交互作用として検討した結果, 支持する事実を見出すことができなかった。またメガネをかけることの効果が, 知能のみでなく他の多くのパーソナリティ特性におよぶであろうという予想は, メガネ要因が半数を越す多くの尺度で有意であったことによって支持されている。このことよりメガネをかけている, いないによって知能をふくめて数多くの特性についての判断が異なってくることが明らかになった。メガネをかけることのパーソナリティ判断への効果が, かける人の性によって異なるのではないかという予想と一致する有意な効果は, 25尺度中わずか1尺度で見出されただけにすぎず, 実験的条件のもとでのパーソナリティ判断では, メガネ要因と対象者の性要因の交互作用は大きな効果をもつものではなさそうである。
著者
Keita Suzuki Tomoya Yoshino Yukiko Muramoto
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.50-55, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
11

Although it is well known that implicit theories (beliefs regarding the malleability of human attributes) affect one’s motivation, less is known about how these effects manifest themselves in certain educational environments. This study investigated how implicit theories moderate the effects of selection systems, which are prevalent in educational settings, on individual effort. The results indicated that when entity theorists (people who think ability is fixed) who performed relatively well received negative feedback and were not selected, they exerted less effort compared with incremental theorists (people who think ability is malleable). The negative effects of selection systems on motivation might be amplified among entity theorists when they are faced with an undefeatable rival.
著者
山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.77-84, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
38

本稿では,公共事業の実施を巡る社会的合意形成の過程における葛藤のマネジメント方略について,全体連合の形成メカニズムを参照しながら検討を試みた。全体連合は,もともと独立した存在で互いに競争関係にある3者以上の当事者たちが,互いに譲歩したり妥協したりして,皆全員で一致して協同に合意する行為であり,より円滑な社会的合意形成方略の検討に有益な示唆をもたらすことが期待される。連合形成に関する実証研究の知見をレビューして,全体連合への動機づけを高めるには,当事者が自己利益だけでなく全体の利益までも考慮する視野の拡大が効果的であることを確認した。その一方で,当事者たちの協同への動機づけが高まり全体連合の提案頻度は高まっても,報酬分配交渉を経ることによって,実際に形成に至る頻度は減少してしまうことも確認された。これらの知見に基づき,人間は,協同を選択する際にも,より大きな自己利益を追求する動機づけを絶えず持ち続けることを認識することの重要性について議論し,インプリケーションの提示を行った。
著者
宮本 匠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.60-69, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
13

本稿は,アクションリサーチの前提中の前提である,価値志向的であること,よりよい状態を目指そうという態度が,ときにアクションリサーチの現場を閉塞した状況にしてしまうことを指摘したうえで,それがいかに回避され得るのかを考察したものである。アクションリサーチにおけるベターメントの達成は,当事者の内的な世界における「身体の水準」が,共同体における他者との出会いによって,「言語の水準」へと顕在化することとして捉えることが出来る。新潟県中越地震の復興支援の事例では,ベターメントにつながるような「身体の水準」の顕在化に寄与するかかわりは,何らかのよりよい状態に向けて現在を変革する「めざす」かかわりではなく,「変わらなくてよい」ことを前提とした「すごす」かかわりであった。よりよい状態を「めざす」アクションリサーチにおける困難は,近代的な自我がいきつく〈時間のニヒリズム〉からとらえることが出来る。そのニヒリズムを基礎づける「インストルメンタル」な時間態度がどのように生まれたのかをふりかえると,それを保持したまま,なお現在のうちに生の充足を感受する「コンサマトリー」な時間態度が成立可能であることが理解できる。この「コンサマトリー」な時間態度の獲得が,現代社会のアクションリサーチの困難を回避する方策である。
著者
柳澤 さおり 古川 久敬
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.185-192, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
18

企業組織における人事考課に関わる研究では,評価目的が評価者の情報処理過程や評価に及ぼす影響について重視されてきた。しかし,そこで問題とされているのは評価目的の内容の差異が及ぼす影響であり,評価目的を与えること自体が及ぼす影響については言及されてこなかった。また,評価目的が,情報処理過程に及ぼす影響についても十分に検討されているとはいえない。本研究は,(a)評価目的を与えること,および評価目的を与える場合には(b)評価目的の内容が異なることが,被評価者の情報の記憶および評価に及ぼす影響について検討した。99名の被験者のうち,評価目的を提示した群には,昇給の査定(昇給査定群),もしくは再教育の必要性の査定(再教育査定群)のために,被評価者を評価することが教示された。評価目的が提示されない群(目的無し群)には,そのような目的が示されなかった。被験者は,被評価者の職務行動に関わる情報を読み,その後にその情報を再生し,被評価者に対する評価と好悪感情について評定した。評価目的が与えられた群は,目的無し群と比較して,多くの情報を再生していた。また,評価目的が与えられた群は,目的無し群よりも,評価と好悪感情が独立した評価を下していた。評価目的が与えられた昇給査定群と再教育査定群の間では,再生した情報および評価と好悪感情との関連に差異はみられなかった
著者
中島 誠 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.111-121, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
43

人が複数の関係間で帳尻を合わせるように行動するという「世界に対する衡平(Equity with the World; EwW)」仮説を検討するため,大学生161名を対象とした実験を行った。研究では特に個人内要因の影響に着目し,向社会的規範を指示する程度としての「援助規範意識」と,出来事の肯定的評価と関連する「正当世界信念(Belief in a Just World; BJW)」を取り上げた。実験において参加者は2度の報酬分配状況に置かれ,一度目では実験操作として過大,過少,衡平のいずれかの報酬を受け取った。その後,参加者は分配者として第三者に報酬を分配するよう求められた。結果はEwW仮説から予測される行動と概ね一致していたが,援助規範意識の高い個人は過去に過少な分配が行われても,第三者を通して不衡平を回復しなかった。参加者の行動と情動を比較すれば,BJWの高い個人は過去の不衡平にネガティブな情動を感じにくいために,第三者に衡平な分配を行うことが可能だと解釈できる。一方,援助規範意識の高い個人は第三者に衡平に分配することでより満足を感じており,個人内要因ごとに異なるプロセスが示唆された。これらの結果から,人々がどんな条件においても単純にEwW回復行動を見せるわけではないことが示された。