著者
鈴井 江三子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.319-328, 1998-12
被引用文献数
1

この研究は, 妊婦健診を受けた妊婦の肯定的な体験を分析し, 助産婦と妊婦のあいだにみられる効果的な相互作用のあり方を探求した質的研究である.インタビューをおこなった対象は, 妊娠26週から36週までの初産婦で, 複雑な産科疾患を伴わない妊婦7名とした.データーの収集はテープ・レコーダーによる逐語記録とし, 半構成的質問内容にそって実施した.その結果, 妊婦と助産婦の対人関係の中で, 妊婦の体験の要素は, 1.耳を傾けてくれる, 2.心遣い, 3.聞くチャンスをくれる, 4.保証してくれる, 5.細やかに教えてくれる, 6.妊婦に合わせてくれる, 7.妊婦ができるように援助してくれる, 8.何でも気軽に聞ける, 9.精神的に支えてくれるの9項目が抽出された.これらの項目は, 人間関係の中に見られる肯定的な相互作用である.
著者
"鈴井 江三子"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.59-70, 2004
被引用文献数
2

"本研究は,超音波診断を含む妊婦健診の導入と普及要因を明らかにするため,戦後の医療制度再編に施行された医療法,医療保険制度,医療金融公庫法および母子保健法の4つの領域に焦点を当てて分析したものである.その結果,超音波診断装置の導入,普及には医療産業育成政策が動因として挙げられ,政府の政策支援によって達成したものであることが明らかになった.また同装置の開発と臨床への導入には医師,技術者以外に,日本ME学会の功労も大きいものであった.さらに超音波診断の保険診療の適応が広く導入を促した.その結果,超音波診断を含む妊婦健診が一般的になり,本来は順調に妊娠の経過を観察するという妊婦健診は,胎児異常の早期発見に傾倒した妊婦健診になったといえる."
著者
中尾 善隆 橋本 勇希 田淵 昭雄 小野寺 昇
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.107-111, 2007

富士山(海抜3,776 m)は日本一高い山として,登山客が足を運ぶことが多い.しかし,眼圧は気圧により変化することから,登山中の眼圧の変化には注意が必要である.しかし,これまで富士登山と眼圧との関係を報告した例は我々が調べた範囲内ではなかった.今回,我々は富士登山による眼圧の変化を調べるため,実際に登山を行い平地と山頂での眼圧を計測した.対象は正常眼圧で眼科的疾患を伴わない正常成人23名(男性11名,女性12名),平均年齢26歳であった.眼圧測定は接触型眼圧測定機器TONO-PEN^(R) XLを用い,測定者は視能訓練士1名とした.今回,アセタゾラミド服用による眼圧の変化がないことを確認し,高山病予防のため全被検者にアセタゾラミド250 mgを服用させた.登山前の平均眼圧は右眼13.0±2.4mmHg,左眼11.8±2.9mmHg,山頂での平均眼圧は右眼13.1±2.5mmHg,左眼11.8±2.5mmHgであり,これらに有意な差はなかった.この結果は,富士登山による急激な眼圧の変化はないことを示唆した.
著者
矢野 博己 宮地 元彦 矢野 里佐
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.139-143, 1995

本研究は, 運動時の肝門脈血流量低下に対して, それを決定する因子である肝門脈本幹断面積および血流速度がおよぼす影響について検討した.肝門脈血流量は運動強度に依存して低下した.運動時の門脈血流量と血管断面積問の単相関係数は高かった(r=0.812,p<0.01).門脈血流量に対して血流速度も単相関係数には有意性が認められた(r=0.375,p<0.05).門脈血流量に対する偏相関係数は, 門脈本幹断面積が高かった(vs, cross-sectionalareaandvs.venousvelocity, r_<xy-z>=0.809and r_<xy-z>=0.301).門脈本幹断面積変化が門脈血流量により強く寄与したメカニズムについて考察した.In the present study, we examined the effect of cross-sectional area and venous velocity on portal venous flow during exercise. Portal venous flow was reduced at 60% and 80% VO_2max intensities of exercise as compared with the resting level. A high simple correlation coefficient value between portal venous flow and the cross-sectional area was observed (r=0.812,p<0.01). A significant simple correlation coefficient value between portal venous flow and venous velocity was also observed (r=0.375,p<0.05). The partial correlation coefficient of portal venous flow and cross-sectional area was high during exercise (vs. cross-sectional area and vs. venous velocity, r_<XY-Z>=0.809 and r_<XZ-Y>=0.301,respectively). The mechanisms of the effects of the cross-sectional area on portal venous flow were discussed.
著者
"香西 はな 矢野 博己 加藤 保子"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.11-19, 2006
被引用文献数
1

"現在,小麦はアレルギーを引き起こす三大食品の一つとされており,更に食物依存性運動誘発アナフィラキシーの最多原因食品としても注目されている.これまで,小麦アレルギーとしては,Baker's Asthmaやセリアック病などがよく知られており,原因タンパク質としてはそれぞれ塩溶性タンパク質,グリアジンであるとの報告が多い.近年問題となっている小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)に関しては,ω-グリアジンであると報告されている.WDEIAの発症メカニズム解明のため,我々は,B10.Aマウスと卵白リゾチーム(Ly)を用いて,モデル実験動物系を確立した.各小麦タンパク質で感作したB10.Aマウスのアレルゲン投与後の疲労困憊運動時間は非感作群と比較して短く,更に,グリアジン次いでグルテニン群の小腸粘膜上皮組織の損傷は激しいものであった.マウスを用いて検討したWDEIAの原因タンパク質はグリアジン次いでグルテニンである可能性が高く,これらのタンパク質が小腸粘膜上皮組織を著しく損傷させ,体内へのアレルゲンの吸収も促進,更に,運動がこの損傷を増悪させることが考えられた.このような小腸粘膜上皮組織の損傷は,セリアック病でも観察され,セリアック病では,グリアジンの消化生成物であるペプチドがかなりの毒性ペプチドであることが報告されてきており,このようなグリアジンタンパク質の特性とWDEIAとの関係も示唆されるものであった.本報告では,小麦タンパク質とWDEIAに関して,これまで進められてきている研究の流れと,原因小麦タンパク質に関する情報を解説した."
著者
井村 亘 石田 実知子 渡邊 真紀 小池 康弘
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2-2, pp.433-439, 2018

本研究は,高校生の自傷行為に対する自己および他者に対するネガティブなスキーマと対人ストレスとの関連を明らかにすることを目的に,高校生に対して無記名自記式の質問紙調査を実施した.統 計解析には553人分のデータを使用し,ネガティブなスキーマが対人ストレス認知を介して自傷行為 に影響するとした因果関係モデルを構築し,そのモデルの適合性と変数間の関連性について構造方程 式モデリングにより検討した.仮定した因果関係モデルのデータへの適合度は統計学的許容水準を満 たしていた.変数間の関連性は,自己および他者に対するネガティブなスキーマが対人ストレス認知 に対して有意な正の関連性を示し,同時に対人ストレス認知が自傷行為に対して有意な正の関連性を 示していた.なお,本分析モデルにおける自傷行為に対する寄与率は35.0% であった.本研究結果は, 高校生の自傷行為に対する有効な支援方法の開発に対して一定の示唆を与えると考える.
著者
高尾 堅司
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.621-626, 2006

本稿は,新聞等報道で示された野球が被災地において果たす役割について報告する.1959年に伊勢湾台風雨に見舞われた名古屋市を本拠地とするプロ野球チーム(中日ドラゴンズ)は,主催ゲームの利益の一部を義援金として寄附した.1995年に阪神・淡路大震災に見舞われた神戸市を本拠地としていたオリックス・ブルーウェーブは,イベント等で被災者と触れ合うとともに,リーグ制覇という形で市民を励ました.同球団の優勝は,新聞等の報道で神戸市の復興と関連づけて報じられた.また,同年に高校野球が実施されたことに対しても,被災地の復興を象徴するものとして新聞に取り上げられた.2004年,福井豪雨に見舞われた福井市においては,被災地の高校野球部の全国大会出場と,甚大な被害を受けた地区のリトルリーグの活躍が,被災地を勇気づけるものとして新聞にとりあげられた.以上の事例は,被災地における野球チームの活躍は被災地の復興の象徴であり,被災者を勇気付けるものとして取り上げられることを示している.
著者
頓田 智美 諏訪 利明 小田桐 早苗 武井 祐子 門田 昌子 寺崎 正治
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.369-378, 2019

自閉スペクトラム症(ASD)児は,共同注意(joint attention)や関わり(engagement)といった対人相互性の発達プロセスに困難があることが先行研究から明らかになっている.本研究では,脳の可塑性が期待される発達早期に,ASD の疑いのある幼児(療育開始時1歳8か月,終了時1歳11か月)に対して対人相互性の発達を促す個別療育を実施し,対人相互性と適応状態の変化のプロセス及びその背景要因について検討した.個別療育は,児の特性や興味関心に即し,児が楽しんで参加できるように遊びの形で,原則週1回45分,全8回実施した.アセスメントにあたっては,新版 K 式発達検査2001,SPACE,Vineland- Ⅱ適応行動尺度を実施し,分析時には質的側面にも注目した.その結果, 新版 K 式発達検査2001による発達指数に変化は見られなかったが,要求,共同注意の回数,協応した相互的な関わりの時間が増え,遊びの内容が変化し,適応行動尺度による数値が上昇した.また, 各回の療育場面を詳細に検討することで対人相互性の変化のプロセスを想定し,その変化の要因として,療育者の玩具の選択及び示し方,療育者の関わり方,環境設定の3つの観点から整理した.
著者
福澤 雪子 山川 裕子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.81-89, 2006
被引用文献数
3

本研究の目的は,産後1か月間の母親の対児愛着の形成の様相を明らかにし,精神状態との関連を検討することにある.赤ちゃんへの気持ち質問票日本版(吉田,1998)とエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS:Cox,1987,)を用い,356名の母親(初産婦188名,経産婦168名)を対象に,退院時と産後1か月時に調査を行った.対児愛着得点は,退院時1.92±2.18点,1か月時1.57±2.10点で有意差があった.1か月間で喜び感情が増大し,怒り感情は減少していた.初産婦と経産婦別では,退院時(2.48±2.42点 vs 1.29±1.67点),1か月時(1.94±2.22点 vs 1.15±1.88点)共に有意差があった.EPDS高得点者は,退院時32名(9%),1か月時17名(4.8%)で,2時点共に低得点者は314名(88.2%)であった.EPDS低得点・高得点別の対児愛着得点は,退院時(1.75±1.99点 vs 3.59±3.17点)・ 1か月時(1.43±1.98点 vs 4.18±2.81点)で有意差が見られた.2時点共に低得点の母親とそれ以外の母親では,退院時(1.70±1.96点 vs 3.57±2.94点)・1か月時(1.40±1.96点 vs 2.79±2.69点)で有意差が見られた.以上より,母親の対児愛着は,産後1か月間で変化していることが明らかになり,愛着形成途上であると考えられる.また,経産婦は初産婦と比べてより肯定的な対児愛着であることから,愛着形成には育児経験の差が影響すると考えられる.母親の対児愛着と精神状態には関連が見られ,産後1か月間の母親の精神状態が継続して健全であることが,対児愛着の形成に影響することが示唆された.子どもに対する母親の愛着形成を育むためには,心身共に変化しやすい産後1か月間の母親へのサポートが重要である.
著者
田淵 創
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.123-127, 1999-06-25
著者
門田 昌子 寺崎 正治
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.67-74, 2005

本研究の目的は,体験抽出法を用いて実際の対人相互作用を測定し,パーソナリティと実際の対人相互作用において使用されたソーシャル・スキルとの関連,パーソナリティが,対人相互作用において使用されたソーシャル・スキルを媒介して,主観的幸福感に及ぼす影響について明らかにすることであった.また,使用されたソーシャル・スキルと対人相互作用の質との関連について検証した.さらに,質問紙法を用いてソーシャル・スキルを測定し,パーソナリティとソーシャル・スキルおよび主観的幸福感との関連について検討した.分析の結果,パーソナリティと実際の対人相互作用において使用されたソーシャル・スキルとの間には関連が見られず,パーソナリティが対人相互作用において使用されたソーシャル・スキルを媒介して,主観的幸福感に及ぼす影響については明らかにされなかった.一方,質問紙を用いた分析では,外向者ほど,ソーシャル・スキルが高く,そのことが主観的幸福感の高さをもたらしていることが示された.対人相互作用に関する分析において,有意な結果が得られなかった理由として,分析対象者数の少なさが考えられた.よって,本研究結果から,実際の対人相互作用におけるソーシャル・スキルが,パーソナリティと主観的幸福感との関連を媒介していないと結論付けるのは尚早であると思われた.対人相互作用におけるソーシャル・スキルの使用と対人相互作用の質との関連については,反応性スキルを使用したと認知している人ほど,質を高く評価し,主張性スキルを使用したと認知している人ほど,質を低く評価することが示された.ソーシャル・スキルの中には,対人相互作用の質を高めるものや低めるものが存在しているのではないかと推察され,今後より多面的にソーシャル・スキルを捉える必要があるだろうと思われた.
著者
古川(笠井) 恵美 内藤 孝子 松嶋 紀子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.47-58, 2009

発達障害のある高校生をもつ保護者を支援する方策を考える資料とするために,保護者が心配していることを調査票により調査した.全国LD親の会の高校生相当の子どもを持つ会員527人を対象として,315人(59.8%)から回答を得た.彼らの子どもたちは一人で複数の診断名または判定名を持ち,学習障害(LD)が128人,注意欠陥多動性障害(ADHD)が84人,広汎性発達障害(PDD)が126人,知的障害(MR)が72人であった.通常の高校在籍者199人の障害の重複状況はLD単独が46人,LD・ADHDの重複が24人,LD・PDDの重複が13人,LD・MRの重複が4人,LD・ADHD・PDDの重複が6人,LD・ADHD・MRの重複が3人,LD・PDD・MRの重複が1人であり,199人中97人(48.7%)がLDを含む.また,ADHD単独は12人,ADHD・PDDの重複が4人,ADHD・MRの重複が2人,PDD単独が67人,PDD・MRの重複が5人,MR単独は12人であり,LDを含まない者が102人であった.なお,通常の高校においてMRを含む者は26人であった.多くの保護者は,状況判断が悪い,話すことに困難がある,自分の気持の表現が下手,不器用である,暗黙のルールがわからない等を心配していた,これらは人間関係がうまく築けない原因と考えられた.LDと他の障害が重複する場合は,LD単独の心配より他の障害の心配事が強く現れた.LDを含まない障害の重複は少数であった.ADHDは不注意,注意集中の困難が多く,PDDは上記の他,他人との付き合い方がわからないという心配があった.MRは上記の他,金銭の管理ができないという心配があった.学校側との連携は担任を中心に行われており,養護教諭の関与についてはわからないとするものが多く,保護者は養護教諭との関係性が薄い傾向にあることが推察された.発達障害のある生徒に関わる教員は,こどもや保護者とよく接触をして,一人ひとりの子どものタイプや特性を理解し,その特性に合わせた学習指導や生活支援が必要である.
著者
竹田 恵子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.45-55, 2010
被引用文献数
1

高齢者の健康支援に対する看護実践は,幅広い年齢層の多様な健康状態を対象に,多様な場で展開されるものである.そこで本稿では,高齢者が "人生の最終章を生きる人々である"という高齢者の最大の特徴をふまえ,高齢者への看護について論述した.まず,老年看護実践の特徴について概観した後,高齢者の健康の捉え方と老いることの意味について確認した.高齢者の健康は,日常生活機能の自立をもって評価される包括的な概念であること,社会文化的背景に影響され,その人の価値や信念と深くかかわる概念であるスピリチュアルな側面の健康も重要な視点であることが示された.また,老年期は「豊かな実りの時期」であり,高齢者が「統合と絶望」という発達課題に向き合うことを通して自己の存在意義を確認し,それを次世代へと繋いでいく人々であるという点に老いることの意味を確認した.以上の内容をふまえて,人生の最終章を生きる高齢者への健康生活支援として,「人生の統合」への支援に注目した看護,「スピリチュアリティ」に注目した看護,「死の準備教育」に注目した看護について概観した.これらの看護支援に共通するのは,一人の大切な人として高齢者に出会い,その人に関心を寄せ,その人のもてる力を信じ,日常生活を整えること,良き話の聴き手となることであった.また,高齢者と看護職が関わりあいを通して学び合い成長し合うという性質を持つことであった.
著者
"鈴井 江三子"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.385-392, 2006
被引用文献数
2

"本研究では,戦後の医療制度の再編が行われた1945(昭和20)年から病院出産が成立した1974(昭和49)年までの約30年間を中心に,医療制度や医療政策および母子保健政策関連資料等を基に,出産の直接介助者が変更した要因を明らかにした. その結果,出産介助者が変更した要因は主に3つがあげられた.1つめは,総助産婦数の減少であった.これは開業助産婦数の減少と病院勤務助産婦数の抑制であり,なかでも開業助産婦数の減少は2回大きく激減し,1回目は1962(昭和37)年の急激な減少であった.この時期は国民皆保険と医療金融公庫により私設産婦人科病院の拡大が図られた時期であった.また嘱託医拒否問題も開業助産婦の運営維持に深刻な影響を与えた.2回目は1966(昭和41)年であり,この年は丙午の影響を受けて出生数が462,026人減少したためであった.2つめは,母子保健法が契機となった.同法により施設出産が奨励され,医師による定期的な妊婦健診が義務化された.また同法を受けて母子保健管理の徹底が強調された.さらに母子管理委員会により出産の異常性が強調され,出産は医師の常在する施設で行うことが教示された.3つめは,産婦人科医の増加と産婦人科病院の拡大であった.これらに関する諸政策がほぼ同時期に重複することで,出産介助者の変更は達成したといえる."
著者
鈴井 江三子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.237-248, 1997

日本では母体保護法のもとに, 出生数の約半数近くの人工妊娠中絶があり, その多くは既婚女性だ.妊娠を中断した女性は, その後, 悲嘆や罪悪感または空虚な気持を感じるとの報告がある.残念なことにそういった女性に対しての, こころのケアは全くと言っていいほどなされていない.その上日本では今でも避妊の方法はコンドームと荻野式が主流である.第二次世界大戦後に, 画期的に紹介された避妊100%の経口避妊薬は, 少数のカップルにしか使用されていない.この避妊方法のあり方について検討をするとともに, 人工妊娠中絶を受けた女性に対して, 専門家からの継続的なカウンセリングが必要である.
著者
菊井 和子 竹田 恵子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-70, 2000-06-26

エリザベス・キュブラー・ロスの名著「死ぬ瞬間」(1969年)がわが国に導入されて以後, 死にゆく患者の心理過程はターミナルケアにあたる医療職者にとっても社会全体にとっても重要な課題となった.なかでもその最終段階である"死の受容"についての関心が高まった.キュブラー・ロスは"死の受容"を"長かった人生の最終段階"で, 痛みも去り, 闘争も終り, 感情も殆ど喪失し, 患者はある種の安らぎをもってほとんど眠っている状態と説明しているが, わが国でいう"死の受容"はもっと力強く肯定的な意味をもっている.患者の闘病記・遺稿集およびターミナルケアに関わる健康専門職者の記録からわが国の死の受容に強い影響を及ぼしたと考えられる数編を選び, その記述を検討した結果, 4つの死の受容に関する構成要素が確認された.つまり, 1)自己の死が近いという自覚, 2)自己実現のための意欲的な行動, 3)死との和解, および4)残される者への別離と感謝の言葉, である.わが国における"死の受容"とは, 人生の発達の最終段階における人間の成熟した肯定的で力強い生活行動を言い, 達成感, 満足感, 幸福感を伴い, 死にゆく者と看取るものの協働作業で達成する.
著者
佐久川 肇 保住 芳美
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.145-148, 1999-12-25

近年, ペットに死なれた飼い主が, 身近なものを失った場合と変わらない精神的打撃を受けることがしられ, ""ペットロス""として注目されている.ペットロスは特に孤独な老人の場合に, より深刻な様相を呈するといわれている.現代の産業社会においては, 老人は生産活動から遠のき, 人間関係が希薄になって, いわゆる脱社会化現象が起こりやすく孤独に陥りやすい.ペットとの関わりはこのような老人の孤独に対して大きな支援をもたらす.ペットとしての犬の場合にはその特性から飼い主と関わることを心から喜んで飼い主に従う.それは対等な人間関係とは本質的に異なるが, 関係の真実さと, 老人のペースに見合った関係が得られることから, 生命エネルギーが乏しくなった老人にとっては, 人間関係に代わるものを与える援助の手段として積極的な評価が必要である.
著者
大森 美由紀 寺岡 幸子 伊東 美佐江
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.160-173, 2017

本研究の目的は,文献検討により OJT における新人教育で師長が果たす役割を明らかにすることである.「新人」と「教育」と「看護管理者」あるいは「師長」をキーワードとして,2002年1月~2014年9月までの文献を検索した.OJT における新人教育の師長の役割について記載の可能性がある 文献を選択し,最終的に38件の文献を分析対象として文献検討を行った.その結果,「担当部署の教 育方針の決定と周知」,「リアリティショック防止」,「個人の能力に応じた段階的・継続的な教育」,「担 当部署の教育体制の整備」,「専門職業人としての自律促進」,「システムへのフィードバック」の6つ の役割を遂行,および期待されていることが明らかとなった.師長は担当部署の目標を設定し周知し, 新人のリアリティショックを防止するために,組織社会化を促し,新人を尊重する姿勢で接しており, メンタルヘルスを把握しサポートしていた.新人の実践能力を把握しながら個別に応じた指導,能力 に応じた業務分担し,自信をもって前進できるよう支援していた.また,チーム体制や教育体制を整 備しながら,効果的な教育を考えていた.そして,看護の概念化を促し,モデルを示すことによって 専門職業人として自律を促し,新人教育における問題をフィードバックしていた.師長は,新人看護 師が職場に問題なく適応し,看護実践能力を獲得できるようにさまざまな戦略が求められていた.