著者
富安 俊子 鈴井 江三子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.65-74, 2008
被引用文献数
1

日本におけるドメスティック・バイオレンス(Domestics Violence;以下DV)は,2001(平成13)年10月に配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV法)が施行されたことにより,それまでは家庭内の出来事であった夫婦間の暴力が顕在化し,夫婦であっても相手の人権を侵害する暴力支配を行ってはいけないと明確に法律で定義された.夫婦間に存在する暴力は,決して家庭内の出来事として安易に見過ごせるものではなく,被害者の生命に関わる深刻な問題として取り上げられるようになった.その結果,夫婦間に起きる暴力に対しては女性の意識も変化し,人権意識が高まることで,DVの被害届が年々増加してきた.そして今では,DVという用語は広く一般に認知され,親密な関係性に存在する暴力全般をDVと総称して呼ぶ傾向にある.「デートDV」がそれである.しかし,「デートDV」の場合,言葉としてはDVという用語を付与しているが,実際はDV法の適応とならない.つまり,DV法が定める保護の適応となる者は法律婚と事実婚の民法で定める対象者のみであり,法的根拠の無い恋愛関係にあるカップルはDV法で定める保護命令の適応外である.そのため現時点での青年期の恋愛カップルに存在する暴力からの被害者救済は,民間のシェルターか被害後警察に相談するしか方法が見当たらないといっても過言ではない.また,青年期のカップルの場合,被害者の身近に有益な相談相手が居ないことも多く,被害者は加害者から物理的にも精神的にも逃避することができず,パートナーからの暴力を受けながらその関係性を維持している場合も珍しくない.特に,高校生のカップルの場合,学校の先生や保護者等の大人に相談することは極端に少なく,友人同士の相談では解決方法がみつからずで,暴力の長期化と深刻化を招きやすいと報告されている.以上のことから,法律婚と事実婚以外のカップルにみられる暴力支配に対して,DVという用語を用いることは,暴力を受けた誰もが法的根拠を基にした保護命令等が受けられると誤解しやすい.そのため,「デートDV」という表現方法が適切かどうか,今後検討し,暴力を受けた女性全般に対する支援体制と法の整備が必要であると考える.
著者
忠津 佐和代 梶原 京子 篠原 ひとみ 長尾 憲樹 進藤 貴子 新山 悦子 高谷 知美
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.313-331, 2008

青年期のヘルスプロモーションの視点から,大学生のピアカウンセリング手法による性教育の必要性と教育内容を検討するため,某大学生858人を対象に自記式質問紙調査を行い,以下の結果を得た.性交経験者は,男性では1年生(62.1%)・2年生(77.1%)・3年生(91.1%),女性では1年生(41.5%)・2年生(62.4%)・3年生(70.1%)と学年を上がるごとに増加していた.性に関わる問題の第1の相談相手の割合が最も高いのは「友人(73.1%)」であり,性に関わる意識や行動に最も影響を与える第1のものも「友人(45.5%)」であった.性の問題の相談場所がない者が24.0%いた.大学生のピアに対する期待は,具体的な知識に加え,交際相手とのトラブルへの対応や避妊法の具体的な技術指導,ピアカウンセリングが包含する相談しやすい人や秘密の守られる場の提供であった.最も知りたい内容は,21項目中,「性感染症の知識(47.0%)」で,以下2割以上は「男性と女性の心理や行動の違い(46.3%)」,「エイズ(44.8%)」,「愛とは何か(40.5%)」,「緊急避妊法(39.6%)」,「避妊の方法(35.8%)」,「異性との交際のしかた(34.8%)」,「セックス(性交)(29.3%)」,「自分の体について(27.2%)」,「性の人生の意味(26.1%)」,「性欲の処理のしかた(24.9%)」,「思春期の心理(23.6%)」,「性に関する相談機関(22.0%)」の12項目であった.以上から,青年期にある大学生にもピアによる性教育の潜在的・顕在的ニーズがあること,その教育内容として心理的・性行為付随側面のニーズが高くなっていることが窺える.この時期のQOLを実現するため,新入生の時期からピアカウンセリング講座やピアカウンセリングが展開できる場やサポート環境を整えていくことが求められる.
著者
林 秀樹 武井 祐子 藤森 旭人 竹内 いつ子 保野 孝弘
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-11, 2016

本論文では,非定型うつ病に関する研究の動向を調べ,その背景について検討した.まず,非定型うつ病に関する文献数の推移を概観したところ,非定型うつ病に関する研究が増加傾向にあることが 明らかになった.そして,この推移には,非定型うつ病が DSM で記載されたことが影響を与えてい ると推察された.また,非定型うつ病の定義や診断基準に関する研究の増加も影響を与えていると考 えられた.次に,各文献のキーワードを整理したところ,これまで主に取り上げられてきたキーワー ドは,非定型うつ病や抑うつ障害,双極性障害,薬物療法,診断,治療であることが明らかになった. そのため,これらのキーワードについて,文献の内容を吟味し,非定型うつ病との関連等について確 認した.その結果,近年では,類似する様々な症状との関連についての検討のみならず,より細やか な検討(詳細な病態など)が進められていることが明らかになった.さらに,非定型うつ病の治療に 関する研究としては,薬物療法に関心が向けられていることが明らかになった.
著者
三徳 和子 高橋 俊彦 星 旦二
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-10, 2006

主観的健康感の関連研究から,主観的健康感は死亡率に対し独立した寄与因子であることが指摘されている.そうであるなら死亡率に与える効果の大きさには,死因や性別,年齢および観察期間によって差異はあるのかという疑問が生じる.この問題は主観的健康感の意義を解釈をしたり保健活動への応用を議論する上で重要と思われる.本研究の目的は,主観的健康感と生命予後との関連性について,これまでの研究成果を整理し,今後の研究の方向と課題を提示することである. 主要な結果は以下のとおりである. (1)主観的健康感の低い者のその後の生存妥当性が低いことは,大多数の研究で確認されたが,そのメカニズムに関する詳細な研究報告は見あたらなかった. (2)主観的健康感と死亡との関連性の強さは,男女間で差がないとする報告と男性により強い関連性がみられたとするとする報告とがあった. (3)年齢は多くの研究で潜在的交絡因子として調整され,死亡率との関連性を年齢別に観察した研究は少なかった.いくつかの報告では関連性は高齢者のみではなく中年や若年者年齢層にもみられること,85歳以上では関連が弱いことが示されている. (4)主観的健康感の良否と死因とに関する追跡研究は,主観的健康感の低い者は高い者に比べて心血管疾患やがんによる死亡危険度が有意に高いことを明らかにしている.また最近では,死亡率に与える効果には,死因によって強弱の差があることも示されている. 以上の結果から,主観的健康感はその後の生存とその予測等に関連していることが明らかとなったが,主観的健康感が生命予後に対する予測効果をなぜ持つのかを明らかにすることが今後の課題である.
著者
金光 義弘
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.249-256, 1997

本論文の目的は, 一人の聾唖聴覚障害者が司法の場で裁かれることの妥当性について心理学的な考察を試みることである.主たる問題の所在は次の4点である.(1)訴訟能力を持たない被告人に対する司法的処置の妥当性, (2)17年間という異常に長い裁判の違法性, (3)障害者に対する社会的i援助や教育の欠如性, 最後に(4)心理学者が作成した被告人鑑定書の妥当性と信頼性である.これらに関する心理学的考察を通して以下の2点が結論づけられる.すなわち, (1)日本の司法制度は障害者に対する手厚い援助の手を差し伸べてこなかった.したがって, 障害者に対する現行の司法的手続きは人権保障の観点から問い直されなければならない.(2)心理学は障害者の人権問題に対して, ノーマライゼーションや社会的援助の方向から一層の貢献が期待されている.
著者
"柳井 玲子 増田 利隆 喜夛河 佐知子 長尾 憲樹 長尾 光城 松枝 秀二"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.109-119, 2006
被引用文献数
2

"日本人若年男性37名,女性174名を対象に,実測した基礎代謝量を基準にしてタイムスタディ法で算出したエネルギー消費量と,食物摂取頻度調査(FFQg)より得られたエネルギー摂取量との差を△エネルギー量として,食事量の過小・過大評価の実態と要因について検討した. 本研究では,若年男女ともに,エネルギー摂取量はエネルギー消費量より有意に(p<0.01)低く評価された.エネルギー摂取量の過小・過大評価の平均値(△エネルギー量/エネルギー消費量×100)は男性-26±20%,女性-12±26%となっており,女性は男性よりも過小評価率が有意に(p<0.01)低かった.Body mass index(BMI)と △エネルギー量の間には,男女とも有意な(男性p<0.01,女性p<0.001)負の相関関係(男r=-0.463,女r=-0.360)がみられ,BMIが高値の者ほど食事量を過小に見積もっていた.また女性の「やせたい」という意識は食事量の過小評価量を有意に(p<0.01)大きくさせていた.同様に「体を動かす心がけ」という意識は女性の過小評価量を有意に(p<0.05)大きくさせていた.逆に「栄養バランス」を意識する女性は過小評価量が有意に(p<0.05)小さくなっていた.同様に「朝食を食べる」「欠食をしない」女性や「夕食時間を決めている」男性は,過小評価量が有意に(それぞれp<0.05,p<0.01,p<0.001)小さくなっていた.これらの結果から,食事量の過小・過大評価には身体的要因や社会的望ましさといった心理的要因と共に,食に関するライフスタイルが関わっていることが示唆された."
著者
安斎 芳高
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.229-235, 2001-12-25

今, 保育所を悩ましているのが保護者からの与薬依頼である.病気の回復期や慢性疾患をもつ子どもにとって, 薬は欠かせない.本来, 保育所では, 子どもへの薬の服用は親が行うことを原則としているが, 働いている親は会社を休むわけにもいかないため, 保育士に与薬を頼むことになる.しかし, 医師でないものが親に代わって薬を飲ませることは医師法による医行為に触れるという法的な問題が絡む.保育所には, 嘱託医を配置することが義務付けられているが, そのほとんどが常駐ではないため, 随時対応できる状況にはない.また, 保育所における看護婦等の配置率は未だ2割弱にすぎず, 保育所の保健対応体制は十分ではない.そのため保育所は, これら保護者のニーズに対しそれぞれ独自の判断で対応しており, 様々な薬の扱いに対する混乱と事故を招いている.一方, 平成12年改訂された保育指針では, 積極的な保健対応策を打ち出した.病気の子どもの保育については, 「乳幼児健康支援一時預かり事業」の活用を推奨すること, 保育中に体調が悪くなった子どもには, 嘱託医などに相談して適切な処置を行うよう特に書き加えるなど, 従来の保育機能に加えて保健対応機能の必要性を示したものと言えよう.そこで本稿では, 保育所が行う与薬を安全かつ適切に行うための与薬行為のあり方とその対応策について, その実態と法的側面, また保育サービスの機能的側面から考察をした.結論として, 保育所の保育士が与薬を子どもにする場合, 医師や看護婦等の協力が条件となること.また, これからの保育所のあり方として福祉サービスと保健・医療は一体的に捉え, 切り離すべきではないことなどである.したがって保育所における保健・医療体制の早期確立が望まれ, 少なくとも嘱託医に加えて看護婦等医療関係者の配置を全保育所に義務づけることがぜひ必要である.
著者
三宅 妙子 加藤 保子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.411-419, 1997

1.岡山県下にある3高齢者施設および上海1高齢者施設, それぞれの1週間の献立から使用食品数を6つの基礎食品群に分類した.また, 調理形態を比較した.2.どの施設でも1日の平均使用食品数は, 27から30であって, 各地設問でほとんど差は認められなかった.1日の献立で比較すると, 日本の施設では夕食に, 上海では昼食に最も多くの料理が提供された.日本の施設では1週間ほぼ均等な献立が実施されていたが, 上海の施設では金曜日は品数が少なく, 週末にはかなり多いものであった.3.2群に属する乳製品などの食材は, 日本では毎日使用されていたが, 上海では1週間のうち1回のみの使用であった.4.日本の施設給食の代表的な調理形態は煮物, 焼き物, 和え物で, これらの出現頻度は約70%弱であった.上海の施設給食では炒め物が圧倒的に多く, さらに炒め煮, 揚げ物を加2ると.油タ使った調理形態の出現頻度は74%であった.
著者
倉藤 利早 長尾 光城 宮川 健 松枝 秀二 Kuratou Risa Nagao Mitsushiro Miyakawa Takeshi Matsueda Shuji
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.233-242, 2014

本研究では,高等学校バスケットボール選手に熱中症に関する継続的な予防活動を行い,予防活動 の有効性を検討することを目的とした.高等学校の男子バスケットボール部に所属する選手9名を対象に調査を行なった.測定項目は,水分摂取,体重,脈拍,赤外線式鼓膜温,腋下温,環境温度,主観的口渇感,主観的温度感,主観的運 動強度とした.熱中症予防活動は熱中症予防NOTE を作成し,調査1回目の測定終了後に実施・配布を行なった.また,日々の練習で使用できる水分補給量の目安を記したコップを配布し,自己チェックシート,熱中症計,体重計の配布も行ない,日々の練習で活用するよう教示した.測定月ごとに体重あたりの水分摂取量と体重あたりの総発汗量の相関関係を示した結果より,7月において有意な正の相関関係が示された.また,8月においても有意な正の相関関係が示された.次に,測定月による選手の水分補給率・体重減少率の変化を示した結果より,測定月の違いによる, 水分補給率,体重減少率において有意な差は示されなかったものの,個人データで以上の二つを比較 した結果,対象者9人中8人において,水分補給率が増加し,体重減少率は減少を示した.そして,予防活動について内省を行った結果,選手から自己チェックシートや体重測定は習慣がないため,なかなか継続して行うことが難しいという報告を受けた.一方,熱中症計は毎回の部活において使用し,練習前はもちろん練習中もほとんどの選手がチェックしたという報告を受けた.本研究において行った予防活動の有効性を検討した結果,選手が熱中症にならないために,自分自身による管理はもちろん,特に周りのサポートが重要であることが考えられた.また,そのサポートが一過性のものではなく,選手に習慣づくまで継続的に行なう必要が考えられた.そして,最終的に選手自ら自己管理ができるような指導が行える指導者像が求められる.The purpose of this study was to study the effectiveness of continuous prevention activities of heat disorders in high school basketball players. Nine boys participated in this study. The subjects' water intake was monitored without forcing fluid intake. Body weight, pulse rate, environmental temperature, VAS for measuring the SST, RTS, and RPE were measured.For the activity, we made a heat disorders prevention notebook and performed the implementation and distribution after the measurement of the first investigation. In addition, we distributed cups which had marks indicating the quantity of water intake. And we distributed the self-check sheet and the scale of heat disorders and body weight. We instructed them to utilize it in their daily exercise. Significant correlation was observed between water intake and the total quantity of sweat per body weight in July and August. Then the results showed that a change of water intake rate and the body weight rate of decline in every measurement month, but both water intake rate and weight rate of decline were not significant. The self-check sheet and the scale of body weight were not used continually. However, the scale of heat disorders was continued from the introspection report of the players.
著者
"忠津 佐和代 梶原 京子 篠原 ひとみ 長尾 憲樹 進藤 貴子 新山 悦子 高谷 知美"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.313-331, 2008
被引用文献数
3

"青年期のヘルスプロモーションの視点から,大学生のピアカウンセリング手法による性教育の必要性と教育内容を検討するため,某大学生858人を対象に自記式質問紙調査を行い,以下の結果を得た.性交経験者は,男性では1年生(62.1%)・2年生(77.1%)・3年生(91.1%),女性では1年生(41.5%)・2年生(62.4%)・3年生(70.1%)と学年を上がるごとに増加していた.性に関わる問題の第1の相談相手の割合が最も高いのは「友人(73.1%)」であり,性に関わる意識や行動に最も影響を与える第1のものも「友人(45.5%)」であった.性の問題の相談場所がない者が24.0%いた.大学生のピアに対する期待は,具体的な知識に加え,交際相手とのトラブルへの対応や避妊法の具体的な技術指導,ピアカウンセリングが包含する相談しやすい人や秘密の守られる場の提供であった.最も知りたい内容は,21項目中,「性感染症の知識(47.0%)」で,以下2割以上は「男性と女性の心理や行動の違い(46.3%)」,「エイズ(44.8%)」,「愛とは何か(40.5%)」,「緊急避妊法(39.6%)」,「避妊の方法(35.8%)」,「異性との交際のしかた(34.8%)」,「セックス(性交)(29.3%)」,「自分の体について(27.2%)」,「性の人生の意味(26.1%)」,「性欲の処理のしかた(24.9%)」,「思春期の心理(23.6%)」,「性に関する相談機関(22.0%)」の12項目であった.以上から,青年期にある大学生にもピアによる性教育の潜在的・顕在的ニーズがあること,その教育内容として心理的・性行為付随側面のニーズが高くなっていることが窺える.この時期のQOLを実現するため,新入生の時期からピアカウンセリング講座やピアカウンセリングが展開できる場やサポート環境を整えていくことが求められる."
著者
清水 研明
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.15-20, 1994

読み手は, 書かれたテクストの内容に関する背景知識(内容スキ・一マ)と修辞構造に関する背景知識(形式スキーマ)とを, 明示的に示された情報と融合させることにより, テクストをインターアクティヴに読むことができる.本論は, このスキーマ理論を, 外国語としての英語の教育にどのように取り入れるべきかを論じたもの.
著者
田淵 昭雄
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.401-408, 2012

著者が勤務した兵庫県立こども病院(1970年〜1977年)頃の視覚障害者(児)のリハビリテーション・ハビリテーション(眼科リハ)は医療と福祉が個別に機能していた.しかし,川崎医科大学附属病院(1977年〜2004年)時代には,両者が重なる総合的眼科リハが徐々に進み,当大学感覚矯正学科(1992年〜現在)の期間は両者の協働時代になっている.この「視覚障害者(児)の医療福祉」の変遷を著者の経験から述べた.(1)1970年〜1977年における眼科リハ(小児):日本では視覚障害児専門施設が少なかった.しかし,米国でのBlind Childrens Centerでは眼科医,精神科医,視覚障害ケースワーカーなどがチームとなった眼科リハが施行されていた.(注:Blind Childrens Centerは何故かChildren'sではないのが正式名称のようである.)(2)1977年〜2004年における眼科リハ:岡山県下には視覚障害者(児)の訓練施設は無く,川崎医大病院眼科外来にて眼科医や視能訓練士よる視覚障害者の眼科リハを行った.1993年からは眼科ケースワーカーを加えた眼科リハ・クリニックを開始した.2000年に日本ロービジョン(Low Vision:LV)学会が創設されて以来,眼科医,視能訓練士,教育,福祉,行政,内科医や光学・工学関係者などの会員が学際的LV研究を行っている.(なお,LVとは日常生活などで何らかの支援が必要な状況にある視覚障害を意味している.)学会の設立は全国各地でのLVクリニック開設を促した.岡山県(地域)眼科リハについては,2010年の県下の視覚障害者は約2万5千人,眼科医が約250人であるので,眼科医1人で約100人のLV者の対応が必要である.Lケアの診療報酬化が実現されればLVクリニックの普及が進むだろう.一方,ボランティア組織の「岡山県視覚障害を考える会」とか各種患者団体の会が活動している.(3)1992年〜現在までの当学科視能矯正専攻でのLVケア教育と研究:1993年からLV学の教育,学部の卒業研究と大学院の研究でLV関連の研究を行っている.2003年から教育カリキュラムの中にLV学が取り入れられた.研究では科学的に裏付けされた多くの知識と技術が明らかとなった.「視覚障害者(児)の医療と福祉」は科学的な研究と教育によって発展している.
著者
原野 かおり 谷口 敏代 小林 春男
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.208-217, 2012
被引用文献数
1

介護労働は,仕事の内容が広範囲であるため,身体的および精神的負担が大きいと言われているが,その実態は明らかになっていない.そこで本研究においては,夜勤のある介護労働者の主観的および客観的疲労の実態を明らかにすることを目的とした.対象は,介護老人福祉施設に勤務する女性介護労働者19名(夜勤群)と通所介護事業所に勤務する女性介護労働者18名(日勤群)を対照群として連続7日間調査票による質問紙調査および実験を行った.調査の内容は,主観的疲労感として自覚症しらべを用い,客観的疲労として,アクティグラフ(A.M.I社製)を用いて,睡眠-覚醒リズムから活動能力,および能力の減退状態を評価した.また,疲労の補助指標として唾液中コルチゾール濃度を測定した.結果は,主観的疲労感は,夜勤群においてI群ねむけ感,III群不快感,IV群だるさ感,V群ぼやけ感が有意に高かった.日勤群では,V群ぼやけ感が有意に増加した.客観的疲労として,睡眠-覚醒から生活パフォーマンス反応速度時間効率「Effectiveness」を求めた結果,夜勤群において有意に低下した.しかしながら夜勤の際に低下した「Effectiveness」は,休養によって次の勤務には回復していることが明らかになった.また,夜勤群の「Effectiveness」と仮眠時間との間に中等度の相関関係が認められ,仮眠の有用性が明らかになった.唾液中コルチゾール濃度は,両群間においては有意差は認められなかった.以上,介護労働者の疲労が認められたが,夜勤中の仮眠および夜勤後の十分な休養により,次の勤務までには回復可能であった.
著者
松枝 秀二 小野 章史 内田 郷子 中田 裕美
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.253-257, 1992

高校生野球部員の食生活調査をおこなった.対象はレギュラークラス11名.調査期日は平成元年10月と12月に一週間づつおこなった.その結果, スポーツ選手としては摂取栄養素量は少なく, 特に野菜類, 乳類の摂取不足が顕著であった.エネルギー充足者では内容が蛋白質, 脂質にかたよっていた.今回の調査から若年スポーツ競技者に対する食事指導の必要性が強く感じられた.
著者
土田 耕司
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.269-273, 1999-12-25

社会リハビリテーションにおいての援助課程で, 自らの余暇活動を自分の能力のみで実現することが比較的困難な障害者などを対象として, その実現のための諸条件を整備する営みの援助技術がセラピューティック・レクリエーション・サービスである.障害者の余暇活動を, 障害者の自立生活の視点から「見つけだす余暇活動」としての援助を試み, 余暇活動を獲得することができた.障害者が余暇活動を獲得することは, 社会リハビリテーション過程での様々な訓練や援助の相互的関係のうえに成り立ち, 自由時間としての余暇活動の充実に止まらず, 障害者の生活自立や社会参加へと発展していくことが確認できた.
著者
吉本 一夫
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.128-129, 2012

本稿は,2012年成人の日に発売された日本酒「HARE・祝結(いわいむすび)」をプロデュースした農産官学共同の若者向け地酒開発プロジェクト「Takeo 20 Project」の事例紹介である.プロジェクトメンバーは,岡山市建部町農家,倉敷市酒造会社,岡山市酒販売・居酒屋会社,岡山市役所,川崎医療福祉大学医療福祉デザイン学科学生と教員である.
著者
中村 陽子 宮原 伸二 人見 裕江
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.195-204, 2000-12-25
被引用文献数
1

戦後日本においては疾病構造の変化, 医療技術の高度化, 病院化の進展の中で, 死亡に関しては, 在宅での死は減り, 病院での死が急増しているのが現状である.1965年には死亡者全体の29%が病院死であったが, 1995年には74%になり, 日本人の死に場所は家から病院へと変わった.死についての今日の人々の意識や実態は, 高度経済成長期をへて, ここ30年の時代環境で大きく変化した.さらに, 現在多くの国民は在宅死を再び望むようになってきた.高齢者の在宅死を可能にするためには, 医療福祉の役割として, 現在存在するサービスを整備するだけでは課題への対応は困難であり, 新たなケアマネジメントが重要となってくる.具体的な内容としては, 死への不安や恐怖に対して, あらゆる専門職との連携が重要となる.特に心理の専門家やボランティアとの連携が, 看取りにおける心の援助を可能にすると思われる.家族・地域を包括した看取りの教育が急務である.死の教育こそが看取りの文化を継承していく.また, 都市の看取りを考える場合, これまで日本にあった隣近所による助け合いの精神に基づいた相互扶助の援助に変わる, 新しい援助が重要になってくると考えられる.地域共同体意識の低い都市においては, 地域が看取りの力を持ちうるためのまちづくりが重要な課題である.介護者に犠牲を強いることのない, 介護を生きがいのある魅力あるものにし, 自己決定に基づく死に場所選びを可能にするため, 医療福祉として統一された援助が重要となる.医療福祉はその役割を負う.