著者
倉藤 利早 斎藤 辰哉 及川 和美 荒金 圭太 松本 希 高木 祐介 河野 寛 藤原 有子 白 優覧 小野寺 昇
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.461-464, 2011

「だるまさんがころんだ」は,日本の伝承遊びであり,幼稚園や保育所の保育教材として広く導入されている.しかしながら,今までに,「だるまさんがころんだ」を運動と捉え,運動生理学的な分析を行った研究は,見当たらない.本研究は,「だるまさんがころんだ」遊びの心拍数と酸素摂取量変化から運動と捉えたときの運動生理学的な特性を明らかにすることを目的とした.被験者は,健康成人男性10名であった.被験者は,鬼が「だるまさんがころんだ」として発声している時間に全速で移動し,声が止んだ時に静止した.鬼までの距離を20mとし,3回繰り返した.その間,心拍数と酸素摂取量を測定した.結果から,「だるまさんがころんだ」は,インターバルトレーニング時にみられる心拍数と酸素摂取量変化を示した.運動生理学的な分析から「だるまさんがころんだ」が身体トレーニングの要素を持った伝承遊びである可能性が示唆された.
著者
藤井 俊子 角南 重夫
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.195-201, 1993

わが国における胃癌死亡率の都道府県別格差に関連する食物要因を探る目的で, 1980,1985,1990年の性・都道府県胃癌のSMR(標準化死亡比)と各SMRの調査年より6年前, 11年前および16年前の食物要因(一人当たり, 一月当たりの44項目の食物要因および付加項目としてたばこ)との関係について調べた.本研究成績から, 都道府県別胃癌SMR(男女)と項目との関係で有意の正相関が認められたのは食物要因9項目(食料費, 生鮮魚介類, 塩干魚介類, 生鮮野菜類, こんにゃく製品, 嗜好品, 菓子類, 酒類, 清酒)とたばこ1項目の合計10項目, 有意の負相関が認められたのは4項目(麦・雑穀類, 鶏肉, 干しいたけ, 食用油)であった.
著者
藤井 俊子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.139-146, 1996
被引用文献数
1

最近のわが国の胃がんによる死亡の地域較差について, 日本を12の地域ブロックに分けて, 1985年および1990年の男女の胃がん標準化死亡比(SMR)を算出し, 栄養・食品項目[熱量および栄養素の平均充足率(平均摂取量を平均栄養所要量で除したもの), 平均脂肪エネルギー比, 動物性たんぱく質比, および109種類の食品等の1人1日あたりの摂取量.資料 : 国民栄養調査, 1975,1980,1985]の関係について, Pearsonの式により相関係数を調べた.その結果, 1990年の地域ブロック別胃がんSMRと項目との関係で, 男女ともに有意の正相関が認められたのは8項目(熱量, 穀類, いも類, 菓子類, せんべい類, 日本酒, 加工食品, しゅうまい), 有意の負相関が認められたのは3項目(トマト, 洋酒その他の酒類, 鶏肉)であった.
著者
清水 研明
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.25-31, 1992

言語の「経済性」, すなわち, 有限数の音素から数十万の形態素を, さらにその形態素からほぼ無限数の文をつくりだすことが可能なのは, 自然言語が「二重」に「分節」されているからである.チンパンジーを中心にした類人猿に手話や人工言語を習得させるプロジェクトにおいて, この「二重分節」に言及されることが多い.「二重」に「分節」された手話や人工言語を使って語や文を産出しているのだから, 類人猿達の「言語」にも経済性がみられる, といった評価が一般的である.しかし, 類人猿達の産出する語や文はタイプの数が限られており, 人間のそれとは比較すべくもない.本論では, 「二重分節」という構造を持つシステムの習得が, 「経済性」の発現を必ずしも保障しないことを論じる.
著者
橘 智子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.49-56, 1993

「選ばれし女性たち」は, やや怪気的な幻想風の物語詩である.主人公の回想によって過去に五人の女性との不毛の恋愛を匂わせながら,実は唯一人の理想の女性を希求しての観念的な愛の遍歴である.つまり女性に対する自我理想の投影と追求であり, 永遠に満たされない結果的ドンファンの物語である.この小論では, 五人の女性の顔が融合して変容する六番目の「理想の女性」が現実のものではなく, 男性のidealizationによる幻影であるとして捉え, 五人が合体して初めて「究極の女性」になりうるとの比喩の観点からこの詩を論じる.
著者
福永 真哉 矢野 実郎 戸田 淳氏 池野 雅裕 原山 秋 永見 慎輔
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.519-524, 2021

現在,介護保険において算定が認められている認知症短期集中リハビリテーションによって,老人保健施設における認知症高齢者の認知機能や意欲,行動・心理症状の改善が報告されている.しかし, 認知症高齢者では同時に摂食嚥下障害を有している高齢者も少なくない.本研究では,認知症短期集中リハビリテーションが,認知症高齢者の認知機能,意欲に加え,摂食嚥下機能に与える影響とその要因を検討した.対象は,老人保健施設において経口摂取を行っている認知症高齢者27名であった.方法としては,約3ヵ月間の認知症短期集中リハビリテーションによる介入を行い,その介入前後で,認知機能のスクリーニング検査である Mini Mental State Examination,HDS-R,前頭葉機能の指標として Frontal Assessment Battery,注意機能の指標として Trail Making Test Part-A,意欲の指標として,やる気スコアならびに Vitality Index と,摂食嚥下機能は,反復唾液嚥下テスト,舌圧の測定,/pa/,/ta/,/ka/ の言語性交互反復運動能力の測定,ならびに Food Intake LEVEL Scale での摂食嚥下状態の判定を実施し変化を検討した.その結果,介入前後で,認知機能は注意機能の Trail Making Test を除き有意な変化は認められなかった.しかし,摂食嚥下機能は/ka/ の交互反復を除き,有意な変化が認められた.老人保健施設入所の認知症高齢者に認知症短期集中リハビリテーションを 実施したところ,注意機能と摂食嚥下機能が改善した.この摂食嚥下機能の改善は,注意機能の改善によって,2次的に随意的な摂食嚥下動作の改善や,全般的な摂食嚥下能力の改善につながった可能性が示唆された.
著者
竹並 正宏
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.353-366, 2006

この研究内容の持つ意味を整理すると,第一に,日帝時代の社会福祉研究が足りない現時点で,本研究は当時の社会福祉の理解に寄与でき,特に,貧困政策の生成および変化の脈絡の把握に役立つという意義を持つ.第二に,社会福祉史の研究は,社会福祉の実践領域と動態的法則を把握することにより,未来の展望を予測することに意義があるように,日帝時代の貧困政策研究は,解放以後展開された貧困政策についての説明に重要な意味を示唆する.第三に,特定な時期の社会福祉政策の変化脈絡を,社会福祉制度変遷論を適用して考察することで,社会福祉制度変遷論の理論的な仮説を一般化することにも寄与できると思われる.
著者
森戸 雅子 小田桐 早苗 宮崎 仁 岩藤 百香 渡邊 朱美 三上 史哲 難波 知子 武井 祐子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.285-296, 2021

本研究の目的は,自閉スペクトラム症(ASD)児と家族と支援者の情報共有を容易にする感覚特性サポートアプリケーションの開発である.2014年より多職種連携チームクレマチスにおいて,アプリ開発を手掛け,ASDに多いとされる感覚特性について,各感覚特性について分類・保存・検索の機能を保持できる iPad用のアプリケーション「YOUSAY」を開発した.しかし,iPad用に開発したYOUSAYは,ASD児の家族が専門職と短時間に情報共有するには課題があった.そこで,ASD児のライフステージに応じた感覚特性の変化を視覚的に提示でき,感覚のバランスの悪さを視覚的に捉えやすくした「YOU チャート」を新たに考案し,スマートフォン用アプリとしてYOUSAYを開発した.結果,ASD児が日常生活で経験する感覚特性にともなう困難や苦痛を日常的に家族が保存,分類,整理を容易にすることと,緊急時や災害時に医師,臨床心理士,学校教員,保健師などの専門家や支援者との情報共有の際に優先項目の検索を可能にした.開発アプリを活用することで,地域で暮らすASD児と家族にとって,多くの関係専門職や支援者と継続的な連携を容易にすることが示唆される.
著者
松本 啓子 若崎 淳子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.67-72, 2006
被引用文献数
1

Successful Agingの研究は主に米国において進んでいるが,用語そのものの意味も研究者によって見解が異なる.我が国では未だ独自の社会的文化的民族的背景からの示唆は得られていない段階である.そこで今回,著者らの先行の報告を基に,65歳以上の高齢者36名へのアンケート調査から,Successful Agingの現状について質的因子探索型研究を行った. 高齢者におけるSuccessful Agingの現状としては,【満足】【健康】【自己保存】【参加】【チャレンジ】【自負心】の6カテゴリーが抽出された.`健康・元気にむけて努力する'から【健康】,`過去も現在も満足している'から【満足】,`満足している今の自分を,努力して維持させたい'から【自己保存】,`社会や人との関わりに意味を見出している'から【参加】,`好奇心旺盛で前向き'から【チャレンジ】,`高い自己評価とともにある自信'から【自負心】,の6カテゴリーであった.高齢者におけるSuccessful Agingの現状を明らかにすることは,新たな高齢者像の構築,医療・看護教育における高齢者理解の一端に寄与することができる.
著者
吉利 宗久 手島 由紀子 母里 誠一
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.237-242, 2000

本研究は, アメリカ合衆国の学校教育における医療的サービスの提供をめぐる7つの判例を取り上げ, その特徴と問題点を把握することを目的とした.個別障害者教育法(IDEA)は, 障害児のユニークなニーズに対する「特殊教育及び関連サービスを強調する無償で適切な公教育」を保障している.また, 「関連サービス」は, 診断と評価を目的とする「医療的サービス」及び, 有資格スクールナースやその他の有資格職員によって提供される「学校保健サービス」を含む.しかし, これらの法定義が不明確であるために, 学校における医療的ケアの提供をめぐる問題が生じ, 法廷で争われている.1984年のTatro訴訟に端を発するこの問題は, その後の訴訟においても引き続き議論されてきた.その後の判例において検討されたことは, IDEAの医療的サービスから除外されるべき範囲, 施行規則の「学校保健サービス」及びTatro訴訟の連邦最高裁判所判決に関する解釈であった.1999年に連邦最高裁判所は, Garret訴訟において, 障害児が必要とするサービスが医師によって提供されない限り, サービスの性質や範囲に拘わらず, 学校において提供されるべきことを認めた.Garret訴訟は, 15年間にわたる学校での医療的ケアの提供をめぐる訴訟を集約する結果をもたらした.今後, 判例の一層の検討により, 障害児の医療的ケアに関する教育的課題が解明されるべきである.
著者
Hashimoto Nobuko
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.259-265, 1992

8編の作品から成る短編集「家の中の鳥」はローレンスの唯一の自伝的作品である.この作品に於て, 大恐慌や戦争, さらには人種差別による人々の苦しみが, ローレンス自身であるバネッサという名の少女の目を通して語られる.バネッサは常に物語を書くことに熱中しているが, 周囲の大人達の苦しみ, 悲しみを目撃することによって物事を見る目が深められ, 現実から遊離した自身の作品と決別する.子供時代に恐れ, 嫌っていた母方の祖父のパイオニアとしての辛酸の日々を理解し, 受け入れる過程も併せて語られる.