著者
竹並 正宏
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.353-366, 2006

この研究内容の持つ意味を整理すると,第一に,日帝時代の社会福祉研究が足りない現時点で,本研究は当時の社会福祉の理解に寄与でき,特に,貧困政策の生成および変化の脈絡の把握に役立つという意義を持つ.第二に,社会福祉史の研究は,社会福祉の実践領域と動態的法則を把握することにより,未来の展望を予測することに意義があるように,日帝時代の貧困政策研究は,解放以後展開された貧困政策についての説明に重要な意味を示唆する.第三に,特定な時期の社会福祉政策の変化脈絡を,社会福祉制度変遷論を適用して考察することで,社会福祉制度変遷論の理論的な仮説を一般化することにも寄与できると思われる.
著者
太湯 好子 小林 春男 永瀬 仁美 生長 豊健
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.353-361, 2008

本研究では認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の効果を社会性,活動性,精神性の3側面から検討しコントロール群と比較した.動物介在療法の6ヶ月後までの評価は認知症日常生活自立度判定基準,認知症高齢者用QOL尺度,認知症高齢者用うつスケール短縮版を用いた.また,施行時の評価については前60分・中30分・後60分の行動観察と同時に,アクティグラフによる活動量の測定と唾液アミラーゼによる精神ストレスについて調査した.結果,日常生活自立度とQOL尺度得点は6ヶ月で大きな変動はなかったが,うつ状態は明らかに改善した.また,施行の前後では,唾液アミラーゼ活性値の下降群が,動物介在療法を施行した群に有意に多くみられ,一方,コントロール群では上昇群が多かった.そして,アクティグラフによる活動量は施行中に明らかに多くなった.加えて,行動観察でも活動量,笑顔,発言,周囲の人やイヌへの関心が増加した.このことから,認知症高齢者に動物介在療法を施行することは,社会性としての周囲の人やイヌへの関心を高め,生活への潤いを増加させる.また,活動性としてはイヌにつられて行動を起こすことにより,活動量が増し,日常生活の自立度やQOL改善につながる.精神性ではストレスの緩和やうつ状態の改善につながる.
著者
"太湯 好子 小林 春男 永瀬 仁美 生長 豊健"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.353-361, 2008
被引用文献数
1

"本研究では認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の効果を社会性,活動性,精神性の3側面から検討しコントロール群と比較した.動物介在療法の6ヶ月後までの評価は認知症日常生活自立度判定基準,認知症高齢者用QOL尺度,認知症高齢者用うつスケール短縮版を用いた.また,施行時の評価については前60分・中30分・後60分の行動観察と同時に,アクティグラフによる活動量の測定と唾液アミラーゼによる精神ストレスについて調査した.結果,日常生活自立度とQOL尺度得点は6ヶ月で大きな変動はなかったが,うつ状態は明らかに改善した.また,施行の前後では,唾液アミラーゼ活性値の下降群が,動物介在療法を施行した群に有意に多くみられ,一方,コントロール群では上昇群が多かった.そして,アクティグラフによる活動量は施行中に明らかに多くなった.加えて,行動観察でも活動量,笑顔,発言,周囲の人やイヌへの関心が増加した.このことから,認知症高齢者に動物介在療法を施行することは,社会性としての周囲の人やイヌへの関心を高め,生活への潤いを増加させる.また,活動性としてはイヌにつられて行動を起こすことにより,活動量が増し,日常生活の自立度やQOL改善につながる.精神性ではストレスの緩和やうつ状態の改善につながる."
著者
及川 和美 荒金 圭太 倉藤 利早 斎藤 辰哉 松本 希 高木 祐介 河野 寛 藤原 有子 白 優覧 小野寺 昇
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.453-456, 2011

本研究は,「水中だるまさんがころんだ」運動時の心拍数と酸素摂取量の変化から水中運動としての「だるまさんがころんだ」の特性を明らかにすることを目的とした.被験者は,健康成人男性8名(年齢 : 21±2歳,)とした.被験者は,鬼が「だるまさんがころんだ」と発声している時に最大努力で水中を移動し,声が止んだ時に静止した.鬼までの距離を20mとした.鬼に到着するまでを1セットとし,3セット繰り返した.セット間には,3分間水中立位安静を行った.測定項目は,心拍数と酸素摂取量とした.運動後の心拍数および酸素摂取量は,1セット目の運動時と比較して,1セット目以降の運動時が,同等あるいはそれ以上の値を示した.水中でも陸上の「だるまさんがころんだ」と同様にインターバルトレーニング様の心拍数と酸素摂取量変化を示した.運動生理学的な分析から「水中だるまさんがころんだ」が身体トレーニングの要素を持つことが明らかになった.
著者
濵㟢 祐実 塚原 貴子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1-1, pp.139-146, 2020

本研究は男子大学生の子宮頸がんに対する意識を明らかにすることを目的とした.A大学に在籍する男子大学生1,012名に無記名自記式質問紙調査を実施し,有効回答票307部,回収率39.0%だった. 子宮頸がんを聞いたことが「ある」者は91.9%だった.HPVウイルスに関する知識では6割以上の者が「知らない」と答えており,学年別でも有意差を認めなかった.子宮頸がんは男性も予防に関与で きると思う者は79.5%だった.予防に関する情報では,「治療方法」「性行為における予防方法」「妊娠・出産への影響」に関心があった.がんのイメージと近親者のがん罹患者の有無との関連では「普通- 特別」に有意差(p<0.05)を,「平気-怖い」「近い存在-遠い存在」に有意差(p<0.01)を認め,近親者にがん罹患者がいる者はがんのイメージを「普通」「平気」「近い存在」と捉えていた.がんのイ メージと子宮頸がん予防への意識との関連では,「生きる-死ぬ」「平気-怖い」「近い存在-遠い存在」 に有意差(p<0.05)を,「普通-特別」に有意差(p<0.01)を認め,予防に関与できると思う者はがんのイメージを「生きる」「普通」「平気」「近い存在」と捉えていた.HPVウイルスが男性へ及ぼす影響や男性が媒介者となり女性へ感染させる危険性について教育する必要がある.子宮頸がんに対す る予防意識を高めるために,正しい知識によってがんをポジティブなイメージで捉えることができる教育方法を検討することが課題である.
著者
深井 喜代子 黒田 裕子 山下 裕美 池田 理恵
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.193-197, 2001-08-25

看護行為によって発生する音を実験室で再現し, それを聴いた被験者がどのような生体反応を示すのかを検討した.承諾の得られた健康な女性被験 : 者10名に, 「タオルを絞る音」「看護者の足音」「聴診器の音」「椅子を床に置く音」「椅子を引きずる音」「ドアノックの音」「吸引音」「ブラインドの開閉音」の8種類を聴かせ, 心電図, 血圧, 局所発汗量を連続記録した.その結果, 背景音であるチャイムの音では局所発汗量はほとんど変化しなかったが, 6種類の音で5例以上に発汗増加反応を認めた.また, 6種類の音で最高血圧が有意に上昇した.さらに8種類すべての音に対する一過性の交感神経活性の高まりが全例で確認された.これらの結果から, 看護行為によって生じる音は生体に一過性のストレス様反応を引き起こすことが明らかになった.
著者
松本 義信 津﨑 智之 中村 博範 宮田 富弘 小野 章史
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.413-421, 2019

低糖質食は肥満あるいは糖尿病などの生活習慣病の予防・改善に対する栄養素等の摂取方法として用いられているが,最近では健康な人のダイエット法として注目されている.しかし,低糖質食は糖質摂取を抑えるかわりに,たんぱく質ならびに脂質のどちらか,あるいはそれらの両方が過剰摂取につながりやすいと考えられる.本研究では動物モデルを用いて低糖質食を摂取した時の成長および生体内代謝に及ぼす影響について比較検討した.実験ではSD系雄性ラット3週齢を用い,一般的な食餌(コントロール食群),あるいはたんぱく質30.0%(w/w),脂質50.0%(w/w)の食餌(30%たんぱく質群),またはたんぱく質40.0%(w/w),脂質40.0%(w/w)の食餌(40%たんぱく質群)の2種類の低糖質食いずれかを10週間与えた.その結果,食餌摂取量はコントロール群に比べて低糖質食を与えた群で有意に低値となったが,エネルギー摂取量,ならびに実験終了時の体重に有意差を認めなかった.血清トリグリセライド濃度はコントロール群に比べて低糖質食群で有意に低値を示した.血清中のアラニンアミノトランスフェラーゼ,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)はいずれ も40%たんぱく質群で他の2群より高値を示し,ASTの差は有意であった.肝臓脂質量はコントロール群に比べて低糖質食群で高値となり,40%たんぱく質群との差は有意であった.以上,本研究では低糖質食摂取により肝臓に脂質が蓄積するとともに肝臓代謝機能が低下したことが示唆された.
著者
吉利 宗久
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.39-47, 2000-06-26

本研究の目的は, アメリカ合衆国における障害者福祉・教育施策の展開とその特徴について検討することである.障害者は, 実質的に1960年代末から1970年代初頭に至るまでは公的な行政サービスシステムにおいて除外され, 不等な処遇を受けていた.その後, 機会均等運動の隆盛に伴い, 障害者の権利を保障するための初期的な連邦法が制定されてきた.1970年代半ば頃を迎えると, 障害者の福祉・教育に関する改善策の立法化が本格的に進められる.特に, 近年においてはノーマライゼーションやメインストリーミング, インクルージョンと呼ばれる障害者処遇改善のための思想や取り組みの進展により, 個別障害者教育法(IDEA), 障害をもつアメリカ人法(ADA), リハビリテーション法504条に代表される障害者対策を主旨とした連邦法が成立している.そこで, 本研究は, これらの連邦法の変遷や性質, 法規定の関連性について検討し, 障害者施策の概要を把握するものである.
著者
林 優子 末光 茂
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.237-244, 2001-12-25

重症心身障害児(重症児)施設旭川児童院では, 在宅訪問事業や通園事業, および外来の充実により, 短期入所利用が急増している.重症児では, 短期入所の際に不適応反応を示す例が多く, かつて環境変化や母子分離が引き金となり体調が悪化し, 死亡に至った例を経験した.今回, 我々は, 在宅重症児の重度化傾向が進む中, より安全に短期入所を受け入れられるよう様々な取り組みを行い, その成果と今後の課題について検討した.平成11,12年度短期入所利用者73名には医療的問題を有する例が多く含まれていたが, 利用時の死亡例はなく取り組みは有用であった.しかし, 大島分類1の40名中半数に, 摂食困難, 過緊張, 不眠, 呼吸障害の悪化などの症状が見られ, 特に呼吸, 摂食障害を伴う年少児の症状が重篤であった.また, 2名に骨折があり, より安全な受け入れに向けての対策が必要と考えられた.今後も, 医療ニードの高い重症児の短期入所が増加すると予測される.在宅重症児を支援していくために, 短期入所を単に一時的な預かりではなく, 重症児の自立への支援の一つととらえる視点が必要である.そのためには, 保護者と信頼関係を築き, 専門性を生かしたより安全で質の高い短期入所の受け入れ体制の整備が重要と考えられた.
著者
八重樫 牧子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.49-59, 1995

前号の論文において, 筆者は, これまでの児童家庭福祉の展開に重要な影響を与えたと思われる「子供の未来21プラン報告書」など三つの報告書を取り上げ, 今後の児童家庭福祉施策の基本方向が明確になってきていることを明らかにし, その基本方向を提示しておいた.本論文では, この基本方向と基本理念について, 考察をおこなった.児童家庭福祉施策の基本方向である「家族全員参画型家庭」, 「福祉コミュニティ」, 「男女参画型社会」を実現するための今後の児童福祉の基本理念は, 「子どもの権利保障」と「地域における子ども家庭支援システムの構築」であることが確認された.
著者
矢野 香代 大浜 敬子 産田 真代
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.175-183, 2007

都市社会の夜型化は地域の大人の生活にも波及し,その影響を受けて子どもの生活の夜型化が問題視される.母親の睡眠に関する実態・知識・意識及び地域背景が子どもの睡眠習慣にどのような影響を及ぼすかを明らかにし,子どもの睡眠習慣についての基礎資料を得ることを目的に調査を行った.A県B市の2保育園に幼児を通園させている母親180人を対象に睡眠行動・意識等に関する無記名式質問紙法を行った.回答を得た115人(回収率63.9%)を分析対象に,SPSS Ver.12を使用し解析した.その結果,母親の睡眠行動と子どもの睡眠行動は有意に関連していることが認められた.母親の睡眠行動が子どもの睡眠に及ぼす影響を母親が理解することで,双方にとっても良好な睡眠環境が形成されることが期待された.子どもの心身の健康の向上や子どもの望ましい生活リズムの確立のため,母親が求める情報を明らかにし,保健活動の一環として必要な知識を提供していくことが重要であると考えられ,地域看護活動の支援課題としての重要性が示唆された.
著者
吉岡 豊 森 寿子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.109-115, 1992

迂回反応が多くみられた健忘失語の1例に対し喚語訓練を行った。線画カードを提示し,喚語できない時は迂回するよう教示し,それでも喚語できない時は迂回的ヒントを提示した。結果は以下のようであった。1.訓練終了後,訓練語では即時正答数が有意に増加したが,非訓練語では有意に増加しなかった。2.即時正答が増加するにつれ,迂回反応は減少していった。3.迂回反応とヒントの両方で正答に至る傾向が高くみられたのは,形態・属性に関する叙述であった。4.喚語の改善に伴い,仮名自発書字も改善した。以上の結果から,迂回反応を用いた訓練法が有効であることが示された。また,単語の視覚イメージの強化が喚語の改善に有効と思われた。さらに仮名書字障害の改善から,迂回反応のメカニズムについて考察した。
著者
"篠原 ひとみ 中新 美保子 小林 春男"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.75-84, 2005
被引用文献数
1

"本研究の目的は,唇顎口蓋裂児のビン哺乳時の顔面筋の動きについて,健常児との違いやHotz床装着前後の違い,そして使用乳首との関係を明らかにすることである.方法は,健常児1名,口唇顎裂児1名,口唇口蓋裂児1名のビン哺乳の状態を児の顔面を中心にビデオカメラで左右から撮影した.顔面筋の動きを見るために児の顔面に,2〜3 mm角のテープを貼付した.連続9〜11回の吸啜運動から下顎を最大に下げた画像と上げた画像をコンピュータ処理し,18〜22枚取り出した.そして,その18〜22枚の画像をもとに顔面に貼付したテープ間の距離5区間とその角度(5点)を測定し,下顎の上下運動間で対応のあるt検定を行った.その結果をもとに,顔面筋の動きについて,健常児とHotz床装着前の口唇顎裂児や口唇口蓋裂児との違い,Hotz床装着前後の変化,および使用乳首による顔面筋の動きの違いを比較,検討し以下のことが明らかになった.1.健常児に比べてHotz床装着前の口唇顎裂児は患側の動きが大きく,健側の動きは健常児と似ていた.2.Hotz床装着後の口唇顎裂児は患側の動きが減少し,特に口輪筋の動きが減少していた.3.Hotz床装着前の口唇口蓋裂児の患側は,健常児に比べて口輪筋の動きが活発であり,健側は口輪筋の動きが少なかった.4.Hotz床装着後の口唇口蓋裂児は患側,健側ともに動きが減少し,健常児に比べて患側,健側ともに動きが少なかった.5.吸啜時の顔面筋の動きは,口蓋裂用乳首を使用した場合は普通乳首使用に比べて患側,健側ともに少なく,Hotz床装着後は健常児よりも動きが少なかった."
著者
"關戸 啓子 深井 喜代子"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.71-80, 2004
被引用文献数
3

"欠食による空腹が,疲労の自覚症状に及ぼす影響を把握するために看護学生にアンケート調査を実施した.疲労の自覚症状調査は,午前中の授業の形式が,講義のみの日,演習(講義と実習)の日,実習のみの日を選んで,3日間実施した.調査用紙は58人に配付し,53人から提出があった.有効回答数は51(有効回答率96.2%)であった.調査の結果,講義のみの日に朝食を摂取していた学生は42人で,「あくびがでる」「眠い」「目がつかれる」「横になりたい」「頭がぼんやりする」「全身がだるい」という6項目において,授業後有意(p<0.05)に自覚症状が増強していた.朝食を摂取していなかった9人には,授業後増強した自覚症状はなかった.演習の日に,朝食を摂取していた学生は40人で,授業後増強した自覚症状はなかった.朝食を摂取していなかった11人にも,授業後増強した自覚症状はなかった.実習のみの日に,朝食を摂取していた学生は38人で,授業後「目がつかれる」という自覚症状のみが増強傾向を示した.朝食を摂取していなかった13人には,授業後「気がちる」「いらいらする」という自覚症状に増強傾向がみられた.学生が朝食を摂取している場合には,長時間座って講義を聞いている方が苦痛を感じており,自覚症状が増強していた.しかし,朝食を摂取していない場合には,よりエネルギーを消費する実習の授業の時に空腹の影響がみられ,精神的に授業に集中できなくなっている様子が示唆された."
著者
小柴 順子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.9-15, 2000

精神保健福祉士が誕生して1年が経過した.当事者や家族, 精神科医療チームから大きな期待を受けている.社会福祉学をその学問基盤としている精神保健福祉士が, 精神科医療チームに加わる意義は大きい.生活モデルをもとに, 社会福祉学の理論体系と援助技術を発揮して, 社会的存在である人としての精神障害者の援助にあたって欲しい.また, 自らも資質向上に努め, 社会資源の開発, 啓発活動などの社会的活動も行ってもらいたい.ただ, 関係者の期待が大きいだけに, 張り切り過ぎず, 当事者が自らエンパワメントできるようにサポートする適切な距離をとることが必要と考える.病院, 施設, 地域社会で本当に専門職として受け入れられるかどうかは, 今後の活躍如何にかかっている.きびしいが, 地道な働きを期待している.A year has passed since psychiatric social workers were licensed. Great expectations have been placed on them by mentally handicapped people, their families and other members of mental treatment teams. They are an important part of mental treatment teams. Because their studies are based on social welfare, they are expected to support mentally handicapped people the theories and practices of social work. Psychiatric social workers should endeavor to develop new resources to promote normalization for handicapped people. Psychiatric social workers must work hard to become effective members of the treatment teams. If they succeed in doing a good job, they will be accepted by the specialists at hospitals, it is hoped that other facilities and the community in general. Their contributions will improve and grow.
著者
奥田 泰子 大槻 毅 長尾 光城 松嶋 紀子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.137-145, 2008

本研究の目的は,在宅で生活する健常高齢者の入浴の現状及び入浴の安全性を左右する要因を明らかにすることである.研究方法は,高齢者の入浴に対する認識,行動及び判断等を内容とする調査用紙を作成し,研究対象として在宅で生活する健常高齢者と同居者の121組に調査を実施した.その結果,高齢者の大多数が入浴を好み,毎日の生活において入浴を必要だと思う者が多かった.入浴行動では,男性は女性に比べて,肩まで湯につかるものが有意に多かった(p<0.05).入浴するかどうかの判断に関しては,高齢者の約8割が安全な入浴可否判断基準を必要としていた.入浴に対する安全認識の高い高齢者と低い者で入浴前・中・後の行動を比較した結果,入浴前では湯温調整に5%,体温測定に1%,入浴後では休息に5%の有意差があった.前期高齢者との同居者は,高齢者の入浴に対する安全への配慮が後期高齢者との同居者よりも有意に低かった(p<0.05).以上の結果より,高齢者は入浴を好み,自らの判断で入浴行動をとっている者が多かったが,入浴行動にリスクを伴っていることも明らかになった.また,高齢者の入浴に対して同居者の関与も乏しかった.そのため,高齢者の入浴は絶対に安全ではないことを高齢者,同居者ともに認識する必要があること,また,安全な入浴行動が取れるような高齢者教育の必要性が示唆された.
著者
武井 祐子 高尾 堅司 寺崎 正治
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.31-35, 2012

本研究の目的は,PDD児をスクリーニングする社会性発達の評価に関する質問項目に修正を加え,養育者評価と保健師評価を比較し,スクリーニングが可能な項目あるいは困難な項目を明らかにすることである.分析の結果,14の下位項目のなかの5項目で, 養育者の評価と保健師の評価の間に有意な得点差は認められなかった.一方,9項目については,全ての項目で養育者の方が保健師よりも子どもの社会性を高く評価していることが明らかとなった.以上のことから修正された質問項目は,PDD児を社会性の発達からスクリーニングする項目となる可能性が示唆された.
著者
河野 孝幸 内山 幹男 岸本 俊夫 河田 正興 仲本 博 太田 茂
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.79-84, 2009

本研究の目的は,触知覚モールスを盲聾者の新たなコミュニケーション手段として利用することの有用性を検証することである.耳介に密着させた振動子と触知覚信号発生装置を用いて12人の健常者を対象に実験した.モールス符号は,短点と長点の組み合わせで構成されている.触知覚モールスも同様に振動時間に長短の差がある2種類の振動信号(短点,長点)のいずれかを出力することを1〜4回繰り返し,一つの文字を表現する.各点の長さや点相互の間隔は短点提示時間の整数倍に設定している.基本となる短点提示時間を200msに設定して英字26文字を提示し,触知覚モールスと前回の実験で検証した触知覚点字との比較,また,文字間の間隔をモールス通信の基準値(短点提示時間の\3倍の600ms)の2倍,3倍と長くした場合との比較実験を行った.その結果,正解率は触知覚モールス:32.1±6.9%,触知覚点字:100%で,触知覚点字の方が有意に高かった(P<0.01).また,文字間の間隔を基準値の2倍にした場合は97.1±3.7%,3倍にした場合は100%となり,長く間隔を空けた方が有意に高かった(P<0.01).結論として,触覚が正常なら振動でモールス情報が伝達できること,また,モールス符号の初心者については,文字間の間隔を長くすることにより正確さの向上が期待できることがわかった.この結果は,触知覚モールスが盲聾者の新たな通信手段となり得る可能性を示唆している.実験で得た知見を携帯電話に応用すれば,盲聾者が単独で使用できる携帯電話が実現でき,新たなコミュニケーション手段になることが期待できる.
著者
奥山 清子 花谷 香津世 板野 美佐子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.59-65, 1993

障害児と健常児がともに育ちあうことを目指す統合保育への関心が高まっている.今日では, 統合保育は重度化, 多様化している障害児にも及んできている.岡山市に設置されている障害児保育拠点園においても同様の傾向が認められている.このような障害児保育では, それぞれの成長を促すために, さまざまな試みがされている.障害児が保育園でどのような経過を辿って, 「友人を持ち, 育っていくのか」は大きな関心事であるといえる.そこで, 著者らは, 幼児にとって生活そのものである自由な遊び場面における障害児の対人行動を, VTRを用いて録画し, 7月, 11月, 3月の4か月ごとの変化を検討した.その結果, 障害児の対人行動を形態的に, 孤立的, 傍観的, 平行的, 集団的行動に大別すると, 孤立的行動が圧倒的に多く見られた.孤立的行動が多いのが, 障害児の特徴であったが, その中でも一人で動き回る単独行動がめだった.集団生活を重ねるにつれ, 単独行動から, 遊びへの関わりができるようになった.障害児が集団の遊びの中へ入ったのは, 保育者からの声掛け, 接触が契機になっていた.また, 孤立行動の頻度を障害の程度別に4歳児と5歳児を比較すると, 障害の程度によって, 孤立的行動の現れ方に違いが見られたが, 年齢による差はほとんど見られなかった.