著者
深井 喜代子 新見 明子 大倉 美穂
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.285-291, 2000

患者側から看護者を評価する心理社会的尺度, 対象一看護者関係評価尺度(Client-NurseRelationshipScale, CNRS)を新たに開発した.まず, 既成の文献と観察法から138の項目を抽出し, 表面妥当性と重複の有無を検討して52項目の初版CNRSを作成した.初版CNRSでは某有名タレントを288名の学生に評価させた.初版の再テスト法による信頼性係数は0.93(p<0.01), Cronbachα係数は0.89であった.ついで初版から因子負荷量の低い項目を除外して31項目の改訂版CNRSを作成し, 看護学生に理想の看護者を評価させた.因子分析の結果, 初版, 改訂版ともに「人間的信頼感」「専門性」「威圧感」の3因子が抽出された.改訂版による調査結果の因子分析から項目をさらに厳選し, 最終的に24項目からなる完成版を作った.完成版CNRSは患者一看護者関係だけでなく友人関係や学生一教師関係なども評価できる信頼性と妥当性の高い対人関係評価尺度であることが示された.
著者
竹内 一夫
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.59-66, 1991-10-11

平成元年に「医療ソーシャルワーカー業務指針」が, 医療ソーシャルワーカー業務指針検討会により提出されたが, 我が国では未だ, 医療ソーシャルワーカーの法資格はできていない.本稿では, これまで厚生省や関連団体から出された公的文書の中で, 精神衛生法正前の1947年から1964年までを対象とし, 医療ソーシャルワーカーの役割, 定義, 業務, 教育体系などがどのように変化して来たのかを, 経時的に検討した.1965年以降のものは続報で検討する.今回の検討では以下のことが確認できた.1)保健所法制定後10年で, 医療ソーシャルワークは「医療チームの一部門」として位置づけを得, その扱う対象も「患者」から「患者及び家族, 地域社会」へと拡大している.2)同時期, 医療ソーシャルワークの専門技法は, 初期のケースワークから, それに加えグループワーク, ソーシャルワークリサーチ, コミニティーオガニゼーションの一部, ソーシャルワークアドミニストレーションの一部へと拡大している.3)専門的教育に関しては, 保健所法制定後15年で, すでにスーパーバイザー養成を含んだ大学レベルでの教育が提案されていた.
著者
若井 和子 小河 孝則
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.377-382, 2011

本研究は,乳児院で就業する看護師および保育士の協働意欲に影響する要因について明らかにし,入所児に専門性を発揮したケアを提供できることを目的とする.研究方法は,関西地方,中国地方,および九州地方の乳児院で就業している看護師5人および保育士5人,合計10人を対象とし,個別に半構造化面接調査を実施した.言語データを収集し,質的帰納的方法で分析した.その結果,【役割遂行ができた達成感の獲得】の有無が抽出された.カテゴリーには,専門職としての葛藤や孤独感などマイナス因子が含まれていた.複数の専門職で構成されている乳児院において協働意欲を向上させるためには,他職種との意思疎通を円滑にし,専門職としての役割が遂行できるように職場環境を整える体制づくりが重要である.
著者
山田 景子 津島 ひろ江
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-25, 2013

昭和54年の養護学校義務制度の開始により,重度障害のある児童生徒等の就学が可能となったが,医療的ケアを行う者は,学校に同伴する保護者であった.しかし,保護者負担の軽減や児童生徒等の 教育的ニーズにこたえる形で,各学校に配置された看護師や研修を受けた教員等へとケアを行う者が 推移していった.平成23年6月に出された「介護保険等の一部を改正する法律による社会福祉士及び 介護福祉士法の一部改正」により,特別支援学校において,教員等が医療的ケアを実施することが制 度上可能になった.本研究では,医療的ケアや医療的ケアを行う者についての法制度に係わる背景及 び変遷について述べ,教員等と看護師,養護教諭の職務に係わる課題を考察した.1特定行為を行う教員等が,教員の養成段階で医療的ケアの知識を得ておくことで,医療的ケアの 理解につながる.2看護師は,医療的ケアを行う者であり,教員等の指導者でもある.学校と病院と の看護の相違に戸惑うことがあり,学校における看護やその在り方について研修が必要である.3医 療的ケアに係わる校内体制のキーパーソンとなる養護教諭は,養護教諭の養成段階で医療的ケアに関 する知識や技術を取得しておくことが求められている.さらに,学校内外の連絡調整や医療的ケア校 内委員会等のコーディネーターとしての能力育成が課題である.
著者
橘 智子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.15-23, 1991-10-11

『エセルバータの手』(The Hand of Ethelberta)でトマス・ハーディ(ThomasHardy)はシェイクスピア風の貴族社会を風刺した軽いタッチの喜劇を書こうとしてか, 副題に『数章から成る喜劇』と付加しているが, 失敗作としてその評価は極めて低く, minor novelに分類されている.しかし, ヒロイン・エセルバータは, Hardyが創造した他の女性たちより興味深くユニークな存在である.家族のために恋人を諦めて裕福な老貴族と結婚する自己犠牲的行為は, 人身御供として本来ならテスの場合のように悲劇的であるが, エセルバータの場合, 考えようによっては, 環境の犠牲者(召使いの娘として, 10人の兄弟姉妹の5番目に生まれたという)とも言えるが, 彼女の自尊心及び虚栄心がらみの野心にのっとり, 自ら選んだ道を邁進し, 子爵夫人として夫も財産も管理・支配する姿には, 悲劇よりむしろしたたかな生命力を感じる.この小論では, 19世紀の時代背景と, その思潮に触れ, ヒロインが職業で果し得なかった女性の自立, 並びに持てる才能の開花を結婚によってどのように達成し維持していくか, 彼ざま女の生き様を「新しい女」と位置づけ論を進めていく.
著者
寺崎 正治 綱島 啓司 西村 智代
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.43-48, 1999-06-25

本研究においては, 主観的幸福感の構造について検討した, 367人の大学生に対して, 人生に対する満足感質問紙と感情の特性尺度を実施した.その結果, 人生に対する満足感評価は, 「活動的快」感情と正に相関し, 「倦怠」感情とは負に相関した.満足と感情測度の因子分析の結果, 単一の幸福概念が成立することが確認された.主観的な幸福感は人生に対する満足感, 肯定的感情, 否定的感情の部分的には独立している3つの構成要素から成る単一次元であると結論した.
著者
松本 義信 津崎 智之 奥 和之 小野 章史
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.147-152, 2017

日本食品標準成分表2015年版において,ひじきの項目は下処理の加熱時に用いる材質がステンレス 製と鉄製に分類されて表記された.しかし,この時の加熱時間は考慮されなかった.そこで,本研究 ではひじきの下処理時の加熱時間が鉄含有量に及ぼす影響について検討した.実験は鹿児島県沿岸 ならびに静岡県沿岸で収穫された下処理等が行われていない未加工のひじきを用い,加熱時間を30~360分間とした.その結果,鉄含有量は両ひじきともステンレス製に比べて鉄製の鍋を用いた方が 高値となった.また,鉄製の鍋を用いた場合,加熱時間が30分間に比べて360分間では30倍以上の高 値となった.日本食品標準成分表2015年版の値に比べてこれらの値は加熱時間が30分間では低値を,360分間では高値を示した.以上の結果から,本研究でひじきの鉄含有量がステンレス製より鉄製の 鍋で高値となったことは日本食品標準成分表2015年版と同様であったが,加熱時間によっても値が異 なることが明らかになった.
著者
竹中 理香
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.129-145, 2015

本研究では,戦後日本の在日コリアンに対する権利保障の経緯と内容,それに対する在日コリアンの社会運動を,「権利」と「参加」の側面から分析し,在日コリアン高齢者の現代的問題の背景を,戦後日本における在日コリアンに対する権利保障と社会運動との関係から明らかにした. 分析の結果,戦後日本における在日コリアンに対する権利保障と社会運動の変遷は,戦後から1965年までの第1期,1960年代後半から1970年代までの第2期,1980年代から1990年代前半までの第3期,1990年代前半から現在までの第4期に区分することができた.また,戦後日本における在日コリアンに対する権利保障と社会運動の変遷は,「本国志向」の自衛的な運動から,運動の担い手の世代交代と権利獲得運動へと変遷してきた.さらに,1990年代以降は,1世の高齢化にともなって,戦後補償や無年金問題が浮上した.2000年以降は,在日コリアン高齢者の福祉サービスからの排除問題が,2世たちによって発見されたことが明らかになった.
著者
小薮 智子 白岩 千恵子 竹田 恵子 太湯 好子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.59-71, 2009

本研究は,緩和ケア病棟の看護師97名,一般病棟の看護師248名,一般の人429名,大学生244名,合計1,018名を対象とし,スピリチュアリティという言葉のイメージを明らかにすること,また4つのグループ別に認知の有無と,イメージの特徴を明らかにすることを目的とし,質問紙調査を行った.スピリチュアリティという言葉を認知している人は全体で421名(41.4%),緩和ケア病棟の看護師が83名(85.6%),一般病棟の看護師が136名(54.8%),一般の人が92名(21.4%),大学生が110名(45.1%)であり,スピリチュアリティという言葉は未だ一般の人に認められた言葉ではないことが示された.得られたイメージを内容の類似性で整理した結果,【超越的】【内的自己】【人間存在】【死生観】【ビリーフ】【Well-BeingとPain】【他者や環境】の7コアカテゴリーが抽出された.その内容からスピリチュアリティは幅広いイメージを与え,主観的で抽象的であることが確認できた.またこれらは既存の学術的概念と類似していた.カテゴリーに分類されなかった「その他」には〈マスメディア〉〈超常現象〉〈否定的イメージ〉が含まれ,スピリチュアリティをスピリチュアルブームという大衆文化の中でとらえている人がいることが明らかになった.7コアカテゴリーは4グループすべてで抽出され,その中でも【超越的】と【内的自己】が共通して最も多かった.緩和ケア病棟の看護師はスピリチュアリティに幅広い,多くのイメージを持っていた.また一般病棟の看護師の約1割と大学生の約2割が〈マスメディア〉をイメージしていた.一般の人の【他者や環境】のイメージは,日本人の中・高齢者の特徴と考えられた.
著者
盛政 文子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.261-270, 2001

レアリスムの代表作『ボヴァリー夫人』の作家ギュスターヴ・フローベールは近代小説の祖とされている,一方, それ以前の作品はフローベールの信念獲得の過程で書かれた, ロマンチズムの作品と奮える, その中で, 小説『11月』は, まさに彼の青春期と壮年期との過渡期に書かれた作品と位置付けられる.この作品の中にフローベールは, 多情多感な青年の面影と, 虚無思想に捉えられて苦しむ姿とを同時に描いている.フローベール自身の恋愛が実を結ぶことはなかった.自らの生活に幸福を実現できなかったのは, 人生に対して求めることが強すぎたためではなかろうか.彼は女性を常に理想化して描いていった.恋は彼にとって, 美しいものとして制作された, 文学的テーマであった.女性は彼の作品の中で, 肉体的位置を文学的位置まで高めたに過ぎなかった.フローベールの作品申の主人公たちは, 恋愛から一時的な満足しか味わえず, 常に新しい恋を求めて苦悩する.求めても叶えられないと自覚する時, 虚無感が生まれ, 死が必然的となり, 死によって救われることを欲し始める.まさにフローベールの著名の批評家であるチボーデが語るところの「ボヴァリー症」の一面を有している。フローベールの小説には, 絶えず現れる倦怠と, 人生の失敗とが描かれている.強い想像力を持つ彼は, 全てのものを文学に結晶させ, 現実をより美しいものとして夢み, 現実をより真実なものに再構成するのである.作品の成功にもかかわらず, 19世紀の偉大な小説家, フローベールは, 常に心が満たされることはなかったと思われる.若きフローベールにとって, この時にはまだ虚無思想から逃れるための文学的創作活動によっても, 虚無を征服し得なかったのではないだろうか.だからこそ, 虚無感はフローベールの文学の不変のテーマとなり得たのである.
著者
関 和俊 石田 恭生 小野寺 昇 田淵 昭雄
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.113-119, 2007

高所において生体は,いわゆる急性高山病(Acute Mountain Sickness ; AMS)症状に悩まされることが少なくない.動脈血酸素飽和度(SpO_2)を簡易に測定ができるパルスオキシメータは,酸素不足と高所順応の状態を的確に把握し,ヘモグロビンの透過率を測定できる機器であり,最近の登山には必要不可欠な装備とされている.富士山は,海抜3,776mの日本最高峰であり,低圧低酸素環境下にある.本研究では,心拍数,SpO_2およびAMSスコアを用い,富士登山における生体変化を明らかにすることを目的とした.被験者は健康な成人男女26名(男性15名,女性11名)であった.登山中の心拍数およびSpO_2の測定にはパルスオキシメータを用いた.AMSスコアの事後アンケート調査を実施した.心拍数は五合目登山前(88.8±11.8bpm;beats per minute)と比較して,富士山頂(101.2±19.3bpm)において有意に上昇した(p<0.05).SpO_2は,五合目登山前(91.4±2.0%)と比較して,富士山頂(82.1±6.5%)において有意に低下した(p<0.05).AMSスコアは「頭痛」および「めまい及び/またはふらつき」に関して山頂時に有意に高値を示した(p<0.05).このことから,富士登山においても心拍数やSpO_2は高所順化の指標となることを示唆する結果となった.また,SpO_2の測定は富士登山における高所順応が順調に獲得されているかどうかを知るための適切な指標であることが示唆された.心拍数,SpO_2およびAMSスコアを用いることによって,富士登山における急性高山病を事前に防ぐことが可能であると考えられた.
著者
脇本 敏裕 宮川 健
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1-1, pp.201-205, 2020

剣道は面を着用していることや稽古および試合中に不規則的な動きをするため,生理学的な測定が難しく実測が行われた研究は少ない.剣道稽古中の呼吸波形や呼吸循環機能についての研究は散見さ れるが,剣道稽古中のエネルギー消費量,呼吸代謝応答の実測を行った研究は少ない.本研究では, 剣道の試合形式の稽古を行った際の呼吸代謝応答を実測し生理応答を明らかにするとともに自転車エ ルゴメーター運動との差異を検討することを目的とした.対象は K大学剣道部に所属する剣道鍛錬者の男性5名,女性5名とした.自転車エルゴメーターを用いた最大酸素摂取量の測定,および試合を想定した剣道稽古中の心拍数,呼吸代謝応答を測定した.剣道稽古中の呼吸代謝応答は面金の下半分 を切り取った面を用い,フェイスマスクを介して背中に背負ったダグラスバッグに呼気ガスを採取して行った.剣道稽古中の呼吸代謝応答を,剣道稽古中と同一心拍数における自転車駆動時の呼吸代謝応答と比較した.酸素摂取量は剣道稽古中:26.1±5.6ml/kg/分,自転車駆動中:22.0±6.4ml/kg/ 分で有意な差が認められた(p<0.05).換気量は剣道稽古中:32.0±10.3L/分,自転車駆動中:26.0± 10.9L/ 分で有意な差が認められた(p<0.05). METs は剣道稽古中:7.5±1.6METs,自転車駆動中:6.3±1.8METs で有意な差が認められた(p<0.05).剣道で打突時に発生を伴わなければ一本にはならない.この剣道特有の呼吸や発声が,同一心拍数での呼吸代謝応答の違いの原因ではないかと考えられる.
著者
田並 尚恵
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1-2, pp.353-361, 2020

「大学全入時代」を迎えた日本の大学では,リメディアル教育をはじめ,学力の質を担保する取組みが行われている.現在,ソーシャルワーカーを養成している大学で,公民科目(現代社会,倫理, 政治・経済)をリメディアル教育に採用している大学は,ほぼ皆無である.ソーシャルワーカーに求められる知識や社会の理解は,高校までの学習を基礎に専門的な知識を積み上げるものであり,基礎的な知識や理解がないままに学んでも体系的な理解にはつながらない可能性がある.このような問題意識から,X大学 A学科では,現代社会のリメディアル教育を導入した.本稿は,2017年度と2018 年度に実施したリメディアル教育の取組みを紹介し,その効果を考察したものである.いずれの年度も入学前学習の課題として社会保障制度に関するワークシートを作成し,入学予定者を対象としたスクーリングのミニ講義で課題の内容を確認した.そして初年次教育科目(基礎ゼミナールⅠ)の初回に基礎学力テストを実施した.さらに,基礎ゼミナールⅠの授業でテストの振り返りと社会保障に関するグループワークを実施した後,確認テストを行った.2回のテスト結果を統計的に分析したところ, 2018年度は,確認テストの平均が上昇し,リメディアル教育の効果が確認された.ただし,2回のテストとも成績の低い学生が全体の15%程度おり,基礎学力不足の学生には別途支援の必要があると考えられる.
著者
富田 早苗 西田 洋子 石井 陽子 波川 京子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1-2, pp.377-384, 2020

A大学では,2015年度から新たなカリキュラムに基づいた公衆衛生看護学実習を展開している.本研究は,保健師コースを選択した学生の3年間の学習到達度と全国保健師教育機関協議会が実施した全国調査との比較から A大学の保健師教育の現状と課題を明らかにすることを目的とした.調査は2015~2017年度に公衆衛生看護学実習(以下,実習)を行った4年次生を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った.調査項目は実習体験,保健師に求められる卒業時の学習到達度である.調査時期は,各年とも実習が終了した直後に行い,3年間の総計と全国調査との比較を記述的に行った.実習での技術体験では,本調査対象者は,家庭訪問,健康相談,健康診査において,主体的な体験割合が低く,地区活動計画立案,健康危機 / 災害と感染症の項目においても体験割合が低い傾向にあった.また,専門領域では,児童虐待防止対策,自殺対策,依存症対策,がん対策の体験割合が低い傾向にあった. 学習到達度では,「保健師としての責任を果たす」は高かったが,その他の項目は低い傾向にあった.3年間の調査結果から,A 大学対象者は,少しの助言で自立してできると判断した者が少ないことが明らかとなった.主体的な実習体験の拡充と,専門領域を意識できる学内講義・演習の充実が課題である.
著者
人見 裕江 塚原 貴子 中西 啓子 千田 美智子 森安 孝子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.91-98, 1996

水分摂取は簡便で身近な看護ケアの一つであるが, この飲水が健康な成人の排便習慣に及ぼす影響を, 日本語版便秘評価尺度と便形評価尺度を用いて調べた.普段より実験的に水分を多く飲むことの了解の得られた対象に, 所定の用紙に研究期間中の水分量, 排便時間と負荷前・負荷中・負荷後のCAS評価と便形評価を依頼し, その排便習慣を検討した.その結果, 成人の排便習慣に及ぼす水分の影響として, 飲水を負荷することによって便は柔らかな形となり, 便硬度の軟化傾向があることが明確になった.この飲水の効果の自覚や飲む時間帯による差は, CASおよび便形評価のいずれの場合にも認められない.しかし, 飲水の負荷は, 便秘でない者, また下剤を使わない者の便形を変化させるが, 便秘者への影響は少ない.さらに, 身体の変調を含むCASでは, 飲水の負荷により, 腹部の身体症状を来たしやすく, 飲水が便秘を改善するかどうかCAS得点上にあらわれにくい.
著者
小野寺 昇 望月 精一
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1-1, pp.9-14, 2020

「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づく,川崎医療福祉大学(以下,本学と略す)における研究倫理研修への取り組みを述べる.本学の学術研究の信頼性及び公正性を確保することを目的に「川崎医療福祉大学における研究者等の行動規範」と「川崎医療福祉大学研究倫理基準」が施行されている.これら2つの規程に基づき,本学の研究費不正防止計画が施行されている.文部科学省が定める「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」が要請する公的研究費の管理・監査にかかる取り組みを「研究費不正使用防止計画」として具体化し,11項目の計画が示されている.平成28年度から e-ラーニングを導入した.研究倫理への理解深化と周知徹底を目的に外部講師を招聘し,コンプライアンス研修会(大学の取り組み・不正使用防止計画に関する事項, 利益相反,安全保障輸出管理に関する事項,知的財産に関する事項など)を開催している.特に,公的研究費(科学研究費等)執行に関する不正使用に関して注意を喚起している.理解不足(知らないこと)から生じる不正使用の案件が生じないように取り組んでいる.社会の研究に対する認識の流動性を鑑み,最新情報を提供する取り組みを継続する.