著者
児島 博紀
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.36-47, 2015 (Released:2016-05-19)
参考文献数
34

本稿は、J. ロールズによるメリトクラシーへの批判的視点を検討することで、機会の平等をめぐる議論に従来と異なる視点を提供することを試みる。機会の平等を論ずる際、しばしば自由と平等という理念的対立が強調され、ロールズは平等の側に位置づけられる。これに対し本稿は、平等主義の理論的困難をふまえつつ、むしろロールズの主張には自由の観点が見出せることを指摘し、最終的に平等な自由の再定義の必要性を主張する。
著者
吉田 文
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.178-189, 2020 (Released:2020-09-30)
参考文献数
33

本稿は、1991年の大綱化以降の30年間に及ぶ大学の教育改革に関して、1.文部(科学)省の政策(審議会答申と競争的資金事業)、2.それに対する大学の反応(改革の実施率と大学教育関係学会)、3.この両面から大学教育改革がもたらした意味を考察することを目的とする。分析の結果、次第に改革が手段ではなく目的化し、改革に関する大学の自由裁量の余地がなくなったこと、大学はそこから抜け出せない現実があることが明らかにされた。
著者
藤村 正司
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.167-180, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
27

なぜ大学教育と労働市場の接続が、非連続になるのか。本稿は、このリサーチ・クエスチョンに対して景気循環とは異なる構造的要因に注目する。1993年以後、わが国の私学主体の高等教育システムには、学歴インフレによる「機会の罠」が生じている。大卒新規労働者は、労働市場における世代間の置換効果にも晒されてきた。就活におけるメンタリティが内定獲得を、マッチングの質が大卒労働者の能力発揮を規定している。
著者
伊勢本 大
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.461-472, 2023 (Released:2023-12-13)
参考文献数
36

教師の働き方に大きな注目が集まっているにもかかわらず、研究では未だ十分な広がりがみられない。そこで本稿は、中学教師を対象としたライフストーリー・インタビューにおいて、休職へと至る過程がどのような物語として構成されるのかを描く。これは、先行研究が有してきた死角を、教師のライフヒストリーに関わる研究でも抱えてきた課題として重ね(再)設定することにより、日本の教職をめぐる労働問題についての新たな研究と議論の可能性をひらく、先駆的な試みである。

13 0 0 0 OA アイヌ教育史

著者
竹ケ原 幸朗
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.298-309, 1976-12-30 (Released:2009-01-13)
参考文献数
94
著者
倉石 一郎
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.150-161, 2018-06-30 (Released:2018-10-17)

いわゆる「教育機会確保法」が2016年12月に国会で可決・成立した。周知のように立法化の発端は制度上の地位安定を求めるフリースクール関係者からの働きかけであり、そこに夜間中学関係者の運動も合流した。公教育システムの周縁部から、公教育総体のあり方を問い揺さぶるような議論が提起された今回の経緯は非常に興味深いものである。他方で最終的に成立した法文は初期の構想と大きく隔たっており、一連の動きに関わってきた関係者から強い批判も聞かれる。本稿ではその中でも、当初「多様な教育機会確保」と言われたものから、文言上も実質的にも「多様」というコンセプトが失われた点に注目する。本稿ではこの改変(消失)過程をD・ラバリーの議論を手がかりに、教育の実質主義に対する形式主義の優越、公教育を私有財とみなす教育消費者の立場の「勝利」であるとする解釈を提示する。
著者
仲田 康一
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.450-462, 2011-12

保護者に対し学校に協力する特定の行動を求め、同意の上署名をして提出する「確認書」実践を行う学校運営協議会に着目し、その取組を実現させた論理と帰結を実証的に検討した。その結果導出されたのは、学校選択制下で、学力という成果を求める学校運営協議会が、地域の社会関係を介して保護者に対する問責を生じさせ、保護者を統治する様であった。保護者は然るべき行動を取ることができない場合があるが、それは社会的要因の制約による部分があるにもかかわらず、それへの顧慮は剥ぎ取られたままであった。
著者
高橋 寛人
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.172-184, 2013-06-30 (Released:2018-04-04)

警察制度は、占領下と1950年代半ばの大幅な改編を経て今日に至っている。公安委員会の警察に対する管理は「大綱方針」の立案と履行の監視が中心であるが、教育委員会の教育行政に対する管理はそれにとどまらない。委員の資格要件をみると、公安委員の方が素人統制の性格が強い。公安委員会は警察を「人民の機関」するために、GHQの指示により生まれたが、委員は当初から任命制であった。これらの比較を通じて、教育委員会制度の意義とあり方を再検討した。
著者
山田 哲也
出版者
日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.403-419, 2006

学校教育の社会化機能が格差是正に資する可能性を検討するために、本論文では、質問紙調査データを用いて互恵的関係の規定要因を分析した。家族的背景に関わらず、学校生活に適応し良好な友人関係を有する者、学校知識に意義を感じる者ほど共感・互助志向が高く、格差増大に歯止めをかける意識・態度がみられた。他方で、学年段階が上がるほど、「勉強が得意」と考える者ほど共感・互助志向が低く、共感・互助志向と密接に関連する努力主義には、格差化を追認する側面が認められた。分析結果は、学校教育による格差是正の試みが楽観論と悲観論のいずれにも展開する可能性を示唆している。悲観的なシナリオを避けるためには、子ども・若者が所属する場を学校以外にも用意すること、学校知識の意味づけを能力の共同性を強調するものに組み替えることが肝要である。これらを踏まえ互恵的な関係を学校教育で育成することは、格差の拡大を抑止する手助けとなるだろう。
著者
小野 方資
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.241-252, 2015 (Released:2016-05-18)
参考文献数
12

「エビデンス」という語は、教育政策の批判的検証の意味で用いられていた。しかし政策形成に力を及すアクターにより、「エビデンス」の語義が変化していく。この語は、政策形成に影響力あるアクターが予め設定した達成すべき「条件」の意味となる。そして、このようなアクターの意向により切り取られた「結果」を「エビデンス」とし、これを踏まえるべきと政策に条件づけをし、当該アクターの意向を反映させようとする政治性も観察される。
著者
野元 弘幸
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.436-442, 1999-12-30 (Released:2007-12-27)

本論は、外国人住民が急増する日本社会における教養問題の構造を明らかにし、多文化社会における教養の再構築をめざす教育のあり方を模索するものである。その際、日本語文字(漢字、ひらがな、カタカナ)によるコミュニケーション問題に注目する。なぜなら、1980年代から急増している外国人住民(いわゆるニューカマー)の多くが、非識字の状態にあり、住民としての基本的な諸権利を行使するに不可欠な基礎教養である日本語読み書き能力を欠いているからである。そこに多文化社会における教養問題が最も鋭い形で表れていると思われる。筆者は1998年7月・8月に、愛知県豊田市の団地で日系ブラジル人80名を対象にした日本語読み書き能力に関する調査を実施した。そこで以下のことが明らかとなった。(1)漢字によるコミュニケーションは、ほとんどの人が不可能で、「禁止」「注意」「危険」「禁煙」など、自らの生命に直接関わる重要な表示・標識をまったく理解できない状態で生活している。(2)漢字の読み書きがほとんどできないのに対して、ひらがな・カタカナを読み書きできる人はある程度いる。(3)厳しい学習環境にもかかわらず、文字の読み書きへの学習意欲は低くない。こうした調査結果を踏まえて、外国人住民が急増する中で地域社会を支える基礎教養の一つである文字によるコミュニケーション力確保のために以下の3つの提案を行った。(1)役所・病院など公共の施設・スペースと職場の掲示・表示に使われる漢字のすべてにルビを振る。(2)その上で、外国人住民の基礎教養としてひらがな・カタカナの習得を促す。(3)来日初期の外国人のための基本的サービスにかかわるものは多言語表示を行う。これらの提案を実現するための課題の一つは、外国人住民のひらがな・カタカナ習得をすすめるための識字教育をどう行うかである。日本語教室等の数は急速に増えているが、外国人住民の数と比べると依然として不十分で、外国人住民の一部しか日本語教室等で学ぶ機会を得ていない。こうした厳しい状況のもとでは、外国人住民の基礎教養としてのひらがな・カタカナ習得を促すことは極めて困難である。そこで、ひらがな・カタカナの学習支援を基礎教育の一つとして制度化し、国や地方自治体の積極的関与を義務づけることが必要となる。その際に、「社会基礎教育」という新しい概念を導入することが有効かつ必要であろう。もう一つは、主に日本人住民が、地域社会を支える教養の維持という視点から、外国人住民の急増に伴うコミュニケーション手段確保のための具体的な取り組の必要を自覚し、実際生活に活かしていくための教育をどう組織していくかである。具体的な実践的課題を提示する学習プログラムを開発し、外国人住民との共生のための新しい文化的教養を創造する、質の高い学習が組織されなくてはならない。