著者
金綱 祐香 濱口 佳和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.87-102, 2019-06-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
43
被引用文献数
5 6

中学生のいじめ問題は深刻であり,学校現場における道徳的判断力の育成が求められている。本研究では,中学生に攻撃動機や形態の異なる四つの攻撃場面を提示し,場面の違いによって,加害者の悪さの程度の判断及びその判断理由がどのように異なるかをTurielの社会的領域理論に基づいて検討した。また,そうした善悪判断に影響を与えると考えられる個人要因・環境要因を取り上げ,善悪判断への影響を調査した。はじめに,中学生410名への予備調査をもとに判断理由尺度を作成し,その後,中学生1,022名を対象に,作成した判断理由尺度を用いて本調査を実施した。その結果,仕返しを動機とした攻撃は,慣習領域や個人領域の理由から加害行為が許容されやすいこと,言語的攻撃よりも関係性攻撃の方が道徳領域の理由が多く用いられ,より悪いと判断されることが明らかとなった。また,個人要因では,特に女子における罪悪感特性の高さが,環境要因では,教師の自信のある客観的な態度が,望ましい善悪判断を促進することが明らかとなった。以上の結果から,いじめ抑止に向けた指導や学級運営について議論された。
著者
中西 良文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.127-138, 2004-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
17 1

本研究では, 方略帰属が方略を介して動機づけに影響を与えるという過程を想定し, 成功/失敗の方略帰属が自己効力感にどのような変化をもたらすのか, さらに, そのような変化はどのような方略を介してもたらされるのかについて検討した。被験者は高校生80名であった。そのうち60名を対象に面接を行い, 自ら考えさせる形で失敗の方略帰属 (SAF) もしくは成功の方略帰属 (SAS) を促し, 面接前後の自己効力感の変化, および, 面接での方略帰属を通じて思いつく「今後用いようとする方略」の特徴について検討した。その結果, 面接後においてSAS群の自己効力感がSAF群よりも有意に上昇していることが見いだされた。また, 今後用いようとする方略について質的分析を行った結果, SAS群はSAF群に比べ, 直接的に学習に関わるような方略を挙げる傾向があることが見いだされた。
著者
杉本 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.347-361, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
57

本研究は,小学校教員に対する質問紙調査により,(1)日本語のディスレクシア児の書字に関する特徴的な認知障害を包括的に検討すること,(2)それらの認知障害を測定する尺度を作成し,その信頼性・妥当性を検討すること,(3)日本語のディスレクシアの書字障害にはどのようなサブタイプが存在するのかを明らかにすること,(4)各々のサブタイプは読み書き能力とどのように関係しているのかを検討することを目的とした。書字特性の因子分析の結果から,日本語のディスレクシア児では書字に関して4つの主要な認知障害――心的辞書障害,視覚性障害,音韻性障害,書字運動障害――が存在すること,および,これらの認知障害を測定する「ディスレクシア児の書字障害尺度」(WDS-DC)は,信頼性・妥当性が高いことが示唆された。さらに,クラスタ分析により発達性書字障害のサブタイプを分析したところ,重度多重障害群,中度多重障害群,視覚処理障害群が存在することが示唆され,重度多重障害群と中度多重障害群は全ての文字種の読み書き能力において,視覚処理障害群,ボーダー群,障害なし群より低いことが示された。
著者
柴 里実
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.231-245, 2022-09-30 (Released:2022-10-20)
参考文献数
30
被引用文献数
2

問題解決の失敗後に自分の思考過程を振り返り,次の問題解決に役立つ知識を獲得することは,効果的に学習を進めていくために必要である。一方,先行研究では,振り返りを通して自分の間違いから適切に学ぶことができない学習者の存在も指摘されている。そこで本研究では,問題解決の失敗後の振り返りにおいて,学習者がどのような知識を学んでいるのかという振り返りの質を検討するために,メタ認知的方略「教訓帰納」に焦点を当て,学習者が引き出した教訓の質を評価した。教訓の質を評価するために新たな評価基準を作成し,中学2年生を対象に,文章題を題材とした教訓帰納課題と質問紙調査を実施した。評価された教訓の質得点と数学の学業成績との関連の検討と,数学教師による評価結果との比較検討から,本研究で作成した評価基準が教訓の質を捉えるために有用といえることが示された。また,参加者が引き出した教訓の質の評価から,自分の間違いを的確に分析することや,問題解決の転移に役立つ汎用的な知識を抽出することが困難であるという実態が示された。さらに,教訓の質と学習者特性との関連を検討した結果,意味理解志向や失敗活用志向などの深い認知処理を重視する学習観が,質の高い教訓の引き出しにかかわっている可能性が示唆された。
著者
遠藤 久美 橋本 宰
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.86-94, 1998-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
3 2

This study aimed at clarifying the relationship between sex-role identity and self-actualization in terms of mental health. Subjects consisted of 86 male and 128 female undergraduate students, and they answered Self Actualization Scale (SEAS) and Bern Sex Role Inventory (BSRI). Our results suggested that female were more self-actualized than male, and that Androgynous and/or Masculine group were more self-actualized than Feminine and/or Undifferentiated group. The results of multiple regression analyses indicated that high masculinity was conductive and high femininity was detrimental to self-actualization. It was also suggested that masculinity was necessary for male to accept themselves and their weaknesses, and that femininity gave a positive effect on male only in company with masculinity. In contrast, for female, masculinity would provide some difficulties to accept themselves. Moreover, female would be required efforts to integrate the demands out of social values and sex-role that they possess.
著者
内田 伸子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.327-336, 1989-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27

The purpose of this study was to examine the role of “deficit-complement” schema played in a semantic integration of narrative sequences and the development of the same schema. Eighty-four 4-year-old and 5-year-old children were divided into three homogeneous groups, and assigned to one of three conditions: a non-restricted information with an undetermined deficit, a restricted information, or a non-information. The children were shown an abstract drawing story and were asked to describe each picture and perform a free-recall of the story and comprehension tasks. The results showed that the hypothesis,“the deficit information facilitating semantic integration of narrative sequences” was supported. It also showed that for the 4 year-old, influenced by the perceptual feature of each picture, in order to reconstruct interpretation the restricted infomation was difficult to utilize, while the 5 year-old could utilize the information and construct coherent interpretation. As a result, qualitative differences of cognitive basis for story production between the two age groups were shown.
著者
生田目 光 沢宮 容子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.131-144, 2023-06-30 (Released:2023-06-14)
参考文献数
61

本研究ではポジティブボディイメージの一種であるボディ・アプリシエーションを高める心理教育的支援の開発に向けた基礎的な研究を行うこととした。具体的には,ボディ・アプリシエーションを促進すると考えられる感謝,セルフ・コンパッションおよびメディアの影響を扱い,適応的調和食行動や人生満足度への影響を含めて,統合的支援モデルを検討することを目的とした。264名の大学生を対象に構造方程式モデリングをおこなった結果,仮説モデルがおおむね支持された。感謝はセルフ・コンパッションを促進し,セルフ・コンパッションはボディ・アプリシエーションを促進した。また,感謝はボディ・アプリシエーションを直接的にも促進していた。メディアの影響は,ボディ・アプリシエーションを促進しなかったが,適応的調和食行動を促進した。さらに,ボディ・アプリシエーションは適応的調和食行動と人生満足度を促進していた。これらの結果は,ボディ・アプリシエーションの発達と介入ターゲットの理解の促進に貢献しうる。
著者
直原 康光 安藤 智子 菅原 ますみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.117-130, 2023-06-30 (Released:2023-06-14)
参考文献数
66

本研究の目的は,第1に,離婚後の父母コペアレンティングと子どもの適応の相互関係,第2に,子どもの適応のうち「外在化問題行動」,「内在化問題行動」,「向社会的な行動」の相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて,経時的な相互関係について検討することであった。離婚して2年未満で2―17歳の子どもと同居する母親500名に,3か月後,6か月後に追跡調査を行った。3時点のデータを用いて,交差遅延効果モデルによる分析を行った結果,「葛藤的なコペアレンティング」は,「外在化問題行動」に正の影響を及ぼし,「外在化問題行動」は「内在化問題行動」に正の影響を及ぼし,「内在化問題行動」は「向社会的な行動」に負の影響を及ぼすことが明らかになった。また,「内在化問題行動」と「向社会的な行動」の間には,互いに負の影響関係が認められた。変数相互間の関係性については,発達カスケードを踏まえて考察を行った。本研究の結果を踏まえた介入や支援への示唆として,離婚後の「葛藤的なコペアレンティング」を抑制することの重要性および子どもの「外在化問題行動」に着目することの重要性が示された。
著者
大平 勝馬
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.34-36,57, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
被引用文献数
1 1

The present paper is a report on the study of the correlation between the degree of physical maturation, determined by the planimetric method of carpal bones, and personal character which is appraised by using Kraepelin numeral addition test, adjustment test and moral judgment test. The research and experiment were made during the period from May, 1952 to October, 1952. The number of subjects is 102-from 4th grade to 6th grade of elementary school children.The abstract of the result is as follows:1) the author found that there is correlation coefficient. 311 between the degree of physical maturation (indicated by growth quotient=G. Q) and the result of Kraepelin numeral addition test (indicated by Standard Score) and the γ is significant at 1 percent level.2) The γ between physical maturation degree and the result of adjustment test is. 195 and the γ is insignificant at the 5 percent level. But there is correlation ratio. 423 and the difference between r and n is significant at the 5 percent level.3) The result of moral judgment test indicates γ. 228 orη. 505 between the result and the physical maturation degree; then the γ and the difference between γ and η are respectively significant at the 5 percent level.4) There are deeper correlations between the result of three tests of personal character which were used in this study and the intelligence than the correlation between the test results and bodily maturation degree. Furthermore, the author studied last year that there is the low correlation between the physical maturation degree and intelligence. So if we recognize the common factor of intelligence between personal character and physical maturation degree, and remove the common intelligence factor, there is no correlation between personal character and bodily maturation degree. However if we do not consider about the intelligence factor, the author may conclude that there is actually a low but considarable correlation between personal character and physical maturation degree.
著者
藤原 健志 村上 達也
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.311-321, 2020-09-30 (Released:2021-02-18)
参考文献数
45
被引用文献数
5 6

本研究の目的は,小学生を対象として,抑うつに関連する認知と抑うつ症状,そして特性感謝の関連について,短期縦断デザインを用いて検討することであった。小学4年生から6年生598名に対し,対人的感謝と抑うつスキーマ,そして抑うつ症状に関する質問紙調査を2回行った。構造方程式モデリングを用い,交差遅延モデルについて,学年間の多母集団分析を行った。その結果,小学4年生においては抑うつスキーマよりも特性感謝の方がその後の抑うつ症状と強く関連していた。一方小学6年生になると特性感謝よりも抑うつスキーマの方が,その後の抑うつ症状を強く予測することが明らかとなった。抑うつ症状に与えるポジティブ要因とネガティブ要因の影響について考察された。また,抑うつスキーマと抑うつ症状の関連では,抑うつ症状がその後の抑うつスキーマを高めることが明らかとなり,児童期における抑うつ症状形成のメカニズムについても考察された。
著者
生田目 光 八島 禎宏 沢宮 容子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.205-220, 2022-06-30 (Released:2022-07-12)
参考文献数
74
被引用文献数
4

本研究の目的は,わが国における児童を対象に,ボディイメージの実態を調査し,ポジティブボディイメージを育成するプログラムを開発し,効果を検証することである。研究1では,児童のボディイメージに関する基礎的な検討を行った。まず,小学3年生から小学6年生の児童232名を対象として質問紙調査を行ったところ,わが国においても,ボディイメージの問題は児童期から生じていること,およびその深刻さが示され,早期介入が必要であると考えられた。研究2では,児童を対象としたポジティブボディイメージを育成する全3回の1次予防プログラムを開発し効果を検証した。小学3年生から小学6年生の児童161名を対象に,学級単位で有効性を検討した結果,プログラムによってポジティブボディイメージが高まり,その効果は3ヵ月間維持されることが示された。
著者
酒井 恵子 Takuya Yanagida 松居 辰則 戸田 有一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-13, 2018-03-30 (Released:2018-04-18)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

本研究の目的は,Sprangerの価値類型論に基づき6種の価値への志向性を測定する尺度である「価値志向性尺度」の尺度項目間にみられる順序関係を明らかにし,価値志向性というパーソナリティ特性の構造や成り立ちを解明することである。本研究ではそのための分析手法を新たに開発し「順序関係分析」と名付けた。順序関係分析では,尺度に含まれる2項目ごとに順序関係の有無が判定される。2項目間の相関係数および平均値の差が共に基準以上であれば「順序関係」,相関係数が基準以上で平均値の差が基準未満であれば「等価関係」と判定される。さらにこれらの順序関係および等価関係が樹状図で示される。この分析を,大学生320名(男子156名・女子164名/平均年齢20.0歳)の価値志向性尺度への回答データ(5件法)に適用し,6種の価値志向性(理論・経済・審美・宗教・社会・権力)を測定する6尺度それぞれについて樹状図を作成した結果,Sprangerの理論ともよく対応する特徴的な順序関係が各尺度において見出された。また,今後尺度の妥当性をより高めるべく改良していくための示唆が得られた。
著者
齊藤 彩 松本 聡子 菅原 ますみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.237-249, 2020-09-30 (Released:2021-02-18)
参考文献数
71
被引用文献数
5 6

本研究は,思春期の子どもの注意欠如・多動傾向と後の不安・抑うつとの縦断的関連に着目し,小学5年時の注意欠如・多動傾向の高さが学校要因および家庭要因を媒介して小学6年時の自尊感情の低さに関連し,さらに中学1年時の不安・抑うつの高さへと関連するメカニズムについて検討を行った。分析には,縦断質問紙調査により得られた201家庭の子どもとその母親のデータ(対象児が小学5年時,小学6年時,中学1年時の3回の縦断データ)を使用した。母親の評定により子どもの注意欠如・多動傾向,母親の養育のあたたかさ,子どもの不安・抑うつを測定し,子ども本人の自己評定により学校ライフイベントと自尊感情を測定した。パス解析の結果,小学5年時の注意欠如・多動傾向の高さは,学校でのポジティブイベントの少なさ,学校でのネガティブイベントの多さ,母親のあたたかな養育の少なさのすべての要因へと関連を示し,そのうち学校でのポジティブイベントの少なさおよびネガティブイベントの多さが,小学6年時の自尊感情の低さを媒介して中学1年時の不安・抑うつの高さへと関連することが明らかとなった。
著者
澤田 匡人 新井 邦二郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.246-256, 2002-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
7 2

本研究は, 小学3年から中学3年までの児童・生徒を対象に, 妬み傾向, 領域重要度, および獲得可能性が, 妬み感情の喚起と, その対処方略選択に及ぼす影響を検討することを目的とした。研究1では, 妬みの個人差を測定する単因子構造の児童・生徒用妬み傾向尺度 (Dispositional Envy Scale for Children; DESC) が作成され, 十分な信頼性, 妥当性が認められた。研究2では, 予備調査において, 妬みが喚起される8つの領域と, 16種類の対処方略が見出された。この結果を受けて, 研究2の本調査では, 仮想場面を用いた対処方略の分析が行われた。その結果,「建設的解決」,「破壊的関与」,「意図的回避」の3因子が抽出された。次に, これら3種類の対処方略の選択に関わる要因として, 妬み傾向, 領域重要度, および獲得可能性を取り上げ, 領域別・年齢帯別に因果関係の検討を行った。パス解析の結果, 成績領域を除き, 中学生では領域重要度が妬みの喚起に影響を及ぼしているのに対し, 小学生ではそうした傾向は認められなかった。また, 小学3・4年では, 妬み感情の対処として主に破壊的関与が選択される傾向にあった。さらに, 全ての領域を通じて小学5・6年以降では獲得可能性が高いと妬みを感じやすく, 意図的回避と建設的解決方略を選択しやすいことが明らかにされ, 妬みの対処方略選択に発達差のあることが確認された。
著者
伊藤 正哉 小玉 正博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.222-232, 2006-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
48
被引用文献数
14 6

本研究では, 大学生の主体的な自己形成として自律性, 可能性追求意識, 現状改善意識を取り上げ, これらに影響する内的要因として本来感, 自己価値の随伴性, 自尊感情を検討した。以上の変数を測定する尺度を含んだ質問紙が大学生男女220名に実施された。邦訳された自己価値の随伴性尺度についての尺度分析の結果, その信頼性と妥当性が確認された。多変量重回帰モデルを検討した結果, 本来感は自律性, 可能性追求意識, 現状改善意識に正の影響を与えており, 自己価値の随伴性は自律性には負の影響を与えている一方で, 現状改善意識には正の影響を与えていた。また, 自尊感情は自己形成に影響を与えてはいなかった。以上の結果から, 大学生の主体的な自己形成の理解において, 単なる自尊感情の高低に注目する視点を精緻化させ, 本来感と自己価値の随伴性を考慮する有用性が考察された。
著者
植木 理恵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.301-310, 2002-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
31 16

本研究の目的は, 学習方略との関連から高校生の学習観の構造を明らかにすることである。学習観を測定する尺度はすでに市川 (1995) によって提案されているが, 本研究ではその尺度の問題点を指摘し, 学習観を「学習とはどのようにして起こるのか」という学習成立に関する「信念」に限定するとともに, その内容を高校生の自由記述からボトムアップ的に探索することを, 学習観をとらえる上での方策とした。その結果,「方略志向」「学習量志向」という従来から想定されていた学習観の他に, 学習方法を学習環境に委ねようとする「環境志向」という学習観が新たに見出された。さらに学習方略との関連を調査した結果,「環境志向」の学習者は, 精緻化方略については「方略志向」の学習者と同程度に使用するが, モニタリング方略になると「学習量志向」の学習者と同程度にしか使用しないと回答する傾向が示された。また全体の傾向として, どれか1つの学習観には大いに賛同するが, それ以外の学習観には否定的であるというパターンを示す者が多いことも明らかになった。
著者
酒井 恵子 久野 雅樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.388-395, 1997-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13
被引用文献数
6 4

The purpose of this study is to constract a scale to measure value-intending mental acts, characterized by six types of values (theoretical, economic, aesthetic, religious, social, political) originally proposed by Spranger (1921). A typical test based on Spranger's classification of values, i. e.,“Study of Values” (Allport et al., 1951), relates only the socio-cultural objects to which individuals feel the value, without treating the way in which individuals feel the value. Our scale is made to measure the latter subjective experience (“mental act”) itself. Basing upon personal interviews and preliminary survey, 54 items (6 mental acts X 9 items) are selected and administered to 493 college students (292 male and 201 female). With factor analysis, six subscales are extracted from those items to construct a Value-Intending Mental Act Scale. Relations of this scale, focused on subjective mental process of valuation, with preference between school subjects and vocational interest, are regarded as objective manifestations of the subjective processes making the object of a discussion.
著者
髙柳 伸哉 伊藤 大幸 浜田 恵 明翫 光宜 中島 卓裕 村山 恭朗 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.62-73, 2023-03-30 (Released:2023-03-25)
参考文献数
36

本研究では,青年における自傷行為の発生に関連する要因と,自傷行為の発生に至る軌跡の検証を目的とした。調査対象市内のすべての中学生とその保護者に実施している大規模調査から,自傷行為の頻度やメンタルヘルス,対人関係不適応,発達障害傾向等について質問紙による3年間の追跡調査を行った5つのコホートの中学生4,050名(男子2,051名,女子1,999名)のデータを用いた。中3自傷発生群と非自傷群について,各尺度得点のt検定の結果と,非自傷群の中学1年時の得点を基準とした各尺度z得点による3年間の軌跡を比較した結果から,中3自傷発生群は3年時に非自傷群よりもメンタルヘルスや家族・友人関係で問題を抱えていることに加え,1・2年時でも抑うつなどが有意に高いことが示された。中学1―3年時におけるz得点の軌跡からは,中3自傷発生群は非自傷群と比べて1年時からすでにメンタルヘルスや友人関係・家族関係等での不適応が高いこと,3年時にかけて両群の差が開いていくことが示された。本研究の結果,中学3年時に自傷行為の発生に至る生徒の傾向と3年間の軌跡が明らかとなり,自傷行為のリスクの高い生徒の早期発見と予防的対応につながることが期待される。
著者
浜名 真以 分寺 杏介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.51-61, 2023-03-30 (Released:2023-03-25)
参考文献数
31

感情語を獲得することは子どもの社会化や感情経験の発達に重要な役割を持つ。本研究の目的は,幼児および小学校3年生までの児童を対象とする短縮版感情語彙尺度を開発することである。研究1では,年少児から小学3年生までの子どもを持つ母親からデータを収集し,項目反応理論を用いて幼児用および小学校低学年用の感情語彙尺度を開発し,情動コンピテンスとの関連を調べた。研究2では,幼児用感情語彙尺度で測定される感情語彙能力と一般的な言語能力や社会的コンピテンスとの関連,研究3では,低学年用感情語彙尺度で測定される感情語彙能力と一般的な言語能力との関連を検討した。感情語彙能力と子どもの一般的な言語能力や社会情動的コンピテンスの関連から,本尺度の妥当性の証拠が確認された。
著者
伊藤 亜矢子 宇佐美 慧
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.91-105, 2017 (Released:2017-04-21)
参考文献数
53
被引用文献数
11 11

学級の個別的・心理社会的性質を意味する学級風土は, 学習環境の基盤として重要であり, いじめ・暴力の予防や精神健康の向上, 特別支援教育などの側面から注目を集めている。本研究では, 学級風土質問紙(CCI; 伊藤・松井, 2001)を元に, 近年の子どもをめぐる社会や学校の変化を踏まえて, 新版の中学生用CCIの作成を試みた。首都圏・北海道・東北・北陸・東海・近畿・九州の計24中学校227学級にて回答データを収集し, 得点の経年変化を調べるとともに, マルチレベル因子分析の枠組みを通して尺度の再構成を行い新版のCCIを作成した。また, 基準関連妥当性に基づく妥当性検証を行い, さらに旧版と新版の両者を用いた教師コンサルテーションの結果から, 新版CCIの実践的有用性を例証し, 結果提示の方法・尺度構成の更なる見直しの可能性について検討した。