著者
大谷 宗啓
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.480-490, 2007-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
9 1

本研究は, 高校生・大学生を対象に, 従来, 深さ・広さで捉えられてきた友人関係について, 新観点「状況に応じた切替」を加えて捉え直すことを試み, その捉え直しが有意義なものであるかを質問紙調査により検討した。因子分析の結果, 新観点は既存の観点とは因子的に弁別されること, 新観点は深さ・広さの2次元では説明できないものであることが確認された。また重回帰分析の結果, 新観点追加により友人関係から心理的ストレス反応への予測力が向上すること, 新観点による統制の有無により既存観点と心理的ストレス反応との関連に差異の生じることが明らかとなった。
著者
伊藤 美奈子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.251-260, 2003-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
9 1

本研究では, 中学校における保健室登校の実態を調べるとともに, それに対する養護教諭の意識について明らかにすることを目的とした。小・中・高校の養護教諭285人に対し,(1) 保健室登校についての悩み,(2) 保健室での相談活動に関する意識と相談満足度,(3) スクールカウンセラー (以下sc) 配置の有無,(4) 昨年度と今年度の保健室登校児童生徒についての質問 (人数, 期間, 不登校のタイプ, 来室頻度, 経過, 他の教師との連携の様子など) からなる質問紙を実施した。研究1では, 回答が得られた保健室登校生徒男子106 人, 女子206人の回答を分析した。その結果, 保健室登校児童生徒の実態とそれに対する養護教諭の対応とその経過は, 校種によって異なるのであり, 不登校のタイプによっても差異のあることが明らかになった。研究IIでは, 保健室登校に関する悩みには〈多忙感〉〈連携の悩み〉〈対応上の不安〉という3つがあることが見出された。保健室登校を多く抱えるほど多忙感が大きく, 保健室登校に悩んでいる養護教諭ほど, 相談役割 (SC役) を兼ねることへの不安も大きいことが示唆された。さらに, 保健室登校とSC の有無の組み合わせによる3群を比較する中で, SCが配置された学校では, 保健室登校の人数が多いが, 対応上の不安は小さく, 養護教諭の相談活動満足度は高いことが明らかになった。それより, 養護教諭とSCとの連携の意義が検討された。
著者
蔵本 真紀子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.146-162, 2022-06-30 (Released:2022-07-12)
参考文献数
51
被引用文献数
3

本研究では,日本で思春期以上の子どもを育てている国際結婚夫婦26名に面接調査を行い,子どもの文化的アイデンティティの発達過程を親の視点から探り,子どもと親が経験した課題,そして親の子育てのアプローチの軌跡を検討することを目的とした。データの分析には,グラウンデッド・セオリー・アプローチを援用した。その結果,アイデンティティの発達に影響を与えるさまざまな要因,文化的アイデンティティの発達と言語発達のパターン,そして子どもが経験した困難が浮き彫りになった。親については,文化継承,いじめ・溶け込みにおける闘い,安全基地としての役割,自律性の促進のカテゴリーが抽出された。獲得された文化的アイデンティティは様々であるが,子どもがアイデンティティに充実感を覚える最大の要因は親から尊重され見守られているという実感であることがうかがえた。また子どもが幼少期に活発的だった文化継承について,成長と共に子どもが次世代の文化継承の担い手になっていくという世代交代が示唆された。重要な点は,異文化間の子どもたちが文化的アイデンティティを育むための単一の方法があるわけではないこと,そして異文化間に育つ子どもたちと親の独自のニーズや課題を把握することがますます求められることである。
著者
高橋 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.65-75, 1970-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8
被引用文献数
2

本研究は, すでに報告した大学・高校生の結果と比較しつつ中学生の依存性の様相をとらえ, 青年期における依存性の発達的変容を考える資料を得ようとするものであった。その結果, 明らかにされたのは次の点であった。1) 依存構造対象間の機能分化の程度は, 一般的にいえば中学生では, 高校・大学生に比べ明確ではなかった。その証拠としては, まず第1に対象間の機能分化がすすみ, よく構造化された, 単一の焦点を持つF型は中学生では25%でしかなく, 高校・大学生に比べて少ない。そして, 第2に, F型と判定される場合にも他の型における同じ対象よりはという相対的な意味では, 焦点となっている対象が中核的とはいえるが, 大学生の同じ型にくらべれば, 機能分化が明確でないと思われる型がみられた。たとえば, 愛情の対象型では, 得点からいえば焦点と判定される愛情の対象であるが, たしかに, 他の型における愛情の対象とは明らかに機能が異なり, 中核的であるとはいえ親友もまた重視されていて, 〈愛情の対象-親友〉型という2F型的な特徴をもっていたのである。また, 親友型でも, 親友よりも母親の方がより中核的と思われるところがあった, という具合である。また, 依存構造の発達の指標のひとつとして, 依存の対象の数の増加・範囲の拡大ということが考えられたのであるが (高橋, 尊1968a), 中学生では, 高校一大学生に比べ, 愛情の対象, 敬する人などに対しての無答が多いことが注目された。つまり, F型でも, そして同じ焦点のF型でも, また型としてのよい構造的特性をそなえていても, 中学生ではそこに含まれる要素がまだ少なく, 発達につれて変化する可能性があるといえるのである。2) 依存要求の強度依存要求の強度は予想どおり, 中学生が高校・大学生に比べて高いということはなかった。母親型が上位・下位群に同程度出現するのに対し, 愛情の対象は上位群でのみ出現しやすいということからすれば, 依存要求の強度は, 幼少時に獲得されたものが一定不変であるとか, 成長につれて減少していくとか考えるのは妥当ではなく, むしろ, ある対象, たとえば愛情の対象に出会ったということにより, 逆にそれ以前より依存要求が強くなるということすらあると考えられよう。3) 中学生女子における依存性依存構造の内容についてみれば, 中学生における依存の対象には次のような特徴がみられた。(1) 単一の焦点となる対象としては, 中学生では, 母親が特に多く, 次が愛情の対象, ついで親友が多く, 父親, きょうだいは焦点になりにくい。 (母親は女子においては一貫して重要な依存行動のむけられる対象であるが, 中学生ではまたいちだんとそうである。(3) 逆に, 父親は女子においては一貫して依存行動をひきおこしにくい対象であるが, 中学生では大学生や高校生, とくに後者に比べれば, かなり重要な対象に近いといえる。しかし, この傾向も, 1年生で顕著なだけで学年の上昇につれて父一娘間には心理的な距離がでてくるし, また, 母親とともになら対象になりうるという高校生でみられた特徴がやはりすでに現われている。父親はなぜ単一では依存の対象になりにくいのであろうか。ひとつには, 父親が「たよりにしている」とか, 様式 (4) とかの道具的あるいは間接的ニュアンスの強い依存行動の向けられる対象になることを考えると, 父親は情緒的な依存行動の対象にはもともとなりにくいのかもしれない。父一娘関係は依存行動というものではなく, 別の角度からとらえることがふさわしいものとも考えられる。が, また一方では, 母親とともにしか対象になりにくいということが, 母一娘関係の中に, 母・父の夫婦関係が微妙に影響していることを示唆していると思われる。(4) MFないし準MF型でも, 母親は対象のうちのひとりになることがもっとも多く, また, 2F, 準2F型では<母親-父親>という組合わせが, また, 3F, 準3F 型では<母親-父親-X>というものが多くなっており, 中学生では依存行動の対象としては, なによりも母親が, そして母親に伴なわれるという条件つきで父親が, 重要だといえる。(5) 親友は, 高校生にくらべ全般的には中学生ではあまり重要な対象ではない。焦点となった親友の場合でも, 必ずしも中核的とはいえないものもあった。(6}愛情の対象は, 中学1年生からすでにわずかながら出現している。が, 全般的には, 現実にもいないし, いると仮定もできないというものが多い。そして, 愛情の対象が焦点になった型においても, 愛情の対象は, 次に重要な親友とともに中核になっているという未熟さをもっていた。
著者
牧野 由美子 田上 不二夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.52-57, 1998-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
2 3

The purpose of the present study was to examine whether significant relationships were found between subjective well-being and social interactions, and also whether a revised program through a writing method adopting a cognitive approach could increase the quality of social interactions and subjective well-being in adolescents. In the first study, we examined the relations between social interactions and subjective well-being. Social interactions were tested by the Rochester Interaction Record (RIR). The quality of social interactions implied closeness, enjoyment, responsiveness, influence, and confidence. The quantity of social interactions implied the number of other people with whom a subject related in a day. In the second study, we produced a revised program into which a program, through a writing method adopting a cognitive approach,(Nedate & Tagami, 1994) was modified. We examined the effects of the program on the quality and the quantity of social interactions and subjective well-being. Results indicated that the quality of social interactions related to subjective well-being and the revised program increased the quality of social interactions and subjective well-being and decreased the quantity of social interactions.
著者
外山 美樹 湯 立 長峯 聖人 三和 秀平 相川 充
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.321-332, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
54
被引用文献数
10 8

本研究の目的は, ポジティブなプロセスフィードバック(以下, PosiProFB)とネガティブなプロセスフィードバック(以下, NegaProFB)が受け手の動機づけに与える影響において, 制御焦点が調整変数となりうるのかどうかを検討することであった。実験参加者は大学生64名であった。本研究の結果より, プロセスフィードバックが受け手の動機づけに及ぼす影響は, 制御焦点によって異なることが示された。促進焦点の状況が活性化された場合には, NegaProFBよりもPosiProFBが与えられた方が次の課題への努力が高く, 課題への興味が向上することが示された。一方で, 防止焦点の状況が活性化された場合には, 逆に, PosiProFBよりもNegaProFBが与えられた方が次の課題への努力が高く, 課題への興味が向上することが示された。また, 自由時間中の課題従事の有無においては, 制御焦点およびフィードバックの影響が見られなかった。獲得の在・不在に焦点が当てられている促進焦点は, PosiProFBが与えられた時に制御適合が生じる一方, 損失の在・不在に焦点が当てられている防止焦点は, NegaProFBが与えられた時に制御適合が生じ, その結果, 動機づけ(次の課題への努力, 課題への興味)が高まるものと考えられる。
著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.263-273, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
21
被引用文献数
14 5

本研究では, 現代において男性社会にも広がっていると考えられる痩身願望の存在に注目し, 体型への損得意識を媒介に痩身願望が規定される心理的メカニズムのモデルを検討した。体型の損得意識においては, 自己肯定感のような自己の視点からみたメリット感と対人関係のように他者の視点からみたメリット感があるのではないかと仮定した。青年期男子224名を対象に質問紙調査を実施し, 体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と痩身願望との関連について検討した。現在の体型よりも痩せることが魅力的だとする男子学生131名について分析した結果, 「賞賛獲得欲求」「拒否回避欲求」「身体満足度」などが痩身願望と関連のあることが示された。これらの関連を検討したところ, 痩せれば自分に自信がもてるといった「自己視点からの痩身のメリット感」が痩身願望に直接影響し, それ以外の変数はこの「自己視点のメリット感」を媒介として痩身願望に影響することが明らかにされた。痩身願望に至るルートとして, 第1に自己顕示欲求から発する痩身願望, 第2に自己不満感や不安感から発する痩身願望, 第3に自分の意識する肥満度から発するルートが見出せた。
著者
櫻庭 隆浩 松井 豊 福富 護 成田 健一 上瀬 由美子 宇井 美代子 菊島 充子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.167-174, 2001
被引用文献数
4

本研究は,『援助交際』を現代女子青年の性的逸脱行動として捉え,その背景要因を明らかにするものである。『援助交際』は,「金品と引き換えに, 一連の性的行動を行うこと」と定義された。首都圏の女子高校生600人を無作為抽出し, 質問紙調査を行った。『援助交際』への態度 (経験・抵抗感) に基づいて, 回答者を3群 (経験群・弱抵抗群・強抵抗群) に分類した。各群の特徴の比較し,『援助交際』に対する態度を規定している要因について検討したところ, 次のような結果が得られた。1) 友人の『援助交際』経験を聞いたことのある回答者は,『援助交際』に対して, 寛容的な態度を取っていた。2)『援助交際』と非行には強い関連があった。3)『援助交際』経験者は, 他者からほめられたり, 他者より目立ちたいと思う傾向が強かった。本研究の結果より,『援助交際』を経験する者や,『援助交際』に対する抵抗感が弱い者の背景に, 従来, 性非行や性行動経験の早い者の背景として指摘されていた要因が, 共通して存在することが明らかとなった。さらに, 現代青年に特徴的とされる心性が,『援助交際』の態度に大きく関与し, 影響を与えていることが明らかとなった。
著者
市下 望 野田 哲朗
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.87-99, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
54
被引用文献数
5

本研究は,感謝の対象を人への感謝である対人的感謝によるものと,こと・ものへの感謝である非対人的感謝によるものに統制した上で,感謝の筆記と読み上げが,反すう,楽観性,悲観性,ストレス反応に及ぼす効果について検討したものである。小学5・6年生183名を対象とし,87名を対人的感謝群,96名を非対人的感謝群に割り付けた。研究協力者は,3週間にわたり,感謝対象と内容を記載し,読み上げる活動を行った。時期はpre,post,follow-upの3水準で変化を比較した。その結果,対人的感謝群においては,感謝と楽観性の有意な上昇が見られた。非対人的感謝群においては,感謝の有意な上昇とストレス反応の有意な低下が見られた。以上の結果を踏まえ,今後の課題について考察を行った。
著者
及川 智博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.48-66, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
30
被引用文献数
5

幼児は1人から2人,そして複数人のグループへと仲間関係を形成していく。しかし,時に幼児はそのプロセスで課題を抱え,“ひとりぼっちの幼児”となったり,それ以上は仲間関係が広がりにくい“親密すぎる二者関係”を形成したりすることがある。本研究は,そうした課題を抱えた仲間関係の変容を促す保育者の援助の実践知を検討した。保育者30名に対して“ひとりぼっちの幼児”と“親密すぎる二者関係”及びその両方が登場する3つの架空の事例を提示し,援助プロセスを尋ねる半構造化面接を行った。語りはグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析された。結果,6つの援助プロセスを伴う計16のカテゴリーが導出された。次に,各カテゴリーと援助プロセスを共通性に注目し統合することで,保育者の実践知に関する仮説モデルを生成した。この仮説モデルから,保育者は課題に直面した際,5段階の援助プロセスにより幼児たちの遊びを育てることで,仲間関係の変容を促そうとしていることが考えられた。最後に,従来のSSTに関する諸研究および実践記録・研究の知見と比較しつつ,仲間関係の援助に関する保育者の専門性について論じ,課題と展望を述べた。
著者
城 仁士 近藤 徳彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.418-423, 1995-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8
被引用文献数
1

This study was designed to estimate the effect of computer game on responses in the autonomic nervous system in children by using power spectral analysis of heart rate (HR) variability. We used two different games that contained a battled, excited game (S) and a relieved, mild game (M). The results obtained were as follows: 1) HR in S during game tended to be higher than tnat in M. An index of sympathetic nervous system (SNS) during game was higher than during recovery in S, but showed an opposite change in M. Therefore, S might induce stress response during game while M might do it after game. 2) HR during individual mode in S tended to be higher than during mode in playing against other player. 3) HR, SNS and an index of parasympathetic nervous system (PNS) at 10th min. after game were similar to rest-level in both games. 4) There was positive, significant correlation between level of game master and PNS (y=0.091x+4.111, r=0.765, p<0.05). The results suggested that the responses in the autonomic nervous system in children during game were influenced by the type of game and the level of master.
著者
西田 順一 大友 智
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.285-297, 2010 (Released:2012-03-07)
参考文献数
30
被引用文献数
10 2

運動・身体活動の実施により, 生理的・社会的恩恵と同様に心理的恩恵が得られることが示されている。本研究では, 学校教員の運動・身体活動実施程度および学校ストレス経験がメンタルヘルスにどの程度影響を及ぼすかどうかについて, 個人的特性を考慮した上で検討した。管理職を除いた常勤の小・中学校教員を対象にメンタルヘルス, 運動・身体活動, そしてストレス経験の質問紙調査を実施し, 255名の有効回答を分析対象とした。個人的特性の違いから分析した結果, 女性に比べ男性のメンタルヘルスが良好であることが示された。従って性差を考慮し, メンタルヘルスヘの影響を構造方程式モデリングにより分析した結果, 男女共に「運動・身体活動」は「生きがい度」に有意な正の影響を及ぼし、「ストレス]度に有意な負の影響を及ぼすことが示された。「運動・身体活動」は, 男性では「運動・スポーツ」が影響を及ぼしていたが, 女性ではこれに加え「時間の管理」が影響を及ぼしていた。また, 男女共に「ストレス経験」が「運動・身体活動」を介しメンタルヘルスに影響するという過程は示されず, 運動・身体活動の実施によるメンタルヘルスヘの直接的影響のみが示された。
著者
田中 瑛津子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.117-130, 2022-06-30 (Released:2022-07-12)
参考文献数
28
被引用文献数
2

理科教育において,学習内容と日常場面における現象との結びつきを認識させ,深い理解や興味を育むことは,重要な課題である。本研究では,中学生を対象とした実験授業において,授業冒頭で日常場面における発展的な問題を達成目標課題として提示し,講義後にその問題にグループで協同的に取り組ませることが,生徒の理解や興味に与える影響について検討した。日常場面の問題を取り扱うことの効果を検証するため,実験場面を題材とした問題を扱う「実験的問題群」と,問題の構造自体は同じだが問題の文脈を日常場面に当てはめた問題を扱う「日常的問題群」の2つの群を設定し,比較した。結果,「日常的問題群」の方が,問題提示後の一時的な興味や,授業後および1ヶ月後における日常関連型興味(理科の学習内容と身近な現象が関連づいていることに基づく興味)が高いことが示された。また,講義後および協同後のテスト正解率には群間差が見られなかったものの,「日常的問題群」においてのみ,協同的問題解決を通じて正解率に有意な伸びが見られた。
著者
星野 喜久三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.14-20,62, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

自然の美的場面を描写した短文にたいする意味の把握を通じて, 美的情操を発達的に跡附けることが本研究の目的である。その結果の要約と結論は次の通りである。1. 感情表現章において学年間の差は有意である。性差は有意でない。男女とも中IIIから高Iへ, 女子において高IIIから大学へ増加量が顕著である。表現のヴアライテイーは漸進的に豊富になってくるようであるが, 高I から高IIへの発達が著しいようである。女子は男子より表現の多様性に富んでいるらしい。2. 場面 (1)(牛が憩っている春の牧場),(7)(月の光に明るく照された夜の花園),(2)(急流をさかのぼる鯉, 青空に泳ぐ鯉のぼり),(5)(庭の片隅に咲いている小さな花) に表現量が多く, これらに各々含まれる“のどかな”,“美しい”,“勇しい”,“かわいらしい”の表現は他の表現より著しく多く出現する。これらの場面及び表現は低学年でもかなりの量をもち, その後の発達は急激なもの, 漸進的なもの, 恒常的なものに分れる。これにたいし, 場面 (4)(薄墨で書き流された竹の絵) の表現量は少く, とくに (10)(床の間におかれた相馬焼の陶器) の表現量は目立って少く, 両者の場面に含まれる“淡白な”,“素朴な”,“渋い”,“奥ゆかしい”,“おごそかな”,“高貴な”,“古風な”等の主に日本的美的感情の出現量は僅少であり, 発達的にかなりおくれて (高II, 高III) 出現する。3. 場面 (9)(コツプの水にさされた一輪の菊),(5),(6)(朝日を浴びて目を醒ました店先の人形) において女子が男子より多いようであるが, それらに各々含まれる“静かな”,“かわいらしい”,“にぎやかな”の表現が女子に多いようである。これらの表現は低学年でもかなり多く出現している。これにたいし,(13)(急傾斜を滑行するスキー),(2) のような場面では男子が女子よりも多く,(13) に含まれる爽快なは男子に圧倒的に多い。4.“恐しい”,“無気味な”等の否定的感情は学年が進むにつれて減少する。(3),(10),(12)(山奥の木立に囲まれた寺院) に多い。Hurlock (6) は, 青年期後期へ入ると十分な知的発達によつて抽象的なものの価値を見出すことができるようになり, ここに美的情操の発達をみるといつているが, 本研究のような, 文章表現に含まれる美的価値の意味を理解することでは, 児童期では極めて困難であり, 青年期へ入つてから, とくに中期, 後期における著しい上昇を伴って, 発達していくことが認められる。
著者
村石 幸正 豊田 秀樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.395-402, 1998-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
32
被引用文献数
1

古典的テストモデルを考慮に入れた遺伝因子分析により学力の因子構造を調べるため, 100組の一卵性双生児と25組の二卵性双生児と703人の一般児の標準学力テストのデータを分析した。この際, 豊田・村石 (1998) の方法を用い, 一般児のデータを因子の共分散構造を安定させるために利用した。遺伝的影響・共有環境・非共有環境は, それぞれ国語の学力の分散を0.0%, 64.5%, 2.9%, 社会の学力の分散を 52.3%, 17.0%, 4.7%, 数学の学力の分散を0.0%, 47.7%, 10.4%, 理科の学力の分散を56.1%, 0.0%, 13.3%説明しており, 教科によって学力の構造が大きく異なることが示された。また, 古典的テスト理論によるモデルの比較の結果, 同族モデルが最もよくデータの性質を説明しており, 信頼性係数を計算する際,τ等価測定を仮定するα係数の無批判的使用に疑問を呈した。
著者
千葉 堯
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.82-90,125, 1965-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
7

The purposes of this study were (a) to consider Jean Piaget's theory on conservation (especially conservation of liquid and weight), and (b) to analyse the role or meaning of nonconservation.Hypotheses: (1) Even if the child does not exhibit conservation in Piaget's classic experiments, we cannot say that he has no conservation.(If we admit, as Piaget, that the child cannot acquire conservation without logical multiplication or conceptual coordination, we must reject our hypothesis.)2) Because of perceptual and (other conditions inhibiting the child from exhibiting conservation, the child who has acquired conservation cannot exhibit conservation if conditions change.Procedure: Our Subjects were 71 primary school pupils (6-9 years old).1) Piaget's classic ex (periments of conservation2) Conservation of liquid by usin g screened beakers: Two standard _beakers are partly filled so that the child judges them to contain equal amounts of water.Another beaker which is hidden by a screen except for the top is introduced.The Experimenter pours from a standard beaker into the screened one.Then the child is asked which has more to drink, or do they have the same amount.(3) Quantification of liquid: Two beakers, A and B (A is wider than B) are partly filled, and two empty beakers (one is identical with B and the other is smaller than A and B in both height and width) are introduced.The child is asked,“Which has more to drink, A or B?”, and informed,“If you want to use these empty beakers, you may use them.”Results: (a) In comparison with the classic experiment, there is a striking increase in correct equality judgment in the screened experiment.(b) Without a concept of conservation, it is impossible for the child to quantify liquid.(c) The child justifies his correct judgment not by logical multiplication but by noting that “You only poured it” or “Its the same water.” (d) When the child acquires conservation and his concept of conservation is f ixed to some extent, he exhibits nonconservation.Judging from out results, we cannot explain result (a) and (d) by Piaget's theory.The child discovers essential causality by falling into nonconservation. In this way, he generalizes and develops his concept of conservation, and in this sense, the role of nonconservation is very important for the development of concept of conservation.
著者
西林 克彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.365-372, 1991-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
7

In order to examine affirmative and negative processes in the function of the complexity of the cognitive structure, in experiment I college students were presented place names on CRTs and were asked whether they had been to such places. In experiment II tasks identifying place names were added. Affirmative RTs were relatively constant with distant and close places. Negative RTs, however, were fast with distant places where the cognitive structure was hierarchically simple and slow with close places where the cognitive structure was complex. Results confirmed that fast negative responses with distant places were made by stopping further inspection when negative superordinates of the places were retrieved. Negative processes with near by places took time to search in comparison to peripheral places, because studied places had stored no information to negate with them.