著者
福士 元春 名郷 直樹
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.209-215, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
15
被引用文献数
1

要 旨目的 : 後期研修医から相談された事例を分析することで, 研修医が直面する臨床上の問題を分析・構造化し, ポートフォリオを用いた指導・評価のための方法論を模索する. 方法 : ポートフォリオ作成支援のための個別面談でのやりとりを音声記録したものをデータとし, Steps for Coding and Theorization (SCAT) を一部改変した方法にて質的分析を行った. 結果 : 研修医は<医療行使主義>と<医療虚無主義>の両極端の間に立たされ迷う場面に遭遇する. その両極端に悩みながら, <説得の儀式>や<希望つぶし>といった, どちらかの極端に誘導するための方法を用いる傾向がみられる. 結論 : ポートフォリオを介した研修医との面談から, 臨床現場で起きている問題構造の一端を明らかにできた可能性がある. 臨床上の決断の傾向を構造化することで, 臨床現場での指導に役立つ可能性が示唆された.
著者
堀 翔太 藤本 修平 杉田 翔 小林 資英 小向 佳奈子
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.100-109, 2018-09-20 (Released:2018-09-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1

目的:患者のヘルスリテラシーに関して,臨床場面で医療者が行う介入方法とその効果を明らかにすることである.方法:電子データベースから,患者のヘルスリテラシーに関するランダム化比較試験の論文を抽出し,PRISMA声明に従い,質的なシステマティックレビューによりその内容を評価した.結果:介入方法別にその効果をみると,「資料の配布のみ」では「ヘルスリテラシー」が,「資料の配布と医療者による説明」では「健康行動に対するアドヒアランス」が向上したとする論文が多く抽出された.また,「医療者から患者への一方向の介入」と「患者と医療者の双方に向けた介入」では,「ヘルスリテラシー」が向上したとする論文が多く抽出された.結論:資料の配布に加え医療者による説明を行うことで,個別性に配慮した情報提供を行える可能性や,医療者が患者の理解の程度を適宜確認することで,疾患の理解度や自己管理能力が向上する可能性が示された.
著者
小林 晃 畑 泰司 山本 浩文 鈴木 真紀 竹元 慎吾 宮上 寛之 太良 光利
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.86-90, 2017-06-20 (Released:2017-06-21)
参考文献数
10

目的:徳之島の医療施設で経験した14例の悪性貧血について臨床的および疫学的検討を行った.方法:平成21年3月より平成26年5月までに当院で悪性貧血と診断した14例を対象として,後方視的に検討した.結果:全例50歳以上で,高齢女性に多かった.14例のうち6例は特に症状はなかったが,定期検査で大球性貧血を認めたことが契機で,悪性貧血の診断に至った.この期間における当院の年間発症数は中央値3(95%confidence interval[CI]:1.25-3.42)であった.結論:徳之島での今回の我々の成績では,悪性貧血の10万人当たりの年間発症率が,本邦の従来の報告例に比し,大幅に高い可能性があることが判明した.その理由として,高い高齢化率,看過されやすい疾患であること,民族的ないし地域的特異性が関与している可能性を指摘した.悪性貧血の罹患率は従来の報告より高い可能性があり,貧血の鑑別診断として,悪性貧血を念頭に入れて診療を行う必要がある.
著者
平井 良
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.73-78, 2017-06-20 (Released:2017-06-21)
参考文献数
13

目的:我々が作成した患者チェックリスト/スコアリングシート/標準的治療レジメンを用いた,胸部X線写真で異常を認めない成人の遷延性/慢性咳嗽症例に対する診断・治療システムの有用性を検討すること.方法:胸部X線写真で異常を認めない成人の遷延性/慢性咳嗽症例120例に上記システムに基づく診断・治療を行い,うち再診による治療効果判定が可能であった83例について検討した.結果:患者の平均年齢48.4歳(21-74歳),男性33名,女性50名,うち49例(59.0%)が気管支喘息,咳喘息,アトピー咳嗽などの「アレルギー性咳嗽」症例と最終診断された.再診時に67例(80.7%)の患者が中等度以上の症状改善(著明改善49例,中等度改善18例)を示した.結論:遷延性/慢性咳嗽症例に対する本システムは有用であるかもしれず,さらなる臨床的検討が必要である.
著者
五十野 博基 足立 真穂 稲葉 崇
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.99-101, 2017-06-20 (Released:2017-06-21)
参考文献数
6

78歳女性が6ヶ月続く下痢を主訴に入院した.過去の検査から感染性腸炎や炎症性腸疾患,大腸腫瘍,甲状腺機能亢進症,副腎不全は否定的だった.かかりつけ医で8種類の内服薬を処方されており,前医下部消化管内視鏡検査(CF)で縦走潰瘍を認めたことからCollagenous colitis(CC)を疑った.ほぼ全ての薬剤を休薬したところ,13日後には下痢症状は消失した.CF再検査を本人が拒否されたため,CCの確定診断には至らなかった.退院後にプロトンポンプインヒビター(PPI)以外を再開しても症状の再発を認めないことから,PPIが原因と考えられた.PPIは,明確な適応が無いにも関わらず1年以上処方されていた.本症例から,第一に薬剤性のCCを疑った際には確定診断に至らずとも被疑薬を中止してみること,第二に薬剤有害事象の予防のため,日々薬剤の処方理由を再確認し,不適切処方を減らすことが重要であると考えられる.

3 0 0 0 OA 頭痛

著者
稲福 徹也
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.43-46, 2013 (Released:2013-05-02)
参考文献数
6

要 旨 頭痛診療において初めて経験する頭痛については, 生命に危険が及ぶくも膜下出血と細菌性髄膜炎を見逃さず適切なタイミングで専門医へ紹介することが大事である. 一方同じような頭痛を繰り返す慢性頭痛については, 日常生活に支障をきたす片頭痛をきちんと診断して適切にマネージメントすることが大事である. いずれの場合も頭痛の診断には病歴聴取が最も重要であることは言うまでもない.
著者
木佐 健悟 川畑 秀伸 前沢 政次
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.37-44, 2011 (Released:2015-11-25)
参考文献数
34
被引用文献数
4 4

目的 : 日本国内で診察時間を扱った研究がどのような報告をしているかを明らかにするために文献の検討を行った. 方法 : 医学中央雑誌, CiNii, JMEDPlus, Google Scholar, MEDLINEを用いて, 日本国内で具体的に診察時間を測定している研究の論文を抽出し, 診察時間・診療時間に関する記述をまとめた. 結果 : 26の文献が該当した. この中で診察時間を研究の中心のテーマとしたものは6件のみで, 7件は待ち時間が主な調査項目で外来診察時間は副次的な調査項目であった. 電子カルテ導入や医療秘書導入など外来診療へ何らかの介入をした際の影響を評価する一指標として診察時間を使用した研究があった. 適切な診察時間について考察していたのは3件であった. 2件が患者満足度をアウトカムに用いていた. 診察時間の定義は研究によって異なっていた. 結果 : 患者アウトカムを調査した研究は少なかった. 今後, 診察時間の定義を明確にした上で, 測定された診察時間と患者アウトカムを関連づけた研究が必要である.
著者
渡邊 法男 山田 卓也 吉田 知佳子 細川 佐智子 中川 千草 安村 幹央 山村 恵子
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.40-42, 2016 (Released:2016-03-25)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

症例は40代男性, 原発不明がん, 肺転移, 脊椎転移 (T5-6) . モルヒネ硫酸塩徐放錠, ナブメトン錠, アミトリプチリン塩酸塩錠で疼痛治療中に, 腫瘍の進展に伴う脊髄圧迫部位以下の麻痺が完成し, 同時期から, 高度の腹部膨満感, 便秘を認めた. 各種腸管蠕動亢進薬を使用したが症状は改善しなかった. そこで, モチリン受容体アゴニストとして, 自律神経系の麻痺による消化管運動障害改善効果が報告されているエリスロマイシン点滴静注 (1回500mg, 3回/日) を開始したところ, 症状が著明に改善した. その後, エリスロマイシン錠 (1回200mg, 3回/日) へ変更し, 良好な排便コントロールを得ることができた. エリスロマイシンは, 各種腸管蠕動亢進薬が無効な腫瘍の脊髄圧迫など麻痺性の消化管運動障害による便秘に対し有用な治療薬の一つであると考える.
著者
竹久 和志 本田 真也 日比 隆太郎 杉丸 毅 樋口 智也 松井 智子 井上 真智子 大磯 義一郎
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.2-11, 2023-03-20 (Released:2023-03-24)
参考文献数
30

目的:患者は医療機関選択の際にインターネット上の情報を参考にしている.本研究ではGoogleレビュー上の医療機関に対する評価内容を分析した.方法:静岡県の医療機関のGoogleレビューの評点とクチコミを用いた.クチコミはあらかじめ設定した12の評価項目でコード化した上で,ポジティブ,ネガティブ,分類不能,記述なしに分類し,修正ポアソン回帰分析で評点との関連を分析した.結果:対象の医療機関は2,044施設,クチコミ数は13,769件であった.「医師の応対」に触れたクチコミが最も多く(5,035件),ポジティブなクチコミは高評価(偏回帰係数:0.76,95%信頼区間:0.70~0.82)と,ネガティブなクチコミは低評価(-4.65,-5.24~-4.06)と有意な関連があった.結論:Googleレビューにおいては,医師の応対に関するクチコミが評点に影響を与えていた.
著者
宮本 侑達 富田 詩織 山田 宇以 若林 英樹
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.25-28, 2023-03-20 (Released:2023-03-24)
参考文献数
7

家族志向のケアは総合診療医にとって重要な能力であるが,現状の専門教育の中では実践経験が少なくなりがちであり,自信を持てない総合診療医も多い.そこで我々はオンライン・コミニュティとして総合診療医向けに家族志向のケアを体系的に学ぶ組織を設立し運営している.課題も存在するが,学びのリソースが少ない分野においての貴重な学習ツールとなっている.我々の活動はSNSを利用した学習の今後の可能性を示唆している.
著者
川井 巧 後藤 あや 渡辺 英子 長澤 真知子 金成 由美子 安村 誠司
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.209-214, 2011 (Released:2015-05-30)
参考文献数
12

【目的】定期予防接種の接種未完了率とその関連要因を明らかにする. 【方法】2008年4月から2009年3月に福島市の1歳6か月児健康診査を受診した児を対象とした調査で作成したデータベースの二次分析を行った. BCGワクチン, 三種混合ワクチン, MRワクチン, ポリオワクチンの4種の接種について, 大幅な情報欠損, 早産・低出生体重児, 入院・予防接種歴不明の児を除外した1622人を対象とした. 【結果】4種全ての定期接種完了率は79.3%であった. 多変量解析では, 同居している子供が1人以上, 保育所通所あり, 両親の喫煙あり, 4か月児健康診査時点での母乳栄養なしの4項目で定期接種完了児が有意に少なかった. また感染症入院のリスク要因保持数が多いと定期接種完了率は有意に低下していた. 【結論】保育所通所, 第二子以降の場合には, より積極的に予防接種についての啓発が必要である. さらに, 喫煙や母乳育児についての生活習慣も含め包括的に子育て支援を行うことが重要である.
著者
今永 光彦 外山 哲也
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.169-175, 2018-12-20 (Released:2018-12-27)
参考文献数
14
被引用文献数
1 3

目的:在宅医療における死因としての老衰の診断に関して調査を行う.方法:全国在宅療養支援診療所連絡会全会員908名を対象として郵送質問紙調査を行った.結果:有効回答数535名(回収率58.9%).死亡診断書に老衰と記載したことがあったのは501名(93.6%).“老衰と診断するにあたり重視している”と回答した割合は「継続的な診療を行っている」79.2%,「ADLや経口摂取量の低下が緩徐である」93.0%,「他に致死的な病気の診断がついていない」88.2%であった.“老衰と診断する際に影響する”との回答が多い項目は,「患者の家族の理解や考え」,「医学的に他疾患を除外できているか」,「老衰と診断することによる患者のQOLへの寄与」であった.結論:在宅医は,医学的側面以外の影響をうけながら,継続的な診療,緩徐な状態低下,他に致死的な病気の診断がないことを重視して老衰の診断を行っていた.
著者
青木 弘枝 星野 奈生子 神田 明日香 崔 乘奎 手柴 富美 中村 光一 名和 宏樹 西城 卓也 今福 輪太郎
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.198-204, 2016 (Released:2016-12-26)
参考文献数
11

目的:本研究は,男女医学生がどのようなキャリア認識を有しているのかを検証した.方法:男女医学生16名に半構造化インタビューを実施し,データ分析はグラウンデッド・セオリーの分析手法に従った.結果:男女医学生が有する「ジェンダー観」,「興味・関心」「家庭観」の概念が,両者のキャリア認識形成に影響した.キャリア選択において,男子医学生は医学への興味・関心を一貫して優先し,医師職に従事することで家庭を支えると認識した.女子医学生は,低学年では「興味・関心」と「家庭観」との両立で葛藤しキャリア選択を決めかねる傾向にあったが,高学年では「家庭観」を重視する者と「興味・関心」を優先する者とに分かれた.考察:本研究で明らかになった男女医学生のキャリア認識は,男女共同参画社会の意義を理解する卒前教育の必要性を支持するものである.
著者
髙田 大輔 松田 ひとみ
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.5-10, 2013 (Released:2013-05-02)
参考文献数
16
被引用文献数
5 4

要 旨目的 : 楽しい会話と音読による情動反応に着目し, 自律神経系に与える影響を比較検討し, 高齢者に対する会話交流の価値とケアとしての有用性を見出すことを目的とした. 方法 : 65歳以上の高齢者12人を対象とし, (1) 楽しい会話, (2) 音読, (3) 黙読の3つの課題を用いた. 各課題の単独の作用を導き出すために, 1日1課題を実施した. 1つの課題の所要時間として, 実施前の安静を10分, 課題5分, 実施後の安静5分の計20分間とした. 心拍変動パワースペクトル解析を用いて自律神経系の変化を調べた. 結果 : 5分間の「楽しい会話」は, 自律神経系への強い刺激となり, 実施中には交感神経の活動が増加し, 実施後に減少するという先行研究の「笑い」と同様の変化がみられた. この過程において, 実施後には相反して副交感神経の活動が有意に増加し, 「音読」とは異なる影響がみられた. この副交感神経の変化は対象者の心の充足感やリラクゼーションの効果の影響であることが考えられた. 結論 : 「楽しい会話」の導入は「音読」と比較し, 短時間の介入でも自律神経系の働きを活性化し, 終了後に心の充足感やリラックス感が得られるとともに副交感神経の活動が増加する効果が明らかとなった. この短時間の介入によりもたらされる情動の変化は, 臨床の現場でも用いることができると考えられ, 「楽しい会話」はケアとして導入可能であることが示唆された.