著者
石川 芳治 山田 孝 川下 茂樹 松本 俊雄 高橋 努 緒続 英章
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
日本火山学会講演予稿集
巻号頁・発行日
vol.1993, no.2, 1993-10-04

火砕流の運動・堆積機構を力学的に明らかにするうえで、新しい火砕流堆積物の堆積構造並びにその物性を把握することは極めて重要となる。本調査では、1991年6月8日に雲仙普賢岳で発生した規模の大きな火砕流(堆積土砂量約350万m^3)の堆積先端部付近(国道57号直上流)において、調査トレンチを4箇所掘削し、堆積物の構造、層序、構成材料、マトリックスの粒径分布などを調べた。調査区域での火砕流本体部の堆積物の厚さは2.5&acd;3.5m程度であり、20cm&acd;1m大の安山岩の本質岩塊を含み、大礫が堆積物の表面に集積するという、逆級化構造(inverse grading)も認められる。このような堆積実態から土石流において巨礫が流れの表面に集積する現象と同じように、溶岩ドーム崩落型の比較的粗い本質岩塊を構成材料とする火砕流本体部内においても、本質岩塊同士の非弾性衝突による分散応力の効果や動的篩の効果によって、大きな粒子ほど浮上しやすくなる条件が存在するものと思われる。雲仙普賢岳で発生している火砕流の流れの状況を夜間に撮影したVTR画像からも、灼熱の本質岩塊がお互いに激しく衝突し、破砕されながらも、さらにまた衝突を繰り返している様子がよく分かる。また、火砕流本体部の下位に従来、ground-surge deposits^<1〕>と呼ばれてきたサージ堆積物が認められる場合がある。但し、この堆積物の流れ方向の分布は連続的ではなく、部分的である。このような堆積実態から火砕流の流れのモデルとしては、本体部と熱風部の境界層付近には、本体部表面と周辺の空気との剪断に起因した乱れならびに本体部から発砲されるガスの上昇によって、浮遊させられた^<2〕>細粒の火砕物が、熱風部への移行層としてのサージ状の高速流れを形成しており、緩勾配区間で本体部が減速しても、サージはそれ程減速せず本体部に先行して流下・堆積し、その後、本体部が流下するにしたがってその堆積物を埋没したものと考えられる。火砕流本体部のマトリックスは2mm以上の細砂&acd;中砂が主体であり、中央粒径は0.8&acd;2mm程度で噴煙柱崩壊型の火砕流のそれよりも粗い。空隙率は40.7%であり、一般の砂質土とほぼ同じような締まり具合を呈している。今後、火山活動が終息し、上流・中流での現地調査が可能となった時点で、流れの縦・横断方向に複数箇所、調査トレンチを掘削し、詳細な堆積構造の観察や構成材料の土質的な特性の変化(特に、流下方向の本質岩塊の粒径の変化ならびにマトリックスの粒径変化など)を明らかにすることが火砕流の運動・堆積過程を統一的に表現できる力学モデルを作成するうえで重要となる。