著者
村岡 裕由 野田 響 廣田 湖美 小泉 博
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.345-355, 2007-11-30 (Released:2016-09-16)
参考文献数
41
被引用文献数
2

植物の生理生態学が取り組んできた主要な課題の一つは、光合成に必要な資源の獲得と利用を司る形態的機能、および生理的機能と生育環境との関係を明らかにすることである。様々な種について、与えられた生育環境におけるこれらの機能の効率性や変動環境に対する可塑性に着目して研究することにより、個体の成長と物理的環境との関係を作るメカニズム、個体群や群落の中での個体の振る舞いとその適応的意義、さらに群落の維持・更新過程のメカニズムなど、個体から群落、生態系に至るまで、様々なスケールでの生態現象の解明が進められてきた。植物生理生態学の視点は、大気中の二酸化炭素(CO_2)濃度の上昇や温暖化などの環境変動が生態系に及ぼす影響、または生態系の反応の理解においても重要な役割を果たす。生態系の炭素シーケストレーション機能は、その生態系を特徴付ける植物の生理生態的特性に依存するため、CO_2フラックス観測結果の解析や炭素収支のモデルシミュレーション解析における植物生理生態学的視点と知見の貢献は大きい。また、数十m四方から流域、地域、地球スケールでの生態系観測に有効なツールであるリモートセンシングの解析精度の向上には、葉群をなす個葉の生理的特性に加えて樹形や葉群構造への着目が大きく寄与することが新たにわかってきた。本稿では、筆者らが取り組んできた研究を紹介しながら、植物の光合成生産に関わる生理生態学的特性が個体から生態系スケールでの生態現象に果たす役割について考えてみる。
著者
波多野 肇 増沢 武弘
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.199-204, 2008
参考文献数
15

蛇紋岩の分布する地域には、蛇紋岩植物と呼ばれる特異な植物からなる群落が成立する。本研究は北アルプス、白馬岳の高山帯の蛇紋岩地において、蛇紋岩地の特異な植生の成立要因を明らかにすることを目的とし、植物の分布調査及び土壌環境調査を行った.分布調査の結果、白馬岳の蛇紋岩地においても一般的に知られているミヤマムラサキやウメハタザオといった蛇紋岩地特有の種の生育が確認された。土壌環境調査の結果、蛇紋岩地の土壌は高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率を有することが明らかになった。本調査より、蛇紋岩土壌の高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率が、白馬岳の蛇紋岩地の特異な植生の成立要因となっている可能性が示された。
著者
渡邊 定元
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.105-110, 2005-04-25
被引用文献数
2

On Mt. Apoi, an ultrabasicosaxicolous flora with probably the greatest proportion of endemic species in the world has developed. Moreover, the flora has not been subject to succession to forest over the last 10,000 postglacial years. In the past 50 years, however, the flora of Mt. Apoi has experienced rapid deterioration and decline, mainly because of human activity-namely the illegal gathering of plant specimens-and succession to Pinus pentaphylla forest, with dramatic encroachment on beds of alpine flora. The former phenomenon has been conspicuous in Japan since 1970, when popular enthusiasm for mountain herbs began to grow. Organized illegal gathering as an occupation subsequently became pronounced, and Callianthemum miyabeanum, and other populations have declined sharply. The succession has predominantly involved invasion of ultrabasicosaxicolous flower beds on the southern slopes, primarily by Arundinella hirta, Calamagrostis sachalinensis, and Miscanthus sinensis. These have paced the continued existence of these flower beds in extreme jeopardy, and have acted as a precursor to the succession to Pinus forest. Nucifraga caryocatactes japonica bury Pinus seeds in these flower beds, facilitating sprouting. Pinus individuals reach heights of about 2.5 m within 15 years, during which time invasion by Lespedeza bicolor var. nana and Sasa apoiensis accelerates succession to forest. Global warming is certainly hastening the pace of this change. The disappearance of the flower beds is no doubt causing the loss of plants such as the endemic Hypochoeris crepidioides, which is found only on Mt. Apoi. It can be concluded that the ultrabasic area has already entered the final stages of forest succession.
著者
光田 準 増沢 武弘
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.91-97, 2005-04-25
被引用文献数
2

Mt. Apoi in Hokkaido is a massif in which olivine is the bedrock. There are many endemic plant species on this mountain, and alpine plants grow at a comparatively low altitude of 810 m. For these reasons, the characteristic soil environment is of considerable interest. In this study, metal ion exchange in the soil environment and plant distribution were investigated. The results showed that the environment has a high nickel and magnesium concentration and a low calcium concentration in areas where characteristic plant species are distributed, alpine plants growing mainly in olivine soil.
著者
増沢 武弘 光田 準 田中 正人 名取 俊樹 渡邊 定元
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.85-89, 2005-04-25
被引用文献数
3

Mt. Apoi (810 m above sea level, N 42°07', E 143°02') is located in the southern part of the Hidaka mountain range. Many alpine plants are distributed along the ridge, despite its relatively low altitude. From a botanical viewpoint, this mountain has a number of special and interesting features due to the abundance of endemic plants. The following factors may contribute to the growth of alpine, endemic and relic plants at low altitude : (1) Reduction of solar radiation as well as air temperature by fog in the summer. (2) The bedrock of Mt. Apoi is ultrabasic rock (olivine). The physical and chemical characteristics of this soil and rock environment are unfavorable for plant growth, and are the cause of the abundance of endemic plants on Mt. Apoi (Watanabe 1970, 1971). The alpine meadow plant community of this area has been altering as a result of invasion of woody plants over the last 40-50 years (Watanabe 2001). In the present study, we investigated the process of invasion of Pinus pumila and Pinus parviflora var. pentaphylla (a pioneer woody plant) in this alpine meadow by measurement of tree age. The special soil environment (ultrabasic rock) in the investigated area has helped to maintain the special alpine meadow on Mt. Apoi. The delicate relationship between the soil environment and alpine plant growth will be affected by global warming and/or acid rain, resulting in a rapid decline in the distribution area of the alpine meadow.
著者
山川 博美 伊藤 哲 中尾 登志雄
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.219-228, 2013
参考文献数
39
被引用文献数
3

伐採後の森林再生に及ぼす散布種子(伐採後に新たに散布される種子)の効果を明らかにするため、照葉樹二次林に隣接する伐採地において、伐採直後から6年間の種子の散布範囲および種子数をシードトラップによって調査した。伐採地へ散布された種子数は、隣接する照葉樹二次林およびスギ人工林と比較して明らかに少なかった。種子散布様式で比較すると、風散布型種子は伐採地に限らず隣接する照葉樹二次林およびスギ人工林でも少なかった。伐採地において重力散布型種子は林縁でのみで散布され、林縁から10m以上離れた地点ではほとんど散布されていなかった。被食散布型の種子は伐採地での散布が確認されたが、照葉樹林の林冠を構成する高木性木本種は少なく、多くは低木性木本種で、その6割以上をヒサカキおよびイヌビワの2種で占めていた。しかしながら、伐採地において、被食散布型の種子は伐採からの時間経過に伴って、散布される種子数および種数が増加する傾向がみられた。さらに、種子の散布範囲も伐採から3年目程度までは林縁から15m付近までの木本種が多かったが、伐採5年目以降は林縁から35m地点まで種子が散布されるようになり、種子の散布範囲が広がっていた。以上の結果から、暖温帯における散布種子による更新は、風散布型木本種がほとんどなく、重力散布型および被食散布型の木本種が主となる。そのなかで、伐採後の森林の再生を短期的な視点で捉えると、重力散布種子の散布は林縁周辺に限定され、被食散布型種子も伐採直後に伐採地内に散布される種子数は少ないことから、散布種子による更新は非常に難しいと考えられる。しかしながら、長期的な視点で捉えると、伐採からの時間経過とともに伐採地への散布種子数および種数の増加していることから、被食散布型種子による更新が可能となるかもしれない。ただし、本研究は母樹源となる照葉樹林が隣接する伐採地であることを考慮すると、特に辺り一面に人工林が卓越するような森林景観では、過度な期待は避け方が無難であろう。また、伐採後の更新において萌芽などの前生樹のみの更新では更新する樹木が伐採前の前生樹の分布や萌芽力に依存し種組成が単純化する恐れがあるため、伐採後に散布される種子は、長い時間スケールのなかで多様性を高めるための材料として重要であると考えられる。
著者
村上 拓彦 望月 翔太
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.233-242, 2014-11

リモートセンシングによる植生マッピングについて、リモセンデータの選択、ピクセルベースとオブジェクトベース、新しい画像分類手法の順番で論じた。リモセンデータとして、地球観測衛星、航空機搭載型センサ、UAVに言及した。地球観測衛星は空間分解能別に各種衛星・センサを紹介した。画像分類の最小単位としてピクセルベース、オブジェクトベースにふれた。高分解能衛星データの登場後、オブジェクトベースでの植生マッピングの機会が多くなっている。新しい画像分類手法として機械学習に着目し、人工ニューラルネットワーク、決定木、サポート・ベクタ・マシン、集団学習について解説した。その他、ハイパースペクトル、多時期データ、スペクトル情報以外の情報を用いた植生マッピングについても事例を紹介した。今後はリモートセンシングの単なる可能性を示すだけでなく、植生に関連する主題図という高次プロダクトを確実に提供できる体制を整える必要もある。
著者
正木 隆 柴田 銃江
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.359-369, 2005-08-31
被引用文献数
5

日本で例外的に広域または長期におこなわれてきた森林研究の成果のうち、いくつかを紹介した。第一に、北上山地でミズナラの種子落下を23年間(1980-2002年)調査した研究では、際立った豊作(健全種子100個/m^2以上)が1987年と1996年に見られ、そのほかの年では30個/m^2以下の低値安定であった。種子生産の豊凶を示す変動係数(CV)は20年以上の観測をおこなわないと安定した値が得られないことが示された。第二に、東北地方の国有林の約150の森林事務所(範囲は200×500 km)でブナの結実状況の視認が1989年以来継続してきている。2000年までの12年間に、観測点の8割以上で並作以上だったのは1995年と2000年の2回のみであった。それ以外の年では、東北地方の一部でのみ結実するか、またはほとんど結実がみられなかった。結実が同調しているスケールは60-190 kmと判断されたが、これは広域調査をおこなったからこそ把握できた知見である。一方、ブナの花芽形成のトリガーの検出には、林分単位で気象条件をモニタリングする必要のあることが示唆された。これらのブナやミズナラの長期・広域での結実モニタリングから、それを餌とする野生生物の保全管理に有益な情報が提供されることが期待される。第三に、スギ人工林(明治41年植栽)を間伐した試験地で、昭和28年(45年生)から平成14年(94年生)までのモニタリング結果に基づいて、スギの成長を個体ベースで解析した。どの林齢でもスギの直径成長は周辺の自己より大きいスギの胸高断面積合計から負の影響を受けていた。また、45年生時点での各個体のモデル予測値と実測値の差分を計算し、それをモデルの説明変数として加えたところ、それ以降の林齢でモデルの決定係数が0.1-0.2ほど改善された。これは、森林動態予測モデルの開発や、長伐期経営における個体管理技術に貢献する成果である。一方、天然林動態の長期観測研究は開始されてからまだ約10年で、群集動態のメカニズムの解明には至っておらず、さらなる長期観測が重要であると考えられた。林業を産業として再生することなしに、長期・広域観測による森林の科学的研究を深化させることは困難であることを論じた。
著者
正木 進三
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, 1997-04-25
著者
川口 幹子 荒木 静也
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.147-154, 2016

:国境離島である対馬は、大陸の影響を色濃く受けた極めて独特な生態系を有している。島の9 割を占める山林は、その大部分が二次林であり、炭焼きや焼き畑といった人々の暮らしによって形成された里山環境が広がっている。一方で、信仰の力によって開発から守られてきた原生林も存在している。しかし対馬では、急速な過疎高齢化によって里山の劣化が進み、原生林においても獣害や悪質な生物採取により貴重な動植物の生息環境が破壊されている。里山を象徴する生物であるツシマヤマネコも年々数を減らし、絶滅危惧種IA 類に指定されている。そのような背景があって、対馬では、原生的な自然と里山環境とを同時に保全するための仕組みづくりが喫緊の課題であった。市民レベルでは、野焼きの復活や環境配慮型農業の導入など、ツシマヤマネコの保全を銘打ったさまざまな活動が行われている。しかし、これらの活動が継続されるためには、制度的な仕掛けが必要である。ユネスコエコパークの枠組みは、原生的な自然と里山環境とを、エコツーリズムや教育、あるいは経済的な仕組みによって保全する一助となるものであり、まさにこの目的に合致するものだった。本稿では、対馬の自然の特徴を整理したうえで、その保全活動の促進や継続に関してユネスコエコパークが果たす役割について考察したい。
著者
清水 健太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.28-43, 2006-04-25 (Released:2016-09-06)
参考文献数
72
被引用文献数
8

DNAの遺伝情報を生態学研究に活用する分野として、分子生態学が発展してきた。しかしながら、これまで使われたDNA情報としては、親子判定や系統解析のためのマーカーとしての利用が主であり、遺伝子機能の解明は焦点になっていなかった。ゲノム学の発展により、これまで生態学や進化学の中心命題の1つであった適応進化を、遺伝子機能の視点で研究しようという分野が形成されつつある。これを進化生態機能ゲノム学Evolutionary and ecological functional genomics、または短縮して進化ゲノム学Evolutionary genomicsと呼ぶ。進化ゲノム学は、生態学的表現型を司る遺伝子を単離し、DNA配列の個体間の変異を解析することにより、その遺伝子に働いた自然選択を研究する。これにより、野外で研究を行う生態学・進化学と、実験室の分子遺伝学・生化学を統合して、総合的な視点で生物の適応が調べられるようになった。本稿では、モデル植物シロイヌナズナArabidopsis thalianaの自殖性の適応進化、開花時期の地理的クライン、病原抵抗性と適応度のトレードオフなどの例を中心に、進化ゲノム学の発展と展望について述べる。
著者
濱田 信夫 宮脇 博巳
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.49-60, 1998
参考文献数
80
被引用文献数
1

Far more studies on lichens as bioindicators of air pollution have been done in Europe and North America than in Japan. It is therefore necessary to grasp the background of European scicnce in this field in order to perform these difficult studies. Such studies shoud help to clarify the comprehensive influence of many air pollutants on lichens, and recent changes in the environmental situation. Remarkable studies carried out in Europe over the last 30 years, and recent reports, including those on acid rain, are reviewed. The authors discuss how to actually perform studies of lichens in Japan, based on their investigations in and around Osaka City.
著者
入江 貴博
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.169-181, 2010-07-31

温室効果ガスに起因する地球温暖化への懸念を背景として、欧米では外温生物の温度適応に関する研究集会が近年頻繁に開催されている。決定成長の生活史を伴う分類群を対象とした研究者の間では、低い温度環境で育った外温動物が長い発育期間を経て、より大きな体サイズで成熟するという反応基準の適応的意義が古くから議論の対象となってきた。この温度反応基準は、分類群の壁を越えて広く観察されることから「温度-サイズ則」と呼ばれている。温度-サイズ則が制約の産物であって、自然淘汰の産物ではないのだという可能性は、主に昆虫を対象とした実証研究によって繰り返し否定されてきた。その一方で、この普遍的な反応基準を進化的に支える適応的意義を説明する数多くの(相互に背反しない)仮説が提唱されている。この数年で温度-サイズ則の適応的意義を説明するための理論的基礎は整いつつあり、現在はそれらの妥当性を検証するための実証研究に対する需要が高まっている。しかしながら、多くの仮説は生活史進化の分野で理論研究の一翼を担ってきた最適性モデルに基づくものであり、数式を用いた表現に慣れていない者にとっては、その論理を直感的に理解することが容易でない。従って、本稿ではまず生活史形質の温度反応基準に関する過去の研究を幅広く紹介することで、この分野での基礎となる考え方を紹介する。次に、温度-サイズ則の適応的意義を説明するために提唱されている代表的な仮説をいくつか取り上げ、可能な限りわかりやすく解説する。最後に、この問題を解決するために今後取り組まれるべき課題を述べる。
著者
高倉 耕一 松本 崇 西田 佐知子 西田 隆義
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.255-265, 2012-07-30
被引用文献数
1

種間に生じる繁殖干渉が生態学的に重要である理由は、この相互作用が種間の排除を最も強力にもたらすためである。一方で、外来生物による在来種の排除には多くの例が知られているにもかかわらず、外来種による繁殖干渉についてはほとんど研究例がなかった。西日本固有種で主に都市部での減少が注目されるカンサイタンポポを材料とした一連の研究により、野外において近縁外来種セイヨウタンポポの比率が高いほど在来種の結実率が低下すること、その直接的な要因が外来種からの種間送粉であること、その範囲が数メートルの規模におよぶこと、などが明らかになってきた。タンポポ類におけるこれらの研究は、繁殖干渉が、外来種が在来生態系に影響を及ぼす際の重要なメカニズムであることを示す一つのケーススタディになりつつある。本研究ではカンサイタンポポ個体群が衰退した要因としての繁殖干渉の重要性を更に検討するため、個体ベースのシミュレーションモデルを構築した。モデルには、既存研究で明らかにされた繁殖干渉に関わるパラメータに加え、野外において死亡率など両種の個体群動態に関わるパラメータを測定して用いた。シミュレーション解析の結果より、野外で観測される繁殖干渉の強度は1世紀程度の時間で在来種を衰退させるのに十分であること、その効果は人為的な撹乱がもたらす死亡率の増加によって増強されることなど、カンサイタンポポについて観測されてきたパターンと整合性が高いことが確かめられた。また、複数の外来種管理プログラムについて在来種個体群存続に及ぼす効果を検証し、より低コストで効果的な在来種保全手法についての提言を行った。これらの成果は、繁殖干渉の研究が在来種の衰退要因を理解する上で重要であるだけでなく、その保全においてもコストパフォーマンスに優れた対策の選択に貢献することを示している。
著者
高田 壮則
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.69-80, 2013-03-30
被引用文献数
4

炭素収支に関わる費用および利得を計算することによって、個葉の寿命の多様性について説明しようとする考え方が 1980 年代に広く唱導された。ほぼ同時代に数理生物学の分野では、「最適戦略理論」にもとづく数理モデルが数多く提唱されていた。それらの潮流の中で展開された理論的研究では、葉寿命を戦略とし、何らかの量を目的関数とした時、目的関数を最大とする最適葉寿命を求めるという最適戦略理論の枠組みを用いている。1980年代後半から登場した三つの数理モデル(「落葉樹モデル」、「光合成効率モデル」、「温度依存モデル」)は、いずれも葉一枚を光合成工場として考え、「適当」な展葉時期と落葉時期を求めようとするものである。初期に開発された「落葉樹モデル」は、落葉性樹種の展葉・落葉時期に着目し、葉の老化が初夏の春植物の登場を促す要因の一つであることを示したが、一年のなかの季節変化だけを考慮し、常緑性も含めた一般の葉寿命をカバーしたモデルではないという欠点があった。また、葉の構成コストは考慮されていなかった。それらの欠点をカバーするために登場した「光合成効率モデル」は、葉寿命が光合成速度や構成コストにどのように依存しているか、なぜ常緑性樹種が熱帯域と寒帯域の二峰性をもつかを理論的に示すことに成功したが、「落葉樹モデル」とは異なる目的関数(光合成効率)を用いているために、以前のモデルで得られた結果との比較が難しいモデルであった。その後開発された「温度依存モデル」は光合成速度の気温依存性に着目し、世界の各地域における最適葉寿命を求めているが、これも他のモデルの結果との比較に耐えうるモデルではなかった。 これらの異なる仮定および目的のもとで構築されたモデル群を俯瞰すると、いくつかの疑問が生じる。これらのモデルを統合したモデルによって、今まで得られた結果をすべて示すことはできないのだろうか。そのために設定される統一された目的関数はどのようなものであろうか。統一された目的関数によって得られた落葉性の解は、「落葉樹モデル」のそれと一致するのであろうか。ここでは、これらの数理モデル開発の歴史を詳説するとともに、理論的アプローチの整合性という視点から、それらの理論的試みが内包する問題点について明らかにした。
著者
立原 一憲 四宮 明彦 木村 清朗 今井 貞彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.159-167, 1988-08-31

Observations on the development of aggressive behavior of Japanese perch, Coreoperca kawamebari, were made over a 1-year period. Newly hatched larvae aggregated at the water surface and showed no aggressive behavior. Several days after yolk sac absorption, larvae dispersed from the water surface to the substrate and began to feed and fight. Chasing and lateral displays as seen in adult fish were firstly observed at this time, and a dominance hierarchy was evident at 50 days after hatching. Dominant individuals formed their territories after 50 days and gradually enlarged them as body size increased. The behavioral ontogeny of this fish is divisible into four phases, i. e. aggregation, dispersion, developing of aggressive behavior and territorial phases, and these correspond with four different stages of growth, namely prelarva, postlarva, juvenile and young stages, respectively.
著者
鈴木 和次郎 中野 陽介 酒井 暁子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.135-146, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2

要旨: 福島県の西端に位置する只見町は、日本有数の豪雪地帯で一年のうち半年は雪の中にある。約74,000 ha の広大な面積の90%以上を山林原野が占め、人口はわずか4,600 人程である。第二次世界大戦後の只見川電源開発による巨大な田子倉ダムと水力発電所を持つが、特筆される産業はなく、過疎・高齢化が地域社会の衰退に拍車をかけている。そうした中で、只見町は平成の広域合併を選択せず、独自の町づくりに着手した。その指針として町民参加によって「第六次只見町振興計画」が策定され、活動のスローガンとして「自然首都・只見」宣言が採択された。それは、これまで地域振興の大きな障害と考えられてきた豪雪とブナ林に代表される自然環境を、受け入れてさらに価値を見出し、それらに育まれてきた伝統的な生活・文化・産業を守ることによって地域の発展を目指すとの内容である。只見町は、これを具体化する包括的な手段として、ユネスコMAB 計画における生物圏保存地域(Biosphere Reserve, 国内呼称:ユネスコエコパーク)を目指すことを戦略的に選択した。ユネスコエコパークでは、原生的な自然環境と生物多様性を保護しつつ、それらから得られる資源を持続可能な形で利活用し、もって地域の社会経済的な発展を目指す。只見町では、歴史的に見ると、焼畑を中心に、狩猟、採取、漁労、林業などの複合的な生業によって地域社会が成り立ってきた。こうした自然に依存した生活形態は、現在でもなお色濃くこの地域社会を特徴付けている。只見ユネスコエコパークでは、こうした伝統的な生活や地場産業を大切にし、地域の発展を模索する。また、こうした取り組みを、過疎と高齢化に直面する全国各地の山間地の自治体に発信することで、ユネスコが期待する世界モデルとしての機能を担ってゆきたい。
著者
綿貫 豊 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.31-35, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
22

要旨: 環境化学分野では環境汚染のモニタリング、影響評価、コントロールのためにこれまで数多くの研究がなされてきた。その結果、過去に排出され未だに環境中に蓄積している物質に加え、新規に開発・合成された化学物質の影響により、生態系における汚染は今現在も進行しており、野生生物に対する影響も時として甚大になることが明らかとなってきた。一方、自然界における汚染物質の挙動は、親水性などの汚染物質の性質だけでなく、汚染物質を摂取した動物の生理・行動特性や汚染物質が取り込まれた食物網や生態系によっても異なるので、その理解には生態学的視点が欠かせない。従来、環境汚染物質の影響評価は毒性試験を通した催奇形性や致死率の評価、あるいは自然界における残留蓄積量の評価に焦点があてられてきたが、生態学は個体群・群集・生態系といったより複雑な系を対象とした影響評価に貢献できるだろう。このシンポジウムではさらに、リスク削減や回避の目標を明確にした上で、モニタリングと影響評価のコストを組み込んだ現実的対応策にもとづいた「順応的管理」の考えを導入することや、汚染物質に対する感受性の種内変異を考慮した集団遺伝学的アプローチなどを取り入れることが提案された。
著者
伊藤 元己
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.253-258, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1