著者
梅澤 明弘 宮本 義孝
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.7, pp.593-601, 2011 (Released:2011-09-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

細胞医療を支える幹細胞には, さまざまなレベルが存在する. たとえば, 受精卵に近い全能性を有する胚性幹細胞やiPS細胞がある一方, 部分全能性を示す組織幹細胞では, 骨髄に由来する間葉系幹細胞が知られている. 骨髄由来の間葉系幹細胞は, 生体マイクロデバイスとしての地位を築いてきたが, 現在は骨髄のみならず胎盤, 脂肪, 月経血から単離されてきている. 予想を超える体性細胞の可塑性が次々と明らかになってきている中で, 発生学, 工学によって培われた幹細胞技術が要素技術として, 多くの疾患に対する再生医療・細胞医療システムとして完成させることが可能となっている. 幹細胞に関する基盤技術を組み合わせることにより再生医療がシステム化されることは間違いないが, すばらしいレベルの高い基盤技術が実際の再生医療と中にはうまくフィットしない場合がある. 特定の疾病に対して有効な基盤技術を開発しようとするのは困難が伴うことが多いと個人的に感じている一方, 幹細胞基盤技術から出発すれば, そのレベルが高い場合, その有用性がどの疾患に対する再生医療に最も有効かという出口を見つけることは成功の確率を上げられるのではないかということがある. それには, 医療の知識, 経験がある人に真剣にコミットしてもらうことが好ましいとしており, これは経験に基づいた「土地勘」の有無と考えている. 耳鼻咽喉科領域における再生医療・細胞医療も当然その土地勘が重要であり, 実際の最前線の医療に携わる耳鼻咽喉科の医師達に判断されることが最も大事である.
著者
中村 明正
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.126-136, 1965 (Released:2007-06-29)
参考文献数
50
被引用文献数
5 1

Histoanato amical structure of the vocal muscles of human adults was investigated and the sensory nerve endings in the vocal muscle were demonstrated by using various staining techniques.According to Goerttler (1950), medial part of the vocal cord consists of two parts, namely, pars thyreovocalis and pars aryvocalis. However, we could not find the muscle fibres which ran from the thyroid cartilage to the vocal ligament. Pars aryvocalis could be divided into the anterior and the posterior parts. The former beginning from the Proc. vocalis of the arytenoid cartilage attached to anterior half of the vocal ligament. The latter ran between middle part of the arytenoid cartilage, and posterior half of the vocal ligament. These two parts crossed each other like a network.Three types of the centripetal nerve endings in the vocal muscle were identified with the modified Bielschowsky's silber impregnation.The nerve belonging to the first type ended in a simple small knob. The nerve of the second type had spiral structure which wound about the muscle fibre like a tendril, and it seemed to be resembled to a muscle spindle, but it was not a muscle spindle. It was not enclosed with a capsule and did not contain intrafusal muscle fibres. The typical muscle spindles were not found in the human vocal muscle. The nerve belonging to the third type consisted of several nerve fibres which ran pararell each other like an ivy.The great majority of these endings were distributed in the middle one-third of the vocal cords. No communicative fibres between these endings and the endformation of the autonomic nervous system were recognized. The nature and significance of these stuctures were discussed.
著者
宮崎 総一郎 北村 拓朗
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.9, pp.830-835, 2012 (Released:2012-11-23)
参考文献数
18

睡眠は, 大脳の進化とともに発達してきた. 睡眠は疲れたから眠るといった消極的な生理機能でなく, 「脳を創り, 育て, より良く活動させる」積極的な機能がある. さらに, 記憶や運動技能を向上させる能動的な生理活動がなされる時間でもある.睡眠呼吸障害では, 睡眠中の呼吸努力により覚醒反応が生じ, 睡眠の分断化が起こり, 睡眠が障害される. 小児睡眠呼吸障害では, 睡眠が障害されるために成長ホルモン分泌が障害され, 成長障害が生じる. さらに, 知能低下, 学業成績不良, 夜尿, 注意欠陥, 多動, 攻撃性, などの多くの問題を生じる. 知能低下の説明として, 最近では成長ホルモンに関連してIGF-1の関与が注目されている.小児睡眠呼吸障害の原因として多数を占めるのは, アデノイド・口蓋扁桃肥大であるが, 最近ステロイド点鼻を軽症から中等症の睡眠時無呼吸例で鼻閉の改善とアデノイド縮小効果を期待して, 適用する治療法の有効性が多く報告されている.
著者
北原 糺
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.8, pp.1097-1101, 2019-08-20 (Released:2019-09-05)
参考文献数
17

一側内耳の前庭障害により生じた前庭系の左右不均衡は, 中枢前庭系の神経可塑性, すなわち前庭代償によって是正される. 前庭代償は, 静的前庭代償と動的前庭代償に分けられる. 静的前庭代償の初期過程では, 前庭神経核間の交連線維や前庭小脳により, 健側前庭神経核ニューロンの自発発火が抑制され, 左右の前庭神経核ニューロンの活動性の不均衡が是正される. さらに後期過程では, 低下していた障害側前庭神経核ニューロンの自発発火が回復する. 動的前庭代償では, 健側の前庭神経核ニューロンからの交連線維を介した入力により, 障害側前庭神経核ニューロンの回転刺激に対する反応性が回復する. 静的代償は速やかに達成されるが, 動的代償が不十分な場合は平衡障害が残存する. 動的前庭代償には健側からの前庭入力が重要であるため, 一側前庭障害患者はめまいの急性期を過ぎれば早期に離床することがすすめられる. 不十分な動的前庭代償による慢性の平衡障害には, 前庭リハビリテーションが有効である.
著者
齋藤 善光 宮本 康裕 望月 文博 阿久津 征利 加藤 雄仁 藤川 あつ子 栗原 宜子 谷口 雄一郎 肥塚 泉
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.6, pp.799-804, 2018-06-20 (Released:2018-07-05)
参考文献数
15

Silent sinus syndrome(SSS) は上顎洞自然孔が閉塞し, 低換気により洞内が陰圧化し, 上顎洞内陥や骨菲薄化に伴って無症候性の眼球陥凹, 眼球低位を認める疾患である. われわれは, 鼻副鼻腔乳頭腫の影響で, 上顎洞自然孔閉塞により発生したと思われた, SSS 様の所見を呈する1例を経験した. 治療は, 内視鏡下で腫瘍摘出し, 上顎洞を開放した. 術後, 上顎洞内陥は改善し, 翼口蓋窩陰影が縮小した. 上顎洞自然孔が閉塞し, 上顎洞内陥に伴う翼口蓋窩の拡大を認めた場合は, SSS を念頭に置く必要がある. また, SSS であれば上顎洞を開放することで症状, 所見共に改善するため, 診断的治療として手術は有効な手段と考える.
著者
川城 信子 土橋 信明 荒木 昭夫 古賀 慶次郎 河野 寿夫 伊藤 裕司
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.97, no.6, pp.1056-1061, 1994 (Released:2008-03-19)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

NICU退院時のABRが正常であり,その後難聴と判明した症例10症例について検討した.退院時のABRが正常であったので難聴に気付いた時期が遅れた.難聴は生後10カ月から3歳3カ月で判明した.難聴の程度は90dB以上の高度難聴が6例,低音部の聴力が残存し,高音漸傾型の高度難聴が3例,60dBの高音漸傾型で中等度難聴が1例であった.全例が周産期に重症の呼吸婚環障害があり,全例が挿管し人工呼吸の呼吸管理を行っていた.原因疾患としてPPHNの状態が10例中8例に認められた.これはPPHN25例中の8例,32%に難聴が発生したことになる.人工呼吸管理症例166例中12例,7.2%に難聴の発生があった.ECMOを使用した症例が6例あり,ECMO使用例8例の75%に難聴が発生したことになる.難聴の原因として人工呼吸管理方法に問題があるのかもしれない.また,アミノグリコシド系の薬剤,フロセマイド利尿剤も全例に使用されており,これらの薬剤の使用も否定できない.ABRが正常であっても安心してはならず,重症の呼吸困難症例では聴力についての観察が必要であり,6カ月および1歳前後にはABRによる聴力のスクリーニングが必要であることが判明した.
著者
木村 淑志
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.170-190, 1972-02-20 (Released:2010-12-22)
参考文献数
64
被引用文献数
1 1

(研究目的) 聴覚の老化現象は末梢内耳と中枢神経聴覚路の両者の退行性変化に起因することが知られている.著者は各年齢別の男性および女性に, 内耳および中枢性難聴診断のための聴覚検査を行うことにより, 生理的な老化の過程において, 末梢内耳と中枢神経聴覚路における聴覚機能の低下がどのように進行してゆくのかを解明しようと試みた.(方法) 30歳から5歳きざみに79歳までの特に難聴・耳鳴等の積極的な訴えがなく, 耳疾患および音響外傷等の既往のない健康な男女各10名ずつ計200名に対して下記の各種聴覚検査を行った.(1) 気導および骨導純音最小可聴域値検査, (2) 補充現象検査, (3) TTS現象検査, (4) 通常の語音検査, (5) 周波数歪語音検査, (6) 時間歪語音検査, (7) 両耳合成能検査, (8) 方向感検査.(結果) 1) 純音聴力域値検査では気導と骨導との間には殆んど差は認められなかった. 中音域平均聴力損失値は全症例において30dB以内にあったが, 高音域平均聴力損失値は加齢と共にその値の大きな例が増加した.2) 補充現象検査では陽性例は男女ともに50歳代まではあまり多く存在せず, 60歳代, 70歳代になってから増加した. この結果から, 内耳コルチ氏器における加齢変化は高年齢になってから起るものと考えられる. また補充現象陽性例の出現率の男女差については, 男性の方が陽性例の出現率が高かった.3) TTS現象検査では陽性例は全症例中1例も存在しなかった.4) 通常の語音検査では最高明瞭度値の低下する異常例は男女ともに60歳代までは少なかったが, 70歳代になると急激に増加した. しかし, 最高明瞭度値の低下の程度は極めて軽度であった.5) 周波数歪語音検査および時間歪語音検査では最高明瞭度値の低下する異常例は40歳代前半から50歳代前半にかけて増加し半数に達し, 更に加齢と共に増加した. この結果から中枢神経聴覚路における加齢変化は年齢的にかなり早期から起るものと考える.6) 両耳合成能検査では最高明瞭度値の低下する異常例は男性では40歳代後半, 女性では50歳代前半より増加した.7) 方向感検査では異常例はわずかに高年齢者の2例にのみ認められた.以上述べた2) および5) より, 生理的な聴覚の老化の過程においては, 中枢神経聴覚路における変化の方が内耳コルチ氏器における変化よりも早期に起るものと考える.
著者
多久嶋 亮彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.97-103, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
参考文献数
20

顔面神経は第二鰓弓由来の末梢神経であり, 顔面神経の運動神経線維が分布する表情筋も, 第二鰓弓由来の組織である. 先天性顔面神経麻痺は原因として神経原性と表情筋原性の両者が考えられるが, その本態は定かではない. 仮に神経原性のものであるならば, 生後間もない時期にはまだ表情筋の萎縮が生じていないことが考えられ, 神経移行術などによる再建方法が考えられる. しかし, 現実的には1歳以下の乳児に対して再建術が行われることはない. したがって, 先天性の顔面神経麻痺に対しては, 既に表情筋が廃用性萎縮に陥った後の陳旧性顔面神経麻痺に対する治療に準じた手術方法が選択される. すなわち, 眉毛, 眼瞼, 頬部など各部位ごとに対する再建術を組み合わせて治療を行う. 一般的に小児期の顔面神経麻痺は, 安静時には麻痺が比較的目立たず, 兎眼など大きな機能障害をもたらす可能性がある症状も軽度であるため, 積極的な治療が行われない場合が多い. しかし, 先天性麻痺では頬部の動きに乏しいことが多く, 笑いの表情を作ることができないことが多々ある. また, 患児が笑うことにより顔の歪みが目立つことを嫌がり, 自ら「笑わなくなること」で表情の乏しい印象を与えることも多い. したがって, 患児の社会性を発達させる上でも顔面神経麻痺の治療, 特に笑いの再建は重要であると考えている. 笑いの再建方法としては, これまでには腓腹神経移植による顔面交叉神経移植術と薄筋移植術を二期的に行ってきた. しかし, この方法は治療期間が長くかかるため, 1990年代後半より広背筋を用いた一期的再建術が主流となっている. さらに最近では, 移植筋の動きがより大きくなるように, 動力源としての神経を2つ選択し, 二重支配を受ける筋肉移植術を行い始めている.
著者
後藤 友佳子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.93, no.8, pp.1192-1201, 1990
被引用文献数
5

The localization of epidermal growth factor (EGF) in human cholesteatoma tissue, normal ear drum and external auditory canal skin was examined immunohistochemically, using avidin-biotin peroxidase complex method.<br>Bouin-fixed tissue was stained for investigation of horny layer in the epidermis, because fixation in Bouin's solution provides better preservation of the antigen. In the horny layer of cholesteatoma tissue, 19 out of 24 cases had EGF-positive immunoreactivity (79%). In 2 cases of normal external auditory canal skin, 4 cases of normal ear drum and a case of postauricular skin, no EGF-immunoreactivity was revealed in the horny layer.<br>EGF was assayed in the debris of cholesteatoma and the horny layer of the normal bony external canal with dot blot immunoassay. EGF content of the debris was higher than that of the horny layer of normal skin.<br>The result of the first report suggests the activity of cholesteatoma exists in the subcutaneous tissue (see the previous paper). In this report EGF content of cholesteatoma in the horny layer was found higher than that of normal external skin. This result demonstrates that EGF in the horny layer plays an important role in accelerating the growth and bony destruction in cholesteatoma.<br>To summarize these two reports, the following conclusion was reached. In the epidermis EGF content is equal in cholesteatoma and normal skin. But in the subcutaneous tissue and the horny layer EGF content of cholesteatoma is higher than that of normal skin. EGF in situ may be strongly related to the growth and bony destruction of cholesteatoma.
著者
井之口 昭 中島 俊之 宮崎 純二
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.111, no.3, pp.87-90, 2008 (Released:2009-06-03)
参考文献数
4

嗅覚障害の診断には従来より静脈性嗅覚検査が用いられてきた. 検査は肘静脈から一定の手技で行うため, 再現性のある一定の匂い刺激になっていると考えられてきた. しかし, 実際に匂い強度を連続的に測定してみると必ずしも一定の匂い刺激ではなかった. 現在の実施方法では, 70%の例では匂い強度が1回だけピークを形成するパターンをとり, 残りの30%の例では複数回の強度ピークを形成することがわかった. そこで一定かつ再現性のある匂い刺激を模索するために注射液の量や注入時間を変化させて最適の注入方法を検討した. すると, アリナミン原液2mlを生理食塩水10mlに希釈し, 全体で12mlの液を40秒かけて注射する方法が全例で1回ピークパターンをとり, 最適の方法であることが判明した. 自覚的な匂い強度もガスセンサで測定した他覚的な匂い強度も原法とほぼ同じであった. 新注射法のもう1つのメリットとして血管痛の副作用が全くないことが挙げられる. アリナミン原液の強酸性が生理食塩水で薄められたためと思われる.嗅覚障害の治療にはステロイド点鼻療法が推奨されてきたが, その投薬コンプライアンスについてはほとんど関心をもたれてこなかった. 特に老人や頸椎疾患患者では懸垂頭位をとることは不可能である. そこで安楽かつ簡便に行える点鼻頭位を検討するため, 屍体頭部をさまざまな角度に倒立させて点鼻液が鼻内のどの部位に到達するか実験を行った. すると懸垂頭位では後屈角を90度ないし100度にしないと嗅裂に点鼻液が到達しないことがわかった. 懸垂頭位で点鼻を行う場合は鼻橋に沿って点鼻すれば後屈角80度でも嗅部に液が到達することもわかった. より患者に負担が少なく, 確実に嗅裂に点鼻液が到達する姿勢として枕なし側臥位を考案した. この頭位・姿勢で点鼻することにより簡便・安楽に投薬コンプライアンスを良好に保つことができた. 嗅覚障害治療にあたっては詳細に点鼻姿勢を指導することが重要である.
著者
東原 和成
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.111, no.6, pp.475-480, 2008 (Released:2009-08-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

生物が匂いを感知するメカニズムは, 嗅覚受容体の発見以来, 嗅神経細胞レベル, 嗅球レベル, 高次脳レベルでの解析が進み, ほぼ全貌が明らかになってきたと考えられている. しかし, 一方で, pptレベルでの匂いの感度と嗅覚受容体の閾値には矛盾があるなどの問題も残されている. また, 基礎学術知見は蓄積されてきている一方で, 産業界や臨床医学現場に役立つ応用科学面の嗅覚研究は若干注目度が低い. 本稿では, 嗅覚受容体遺伝子発見以来の歴史をふまえて, 筆者らの最近の研究から, 特に匂いの閾値の問題と嗅粘液の重要性についての知見を紹介したい.
著者
杉浦 欣一 大橋 淑宏 江崎 裕介 古谷 博之 大野 義春 中井 義明
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.506-515, 1991-04-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
19

There is amount of epidemiologic, clinical and laboratory evidence to document that viral infection is involved in otitis media with effusion(OME).However, few studies have demonstrat- ed the direct influence of viruses on the tubotympanum.The purpose of this study is to establish the effect of influenza A virus invaded in the tubotympanum, in an attempt to elucidate the possible mechanism by which the virus contributes to the pathogenesis of OME.80 guinea pigs with normal otoscopic findings were inoculated with 0.2m1 suspension of influenza A(3.3 x 108PFU/ml)into their tympanic cavities through their tympanic membranes.To serve as controls, the same number of guinea pigs were injected with 0.2ml of physiologic saline solution into their tympanic cavities.At 3, 7, 14, and 28 days postinoculation, they were used for examination of the mucociliary function.Middle ear effusions were observed only in the animals inoculated with the virus.Mucociliary dysfunction was observed only in the animals inoculated with the virus.The ciliary activity in the bulla was declined at any time examined.On the other hand, the ciliary activity in the eustachian tube and the tympanic orifice was slightly lowered between 7 and 14 days, but the level was not different from that of the control.However, the number of active ciliated cells(showing more than 500 beats/min)was significantly smaller than that of the control.The mucociliary clearance time of the tubotympanum was more prolonged than that of the control at 3, 7, and 14 days, and returned to the control level at 28 days.A variety of morphologic changes were observed in the tubotympanum treated with the virus. Major pathologies observed included a general inflammatory cell infiltration, vacuolation and other degeneration of ciliated cells, and vascular damage and increased vascular permeability.Regener- ation of cilia or ciliated cells followed the degeneration, which included an increased number of basal cells and new formed centrioles.However, the viral infection had an influence on the epithelial cells with new centrioles.Our study has demonstrated that viral infection could evoke mucociliary dysfunction of the tubotympanum and create an increased susceptibility to bacteria.Therefore, viral infection could enhance bacterial infectious process in the tubotympanum.Through the failure viruses could contribute to the occurrence of OME.
著者
湯田 厚司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.2, pp.113-117, 2020-02-20 (Released:2020-03-07)
参考文献数
13
被引用文献数
1

スギ花粉の舌下免疫療法は2019年春に発売後5年目の花粉飛散期を迎えた. また, 2018年には11歳以下の小児に適用を有するシダキュア® も発売された. 筆者は2018年末までに730例のスギ花粉舌下免疫療法を行っており, 保険適用以前の臨床研究を加えると1,100例を超える経験がある. 筆者の実臨床経験に基づく舌下免疫療法について概説した. われわれはシダトレン® (2,000JAU) 発売以降で毎年の臨床効果を報告しており, 花粉飛散数にも影響されるが, 効果は既存の薬物治療より高く, 治療年数とともに増強した. 高アレルゲン量を含有する新規のシダキュア® (5,000JAU) でも初年度に69例で検討したが, シダトレン® 治療2年目とほぼ同等の効果があった. また, アレルゲンが高用量になると副反応が若干増えたが, 治療スケジュールに影響する程度ではなく, 全例が最大維持量で治療できた. 舌下免疫療法が低年齢の小児にも適用となったが, シダキュア® で成人と同じプロトコールで治療した小児例において, 成人と副反応発現率は変わらず, 1年目の効果も同等に認めた. スギ花粉症に効果的な舌下免疫療法であるが, ヒノキ花粉への効果はまだ限定的である. ヒノキ花粉症への薬物治療併用などを考慮すべき例も多い. スギ花粉とダニの両方を抗原とするアレルギー性鼻炎例の合併は多く, 両アレルゲンでの併用舌下免疫療法が望まれる. われわれはシダトレン® とミティキュア® を併用した53例の経過を初めて報告し, 安全に併用ができることを示した. その後に, 少数例の前向き試験でも安全性が報告され, さらにはシダキュア® とミティキュア® を併用した104例の多施設共同前向き試験でも安全性が示された. これらのエビデンスにより今後は併用例が増えてくると予想される. 舌下免疫療法の課題はまだ多く, 今後もその克服に重点を置く必要がある. 基礎と臨床を結びつける研究が必要であり, 質の高い検体と患者背景を提供すべく, 多くの医療機関と共同研究を進めている.