著者
辻 富彦 山口 展正 森山 寛
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.10, pp.1023-1029, 2003-10-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
13
被引用文献数
3 4

耳管開放症の成因として体重の減少,脱水,妊娠,疲労,中耳炎などが指摘されているが,詳細は明らかでない.我々は中耳炎に引き続いて起こる耳管開放症の症例につき検討を行い,中耳炎と耳管開放症との関連につき考察を加えた.当科受診の中耳炎罹患後に発症した耳管開放症12症例につき検討したところ,BMI低値,体重減少,基礎疾患を有する症例がそれぞれ数例ずつ認められた.しかしBMI低値,体重減少,基礎疾患有り.のいずれにも含まれない中耳炎後の耳管開放症症例が12例中5例存在した.先行する中耳疾患は2例が急性中耳炎から移行した滲出性中耳炎,1例は急性中耳炎,1例は急性乳突洞炎,その他の8症例は滲出性中耳炎であった.また当科で診察した耳管開放症症例の119例に対して,過去に耳鼻咽喉科を受診した際に中耳炎(急性中耳炎,滲出性中耳炎など)と診断されたことがあるかを検討したところ42例35.3%で中耳炎の既往がみられた.急性中耳炎や滲出性中耳炎の際は鼓室の炎症とともに,耳管粘膜にも炎症が生じ,耳管は狭窄傾向にある.中耳炎の治癒に伴って耳管粘膜の炎症も改善するが,その際炎症の消退の仕方によっては耳管粘膜の線維化が起こり病的な耳管の開放状態が生じると推測される.耳管開放症の成因についてはまだ不明な点が多いが,耳管開放症発症や顕在化の誘因の一つとして中耳炎が関与していることが強く示唆された.
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 福島 邦博 前田 幸英 假谷 伸 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1258-1265, 2018
被引用文献数
2

<p> 新生児聴覚スクリーニング (以下 NHS) を全例公費で実施した場合と, 全例実施しなかった場合で, NHS および要精密検査例を含めた難聴児の診断にかかる費用, その後に必要となる教育, 福祉, 補聴等にかかる公的費用について岡山県のデータをもとに試算し, NHS の費用対効果について検討を行った. 義務教育機関については NHS 実施例の方が非実施例よりも地域の公立学校 (難聴学級, 支援学級を含む) 進学率は7.6%高かった. また NHS 実施例の方が特別児童扶養手当受給開始は4.3カ月早く, 障害児福祉手当受給率は8.8%低く, 人工内耳装用率は6.9%高かった. NHS と精査, 教育, 福祉, 補聴にかかる公的費用は, 年間出生数16,000人の自治体を想定すると, NHSを実施した場合では795,939,526円, 非実施では807,593,497円であり, NHS を実施した方が11,653,971円低く, NHS を全額公費負担にしたとしても償還できる可能性が高いという結果であった. また NHS と以後の精査にかかる費用としては, 1段階 NHS と確認検査まで実施する2段階 NHS を比較すると, 2段階 NHS の方が経済的効率は高かった. 教育および福祉費用の軽減の背景には難聴児, 障害児の義務教育の受け入れ状況の年代による変化も関与している可能性はあり, 統計学的な限界はあるものの, NHS を全額公的助成で行う意義は十分あると考える.</p>
著者
石井 香澄 荒牧 元 新井 寧子 内村 加奈子 岡部 邦彦 西田 素子 余田 敬子
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.249-256, 2002-03-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

<目的> 扁桃周囲膿瘍は副咽頭間隙に近接しており, 種々の合併症を生じ得るため早急な対応を要する. 副咽頭間隙の内側には内頸動脈が走行しており, 処置の際に血管損傷など副損傷を併発する可能性がある. そこで迅速かつ適切に対応するため, 扁桃周囲膿瘍例のCT像から, 膿瘍と副咽頭間隙の主要臓器の位置関係を計測し, 処置の際の安全範囲を検討した.<対象・方法> 1997年2月から1999年4月までの期間, 当科で初診時に造影CT scanを施行し, 扁桃周囲膿瘍と診断された31例を対象とした. 平均年齢は30.7歳 (12~54歳), 男性19例, 女性12例で, 患側は右側20例, 左側11例であった. フィルムから膿瘍および副咽頭間隙内の主要臓器である頸動静脈と神経系を含む軟部組織辺縁の位置を, 診療時に指標となり得る門歯正中矢状断および上歯槽後端を基準に距離および角度として計測した.<結果> 副咽頭間隙内の主要臓器の内側縁は門歯正中から15±2°, 正中矢状断からは扁桃上極で24±4mm, 下極で23±3mm外側にあった. 前縁の深さは上歯槽後端から29±5mm後方の位置にあった. 間隙内側に位置する内頸動脈は上歯槽後端を含む矢状断上にあった. 正中と間隙との角度および距離は患側, 健側ともに上極とほぼ同様の計測値で, 有意差は認められなかった. 咽頭粘膜を含めた膿瘍前壁および扁桃周囲膿瘍後壁から, 間隙前縁までの距離は各々31±5mmおよび9±4mmであった. 全例で膿瘍の中心は, 門歯正中と内頸動脈を結ぶ直線より内側に位置していた.<結論> 副咽頭間隙の位置を想定する際, 上歯槽後端と正中矢状断との関係が参考となる. 上歯槽後端の矢状断に副咽頭間隙内側 (内頸動脈) が位置するため, 穿刺・切開の際, 極力穿刺点から矢状方向に進み, 穿刺深は20mm以内とし, 方向は穿刺端が上歯槽後端の矢状断より内側に留めると, 血管損傷を回避した有効な処置が可能と考えられた.
著者
國枝 千嘉子 金澤 丈治 駒澤 大吾 李 庸学 印藤 加奈子 赤木 祐介 中村 一博 松島 康二 鈴木 猛司 渡邊 雄介
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.10, pp.1212-1219, 2015
被引用文献数
6

声帯ポリープや声帯結節の診断・治療方針の決定には大きさなどの形態的特徴が関与することが多い. 初診時から音声治療を行った声帯ポリープ36例, 声帯結節35例について, 手術の効果および手術の際に測定した病変の大きさと術前音声検査値との相関, 病変の大きさとその術後改善率との相関を検討した. 手術後の音声機能は, 声帯ポリープ・声帯結節の両群で最長発声持続時間・声域・平均呼気流率・Jitter%値 (基本周期の変動性の相対的評価)・Shimmer%値 (ピーク振幅の変動性の相対的評価) のすべての項目で術前に比べ有意な改善を認めた. 病変の大きさとの相関では, ポリープ症例は術前の声域・Jitter%で相関を認め, 術後改善率では, 声域・平均呼気流率・Jitter%・Shimmer%で相関を認めた. 一方, 結節症例では術前の声域のみ相関を認めた. Elite vocal performer(EVP) (職業歌手や舞台俳優など自身の「声」が芸術的, 商業的価値を持ち, わずかな声の障害が職業に影響を与える) 群と EVP 以外群で検討を行い, 声帯ポリープ症例の EVP 群では EVP 以外群と比較して病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 結節では両群とも病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 両疾患において手術治療は有効で, 形態的評価は治療方針決定のために必要であり, 音声治療も両疾患の治療に不可欠であると思われた.
著者
黒野 祐一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.10, pp.1247-1252, 2020-10-20 (Released:2020-11-05)
参考文献数
11

粘膜免疫は消化管において病原微生物の侵入を防ぐ一方で, 生命維持に必要な食物は積極的に体内へ取り込むなど, 抗原に応じて相反する反応を示す. 上気道においても粘膜免疫が生体防御に重要な役割を果たしており, これが破綻することで感染症やアレルギー性炎症が発症する. したがって, 上気道の粘膜免疫を賦活すること, すなわち粘膜ワクチンを用いることでこれらの疾患を予防できると考えられる. 粘膜免疫において主たる役割を担っているのが分泌型 IgA で, ウイルスや細菌の上皮への接着を阻止する. 上気道に抗原特異的分泌型 IgA を誘導するには, 抗原を経鼻投与するのが最も効率的で, 現在, 経鼻ワクチンの開発が進められている. そのワクチンの一つとしてホスホリルコリンがあり, すべてのグラム陽性および陰性菌に含まれることから広域スペクトラムを有するワクチンになり得ると考えられる. また, 結合化ホスホリルコリンは粘膜アジュバントとしての作用を有しており, これらを用いた新規の経鼻粘膜ワクチンの開発を目指して現在も研究を続けている.
著者
平賀 幸弘 黄 淳一 霜村 真一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.10, pp.1114-1119, 2013-10-20 (Released:2013-11-26)
参考文献数
12

血管免疫芽球性T細胞リンパ腫 (angioimmunoblastic T-cell lymphoma: AITL) の1症例を経験した. 患者は33歳女性で, 前頸部に単発の腫瘤を認め, 手術にて摘出された. 病期診断はStage IAで, CHOP3コースと頸部へのX線照射40Gyが施行され, 経過観察中であるが再発を認めない. AITLは, 非ホジキンリンパ腫の1.2~2.5%にみられるまれな疾患で, 耳鼻咽喉科領域での報告は認めない. 全身リンパ節腫脹, 肝脾腫, 皮疹, 貧血, 高ガンマグロブリン血症などを症状とする. 治療は多剤併用の化学療法が一般的であるが, 5年生存率20~50%と高悪性に分類されている.
著者
高野 賢一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.187-191, 2021
被引用文献数
1

<p> 目覚ましく進歩する通信情報機器や通信技術により, 遠隔地に在住する患者や交通弱者の医療機関等へのアクセスビリティの向上, 地域間医療資源差の解消, 勤労世代の労働時間確保などの諸問題を解決できる手段のひとつとして, 遠隔医療に対する注目が高まっていた. そこに, 新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する状況となり, 患者および医療者双方の感染リスクを軽減させ, いわゆる受診控えを解消させる観点から, 医療インフラとしての遠隔医療の有用性が再認識され, 医療現場での導入が加速しつつある. 2020年4月には厚労省から, オンライン診療における時限的・特例的な通知が発出され, これまでの制限が時限的ではあるが緩和されている. われわれは北海道という地域特性から, 2018年より主として人工内耳装用者を中心に遠隔医療の提供を試みてきた. 本稿では遠隔マッピングや遠隔言語訓練を中心に, その経験を紹介したい. 遠隔マッピングでは, 患者は居住する地元の病院または医院を受診し, 大学病院サイトとオンラインで結びマップ調整を行っている. これまでもおおむね高い満足度が得られてきたが, マッピングソフトによる制限や不満点もあった. 2020年9月に新しいマッピングソフトにより改善が図られたことから, 今後は対象者の拡大とさらなる満足度の向上が期待されている. 遠隔言語訓練では自宅に限らず, 装用者がいる場所とオンラインで結び, 言語訓練を行っているが, 時間的空間的制限が減ることから, やはり満足度は高い. 遠隔医療の普及は始まったところであり, エビデンスの蓄積, 法整備, 診療報酬面などまだ課題は多いものの, 専門家の偏在と不足が特に顕著である聴覚障害診療が抱える諸問題を解決できる手段のひとつとして, 遠隔医療は大きな可能性を秘めており, 正しく発展することで聴覚診療に携わる医療者と患者双方に多大な恩恵をもたらすものと思われる.</p>
著者
飯沼 壽孝 加瀬 康弘 塩野 博己 北原 伸郎 広田 佳治 清水 弥生 福田 正弘
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.91, no.9, pp.1358-1365, 1988
被引用文献数
2

1. 小児副鼻腔炎179症例のウォータース法によるX線写真を対象として,画像上の撮影角度,上顎洞の病変,上顎洞骨壁の所見を分析した.<br>2. 撮影実施時の撮影角度が成人に準じて適正であっても画像上の撮影角度は過半数において過剰であり,その傾向は幼少児に強い.<br>3. 画像上での撮影角度の過剰は軽度病変において見掛け上での陰影増強を来しうるが中等度以上の病変の陰影には影響を来さない.<br>4. 小児副鼻腔炎の画像上での病変は約70%で左右対称的であり,その傾向は幼小児に強い.<br>5. 上顎洞壁の不鮮明な所見の出現率は,上顎洞上壁内方で18.4%,同外方で17.3%,頬骨陥凹部で24.6%,頬骨歯槽突起線で1.1%である.<br>6. いずれかの部位で洞壁が不鮮明となる率は軽度病変で16.2%,中等度で47.8%,高度で72.0%となり,画像上での病変が高度になるに従って洞壁の所見は不鮮明となる.<br>7. 小児におけるウォータース法では,成人における撮影角度(耳眼面に対して45度)を修正し,3-4歳では20-25度とし,以降は年齢と小児の個体としての発育に合わせて,10歳以降ではじめて成人なみとする.<br>8. 小児副鼻腔炎のX線診断では,合併症や悪性腫瘍の疑いがない場合は,4-6歳まではウォータース法のみでもよく,7-9歳以降は症例に応じてコールドウェル法を併用する.<br>9. 他の画像診断として,上顎洞内の貯留液の有無に関してはAモード超音波検査法が有用である.<br>10. 小児副鼻腔炎の画像診断にはX線診断法に超音波診断法を組み合わせることで経過観察と治療効果の判定がより簡単となろう.
著者
大塚 雄一郎 久満 美奈子 根本 俊光 松山 浩之 堀内 菜都子 福本 一郎 山崎 一樹 米倉 修二 花澤 豊行
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.903-909, 2021-06-20 (Released:2021-07-01)
参考文献数
14

鼻口蓋管嚢胞は鼻口蓋管の胎生期の遺残上皮から発生する. 近年では低侵襲な内視鏡下の開窓術の報告が増えているが, 鼻口蓋神経や上歯槽神経を損傷するリスクがある. 開窓術による鼻口蓋神経の損傷が疑われた1例を経験した. 症例は55歳女性, 硬口蓋前方が膨隆し鼻中隔が前下方で左右に膨隆していた. CT・MRI で鼻腔内に進展する鼻口蓋管嚢胞を認めた. 全身麻酔下に鼻中隔粘膜を切開し嚢胞壁を切除して鼻口蓋管嚢胞を両側鼻腔内に開窓した. 術後に嚢胞は消失したが, 両側上顎の第1, 2, 3歯の違和感を訴え, 術後3年後も両側上顎第1歯の歯肉部の違和感がある. 開窓時の鼻口蓋神経の損傷が原因と考えた.
著者
鈴木 元彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.553-556, 2020-07-20 (Released:2020-08-06)
参考文献数
8

嗅覚障害は日常生活での危険を生じさせたり, 良いにおいを感じる幸せを消失させたりして, Quality of life に強く影響する疾患である. また, 耳鼻咽喉科外来においても嗅覚障害を主訴に受診する患者は少なくなく, 臨床上重要な疾患である. しかし, 嗅覚障害のメカニズムに関してはいまだに分かっていないことも多く, 診断法や治療法についても施設によってさまざまである. そしてこういった事情を克服するといった理由も含め, 近年嗅覚障害診療ガイドラインが日本鼻科学会より発刊された. また嗅覚障害に対する発症機序の解明や新規治療法の開発といった目的にて, 嗅覚障害に関する研究も進んでいる. 以上を踏まえ, 本稿では嗅覚障害診療ガイドラインと嗅覚障害に対する最近の研究と知見について概説する.
著者
野々木 宏
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.9, pp.1187-1193, 2016

<p> 米国と欧州ガイドラインとともに JRC 蘇生ガイドライン2015が同時発表された. この診療ガイドラインの特徴は, 万国共通の国際的な科学的コンセンサスをもとに加盟国がそれぞれの医療事情に応じたガイドラインを作成していることであり, 他の診療ガイドラインには類を見ないものである. 最も注目される変更点はエビデンスの質を評価するための透明性の高い GRADE システムを採用したことである.<br> 蘇生方法の今回のポイントは, 病院内外での心停止の予防をさらに強調していること, 市民による心肺蘇生の実施率を上げるため心停止かどうかの判断に自信が持てなくても心肺蘇生と自動体外式除細動器 (AED) の使用を開始することを強調し, それには119番通報時の通信指令台による口頭指導が役立つことを示した. また, 胸骨圧迫と AED の使用法に内容をしぼった短時間の講習や, 学校教育の重要性を示し, 医療機関で行われる体温管理療法や脳機能モニタリングなど, 心拍再開後の集中治療の重要性を強調した. さらには市民の救命処置への参加をさらに促すために, 倫理的・法的課題についても言及した.<br> 本ガイドラインを普及啓発することで心停止の予防や救命率向上がはかられ, さらにわが国からのエビデンスの発信が期待される.</p>
著者
浦口 健介 小桜 謙一 前田 幸英 太田 剛史 土井 彰 假谷 伸
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.7, pp.1005-1012, 2021-07-20 (Released:2021-08-04)
参考文献数
33

めまいは救急受診の原因で頻度の高い主訴であるが, めまいの中には致死的な疾患や重篤な後遺症を残す疾患が存在し初期対応には注意を要する. 今回, 当院で救急救命科へ搬送され入院した急性期めまい症例について検討した. また, その集計結果を用いて初期研修医に急性期めまい診療についてのフィードバックを行い, 急性期めまい診療について質問紙調査を行った. 救急搬送された急性期めまい症例224例を対象とした. 入院症例については患者背景・随伴症状・診断名について検討した. これらの集計結果を初期研修医に提示するとともに, 初期研修医への急性期めまい診療講義を行い, その前後に質問紙調査を行った. めまい搬送症例は224例であり, 93例 (41.5%) が入院を要した. 入院症例のうち末梢性めまいが38例, 中枢性めまいが29例, 15例がそのほかの全身疾患, 原因不明が11例だった. 中枢性めまいのうち脳血管障害は18例あり, 15例が椎骨脳底動脈系血管障害 (小脳梗塞8例, 脳幹梗塞4例, 小脳出血3例) であった. 42人の初期研修医への質問紙調査では, 急性期めまい診療に興味はあるが十分な理解ができていないことが示された. めまい診療においては鑑別疾患や診断方法などが重要と考え, 本検討内容を救急救命医や初期研修医へフィードバックをすることで, 今後の急性期めまい診療についての情報共有を行うことができた.
著者
岡 美貴子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.586-609, 1973-05-20 (Released:2008-12-16)
参考文献数
69
被引用文献数
1 1

目的:耳鼻咽喉科領域にいて,言語機能と聴覚とを結びつけた研究はほとんど行なわれていなかつた.著者はKey-tappingによる大脳半球優位性テストによつて,言語機能と聴覚機能との関連性について研究を進めた.言語機能の局在側は和田法によって確認し,聴覚検査結果とWada法との結果を対比し,聴覚による大脳半球優位性テストの臨床的意義について検討を加えた.検査対象:手術,精査の目的で東女医大脳外科に入院した患者44名について,次の検査を行こなつた.(1) 純音オージオメトリー,(2) 語音明瞭度検査,(3) Key-tappingによる大脳半球優位性テスト,(4) 数字加算による大脳半球優位性テスト,(5) 歪語音検査,(6) 和田法による言語位側の決定.結果:(1) 和田法によつて,言語優位側は44例中38例(86.4%)が左脳優位,5例(11.4%)が右脳優位1例(2.3%)は左右差がなかつた.(2) 脳外科で左脳損傷と診断された24例のうち,障害側が優位のものは22例,右脳優位のものは2例であつた.右脳損傷,脳幹部損傷,開頭精査で脳損傷を認めなかつた20例のうち右脳優位のものは3例,左脳優位のものは17例であつた.(3) 和田法とtappingによる優位性テストの対応を求めると,44例中母音"あ,,に対して右耳(左半球)1KHZ純音に対しては左耳(右半球)優位のnormal patternを示した17例では,和田法による言語優位側は全例左脳であつた.normal-contra型の2例は和田法でも右脳優位の成績が得られ,normal-pattemを示す例では両者の成績は一致していた.no-difference型のもの11例では全例左脳優位を示した.左側または右側への病的Shiftを示した13例(左脳へのShift 3例,右脳へのShift 10例)では偏位側と言語の局在とは無関係であつた.(4) 脳外科診断による脳の障害半球側とtapping法による障害半球側との対応関係は左脳への病的Shiftを示した3例うち,2例は右脳損傷.1例は多発硬化症であつた.右脳への病的Shiftを示めした10例では全例左脳障害であり,優位性の病的Shiftは片側脳の障害を見い出す根拠となり得ることがわかつた.(5) 数字加算法による大脳半球優位性テストの結果は,左脳優位23例,右脳優位2例,左右差のないもの13例,テスト不能6例であつた.左脳損傷例24例のうち,和田法で左脳優位は21例であつたが,このうち19例は数学加算法で左脳優位の成績を示し,tapping法によるよりもより言語機能と関連が深いことが知られた.
著者
西田 幸平 小林 正佳 足立 光朗 中村 哲 大石 真綾 坂井田 寛 今西 義宜 間島 雄一
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.107, no.6, pp.665-668, 2004-07-20 (Released:2008-12-15)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

我々の経験した先天性嗅覚障害の2症例を報告する.症例1:13歳女児.症例2:10歳男児.ともに生来においを感じられたことがなく,近医耳鼻咽喉科より当科へ紹介された.嗅裂部を含む鼻副鼻腔所見は両側とも正常であった.基準嗅力検査.静脈性嗅覚検査の結果は共にスケールアウトであった.頭部MRI所見で嗅球,嗅索,嗅溝の低形成が認められた.性腺機能をはじめ,内分泌機能は正常であった.症倒2は先天性小眼球症で全盲状態であった.この例で嗅裂部粘膜生検を施行したが,嗅細胞は認められなかった.今回の2例は性腺機能異常を認めないタイプの先天性嗅覚障害であった.先天性嗅覚障害の診断にはMRIが最も有用であった.