1 0 0 0 OA 聴性定常反応

著者
青柳 優
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.3, pp.178-191, 2012 (Released:2012-07-03)
参考文献数
38
被引用文献数
6

聴性定常反応 (ASSR) の歴史, 刺激音, 解析法, 成立機序, 臨床応用, および問題点について述べた. 他覚的聴力検査におけるASSRの最も重要な利点は, 正弦波的振幅変調音を用いた場合, 周波数特異性の高い反応を得ることができ, 比較的正確にオージオグラムを推定できることである. 正弦波状のその反応波形から, ASSRは高速フーリエ変換を用いたパワースペクトル解析や位相スペクトル解析による閾値の自動解析に適している. ASSRの反応出現性は覚醒時検査か, 睡眠時検査かにより変化するので, 40Hz ASSRは覚醒時の成人における他覚的聴力検査に, また, 80Hz ASSRは睡眠時の幼児における他覚的聴力検査に適している. 反応の成立機序については, 40Hz ASSRは聴性中間潜時反応の, また, 80Hz ASSRは聴性脳幹反応のsteady-state versionと考えられている. 骨導ASSRでは, 60dB以上の音圧においては検査結果の信頼性は低いが, 骨導ASSRは伝音難聴の診断に有用である. 80Hz ASSR閾値により500Hz以下の周波数の聴力レベルを評価することの難しさは, 聴覚フィルタによって説明できる. また, multiple simultaneous stimulation techniqueを用いることによって両耳において4つの異なる周波数の聴力を比較的短い検査時間で評価することができる. しかし, auditory neuropathyなど聴力レベルとASSR閾値の乖離がみられる症例もあるので, 聴力評価は条件詮索反応聴力検査など他の検査法とともに総合的に行うべきである.ASSRによる補充現象の検査や音声刺激によるASSRも検討されており, 将来的には乳幼児においても補充現象や語音弁別能の評価が可能になると考えられるので, ASSRを用いた補聴器の他覚的フィッティングが行われるようになるであろう.
著者
寺尾 彬 佐藤 靖雄
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.101-105, 1978-02-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
12
被引用文献数
1

Thirty-five patients with cedar pollinosis were studied for clarifying the specificities of HLA antigens. Identification of HLA types was based on the result of the lymphocyte microcytotoxity test. There was a significantly high incidence of HLA-A10 and HLA-BW15 in cedar pollinosis.The incidence of HLA-A10 was 11.7% in the control group and 68.6% (X2=49. 1, p<10-6, Pc <10-5) in the patients, while that of HLA-BW 15 was 37. 1 % (X2= 12.8, p=5×10-', Pc=8 × 10-3) in the patients compared to 11.7% in the control.
著者
渡辺 行雄
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.7, pp.808-817, 2013-07-20 (Released:2013-09-14)
参考文献数
14

私は1971年に新潟大学耳鼻咽喉科学教室に入局, 1979年に富山医科薬科大学 (現富山大学) に移動, 1993年に前任の水越鉄理名誉教授 (故人) の後任として耳鼻咽喉科学教室教授に就任, 2012年3月に退任した. この間, 耳鼻咽喉科診療全般に従事するとともに, めまい・平衡障害の研究と臨床に専念した.私のこの領域との関係は, 眼振分析の情報処理から始まった. PDP12という当時としては画期的な実験室用分析コンピュータを使用し, アセンブリ言語で分析プログラムを開発した. 私は, コンピュータプログラミングが性に合って, 初期はめまい臨床ではなくソフト開発に没頭した. また, 眼振などのアナログ情報処理ばかりではなく, 当時の厚生省メニエール病研究班の疫学調査データ解析を担当した. これらの研究は, 富山医科薬科大学にて, より上位機のPDP11を使用して大きく発展した. 具体的には, 平衡機能検査の自動分析システムの構築と眼振・眼球運動の分析 (温度刺激, 回転刺激検査 (VOR), 視標追跡, 視運動眼振, およびこれらの刺激との関連), 重心動揺記録の各種分析, 電気性身体動揺検査システムの開発等々である. これらの研究活動とともにめまい臨床に携わっていたが, 当初はあまり興味を持つことができなかった. これは, めまい, 特に難治例に対する治療方法が明確でなかったことによる. しかし, メニエール病に対する浸透圧利尿剤, BPPVへの頭位治療, めまいの漢方治療, 前庭機能障害後遺症の平衡訓練, 難治性メニエール病に対する中耳加圧治療などを経験, 開発して治療選択肢が広がるにつれ, ライフワークとしてめまい診療に取り組むようになった. 特に中耳加圧治療は, 私が本邦で初めて導入し, また, 米国製の医療機器に対し本邦独自の変法を考案, 開発したもので, 私の退任直前の仕事として充実感をもって当たることができた. 本稿では, 私がめまいとともに歩んだ40年についての退任記念講演会の講演内容を概説した.
著者
岡本 伊作 鎌田 信悦 三浦 弘規 多田 雄一郎 増淵 達夫 伏見 千宙 丸屋 信一郎 武石 越郎 松木 崇
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.27-30, 2013 (Released:2013-03-05)
参考文献数
14
被引用文献数
3 10

副咽頭間隙に発生する腫瘍は全頭頸部腫瘍の0.5%といわれ比較的まれな疾患である. 2005年7月から2011年6月までの6年間, 国際医療福祉大学三田病院頭頸部腫瘍センターで入院加療を行った副咽頭間隙腫瘍76例を経験した. 対象は男性35例, 女性41例, 年齢は15歳から78歳で中央値44歳であった. CTやMRIによる術前画像診断や穿刺吸引細胞診 (FNA: fine needle aspiration) と術後病理組織診断について検討した.病理組織学的診断の内訳は良性腫瘍が69例 (90.8%), 悪性腫瘍が7例 (9.2%) であった. 良性腫瘍では神経鞘腫32例 (42.1%) と多形腺腫28例 (36.8%) で大部分を占めていた. 多形腺腫は茎突前区由来が26例 (93.8%), 神経鞘腫は茎突後区由来が28例 (87.5%), 悪性腫瘍に関しては茎突前区由来が7例 (100%) であった. 術前FNAを施行している症例は55例で正診率は39例/55例 (70.9%) であった.術前画像診断は病理組織を予測する上で非常に有用であると思われた. また茎突前区由来の場合では, 常に悪性腫瘍の可能性を考慮し術前にFNAを施行しておく必要があると思われた. 正診率に関してはFNAの手技を検討することで改善の余地があると考えている.
著者
西村 忠己 細井 裕司 森本 千裕 赤坂 咲恵 岡安 唯 山下 哲範 山中 敏彰 北原 糺
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1522-1527, 2019-12-20 (Released:2020-01-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1

軟骨伝導補聴器は耳軟骨の振動を介して音を伝える軟骨伝導を用いた新しい種類の補聴器で2017年11月に発売となった. 既存の補聴器で対応が難しい外耳道閉鎖症などの症例に対しても非常に効果があり, 補聴手段の新しい選択肢になる. 取扱医療機関は増加しているが全国的な認知度は必ずしも高くはない. 全国の難聴者がその恩恵を受けることができるように普及を進めていくため, 当院にフィッティング希望で2019年2月までに受診した59例の難聴者が, どこで軟骨伝導補聴器の情報を知り受診に至ったかについて調査した. 当院外来通院中の6例を除き, 受診契機となった情報源 (受診契機) が判別できたのは45例であった. 受診契機は医師, メディア (インターネット・TV), 患者会, 家族・友人, 学校の先生, 補聴器販売店に分類し3カ月ごとの経時的な変化を調べた. また病態別に3群に分類し経時的な変化についても評価した. その結果全体では患者会が最も多く約3分の1を占めていた. 経時的な変化では販売開始当初の1年間は医師の例は少なかったが, 直近の3カ月では大幅に増加していた. 補聴器販売店は販売開始当初半年間だけであった. 今回の結果から医療機関での認知度は上昇傾向にあると思われた. 補聴器販売店に対しては再度情報を提供する必要があると思われた. 成人の症例が少なく, 成人の外耳道閉鎖症例に対するアプローチが今後の課題であると考えられた.
著者
市川 銀一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.65-84, 1972-01-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
34

骨導音を頭蓋半球の或る部位に与えると, その音を反対側の耳で知覚することがある.この現象を骨導における交叉感覚といい, 1864年にLucaeにより始めて明らかにされた現象である. この交叉感覚について, 臨床的に正常聴力を有する症例, また, 一側性, あるいは両側性に伝音障害のある症例等につき, いかなる状態にあるかを検討した. さらに, 動物実験的に, 蝸牛電位を指標としてこの現象を客観的にとらえてみた.方法: まづ臨床的に, 被検者67名について, 各頭蓋半球を一定の基線のもとに, 各々54に区分し, 各々の部位に250Hz, 800Hz共域値上10dB, 20dB, 時に30dBの骨導音を与え, その音を左右いずれの耳にて知覚するかを調べ, 交叉感覚を示す頭蓋骨上の部位を検討した.また, 動物実験においては, 成熟描を用い, 正円窓窩より, 一側性または両側性に蝸牛電位を導出しつつ, 頭蓋骨上の各部位に与えた骨導音刺激に対する蝸牛電位の変化を観察記録した.結果: 臨床的には, 両側聴力正常者では, 左右半球いずれにも交叉感覚を有する部位が一定の範囲に認められること, 個人差がかなり有ること. また, 左右半球にて必ずしも対称的でないこと, 周波数により交叉感覚を有する部位が異ること, などを認めた. 次に, 一側または両側の伝音障害が認められる症例にては, 原則として聴力良好なる半球ではほとんどの部位で交叉感覚が認められるのに対し, 聴力の悪い半球では交叉感覚を有する部位はあまり認められなかった.動物実験では, 両側伝音器が正常な場合, 両側耳介後上部に蝸牛電位上の交叉現象陽性部位が認められた. また, 鼓膜, 耳小骨を順次破壊することにより伝音器障害を起させると, 伝音器の正常側から障害側えの交叉が, より大きな電位差として現われ, 障害側から正常側えの交叉は認められなくなった.
著者
癖瀬 肇 桐谷 滋 吉岡 博英 沢島 政行 牛島 達次郎
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.80, no.12, pp.1475-1482, 1977-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
22
被引用文献数
1

By means of pellet tracking technique using an x-ray microbeam system, observations of articulatory movements were made on clinical cases of cerebellar degeneration. In some selected cases, electromyographic study was also performed. The data were specifically examined with reference to the range, velocity and consistency (reproducibility) of the movements of the articulators as well as to the pattern of coordination of the different articulators involved. It was found in the case of ataxic dysarthria of cerebellar origin, that the dynamic patterns were best repesented by difficulty in initiation of purposive movements and inconsistency of artieulatory movements, particularly in repetitive production of monosyllable. On electromyography, breakdown of the rhythmical patterns in the articulatory muscles was quite obvious in the repetition of monosyllables. It was suggested that analysis of dynamic aspects of the dysarthrias shoulc he a promising approach for elucidating the nature of central problems of speech productior and for differential diagnosis of various types of dysarthrias.
著者
打越 進 野村 公寿 木村 廣行 宇佐 神篤
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.374-378, 1981-04-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
12

Six patients with nasal allergy due to Japanese Apricot pollen which are called "Ume" pollen were clinically examined. All cases had hyperrhinorrhea and nasal obstruction with ocular symptoms, and one of them also had itching in the pharynx. They have lived for 8 to 47 years near by a large grove of Japanese apricot and 4 of them were fruit-growers. Among these four cases, three have suffured from nasal and ocular symtoms while they were working in the grove. These cases had positive skin reaction to clude "Ume" pollen extract, and five patients also reacted to nasal and ocular provocative tests.Serum IgE value by RIST was distributed from 98 to 2300IU/ml (mean value 887IU/ml). Specific anti-"Ume" pollen IgE in the serum was measured by BrCN activated RAST method, and serum value of five patients was 1.6 timed to 3.5 times higher than that of non-allergic subjects.Air-borne "Ume" pollen collected in a grove were observed from the beginning of February to the middle of March, and maximum grain count was 43 per cm2 in 24 hours.
著者
岡田 隆平 角田 篤信 籾山 直子 岸根 有美 喜多村 健 岸本 誠司 秋田 恵一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.8, pp.791-794, 2012 (Released:2012-10-06)
参考文献数
10
被引用文献数
6 13

困難な術式や新しい術式に際して術前に解剖体を用いて解剖学的理解を深めることは有意義であるが, 従来のホルマリン固定による解剖体では組織の硬化が強く, 術式に即して展開することが困難であった. Thiel法は1992年に発表された解剖体の固定方法で, 生体とほぼ同じ質感を維持することができ, 病原体による感染の危険性を伴わない. 本固定法で処理された解剖体は組織が柔らかく, 実際の術式に即したかたちで解剖, 検討することができ, 術前の解剖学的検討に有用と考えられた. 本法は他の解剖体固定法と比していくつもの有利な点があり, 術式検討に加え, 新しい手術機器の開発, 外科医の技術評価にも有用であると考えられる.
著者
平野 実 宮原 卓也 宮城 平 国武 博道 永嶋 俊郎 松下 英明 前山 忠嗣 讃井 憲威 川崎 洋 野副 功 広瀬 肇 桐谷 滋 藤村 靖
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.1189-1201, 1971-07-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

研究目的: 歌唱に際して声区, ピッチ, 声の強さなどがどの様にして調節されているかを, 一流の声楽家について明らかにし, 発声法の訓練, 指導に資するとともに, 音声調節のメカニズムの解明にも寄与することを目的とした.研究方法: 本邦第一級のテノールとして活躍中の一声楽家を対象として, 種々の発声中の喉頭筋々電図記録, 呼気流率測定, 声帯振動の高速度映画撮影を行っ.研究成績および結論: 1. 声区は声帯筋によつて第一義的に調節される. 声帯筋はheavy registerでは強く収縮するが, light registerではほとんど収縮しない. 従つて, heavy registerでは声帯が厚く, 粘膜波動は著明で, 開放時間率が小さく, 開閉速度率は大きい. 呼気流率は一般にlight registerで大きい.2. ピッチの調節機構は声区によつて異なり, 前筋, 側筋, 声帯筋の関与はheavy registerで顕著である. 呼気流率の関与は何れの声区においても認められなかった.3. heavy registerでは声帯筋と呼気流率が声の強さの調節に関与する. light registerでは声帯筋は関与せず, 呼気流率と声の強さの関係が極めて緊密である.4. 声の調節機構はstaticなものではなく, 前後の発声情況によつて変化するdynamicなものである.
著者
吉田 雅文 相良 哲哉 長野 美貴 是永 克実 牧嶋 和見
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.95, no.2, pp.195-200, 1992-02-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
7
被引用文献数
1

The discrimination of mono-syllable words (67S word-list) pronounced by a male and a female speaker was investigated in noise in 39 normal hearing subjects. The subjects listened to the test words at a constant level of 62 dB together with white or weighted noise in four S/N conditions. By processing the data with logit transformation, S/N-discrimination curves were presumed for each combination of a speech material and a noise. Regardless of the type of noise, the discrimination scores for the female voice started to decrease gradually at a S/N ratio of +10dB, and reached 10 to 20% at-10dB. For the male voice in white noise, the discrimination curve was similar to those for the female voice. On the contrary, the discrimination score for the male voice in weighted noise declined rapidly from a S/N ratio of +5dB, and went below 10% at -5dB. The discrimination curves seem to be shaped by the interrelations between the spectrum of the speech material and that of the noise.
著者
鈴木 幹男
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1490-1496, 2019

<p> 頸部腫瘤は先天性, 炎症性, 良性腫瘍, 悪性腫瘍など多くの病態を含んでいる. また発生部位, 発症年齢に特徴的な腫瘤も多い. このような頸部腫瘤の診察に当たって最も重要なことは, 悪性腫瘍を見逃さず, 先入観に固執することなく理学所見・検査にて診断, 治療することである. 本総説では陥りやすいピットフォールとして, 耳下腺腫瘍の良悪性鑑別・悪性転化, 類似した理学所見を呈するものとして耳下腺内顔面神経鞘腫, 側頸部腫瘤,特殊疾患としてリンパ節結核を取り上げ, 自験例を交え概説した.</p>
著者
細谷 誠 藤岡 正人
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1508-1515, 2019-12-20 (Released:2020-01-09)
参考文献数
23
被引用文献数
1

感音難聴に対する治療法の開発は, 診断学の向上に比べて進捗が乏しい. その一つの原因は生検による患者内耳細胞の直接の観察が解剖学的に困難なことにある. これまでに代替手法として細胞株やモデル動物を用いた研究が展開され, 有用な情報をもたらしてきたものの, いまなお未解明な科学的課題も多数残されている. 近年, 既存の手法で克服できなかった科学的課題に対し, ヒト細胞および組織の代替となる新しい研究ツールとして, ヒト iPS 細胞を用いた検討が医学のさまざまな分野で展開されている. 山中らによって2006年にマウスで最初に報告された iPS 細胞だが, 続く2007年にはヒト iPS 細胞の樹立方法が報告され, 約十年の間にその応用方法は飛躍的な発展を遂げている. 本細胞は体内のありとあらゆる細胞に分化誘導可能という特徴を持つ. この性質を利用することによって, 体外で目的の細胞を作成し, 細胞移植治療や病態研究, さらには創薬研究への応用が可能である. 国内においても, すでに網膜や脳に対する移植が臨床研究レベルで行われているほか, 複数の疾患において iPS 細胞を用いて発見された治療薬候補の臨床検討が開始されている. ヒト iPS 細胞を用いた研究は, 内耳疾患研究および治療法開発にも応用が可能である. ほかの臓器と同様に, 本細胞からの体外での内耳細胞誘導が可能であり, 誘導されたヒト iPS 細胞由来内耳細胞を用いた研究が展開できる. 内耳研究においてもこれまでに, ① 細胞治療への応用, ② 内耳病態生理研究への応用, ③ 創薬研究への応用, がなされており, そのほかにも老化研究や遺伝子治療法の開発への貢献などさまざまな可能性が期待されている. 本稿では, ヒト iPS 細胞の内耳研究への応用および iPS 細胞創薬の展望を概説するとともに, 最新の試みを紹介する.