著者
中溝 宗永
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.81-85, 2014-02-20 (Released:2014-03-20)
参考文献数
16

頸部郭清術は, 頭頸部癌を主とした頸部リンパ節転移を制御する手術で, “頭頸部がん専門医” にとっては必須で基本の手術術式である. 既に100年以上もの歴史があり, この間にさまざまな変法や術式名称が生まれた. 現在は全頸部郭清術を基本型とし, 肩甲舌骨筋上頸部郭清や側頸部郭清などを主とする選択的頸部郭清術が頻繁に行われている. 頸部郭清術では, 頸部筋間の脂肪組織に存在する転移リンパ節を, その連続性を保持して一塊に切除する. メス, 剪刃, 電気メスなどでの切離だけでなく, 結紮や止血, 縫合など, 種々の基本的外科手技が不可欠であるため, 使用する器械の機能や使用法に習熟し, 頸部臓器・組織の解剖学的構造を熟知して, 各所において適切かつ確実な手技を行うことが要求される. 選択的頸部郭清術を行うことで, 全頸部郭清術よりも郭清領域を狭めても, 決められた領域のリンパ節群は残すことなく確実に郭清し, 治療成績を低下させないようにする. 一方, 術後の機能障害や変形の軽減化を目指し, 重要な脈管と神経など温存する臓器とその周囲を確実に処理する. 温存する臓器・組織が多い選択的な術式は, ワーキングスペースと視野が狭く, 手術に慣れるまでは操作が難しい. したがって, 根治的郭清術を十分経験した後に選択的頸部郭清術を行うのが望ましい.本稿では,内頸静脈と副神経を温存してレベルI~IVを郭清する選択的郭清術の手順を記載し,筆者が考える器械の使用法や手技上のコツについて述べるので,参考になれば幸いである.
著者
讃岐 徹治
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.12, pp.1474-1478, 2018-12-20 (Released:2019-01-16)
参考文献数
23

音声障害は, 正常な声帯振動が生成できなくなるために生じるが, その原因は多岐に渡り, またその背景には年齢, 性差, 職業などさまざまな因子が関連している. 音声障害は健康に影響を与えるのみでなく, 通院治療や仕事の欠勤等により収入にも影響を及ぼし, 社会的にも経済的損失を招く. 運動麻痺を含めた器質的異常があれば器質性発声障害と診断し, 異常がなければ機能性発声障害と診断される. 機能性発声障害の本来の概念は, 発声障害を呈し器質的な異常がない疾患のことである. しかし総説等には過緊張性発声障害, 低緊張性発声障害, 変声障害, 心因性発声障害, 痙攣性発声障害, 音声振戦などの疾患が含まれている. 喉頭ファイバー検査上で器質的な異常がなく, かつ運動麻痺がない疾患群を臨床的な意味での機能性発声障害と呼ぶことが多く, それらの疾患について診療ポイントなどを述べる. 機能性発声障害の多くは過緊張である. 発声時に仮声帯は中央に寄り, 喉頭蓋喉頭面と披裂部の距離が短縮する. 声は粗糙性かつ努力性嗄声になる. また声を出すのに疲れるという発声困難症状が出現する. 低緊張性発声障害は, 声帯の内転運動が弱く, 発声時に声門間隙が生じる. 心因性発声障害は, 喉頭に器質的異常がなく, かつ患者が心因的問題を抱えていることが明らかな場合に, 心因性発声障害を疑い得るとされる. 痙攣性発声障害は, 大脳基底核や神経系統に何らかの異常によって起こる神経難病疾患の一種と考えられており, 喉頭筋の痙攣様異常運動により発声中の声の詰まりや途切れ, 震えを来す原因不明の疾患であり, 内転型, 外転型ならびに混合型に分けられる. 音声振戦症は, 喉頭をはじめとする発声器官の諸筋に起きる振戦, すなわち律動的な相反性反復運動に起因する音声の高さ, または強さの律動的な変動によって発症する.
著者
三輪 高喜
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.7, pp.833-840, 2015-07-20 (Released:2015-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

頭痛, 顔面痛を訴える患者が, 第一に耳鼻咽喉科を受診することは少ないが, 他科において原因が分からない場合に, 原因診断のために紹介されることは少なくない. 耳鼻咽喉科疾患の中でも鼻副鼻腔の炎症をはじめとする疾患では, 頭痛, 顔面痛を生じることが少なくないため, 耳鼻咽喉科医としては鼻副鼻腔の疾患を見落としてはならない. 副鼻腔疾患による疼痛は, 三叉神経の分枝である眼神経 (V1) と上顎神経 (V2) に関連することが多く, 支配領域に応じた部位の疼痛が生じる. したがって, 三叉神経の分枝の走行と支配領域を理解することは重要であり, さらに分枝と各副鼻腔との位置関係を理解することも必要である. 特に蝶形骨洞は, 多くの分枝と関連しており, その支配領域も広範に及び, なおかつ洞の発育により症状の表れ方が異なっている. 診断には画像診断, 特に CT が副鼻腔と三叉神経との関連を把握するために有用である. 本論文では, 副鼻腔と三叉神経との関連を解剖学的ならびに画像診断的に解説するとともに, 頭痛, 顔面痛を来す代表的疾患を提示した.
著者
青柳 聡
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.98, no.4, pp.627-641,755, 1995-04-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
41
被引用文献数
2 2

ヒト仮声帯の組織学的形態を年齢変化および男女差を中心に観察した. 対象は病理解剖された20~79歳までの男女各27例の喉頭で, 各標本の声帯全長を8等分し仮声帯上皮を観察した後, 再構築し仮声帯の上皮の扁平上皮化生 (以下, 化生) の範囲を立体的に評価し組織地図に表し, 喫煙との関連についても検討した. また声帯膜様部中央で仮声帯上皮下組織の観察を行った.1) 化生出現度は中年層がピークだが, 化生範囲には年齢変化がなかった. 喫煙群で後方から前方への化生範囲の進展がみられた.2) 腺組織は加齢により減少した.3) 膠原線維は加齢に伴い減少の傾向で, 弾性線維は加齢により増加傾向であった.
著者
加藤 榮司 東野 哲也
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.9, pp.842-848, 2012 (Released:2012-11-23)
参考文献数
18
被引用文献数
1

1992年から2010年までの18年間に高等学校剣道部員を対象にして行った聴覚健診成績を集計した. 純音聴力検査で一つ以上の周波数に聴力閾値30dB以上の閾値上昇を認めた聴覚障害例は225名中45名 (19.7%) 69耳であり, 障害程度は2000Hzと4000Hzで大きかった. 聴力型としては, 2000Hz-dip型, 4000Hz-dip型, 2000-4000Hz障害型感音難聴の頻度が高く, 初年度の健診では正常聴力を示した例も含まれていた. また, 聴力閾値25dB以内の小dipについても2000Hzと4000Hzのみに観察され, 剣道難聴の初期聴力像と考えられた. すべての学年で右耳よりも左耳の聴力閾値が有意に高いことがわかった (p<0.01). 18年間にわたる聴覚健診活動の結果, 聴覚障害の発症頻度減少が認められた.
著者
神崎 晶
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.8, pp.1100-1101, 2017-08-20 (Released:2017-09-20)
参考文献数
11
被引用文献数
4 4
著者
武田 憲昭
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.6, pp.455-459, 2020-06-20 (Released:2020-07-01)
参考文献数
22

ナローバンド UVB (308~313nm の狭帯域中波紫外線) 光線療法は, 皮膚の免疫アレルギー疾患の治療として保険診療で行われている. (株)日亜化学が 310nm のナローバンド UVB を発光する LED の開発に成功したことにより, ナローバンド UVB を鼻粘膜に照射することが可能になった. 本研究は, ナローバンド UVB を発光する LED を用いたアレルギー性鼻炎の光治療装置の開発を目的としている. HeLa 細胞を用いた in vitro 研究を行い, 低用量のナローバンド UVB (310nm) が DNA 障害を誘導することなく, ヒスタミン H1 受容体遺伝子発現亢進のシグナル伝達経路を抑制し, 波長特異的, 用量依存的, 可逆的に HeLa 細胞のヒスタミン H1 受容体遺伝子発現亢進を抑制することを明らかにした. TDI で感作, 誘発を行うアレルギー性鼻炎モデルラットを用いた in vivo 研究では, アレルギー性鼻炎モデルラットの両側の鼻腔に 310nm のナローバンド UVB を照射し, TDI により誘発されるくしゃみ回数と鼻粘膜のヒスタミン H1 受容体遺伝子発現の亢進に与える影響を検討した. また, 鼻粘膜上皮細胞の DNA 障害についても検討した. その結果, 低用量のナローバンド UVB を鼻腔に照射しておくと, TDI 誘発による鼻粘膜のヒスタミンH1 受容体遺伝子発現の亢進を用量依存的, 可逆的に抑制し, TDI 感作ラットの鼻症状を抑制した. また, 低用量のナローバンド UVB は鼻粘膜上皮細胞の DNA 障害を引き起こさなかった. 以上の結果から, ナローバンド UVB 光線療法はアレルギー性鼻炎の治療に用いることができると考えられ, 安全に実施できると考えられた. そこでナローバンドUVBを用いた光治療装置の試作機を開発し,特許を取得した.平成29~31年度のAMED橋渡し研究戦略的推進プログラム「ナローバンドUVBを発光するLEDを用いたアレルギー性鼻炎の光治療装置の開発」により,非臨床研究を継続するとともに,企業の参画を得てナローバンドUVBを用いた光治療装置のプロトタイプを開発中である.
著者
北原 糺
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.8, pp.1056-1062, 2018-08-20 (Released:2018-09-11)
参考文献数
35

メニエール病診療ガイドラインにおける診断基準は, 回転性めまい発作に耳鳴, 難聴の増悪が随伴し, それらが発現, 消退を繰り返す, というように臨床症候を中心に定められている. 難聴は低音障害型の感音難聴から始まる. 進行すれば中高音域にも感音難聴が生じ, 全音域に増悪していく. めまい発作は自発性で, 10分以上数時間続く回転性を基本とするが, 浮動性の場合もある. メニエール病の側頭骨病理は内リンパ水腫である. 30~40歳代, やや女性に多く, ストレスや不規則な生活がメニエール病の発症と因果関係を持つとされている. しかしながら, ストレスと内リンパ水腫発生, メニエール病発症のメカニズムは未解明である. 両耳罹患率は10~40%, 罹病期間の遷延化によりその率は上昇する. 罹病期間の遷延化, 両耳罹患により, 神経症やうつ病の合併率も高まる. できる限り早期に適切な治療を見出すことが肝要である. メニエール病診療ガイドラインにおける治療アルゴリズムは, まず規則正しい生活指導, 水分摂取と有酸素運動の励行にはじまる. 指導が有効でない場合には, さらに利尿薬, 循環改善薬による内耳メインテナンスと抗めまい薬, 抗不安薬, 制吐薬による対症治療を手掛ける. 保存治療が無効であれば, 機を逸することなく外科治療を考慮する必要がある. 最近では, 外科治療を選択する前に, 鼓膜マッサージ器を用いた中耳加圧治療が提案されている.
著者
日本耳鼻咽喉科学会福祉医療・乳幼児委員会 守本 倫子 益田 慎 麻生 伸 樫尾 明憲 神田 幸彦 中澤 操 森田 訓子 中川 尚志 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9, pp.1173-1180, 2018-09-20 (Released:2018-09-29)
参考文献数
29
被引用文献数
6

背景: ムンプスワクチンは副反応である無菌性髄膜炎が注目を集め, 任意接種となっているため, 接種率は40%近くまで低下し, 周期的に流行が繰り返されている. ムンプス難聴は難治性であり, ワクチンで予防することが唯一の対策であるが, そのことは広く知られていない. そこで, 本調査では近年のムンプス難聴患者の実態を明らかにすることを目的とした. 方法: 2015~2016年の2年間に発症したムンプス難聴症例について全国の耳鼻咽喉科を標榜する5,565施設に対してアンケート調査を行い, 3,906施設より回答を得た (回答率70%). 結果: 少なくとも359人が罹患し, そのうち詳細が明らかな335人について検討した. 発症年齢は特に就学前および学童期と30歳代の子育て世代にピークが認められた. 一側難聴は320人 (95.5%), 両側難聴は15人 (4.5%) であり, そのうち一側難聴では290人 (91%) が高度以上の難聴であり, 両側難聴の12人 (80%) は良聴耳でも高度以上の難聴が残存していた. 初診時と最終聴力の経過を追えた203人中, 55人 (27%) は経過中に聴力の悪化を認め, うち52人 (95%) は重度難聴となっていた. 反対に改善が認められたのは11人 (5.0%) のみであった. 結論: ムンプス流行による難聴発症は調査された以上に多いものと推測され, 治療効果もほぼないことから, 予防接種率を高めるために定期接種化が望まれる.
著者
吉川 衛
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.5, pp.629-635, 2015-05-20 (Released:2015-06-11)
参考文献数
21
被引用文献数
6

近年, 日常診療において副鼻腔真菌症に遭遇する機会が増加してきているが, その理由として, 患者の高齢化はもとより, 糖尿病患者の増加や, ステロイド, 免疫抑制薬, 抗悪性腫瘍薬などの使用により免疫機能の低下した患者の増加などが考えられる. さらに, 副鼻腔で非浸潤性に増殖した真菌に対する I 型・III 型のアレルギー反応や T 細胞応答などにより病態が形成される, アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎のような特殊な副鼻腔真菌症も報告されるようになった. 急性および慢性浸潤性副鼻腔真菌症の治療は, 外切開による拡大手術が第一選択となり, 手術による病巣の徹底的な除去と, 抗真菌薬の全身投与を行う. 慢性非浸潤性副鼻腔真菌症の治療は, 抗真菌薬の全身投与は不要で, 手術により真菌塊を除去した上で病的な粘膜上皮を切除すると予後は良好である. アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎の治療は, 現在のところ手術療法が第一選択で, 術後のステロイドの全身投与が有効とされている. このように, いずれのタイプにおいても副鼻腔真菌症では手術治療が中心となるため, 耳鼻咽喉科医が的確に診断し, 治療を進めていくことが求められる. 2014年4月に「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014年版」が刊行され, 副鼻腔真菌症について治療アルゴリズムが示されている. 非浸潤性以外の副鼻腔真菌症はどれも発症頻度の高い疾患ではないため, エビデンスレベルの高い報告は国内外を問わず存在しなかったが, これまで蓄積された報告に基づくこの治療アルゴリズムが, 今後の診療の指標となると考える.
著者
山本 哲夫 朝倉 光司 白崎 英明 氷見 徹夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.111, no.8, pp.588-593, 2008 (Released:2009-10-01)
参考文献数
21
被引用文献数
3 5

【目的】シラカバ花粉にアレルギーを有する患者は, 交差反応性のために, リンゴなどの果物や野菜を食べる時の口腔や咽頭の過敏症をしばしば訴える. こういった現象は現在では時に随伴する全身症状とともに, 口腔アレルギー症候群 (OAS) と呼ばれて注目されており, IgEを介したアレルギーと考えられている. われわれは問診にて伴いやすいOASの原因食物の関係について調べ, 食物を分類した. 【方法】対象は, 1995年から8年間に札幌市南区にある耳鼻咽喉科診療所を受診, シラカバ花粉に対するIgEが陽性で, 問診にてOASの既往を有する272例 (15歳から65歳) である. OASの診断は問診により, 様々な食物を食べた後のOASのエピソードの有無を尋ねた. OASを引き起こすことの多い, 14種の食物 (リンゴ, モモ, サクランボ, ナシ, プラム, イチゴ, キウイ, メロン, カキ, ブドウ, スイカ, トマト, マンゴーとバナナ) について, クラスター分析を用いて, OASを伴いやすい食物の分類を行い, 次にカッパ統計量を用いて, 個々の食物間の伴いやすさを確認した. 【結果】14種のOASの原因食物は2種のクラスターに分類された. 1つはバラ科の果物であり, もう1つはバラ科以外の食物である. バラ科の果物 (リンゴからイチゴ) は互いに関連していた. メロンとスイカは伴いやすかった. メロンとキウイはバラ科の果物とは関連は少なかった. バラ科以外の食物 (キウイからバナナ) は互いに関連しており, 伴う場合があった.
著者
村川 哲也 小坂 道也 森 聡人 深澤 元晴 三崎 敬三
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.5, pp.506-515, 2000-05-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
14
被引用文献数
13 13

高圧酸素療法(Oxygenation at high pressure,以下,OHPと略す)を併用した突発性難聴症例について,その治療成績をretrospectiveに検討した.対象は1989年1月から1998年12月までの10年間に,香川労災病院耳鼻咽喉科にてOHPを併用した522症例である.予後は厚生省突発性難聴調査研究班による聴力改善の判定基準に従い,x2検定により統計学的有意差を検定し,p<0.05を有意差とした.未治療例と既治療例の比較,高圧酸素療法を含む治療全体を開始するまでの日数,年齢,初診時平均聴力,聴力型,めまい•耳鳴の有無,OHPの副作用,再発症例,発症時期などについて検討した.全体の治療成績は,治癒率19.7%,有効率34.9%.改善率58.1%であった.既治療例に対する予後は,治癒率12.5%,有効率18.8%,改善率38.8%と約4割の症例に効果があった.未治療例だけでなく,既治療例に対しても早期にOHPを開始した方が効果があると考えた.予後は加齢と共に不良になる傾向を認めた.初診時平均聴力との間には相関を認めなかった.聴力型では低音障害型,谷型が良好で,山型,高音漸傾型,聾,聾型は不良であった.初診時平均聴力が31dB以上の症例では,めまいを伴う症例の予後が有意に悪かった.耳鳴の有無と予後には有意差を認めなかった.OHPの副作用として35例(6.7%)に滲出性中耳炎を認めた.17例(3.2%)に再発症例を認め,再発時の予後は初回発症時と比較して有意に悪かった.発症時期には有意な順位を認めなかった.他の治療法に抵抗を示す症例でも,できるだけ早期にOHPを施行することにより,良好な聴力改善を得る可能性が残されていると考えた.
著者
坂井 文彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.1005-1010, 2015-08-20 (Released:2015-09-04)
参考文献数
5
被引用文献数
1

頭痛は頭部の痛みであり, 耳鼻咽喉科は鼻腔・副鼻腔・内耳, 咽頭部など頭部の約3分の2の領域を対象とするため, 頭痛との関係が深い. 一次性頭痛 (慢性頭痛) の代表である片頭痛, 緊張型頭痛, 群発頭痛のいずれも, 耳鼻咽喉科的症状が混在する. 片頭痛は前駆症状や随伴症状として時に回転性めまいがある. 緊張型頭痛にはいわゆる “ふわふわめまい” が多く, 耳鳴りもあると耳鼻咽喉科受診となる. 患者さんは「頭痛もあったが, 耳鼻咽喉科の症状があった」ために耳鼻咽喉科を受診する. 群発頭痛とその類縁疾患は三叉神経・自律神経性頭痛としてまとめられている. いずれも片側性頭痛で, 痛みに三叉神経が関与するとともに随伴症状に自律神経, 特に副交感神経が関与している. 頭痛と同側に鼻汁, 鼻閉, 流涙が随伴するのが特徴であり, 三叉神経と翼口蓋神経節との神経回路が病態に重要な役割を果たしていると考えられている. 耳鼻咽喉科疾患に二次的に生ずる頭痛としては耳, 鼻腔, 副鼻腔の炎症性疾患が頭痛を主訴として発症することがあり, 特に小児では注意を要する.
著者
神崎 仁 原田 竜彦 神崎 晶
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.3, pp.133-138, 2011 (Released:2011-08-03)
参考文献数
14
被引用文献数
2

統合失調症にて通院加療中の30歳女性にみられた一過性の聴覚失認例を報告した.主訴は「きこえが悪い」であったが, よく聴取すると, 「音は分かるが, 何を言っているか分からない」というものであった. 環境音とことばの判別もつかなかった. 純音聴力検査は正常であったが, 語音弁別検査は異常を示した. OAE, ABRには異常なかった. 病歴から祖父母の介護がストレスとなり, 発症したと思われた. 環境を変え, 抗不安薬の内服により, 語音弁別の異常は短期間で改善した. 本例の聴覚障害と統合失調症との関連について考察した.
著者
中﨑 公仁 岡 真一 佐々木 祐典 本望 修
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.93-97, 2015-02-20 (Released:2015-03-05)
参考文献数
17

われわれは基礎研究と臨床研究において, 脳梗塞に対して, 骨髄間葉系幹細胞の経静脈的投与により, 機能回復が得られることを報告してきた. 2007年より自家骨髄間葉系幹細胞を用いた, 脳梗塞に対する臨床研究を行い, 同治療の安全性と有効性を報告した. その結果を踏まえて, 2013年より, 医師主導治験 (Phase III) に取り組んでいる. この治験は, 薬事法 (平成26年11月25日より,「医薬品, 医療機器等の品質, 有効性及び安全性の確保等に関する法律」に改名) に基づき, 厳格な品質管理のもと, 細胞医薬品 (細胞生物製剤: 自己骨髄間葉系幹細胞) を製造し, 適応となった症例を実薬群, プラセボ群へランダム化二重盲検法で割り付けて, 同治療の有効性を検証し, 薬事承認を目指している. 本稿では, 脳梗塞に対する骨髄間葉系幹細胞移植治療の臨床研究と, 現在進行中の医師主導治験の概要について報告する.
著者
岩淵 康雄 花牟礼 豊 廣田 常治 大山 勝
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.97, no.12, pp.2195-2201, 1994-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

The detection of lesions of the paranasal sinuses as incidental findings during magnetic resonance imaging of patients suspected of intracranial disease who have no nasal symptoms has been far more common than we expected. The present study was performed on 325 patients a mean age of 60.7 years. Medical histories were taken whether they had any nasal symptoms or not. Asymptomatic sinus disease was present in 41.6% of the 257 patients who had no nasal symptoms, and 9.7% of the patients had either marked mucosal thickening, excessive fluid or polyps in the maxillary sinuses. Although the mean age of these patients was comparatively high, we can infer that 1 in 10 have relatively severe sinus lesions. Mucociliary transport time was measured using the saccharin method in 15 patients who had sinus disease but no nasal symptoms. The mean transport time was 15.6 minutes and within normal limits. Routine ENT examination revealed no lesions in the nasal cavity of any of the subjects.We classified the patients with asymptomatic sinus disease into two groups; group A: patients with sinus disease associated with some nasal manifestations but who do not complain about them, group B: patients who have sinus disease but do not have any nasal problems. Group B represents genuine asymptomatic sinus disease in the narrow sense. Most asymptomatic patients in this study appeared to belong to group B. They had some sinus disease, but because their mucociliary function in their nasal cavity was normal, they did not have any nasal symptoms. When we find patients with asymptomatic sinus disease, we have to determine which group they belong to by examining their nasal cavity and measuring their saccharin time. Patients in group A should be medically treated, but those in group B should be followed without medical treatment.