著者
斉田 晴仁 岡本 途也 今泉 敏 廣瀬 肇
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.93, no.4, pp.596-605, 1990-04-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
12
被引用文献数
2 4

Past studies on the relationship between mutational voice change and body growth were generally made on grouped subjects and no exact longitudinal observation was performed. In the present report, a longitudinal study was made on 100 young male students in their puberty, in which voice recordings and measurements of physical parameters including body height and weight were performed twice for each subject with yearly interval. Information on subjective evaluation of voice abnormality was also obtained from each subject. The recorded voice samples were subjected to subsequent analysis for obtaining fundamental frequency (F0) and formant values. The following results were obtained.1. A negative correlation in the rate of change was observed between F0 and physical parameters such as body height and weight, and sitting height.2. It was suggested that the mutational period consisted of the rapid and slow phases. The rate of growth in body height and sitting height was more significant in the rapid phase. 3. Subjective voice abnormality and physical growths such as the development of the laryngeal prominence were often noted even before the rapid phase. After the rapid phase was over, all the cases showed secondary sexual characteristics including the laryngeal prominence.4. Before and during the rapid phase, there was a tendency for the values of F1 and F2 to increase, while that of F3 to decrease. After the rapid phases was over, there was a trend that F1 and F2 increased, while F3 remained unchanged.
著者
曾根 三千彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.3, pp.114-120, 2011 (Released:2011-08-03)
参考文献数
43

近年胃食道逆流症 (gastroesophageal reflux disease: GERD) の増加が指摘されている本邦において, 逆流が関与した耳鼻咽喉科領域の疾患—咽喉頭酸逆流症 (Laryngopharyngeal reflux disease: LPRD)—も増加傾向にある. 逆流は咽喉頭に留まらず, 鼻副鼻腔から上咽頭さらには耳管から中耳腔にまで達し, 十二指腸内容液の逆流が関与した症例も認められている. GERDは胃内容物の逆流によって不快な症状や合併症を起こした状態と定義されており, 食道外症候群として喉頭炎・咽頭炎・副鼻腔炎・中耳炎が耳鼻咽喉科領域の疾患に含まれている. 過去の論文の評価から喉頭炎のみがGERDとの関連性を確認され, 他の疾患との関連性については推測段階に留まっており, 咽喉頭炎や自覚症状に対するプロトンポンプ阻害剤の効果も確定はしていない. 日本消化器病学会から発刊されたGERD診療ガイドラインでは, 上記疾患に加えて閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因の一つとしてGERDを挙げている. LPRD患者の生活の質 (QOL) は多方面にわたって低下しており, 局所所見よりも臨床症状と強く相関する傾向がある. GERDと同様にLPRDの治療では, 症状のコントロールとQOLの改善が目標である. そのためには耳鼻咽喉科医の的確な診断と治療が必要であり, LPRDの診療ガイドラインの作成も望まれる.
著者
近藤 健二
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.12, pp.1534-1535, 2016-12-20 (Released:2017-01-14)
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
小河 孝夫 加藤 智久 小野 麻友 清水 猛史
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.1016-1026, 2015-08-20 (Released:2015-09-04)
参考文献数
34
被引用文献数
2

当科を受診した先天性嗅覚障害16例について臨床的検討を行った. 診断は主に問診から行い, 診断補助としてMRI検査が有用であった. 20歳代までの受診が多く, 性差はなかった. 受診契機は, 自覚症状がなく家族など周囲から嗅覚障害を指摘され受診する症例が多く, 嗅覚については,「生来においを感じたことがない」という症例を多く認めた. 嗅覚障害に関連する合併症がない非症候性の先天性嗅覚障害の割合が81% (13例) と高く, 症候性の先天性嗅覚障害である Kallmann 症候群は19% (3例) であった. 基準嗅力検査は88% (14例) の症例でスケールアウトであったが, 検査上残存嗅覚があった症例も12% (2例) 認めた. アリナミンテストは実施した11例全例で無反応であった. MRI 検査による嗅球・嗅溝の定量化が診断に有用であった. 嗅球体積は, 0mm3~63.52mm3, 平均値10.20mm3, 嗅溝の深さは0~12.22mm, 平均値4.85mmで, 嗅球・嗅溝の形態異常を高率に認めた. 嗅球には, 両側または片側無形成例が69% (11例), 両側低形成例が25% (4例), 嗅溝は片側無形成例が6.7% (1例), 片側または両側低形成例は73% (11例) であった. 先天性嗅覚障害患者に対する治療方法はないが, 適切な診断を行い嗅覚障害に伴う弊害を説明することと, 性腺機能不全の精査を考慮することが重要である.
著者
有友 宏
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.92, no.9, pp.1359-1370, 1989-09-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

Vibration mode of the ossicles was investigated in twelve fresh human temporal bones using a video measuring system (VMS, Technical Insrtument). This system allows one to observe the ossicular vibration and to measure its vibration amplitude (up to 0. 2 micron) and phase angle. In this study the inner and middle ear was kept intact except for two small holes in the tympanic tegmen. These holes were for the observation of ossicular movement and were covered with a thin cover glass during the experiment. The vibration amplitude and phase angle of the umbo, malleus head, lenticular process and stapes head were measured at 19 frequencies between 0. 1 kHz and 4. 5 kHz. The umbo moved piston-like at 0. 1-0. 8 kHz and 2.6-4.5 kHz but in an ellipse at 1. 0-2.4 kHz. The malleus head showed elliptical movement with its long axis anteriorly tilted around 45 degrees from the direction of the umbo vibration at 0. 1 kHz. Both the lenticular process and stapes head showed similar movement ; piston-like in lower frequencies and elliptical in higher frequencies. The umbo, lenticular process and stapes head vibrated parallel at lower frequencies. The position, displacement and phase angle of the rotation axis of the ossicles was calculated based on the displacement and phase angle of the umbo, malleus head and lenticular process. The axis was around the level of the neck of the malleus in frequencies lower than the resonant frequency, beneath the level of the short process near the resonant frequency and at the top of the malleus head in higher frequencies. The average axis displacement was 0. 9 microns at 1 kHz but much smaller at frequecies lower than 0. 8 kHz or higher than 2 kHz. This suggests that such axis movement may reduce the efficiency of the middle ear sound transmission.
著者
沼倉 茜 吉川 沙耶花 上條 篤 松田 帆 新藤 晋 池園 哲郎 加瀬 康弘 神山 信也 伊藤 彰紀 大澤 威一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.2, pp.134-138, 2018-02-20 (Released:2018-03-07)
参考文献数
15

拍動性耳鳴に対しては, 器質的疾患の存在を疑う必要がある. 今回われわれは, 拍動性耳鳴を主訴に来院し, 横- S 状静脈洞部硬膜動静脈瘻と診断された1例を経験した. 拍動性耳鳴の診断には頸部血管の圧迫による変化と聴診が重要である. 硬膜動静脈瘻のスクリーニングには脳 MRA が優れている. しかし, 脳疾患の MRA 診断においては脳主幹動脈領域のみを関心領域とした MIP 画像が用いられることが多く, 外頸動脈系や静脈洞が関与する硬膜動静脈瘻は見落とされる可能性がある. したがって, 見落としを避けるには, MIP 画像のみならず MRA の元画像を確認することが重要である. 硬膜動静脈瘻は根治が期待できるため見落とさないことが重要である.
著者
森下 大樹 佐野 大佑 荒井 康裕 磯野 泰大 田辺 輝彦 稲毛 まな 折舘 伸彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.251-256, 2019-03-20 (Released:2020-04-08)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

Stress Velopharyngeal Insufficiency/Incompetence (SVPI; 吹奏楽器の演奏時のみ呼気が鼻腔より抜けることで演奏に支障を来す病態) の1例を経験したので報告する. 症例は19歳, 男性. クラリネット演奏時のみ鼻から空気が漏れ, 吹き続けられないため, 当科を受診した. ファイバースコピーでは, 頬ふくらまし時にアデノイドの小隆起の左側より呼気の漏出を認めた. 全身麻酔下, 上咽頭脂肪注入を施行したところ, 呼気の漏出と症状は消失し, 術後1年再発を認めていない. 本邦において耳鼻咽喉科医師の中でも認知度が低いと思われる SVPI について文献的考察を加え,症例提示する.
著者
岡野 高之 大森 孝一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.5, pp.715-723, 2021-05-20 (Released:2021-06-02)
参考文献数
59

超高齢社会を迎えた日本では介護予防プログラムとして認知症予防が挙げられており, 介入方法の探索や有効性の検証が社会的急務となっている. 難聴と認知症の関連は以前から調査が行われており, Livingston らによるメタアナリシスでは, 中年期の難聴をほかの8つの因子とともに認知症のリスク因子として挙げている. 今後難聴に対する早期介入による認知症の予防効果の評価が待望されている. 本稿では補聴器装用による認知機能への影響を検討した従来の報告の概要をまとめるとともに, 臨床研究を行う上で特に臨床試験デザイン, 難聴や介入する対象の定義,用いる認知機能評価尺度の問題点について示した. また難聴の存在が認知機能評価の結果に与える影響を現在頻用される評価尺度の特徴とともに解説し, 今後行われるべき補聴器装用等の介入による認知症予防効果の検証の際に想定される留意点を述べた. さらに認知症に伴う聴覚や音声の変化についても記載した. 最後に聴覚や音声に依存しない認知機能評価について従来の報告と著者らの開発した ReaCT Kyoto について紹介した. 今後 ReaCT Kyoto を検者の技量や習熟度に依存しない認知機能の評価方法として活用し, 難聴者を含めた簡便な認知症患者のスクリーニング方法の一つになることが期待される.
著者
片岡 祐子 内藤 智之 假谷 伸 菅谷 明子 前田 幸英 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.727-732, 2017-05-20 (Released:2017-06-20)
参考文献数
12

近年の人工内耳は, 1.5T までの磁場であればインプラント磁石を取り出すことなく MRI 検査を行うことができる. ただ疼痛や皮膚発赤, 減磁や脱磁, 磁石の変位などの合併症が起こり得る. 今回われわれは MRI 後に人工内耳インプラントの磁石の反転を来した2症例を経験した. 2例とも磁石は180度反転してシリコンフランジ内に格納されており, 1例は極性を逆にした体外磁石を特注し, もう1例はインプラント磁石の入れ替え手術を行った. 人工内耳は適応の拡大, 高齢化などに伴い, 今後も装用者は増加すると見込まれる. 医療者として, 人工内耳患者が MRI を受ける上での留意点, 合併症が生じた場合の検査, 対応などを認識する必要がある.
著者
富里 周太 矢田 康人 白石 紗衣 和佐野 浩一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.363-370, 2020-05-20 (Released:2020-06-05)
参考文献数
21

吃音症へのアプローチとして認知行動療法 (CBT) が注目を浴びているが, 本邦からその効果を検討した報告は少ない. 今回われわれは吃音に特化した低強度 CBT によって, 一定の介入を終えた成人吃音の症例について報告する. 対象は吃音外来を受診した成人11症例 (22~47歳, うち2名女性) とした. CBT の治療として, 吃音が社交不安に関連することを教育し, 曝露療法などの社交不安への対処を取り扱った. また言う直前に行ってしまう「リハーサル」について取りあげ,「吃音が生じるかどうか」から注意をそらすことを指導した. 5回のカウンセリングの前後において, 日本語版リーボヴィッツ社交不安尺度 (LSAS-J) と日本語版 Overall Assessment of the Speaker's Experience of Stuttering for Adults(OASES-A) の値は統計学的に有意な改善を示し, 吃音に併存する社交不安や抱える困難が軽快したと考えられた. 改訂版エリクソン・コミュニケーション態度尺度 (S-24) と吃音頻度は改善傾向を認めたものの有意差を認めなかった. CBT は, 吃音に併存する社交不安やクライアントが抱える困難の軽快といった効果があることが示唆された.
著者
湯田 厚司 小川 由起子 荻原 仁美 神前 英明 清水 猛史
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.12, pp.1493-1498, 2018-12-20 (Released:2019-01-16)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

スギ花粉はトマトと共通抗原を有する. 口腔内に抗原投与する舌下免疫療法 (SLIT) ではトマト抗原陽性例への影響も考えられる. スギ花粉 SLIT 220例でトマト IgE 抗体 (s-IgE) 陽性例の1年目副反応を検討した. 107例の s-IgE 変化を2年間追跡した. 2例のトマト口腔アレルギー症候群 (OAS) の経過を観察した. 治療前トマト s-IgE でクラス2 (20例) と1 (18例) では, クラス0 (182例) と比べて副反応の増加がなかった. トマト s-IgE は治療前0.29±1.08, 1年後0.34±0.89, 2年後0.27±0.87UA/mL であった. 治療前クラス0 (92例) は1年後に10例でクラス1に, 4例でクラス2になった. クラス0でも55例中12例で検出閾値未満から検出可能になり, 37%に多少の変化を認めた. トマトとスギ s-IgE 変化は連動し, 交叉抗原の影響を示唆した. トマト OAS の2例は問題なく治療を継続できた. トマトアレルゲン陽性例でも安全に SLIT を行えた.
著者
杢野 恵理子 諸角 美由紀 生方 公子 田島 剛 岩田 敏
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.7, pp.887-898, 2018-07-20 (Released:2018-08-01)
参考文献数
57
被引用文献数
2

肺炎球菌結合型ワクチン (PCV) の世界的な普及は肺炎球菌感染症への劇的効果とともに肺炎球菌自体の変化をもたらした. 肺炎球菌は急性中耳炎 (AOM) の主な起炎菌の1つであり, その動向は AOM 診療にも影響を及ぼす. われわれは, PCV 普及後の AOM の現状を明らかにするため, 2016年7月から全国調査を実施し, 小児 AOM 患者529例 (PCV 接種率97%) を対象に起炎菌, 肺炎球菌血清型, 患者背景等について検討を行った. 検出された菌はインフルエンザ菌が57%と過半数を占め, 次いで肺炎球菌26%, 黄色ブドウ球菌8%, A 群溶血性レンサ球菌3%, モラクセラ・カタラーリス1%であった. 肺炎球菌の血清型は15A 型15%, 35B 型12%, 3型11%の順に多く, 13価 PCV に含まれる血清型の割合は16%と低かった. 患者背景は2歳未満が61%を占め, 重症例81%, 反復・遷延例45%, 保育園児72%, 鼻副鼻腔炎合併例55%と AOM 難治化の危険因子が高率に認められた. ガイドライン推奨抗菌薬が97%の症例に使用され, そのうち67%が一次治療薬で治癒していた. PCV 普及後, 小児 AOM の起炎菌はインフルエンザ菌が優勢となったが, 患者背景や治療効果に明らかな変化は認められなかった. 今後の AOM 診療は, インフルエンザ菌の検出頻度増加を念頭におきながら, 引き続き患者背景や起炎菌の薬剤感受性を考慮した治療選択を行うことが重要と考える.
著者
大塚 雄一郎 茶薗 英明 鈴木 誉 大熊 雄介 櫻井 利興 花澤 豊行 岡本 美孝
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.11, pp.1200-1207, 2013-11-20 (Released:2014-01-16)
参考文献数
14
被引用文献数
1 5

石灰沈着性頸長筋腱炎の8例を経験した. いずれも頸部痛, 頸部可動制限, 嚥下痛を主訴に来院した. 診断と鑑別にはCT, MRIが有用であり, CTで頸長筋腱の石灰沈着を認めた. また造影CTでは咽後膿瘍においてみられる造影効果 (ring enhance) を認めなかった. MRIでは頸長筋が腫大しT2強調画像で高信号を呈した. これらの画像検査で咽後膿瘍, 化膿性脊椎炎を否定した上で7例を入院加療, 1例を外来加療とした.本疾患は特別な治療は不要とされるが, 症状が強いため咽後膿瘍, 化膿性脊椎炎が否定しきれず抗生剤を投与することが多い. 今回の8例でも全例で抗生剤が投与されていた. 本疾患は周知されておらず, 加療中に本疾患と診断された症例は4例だけであり, 残りの4例は咽頭後間隙炎, 咽後膿瘍の疑いの診断で加療されていた.

5 0 0 0 OA IgG4 関連疾患

著者
高野 賢一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.10, pp.1299-1303, 2019-10-20 (Released:2019-11-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

IgG4 関連疾患の疾患概念が提唱されてから15年以上が経過し, われわれ耳鼻咽喉科の日常診療においても比較的よく遭遇する疾患のひとつとなっている. IgG4 関連疾患の好発部位は, 涙腺・唾液腺と膵・胆管病変であり, 頸部や縦隔リンパ節腫脹を認めることも多く, 耳鼻咽喉科領域では IgG4 関連涙腺・唾液腺炎を診断する機会が多いと思われる. 疫学的にみると, 性差は涙腺・唾液腺炎症例ではおおむね等しいが, 自己免疫性膵炎症例では女性が多い. 年齢は60歳代を中心に比較的高齢者に多くみられる疾患ではある. 乾燥症状がほぼ必発であるシェーグレン症候群と異なり, IgG4 涙腺・唾液腺炎では眼および口腔乾燥症状を訴える患者は多くはなく, 乾燥症状そのものに対する治療を要することは少ない. しかし, 自覚症状に乏しくとも唾液腺分泌機能低下を来している症例は少なくなく, 60%に涙腺分泌機能低下, 68%に唾液腺分泌機能低下が認められる. シルマーテストは 5.42 ± 7.36 (± SD) mm/5分, サクソンテストは 2.57 ± 2.01g/2分と, 機能低下は軽度ではあるものの, ステロイドによる治療後には有意に改善を認める点が特徴的であり, シェーグレン症候群とは異なる点でもある. IgG4 関連涙腺・唾液腺炎は, 腺腫大と血清学的所見,病理組織学的所見によって診断されるが, 確定診断および悪性疾患や類似疾患除外のためにも, 組織生検が望ましい. 生検部位としては腫脹している罹患臓器が原則であり, 大唾液腺から採取するのが推奨される. また, IgG4 関連疾患は全身性疾患であり, 他臓器病変を常に念頭に置く必要がある. IgG4関連涙腺・唾液腺炎における腺外病変の合併頻度は約60%であり, 膵臓 (自己免疫性膵炎) が最も多く, 次いで後腹膜腔 (後腹膜線維症), 腎臓と続く. IgG4 関連涙腺・唾液腺炎を診断した際は, 他臓器病変にも注意を払う必要があり, 経過中に腺外病変が出現することもあるため気を付けたい.
著者
永井 知代子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.321-327, 2020-05-20 (Released:2020-06-05)
参考文献数
18

発話障害の責任病巣は, 大脳, 神経伝導路および小脳・大脳基底核, 構音器官の3つのレベルに分けられる. 高次脳機能障害による発話障害は, このうち大脳レベルの障害により生じる. 高次脳機能とは, 脳機能のうち, 単純な運動・感覚以外の機能を指す. 言語や記憶, 遂行機能などに区分されるが, 失語は言語の障害であり, 特に内言語 (思考に用いられる言語) の障害である. したがって, 音声言語だけが障害されるということはなく, 読み書き障害も伴う. 失語は, 非流暢な発話を特徴とする運動失語と, 流暢だが言語理解障害が主体の感覚失語に分けられる. 発語失行には2つの解釈がある. ひとつは, 運動失語の非流暢な発話の特徴のことであり, 広義の発語失行である. もうひとつは, 失語ではないが発話特徴は運動失語と同等であるものをいい, 純粋発語失行という. 狭義の発語失行といえば後者を指す. 日本では, 失構音・純粋語啞も純粋発語失行と同じ意味で用いるが, 欧米の専門書では, 失構音は重度の構音障害, 純粋語啞は重度の発語失行を指すと記載されており, 注意が必要である. 発語失行の特徴は, ① 途切れ途切れの発話, ② 一貫性のない構音の歪み, ③構音運動の探索と自己修正, ④ 発話開始困難・努力性発話, ⑤ プロソディ障害とまとめられる. 特に①②は構音障害との鑑別において重要である. 発語失行は発話運動のプログラミング障害と定義され, 発語における3過程, 音韻符号化・音声符号化・運動実行のうち, 2番目の音声符号化過程の障害と説明される. これは音素レベルの発話運動プランの障害であり, 主に声道の状態変化などの体性感覚情報を用いたフィードバック制御の障害と考えれば, 中心前回のほか, 運動前野・島・中心後回など複数の領域の機能低下で生じると考えられる. 近年話題の関連疾患として, 小児発語失行, 進行性発語失行がある. 耳鼻咽喉科を受診する場合があり, 注意が必要である.