著者
酒井 望 石川 文彦 関 雅史 伊藤 博 諏訪 敏一 宮崎 勝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.1899-1903, 2013 (Released:2014-01-25)
参考文献数
18
被引用文献数
2 2

症例は56歳,女性.上腹部痛の精査にて腹腔内腫瘤を指摘された.腹部CTでは腹部大動脈左側,椎体腹側に径3.2cmの辺縁整で内部が不均一に造影される腫瘍を認めた.腹部MRIではCTと同部位に41.4×31.6×25.8mmの辺縁整な腫瘤を認めた.T1強調画像では低信号,T2強調画像,STIR像では均一な等信号で,内部は軽度濃染していた.間葉系腫瘍を疑い手術を施行したところ腫瘍はTreitz靱帯より約2cm肛側の空腸間膜に認められた.腸管,腸間膜血管との連続性はなく腫瘍を摘出した.H.E.染色では,小型類円核を有する腫瘍細胞が地図状,シート状もしくはロゼット状に増殖しており,線維血管性の間質により分画されていた.免疫組織染色では,神経内分泌マーカーはいずれも陽性で,MIB-1標識率は1%以下であった.以上より,NET G1と診断された.腸間膜原発の神経内分泌腫瘍は極めてまれであり,報告する.
著者
鈴木 新太郎 遠山 信幸 川人 宏次 住永 佳久 小西 文雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.1534-1536, 2002-06-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

症例は40歳,男性.平成11年12月頃より, 37度台後半の発熱と感冒様症状が出現した.市販薬にて対処していたが,発熱と解熱を繰り返し,体重減少を認めたため,平成12年5月,近医受診.感染性心内膜炎および僧帽弁閉鎖不全症と診断され,保存的治療を行うも軽快せず. 8月10日弁置換術目的で当センター紹介入院となった.術前待機中の8月16日,突然の腹痛,意識消失,ショック状態となり,腹腔内出血による出血性ショック疑われ,緊急血管造影検査施行.脾動脈瘤とその破裂所見を認めたため,同日緊急開腹手術となった.開腹時,約2,000mlの血性腹水と3cm大の脾動脈瘤(破裂)を認め,動脈瘤とともに脾摘出術を行った.術後経過は良好であり,その後の全身状態の改善を待って,二期的に弁置換術を施行し,軽快退院した.感染性心内膜炎に合併した感染性単発性脾動脈瘤は極めて稀であり,現在まで3例の報告をみるのみである.
著者
小林 稔弘 坂根 純奈 平松 昌子 川口 佳奈子 恒松 一郎 渡邉 千尋
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.838-843, 2022 (Released:2022-11-30)
参考文献数
13

被包型乳頭癌(EPC)は2012年WHO分類で新規に分類されたpapillary lesions IBのまれな悪性病変である.当院で経験したEPC8例を報告する.年齢中央値66.5歳.主訴は腫瘤4例,腫瘤観察中3例,他疾患検査中1例.マンモグラフィーは全例カテゴリー3以上.超音波で混合性6例,充実性2例.腫瘤径は平均5.1cm.7例の針生検は全例悪性.乳房切除術4例,部分切除術4例.病理で浸潤あり4例.ホルモン陽性6例,HER2は浸潤例全て陰性.Ki-67は浸潤例3例で14%以上であった.部分切除例に放射線,ホルモン陽性5例に内分泌,1例に化学療法を行った.EPCは高齢傾向で,浸潤例でも浸潤癌に分類されるものよりは予後良好とされるが,自験例では40歳台も3人おり必ずしも高齢傾向とは言えず,急速増大例が目立つことや,増殖活性も浸潤例での高値も見られ,予後に留意すべき症例があることも示唆された.
著者
田島 正晃 森井 雄治 木下 忠彦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.1532-1536, 2015 (Released:2015-12-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

Maydl's herniaはヘルニア嚢内に複数の腸管ループが嵌頓するヘルニアで,W型に脱出することにより,腹腔内腸管の腸間膜が強く絞扼され,血行障害が腹腔内腸管により高度に出現するのが特徴である.症例は58歳の男性,作業中に右鼠径部が膨隆したまま戻らなくなり,救急搬送された.右鼠径部に小児頭大の膨隆を認めた.鼠径ヘルニアの嵌頓と診断し,緊急手術を施行した.腹腔鏡下に観察を行うと,腹腔内に壊死腸管を認めたため,開腹手術に移行した.ヘルニア内に嵌頓していた回盲部および回腸には壊疽性変化は認めなかった.壊死腸管を切除し,ヘルニアは従来法で修復した.本症例のようなヘルニアの場合,前方アプローチで整復,ヘルニアの修復を行うだけでは,腹腔内の壊死腸管を見落としてしまう可能性がある.膨隆の大きな鼠径ヘルニアの嵌頓ではヘルニア内容の腸管のみならず,腹腔内の腸管が壊死に陥っている可能性を考慮すべきである.
著者
加来 秀彰 藤原 省三 阿南 勝宏 赤木 由人
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.943-947, 2019 (Released:2019-11-30)
参考文献数
13

ポリスチレンスルホン酸カルシウム(calcium polystyrene sulfonate:以下CPS)の重篤な合併症として便秘等に起因すると考えられる腸管穿孔,腸管壊死がある.慢性腎臓病,高カリウム血症に対してCPSを内服中にS状結腸穿孔,汎発性腹膜炎をきたした2症例を経験した.症例1は87歳,女性.腹部膨満感,下腹部痛を主訴に来院.汎発性腹膜炎の診断でHartmann手術を施行した.S状結腸に潰瘍を認め,一部は穿孔し,潰瘍底にはCPS結晶を認めた.術後に敗血症,DICを併発し集学的治療を要したが,軽快し自宅退院した.症例2は86歳,女性.下腹部痛,嘔吐を主訴に受診.汎発性腹膜炎の診断でHartmann手術を行った.S状結腸の穿孔部にはCPS結晶を認めた.腹膜炎は制御できたが,術後ARDSを発症し呼吸不全の進行により死亡した.CPS投与の際には排便コントロールに留意する必要がある.
著者
薮崎 紀充 石山 聡治 宇田 裕聡 江坂 和大 末永 雅也 伊藤 不二男
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.2611-2614, 2010 (Released:2011-04-25)
参考文献数
11

症例は47歳,男性.糖尿病,慢性腎不全による透析歴があり,今回は肺化膿症のため当院内科入院中であった.腹痛・嘔吐の精査で腹腔内膿瘍による小腸イレウスと診断し,緊急手術を施行した.術中所見は回盲部・ダグラス窩に膿瘍を認め,回腸が強固に癒着していた.回腸にわずかな穿孔部を認め,小腸穿孔による腹腔内膿瘍と考えられた.病理組織検査では回腸粘膜上に横川吸虫を認め,周囲には広範な浅い潰瘍と高度の好酸球浸潤が見られた.以上の所見から横川吸虫症による腸炎が穿孔の主因と考えられた.横川吸虫症の多くは無症状であるが,寄生数が増えると腹痛・下痢などの症状を呈するとされる.しかし,われわれの調べ得た範囲では,本例のように小腸穿孔を発症した報告は本邦初であり,文献的考察を加えて報告する.
著者
板倉 弘明 山田 晃正 古妻 康之 松山 仁 遠藤 俊治 池永 雅一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.8, pp.1445-1451, 2020 (Released:2021-02-26)
参考文献数
31

目的:われわれは,皮下埋没型中心静脈ポートをエコーガイド下に鎖骨下静脈または腋窩静脈を穿刺して留置してきたが,カテーテルの筋間断裂を経験し,小胸筋経由が一因と推察した.そこで,筋間断裂例の臨床的特徴を明らかにするために検討を行った.方法: 2013~2017年にCVポートを造設した269例(鎖骨下静脈または腋窩静脈穿刺)のうち,留置後にCTを撮像した199例を対象とした.筋間断裂群(4例)と非断裂群(195例)で患者背景因子と小胸筋経由の有無,刺入点,血管描出法などについて検討した.結果:単変量解析において,小胸筋経由例(P =0.002)と,穿刺部の皮下脂肪が厚い症例(P =0.002)が有意差をもって筋間断裂を多く認めた.考察:カテーテルの筋間断裂への小胸筋と皮下脂肪厚の関与が示唆された.小胸筋経由の回避には,橈側皮静脈の腋窩静脈への合流部より中枢側での穿刺が有用である.結論:カテーテル穿刺前の解剖把握が重要である.
著者
高橋 研太郎 諸橋 一 坂本 義之 小山 基 村田 暁彦 袴田 健一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.2046-2049, 2011 (Released:2012-02-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

症例は62歳,女性.平成22年4月に急性腎不全と意識障害を伴った腸閉塞症にて緊急開腹術を施行したが,明らかな閉塞性病変を認めなかった.術後に意識障害の原因はグリホサート誤飲によるものと判明し,内科的治療で腹部症状と中毒症状は改善した.しかしグリホサート誤飲後1カ月後に再び腸閉塞を発症し,小腸造影と腹部CT検査で小腸重積が疑われた.保存的治療で軽快が得られないため,6月に再手術を施行した.Treitz靱帯から80cmと230cmの2カ所の小腸で,口側腸管が肛門側腸管に嵌り込んだ腸重積を認めた.腸管は炎症性に壁肥厚しており,重積部に腸管の強い癒着を認めた.口側の重積は用手的整復後に狭窄形成術を行い,肛門側の重積は小腸部分切除術を行った.グリホサート中毒後に発症した成人腸重積症の報告例は,検索しうる限りでは本邦初の極めて稀な症例であったが,遅発合併症の1つとして留意する必要があると思われたので報告する.
著者
濱口 純 阿部 厚憲 松澤 文彦 水上 達三 廣方 玄太郎 及能 健一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.1876-1881, 2013 (Released:2014-01-25)
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

症例は47歳,女性.昆布を摂食した翌日より腹痛を訴え前医を受診した.イレウスの診断にて保存的加療を行うも改善せず当院転院後,手術を施行した.Treitz靱帯より180cmの空腸内に堅い内容物が詰まっており,イレウスの原因となっていた.空腸を切開し摘出すると摂食した昆布であった.内容物の摘出後,切開創を縫合し腸管を切除せず終了した.術後イレウスの再燃はなかった.食餌性イレウスは時々見られる疾患であるが,昆布が原因となっている症例は本邦に特有であり比較的まれである.今回われわれは昆布により発症した食餌性イレウスの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
木村 和孝 皆川 輝彦 森田 真理 長谷部 行健
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.2106-2110, 2016 (Released:2017-02-28)
参考文献数
16

症例は79歳,女性.現病歴:BMI36と肥満のある患者.排便をしようといきんだところ,右側臍部から便が出たとのことで,近医を受診し入院加療,手術目的に当院紹介となった.臍部に手拳大の膨隆を認め,一部皮膚壊死を起こした部位より便汁の流出が認められた.腹部CT上,臍部にヘルニアを認め,ヘルニア門は35×80mm,ヘルニア内容は小腸,大腸,および大網で,ヘルニア嚢内にfree airを認めた.ヘルニア嵌頓に伴う消化管穿孔の診断にて手術となった.手術は皮膚瘻の創を延長するように正中切開を行った.ヘルニア嚢を皮下より全周性に剥離し,開放すると大網がヘルニア嚢に癒着しており,大網の間隙から横行結腸が脱出し嵌頓,穿孔していた.小腸は虚血の所見なく,臍ヘルニア自体による絞扼は認めなかった.穿孔部位を切除し,end GIAを用いてfunctional end-to-endにて吻合した.汚染創であるためメッシュは用いず,単閉鎖にてヘルニア修復とした.術後経過は良好で20病日目に退院となった.
著者
佐野 文 白子 隆志 加藤 浩樹 天岡 望 芳野 圭介 杉山 太郎
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.1667-1672, 2010 (Released:2010-12-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1

われわれは7年間に3度にわたり針誤飲した統合失調症の1例を経験した.1回目は63歳時,8本の裁縫針を飲み腹痛にて来院した.CT,X線写真にて十二指腸2nd portionから後腹膜に針を認め同日緊急開腹手術を施行した.針は十二指腸壁を貫通し腸腰筋に埋没しており針を摘出した.2回目は64歳時,2本の針を誤飲し腹痛にて来院した.CT,X線写真にて左腹壁に針を認め局所麻酔下に皮膚切開し針を除去した.3回目は69歳時,腹痛にて受診した.CT,X線写真にて骨盤腔内に針を2本認めた.開腹手術にて1本はTreitz靱帯より約200cm肛門側の小腸より腸管外に抜け,さらに110cm肛門側の小腸間膜に刺さっていた.2本目は仙骨前面のS状結腸間膜に認められ,小腸から腹腔内に貫通したものと思われた.今後も誤飲の可能性あり,注意深い経過観察が必要である.
著者
浦中 康子 南 智行 北島 龍太 勝俣 康史 益田 宗孝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.303-306, 2016
被引用文献数
2

今回われわれは,術前心肺停止を発症した冠動脈瘤破裂の1手術例を経験したので報告する.症例は47歳,女性.タクシー乗車中に意識消失し,救急搬送となった.救急車内で意識回復,当院救命センターを受診したが診察時に心肺停止となった.心臓超音波検査にて心タンポナーデを認め直ちに心嚢ドレナージを施行,自己心拍再開を得た.脳低温療法を施行後精査にて,右冠動脈領域に最大径5mmおよび左冠動脈領域に最大径8mmの冠動脈瘤を認め,両側冠動脈肺動脈瘻を形成していた.心肺停止の原因は冠動脈瘤の破裂と判断,人工心肺下に瘤切除,冠動脈肺動脈瘻閉鎖術を施行した.術中小さな冠動脈瘤の同定にICG navigation system (photodynamic Eye<SUP>&reg;</SUP>)が有用であった.術後12日目に軽快退院した.
著者
高崎 淳 片桐 聡 小寺 由人 有泉 俊一 山本 雅一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.11, pp.2882-2888, 2011 (Released:2012-04-13)
参考文献数
34
被引用文献数
1

症例は51歳,男性.2009年8月,検診時に行った腹部超音波検査(以下US)で肝腫瘤を指摘された.既往にB型肝炎ウィルスキャリア.輸血歴なし.USではS2肝表に径10mmの境界不明瞭な低エコーの腫瘤を認め,造影CT早期相では周囲のみが造影され,後期相では等吸収であった.B型肝炎ウィルスキャリアであり,悪性の可能性否定できず,充分なInformed consentのもと全生検目的に腹腔鏡補助下肝外側区域切除術施行した.切除標本肉眼所見では,弾性硬,黄白色調の二こぶ状腫瘤を認め,病理組織学検査では,悪性細胞は認めず多数の好酸球の集簇を認めた.抗寄生虫抗体スクリーニング検査の結果,ブタ回虫に対する抗体が陽性で,内臓幼虫移行症による肝好酸性肉芽腫症と診断した.ブタ回虫による肝好酸性肉芽腫症は10mm前後の結節を形成し,CTで造影効果を認める症例もあり,肝悪性腫瘍との鑑別が難しい症例が存在する.
著者
野元 優貴 喜島 祐子 新田 吉陽 平田 宗嗣 吉中 平次 夏越 祥次
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.768-772, 2016 (Released:2016-10-31)
参考文献数
13

症例は57歳,女性.2011年3月に左乳癌に対して,胸筋温存乳房切除術(Bt + Ax + Ic)を施行した(pT2N3aM0 stage IIIC).術後補助療法として,2011年4月よりエピルビシン+シクロフォスファミド(EC)療法を4クール,同年7月よりパクリタキセル(PTX)療法を4クール施行した.2012年1月に腫瘍マーカーの上昇と多発肝転移を認め,再発1次治療としてEC療法を6クール施行した.投与中,腫瘍マーカーは低下傾向にあり,肝転移巣も縮小傾向にあった.再発一次治療終了直後より食思不振が出現し,近医に入院した.その後,急速にperformance status(PS)が低下し,頭部造影CTを施行したが異常所見は認められなかった.原因検索のため当院に転院となり,第20病日に髄液穿刺および頭部造影MRIにて髄膜播種の診断がついたが,第22病日に永眠された.急速に進行した乳癌髄膜播種症の症例を経験したので,文献考察を追加し,報告する.
著者
松浦 陽介 濱中 喜晴 三井 法真 平井 伸司
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.2193-2197, 2008 (Released:2009-03-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

症例は55歳,女性.意識消失発作にて,精査が施行された.頭蓋内病変は認められず,24時間ホルター心電図にて2:1高度房室ブロックが認められた.そのため,意識消失はAdams-Stokes発作と診断され,ペースメーカー(Pacemaker:PM)植込み術の予定となった.しかし,金属アレルギーの既往があったため,外来にて金属パッチテストを施行した.PMに使用されている金属にアレルギーは認められなかったが,予防的にPM本体をpolytetrafluoroethylene(PTFE)シート(ゴアテックスシート®)にて被覆し,植込み術を行った.植込み後12カ月が経過したが,PM植込み部のトラブルは生じていない.PMアレルギーのためPM植込み部の皮膚炎を繰り返す症例に対し,PTFEシートを使用した報告はいくつかある.今回われわれは,予防的PTFEシート被覆にてPM植込み部トラブルを回避した,金属アレルギーの1症例を経験したため,報告する.
著者
大関 舞子 平松 昌子 河合 英 李 相雄 徳原 孝哉 内山 和久
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.57-62, 2013 (Released:2013-07-25)
参考文献数
33
被引用文献数
2 4

症例は68歳,男性.2003年中咽頭癌に対して化学放射線療法を施行され,完全寛解が得られた.2011年に新たに食道浸潤を伴う下咽頭癌を認め,食道抜去による咽頭喉頭食道全切除,胃管再建術を施行した.術後4日目より両側胸水貯留を認め,胸管損傷によるリンパ漏と診断した.胸腔ドレナージ施行後,胸水は漸減したが,その後リンパ液は腹腔内へ流出し,大量の乳糜腹水の貯留をきたした.完全静脈栄養に転換するも軽快せず,術後22日目よりオクトレオチドの持続皮下注およびエチレフリンの持続静注を開始した.投与開始2日後には腹囲の減少を認め,14日後には腹水は完全に消失した.オクトレオチドはソマトスタチンレセプターに結合することにより,またエチレフリンは交換神経α1作用により,胸管平滑筋の収縮をもたらすとされている.術後リンパ漏は治療に難渋することが少なくないが,両者併用は保存的治療のひとつとして有用と考えられた.
著者
堀川 雅人 野見 武男 杉原 誠一 中辻 直之 高山 智燮 丸山 博司
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.2727-2730, 2003-11-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
16
被引用文献数
1

今回われわれは,苛性ソーダによる腐食性食道炎後の食道狭窄の1例を経験した.症例は31歳,男性.泥酔後に苛性ソーダを誤飲し,近医に入院した.腐食性食道炎の急性期治療および瘢痕狭窄に対して拡張術などの保存的療法を施行されるも,嚥下困難症状の改善は認めず,手術目的にて当科紹介となった.上部消化管造影検査,内視鏡検査において胸部上部食道から食道胃接合部までの著明な全周性狭窄と壁硬化像を認め,内視鏡の通過も不能であった.胸部MRI検査にても同様の所見であった.以上,食道の広範囲におよぶ全周性の瘢痕狭窄に対し,食道亜全摘術を施行し,再建臓器としては胃管を用いた.術後,嚥下困難は改善したが,晩期合併症としての残存食道の発癌の問題が残されており今後長期的な経過観察が必要と思われる.
著者
小泉 大 佐久間 康成 森 美鈴 宇井 崇 佐田 尚宏 安田 是和
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.1905-1908, 2010 (Released:2011-01-25)
参考文献数
5
被引用文献数
1 3

症例1は53歳,男性.30歳時に生体腎移植を施行.2004年に右鼠径部の膨隆を認め,次第に増悪した.2006年6月Lichtenstein法施行.ヘルニア門は恥骨のすぐ脇で,膀胱上ヘルニア,ヘルニア分類II-1と診断した.内鼠径輪は破壊され,精索が内側に変位していた.症例2は44歳,男性.25歳時に生体腎移植術を施行された.2005年右鼠径部膨隆を認め,次第に増大したため,2008年6月手術施行.外鼠径ヘルニア,ヘルニア分類I-2と診断.腎移植後の癒着のため剥離に難渋し,精索の同定,剥離が困難だった.腎移植術後の鼠径ヘルニアでは,腎移植のため鼠径管や腹膜前腔に癒着が起こり,鼠径管の剥離や精索の同定が困難となっていた.移植腎のある腹膜前腔に盲目的に指を入れ,通常のヘルニアの剥離操作を行うことは,移植腎の不慮のトラブルを避けるためにも行うべきではなく,その点で腎移植後の鼠径ヘルニア症例に,Lichtenstein法は有用な術式である.
著者
石黒 要 今井 哲也 品川 誠
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.1639-1642, 2005-07-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
20
被引用文献数
1

症例は68歳,女性.慢性関節リウマチのため10年以上プレドニゾロン10mg/日を服用していた. 2003年9月18日,腹痛を認め救急車にて搬送された.腹部CT検査にて小腸穿孔・汎発性腹膜炎と診断,手術を施行した.回盲部より30cm口側の回腸に穿孔を認め,小腸切除術を施行した.病理組織学的検査では,潰瘍底にカンジダの増殖を伴う潰瘍を2カ所に認め,うち一方が穿孔していた.医学中央雑誌で過去10年間を検索したが,カンジダによる成人の小腸穿孔の報告はなかった.カンジダは易感染性の患者に日和見感染症を起こし重篤になる場合がある.小腸カンジダ症は稀ではあるが,潰瘍や穿孔の一因になりうるということを,再度認識する必要があると思われた.
著者
秋田 倫幸 有吉 佑 岡田 一郎 五明 良仁 池野 龍雄 宮本 英雄
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.1264-1269, 2018 (Released:2018-12-31)
参考文献数
18
被引用文献数
2

症例は80歳,男性.便秘と腹部膨満感を主訴に当院へ救急搬送となった.腹部は軽度膨満,明らかな腹膜刺激症状は認めなかった.腹部CTで直腸からS状結腸に便塊とその近位側大腸の拡張と液体貯留を認めた.採血結果では炎症反応上昇,脱水,代謝性アシドーシスの呼吸性代償を認めた.下腹部痛増悪,呼吸苦出現,意識混濁出現したため,腸壊死もしくは腸穿孔に至ったと判断し緊急手術を施行した.開腹し腹腔内を観察したところ,便臭のある褐色腹水を認めた.結腸・回腸に菲薄化した腸管を認め,特に下部大腸の腸管粘膜は黒く,壊死像が菲薄化した腸管から透見できた.結腸全摘術を施行した.回腸断端で単孔式人工肛門を造設した.術後は心房粗動に対し除細動,エンドトキシン吸着カラムなど治療を行い,救命することができた.宿便性腸閉塞は透析患者や糖尿病を有する患者に発症しやすいが,手術に至る例は比較的少ない.文献的考察ともに報告する.