著者
吉村 健司 岡本 啓太郎 河島 毅之 和田 朋之 首藤 敬史 宮本 伸二
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.1243-1247, 2017 (Released:2017-12-30)
参考文献数
15
被引用文献数
3

86歳,女性.主訴は労作時呼吸困難.上行大動脈から腹部大動脈に及ぶ広範囲重複大動脈瘤を認めた.広範囲重複大動脈瘤に対し,上行弓部大動脈置換術,腹部デブランチ,胸部ステントグラフト留置術(TEVAR)の三期分割の方針とした.弓部置換時に左室ベントによる心尖部穿孔をきたし,フェルト補強で修復術を施行した.退院後,心尖部から左前胸部にかけて膿瘍を形成し,抗菌薬治療を開始した.2回の排膿ドレナージ術を施行したが,膿瘍は消失しなかった.各種培養は陰性であり,無菌性膿瘍として保存的加療では治療に難渋したため,心尖部大網充填術と腹部デブランチを同時施行した.術後経過は良好で,残存瘤に対しTEVARを施行することが可能となり,広範囲重複大動脈瘤の治療を完結できた.
著者
山崎 康 小澤 壯治 數野 暁人 小熊 潤也 志村 信一郎
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.21-25, 2015 (Released:2015-07-31)
参考文献数
22

症例は58歳の女性.2012年7月中旬に腹痛,嘔吐を認め近医を受診した.血液検査所見では炎症反応の上昇を認め,上部消化管内視鏡検査では食道に壁外性の圧排による内腔狭窄を認めた.CT検査では下行大動脈からの後縦隔血腫と診断され,精査加療目的に当院転院搬送となった.当院での精査の結果,胸部仮性大動脈瘤破裂の診断となり,緊急手術を施行した.術中所見では下行大動脈に8mm大の穿孔部を認めた.穿孔部を切除すると食道との間に血栓および膿瘍を認め,食道への穿孔部を視認できた.感染性大動脈瘤破裂・食道穿孔の術中診断となり,下行大動脈人工血管置換,食道縫縮術を施行した.術後第9病日に食道縫縮部位の縫合不全と診断し胸部食道切除,頸部食道瘻・胃瘻造設術を施行した.再手術後,胸腔内の持続洗浄を施行し,第51病日に退院となった.初回手術から11カ月後に胸壁前経路頸部食道胃管吻合術を施行し,現在外来通院中である.
著者
児玉 ひとみ 竹宮 孝子 斎藤 加代子 大澤 真木子 岡本 高宏
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.12, pp.2989-2994, 2011 (Released:2012-07-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1

近年,外科を選択する女性医師が増えつつある.女性外科医が妊娠・出産を望む時期と専門医取得を目指す時期はほぼ重なっている.育児と両立しながら臨床経験を積む為には,多くの問題を解決しなければならない.東京女子医科大学は日本で唯一の女子のみで構成された医科大学であり,女性医師を支援するシステムが多く存在する.今後全国的にこれら支援システムがたちあがり,ワークライフバランスの概念が浸透してゆけば,女性外科医は出産後も母親であると当時に一外科医として社会に貢献し続けることができる.
著者
高坂 佳宏 村山 弘之 中山 文彦 河内 順
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.777-780, 2010 (Released:2010-09-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 3

症例は69歳,女性.頭痛,発熱を主訴に当院受診.項部硬直を認める以外異常な神経所見はなかったが,髄液検査にて高度の細胞数上昇を認め,髄膜炎の診断にて内科に入院し,抗菌薬治療を行った.入院時の髄液培養は陰性だったが,血液培養にてStreptococcus bovisが検出されたため,軽快退院後,消化管腫瘍精査を行ったところ,S状結腸に2型の癌を認めたため外科へ再入院し,S状結腸切除術,D3郭清を施行.病理結果は中分化腺癌,ss,ly1,v1,n1,Stage IIIaであった.本邦では,Streptococcus bovisと大腸癌との関連性の認識がまだまだ低いと考えられるため,文献的知見を加えて報告する.
著者
荻野 美里 富澤 直樹 安東 立正 荒川 和久 須納瀬 豊 竹吉 泉
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.1341-1347, 2013 (Released:2013-11-25)
参考文献数
14
被引用文献数
3

神経内分泌腫瘍は肺,消化管,膵などで報告されているが肝原発は稀である.今回,肝原発神経内分泌癌を経験したので報告する.65歳男性で,平成18年に他院で食道癌切除術を受けた.病理は扁平上皮癌,pT1b(sm)N0M0 Stage Iであった.患者の希望で当院に通院していた.平成19年10月,繰り返す腸閉塞のため解除術を施行した.術前の画像診断では再発や重複癌はなかった.翌年2月,肝両葉に多数の腫瘍が出現.経皮的肝腫瘍生検では未分化癌と診断された.食道癌に準じた化学療法を行ったが,肝不全で死亡した.剖検では肝臓のほぼ全体が白色の充実性腫瘍で置換されており,chromogranin A,CD56が陽性で,MIB-1が45.8%と高値なため,肝原発神経内分泌癌と診断した.本症例では食道癌の既往があり針生検でも確定診断がつかなかったため,食道癌化学療法に準じた治療を行ったが,奏効しなかった.
著者
武内 有城
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.1909-1915, 2010 (Released:2011-01-25)
参考文献数
8
被引用文献数
4 5

Mohsペーストは塩化亜鉛を主成分とする組織固定剤で,皮膚の悪性腫瘍などのchemosurgeryに応用されている.今回,われわれは切除不能の進行乳癌で皮膚潰瘍から出血を繰り返した症例と進行肺癌の腹部皮膚転移の自壊による悪臭と浸出液,疼痛の著明な症例に使用し,有用であったので報告する.症例1は60歳代女性で,左乳癌潰瘍部(papillotubular carcinoma)からの出血後失神をきたし,緊急入院となった.乳癌は11×6×11cm,T4N3M1 Stage IVで,根治手術不能のためにホルモン化学療法を施行した.潰瘍からの出血が続くため,Mohsペーストを施行し,24時間で出血は止まり,1週間で完全壊死となり,約2週間で自己融解から自然脱落した.症例2は,60歳代男性で進行肺癌(squamous cell carcinoma,T2N2M1 Stage IV)の腹部の皮膚転移で悪臭と浸出液,疼痛が著明で,患者のQOL(quality of life)を低下させていたが,ペースト使用5日目で悪臭と浸出液は消失し,ペースト塗布と切除を繰り返して約4週間で腫瘍部は平坦化し,疼痛も軽減した.
著者
川井 廉之 星 永進 高橋 伸政 池谷 朋彦 村井 克己
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.1978-1981, 2011

症例は30歳,男性.前医にて緊張性気胸に対する胸腔ドレナージ後に血胸を呈し,医原性の血胸が疑われ当センターへ緊急搬送された.胸部X線写真にて右胸腔に大量胸水貯留を認め,ドレーンからの出血が続いていたため,血気胸の診断で胸腔鏡下緊急止血術を施行した.出血は肺尖部対側の胸壁の断裂した血管からであり,自然血気胸と診断した.術後,再膨張性肺水腫を発症したが,その後の経過は良好で,術後第7病日に軽快退院となった.自然血気胸の中には本例のように初回胸部X線写真で胸水貯留が認められない症例があり,早期の診断と治療のためには,ドレナージ後の注意深い経過観察が重要である.
著者
河口 賀彦 河野 浩二 三井 文彦 藤井 秀樹
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.1471-1476, 2010 (Released:2010-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
3 2

症例1は79歳,男性.CTで胃軸捻転症と診断し,減圧目的に胃管を挿入した.上部消化管内視鏡で胃粘膜の血流障害を認めたため,緊急手術を施行した.胃は腸間膜軸方向に捻転しており,胃全摘術を施行した.症例2は79歳の女性.CTで胃軸捻転症と診断し,減圧目的に胃管を挿入した.上部消化管内視鏡で胃粘膜の虚血性変化は認めなかったが,整復困難であったため,緊急手術を施行した.食道裂孔ヘルニア内に胃の前庭部が捻転を伴い,嵌頓していた.用手的に胃を還納し,捻転を解除した.一般に胃軸捻転症は,CT検査でその診断はほぼ可能である.治療は,胃管を挿入し減圧を図った後,上部消化管内視鏡を実施し,胃粘膜の観察と捻転の解除を試みる.捻転が解除できない場合や,粘膜の血流不全が認められる場合は緊急手術を施行する.胃軸捻転症は比較的まれな疾患であるが,上記の治療アルゴリズムにより,その診断,治療は適切に実施できると思われた.
著者
森脇 義弘 伊達 康一郎 長谷川 聡 内田 敬二 山本 俊郎 杉山 貢
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.1701-1705, 2001

キックスケート(車輪付きデッキ,シャフト,ハンドルバーから構成される遊戯具)による肝損傷で病院前心肺停止状態(CPA-OA)となり救命しえなかった症例を経験した.症例は, 9歳,男児,同遊戯具で走行中転倒しハンドルバーで右側胸部を強打.救急隊現場到着時,不穏状態で呼名に反応せず,血圧測定不能,搬送途中呼吸状態,意識レベル悪化,受傷後約30分で当センター到着, CPA-OAであった.腹部は軽度膨隆,右肋弓に6mmの圧挫痕を認めた.急速輸液,開胸心臓マッサージにより蘇生に成功した.肝破裂と腹腔内出血の増加,血液凝固異常,著しいアシドーシスを認めた.胸部下行大動脈遮断し,救急通報後78分,搬送後46分で緊急手術を施行した.肝右葉の深在性の複雑な破裂損傷に対しperihepatic packing,右肝動脈,門脈右枝結紮術を施行,集中治療室へ入室したが受傷後約15時間で死亡した.
著者
中山 隆盛 白石 好 西海 孝男 森 俊治 磯部 潔 古田 凱亮
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.12, pp.3052-3056, 2002

前立腺癌は,日本において死亡増加率が最も高く,今後の動向は重要である.われわれは,直腸狭窄により発見された稀な前立腺癌を報告する.<br> 症例は, 73歳の男性.主訴は排便困難であり,直腸癌疑いにて紹介入院となった.大腸内視鏡および注腸にて,直腸の全周性狭窄像を認めた.尿路症状を認めないものの, PSA (prostate specific antigen)が高値であり,骨転移が認められた.前立腺生検により,原発前立腺癌の確定診断となった.内分泌療法および放射線療法が奏効し,直腸狭窄は解除され,外来で内分泌療法中である.
著者
小原 啓 青木 貴徳 矢吹 英彦 稲葉 聡 新居 利英 浅井 慶子
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.1470-1474, 2008 (Released:2008-12-05)
参考文献数
40
被引用文献数
3 2

胆管との交通を認めたため肝切除術を施行した感染性肝嚢胞の1例を経験した.患者は82歳,女性.平成14年7月感染性肝嚢胞に対する経皮的ドレナージ術を施行している.平成17年11月発熱,右季肋部痛を主訴に当院救急外来を受診,CT検査で多発肝嚢胞を認め,1カ所がair densityを伴い鏡面像を形成していた.感染性肝嚢胞の再発と診断し入院,同日経皮経肝的ドレナージ術を施行した.症状は軽快したが,造影検査で肝内胆管と嚢胞の交通を認めたため肝切除術を施行,病理診断は単純性嚢胞であった.術後,肝切除断端に膿瘍を形成し経皮的ドレナージを行ったが,その後は問題なく現在外来通院中である.
著者
萩原 千恵 北川 大 堀口 慎一郎 山下 年成 黒井 克昌
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.8, pp.2130-2135, 2014 (Released:2015-02-28)
参考文献数
22
被引用文献数
1

乳腺matrix producing carcinoma (以下MPC)の2症例を経験したので報告する.症例1は51歳女性.左乳癌T2N0M0 Stage IIAの診断で乳房切除術+センチネルリンパ節生検を施行した.病理診断はMPC,pT2,ER(-),PgR(-),HER2(-),sn0/2.術後TC療法を4コース施行し,術後4年5カ月の時点で無再発生存中である.症例2は48歳女性.左乳癌T1N0M0 Stage Iの診断で乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検を施行した.病理診断はMPC,pT2,ER(-),PgR(-),HER2(-),sn0/4.術後,治験(BEATRICE試験)に参加し,EC療法4コースとBevacizumabを投与したが,術後12カ月で多発肺・骨・肝転移が出現した.その後,weekly paclitaxelを開始したが奏効せず術後1年6カ月で永眠された.
著者
柳清 洋佑 馬渡 徹 黒田 陽介 桑木 賢次 森下 清文 渡辺 敦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.2659-2662, 2009 (Released:2010-02-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1 1

片肺換気が困難な気胸症例に対し,体外循環補助下に手術を施行した1例を経験したので報告する.症例は34歳,女性.32歳時に肺気腫を指摘された.右気胸を繰り返し,3回の外科的処置を施行されたが右肺の拡張不全が残存した状態であった.34歳時に左側気胸を発症し,気瘻および肺虚脱が持続する為に外科的治療を行うこととした.術前から呼吸状態不良であり,術中片肺換気では酸素化を維持できないと予想されたため,静脈─静脈バイパスによるExtra-Corporeal Lung Assistを用いて手術を行うこととした.右大腿静脈および右頸静脈にカニューレを挿入し体外循環下に片肺換気とし,左側のbulla切除を行った.術後経過は良好であり在宅酸素療法指導後,第21日病日に自宅退院した.低肺機能の患者でも肺手術を行わざるを得ないことも少なくは無く,本症例を通じて体外循環補助下の気胸手術に関して考察を加える.
著者
濵田 隆志 藤田 文彦 山下 万平 虎島 泰洋 黒木 保 江口 晋
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.1706-1709, 2015 (Released:2016-01-30)
参考文献数
11

Ehlers-Danlos syndrome(以下EDS)は皮膚過伸展,関節過可動性,皮膚と血管の脆弱性を3主徴とする遺伝性結合織疾患である.今回,癒着性イレウスにより多発小腸憩室を形成したEDSの1例を経験したので報告する.症例は50代,男性.開腹術後の癒着性イレウスで入院中,状態悪化し当院紹介.腹部CTで遊離ガスを認め消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した.前回の手術創直下に癒着による小腸狭窄あり.狭窄部口側小腸は拡張し多発憩室を認め,そのうち一つは腸間膜に穿通し炎症性に硬化していた.EDSによる組織脆弱性から小腸切除および吻合は不適と判断し,癒着剥離によるイレウス解除術のみ行った.本症例は組織の膨張に対する歯止めの役割をもつIII型コラーゲンの減少が特徴であるEDS IV型と考えられた.そのため,組織脆弱性から閉塞部より口側腸管の内圧上昇によって組織が膨張し,多数憩室を形成したと推測された.
著者
竹之下 誠一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.1539-1548, 2015 (Released:2016-01-30)
参考文献数
18

外科の臨床医として,外科医のアドヴァンテージを最大限に生かした臨床に直結する取り組みを行ってきた.様々な分野におけるパラダイムシフトとわれわれの歩みをふり返り,若い外科医へのメッセージとなりえるか,「外科の美学」という観点から考証した.1970年代の生化学的な手法に始まり,遺伝子工学の勃興時代,ポストゲノム,など相次ぐ研究のパラダイムシフトの中で,これらに即応し,2007年から,臨床検体と情報を基にした,「遺伝子発現解析を活用した個別癌医療の実現と抗癌剤開発の加速」を開始した.2012年には,福島の震災復興事業の一つとして,「福島医薬品関連産業支援拠点化事業」と継続的に発展している.福島県は,医療立県構想のもと,「臨床材料と臨床情報」を産業界で活用できる技術と体制の確立を目指してきた.医産連携「福島モデル」は,薬剤支援領域と医療機器支援領域の二本立てになっている.
著者
松下 尚之 磯貝 雅裕 近藤 圭一郎 福永 剛隆 北村 信夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.2506-2508, 1998
被引用文献数
1

小腸大量切除施行後の縫合不全の為,長期間経口摂取ができない甲状腺全摘後の症例に対し,経直腸的に坐薬として甲状腺ホルモン剤(チラージンS,甲状腺末)の投与を行った.当初,内服と同じ量のチラージンSを粉末にし坐薬の形で使用したが,血中のf-T4, f-T3濃度は上昇しなかった.そこで甲状腺末200mgから300mgを坐薬とし使用したところ,血中f-T4, f-T3濃度は上昇してきた.坐薬挿入前後に急な血中濃度の変化は無かった.本症例では,術前T4(チラージンS<sup>®</sup>)として150μgを使用しeu-thyroidを保っていたが,今回経直腸的には甲状腺末が200~300mg必要であった.この量は,チラージンS 150μgの2~3倍に相当する.経直腸的に比較的大量の甲状腺ホルモン剤が必要であったのは薬剤の吸収がただ単に悪いというだけではなく,時折,便秘と下痢を繰り返す状況にあったこともその吸収において影響したものと思われる.
著者
河野 恵美子 奥野 敏隆 長谷川 寛 京極 高久 高峰 義和 林 雅造
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.2974-2978, 2007-12-25 (Released:2008-08-08)
参考文献数
11

乳癌術後13×8cmの皮膚欠損創に対し, ラップ療法で治癒した1例を経験したので報告する. 症例は55歳, 女性. 左乳房に15×25×5cm大のカリフラワー様の腫瘍を認め, 乳癌の診断で左乳房切除術を施行した. 第5肋骨の露出を伴う13×8cm大の皮膚欠損創となったが, 創感染のリスクが高いと判断し, 一期的遊離皮膚移植は行わず, 水道水による洗浄後, ポリ塩化ビニリデン製食品包装用ラップフィルムを用いた開放ドレッシング (ラップ療法) を続けた. 術後8日目に肉芽増生が開始し, 17日目には平坦化した. 上皮化は14日目に縦方向, 37日目に横方向が開始したが, 次第に停滞したため, 57日目よりステロイド外用剤を使用したところ, 翌週には, 潰瘍の辺縁に上皮化を認め, 以後1週間に1cmのスピードで上皮化が進み, 約2カ月でほぼ治癒となった. 以上より, ラップ療法は10cm以上の大きな皮膚欠損創でさえも治癒することができる優れた治療法であると考える.
著者
八幡 和憲 種村 廣巳 大下 裕夫 足立 尊仁 山田 誠 波頭 経明
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.473-477, 2013 (Released:2013-08-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

症例は74歳女性,海外渡航歴無し.腹痛,便秘にて前医受診し,下部消化管内視鏡検査にて上行結腸に全周性2型の腫瘍を認め,生検にて中分化型腺癌と診断された.この検査時,腫瘍より口側の上行結腸内に白色扁平な紐状物を発見し,条虫と思われた.手術目的に当科に紹介受診,術前に条虫を駆除する必要があると判断し,透視下にガストログラフィン300mlを十二指腸内に注入して約3m長の虫体を生きたまま排泄・駆除した.頭節まで完全に排泄されていることを確認し,頭節や虫卵の形態等から日本海裂頭条虫と思われた.その後,結腸右半切除,D3リンパ節郭清術を施行した.術後最終診断はtub2,SS,N3,H0,P0,M0,stage IIIbだった.経過は良好で,術後14日目に退院した.消化器手術の術前に腸管条虫症を認めた際は確実な駆虫後に手術を施行することが重要であると思われた.
著者
山本 悠太 平栗 学 前田 知香 水上 佳樹 堀米 直人 金子 源吾
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.70-73, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

症例は60歳の男性.6年10カ月前に辺縁性歯周炎に対して全抜歯を施行され,総義歯であった.1月初旬,起床時からの腹痛・嘔吐を主訴に救急外来を受診した.CT検査で回腸末端に30×22×6mmの高吸収を呈する直方体の異物を認め,同部位より口側の回腸の拡張を認めた.前日に義歯を装着せずに汁粉の餅を丸飲みしていたことから,餅による食餌性イレウスと診断した.腹膜刺激症状や発熱を認めず,腸管の拡張が軽度で虚血を疑う所見も認めなかったことから,絶飲食,補液に加え,でんぷん・蛋白質などの消化酵素複合剤の内服による保存的治療の方針とした.入院3日目に腹痛の消失,排便が認められた.腹部CTで回腸末端の餅および口側の拡張は消失し,結腸内に餅片と思われる高吸収構造を認めた.餅による食餌性イレウスは比較的稀な疾患であり,総合消化酵素剤を用いた保存的加療が有用である.
著者
伊藤 喜介 平松 和洋 加藤 岳人 柴田 佳久 吉原 基 青葉 太郎
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.79, no.9, pp.1890-1895, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
17

症例は71歳,女性.特記すべき既往歴なし.10年前から緩徐に増大する腹部腫瘤を主訴に当院を受診した.腫瘤は児頭大で表面平滑,可動性は良好であった.腹部CT・MRIにて,膵鈎部尾側に接した10cm大の造影効果のある二層に分かれた境界明瞭な腫瘤を認めた.Castleman病などの良性腫瘍を疑い開腹術を施行した.腫瘤は横行結腸間膜と連続性を認めたが,腫瘍の栄養血管のみを処理し,被膜を損傷することなく摘出した.病理組織学的検査の結果,内側は濾胞樹状細胞腫,外側はHV型Castleman病と診断した.二層に分かれるような発生形態を呈した,腹腔内原発の濾胞樹状細胞腫を伴うCastleman病の報告例はみられないため報告する.