著者
三田 有紀子 近藤 沙歩 米澤 真季 大島 千穂 續 順子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.194, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】味覚には様々な因子が影響することが知られており、女性では性周期もその一因とされている。一方、味覚に影響を与える大きな要因として運動も挙げられるが、女性に欠かせない性周期の下で運動が味覚に影響するかどうかは報告が少ない。そこで本研究では、女性を対象とした性周期に伴う味覚感受性の変化と運動との関連性を明らかにすることを目的として、運動経験や運動習慣に着目し、これらが各月経周期で味覚感受性にどのような影響を与えるか検討した。【方法】実験内容に承諾を得られた被験者を過去現在においてともに運動習慣がない者(対照群10名)、過去に運動習慣があり、現在運動習慣がない者(経験群11名)、過去現在両方において運動習慣がある者(習慣群10名)に分けて検討した。被験者には、生活習慣・食習慣・口腔状態、月経、運動習慣に関するアンケート調査と食物摂取頻度調査、身体計測、唾液試験、味覚試験を行った。唾液試験、味覚試験は基礎体温を基に月経期・卵胞期・排卵期・黄体期に分けたそれぞれの時期に実施し、味覚試験は全口腔法および濾紙ディスク法の2種類とした。【結果・考察】運動習慣別に比較したところ、習慣群の味覚感受性は他の群と比べて卵胞期における塩味、酸味で鈍化し、同様の傾向が月経期、卵胞期の甘味、旨味でもみられ、黄体期の苦味では鋭敏になった。一方、月経周期別に各群で比較した結果、習慣群の酸味感受性が排卵期と比べて卵胞期で鈍化したが、対照群、経験群には月経周期による影響がみられなかった。以上の結果から、運動習慣を持つ者は運動による味覚感受性の変化が恒常的にあらわれる可能性があり、女性では月経周期によってその傾向が異なることが示唆された。
著者
岩村 もと子 三宅 紀子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.170, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】タケノコは和食の特徴である旬を感じさせる食材のひとつである。海外からの安価なタケノコの輸入の増加などにより、水煮タケノコの利用はあるものの、家庭での生鮮タケノコからの調理が少なくなってきている。各地で放置竹林も問題となっている。多くの調理書などではタケノコのあく抜きは米ぬかを用いた方法が示されているが、本研究ではタケノコの簡便なあく抜きの方法について検討した。【方法】日本におけるこれまでのタケノコのあく抜き法について文献調査を行い、アジアの国々についても、在留外国人に聞き取り調査を行った。次にあく抜き方法について検討を行った。タケノコは2015年4月、鎌倉市内の竹林で採取し、収穫3日後のものを用いた。10%米ぬか、0.3%重曹、50%牛乳、アルカリイオン水、1.75%そば粉(そば湯)を用いてゆで、ゆで汁に浸漬して冷却し、水洗い後15時間水に浸漬したものを試料とした。20歳代のパネル(女性31名)により、えぐ味の強さ、硬さ、色・香り・食感の好みなどの評価項目について5段階の評点法を用いて官能評価を実施した。【結果】文献調査の結果、日本でのあく抜き法として、何も添加せずにゆでる「湯煮」が長く行われてきたが、明治末期には婦人総合誌に米ぬかを用いた方法が記載されていた。また、アジアの国々においても「水でゆでる」「塩水でゆでる」が多かった。収穫後時間の経過したものはあく抜きが必要となるが、官能評価の結果、いずれの方法においてもえぐ味の強さに差は認められなかったが、色の好みおよび硬さについて有意差が認められ、重曹を用いた試料での褐色化および組織の軟化によるものと考えられた。米ぬかを含めていずれの方法によってもあく抜きが可能であることが示唆された。
著者
チャン レニー
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.29, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】サンマのエイコサぺンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)(それぞれ心臓病予防、脳機能改善に効果がある)は加熱調理により減少するとの報告があるが、その減少メカニズムに関する詳しい研究は行われていない。本研究の目的は、3つの調理方法(フライ・グリル・フライパン調理)において、調理後のサンマのEPAとDHAの保持率を測定し、その減少メカニズムを明らかにすることである。【方法】サンマを3つの調理方法を用いて、中心温度が75、85、95°Cになるまで加熱した。サンマの温度は、中心等の6か所(可視化のための分布計測時は最大23か所)を熱電対により測定した。化学分析では、調理前後のサンマのEPA・DHA成分と脂質酸化の程度(カルボニル・TBA値)を測定した。【結果】フライ、グリル、フライパン調理時のEPA保持率はそれぞれ 43、77、91%であり、DHAではそれぞれ48, 75, 99% であった。各調理方法において、中心温度の違いによる保持率の有意差はなかった。フライ調理時は、サンマの表層部の温度は調理開始後すぐに約200°C(EPA・DHAの分解温度)に達し、表層部にEPA・DHAが最も多く存在することから、主な減少メカニズムは加熱分解であると考えられる。一方、グリル調理時は、EPA・DHAが多く含まれる脂が多く飛散しており、脂の飛散が保持率低下の主な要因であることがわかった。フライパン調理時は、保持率が最も高かった。脂の飛散が少なく内部温度はフライ調理時ほど高くないことが、その要因と考えられる。調理方法の違いによる、脂質酸化の測定結果に有意差はなかった。EPA・DHA保持率は、フライ>グリル>フライパン調理の順であり、減少メカニズムはそれぞれ脂の飛散と加熱分解(両方少量)、脂の飛散、加熱分解と考えられる。
著者
毛 偉傑 李 暁龍 福岡 美香 酒井 昇
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.20, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】タンパク質の熱変性に伴ってエビ肉は物理的および化学的変化を起こすことが良く知られている。変性の指標として肉の筋原繊維タンパク質のCa2+-ATPase活性の変化がすでに多く報告されている。しかし食品工学の手法で求めたタンパク質の変性率と化学変化の関連がまだ解明されていない。そこで本研究ではエビ肉の加熱におけるタンパク質の変性率とCa2+-ATPase活性および溶解性の変化の相関関係について検討を行った。【方法】車エビ(Marsupenaeus japonicus)を試料として示差走査熱量分析(DSC)でタンパク質熱変性パラメーターを測定し、伝熱ならびに速度解析により、加熱途上の1尾内のタンパク質の変性分布を計算した。また加熱処理を施したエビのCa2+-ATPase活性および溶解性の変化を測定し、タンパク質変性率との相関を調べた。【結果】DSCダイナミック法で車エビタンパク質のミオシンおよびアクチンの変性速度パラメーター(活性化エネルギー、頻度因子)を決定し、エビ1尾内の加熱(51℃および85℃)に伴う変性分布を計算したところ、両加熱条件においてタンパク質の変性分布が不均一に形成されることが示された。51℃の恒温水槽で加熱した場合、加熱時間の延長と共にミオシンの変性は緩やかに進行するが、アクチンは変性しなかった。85℃で加熱すると、ミオシンは160秒で、アクチンは495秒で完全に変性した。Ca2+ -ATPase活性が両方の温度で加熱時間の増加に伴って減少し、タンパク質の変性率に関連することが見出された。タンパク質の各種溶媒に対する溶解度も平均タンパク質変性度と強く相関することが見出された。
著者
片山 佳子 上野 慎太郎
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.147, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】マテ茶は南米のイグアスの滝周辺を原産とするモチノキ科の植物「イェルバ・マテ」の葉や枝を茶葉に加工し水またはお湯で抽出した飲料である。マテ茶はミネラル、ビタミン、ポリフェノールそして食物繊維を豊富に含むため「飲むサラダ」と言われている。その機能性は多岐に渡り、抗酸化、抗肥満作用がある。また鉄と化合し腸内吸収を妨げるタンニンやカフェインのような刺激性のアルカロイドが少ないのもマテ茶の特徴の一つである。南米人の年間食肉消費量は多く、日本人に比べ3~5倍の食肉を摂取しているにも関わらず体の抗酸化が原因で起こる癌などは日本人の約半分以下である。これは南米人がマテ茶を多く摂取しているためではないかと考えられている。本研究ではマテ茶のポリフェノールと鉄の定量を行うとともに抗酸化活性測定を行い、緑茶や烏龍茶と比較検討することを目的とした。 【方法】茶葉10gを80℃、20℃の水で10分間抽出し、試料溶液とした。鉄分量の測定は1.10-フェナントロリン法にて、ポリフェノール量の測定は、Folin-Denis法にて行った。抗酸化活性はラジカル消去能をDPPH法で測定し、DPPHラジカル消去活性はTrolox相当量として算出した。 【結果】鉄分量は、グリーンマテ茶が最も高い結果となった。ポリフェノール量および抗酸化活性においてもマテ茶が緑茶や烏龍茶よりも高い数値を示した。そして、抽出温度が高いほどポリフェノール量や抗酸化活性は高い値を示した。これは水溶性の抗酸化物質であるポリフェノールが多く溶出されたためと考えられた。またポリフェノール量が多いほど高い抗酸化活性を示したことから両者には相関性があり(R=0.995)、マテ茶の抗酸化活性はポリフェノールが主体であると考えられた。このことから、マテ茶は緑茶や烏龍茶よりも体の酸化を防ぐために有効な飲料であることが示唆された。
著者
小川 眞紀子 山本 いず美 北畠 直文 早川 茂
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.144, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】希少糖D-プシコース(以下Psi)は、エネルギー値がほぼゼロのノンカロリー単糖で、保水性が高く、メイラード反応が進みやすいことから、食品素材として特にベーカリー食品への利用が期待されている。本研究では、ハードタイプのクッキーであるショートブレッド(以下SB)とソフトタイプのクッキーであるソフトクッキー(以下SC)にPsiが適しているか否かを、ショ糖とPsiとの配合割合を換え、物性測定と官能評価により検討することを目的とした。【方法】ショ糖のみをコントロール(C)とし、ショ糖に置き換えてPsiを10%(P10)、20%(P20)、30%(P30)に配合した4種類のSB及びSCを作製し、物性測定と官能評価を行った。物性測定は、高さ測定および破断強度を測定した。官能評価は、軟らかさ、しっとり感など10の評価項目についてSD法で官能評価を行った。【結果】SB、SCともに焼き色は、C、P10、P20、P30の順に濃くなった。高さは、SBはC、P10、P20、P30の順に、SCではC、P10、P30、P20、の順に高くなった。破断強度測定から、SBはPsiの割合が多いほど破断変形は有意に高くなり、破断応力は有意に低く、破断歪率は有意に高くなった。SBは、Psiの割合が多いほど脆くて軟らかい特徴がSCよりも顕著であった。官能評価の結果から、テクスチャーはC、P10、P20、P30の順に軟らかいと感じた人が多かった。総合評価では、いずれもCよりもP10とP20で高い評価となった。今回の結果から、ショ糖の1~2割程度をPsiに置き換えることで、物性的にも嗜好的にも好ましいクッキー様焼菓子を作ることが可能であることが示唆された。
著者
古谷 彰子 三星 沙織 平尾 和子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.50, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】大麦種子には水溶性多糖類の(1,3)(1,4)-β-グルカン(β-グルカンと略)が胚乳部細胞壁に分布しており,血中コレステロールや血糖値,中性脂肪の低下作用,アレルギー反応を鎮め,ガンなどの腫瘍を抑える効果などが報告されている。近年,アメリカ(FFA)やフランス(EFSA)でもヘルスクレームの許可が試みられており,国際的にも注目の栄養素である。しかし,大麦は茹でる調理法(湯取り法)が主流であり,喫食時のβ-グルカンの大幅な損失が否めない。本実験では大麦を用い,その調理法を変化させてβ-グルカン含量を定量し,より美味しく損失の少ない調理法を検討した。【方法】大麦はうるち種押麦(カナリヤ 業務用,永倉精麦(株))を使用した。調理器具は炊飯器(Panasonic SR-HD103)を用い,炊き干し法と湯取り法の2種の調理法を用いた。炊き干し法の最適加水量は,順位法による官能評価により決定した。湯取り法の加熱条件は押し麦の5倍量(重量比)を加水し,物性測定を行って,炊き干し法と同様の硬さが再現できる加熱時間とした。双方のβ-グルカン量をAOAC公定法のβ-グルカン測定キット(Megazyme社)を使用して定量し比較した。物性測定は,テンシプレッサー(My BoyⅡ,㈲タケトモ電機製)を用いて1粒法による低・高圧縮測定・解析をした。【結果】加水量2倍および3倍の炊き干し法炊飯押麦飯はすべての項目で加水量1倍よりも有意に好まれた。炊き干し法では加水量の違いによるβ-グルカン量の差が見られなかったが,湯取り法では炊き干し法と比較して有意に減少し,加水量の増加に伴い減少の割合が高くなった。以上より,押麦のβ-グルカンの損失を少なくし,効率よく美味しく喫食するためは炊き干し法が効果的であった。湯取り法を使用する場合は,麦の3倍量(重量比)程度まで加水量を少なくして茹で, 炊き干し法に近似の方法で調理することにより, β-グルカンの損失を防ぐことが可能と考えられた。
著者
石川 匡子 内田 詩乃 佐藤 春香 伊藤 俊彦 渡辺 隆幸
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.105, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】生活習慣病のため,減塩が推奨されており,おいしさを損なわない減塩には,うま味や風味の付与が有効だと言われている。日本の伝統調味料である魚醤はその両方を有しており,減塩に効果があるのではないかと考えた。しかし魚醤は魚種や製造法により,その特性は多種多様である。本研究では市販魚醤の成分分析,官能評価を行い,減塩に対する魚醤の効果について検討した。 【方法】市販魚醤33種を用い,塩分,アミノ酸,有機酸、グルコース測定を行った。香りをSD法により評価した。有機酸及びアミノ酸組成に特徴的な5種類の魚醤を塩分濃度0.8%に調整し,一対比較法にて官能評価を行った。また,醤油ベースのお吸い物と魚醤を添加したものを2点比較法にて評価し,調理への利用についても検討した。 【結果】各魚醤の製法は,魚介類と塩のみを原料としたもの,これらに麹や酵素を加えたものの2種に大別された。魚介類と塩のみで製造された魚醤の塩分濃度は,25%以上と高かった。一方麹や酵素を添加した魚醤は20%未満と低かった。アミノ酸はいずれの魚醤もAsp,Glu,Gly,Ala,Leu,Lysが多く含まれていたが,麹添加魚醤のGlu量はわずかに少ない傾向がみられた。グルコース濃度は麹添加魚醤で高かった。香りは魚介類と食塩のみで製造したものは,製品毎に独特の香りが感じられたが,麹添加魚醤は麹由来の甘い香りであった。官能評価の結果、GluやAlaが多い魚醤はうま味や甘味が強く,乳酸が多い魚醤は酸味が強く感じられた。一方,乳酸量が多くてもGluやAlaが多い魚醤では酸味が弱く感じられた。うま味や甘味が強い魚醤はお吸い物に添加した場合,好ましく感じられる傾向にあり,魚醤の添加量を工夫することで,減塩調味料として料理への利用が期待できる。
著者
小俣 翔子 川上 陽子 下鳥 春奈 北林 紘 山崎 貴子 岩森 大 伊藤 直子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.55, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】加工食品には食品添加物として、無機リン化合物が使用されていることが多く、これらは有機リン化合物に比べ、消化吸収率がよいことが知られている。患者にとって、リンの過剰摂取は高リン血症を惹起するため、食品添加物の含有に留意する必要があるが、原材料表示からはリン含有の有無はわかりにくい。我々は、食パンの総リン量、水溶性リン(無機リンの含有が高い)及び不溶性リン(有機リンの含有が高い)量を調べた。【方法】 市販食パン及び透析患者用のタンパク質調整食パンを破砕後、水で懸濁し、遠心分離して水溶性画分と不溶性画分に分離した。これらの画分と無処理の食パンをそれぞれ灰化し、バナドモリブデン酸吸光光度法にてリン量を測定した。その後リンを用いている可能性の高い食品添加物(イーストフード・乳化剤)の有無でリン量を比較した。【結果】タンパク質調整食パンの総リン量と水溶性リン量は、市販食パンの平均に比べるとそれぞれ約54%、31%であった。市販食パンにおいて食品添加物の有無で総リン量を比較すると、有意差はみられなかったが、可溶性リン量は食品添加物含有食パンのほうが有意に多かった。また、可溶性リン、不溶性リンの推定吸収率をそれぞれ90%、50%として試算すると、食品添加物が添加されている食パンのほうが有意に多かった。【考察】市販食パンにおいてリン量には有意差はなかったものの、食品添加物としてイーストフード、乳化剤を含有している食パンでは推定吸収率が高いことが示唆され、腎臓病患者はこれらの含有には注意する必要があると考えられる。しかしパッケージには、いずれもリンの記載はなく、リン含有のわかる記載が望まれる。
著者
吉田 恵子 伊部 さちえ 古庄 律 四十院 成子 岡本 洋子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.61, 2015 (Released:2015-08-24)
被引用文献数
1

【目的】現在の「調理学」の教科書に記載されている豆類の吸水率は、1983年に松元文子先生によって作成されたものがほとんどである。演者らは改めて各種豆類(大豆など7種類)について吸水率を測定し新データを作ることを目的とした。また大豆を調理するときに、0.3%重曹水中で調理するとアルカリにより大豆中のビタミンB1が減少するという記述も、多くの教科書に記述されている。ビタミンB1は水溶性であり、アルカリで分解されるというデータはあるが、大豆中のB1が重曹添加で減少するという報告はみあたらない。そこで大豆の調理方法とビタミンB1量の関連についても検討することを目的とした。【方法】吸水率の測定には、黒大豆、大豆、大福豆、金時豆、うずら豆、ささげ、小豆を用い、水に浸漬後2時間ごとに24時間吸水量を測定した。調理方法によるビタミンB1量については、丹波錦白大豆を用い、水中加熱、1%食塩水中加熱、0.3%重曹水中加熱を行った豆について、pHを測定後、ビタミンB1量を定量した。定量方法は前処理後、TSKgel Amide-80カラムを用いHPLC で定量した。【結果】吸水率:7種の豆類のうち吸水率の高かった豆は黒大豆で、他の豆類も以前のデータとは異なる挙動を示した。ささげは小豆と違い種瘤からのみではなく、表皮全体から吸水され吸水曲線のカーブも大豆に似ていた。3種の調理方法による大豆のビタミンB1量:水煮での煮豆、1%食塩水での煮豆、0.3%重曹水での煮豆ともに、生の時の約30%に減少した。この減少は添加物の影響はなく、調理することにより水溶性であるビタミンB1が煮汁などに溶出したためと熱で分解したものと推察される。
著者
山本 亜衣 吉岡 慶子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.65, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】キウイフルーツは、タンパク質分解酵素アクチニジンを含み、食肉をその果汁に浸漬すると、アクトミオシンおよびコラーゲンを分解して肉質の軟化に作用する。本研究では豚肉をキウイ果汁に浸漬し、加熱豚肉の物性測定、組織観察および官能評価を行い、豚肉への軟化効果と嚥下調整食への応用性を検討した。【方法】試料調製:キウイフルーツはHayward種を用い、ミキサーで砕切してろ過し、キウイ果汁とした。試料肉は、豚ロース肉(LWD種)を厚さ15mmに切り、肉重量の50%のキウイ果汁に浸漬し、3時間、24時間浸漬保存した。浸漬後、過熱水蒸気オーブンで中心温度が80℃に達するまで8分-10分加熱した。物性測定:テンシプレッサー、卓上型物性測定器でテクスチャー試験を行った。組織観察:試料肉片を化学固定し、走査型電子顕微鏡(S-3000N)で観察した。官能評価:栄養科学部学生17名で評点尺度法で官能評価を行った。【結果】加熱肉のかたさは未処理肉、3時間、24時間の順に浸漬時間の経過に伴って軟らかい性状を示した。組織観察において、3時間浸漬肉ではコラーゲンの細い線維は消失し、太い線維の残存がみられ、24時間ではいずれのコラーゲン線維もほとんど認められなかった。官能評価では未処理肉の方が外観、食味が良く、弾力があると評価された。肉質の軟らかさ、噛み切り易さの項目では、未処理肉に比べ、浸漬処理肉の方が、軟らかく、噛み切り易いと評価された。さらに、薄切り肉やひき肉などの肉片の形状と酵素作用時間などの調理条件の検討により嚥下調整食への応用が可能であった。
著者
安藤 真美 北尾 悟 小幡 明雄
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.67, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】生醤油は、製造工程において火入れ(加熱処理)を行っていないため、鮮やかな色や風味が豊かである特徴を有している。また酵素類が失活していないため、食材に対してたんぱく質分解作用などを活用することも期待できる。これまでにイカ肉を生醤油に漬けると、肉質が柔らかくなり、官能評価でも有意に好まれる結果を得た1)。そこで、本研究では、肉料理に醤油が使われることが多い現状をふまえ、生醤油の牛肉に対する調理特性を調べた。【方法】比較的均一な肉質である牛もも肉(国産)を、100%または50%濃度にした濃口生醤油(試験区:キッコーマン製)または濃口醤油(対照区:キッコーマン製)に25℃で8時間または20時間浸漬後、未加熱および加熱(沸騰水中2分)したものを分析に用いた。分析項目は、プロテアーゼ活性(しょうゆ試験法)、色調(測色色差計)、破断応力(レオメーター)、食塩量(伝導度式塩分計)、アミノ酸量(アミノ酸分析計)、たんぱく質組成(SDS-PAGE)、および官能検査(評点法)である。【結果】未加熱の場合、浸漬後の牛肉の塩分量に比例して硬くなったが、どの条件でも試験区の方が柔らかかった。加熱の場合も同様に塩分量に比例して硬くなったが、50%濃度では試験区の方が対照区よりも柔らかかった。軟化の原因は、遊離アミノ酸量およびSDS-PAGEの結果から、食塩による脱水ではなく、たんぱく質分解酵素に起因するものと推察された。100%濃度で20時間浸漬した試料と、50%濃度で8時間浸漬した試料について官能評価を実施したところ、香り・やわらかさ、おいしさ(総合評価)において試験区のほうが高い評価であった。実際の調理に応用するために、醤油濃度・浸漬時間および温度などの詳細な検討が必要である。1)2014年度日本食生活学会
著者
西村 知紗 吉岡 智史 柳澤 琢也
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.174, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】野菜に含まれる苦味成分であるポリフェノール、アルカロイドは、近年その健康機能が注目されており、多くの報告がなされている。しかし、一般に野菜の苦味に対する受容性は高くないため、野菜の摂取不足の一因と考えられる。野菜の苦味を低減することは野菜の摂取量を増やし、結果として人々の健康に寄与することができると考えた。本研究では苦味低減にマヨネーズが有効であること、およびその作用機序を明らかにすることを目的とした。【方法】対象とする野菜としては苦味が嗜好性を低下させている要因と考えられるゴーヤおよびピーマンを選択した。これら野菜に対するマヨネーズの苦味低減効果について、マヨネーズおよび食用植物油で加熱調理した試料の官能評価を行った。また、マヨネーズ添加区、無添加区の試料について、味認識装置による苦味評価を実施した。さらに、苦味低減効果の作用機序を明らかにするため、マヨネーズ原料である油脂、食酢、卵の苦味低減効果を評価した。【結果】ゴーヤ、ピーマンをマヨネーズで加熱調理した試料は、植物油を用いた試料と比較して、より苦味が低減していることが官能評価により明らかとなった。また、味認識装置による苦味の評価では、マヨネーズ添加区は無添加区と比較して明らかに低い値を示した。これらの結果から、マヨネーズは野菜の苦味低減に有効であることが示唆された。この作用機序として、マヨネーズ中の乳化粒子がゴーヤ、ピーマンの苦味成分を吸着している可能性が考えられた。この仮説を確認するため、マヨネーズ原料の油脂、食酢、卵での苦味低減効果を現在、確認中である。これらの原料よりもマヨネーズの効果が高い場合には、乳化粒子の寄与が高いことが示唆される。
著者
山﨑 薫 石神 優紀子 綿貫(吉澤) 仁美 奈良 一寛 池田 加奈 飛川 由梨枝 田中 友里恵
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.141, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】自然界には多くの有用微生物が存在し,近年,自家製の天然酵母を使用したパン作りが注目されている。そこで,自然豊かな本学町田校舎敷地内に生息する野草から野生酵母を採取することを目的とし,パン製作への応用を検討した。【方法】試料に本学の敷地内から採取した12種類の野草を用い,各試料を1.0%糖液に浸け,30℃で24~48時間培養後,普通ブイヨン寒天培地等にて培養,目視にて形状別にコロニーを釣菌し,液体培地に培養,酵母様の細菌が単一になるまで寒天培地から釣菌,液体培地への培養を繰り返し行い,目的の酵母を単離した。単一になった菌は形状や構造などを肉眼・顕微鏡観察,カタラーゼ活性試験等を行った。加えて,糖の資化性試験を行った。市販ドライイーストを比較対照のためにポジティブコントロールとして使用した。単離野生酵母を食品(パン)に応用するために,市販温州ミカンを活用した自家製天然酵母パンの製作方法を参考に,市販温州ミカン発酵液+ノアザミ酵母(本学敷地内より分離)発酵液を調整し,実際にパン製作をして市販ドライイーストで製作したパンと比較した。【結果】一試料から平均3~5種の形状が異なるコロニーを確認し,野草から7種の酵母様の細菌を採取した。糖資化性テストの結果,いずれも病原細菌ではないことが明らかになった。単離ノアザミ酵母発酵液に市販温州ミカン発酵液も併用した自家製天然酵母パン製作を行ったところ,発酵時間は市販ドライイーストを用いた場合の約3倍近くかかったが,ドライイースト利用時に劣らない発酵力が認められた。今後は単離した野生酵母のみにて,パン製作に必要な発酵力を持たせる条件を探索していく予定である。
著者
坂本 薫 森井 沙衣子 井崎 栞奈 小川 麻衣 白杉(片岡) 直子 鈴木 道隆 岸原 士郎
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.143, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】日本の市販グラニュ糖やザラメ糖のスクロース純度は,99.9%以上と大変高くスクロース結晶とみなすことができるため,製品間で品質に差はないと考えられてきた。しかし,グラニュ糖の融点にはメーカーによって異なるものがあり,融点の異なるグラニュ糖は加熱熔融状況が異なり,示差走査熱量分析(DSC 分析)において異なる波形を示すこと,さらに,スクロース結晶を粉砕することにより,その加熱特性が変化することをすでに明らかにした。焼き菓子の中には,マカロンや焼きメレンゲなど粉砂糖の使用が通常とされるものがある。そこで,グラニュ糖と粉砂糖を使用して焼きメレンゲを調製し,焼き菓子における砂糖の粒度の違いによる影響を検討した。【方法】3社のグラニュ糖(W,X,Z)およびそれぞれを粉砕した粉砂糖(Wp,Xp,Zp)を用いた。砂糖のみについて,焼きメレンゲと同条件で加熱し,色差測定,HPLC分析を行った。また,焼きメレンゲを調製し,外観観察および重量減少率測定,密度測定,色差測定,破断強度測定を行った。【結果】砂糖のみの加熱では,グラニュ糖のほうが色づきやすく,粉砂糖のほうが着色の度合いは小さかった。また,加熱により,W,Xでは顕著に還元糖が生成していた。砂糖のみと焼メレンゲでは,加熱後の色づき方の逆転現象が認められ,粉砂糖メレンゲのほうが色が濃い結果となった。外観では,粉砂糖メレンゲでは表面はなめらかであったが表面が硬い傾向が認められ,表面に亀裂や気泡が見られた。グラニュ糖メレンゲは,色が白くきめが粗かった。本研究により,砂糖の粒度の違いにより,焼き上がりの外観,色調やきめ,テクスチャーが大きく左右されることが明らかとなった。
著者
中村 眞理子 後藤 葉子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.205, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】調理の姿勢は、「右利きの場合、左の骨盤に拳を当ててまな板から45度くらいの角度で右を向く」とあり、包丁を持つ手は自然に真っ直ぐになり、疲れない一番楽な正しい姿勢とされている。脳血管障害後遺症による片麻痺者のリハビリテーションでは、調理訓練は重要な項目であり、片手で調理するための道具の工夫(自助具)や、立位バランスや耐久性の程度により、立位や座位での作業の検討がなされている。しかし、固定の代償など片手動作での調理に対応する方策に主眼が置かれており、構えに対する視点は希薄であるのが現状である。今回、障害者への調理動作訓練をより効果的に行うための視点として構えに注目し、健常者で自助具使用による構えの変化を検討した。【方法】大学生20名を対象とした(平均年齢21.1±0.58歳、男性8名、女性12名)。①~④の条件で、調理台上にまな板をセットした状態で包丁を持ち、調理台と体幹との角度をゴニオメーターで測定した。包丁は右手で把持①両手使用での構え(自助具使用なし)②片手動作(右手のみ使用・自助具使用なし)③自助具(ロッキングナイフ)使用での片手動作④自助具(釘付きまな板)使用での片手動作。加えて、課題終了後に感想を自由記載してもらった。【結果】①と②の結果の間に5度以上増加した群(以下A群)(11名)、5度以上の減少した群(以下B群)(9名)で比較した結果、①では両群に差はないが、①と③④の結果を比較すると、A群では③がB群では④が通常の構えに近いものとなった。両群の通常の構えに差はないことから、片手動作になったときの構えの変化という対象者の姿勢の代償の方策の違いにより、適応する自助具に違いがあることが示唆された。
著者
福田 翼 三田 理香 古下 学 原田 和樹
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成27年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.163, 2015 (Released:2015-08-24)

【目的】さつま砂糖漬け鯛は、江戸時代の料理集「鯛百珍料理秘密箱」(1785年)に記載されている薩摩地方の保存食である。さつま砂糖漬け鯛は、一夜干しにした鯛を三年味噌漬けにした後、砂糖に漬け込んで作られる。本研究では、各製造プロセス、特に三年味噌への漬け込みの有無がさつま砂糖漬け鯛の保存性ならびに風味に及ぼす影響を明らかにする事を目的とした。 【方法】さつま砂糖漬け鯛の製造は次の様に行った。まず、三枚におろしたタイに食塩を添加し、25˚Cで一昼夜干した。干したタイは3 mm程度にカットした。カットしたタイは、滅菌ガーゼに包み、三年味噌に漬け込んだ(20˚C・48時間)。味噌漬けにしたタイを滅菌済みガラス容器に入れ、0-50%の範囲で砂糖を添加した。これを20˚Cで保存した。適宜、サンプリングを行い、一般生菌数を測定した。また、保存1ヶ月の試料については、嗜好性評価を実施した。 【結果】一般生菌数の経時変化を調査した結果、時間経過と共に減少した。さらに、砂糖の添加割合が高い程、減少傾向が見られた。保存1ヶ月目において、砂糖添加割合0%では5.2×104 CFU/g、50%では6.8×103 CFU/gであった。一方、味噌漬けを行わない場合、保存1ヶ月目において、砂糖添加割合0%では2.1×107 CFU/g、50%では5.3×107 CFU/gであった。したがって、味噌漬けを行った場合、一般的な食品の腐敗レベル106 CFU/g以下となる事が明らかとなった。嗜好性評価を行った結果、砂糖添加割合が同等の場合、全ての場合において味噌漬けを行った「さつま砂糖漬け鯛」の方が高い評価となった。さらに、砂糖添加割合0%を基準とし評価を行った。その結果、砂糖添加割合25%もしくは50%が高い評価となった。