著者
増田 一太 西野 雄大 野中 雄太 山村 拓由 河田 龍人 笠野 由布子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0208, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】梨状筋症候群(以下,PS)は,運動時や座位時に殿部痛を主体とする圧迫型神経障害である。PSの発症には,不良座位姿勢が危険因子であることや鑑別試験であるPaceテストは座位で実施するなど,PSと座位時痛の関係性は深い。若年者を対象とした先行研究においても,座位時の梨状筋偏平化要因は殿部脂肪厚と比較的強いの正の相関(r=0.7,p=0.02)を認め,座位に伴う梨状筋の偏平化の可能性が示された。しかし,脂肪組織のクッション機能が経年的に低下することが報告されているため,PSの好発年齢である中年者においても先行研究の結果が必ずしも当てはまるとは言い難い。そこで今回,PS例を殿部痛の有無により分類し。殿部痛の発生要因を統計学的に検討したので報告する。【方法】対象は2014年4月より2015年3月までの間に,PSと診断され運動療法を終了した50名を対象とした。その内,座位時殿部痛を有する群(以下,S群)は21名(59.5±14.3歳)と座位時殿部痛を有さない群(以下,N群)29名(67.3±11.9歳)とした。検討した項目は身長,体重,BMI,性差,殿部最大周径,殿部最大周径をASIS間距離で除し正規化した殿部係数,レントゲンより計測した腰仙椎アライメント,腰椎前後角度とした。これらの検討項目から判別分析を行うために,性差にはカイ二乗検定,その他の項目には対応のないt検定を実施し検討項目を選別した。選別した項目に対しステップワイズ法による判別分析を用いて疼痛要因を分析した。統計学的処理の有意水準は5%未満とした。【結果】検討項目の選別において,年齢,体重,BMI,仙骨傾斜角,殿部最大周径,殿部係数に有意な差(p<0.05)を認めた。これらの項目に対し判別分析を実施した結果,BMI,殿部係数,年齢が座位時殿部痛の発生を判別するのに重要な因子であった。【結論】深部軟部組織は長時間座位に伴いより圧迫を受けやすいことや長時間の筋の圧迫による筋内圧上昇により脈管系を妨げ組織壊死を生じさせる可能性を指摘する報告がある。これらより,深層に存在する梨状筋は,長時間座位に伴い圧迫ストレスを持続的に受けやすく,また脈管系の阻害に伴い攣縮が生じやすい環境が存在するため,座位時殿部痛が継続的に生じる可能性が高い。判別分析の結果より座位時殿部痛の発生要因は,BMI,殿部係数,年齢の順に座位時殿部痛の発生に強く関与していることが分かった。S群において,BMI,殿部係数の低値など殿部脂肪組織厚が薄い可能性を示す所見が得られた。これは先行研究の結果の殿部脂肪組織厚と梨状筋の偏平化率との関係性を支持する結果であると考えることができる。またN群に比較し高い年齢帯であることは,経年的に脂肪組織のクッション機能が低下する報告とも整合性が得られる結果となった。これらより殿部脂肪組織の薄さは,座位時殿部痛との関係が深く,治癒阻害因子となる可能性が示唆された。
著者
辻田 純三 武村 政徳 渋谷 智也 辻田 大 賀屋 光晴 山下 陽一郎 中尾 哲也 森沢 知之 狩野 祐司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0441, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】近年,筋膜リリースと呼ばれる徒手療法が再び注目されているが,これは筋膜を伸張したり捻じれを解きほぐしたりすることで筋と筋の間や他の組織との可動性や伸展性を改善することを目的に行われる手技であり,軟部組織に起因する多くの関節可動域制限に適応する治療手技と考えられている。しかしながら筋膜リリースを行っている時の筋膜・その他の構造物がどのような変化をしているかを直接示した先行研究はみられない。我々は経皮的な吸引により関節運動や筋収縮の無い状態でも筋群や深筋膜の滑走が起こることを利用し,徒手の筋膜リリースと同様に筋と筋の間や他の組織との可動性や伸展性を改善できることを経験している。この吸引を利用した治療アプローチ(吸引療法)による関節可動域の改善等については既に症例報告等をしている(Tsujita J, et al., 2015他)が,治療中に筋膜・その他の構造物がどのような変化をしているかを直接示したものはなく,また治療前後の深筋膜の滑走性や筋硬度の変化を評価したものはない。本研究の目的は,①大腿外側部の経皮的吸引(吸引療法)により皮下の外側広筋・筋膜の滑走が生じるかを示し,②吸引療法により外側広筋・筋膜の滑走が改善するかどうかを超音波画像を用いて検討することである。【方法】大腿四頭筋の疾患を患ったことのない健常成人7名(31±15.4歳)の両脚を対象とし,先行研究に準じて膝関節0度(伸展)から45度(屈曲)に他動的に関節運動を行った時の大腿外側面超音波画像を1分間の吸引療法前後で観察記録し比較した。吸引療法は,大腿外側部遠位2分の1を特殊なノズルを用いて吸引しながら,そのノズルを長軸方向に沿って約1Hzのリズムで往復させて行った。また7名の内4名(左右8脚)においては吸引療法中も大腿外側面超音波画像を記録した。超音波画像はImageJソフトウエアーを用いて外側広筋の外側部の筋膜および外側広筋と中間広筋との共同中間腱の移動距離を計測した。吸引療法中の筋膜の移動の有無を示すとともに前後の膝関節45度屈曲における移動距離を分散分析を用いて比較し,また先行研究における移動距離とも比較・検討した。【結果】膝関節屈曲45度における中間腱の移動距離(mm)は吸引療法前が吸引中の移動距離(mm)は26.8±7.57,吸引療法後32.2±7.39であり,吸引療法により有意に改善され先行研究の筋膜リリースと同等な効果が確認できた。また吸引療法中,筋膜で5.4±2.56,中間腱で6.0±2.33の移動が認められた。【結論】吸引療法中の筋膜の変化を示すことができ,また吸引療法による筋膜の滑走性も徒手の筋膜リリースと同等な改善が認められ,吸引を利用した治療アプローチ(吸引療法)は徒手療法の筋膜リリースと同様な効果が期待できるといえる。今回の吸引療法は1分間の処置であり先行研究の4分間より短時間で同等な効果を示したことになるが,より効果的であるかどうかはさらに検討したい。
著者
濱上 陽平 本田 祐一郎 片岡 英樹 佐々部 陵 後藤 響 福島 卓矢 大賀 智史 近藤 康隆 佐々木 遼 田中 なつみ 坂本 淳哉 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0076, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】線維筋痛症は全身の激しい痛みと軟部組織のこわばりによって特徴づけられる難治性の慢性疾患であり,本邦における推定患者数は200万人以上といわれている。線維筋痛症に対する理学療法アプローチとしては,運動療法に加えて鎮痛を目的とした各種の物理療法が行われているが,線維筋痛症の原因・病態が明らかにされていないがゆえに,物理療法に効果があるのか否かは未だ議論が続いており,エビデンスも示されていない。そこで今回,これまでに発表された線維筋痛症に対する物理療法の効果を検証したランダム化比較試験(Randomized controlled trial;RCT)を検索し,メタアナリシスを行ったので報告する。【方法】医学文献データベース(Medline,CINAHL Plus,Pedro;1988年~2016年8月に発表されたもの)に収録された学術論文の中から,線維筋痛症に対する物理療法の効果を検証した論文を系統的に検索・抽出した。その中から,ヒトを対象としたもの,研究デザインがRCTであるもの,アウトカムとして痛みの程度(VSA),圧痛箇所数(Tender point),線維筋痛症質問票(Fibromyalgia Impact Questionnaire;FIQ)のいずれかを用いているもの,結果の数値が記載されているもの,適切な対照群が設定されているもの,言語が英語であるものを採用し,固定効果モデルのメタアナリシスにて統合した。なお,有意水準は5%未満とし,採用したRCT論文はPEDroスコアを用いて質の評価を行った。【結果】抽出された227編の論文のうち,採用条件のすべてを満たした論文は11編であり,PEDroスコアは平均5.82ポイントであった。検証された物理療法の内訳は,低出力レーザーが5編で最も多く,全身温熱療法が4編,電気刺激療法が1編,磁気刺激療法が1編であった。次に,メタアナリシスにおいて,物理療法による介入の有無によって痛み(VAS)の変化を比較した結果,低出力レーザー,全身温熱療法,電気刺激療法,磁気刺激療法のすべてで有意差を認め,効果が確認された。同様に,圧痛箇所数およびFIQの変化を比較した結果,低出力レーザーと全身温熱療法で有意差を認め,効果が確認された。なお,採用した論文の中に電気刺激療法,磁気刺激療法の効果を圧痛箇所数およびFIQで検証したものはなかった。【結論】今回の結果,低出力レーザー,全身温熱療法,電気刺激療法,磁気刺激療法のすべてにおいて線維筋痛症の痛みに対する効果が確認された。採用論文は多くはないが,線維筋痛症に対する物理療法の効果をメタアナリシスで検証した研究は国内外で他に見あたらず,本研究の結果は物理療法のエビデンスの確立に寄与するものと思われる。ただ,電気刺激療法と磁気刺激療法に関しては採用した論文はそれぞれ1編であったため,エビデンスが示されたとは言い難く,今後さらにRCTの発表と蓄積が求められる。
著者
大友 篤 遠藤 雅之 小野寺 真哉 坂上 尚穂 伊達 久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0196, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)は,アロディニア・痛覚過敏・浮腫・異常発汗・運動障害・萎縮性変化などの症状があり,理学療法の施行を困難なものとする。今回,CRPS TypeIに対して,各神経ブロックと理学療法を併用により,痛みが軽減し,身体機能が改善を呈した2症例を報告する。【方法】症例1:19歳女性,平成X年10月専門学校の体育祭で左膝を捻り受傷。その後痛み継続,他院で精査,治療するも増悪,平成X+1年8月に当院入院。主訴左下肢(左膝関節内側中心)の痛み。安静時痛あり。動作時増悪。左下肢知覚障害,アロディニアあり。左下腿浮腫あり。膝関節制限あり,左下肢荷重不可,両松葉使用していた。症例2:28歳女性,平成X年4月に右前十字靱帯,内側側副靱帯損傷。MRI所見では靭帯損傷は軽度。他院で筋力強化を目的とした理学療法を行ったが,痛みで運動が困難であった。症状悪化したためX年8月当院受診。可動域制限なし,右膝関節内側・膝中央に,安静時・アロディニア・荷重時・膝屈伸時に疼痛出現。大腿四頭筋・ハムストリングス筋力低下あり,独歩可能だが,仕事の継続が困難であった。【結果】症例1:入院初日持続硬膜外ブロック施行及び理学療法開始。理学療法は週2回行い,他の日は自主トレーニングとした。7日目左膝関節可動域改善,左下肢部分荷重。14日目左下肢全荷重可能,歩行時両松葉杖使用。17日目持続硬膜外ブロック終了。24日目安静時痛・運動時痛なし,膝内側の圧痛あり階段昇降時痛みあるが,可動域改善・筋力向上・独歩可能にて退院に至った。症例2:平成X年8月22日~平成X+1年8月5日の約12ヶ月の間に,週に1~2回程度,腰部硬膜外ブロックの前後に理学療法を行った。平成X年8月22日,腰部硬膜外ブロックと理学療法を併用した治療開始。平成X+1年4月には痛みが軽減し,持続歩行が可能となる。同年6月から介護職ではないが,社会福祉士の資格を生かした相談役として職場復帰に至った。【結論】CRPSの運動障害としては,患肢を自分の一部と感じない,患肢を動かす為に視覚的に注意を向けないと運動できないといった認知機能異常や,心理学的要因などの症状もあり,様々な要因が混合しあい,痛みを複雑なものとしている。そのため,身体機能の低下を招き,日常生活の制限をきたす。理学療法を施行する際,痛覚過敏・アロディニアまた,心理的要因が関与し,治療に対して受動的になり,理学療法を困難にしている。各神経ブロック併用により,理学療法を促進するなどの,互いの相乗効果により,痛みの軽減が図れたと考える。また,理学療法を施行する上では,CRPS患者は痛みに対する訴えが強く心理的側面の影響も強いため,理学療法を施行する際は,痛みだけでなくすべての訴えに耳をかたむけていく姿勢が必要になると考える。
著者
楠 正和 百武 大志 田中 芳征
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1765, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに】近年リハビリテーションにおけるレセプト減額査定が増加している。平成27年度,福岡県理学療法士会の減点査定調査結果によると,年齢により一律に減額査定されている傾向があり,特に80歳以上が6単位を超える単位数を「過剰」という理由で減額査定されている。また平成28年より,回復期リハビリテーション病棟(以下回復期病棟)では,アウトカム評価を実績指数で表し27未満の場合に,6単位を超える介入が入院料に包括される事となった。そこで本研究は,80歳以上の患者に対する6単位を超える介入が,80歳未満の患者と同等の効果があるのか,アウトカム評価である実績指数を用いて比較検討をおこなった。【方法】対象は当院回復期病棟を2013年4月1日~2014年3月31日までに退棟した351名のうち,算定区分が脳血管疾患のもの113名と運動器疾患のもの160名とした。除外基準は在棟中の死亡患者,回復期病棟対象外患者とした。後方視的に診療録から,年齢,1日あたりの単位数,FIM(入棟・退棟・利得),在棟日数を収集した。また,実績指数と,その計算式の分子に当たる運動項目FIM利得(以下m-FIM利得),分母にあたる算定上限日数比(在棟日数を回復期病棟入院料の算定上限日数で除した値)を患者あたりにて算出した。疾患別の対象を80歳以上と80歳未満の2群にわけ,各項目の比較検討をおこなった。統計解析にはSPSS ver16を使用し,Mann-Whitney U検定とχ2検定にて検討した。有意水準は5%未満とした。【結果】脳血管疾患:80歳以上/80歳未満(対象:50/63名,年齢:85.6/70.9歳(p<0.05),1日あたりの単位数:7.10/7.25単位,入棟FIM:58.1/78.9点(p<0.05),退棟FIM:75.5/104.4点(p<0.05),FIM利得:18.7/25.1点,在棟日数:43.2/49.4日,m-FIM利得:14.4/20.9点(p<0.05),算定上限日数比:0.27/0.31,実績指数:65.4/94.1)運動器疾患:80歳以上/80歳未満(対象:104/56名,年齢:87.4/65.6歳(p<0.05),1日あたりの単位数:6.51/6.85単位(p<0.05),入棟FIM:71.8/96.5点(p<0.05),退棟FIM:89.9/111.6点(p<0.05),FIM利得:18.1/15.2点,在棟日数:34.6/28.5日(p<0.05),m-FIM利得:16.6/13.4点,算定上限日数比:0.38/0.32(p<0.05),実績指数:56.6/54.4)【結論】脳血管疾患と運動器疾患は共に,実績指数に有意差はみられなかったことから,80歳以上の患者であっても,80歳未満の患者と同等の改善効果があることが示唆された。80歳以上の患者は実績指数が27を大きく超えており,平成28年の回復期病棟連絡協議会における全国平均データ(脳血管:FIM利得17.7,在棟日数88.2,運動器:FIM利得17.2,在棟日数56.7)においても,上回る成績であった。これらのことから,80歳以上の患者の6単位を超える介入は過剰ではなく,年齢で一律に減額査定されるべきではないと考える。
著者
近藤 有希 海老名 葵 重本 千尋 澤 龍一 斎藤 貴 村田 峻輔 伊佐 常紀 坪井 大和 鳥澤 幸太郎 奥村 真帆 松田 直佳 小野 玲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0298, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】妊娠中には多くの女性が妊娠関連の腰痛骨盤痛(Lumbopelvic Pain;LPP)を発症するといわれており,約8割の女性が症状に悩まされている。LPPは妊娠中のホルモン変化や体重増加による腰部への負荷の増大が原因とされているが,産後も多くの女性がLPPを持続して有しており,成人女性の慢性腰痛の20%は妊娠中に発症したものであるとの報告もある。産後のLPPはADL障害やQOL低下,産後うつにも悪影響を及ぼし,産後休職の原因になるともいわれており,予防・解決すべき重要な問題である。産後持続するLPPの原因として,関節弛緩や腹部筋力低下など体幹の不安定性についての研究はあるが,一般的な慢性腰痛への影響が報告されている胸椎・ハムストリングスの柔軟性との関連を検討した研究はない。育児をする母親が頻繁に行う動作と考えられる前方屈み動作において,胸椎・ハムストリングスの柔軟性低下は腰部への負荷を増大させることが報告されていることからも,産後LPPに影響を与える可能性が考えられる。本研究の目的は胸椎・ハムストリングスの柔軟性と産後LPPの関連を明らかにすることである。【方法】対象者は,兵庫県内の4ヶ月児健診に参加し,研究への同意が得られた産後女性のうち,妊娠中にLPPを発症した女性66名とした。対象者には質問紙により,一般情報に加えて,妊娠中と産後4ヶ月時のLPPの有無・強度を聴取した。痛みの強度はNumerical Rating Scale(NRS)を用いた。胸椎の関節可動域は傾斜計を用いて屈曲・伸展の角度を検査し,中央値で可動域制限群と非制限群に群分けした。ハムストリングスの柔軟性はSeated Knee Extension(SKE)を行い,中央値により可動域制限群と非制限群に群分けした。なお,各身体検査は理学療法士有資格者が行った。各群間での産後4ヶ月時のLPPの有病率の比較はカイ二乗検定を用いた。多変量解析では,目的変数を産後4ヶ月時のLPP,説明変数を各可動域制限群/非制限群とし,交絡因子を先行研究から年齢,BMI,出産歴,妊娠中のNRSとして強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】胸椎の可動域制限群は非制限群と比較して産後LPP有病率は有意に高く,SKEにおいても非制限群と比較して可動域制限群は産後LPP有病率が有意に高かった。交絡因子の調整後も胸椎・SKEともに可動域制限群が産後LPPを有しやすいという結果であった(胸椎:OR 3.11,95%CI 1.08-8.94;SKE:OR 3.21,95%CI 1.08-9.60)。【結論】本研究により,胸椎とハムストリングスの柔軟性は,産後のLPPに関連する要因である事が示唆された。
著者
熊代 功児 村上 弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0007, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(以下,TKA)後の膝関節屈曲角度(以下,膝屈曲角度)は大きな膝屈曲角度を必要とする若年患者はもちろん,和式の生活様式を要する日本人にとって重要とされている。TKA後の膝屈曲角度に影響する要因について海外では様々な報告が散見されるが,本邦において術後早期の膝屈曲角度を検討した報告は少ない。本研究の目的は,TKA後2週時の膝屈曲角度を術前因子から予測することである。【方法】2013年9月から2016年6月までの間に当院整形外科にて変形性膝関節症と診断され初回TKAを施行した190例212膝(男性43例,女性147例,平均年齢75.5±7.6歳)を対象とした。術後2週時膝屈曲角度をアウトカムとし,患者因子として,性別,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),術前因子として,術側膝関節伸展・屈曲角度(以下,膝伸展・屈曲角度),術側膝関節伸展・屈曲筋力(以下,膝伸展・屈曲筋力),Timed Up and Go test(以下,TUG),術側大腿脛骨角(以下,FTA),術側膝関節前後・側方動揺(以下,前後・側方動揺)を調査した。統計解析は,術後2週時膝屈曲角度と患者因子,術前因子の各変数間について2変量解析を行った。次に,術後2週時膝屈曲角度を従属変数,2変量解析にてp<0.2の変数を独立変数とした決定木分析を行い,術後2週時膝屈曲角度を予測する回帰木を作成した。【結果】術後2週時膝屈曲角度は平均109.2±13.9°であった。術後2週時膝屈曲角度とp<0.2の相関を認めた変数は,年齢,膝伸展角度,膝屈曲角度,膝伸展筋力,膝屈曲筋力,TUG,前後動揺,側方動揺であった。また性別による術後2週時膝屈曲角度の比較の結果,p<0.2であった。これらの変数を独立変数,術後2週時膝屈曲角度を従属変数とした決定木分析によって作成された回帰木より,最上位の分岐は膝屈曲角度(cut off値117.5°)であり,117.5°より大きい群では術後2週時膝屈曲角度が最大(113.5±11.7°)と予測された。117.5°以下の群ではさらに膝屈曲角度(cut off値107.5°)で分岐し,107.5°以下の群では術後2週時膝屈曲角度が最小(93.8±12.3°)と予測された。107.5°より大きい群ではさらに膝伸展筋力(cut off値1.004Nm/kg)で分岐した。【結論】TKA後2週時の膝屈曲角度を予測する術前因子として,膝屈曲角度と術伸展筋力が選択され,これらの要因は先行研究と同様の結果であった。しかし,術後膝屈曲角度に影響すると報告されている年齢,性別,BMIなどの患者因子は本研究では選択されなかった。また,有意な予測因子と報告されている術前のFTAに加えて,術前の膝関節動揺の程度についても検討したが,本研究ではFTA,膝前後・側方動揺ともに有意な予測因子にはならなかった。本研究の結果より,術後2週時という比較的早期においては,術前の膝関節の変形の程度よりも膝屈曲角度や膝伸展筋力などの運動機能の影響が高いことが示唆された。
著者
酒井 章吾
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1201, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】超音波診断装置では,骨格筋量の指標である筋厚測定に加え,骨格筋の質の指標となる筋エコー輝度(以下,筋輝度)の測定が可能である。筋輝度は筋内脂肪などの非収縮性組織を反映し,筋輝度が筋力と負の相関を示すことが報告されている(Fukumotoら2011)。筆者らは骨格筋の質的評価が重要であると考えている。足関節内反捻挫では,受傷時の急激な伸張による筋損傷や疼痛による不動,関節の腫脹などによって神経筋の活動が低下し,長腓骨筋に代表される足関節外反筋の筋力低下が生じるとされる(Konradsen 1998)。本研究の目的は,足関節内反捻挫を繰り返した脚の筋力,筋厚,筋輝度を足関節内反捻挫の既往のない脚と比較することで,その特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,足関節内反捻挫を繰り返し受傷した経験(受傷回数7.3±2.9回)を持つ男性(I群)7名7脚(年齢22.0±1.3歳,身長170.4±5.9cm,体重62.5±9.3kg)と内反捻挫の既往がない健常男性(N群)6名12脚(年齢21.8±1.5歳,身長174.5±10.6cm,体重61.0±10.7kg)とした。足関節外反筋力の測定は,Biodex System3(Biodex Medical Systems)を使用し,等速性(120°/s)の求心性・遠心性筋力の最大値を体重で除した値を算出した。超音波診断装置(Noblus;Hitachi,Ltd)による長腓骨筋の評価は,腓骨頭と外果を結んだ線の近位25%の部位で長腓骨筋の画像を描出した後,筋厚および筋輝度を算出した。筋輝度はImage J(NIH社製)を用いて,0から255の256階調で表記される8bit-gray-scaleによって算出され,値が大きいほど非収縮性組織が多いことを示す。統計学的解析は,SPSS statistics20にて,筋力,筋厚,筋輝度の比較に対応のないt検定を使用した。危険率5%未満を有意とした。【結果】足関節の求心性外反筋力(Nm/kg)はI群0.34±0.11,N群0.53±0.18,遠心性外反筋力はI群0.48±0.13,N群0.72±0.25であり,I群で求心性36%,遠心性33%の有意な低下を示した(p<0.05)。筋厚(mm)はI群24.59±1.7,N群26.28±2.8であり有意な差はなかった。筋輝度はI群102.96±16.97,N群77.46±5.34であり,I群で25%の有意な高値を示した(p<0.01)。【結論】N群に比べI群では有意に筋力が低値を示したにも関わらず,筋厚は群間で差がなかった。I群では長腓骨筋内の筋内脂肪などの非収縮性組織の割合の増加が,足関節外反筋力の低下に関与している可能性が示唆された。
著者
齊藤 大樹 開 光太朗
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0920, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】脳性麻痺者では,痙縮による姿勢筋緊張亢進が正常発達を阻害している。神経筋電気刺激(以下:NMES)は,痙縮抑制や筋萎縮予防及び改善を目的として実施される物理療法であり,脳性麻痺患者を対象とした痙縮や筋緊張の変化についての報告はほとんど見当たらない。また,NMESによる筋緊張抑制には,拮抗筋刺激(相反性抑制)を利用したIa-NMESおよび痙縮筋直接刺激(自己抑制)を利用したIb-NMESが知られている。先行研究では,脳性麻痺者の痙縮に対して,Ia-NMESとストレッチを行い,筋緊張抑制に少し効果があったとされているが,健常人においてはIa-NMESとIb-NMESを比較した場合Ib-NMESのほうがストレッチ前処置としては効果が高かったと示されている。今回,通常行っている可動域練習(ROM)と比べ各NMESを与えることで痙縮の改善が得られるのかを検証した。【方法】対象はGMFCSIIIレベルの成人脳性麻痺者1名(19歳)とし,対象筋はヒラメ筋とした。介入期間は1ヶ月半とし,足関節可動域練習,Ib-NMES,Ia-NMESの3つの介入をそれぞれ日を分けて行ない,セッションごとの即時効果を検証した。NMES刺激は総合電気治療器ES-520,刺激電極5cm×9cmの粘着パッド使用し,設定は周波数20Hz,刺激強度12~14mA,刺激時間10分間,立ち上がり2sec,持続4sec,減衰0.5sec,休止4secとし,刺激はIb-NMESはヒラメ筋,Ia-NMESは前脛骨筋に与えた。足関節可動域練習は徒手による持続的伸張を下腿三頭筋に伸張反射が出現しない速度で最終可動域付近まで行い,一回につき20秒,休息2秒,5分間実施した。評価は足関節背屈角度,Modifield Ashwonh Scale(MAS),筋硬度,足関節背屈抵抗トルクの測定を各介入前,介入後に実施し,結果値は3回測定した結果の平均値を採用した。【結果】足関節背屈角度とMASにおいてはROM後は抵抗が少し低下,背屈角度改善し,Ib-NMES後は抵抗増加,背屈角度低下し,Ia-NMES後は抵抗が少し低下したが,角度は大きく変わらなかった。ヒラメ筋の筋硬度はROM後は変化が少なく,Ib-NMES後は増加し,Ia-NMES後は少し低下した。足関節背屈抵抗トルクはROM後はやや低下し,Ib-NMES後は増加,Ia-NMES後は少し低下した。【結論】今回,ヒラメ直接刺激はIb抑制による緊張緩和を期待していたが,反対に電気刺激により緊張している筋を余計に緊張させてしまった。一方,拮抗筋である前脛骨筋刺激はIa相反抑制により,ヒラメ筋の緊張低下に効果があったと考える。しかし,足関節背屈角度は有意な変化が少なかった。この要因としては,痙縮抑制が生じても長年の痙縮持続による筋短縮や関節構成体自体の拘縮が存在しているため,角度変化については限りがあるのだと考える。今回,一例であるが即時効果が得られる可能性が示唆されたため,運動療法の介入前に電気刺激を実施し痙性を抑制させることで,その後の正常な運動パターン学習を行いやすくする可能性が考えられた。
著者
原田 徳士 田中 優貴 亀村 真也 田中 誠人 廣島 玲子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0410, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】日常生活の中で強い運動を行った後に,疲労で体が動かしにくいと感じる,または筋肉痛が起こるといった筋疲労を経験することがある。筋疲労が起こると,筋が発揮できる力が減り,俊敏性や巧緻性も低下し,パフォーマンスが一過性に低下する。また,筋疲労は筋肉痛を引き起こし,更なるパフォーマンスの低下が起こる。しかし,筋疲労とパフォーマンスの関係について調べた先行研究は少ないため,本研究では高強度運動によって大腿四頭筋に筋疲労を起こし,筋疲労がパフォーマンスに与える影響について検討した。【方法】本研究の対象者は21歳の健常男性10名で,全員より研究参加の同意を得た。まず運動前に測定を行い,次に大腿四頭筋に筋疲労を起こすため無酸素運動を中心とした運動5種類を実施し,運動終了直後に運動前と同項目で測定を行い,24時間後に再度同項目を測定した。測定項目は,パフォーマンスの指標として等速度性筋力測定機器(Biodex)を用いて大腿四頭筋の筋力測定,自転車エルゴメータによる最大無酸素パワーの測定,俊敏性の測定として反復横跳びを行った。これらの測定後に筋疲労の指標としてBorg Scale,大腿四頭筋に対する疼痛評価としてVASを行った。筋疲労を起こすための運動は,先行研究よりレッグプレス,レッグエクステンション,ジャンプスクワット,自転車エルゴメータ,ランジ歩行を行った。【結果】Borg scaleでは,運動前(6.9)に比べ運動直後(16.3)と翌日(12.1)に有意な上昇がみられた。VASでは,運動前(0)に比べ運動直後(6.99)と翌日(6.33)に有意な上昇を認めた。最大無酸素パワー,反復横跳びでは運動直後は低下したが,翌日には運動前レベルまで回復した。大腿四頭筋筋力は運動前に比べ運動直後と翌日ともに有意に低下を示した。【結論】本研究ではBorg ScaleおよびVASの結果より大腿四頭筋に筋疲労・筋肉痛(運動直後の原発性筋肉痛と翌日の遅発性筋肉痛)が生じたと考える。最大無酸素パワーおよび反復横とびでは運動直後は筋疲労・筋肉痛のためパフォーマンスは低下したが,翌日には運動前レベルまで回復していた。この理由として,運動時の姿勢や運動戦略の変更,大腿四頭筋以外の筋の代償によりパフォーマンス低下を補ったと推測した。また,反復横跳びは大腿四頭筋以外に股関節外転筋,大腿二頭筋,体幹の筋が働くとの報告があり,本研究でも翌日はこれらの筋が代償したと推測した。次に,Biodexは大腿四頭筋に特化した筋力測定を行うため他の筋による代償は不可であり,翌日の測定でも筋疲労・筋肉痛が継続していたため筋力低下が示された。以上より,パフォーマンスは筋疲労が生じると直後には低下するが,その後はパフォーマンスの種類によって運動戦略の変更や代償により筋疲労の影響を抑えることができることが示唆された。
著者
松澤 明黎 井澤 康祐 伊藤 慎也 長谷川 雄也 水口 淳 佐藤 亜紀 城 由起子 松原 貴子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0720, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】我々は痛いときに痛み部位に手を当て,軽く擦ったり圧迫したりすることで痛みを和らげようとする。このような皮膚への軽微な触刺激(touch)による鎮痛効果については,従来,gate-control theory(Melzack,Wall 1965)による仮説が唱えられてきたが,推論の域を出ず解明には至っていない。近年,ヒトにおいてはtouchによる熱痛覚感受性低下が報告され(Mancini 2015),また,動物実験においてもtouchが内因性オピオイドを介してC-fiberなど侵害受容ニューロンへの特異的な抑制作用を惹起する可能性が示されおり(Watanabe 2015),その鎮痛機序に中枢性疼痛修飾系の関与が推察される。そこで本研究は,ヒトを対象にtouchによる鎮痛効果を,痛覚感受性に加え中枢性疼痛修飾系の機能指標であるtemporal summation(TS)を用い調べた。【方法】対象は健常成人16名(男性8名,女性8名,年齢21.0±1.1歳)とした。Touchは,上肢への軽擦(T-touch)および自覚しない圧(P-touch:圧覚閾値の90%強度,平均3.1±1.6N)と電気(E-touch:1.0Hz,平均2.5mA)刺激の3条件とした。評価は熱痛閾値,圧痛閾値および熱痛・圧痛のTSとし,各touch前・中に測定した。TSは,熱痛閾値+3℃の温度ならびに圧痛閾値の125%の圧力で刺激を10回加え,各疼痛強度をvisual analogue scale(VAS)で測定し,1~10回目までのVAS値の傾き(熱痛TS,圧痛TS)を測定値とした。統計学的解析はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準はBonferroniの補正により1.6%未満とした。【結果】touch前と比べ熱・圧痛閾値はともにT-touchとP-touchにより有意に上昇し,熱痛TSはT-touchとE-touch,圧痛TSはT-touchにて有意に減衰した。【結論】今回,touchにより,これまでに報告されている熱痛覚感受性だけでなく圧痛覚感受性も低下し,さらに両TSの減衰を認めた。TSは近年広く用いられている痛みの定量評価指標の一つであり,TSの減衰は上行性疼痛伝達系の感作抑制や内因性オピオイドを介した鎮痛効果を反映していると考えられる。一方,動物実験においてtouchは低閾値Aδ,C-fiberを興奮させ,無髄C-fiberの求心性入力によって引き起こされる体性心臓交感神経性C-反射を抑制することが示されており,さらにこの効果はオピオイドの拮抗薬であるナロキソン投与により減弱することが報告されている(Watanabe 2015)。これらのことから,touchは内因性オピオイドなどが関与する中枢性疼痛修飾系を作動させ,表在性の熱痛覚感受性だけでなく深部組織の痛覚を反映する圧痛覚感受性までも低下させることで疼痛を緩和する可能性が示唆された。本研究の限界点として,touch条件による鎮痛効果の違いやtouchによる広汎な鎮痛効果については明らかでなく,臨床応用に向けて更なる検討は必要である。
著者
奥村 真帆 福田 章真 斎藤 貴 牧浦 大祐 井上 順一朗 酒井 良忠 小野 玲
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1453, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】がん患者における術前の筋肉量低下は,術後の合併症や,生存率に影響を及ぼすと報告されている。近年,一般高齢者において筋肉量低下に関連する因子の一つに睡眠障害が注目されている。がん患者は高い確率で睡眠障害を発症するため,睡眠障害が筋肉量低下に関連していることが予測されるが,現段階ではこれらの関連は明らかとなっていない。本研究の目的は,術前の消化器がん患者における睡眠障害と筋肉量低下との関連性を調査することである。【方法】本研究の解析対象は,2016年6月から2016年9月の間に手術施行予定の患者の中で,術前に評価可能であった胃がん,食道がん,大腸がん患者40名(年齢70.5±7.5,男性31名)とした。筋肉量低下の診断は,Asian Working Group for Sarcopeniaの基準に従い,男性:骨格筋量指標<7.0kg/m2,女性:骨格筋量指標<5.7kg/m2から診断した。筋肉量の測定には,インピーダンス測定機器Inbody430(バイオスペース社製)を用いた。睡眠障害の評価には,日本語版Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)を用いた。睡眠の質,入眠時間,睡眠時間,睡眠効率,睡眠困難,眠剤の使用,日中覚醒困難の7つの各項目を0-3点の4段階に分類した。また,PSQIの各項目の総合得点が6点以上を睡眠障害有とした。その他に,年齢,性別,身長,体重,教育歴,同居人の有無,CRP,アルブミン,ヘモグロビン,performance status,がん種,合併症(Carlson Comorbidity Index),喫煙,飲酒,clinical stage,身体活動量(International Physical Activity Questionnaire),認知機能(Mini-Mental State Examination),抑うつ(Geriatric Depression Scale短縮版),栄養状態(Mini Nutritional Assessment-Short Form)を測定した。筋肉量(低下群vs.維持群)の比較は,Fisherの正確確率検定,t検定,Mann-Whitney U検定を用いた。PSQIに関しては,各下位項目と睡眠障害の有無のそれぞれについて検討した。p値が0.1未満であった項目を独立変数とし,筋肉量を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。すべての検定において,有意水準は5%未満とした。【結果】対象者の12名(30%)が筋肉量低下群であった。筋肉量低下群は,筋肉量維持群と比較して,体重が軽く(51.79±7.44kg vs. 65.60±9.83kg,p<0.05),入眠時間が長かった(p=0.03)。体重,入眠時間に加え,単変量解析にてp<0.1であった栄養状態を投入し,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,体重(オッズ比0.79,95%信頼区間0.68-0.93)と入眠時間(3.23,1.08-9.68)が術前の筋肉量低下に関連していた。【結論】本研究では,睡眠障害のうち入眠時間が,消化器がん患者における術前の筋肉量低下と関連していることが示唆された。術前に入眠時間を評価・管理することが,筋肉量低下の進行を予防する可能性がある。今後は,睡眠障害と筋肉量低下の因果関係について検討する必要があると考える。
著者
佐藤 輝 吉田 英樹 前田 愛 松本 健太 向中野 直哉 川村 真琴 小西 杏奈 島田 瑞希 高桑 奈緒美 鳴海 萌 天坂 興 原 幹周 小田桐 伶 前田 貴哉
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0668, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】低負荷(最大随意収縮(MVC)の20%程度)で実施される等尺性収縮後の筋弛緩法(PIR)と対象者の随意的努力を必要としない神経筋電気刺激(NMES)では,筋ポンプ作用に基づき筋血流量が改善する可能性が指摘されており,臨床では筋・筋膜性疼痛や浮腫の改善などに活用されている。しかし,PIRやNMESが筋循環動態に及ぼす影響の詳細は十分に検証されていないのが現状である。以上から本研究では,PIRとNMESが筋血流動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】健常者16名を対象とし,仰臥位を保持した対象者の右上腕二頭筋(BB)に対して3つの条件(条件1:PIRを実施する条件,条件2:NMESを実施する条件,条件3:コントロール条件)を無作為順序で日を改めて実施した。条件1では,対象者は,右BBに対するPIRとして,右肘関節90度屈曲位かつ右前腕90度回外位にて20%MVCでの右BBの等尺性収縮を10秒間実施し,その後,右肘関節完全伸展位かつ右前腕90度回外位にて20秒間右BBを弛緩させた。この右BBの収縮と弛緩の計30秒間を1セットとして,10セット5分間を連続で実施した。PIR終了後,対象者は安静仰臥位をさらに15分保った。条件2では,対象者は,右BBに対するNMES(波形:対称性矩形波,電流強度:肘関節の僅かな屈曲運動は起こる程度,周波数:30 Hz,パルス幅:250 μsec,オン・オフ時間:各5秒)を20分受けた。条件3では,対象者は安静仰臥位を20分保持するのみとした。各条件の実施中,筋血流量の指標として右BBの酸素化ヘモグロビン量(oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン量(deoxy-Hb)を測定し,各条件開始時の測定値を基準として各条件での5分後(条件1のPIR終了時)及び20分後(各条件の終了時)でのoxy-Hbとdeoxy-Hbの経時的変化を多重比較検定にて検討した。【結果】条件1(PIR)では,oxy-Hbの明らか変化は認めなかったが,deoxy-Hbは条件開始5分後(PIR終了時)で有意に増加し,条件開始20分後でも有意に増加した状態であった。一方,条件2(NMES)では,oxy-Hbは条件開始5分後及び20分後で増加傾向を示したが,deoxy-Hbは同時点で減少傾向を示した。条件3では,oxy-Hb,deoxy-Hbともに経過中での明らかな変化を認めなかった。【結論】本結果は,PIRではdeoxy-Hbが増加するのに対し,NMESではoxy-Hbが増加する可能性を示しており,両者の筋循環動態に及ぼす影響の違いが明らかとなった。PIRのような低負荷随意運動では筋収縮に必要なATP産生は好気的代謝系に依存するのに対し,電気刺激に伴う筋収縮では嫌気的代謝系に依存する(Hamada, 2003)。このため,PIRでは酸素需要が高まりoxy-Hbと比較してdeoxy-Hbが増加するが,NMESでは酸素需要がPIR程には高まらないため,deoxy-Hbと比較してoxy-Hbが増加したと推察する。PIRとNMESはともに筋血流量を改善する可能性があるが,筋循環動態に及ぼす影響は対照的であり,臨床では目的に応じた使い分けも考慮すべきである。
著者
藤田 真帆 波留 健一郎 岩松 友里香 小濱 顕士 志戸岡 茜 渡辺 將平 髙田 和真 川元 大輔 長津 秀文 横山 尚宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0851, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】握力は容易に測定できる上肢機能の重要な指標の一つである。先行研究で高齢者の体力測定の結果から,握力と大腿四頭筋の筋力との関連や,スポーツ選手は握力と下肢筋力に相関があるとの報告をしている。四肢周径は骨格筋の肥大や萎縮を簡易に評価でき,筋力との関係性があると述べている。InBody570を用いた身体組成計は骨格筋量や脂肪量などを簡便に計測することが可能であり,測定器の妥当性や信頼性に関する報告は散見される。しかし,握力と四肢周径,骨格筋量との関係性は一定の見解が得られていない。我々は運動習慣のない若年者を対象に3者の関連性を分析し,臨床的意義があるか検討した。【方法】対象は運動習慣のない健常成人男性20名(年齢:20.8±1.7歳,身長:169.5±5.5cm,体重:62.9±12.6kg,利き側:右)とした。全対象にInBody570(BIOSPACE社製)を用い,右腕(RA),左腕(LA),右脚(RL),左脚(LL)の筋肉量を測定した。握力はデジタル握力計(竹井機器工業社製)を使用した。肢位は立位で,左右の上肢を体側に下垂させた状態で最大握力を測定。四肢周径はメジャーを使用,仰臥位で計測した。前腕周径は最大膨隆部(FC),上腕周径は肘屈曲位で最大膨隆部(AC),大腿周径は膝蓋骨上縁10cm(TC),下腿は最大膨隆部(CC)を測定した。統計処理は左右別に握力と四肢周径,部位別筋肉量との関連についてピアソンの相関係数を用いて分析した。有意水準は5%未満とした。【結果】左握力(39.7±6.5kg)はLA(2.6±0.4kg),LL(8.2±0.9kg),左FC(25.3±2.4cm),左AC(28.2±3.9cm),左TC(44.6±4.4cm),左CC(35.7±2.8cm)とすべての項目で有意な相関を示さなかった。右に関しては握力(41.4±6.5kg)と右FC(25.6±2.1cm)(r=0.45,P<0.05),握力と右AC(29.0±3.8cm)(r=0.45,P<0.05),握力とRA(2.6±0.5kg)(r=0.47,P<0.05),握力とRL(8.2±0.9kg)(r=0.58,P<0.01)に有意な相関が認められた。握力と右TC(45.1±4.4cm),握力と右CC(35.9±2.9cm)において,有意な相関が見られなかった。【結論】右握力は,右FC,右AC,RA,RLで相関を認めた。周径は筋肥大の指標となることが知られており,利き手に関しては握力で上肢の筋量と筋力を予測できる可能性が示された。右TC,右CCとは相関を認めなかった。これは握力が下肢の筋肥大に必ずしも反映されない事が考えられた。さらに先行研究では,筋量よりも筋力の方が相対的に低下するとの報告があり,右握力はRLとの相関を認めたが,右TC,右CCと相関がなかったと考える。左の握力は全項目で相関がなかった。利き手に関する研究で,握力は上肢周径など軟部または機能的測度では利き手優位の傾向が現れやすいと報告しており,そのため相関がなかったと考える。これらの結果から,運動習慣のない若年者は握力が下肢筋力を測る指標になりえない事が示唆された。
著者
河野 健一 森山 善文 矢部 広樹 西田 裕介
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1464, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】糖尿病性腎症は透析導入の原因疾患として最も多く,それに廃用性,加齢性変化も加わるため,透析導入時点で身体機能が低下している者も少なくない。加えて,経年的な透析治療は,異所性石灰化による関節可動域制限や関節痛,慢性的な低蛋白血症や骨格筋機能の低下,身体活動量の低下を引き起こす。当該患者は,急性疾患等への罹患を契機に身体機能や運動能力が低下し要介護状態に陥りやすく,健康寿命の喪失に至る。これは,透析医療に関する医療費以外の社会保障費を増大させ,また,患者やその家族の生活の質を低下させるという点において重大な問題である。透析患者に対する運動指導を中心とした理学療法は,糖尿病等の予防的管理だけでなく,経年変化として運動能力の低下を防ぎ,健康寿命を延伸することにも重要な意義を持つ。そこで,本研究の目的は,一定期間内に運動能力の低下する危険性の高い透析患者を把握すべく,評価指標とその基準値を明らかにすることとした。【方法】対象は,初期評価時に歩行ならびに日常生活が自立した維持血液透析患者180例とした。患者背景因子(年齢,性別,糖尿病やその他合併症の有無,透析歴,透析管理状況),栄養状態(geriatric nutritional risk index,GNRI),炎症状態(c-reactive protein,CRP),身体機能(握力,除脂肪量),運動能力(歩行速度,歩行周期変動係数,short physical performance battery,SPPB)を初期と1年後の2回評価した。1年後にSPPBの得点が3点以上低下した状態を運動能力低下と定義し,運動能力低下を従属変数,その他評価指標を独立変数とし,単変量解析,多重ロジスティック回帰分析を実施した。また,独立した関連因子に対してROC解析を行いカットオフ値,感度,特異度を算出した。【結果】歩行速度が運動能力低下の独立した危険因子であった(OR=0.168,95%CI=0.037~0.762)。また,そのカットオフ値は0.84m/sec(感度0.71,特異度0.68,曲線下面積0.68)であり,0.84m/sec以下の歩行速度の患者は,そうでない患者と比較し,1年後に運動能力が低下する危険性が5.38倍高く(OR=5.381,95%CI=2.058~14.073,p=0.001),年齢,性別,透析期間,糖尿病の有無,栄養状態,炎症状態にて補正後も同様の結果が得られた。【結論】歩行速度の遅い透析患者ほど,1年間という比較的短い期間において運動能力が低下する危険性が高いことが明らかとなった。基準値として0.84m/secを参考とし,これを下回る患者に対して,運動指導を中心とした理学療法の必要性が示唆された。
著者
野嶋 素子 中山 裕子 小川 幸恵 保地 真紀子 和泉 智博
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0293, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】腰椎疾患においてL4/5とL5/S椎間は障害が多い部位である。L5神経根は前脛骨筋,中殿筋を優位に支配し,これまでに下垂足に伴い股関節外転筋力は低下し,歩行に影響することが報告されている。一方でS1神経根は下腿三頭筋,大殿筋を優位に支配しているが,S1神経根障害における臨床像と歩行能力の報告は少ない。本研究の目的はL5,S1神経根障害における筋力低下・感覚障害および歩行について調査することである。【方法】対象は2011.4~16.9に,L4/5またはL5/Sの単椎間ヘルニアで,内視鏡を含むヘルニア摘出術を施行したL4/5椎間板ヘルニア59名(以下L4/5群),男性43名,女性16名,平均46.9±14.4歳と,L5/S椎間板ヘルニア49名(L5/S群),男性31名,女性18名,平均40.0±11.7歳である。検討項目は,術前の前脛骨筋(以下TA),中殿筋(GME),ハムストリングス(HA),腓骨筋(PE),下腿三頭筋(TS),大殿筋(GMA)のMMT,感覚障害の有無とその部位,歩行速度,Timed Up and Go Test(以下TUG)であり,カルテより後ろ向きに調査した。またMMT3以下を筋力低下とし,L4/5群の筋力低下がある26名(以下L4/5-P群),男性19名,女性7名と,低下がない33名(L4/5-N群),男性24名,女性9名,L5/S群の筋力低下がある29名(L5/S-P群),男性18名,女性11名と低下がない20名(L5/S-N群),男性13名,女性7名に分類し,歩行に関する項目について比較した。統計解析はt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】L4/5群の筋力低下の割合は重複を含め,TA12名(20%),GME10名(17%),HA2名(3%),PE5名(8%),TS15名(25%),GMA5名(8%)であった。TAに筋力低下を認めた12名中5名(42%)にGMEの低下が見られ,4名は同時にTSが低下し,更に2名はGMAも低下していた。感覚障害はL5領域29名(49%),S1領域14名(24%)に,両領域12名(20%)に認めた。L5/S群の筋力低下は,TA6名(12%),GME9名(18%),HA7名(14%),PE3名(6%),TS22名(45%),GMA12名(24%)であり,TSに低下を認めた22名中12名(55%)にGMAの低下が見られ,そのうち3名はGMEに,更に2名はTAも低下していた。感覚障害はL5領域23名(47%),S1領域27名(55%),両領域17名(35%)に認めた。歩行速度はL4/5-P群1.4±0.4 m/s,L4/5-N群1.5±0.4m/s,TUGは10.6±2.9秒,9.7±2.6秒であり両群に差を認めず,L5/S-P群とL5/S-N群は,歩行速度が1.3±0.4m/s,1.5±0.4m/s,TUGは12.4±4.9秒,9.7±2.0秒であり,両群間に有意差を認めた。【結論】L4/5群ではTAの筋力低下に伴いGMEが低下,L5/S群もTSと同時にGMAが低下している症例が見られ,L4/5群では更にTS,L5/S群ではGMEの低下も一部認めた。感覚障害についても混在例が存在していた。これらは神経支配のオーバーラップによる障害の影響等が考えられるが明らかではない。L5/S-P群は,L5/S-N群に比べ歩行能力の低下を認めた。S1神経根障害による筋力低下は歩行障害を生じやすいため詳細な理学療法評価が重要である。
著者
松村 将司
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0189, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】良性発作性頭位めまい症(以下,BPPV)は,内耳の耳石器や半規管の障害で発症する疾患である。今回,めまい発症から10日間歩行不可能だったが,徒手的治療によって即時的にめまいが改善し,歩行可能となった症例を担当したので報告する。【方法】症例は60歳代男性である。現病歴は,10日前に運転していたところ突然めまいが出現し,運転困難となり当院に救急搬送され入院となった。その後,MRI,聴力検査など実施したが大きな問題はなく,投薬治療が実施された。しかし,移動は車椅子のみで歩行不可能であった。なお,理学療法の処方は入院10日後であり,診断名はBPPVであった。既往歴は,約1カ月前に追突事故にあっていたが,現在は症状はなかった。主訴は,目の前が回り起き上がれない,右を向くとめまいがする,であった。動作を観察すると,起き上がり時には頸椎を動かさないように,非常にゆっくりと真っ直ぐ起き上がっていた。理学療法を始めるにあたり,BPPVに対する耳石置換法が未実施だったため,担当医と相談の上,実施の許可を得た。本症例は,既往歴に追突事故があったため,最初に頸椎のSecurity testを実施したが,問題は認められなかった。次に,右を向くとめまいがするとの訴えがあったため,水平半規管型BPPVを疑い,Supine roll testを実施した。しかし,若干の気持ち悪さが誘発されるのみであった。そのため,後半規管型BPPVに対するDix-Hallpike testを実施したところ,左のテスト時に著明な回旋性眼振を数秒認め,同時にめまいが誘発された。これより左後半規管型BPPVの可能性が示唆された。【結果】治療として後半規管に対する耳石置換法であるEpley法を左に対して実施した。1セット実施した結果,眼振は消失し,めまいも軽減された。そのため,引き続き3セット実施したところ,めまいはさらに軽減し,起き上がりがスムーズに行えるようになり,直後に軽介助から近位監視レベルでの歩行が可能となった。2日目の再評価では,右を向いた際のめまいが残存していた。Supine roll testでめまいが誘発されたため,水平半規管に対するLempert roll法を実施した結果,めまいは軽減した。3日目には症状改善し独歩可能となっていたため,日常生活での注意事項などを指導し,翌日退院となった。【結論】本症例の場合,水平半規管様のめまいの訴えであったが,実際には後半規管に対するテストで陽性となった。これに対しEpley法で即時的に眼振,めまいが改善し歩行可能となったが,翌日には再び水平半規管様の訴えがあった。BPPVでは耳石置換法による治療後,他の半規管に耳石が入り込むことがあり,また,水平・後半規管に耳石が存在する混合型もある。本症例も両者のどちらかであった可能性があると考える。理学療法士が前庭の理学療法を理解をしていることで,今回のように事前に医師と相談でき,適切な理学療法実施につながると考える。
著者
伊藤 直樹 高野 映子 相本 啓太 小早川 千寿子 太田 隆二 谷本 正智 近藤 和泉
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0371, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】高齢者の転倒・転落による骨折は,予後を左右する重要な問題であり,様々な予防策が講じられている。当センターは,2014年10月より地域包括ケアシステムを支える目的で地域包括ケア病棟45床の運用を開始した。当病棟のリハビリテーション(リハビリ)対象疾患としては,大腿骨近位部骨折や脊椎圧迫骨折の割合が多く,在宅復帰を目標に,多職種が協力し離床の促進やバランス練習,基本動作練習,日常生活活動練習を積極的に実施している(リハビリ1日平均単位数2.25)。そこで,本研究の目的は,転倒・転落による骨折後に,地域包括ケア病棟を経由することで再転倒や転落のリスクが減少するか否かを検討することである。【方法】対象は,2014年10月1日から2016年9月30日に当センター地域包括ケア病棟を退院した患者614名のうち,入院中にリハビリを行った主病名が骨折の204名とした。対象者の年齢,在棟日数,転帰先,入棟及び退院時のFunctional Independence Measure(FIM)とバランス評価Standing Test for Imbalance and Disequilibrium(SIDE)の結果をカルテより抽出した。入棟時と退院時のFIMの合計を対応のあるt検定,入棟時と退院時のSIDEをカイ二乗検定で比較分析した(P<0.05)。【結果】入棟時もしくは退院時のFIMとSIDEの評価結果が欠損している者を除外した結果,分析対象者は97名(男性24名,女性73名)となった。対象者の属性は,平均年齢が82±9歳,平均在棟日数は48.7±62.5日,疾患別では,脊椎圧迫骨折が56%,大腿骨近位部骨折が27%,その他(上腕骨,膝蓋骨,大腿骨骨折)17%であった。転帰先は,在宅が83%,施設入所が17%,転院や死亡はいなかった。入棟時と退院時のFIM合計では入棟時78.3±32.8点(平均±標準偏差)であったが,退院時86.4±32.9点と有意に改善した(P<0.001)。SIDEについても入棟時(0:55名,1:12名,2a:16名,2b:4名,3:9名,4:1名)に比べ退院時(0:29名,1:6名,2a:20名,2b:10名,3:28名,4:4名)では有意に改善を認めた(P=0.001)。【結論】地域包括ケア病棟は,在宅復帰を支援するための体制が整えられている一方で,施行単位数の制限や短い在棟期間など制約がある病棟である。一般病床から地域包括ケア病棟を経由することで,退院後を見越した日常生活動作やバランス能力を改善する練習を積極的に提供できる。当センターにおいても多職種が協力して積極的にリハビリを行った結果,FIMやSIDEは有意に改善した。特に,SIDEは転落危険度が高いレベル0と1が減少し,転倒危険度が低いレベル2b,3,4が増加していたことから,転倒転落リスクを軽減できる可能性が示唆された。今後,実施プログラムの内容について検討し,より良いリハビリが提供出来るような体制を築きたい。
著者
青木 利彦
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0094, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(TKA)術後早期の異常歩行パターンの一つとして,Double knee actionの低下を臨床上経験する。原因として疼痛や荷重応答期での膝伸展モーメント減少により衝撃吸収機能が低下することなどが報告されている。我々は中高齢者で普及しているノルディックウォーキング(NW)がTKA後早期に膝伸展筋の負担軽減型歩行になると報告しており,今回,NWがDouble knee actionの改善に有効な歩行運動となりえるかを,独歩,および杖歩行と比較検討したので報告する。【方法】変形性膝関節症に対してTKAを施行し術後3週経過後に独歩可能となった10名の女性(年齢76.3±7.0才)を対象とした。課題動作は10m直線歩行路における自由速度での独歩,1本杖歩行(1本杖),およびジャパニーズスタイルのNWとし,表面筋電図と床反力計を用いて検討した。表面筋電図は術側の内側広筋(VM),外側広筋(VL),大腿二頭筋(BF),前脛骨筋(TA),下腿三頭筋(GS)を被験筋として表面筋電図を測定し,筋毎に%SWDM(Segment Weight Dynamic Movement)法にて振幅を正規化し,歩行1周期の平均筋放電量を求めた。床反力計は直線歩行路に埋め込み,術側下肢と対側に使用する杖の鉛直成分を計測した。計測値は飯森らの方法を使用し,第一,第2の山をF1,F2,F1とF2の間の谷をF3,立脚時間をTとしknee functional score(KF値)を算出(KF=(F1-F3)+(F2-F3)/T)しDouble knee actionの円滑さの指標とした。また下肢の着床と杖・専用ポールの着床時間の差を各々の鉛直成分検出時間の差で求めた。試技は各課題を3回実施し最大値の平均値を計測値とした。歩行様式間の比較には1元配置分散分析を行い,主効果を認めた場合は多重比較を行った。下肢と杖・専用ポールの着床時間の差はt検定を用いてNWと1本杖を比較検討した。【結果】表面筋電図での平均放電量(%SWDM)で主効果を認めたのはVMで,NW(51.8±9.0)は,独歩(58.2±10.1),1本杖(57.3±10.2)より低く,VLもNW(46.5±11.1)は,独歩(54.3±11.8),1本杖(52.4±11.8)より低い値となった(p<0.05)。床反力では,下肢の着床と杖・専用ポールの平均着床時間はNWが下肢着床前0.06秒で,1本杖は着床後0.13秒と2群間に有意な差を認めた(p=0.00)。また,KF値はNW(267.31±65.76)は独歩(170.30±46.82),より有意に高い値を示し(p=0.003),1本杖歩行(213.21±50.74)より高まる傾向が見られた。【結論】NWは上肢を大きく前後に振る様式であることから独歩や1本杖と比べ下肢の着床前にポールを床につきやすくなりVM,VLの能動的活動の抑制に貢献し,荷重と抜重の円滑さに作用したと考えられた。膝伸展筋の筋力低下を来たしやすいTKA術後早期のNWは,独歩,1本杖歩行と比べ,膝伸展筋活動の負荷軽減型の歩行様式であり,Double knee actionを改善する作用が得られる歩行運動である可能性がある。
著者
田端 洋貴 藤田 修平 脇野 昌司 辻本 晴俊 中村 雄作 阪本 光 上野 周一
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0842, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】当院では2015年10月よりロボットスーツHAL FL-05(以下HAL)を導入し運用を開始している。近年HALに関する報告は散見するが,神経難病に対する効果についての報告は僅少である。そこで当院における神経難病患者に対するHAL導入効果を検討したので報告する。【方法】HAL導入基準は,歩行補助具の有無や種類に関わらず,見守りまたは自立して10m歩行可能な神経難病疾患とした。対象は11例(男性5名,女性6名),平均年齢54.8±18.3歳で,対象疾患は,脊髄小脳変性症7例,筋ジストロフィー1名,筋萎縮性側索硬化症1名,多発性硬化症2名であった。1患者当りのHAL歩行練習実施時間は,着脱を併せて1回60分,アシスト量は被験者が快適に感じ,且つ理学療法士が歩容を確認しながら適宜調整した。歩行練習には,転倒防止の為にAll in oneを使用し,実施回数は1患者当り平均12.4±3.7回であった。測定項目は,歩行評価として10m最大歩行速度,バランス評価としてTimed Up and Go test(以下TUG)をHAL実施前(HAL前)とリハビリ終了後(HAL後)に測定した。統計学的分析にはWilcoxonの符号付き順位検定にて有意水準は5%未満とした。【結果】10m最大歩行速度は,HAL前0.75±0.31m/s,HAL後0.99±0.38m/s,歩幅は,HAL前0.45±0.11m,HAL後0.51±0.11m,歩行率は,HAL前95.7±28.8 steps/min,HAL後113.2±27.2steps/minであった。TUGはHAL前25.9±24.4s,HAL後17.4±9.7sであった。HALによるリハビリにより歩行速度や歩幅,歩行率などの歩行パフォーマンスと,バランス指標であるTUGにおいて有意な改善を示した。歩行速度の向上には歩幅と歩行率の改善が寄与するとされ,HALは荷重センサーにより重心移動を円滑に行わせ,律動的で一定の正確な歩行リズム形成により歩行率を高め,歩容などが改善した結果歩行速度が向上したと考えられた。また歩行速度の向上に求められるトレーニング要素としてはトレーニング量があり,HALが歩行アシストする事で身体にかかる負担が軽減された事により,歩行速度向上に繋がる十分な練習量の獲得が,過用・誤用症候群の出現なく達成出来たものと考える。【結論】神経難病は多くが進行性で,確立した治療法が無く,早期からのリハビリテーションによる機能維持が重要である。今回の結果から,HALによる歩行練習により歩行能力,バランス能力に改善効果を認めた。この事は,ADLやQOLの維持・向上につながり,神経難病に対する有効なリハビリテーションツールの1つとして非常に意義のあるものと考える。今後は,より効果の高い具体的な介入方法などを検証し,有効的なHALの使用方法の確立を目指していく。