著者
宮下 浩二 松橋 朝也 播木 孝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1214, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩甲骨のマルアライメントは投球障害の発生要因の一つとする報告は多く,その問題を実感することは少なくない。投球障害を有する選手は投球側の肩甲骨が非投球側よりも外転変位していることが多く,その評価として肩甲骨内側縁から脊柱までの距離を測定する方法が多く用いられている。しかし,人類学的には鎖骨・肩甲骨は左側が有意に大きい(坂上2003)ことが明らかにされており,脊柱と肩甲骨の距離を評価するためには骨格比を考慮する必要があると考える。そこで今回は,肩甲骨の大きさを基準に肩甲骨外転変位の評価を行った。【方法】対象は肩に投球障害の既往と現病のない右投げの高校野球選手38名とした。両側肩甲棘基部,両肩峰角,C7とTh5の棘突起に反射マーカを貼付し,安静立位の背面からデジタルカメラで撮影した。画像解析ソフトを用いて次の3つの距離について左右ともに算出した。①内側縁距離(C7とTh5の結線を基線とし,基線から肩甲棘基部までの距離),②肩峰距離(基線から肩峰角までの距離),③肩甲骨幅(肩甲棘基部から肩峰角までの距離)とした。次に投球側において,④肩甲骨幅を基準とした際の内側縁距離の割合(①/③×100)を算出した。統計的分析として,①,②,③の左右差について検定した(対応のあるt検定)。また,①と④の相関を検定した(ピアソンの相関係数)。さらに①内側縁距離の左右差と②肩峰距離の左右差の相関も検定した。【結果】①内側縁距離は右9.2±1.6cm,左8.1±1.6cmで有意に右が大きかった(p<0.01)。②肩峰距離は右19.3±3.0cm,左19.5±3.2cmで有意な差はなかった(p=0.39)。③肩甲骨幅は右10.1±1.8cm,左11.3±2.0cmで有意に右が小さかった(p<0.01)。④は93.0±17.3%であり,①と④にはr=0.47(p<0.01)の相関があった。また,①の左右差と②の左右差には有意な相関はなかった(r=0.49,p=0.65)。【結論】野球選手の内側縁距離は投球側が非投球側より大きい点は先行研究と一致していた。しかし,肩峰距離で外転変位を評価すると左右差はないことになる。これは,肩甲骨幅が先行研究と同様に右側が左側より小さいため,内側縁距離で右側の肩甲骨がより外転位になっても肩峰距離に左右差がなかったと考えられる。一方,内側縁距離を肩甲骨外転変位の指標とする報告は多いが,骨格の個体差を考慮すると基準値が必要になる。①と④は強い相関関係とは言えず,同時に内側縁距離の左右差と肩峰距離の左右差には有意な相関がないことからも,測定方法により外転変位の評価が異なることになる。野球選手の肩甲骨のアライメント変化は投球に対する適応とする報告(Seitz 2012,松橋2016)もある。野球選手の肩甲骨外転変位の測定値に対する評価は,絶対値のみならず骨格との比較等も必要であり,さらには投球時の肩甲骨の運動や肩甲上腕関節との連動への影響も踏まえる必要があると考える。
著者
細江 拓也 南角 学 黒田 隆 宗 和隆 後藤 公志 池口 良輔 松田 秀一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0481, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】変形性股関節症(以下,股OA)患者における中殿筋の筋萎縮は股関節外転筋力の低下を招き,前額面上での歩行の不安定性の原因となる。臨床の場面において,股OA患者の歩行能力の改善を目標として,股関節外転筋力の向上に取り組むことが多い。より適切に股OA患者の歩行能力の改善を図るためには,股関節外転筋力の低下の原因となる中殿筋の筋萎縮に関連する因子を明確にする必要がある。しかし,これらの因子を詳細に検討した報告は少ない。本研究の目的は,股OA患者の中殿筋の筋萎縮に関連する因子を身体所見及び画像所見から明らかにすることである。【方法】片側の進行期または末期の股OA患者52名(年齢64.6±9.8歳,BMI22.9±3.8kg/m2,男性10名,女性42名)を対象とした。身体所見として股関節屈曲・伸展・外転角度,股関節痛(VASを用いて評価)を測定した。画像所見として当院整形外科医の処方により撮影された股関節正面のX線画像から脚長差,Central-edge angle(以下,CE角),骨盤前傾角度を測定し,CT画像から中殿筋の筋断面積を測定した。中殿筋の筋断面積の測定は,仙腸関節最下端での水平断におけるCT画像を採用し,画像解析ソフト(TeraRecon社製)を用いた。さらに,得られた筋断面積から中殿筋の筋萎縮率として患健比×100%を算出した。中殿筋の筋萎縮率と各測定項目の関連性の検討にはSPSS ver.18を使用し,Pearsonの相関係数,Spearmanの順位相関係数,ステップワイズ法による重回帰分析を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】中殿筋の筋萎縮率は77.2±13.8%(患側2066.3±486.1mm2,健側2698.7±528.6mm2)であり,脚長差12.8±11.5mm(r=-0.51),患側の股関節屈曲角度91.6±16.7°(r=0.53),CE角17.8±10.4°(r=0.28)と有意な相関関係を認めた。一方,その他の測定項目については有意な相関関係を認めなかった。さらに,中殿筋の筋萎縮率を従属変数,脚長差,患側の股関節屈曲角度,CE角を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析の結果,股OA患者の中殿筋の筋萎縮率に関連する因子として,脚長差(β=-0.49),患側の股関節屈曲角度(β=0.34)が選択された(調整済みR2=0.47)。【結論】本研究の結果から,股OA患者の中殿筋の筋萎縮が進行している症例では,脚長差が大きく,患側の股関節屈曲制限が顕著であることが明らかとなった。脚長差が大きく,股関節屈曲制限が顕著であると大腿骨頭が外上側変位や扁平化を呈していると考えられ,その結果,中殿筋の筋長が弛み機能不全となることで,中殿筋の筋萎縮を招いていると考えられた。これらのことから,股OA患者において,脚長差が大きく,股関節屈曲制限が顕著である場合は中殿筋が筋萎縮を呈している可能性を考慮し,股関節外転筋のアプローチを実施していく必要性があると示唆された。
著者
武内 孝祐 佃 文子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1287, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】実際のスポーツ現場において,どのような頻度・時間・種類・目的のストレッチングが実施されているのかは明らかとなっていない。スポーツ現場で利用可能なストレッチングを検討するためには,実際のスポーツ現場におけるストレッチングの実施状況を明らかにする必要がある。本研究の目的は,スポーツ現場におけるストレッチングの実施状況を調査し,今後のストレッチング研究における基礎的データを得ることである。【方法】対象はスポーツ指導者140名とした(年齢:40.2±12.3歳,指導歴16.0±11.7年)。全ての指導者に,自身のスポーツ指導の中でのストレッチング実施状況に関する自記式アンケートを行った。調査項目は,実施しているストレッチングの種類(静的ストレッチング,動的ストレッチング),時間(1回の実施時間,合計時間),実施タイミング(ウォーミングアップ,クーリングダウン),目的(柔軟性向上,障害予防など),対象部位(全身計15部位)とした。【結果】スポーツ指導者140名のうち,ストレッチングを実施している指導者の割合は91.4%であり,ストレッチングを実施していないものが8.6%であった。また,実施しているストレッチングの種類は,静的ストレッチングのみ33.6%,動的ストレッチングのみ7.0%,静的ストレッチングと動的ストレッチングの併用59.4%であった。ウォーミングアップに静的ストレッチを取り入れている指導者の割合は77.9%であり(1回21.8±13.2秒,合計489.9±343.4秒)であり,クーリングダウンに静的ストレッチングを実施している指導者の割合は66.9%(1回25.5±17.1秒,合計538.5±392.9秒)であった。静的ストレッチングの目的は障害予防が84.7%,柔軟性向上が69.6%であった。ウォーミングアップに動的ストレッチを取り入れている指導者の割合は90.6%(1回22.1±16.2秒,合計598.1±465.0秒)であり,クーリングダウンに動的ストレッチングを実施している割合は18.8%(1回38.5±46.3秒,合計492.6±523.7秒)であった。動的ストレッチングの目的は障害予防64名(75.3%),パフォーマンス向上59名(69.4%)であった。ストレッチングの対象部位は,下腿後面,大腿後面,殿部の順で多かった。【結論】90%以上のスポーツ指導者がストレッチングを実施していることが明らかとなった。また,障害予防を目的として静的ストレッチングと動的ストレッチンは共にウォーミングアップで実施されていた。本研究結果は今後のストレッチングに関する研究を実施する上で重要な基礎的データとなる。
著者
荒木 浩二郎 池添 冬芽 田中 浩基 簗瀬 康 森下 勝行 中尾 彩佳 磯野 凌 神谷 碧 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1306, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】筋力トレーニング直後に生じる筋厚の増加(筋腫張)は血流増加,血管透過性亢進による組織間液増加に起因し,筋肥大に必要な低酸素状態や代謝物蓄積の程度を反映すると考えられている。我々は高齢者を対象に最大等尺性筋力の10%の負荷での膝関節伸展運動を10回1セットとして5セット実施した結果,1~2セット後には筋腫脹がみられず,3セット以降から筋腫脹が生じることを報告した(第2回基礎理学療法学会,2015)。筋腫張は筋肥大を引き起こす重要な要素とされているが,筋腫脹が生じる最低限の運動量でトレーニング介入をした場合に筋肥大効果が得られるかは明らかではない。そこで本研究では高齢者を対象に,最大等尺性筋力の10%の負荷で筋腫張が生じる最低限の運動量を用いて12週間の低強度筋力トレーニング介入を実施し,介入効果が得られるか検討した。【方法】対象は健常高齢者26名(男性3名,女性23名,年齢75.0±4.2歳)とし,介入群13人,対照群13人にランダムに割り付けた。介入群のみ週3回(1回監視下運動,2回自主練習),12週間の低強度膝伸展筋力トレーニングを実施した。運動負荷として,椅子坐位,膝関節90°屈曲位で測定した最大等尺性筋力の10%の重錘を用いた。膝関節屈曲90°から0°の範囲での膝関節伸展運動(求心相3秒,保持3秒,遠心相3秒)を10回1セットとし,3セット行なった。セット間の休息は1分とした。介入前後に筋力,筋厚を測定した。筋力の測定には筋力計(OG技研製マスキュレーターGT30)を用いて椅子坐位,膝関節30,60,90°屈曲位で最大等尺性膝関節伸展筋力を測定した。筋厚の測定には超音波診断装置(フクダ電子社製)を用いて,背臥位,膝伸展位で大腿直筋(RF),中間広筋(VI),外側広筋(VL),内側広筋(VM)の筋厚を測定した。測定部位はRF,VIが上前腸骨棘(ASIS)~膝蓋骨上縁の50%,VLが大転子~大腿骨外側上顆の50%,VMがASIS~膝蓋骨上縁の80%の高さの5cm内側とした。超音波画像は各筋2枚撮影し,平均値を解析に用いた。統計解析は群と時期を2要因とした分割プロットデザインによる分散分析を行なった。なお,有意水準は5%とした。【結果】12週介入後の測定が可能だった介入群12名(男性2名,女性10名,年齢75.9±4.0歳),対照群10名(男性1名,女性9名,年齢73.7±3.3歳)を解析対象とした。低強度筋力トレーニングにおいて用いた重錘の重さは2.2±0.7kgであった。分散分析の結果,すべての膝関節角度の膝関節伸展筋力において交互作用を認めなかった。また大腿四頭筋各筋の筋厚も交互作用を認めなかった。【結論】本研究では先行研究によって明らかとなった最大等尺性筋力の10%の負荷で筋腫脹を生じさせる運動量(セット数)を用いて12週間の低強度筋力トレーニング介入を行っても筋力増強,筋肥大効果は得られないことが示唆された。低強度筋力トレーニングでも効果を得るためには運動量を増やす必要があると考えられる。
著者
白勢 陽子 桑原 希望 中本 幸太 木曽 波音 国分 貴徳 村田 健児 金村 尚彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0624, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】脳由来神経栄養因子(以下BDNF)は,シナプスの可塑性に関与し,記憶や学習の形成において重要な役割を果たす分泌タンパク質である。また,BDNFは,Synaptophysinなどのシナプス関連タンパクの産生を促進し,神経伝達効率を改善すると報告されている。成人期ラットに対する運動介入では,脳内の様々な領域や骨格筋でのBDNFの発現を高めることが報告されている。しかし,老齢・中年齢ラットを対象とした長期的な運動介入が神経栄養因子に与える影響は不明である。そこで,本研究では,老齢・中年齢の2群の異なる週齢のラットに対する長期的な運動介入による運動療法の効果について,脊髄におけるBDNF,Synaptophysinの発現への影響を解明することを目的として行った。【方法】Wistar系雄性ラット20匹(老齢,中年齢各10匹)を対象とし,各群を走行群5匹,非走行群各5匹と無作為に分類した。走行群は小動物用トレッドミルを使用し,60分を1日1回,週5回,4週間の運動を行った。実験終了後,脊髄(L3-5レベル)を採取し,凍結包埋し厚さ16μmで切片作製を行い,一次抗体としてBDNF,Synaptophysin,二次抗体としてDylight488,Alexa546を使用し,蛍光免疫組織化学染色を行った。観察した切片は画像解析ソフトで解析を行い,脊髄横断切片の単位面積当たりの積算輝度を算出した。算出された値を比較するために一元配置分散分析を用い,Tukey法による多重比較を用いた(有意水準5%未満)。【結果】BDNFの単位面積当たりの積算輝度は,老齢群の走行群(8.69),非走行群(9.20),中年齢群の走行群(13.89),非走行群(7.93)であり,老齢群では両群に差はなかったが,中年齢群では,走行群は非走行群と比較して増加傾向であった。Synaptophysinの単位面積当たりの積算輝度は,老齢群の走行群(2.22),非走行群(1.79),中年齢群の走行群(4.26),非走行群(0.84)であり,中年齢群では,走行群が有意に増加した(p<0.01)。老齢群では,走行群が非走行群に比べ増加傾向であった。【結論】老齢群では,運動によるBDNFの増加はみられなかったが,Synaptophysinは増加傾向であった。中年齢群では,運動によってBDNFは増加傾向となり,運動によりSynaptophysinが有意に増加し,神経伝達効率が高まり活性化が図られた。週齢の影響では,加齢に応じて神経活性化の程度が異なり,中年齢群のほうが老齢群に比べて,神経活性化の度合いが高かった。Synaptophysinは神経小胞体の中にあり,神経伝達に関与している。運動により,Synaptophysinが増加することで,神経の伝達効率が高まったと考えられる。しかし,週齢により,運動による神経活性化の度合いの違いが明らかとなり,個別的運動介入の必要性が示唆された。
著者
藤下 裕文 浦辺 幸夫 沼野 崇平 堤 省吾 森田 美穂 竹内 拓哉 前田 慶明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1261, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】アンプティサッカーは主に切断者が行うスポーツであり,ロフストランドクラッチ(以下,クラッチ)を使用して走行する。筆者らは第51回の本学会でクラッチを用いた片脚走行は,骨盤前傾角度と走行速度に相関があることを報告した。しかし,足部とクラッチの位置関係,クラッチの支持時間等が走行速度に与える影響については不明であった。一般的な走行では,ストライドの延長と足部の接地時間の短縮が走行速度を増加させる一要因とされており,クラッチを用いた片脚走行でも足部とクラッチ接地の距離が走行速度に影響している可能性が考えられた。本研究では,クラッチの接地方法が走行速度に与える影響を明らかにすることを目的とした。仮説は,足部とクラッチ接地位置の距離が伸び,クラッチの支持時間が短縮されることで走行速度が速くなるとした。【方法】対象は下肢切断のない健常男子大学生で,アンプティサッカー経験群6名(年齢20.5±1.3歳,身長173.7±4.9cm,体重64.5±0.8kg,経験歴:3か月以上),未経験群6名(年齢21.0±0.6歳,身長171.5±5.4cm,体重60.7±7.0kg)の計12名とした。測定には三次元動作解析装置と床反力計を用いた。反射マーカーをPlug-in Gait modelで全身に35か所,クラッチの先端部に1か所貼付した。課題動作は,下肢切断者を想定し,非利き脚を弾性包帯で膝関節最大屈曲位にて固定した。分析項目は走行速度,クラッチ接地時のクラッチ先端部とToeのマーカーの距離,足部接地時のクラッチ先端部とHeelのマーカーの距離,クラッチ支持時間とした。距離は身長で除し,クラッチに貼付したマーカーの鉛直座標の変化量が1mm以下になった瞬間を接地,それ以上変化した瞬間を離地とした。統計学的解析には,各項目の2群間の比較に対応のないt検定,走行速度との関係を示すためにピアソンの相関係数を用い,いずれも危険率5%未満を有意とした。【結果】走行速度(m/s)は経験群で3.3±0.2,未経験群で2.9±0.3となり経験群が有意に速かった(p<0.05)。クラッチ先端とToe,Heelのそれぞれの距離は2群間で差がなく,クラッチ接地の位置に差はなかった。クラッチ支持時間(ms)は,経験群で227.8±36.3,未経験群で324.4±40.4となり有意に経験群が短かった(p<0.05)。クラッチ支持時間は走行速度と強い負の相関(r=-0.87,p<0.05)を認めた。【結論】アンプティサッカーでのクラッチを用いた片脚走行は,クラッチを接地させる位置による走行速度の違いはなく,走行速度が速いほどクラッチ支持時間が短いことが分かった。より速く走行し,競技力を高めるための指導として,クラッチ支持の時間を短くするように指導することが有効である可能性を示した。
著者
小林 信吾 岡本 健佑 北口 拓也 佐野 佑樹 和中 秀行 山原 純 稲場 仁樹 小西 佑弥 岩田 晃
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0092, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】日本人工関節学会によると本邦における2015年度の人工膝関節全置換術(以下TKA)件数は約54,000件とされ,その約87%が変形性膝関節症(以下膝OA)と診断されている。肥満は膝OAの危険因子とされており,Heatherらは肥満群は非肥満群と比べTKA術後のFIM運動スコアの改善率が有意に低いことを報告しているが,体格差や肥満基準の違いといった制限があり,術後早期の筋力やROM,歩行能力と肥満との関連については明らかにされていない。本邦では森本らがTKA術前と術後4週の膝機能や歩行能力,Timed Up & Go test(以下TUG)には肥満群(BMI>25.0)と非肥満群(BMI<25.0)を比較し有意差がないことを報告しているが,単施設研究でサンプル数が少ない等の制限がある。今回,我々は多施設共同研究によって集められたデータを基に,肥満の有無がTKA術前,術後3週の膝機能や歩行能力に影響をもたらすかを調査したので報告する。【方法】多施設共同による前向き観察研究に参加した4つの施設にて,2015年6月から2016年9月までに片側のTKAを施行した60歳以上の男女153名を対象とした。術前,術後3週における術側の膝伸展筋力,膝屈曲ROM,歩行速度,TUGを計測した。筋力測定は端座位・膝屈曲60°にて等尺性膝伸展筋力を測定し最大値を体重で除した値を算出した。歩行速度は8m歩行路の中央5mの歩行に要した時間を計測し速度(m/s)に変換した。TUGは椅子から起立し3m先のマークを回って帰り椅子に着座するまでに要した時間を計測した。術前のBMIが25.0未満を非肥満群,25.0以上を肥満群とし,各時期における測定値の群間比較を対応のないt検定を用いて検討し,有意水準を5%未満とした。【結果】非肥満群は63名(男性17名,女性46名,平均年齢74.9±7.1歳,身長152.1±8.2cm,体重52.3±6.7kg,BMI22.5±2.0kg/m2),肥満群は90名(男性17名,女性63名,平均年齢75.2±6.7歳,身長151.6±7.7cm,体重64.7±8.3kg,BMI28.1±2.3kg/m2)であった。以下,全項目の結果について非肥満群,肥満群の順に示す。術前の膝伸展筋力は0.26±0.1kgf/kg,0.23±0.05kgf/kg,膝屈曲ROMは125.0±15.1°,119.0±17.6°,歩行速度は1.20±0.37m/s,1.15±0.36m/s,TUGは13.0±5.4秒,12.9±4.3秒であった。術後3週の膝伸展筋力は0.17±0.06kgf/kg,0.15±0.06kgf/kg,膝屈曲ROMは119.2±11.3°,119.2±10.8°,歩行速度は1.18±0.34m/s,1.09±0.28m/s,TUGは12.4±3.9秒,12.7±3.6秒であった。群間の比較において有意差が認められた項目は術前の膝伸展筋力(p=0.03)と膝屈曲ROM(p=0.03)であり,その他の項目では有意差が認められなかった。【結論】術前の膝伸展筋力と膝屈曲ROMには肥満の有無によって有意差が認められたが,術後3週においては全ての項目で有意差は認められなかった。これらの結果から,肥満の有無はTKA術後の膝機能や歩行能力の改善には影響しないことが示唆された。
著者
小栢 進也 久保田 良 中條 雄太 廣岡 英子 金 光浩 長谷 公隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0051, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】膝を伸展させる代表的な筋は大腿四頭筋であるが,足や股関節の筋は下腿や大腿の動きを介して膝を伸展できる。このため,ヒトの多関節運動においては膝関節以外の筋も膝伸展運動に関与する。変形性膝関節症(膝OA)患者は立脚初期の膝伸展モーメント低下が報告されており,大腿四頭筋の膝伸展作用が低下している。しかし,膝OA患者は大腿四頭筋以外のどの筋で膝伸展作用を代償しているのか明らかではない。筋骨格シミュレーションによる順動力学解析は筋張力と関節角加速度の関係性を計算式により算出することで,膝伸展運動における筋の貢献度を調べることができる。そこで,本研究では膝OA患者の歩行分析から,筋が生み出す膝関節角加速度を調べ,膝伸展に貢献する筋を調べる。【方法】対象は膝OA患者18名(72.2±7.0歳),健常高齢者10名(70.5±6.7歳)とした。被験者の体表に18個のマーカーを貼り,三次元動作分析システム(3DMA-3000)およびフォースプレートを用いて歩行動作を測定した。マーカーの位置情報には6Hzのローパスフィルターを適用した。次に,OpenSimを用いて順動力学筋骨格シミュレーション解析を行った。8セグメント,7関節,92筋のモデルを使用した。解析はモデルを被験者の体に合わせるスケーリング,モデルと運動の力学的一致度を高めるResidual Reduction Algorithm,筋張力によってモデルを動かすComputed Muscle Controlを順に行い,歩行中の筋張力を計算式により求めた。さらに各筋の張力と膝関節角加速度の関係性を調べるためInduced Acceleration Analysisを用いた。データは立脚期を100%SP(Stance Phase)として正規化し,立脚初期(0-15%SP)での各筋が生み出す平均膝伸展角加速度を求めた。統計解析には歩行速度を共変量とした共分散分析を用い,筋張力と筋が生み出す膝伸展加速度を膝OA患者と健常高齢者で比較した。【結果】0-15%SPの張力は大腿広筋,足背屈筋群,ひらめ筋,腓腹筋で膝OA患者が健常高齢者より有意に低く,股内転筋群で有意に高い値を示した。膝伸展角加速度の解析では大腿四頭筋(膝OA患者2656±705°/sec2,健常高齢者3904±652°/sec2),足背屈筋群(膝OA患者-5318±3251°/sec2,健常高齢者-10362±4902°/sec2),ヒラメ筋(膝OA患者1285±1689°/sec2,健常高齢者3863±3414°/sec2),股内転筋群(膝OA患者1680±1214°/sec2,健常高齢者1318±532°/sec2)で有意差を認めた。【結論】膝OA患者と健常高齢者では大腿四頭筋と足背屈筋群に大きな差を認めた。膝OA患者は立脚初期の大腿四頭筋の発揮張力低下により膝伸展作用が低下する一方で,前脛骨筋を含む足背屈筋群の発揮張力を減少させ,その膝屈曲作用を低下させている。足背屈筋群は下腿を前傾することで膝を屈曲させるため,膝OA患者は足背屈筋群の張力発揮を抑えて立脚初期に膝屈曲が生じない代償パターンにて歩行していることが明らかとなった。
著者
伊勢 高也 柳澤 幸夫 福池 映二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1313, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに】近年,在宅医療の推進とともに訪問リハビリテーションの需要も大きく増加してきている。しかし,課題として訪問リハビリテーション(以下:訪問リハ)ではその効果を可視化することや,より有効なアプローチの実施に向けた取り組みが重要となっている。今回,訪問リハビリテーション患者に対し,歩行時に電気刺激(以下:EMS)を併用した歩行トレーニングを試みた。その結果,筋肉量,筋力,生活の広がりに改善を認めた症例を経験したことから,若干の考察を含め報告する。【方法】症例は70歳代,女性,身長153.1cm,体重63.7kg,BMI27.2。現病歴,6年前に胸椎圧迫骨折後に胸腰椎後側方固定術を施行し退院。その後,疼痛の増悪により活動性が制限され,5年前より訪問リハビリテーション開始。現在,要介護度2であり,歩行はT字杖歩行レベル。週3回の訪問リハビリーションを利用し,在宅療養中である。週3回のうち,2回にEMS機器であるひざトレーナー(Panasonic社製)を歩行トレーニング時に併用した。EMSを併用した歩行トレーニングは15分とした。EMS併用は6ヶ月間実施した。測定はEMS介入前,3か月後,6か月後の計3回とした。測定項目はIn BodyS10を用いて筋肉量及び四肢骨格筋指標(以下:ASMI),等尺性筋力計ミュータスを用いて下肢筋力,その他に握力,FRT,生活の広がりの指標(以下:LSA),TUGを測定した。なお,結果は各測定値を前後比較し,検討を行った。【結果】EMS介入前では,全身筋肉量33.7kg,両下肢筋肉量10.9kg,ASMI6.08kg/m2,下肢筋力18.2kgf,握力12.8kg,FRT34.5cm,LSA42,TUG19.6秒であった。3ヶ月後,全身筋肉量33.6kg,両下肢筋肉量10.8kg,ASMI6.07kg/m2,下肢筋力18.4kgf,握力12.5kg,FRT34.5cm,LSA51,TUG18.8秒であった。6ヶ月後では全身筋肉量35.6kg,両下肢筋肉量12.0kg,ASMI6.55kg/m2,下肢筋力19.8kgf,握力14.8kg,FRT34.0cm,LSA51,TUG19.2秒であった。【結論】今回の介入結果から,全身筋肉量,両下肢筋肉量,ASMI,握力,下肢筋力,LSAに改善が認められた。FRTとTUGは著名な変化は認めなかった。これらの改善効果については,歩行トレーニング負荷にEMSの負荷が付加されたことで,通常の歩行トレーニングよりも運動単位の増加,筋出力の増加につながり,生活の広がりにも影響を及ぼしたと考えられた。また,FRTおよびTUGの結果はバランス機能への効果が少なかったことが影響していると考えられた。今回,1症例であるが従来の歩行トレーニングにEMSを併用することにより,下肢筋肉量増加,筋出力増加を得ることができた。今後さらに症例数を増やし,詳細に検討することが必要である。
著者
岡棟 亮二 宮下 浩二 谷 祐輔 太田 憲一郎 小山 太郎 松下 廉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0502, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】臨床において胸郭へのアプローチが肩関節機能の改善に奏功することは多い。実際,胸郭は肩複合体の構成要素であり,肩挙上に伴い胸郭の前後径,横径拡大が生じることが報告されている(花村ら1977)。しかし,その胸郭拡大が制限された際の肩関節運動の分析は十分になされていない。本研究の目的は,胸郭拡大制限が肩前方挙上運動に与える影響を三次元動作分析で明らかにすることである。【方法】対象は肩関節に疼痛のない男子大学生19名(20.0±1.3歳)とした。体表のランドマーク上に反射マーカを貼付した。その後,胸郭拡大制限の有無の2条件で立位両肩前方挙上運動を動画撮影した。胸郭拡大制限は,最大呼気状態の胸郭の肩甲骨下角直下と第12胸椎レベルに非伸縮性コットンテープを全周性に貼付するという方法で行った。撮影動画から動画解析ソフトにより各反射マーカの三次元座標値を得た後,宮下らの方法(2004)に準じて角度算出を行った。算出角度は肩屈曲角度(肩最大前方挙上時の体幹に対する上腕のなす角度),肩甲骨後傾角度,肩甲上腕関節(GH)屈曲角度とした。胸郭拡大制限の有無の2条件における各角度を,対応のあるt検定を用いて比較した。また,対象ごとに胸郭拡大制限の有無による肩甲骨後傾角度およびGH屈曲角度の増減を検討した。【結果】肩屈曲角度は制限なし148.9±16.3°,制限あり141.0±15.5°で有意差を認めた(p<0.01)。肩甲骨後傾角度は制限なし56.1±11.4°,制限あり53.3±11.6°で有意差を認めた(p<0.01)。GH屈曲角度は制限なし91.2±15.1°,制限あり89.7±14.5°で有意差はなかった(p=0.44)。対象ごとに胸郭拡大制限の有無による肩甲骨後傾角度およびGH屈曲角度の増減を検討すると,制限なしに比べ制限ありで(a)肩甲骨後傾角度が減少し,GH屈曲角度が増加(7例),(b)肩甲骨後傾角度が増加し,GH屈曲角度が減少(4例),(c)肩甲骨後傾角度,GH屈曲角度ともに減少(8例)の3パターンに分類された。【結論】肩甲骨の運動は胸郭の形状に影響を受けるといわれる。肩挙上時,胸郭には拡大運動が生じるため,胸郭の形状も変化すると考えられる。本研究においては,胸郭拡大制限により肩前方挙上に伴う胸郭の形状変化が妨げられたと推察される。その結果,肩甲骨運動が制限され,肩屈曲角度の減少につながったと考えた。しかし,肩甲骨,GHの動態を対象ごとに分析すると,胸郭拡大制限によりいずれかの動きを増加させ代償を行うパターン(a,b)と,いずれの動きも制限されるパターン(c)が存在し,その動態は対象により様々であった。肩関節障害発生の面から考えると,パターンaのような代償方法はGHへの負担を増加させるためリスクが高いことが推察される。不良姿勢,胸郭周囲筋群の作用,加齢による肋軟骨の骨化などにより胸郭拡大は制限されるが,その際の対象ごとの肩甲骨,GHの動態の違いが肩関節障害の発生リスクと関連する可能性がある。
著者
鈴木 陽介 世良田 拓也 森 大志 小笠原 一生 鈴木 薫 牧野 孝成 伊藤 彰浩 大町 聡 二瓶 伊浩 今村 省一郎 竹原 良太朗 畠中 陽介 草場 優作 仁賀 定雄 中田 研
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1227, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】上肢の平衡反応は姿勢制御に寄与しており,ジャンプ着地時には足圧中心(以下COP)ピーク速度時間に影響することを健常人で明らかにした。しかしながら,肩関節機能障害を有する場合,上肢平衡反応を有効に利用できないことが考えられる。そこで,本研究は肩関節脱臼の既往が動的バランスに与える影響を探索することを目的とした。【方法】対象は肩関節脱臼の既往を有する患者9名(平均24.0±9.1歳)(以下,脱臼群),重篤な既往歴がない健常成人9名(平均24.6±9.6歳)(以下,健常群)であった。測定は,前方または側方へ20cmの高さから片脚ドロップジャンプ着地テストを行わせ,同側の脚で着地した時の床反力を計測した。上肢は胸の前で組ませる(以下,RES),制限なし(以下,FRE)の2条件とし,前方・側方へ右脚・左脚各6回測定した。床反力はダイナミックバランス評価システム(テクノロジーサービス社製)を用い,サンプリング周波数1kHzで計測した。動的バランス能力は,床反力データから,緩衝係数,鉛直方向の床反力ピーク(以下,Fz)およびピーク時間(以下,Tz),着地後20-200msのCOP軌跡長,前額・矢状各方向のCOPピーク速度,ピーク速度時間について検討した。統計は,前方と側方ごとに利き脚と非利き脚に分け,脱臼の既往と上肢の条件を要因とした1要因に対応がある二元配置分散分析を行い,有意水準5%とした。【結果】緩衝係数は交互作用に傾向が認められ,健常群のFRE条件では小さくなる傾向があった。Fzは利き脚・前方で条件と交互作用に傾向が認められ,健常群は脱臼群と比較してFRE条件でさらに小さくなった。Tzは非利き脚で脱臼群のみ早くなる傾向があり,側方ではFRE条件でより早くなる傾向があった。COP軌跡長は利き脚・前方で脱臼の既往に有意な交互作用が認められ,健常群ではFRE条件でCOP軌跡長が短かった(F(1,16)=16.19,P=0.001)。COPの矢状面ピーク速度には有意差が認められなかったが,ピーク速度時間は利き脚・前方のFRE条件で有意に短くなった(F(1,16)=9.86,P=0.006)。前額面ピーク速度では有意な交互作用が認められ,脱臼群のFRE条件では速度が有意に速くなった(F(1,16)=6.1,P=0.02)。【結論】肩関節機能障害が動的バランスに影響するかを探索するために,片脚ドロップジャンプ着地テスト中の床反力を計測した。FzおよびCOP軌跡長,矢状面ピーク速度時時間はFRE条件で小さくなったことから,上肢による平衡反応はこれらの要素を制御するために予測的に導入されていることが推察された。脱臼群では,特にFzやCOP軌跡長では健常群ほどの有効性がみられなかったことから,肩関節機能障害を有する場合,上肢の肢位に関わらず平衡反応を発揮できない可能性がある。本研究から,肩関節疾患患者でも動的バランスの低下から傷害の発生リスクが高まる可能性があり,バランス改善を促すアプローチの必要性が示唆される。
著者
中村 壮大 勝平 純司 松平 浩 高橋 美帆 佐久間 善子 崎田 真里子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0269, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】四つ這い位などの運動課題の違いが腹横筋に与える影響についての研究は認められるが,ブリッジ動作の種類の違いによる影響の検証は行われていない。そこで我々は,ブリッジ動作の種類の違いがどの様に腹横筋の筋厚へ影響を及ぼすかを明らかにすべく検証を行った。【方法】対象は整形外科的手術歴がなく,神経学的にも問題のない健常成人26名(男性10名,女性16名)とした。超音波診断装置を用い課題動作である3種類のブリッジ動作(両脚ブリッジ,片脚ブリッジ,クロスブリッジ)と安静時の腹横筋の筋厚の測定を実施した。被験者は両脚ブリッジ(股関節伸展0°となるまで臀部を挙上),片脚ブリッジ(一方の下肢の膝関節を完全伸展させたまま臀部を挙上させ股関節伸展0°になるようにし,左右の膝蓋骨の高さが同じかつ足関節底背屈0°),クロスブリッジ(一方の外果を他方の膝蓋骨上縁に接し,他方の股関節伸展0°となるまで臀部を挙上させる)を行う。これに加え,ブリッジをしない安静時のコントロール群,計4種類における腹横筋の筋厚を測定した。測定条件として①ブリッジ動作時上肢は胸の前でクロスする②両脚ブリッジでは両側の膝関節,片脚ブリッジ・クロスブリッジでは接地側の膝関節を70°屈曲位とする③足底はベッドに全面接地させる。分析方法は2試行の平均値を代表値とした。統計処理として,ブリッジの種類による腹横筋の筋厚の比較には,種類,左右,性差の三元配置分散分析反復測定法を実施し,交互作用を検討した後に,一元配置分散分析反復測定法(種類)にて検定を行った。有意水準は5%とした。また,被験者に対して各ブリッジ動作の難易度についてのアンケートを実施した。【結果】三元配置分散分析(種類,左右,性差)を行った結果,性差には有意差を認めたものの,種類と性差,種類と左右,性差と左右に交互作用は認められなかった。そこで,一元配置分散分析(種類)にて検定した結果,安静時に比べ両脚では有意に筋厚の増加が認められた(p=0.001)。また,片脚に比べ両脚(p=0.002),クロスに比べ両脚(p=0.001)でも有意に筋厚の増加が認められた。【結論】ブリッジ動作の種類の違いにおける腹横筋の筋厚への影響を検証した結果,両脚ブリッジにおいて最も筋厚が増加した。諸家によって,支持基底面が不安定な時には脊柱起立筋やハムストリングといったグローバル筋群が活動する事が報告されている。本研究において両脚ブリッジで最も腹横筋の筋厚が増加した要因として,片脚やクロスなどのブリッジ動作と比較して両脚ブリッジでは支持基底面が安定しているため,骨盤底筋群や腹部深層の腹筋群の収縮が得られやすく,これが,腹横筋の筋厚の増加につながったと考えた。本研究により両脚ブリッジが最も腹横筋の筋厚が増加することが明らかとなった。これらは,リハビリテーション分野におけるトレーニング方法の重要な知見となると考える。
著者
小笠原 沙映 浦辺 幸夫 前田 慶明 沼野 崇平 藤下 裕文 福井 一輝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1250, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】足関節内反捻挫は発生頻度の高いスポーツ外傷であり,予防のためにテーピングが行われている。テーピングは,テープの走行や本数を変化させることで,関節の制動効果を高めている。テープの走行の違いにより,関節運動への影響が変化するが,1本のテープが関節運動にどのように制限を与えているかは明らかではない。本研究の目的は,後足部の内反制限のため,走行が異なる3種類のテープを施行し,サイドステップ動作時に,テープがどのように関節運動を制限しているのかを明らかにすることとした。仮説は,距骨下関節軸に直交するテープの走行が後足部の内反制限に最も効果的であるとした。【方法】対象は,足関節捻挫の既往のない健常な女性8名(年齢21.4±0.5歳,身長157.3±5.6 cm,体重49.4±5.5 kg)とした。テープは日東メディカル社のEB-50を使用した。テープは対象の利き脚(ボールを蹴る脚)に,内果から足底を横切り,下腿遠位1/3まで貼付した。テープの張力を一定にするため,テープを徒手筋力計(アニマ社)のプローブに当てた状態で張力を加え,40 Nになった時点で貼付した。課題動作は,利き脚側の側方1 mへのサイドステップとした。課題動作の分析には,赤外線カメラ16台からなる三次元動作解析装置(Vicon Motion Systems社)を使用し,サンプリング周波数100Hzで記録した。赤外線反射マーカーをOxford foot modelに基づき下肢30箇所に貼付した。測定条件は,①テープなし,②足底面に垂直で,テープの後縁が外果の最突出部を通る走行のテープ,③足底面に垂直で,テープの前縁が外果の最突出部を通る走行のテープ,④足底面に対して後方に傾き,テープの後縁が外果の最突出部を通る(距骨下関節軸に直交する)走行のテープの4条件で行った。動作解析ソフトVicon Nexus1.8.5(Vicon Motion Systems社)を用いて,着地時の後足部内反角度とその後の最大内反角度を算出した。4条件間の比較には,Wilcoxon符号付順位和検定を用い,危険率5%未満を有意とした。【結果】足部接地時の後足部内反角度(平均±SD)は,①16.0±5.2°,②14.0±7.7°,③14.4±7.8°,④13.1±10.0°となり,④は①と比較して有意に低値となった(p<0.05)。最大後足部内反角度は,①19.5±5.7°,②18.8±8.9°,③17.1±8.2°,④16.0±9.2°となり,各条件間で有意差はなかったが,④が最も低値となった。【結論】サイドステップ時の後足部内反角度は,④が最も低値を示したことから,距骨下関節軸に直交した走行が後足部の内反制限に与える影響が大きく,仮説を支持する結果となった。さらに,②のように外果の前方を通るテープ,③のように外果の後方を通るテープでも,足底面に対して垂直に走行するため,一定の効果を示すことが分かった。今後は,1本ずつのテープの役割を考えて,さらに検討をすすめたい。
著者
吉村 修 濱田 輝一 二宮 省悟 楠元 正順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1718, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】理学療法士の卒前教育である臨床実習において,より良い教育には,質の良い臨床実習指導者(以下,指導者と略す)が必要である。指導者の質の向上のためには,良い指導者の特徴を検討する必要があると考えた。そこで今回,指導者が考える指導者の理想像の把握及び臨床経験年数での理想像の違いの有無を目的に調査・分析を行った。【方法】調査期間は平成25年8月から平成26年3月までの8か月間。42施設の理学療法士を対象として任意に回答要請し,質問紙調査を行った。回答方法は無記名で,選択回答もしくは自由記載とした。今回は,41問の設問の中から自由記載により「理想とする指導者像」で得られた回答について調査・分析を行った。質問紙の回収後は,回答の信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適切と判断されたものは除外した。自由記載の回答はテキスト形式にデータ化し,樋口らの開発したフリーソフトウェア「KH Coder」を利用して,テキストマイニングの手法を用いて,頻出語抽出と階層的クラスター分析を行った。臨床経験年数を0~5年目(A群),6~10年目(B群),11~15年目(C群),16年目以上(D群)に分類し,臨床経験年数群間での差についてカイ二乗検定を行った。有意水準は1%未満とした。【結果】回収部数は790名,有効回答数は689名(87.2%)であった。その内479名の臨床実習指導の経験者を分析対象とした。全体では,7,660語が抽出された。最頻150語を抽出した結果,「学生」,「指導」,「出来る」,「実習」,「能力」が上位5番目までの最頻語であった。クラスター分析(Ward's Method,出現回数30回以上の語を対象)を行った結果,「臨床の楽しさを伝える」,「能力に合わせた学生指導が出来る」,「患者のことを一緒に考える」の3つのクラスターに分類された。臨床経験年数はA群181名,B群:164名,C群80名,D群54名に分類し,最頻語での差の有無を検討した結果,全ての回答では群間に差が認められた(P<0.01)。しかし,全体での最頻語の上位3語の「学生」「指導」「出来る」のみでは群間に差が認められなかった(P=0.508)。【結論】指導者が考える指導者の理想像を把握しておくことで,より良い指導を行うヒントがあると考える。調査の結果,「臨床の楽しさを伝える指導者」,「能力に合わせた学生指導が出来る指導者」,「患者のことを一緒に考える指導者」が理想像と考えられていた。臨床経験年数による差は,一部では認められなかったが,全体では差が認められたことより,共通性はあるが臨床経験年数による指導の変化が生じる可能性が考えられた。良い指導者の特徴を検討し,理解する事は,より良い理学療法士教育に役立ち,理学療法士の質の向上に繋がると考える。また,臨床経験年数別の差をみることで,指導者の特徴をより詳しく分析する事や指導者教育に繋がるとも考える。
著者
Toshihiko Hayashi Ryusuke Kyan Satoshi Fukuda Kouji Mizota
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1682, 2017 (Released:2017-04-24)

【Purpose】In the clinical training of the physical therapist(following, PT), it lasts for a case report and a daily notebook, many divergences including the investigation learning that are imposed during training, and were demanded, and the burden was big quantitatively in terms of time. We tried to clarify this fact by objective data handling.【Methods】We explained this action beforehand and intended for the leader of training 5 facilities where the agreement was provided and the person in charge, nine trainee and three teachers of our academy. And we visited each facility once a week for the hearing of students and RPT. We performed analysis using the technique called“text mining”in this report in order to evade risk as much as possible.Soft“KH Coder”which I used this time abolishes“the manual labor”that can become arbitrary on choosing the word, and operation enables freedom in making it and coexistence of the objectivity by stepping on a procedure to show summarizing the whole data by a multivariate analysis, and showing it and a coding rule.【Results】As a result, the positive item showed a tendency to become higher in the middle stage of clinical training. And negative became decreased after the fourth week. In addition, as a result of co-occurrence network by the text mining, each comments of progress note tended to change every week.【Discussion】As a result of co-occurrence network from a progressive notebook, the data said that teacher's intervention were necessary that adaptation to the environment of the student and support about the on-site learning.
著者
二宮 省悟 濵田 輝一 吉村 修 楠元 正順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1723, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】我々は,H23年度から臨床実習指導体制の構築の検討を目的に質問紙調査を行い,当学会にて発表してきた。現状は,臨床実習指導経験者(以下,指導者)は自身の学生時代や就職後の体験的・経験的教育を行っていることが把握できた。昨年は,「実習で困ったこと」について臨床経験年数により意識の違いがあるのかを知ることを目的に臨床経験年数を4群に分け,比較検討し発表した。今回は得たデータの全体像を,テキストマイニングを用いて客観的に把握することを目的とする。【方法】調査期間はH25年8月からの8か月間。42施設の理学療法士を対象として任意に回答要請し,質問紙調査を行った。回答方法は無記名で,選択肢質問と自由記載にて「困ったこと」について分析した。自由記載の回答はテキスト形式にデータ化し,KHCoderを用いてテキストマイニングを行った。分析した内容は,頻出語抽出と階層的クラスター分析及び共起ネットワークの作成とした。さらにKruskalの非計量多次元尺度構成法(以下,MDS)による分析を加え,図表化した。【結果】回収部数は790名,有効回答数は689名(87.2%)であった。その内479名(臨床経験年数8.5±6.1年)の臨床実習指導の経験者を分析対象とした。指導に「困った」と回答した者は,434名(90.6%)であった。困った内容の第1位は,「学生の資質の問題」(回答総数に対する%:23.6%),第2位は「指導に自信がない」(20.7%),第3位は「学生の問題がつかみにくい」(18.5%)であった。自由記載では8299語が抽出された。データより最頻150語を抽出した結果,「学生(150)」,「指導(138)」,「レポート(74)」,「分かる(74)」,「実習(59)」,「提出(50)」,「言う(40)」,「理解(34)」,「患者(33)」,「自分(30)」が上位10番目までの最頻語であった。その後,併合水準(非類似度)を算出した上で,階層的クラスター分析(ユークリッド距離によるWard's methodを使用:出現回数15回以上を対象)を行った。その結果,4つのクラスターに分類された。またJaccard係数を算出し,単語間のネットワーク図を描画した共起ネットワーク(サブグラフ検出:媒介)からは,「学生」「指導」「分かる」を中心として,特徴的な頻出語との強い繋がりを示した(Node18,edge60,Density0.392,Min.Jaccard0.05)。さらに抽出語を用いてMDSを行ったところ,幾何的図形により単語の関係性を網羅的に示すことができた。【結論】今回,指導者の指導に際し,「困ったこと」の現状が把握できた。臨床実習指導者の共通の「困ったこと」としては主に「レポート指導」に帰着していることも判明した。このことは従来いわれている問題点と合致するものである。しかし,レポート課題を指導のツールに用いていることが多く,未だに解消できていない現実がある。今後も臨床実習について積極的に分析し,その対応策を考える必要性が示唆された。
著者
岩坂 憂児 津谷 宗達 佐藤 美加 伊藤 美加 坂下 咲希恵 渡辺 好孝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1709, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】臨床実習を実施するうえで重要となる要因の一つに,学生自身の学習意欲がある。この臨床実習に対する学習意欲を学内で高めることが重要である。当校では,早い段階から学習意欲を高める事を目的として1年の7月に医療法人松田会の協力のもと1日の早期見学実習を行っている。このような早期見学実習の効果をアンケート形式で報告しているものも見られるが,量的な検討では十分に把握できない部分も存在すると思われる。近年の研究で計量テキスト分析と呼ばれる手法によって,記載した文章やテキスト化した資料を用いた研究も見られ始めている。今回この手法を用いて,見学実習が学生の意識にどの程度影響を与えるかについて検討した。【方法】本学の理学療法科1年33名(男性21名,女性12名)のレポートを対象とした。見学実習の実施は,実習オリエンテーション(衣服や身だしなみの指導・見学実習についてのディスカッション),実習日,実習後のセミナーおよびディスカッション,レポート課題で構成される。実習は,学生2名に対して指導者1名が10時から15時にわたって指導するという形をとっている。実習後の課題には,見学実習後の感想レポートがあり,本研究では感想レポートを解析した。解析は,フリーソフトウェアのKH Coder(樋口ら)を使用した。解析手順は,レポート本文をテキストファイルに変換し,ソフト上で前処理の後,本文から語句を抽出した。「理学療法」,「見学実習」「PT」の実習に関わる語句を複合語として登録し抽出した。33名全員のレポートから最頻50語を抽出し,階層クラスター分析および共起ネットワークにて内容を検討した。【結果】総抽出語は4516語であった。最頻出の上位10語は「患者」「PT(理学療法)」「治療」「リハビリ」「印象」「思う」「自分」「見る」「会話」「行う」であった。抽出語の階層クラスター分析では7クラスターが得られた。クラスターの概要は,実習への感謝,理学療法士としての心構え,コミュニケーションの重要性,見学実習の内容,患者への説明,治療内容,理学療法士と患者との接し方が確認された。共起ネットワーク分析では,「患者」を中心に理学療法士の治療内容,患者とのコミュニケーション,患者への説明,自分自身の見学実習に対する内省などの関係性が明らかになった。【結論】早期からの臨床見学実習は,理学療法士の役割を直接感じるのみならず,医療専門職としての動機付け,患者とのかかわり方,コミュニケーションの重要性など,理学療法士を目指す上で情意領域の双方の教育的効果が得られたと考える。
著者
福田 聡史 喜屋武 龍介 林 敏彦 溝田 康司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1722, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】理学療法士の(以下,PT)の臨床実習では,学生は学内で学習した知識や技術を臨床時現場で活かすための体験ができる貴重な機会である。一方で,学生の指導を担当する指導者(SV)は臨床業務も多く,また,指導のための手間は多岐に渡る。さらに学生のレディネスが不十分な場合には実習を十分に遂行できないこともあり,教員のサポートが必要な場合も多い。今回,長期臨床実習において教員が毎週施設に訪問し,実習の進捗状況や学生の生活状況,指導者と教員の情報共有ツールとしてのプログレスノートを用い,即時性のある対応を試みた。その内容をテキストマイニング手法を用いて分析したので報告する。【方法】事前に今回の取り組みを説明し,同意の得られた施設の指導者とその責任者,当該施設で実習を行う実習生9名と当学院の教員3名を対象とした。各施設に当学院の教員を1名割り当て,毎週1回各施設を訪問した。訪問時の共有ツールとして「実習計画及び経過記録表(以下,プログレスノート)」を作成し,「生活状況」「実習進捗状況」「実習計画」「その他・連絡事項」の4項目について教員と指導者が自由に記入し,併せて面談を行い経過を追った。プログレスノートの記録結果を,上記4カテゴリーに分類し,記載内容を実習の進捗にポジティブに働く要素や言葉(以下,ポジティブ),ネガティブな要素や言葉(以下,ネガティブ),その他の項目に分け,実習経過に沿った変化を概観的に検討した。また,立命館大学樋口耕一氏が開発したフリーウェアKH Coderを用い,プログレスノートに記載された内容についてテキストデータマイニング分析を行った。【結果】テキストマイニングの分析結果を基に共起ネットワークの結果をまとめた。すべての項目の中心となったワードは,1~2週目は「コミュニケーション」「生活状況」,3~5週目は「1症例目」「初期評価」「発表」,6~8週目は「2症例目」「中間評価」9週目は「発表終了」「レジュメ作成」「修正」「まとめ」,10週目は,「アドバイス」であった。ネガティブ要素のみを抽出した結果,実習の前半においては,「知識」「状況」と「不十分」「低い」がネットワークを形成し,中盤からは,前半のワードに「指導」「検査」が加わった。後半においても同様の傾向を示し,その頻度は増加した。【結論】これらのことから実習前半では学生と指導者間での実習状況や生活状況についてネガティブなワードが多く見られ,ストレスにつながりやすい状況にあると考えられる。実習前半での学生の環境への適応や現場で学びに関する支援やサポートが必要であると考えられる。ネガティブ要素についてテキストマイニング手法を用いて分析する事で,指導者と学生間のストレスにつながりやすい状況について経時的変化を可視化し捉える事が出来ると考える。
著者
高木 亮輔 磯 毅彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1768, 2017 (Released:2017-04-24)

【目的】部下の育成は管理者の役割の1つであり,新人の不安の増大や意欲低下を防ぐことも重要である。管理者の支援が少ない新人は,入職後6か月に活気が減少し身体愁訴が増える報告もあるため,管理者が新人の悩みを把握し適切に支援することが必要となる。そこで,当院の管理者が新人の悩みをどれくらい把握しているか調査した。【方法】当院理学療法科の管理者(主任)7名と新人8名の合計15名に対して入職後6か月の時点でアンケート調査を行った。管理者は全員男性で病棟主任として部下を平均12.1±2.4人抱えており,平均臨床経験15.0±7.0年,平均管理者経験4.6±6.6年である。新人は男性5名,女性3名,全員臨床経験0年である。調査内容は新人が抱える職場での悩みとし,管理者は推測で,新人は現状を返答してもらい全て自由記載とした。統計処理はテキスト型データマイニングを分析するKH Coder(樋口ら)を用いた。形態素解析で得られた語に対して,上位5つまでの頻出語を選出し,5%未満を有意水準としカイ二乗検定を実施した。また,出現頻度が2以上の語を分析対象とし,共起ネットワークで単語間の関係性について検討した。【結果】形態素解析の結果から一人称を除外し,管理者は95語,新人は81語が抽出された。管理者の頻出語は患者,業務,治療,時間,内容であり,新人は患者,治療,勉強,焦る,病態であった。カイ二乗検定の結果,管理者(χ2(4,N=39)=1.64,p=0.92)はそれぞれの語が高い頻度で挙げられており,出現頻度に有意差は見られなかった。新人(χ2(4,N=26)=10.16,p<0.05)は患者,治療の語の出現頻度が有意に高かった。共起ネットワークの結果,管理者は,患者の治療内容,ゴール設定,日常業務に時間がかかる,家庭の役割と仕事の両立,他部署との関わりを新人の悩みとして推測した。新人は,患者の治療や病態,勉強への焦りを悩みとして挙げた。【考察】新人は患者の治療で悩んでいたが,管理者は治療に限らず日常業務や他職種連携といった幅広い視点で悩みを推測していることが明らかとなった。伊藤は支援者が価値観を押し付けることは相手の成長を損なわせると述べており,鈴木は自己評価が低い人にとってより高い資質,技能を期待されることは,心理的なプレッシャーになりうることを指摘している。また,小野田らは入職後3か月時と比べて6か月時に先輩・主任からの支援が新人の期待値を下回る傾向にあると述べている。今回も入職後6か月時に調査し,管理者は時間経過とともに新人の悩みを幅広く察知したと考えられるが,新人の悩みと異なった視点での支援は心理的なプレッシャーを与えかねない。山崎はコミュニケーションをとることがその人の悩みを和らげ,問題の解決に向かう手伝いをすると述べている。したがって,管理者は新人との悩みのギャップを埋めるために,まずは援助的なコミュニケーションを実践していくことが重要であると考えられる。
著者
本間 憲治 八反田 葉月 篠原 悠人 鈴木 康太 杉原 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1580, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】近年,脳血管疾患(以下,CVA)死亡数は減少傾向にあるが,要介護状態となる主原因疾患とされている。一方,心不全(以下,HF)は高齢化に伴い患者数は増加傾向にあり,今後はCVAとHFなど重複障害例の増加が予想される。当院は脳神経外科に加えて循環器科,心臓血管外科を併設した141床の一般病院で,回復期病棟も併設しており,急性期から在宅まで一貫したリハビリテーションを提供している。当院の地域は脳卒中地域連携パスによる医療連携が積極的に行われており,生活期との連携については,退院時の申し送りを中心に行っている。そこで今回,CVAとHFの重複障害例の申し送り内容に特徴がないか後方視的に検討する事を目的とした。【方法】対象はH26年9月からH28年9月に当院回復期病棟から自宅退院したCVA症例中,退院前に申し送りを行った者110例とし,既往にHF及び入院中にHFを併発したHFあり群29例とHFなし群81例の2群に分類し,申し送り書の内容について比較検討した。分析方法は退院時申し送り書より抽出した年齢,退院時の合計FIM,運動FIM,認知FIMの2群間比較には対応のないt検定,性別,高次脳機能障害,及び認知機能の低下の有無の2群間比較にはχ二乗検定を用い有意水準を5%未満とした。また,退院時申し送り書の項目より,「予想される問題点」と「依頼事項」の記述内容を,計量テキスト分析ソフト「KH-Coder」を使用し,2群の上記各項目に対し共起ネットワーク分析(サブグラフ検出・媒介)を用いjaccard係数を0.2以上とした。共起ネットワーク抽出語数,線の数,グループ数を抽出した。なお,共起ネットワークとは,テキスト中の単語間の出現パターンが類似したものを線で結んだ図で,結びつきの強さをjaccard係数で表している。【結果】年齢,性別,退院時の合計FIM,運動FIM,認知FIM,高次脳機能障害の有無,認知面低下の有無の全てにおいて,両群で有意差を認めなかった。「予想される問題点」について,共起ネットワーク抽出語数はHFあり32,HFなし98,線の数はHFあり46,HFなし77,グループ数はHFあり8,HFなし11で,HFありで全てにおいて少なかった。「依頼事項」について,共起ネットワーク抽出語数はHFあり41,HFなし126,線の数はHFあり73,HFなし117,グループ数はHFあり12,HFなし11で,HFありでグループ数を除き少なかった。【結論】「予想される問題点」「依頼事項」について,共起ネットワーク抽出語数,線の数はそれぞれHFありで少なく,障害が重複し,問題点の細分化が難しく,抽象的で個別性の低い内容となる傾向が示唆された。HFありでは「予想される問題点」に比べ「依頼事項」のグループ数は増加しており,HFありの抽象的で個別性の低い内容から具体的な依頼事項を絞り込むことが困難なため,依頼事項が散在化した可能性が示唆された。今後の展望として,重複障害例の申し送り時には身体活動の増加や予防を目的とした個別性の高い内容を伝え,生活期との連携を行いたいと考える。