著者
小川 禎一郎 中島 慶治 渡辺 秀夫 井上 高教
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

高感度でかつ情報量の多い機器分析装置を開発することは、現代分析化学の最重要課題の一つである。本申請課題は、分子が非対称的に配向している系にレーザーを照射すると、波長が入射光の半分の2倍波が発生する現象をもとに、固体・液体表面や界面の分子やそれらに吸着した分子の構造と配向を決定し、さらにその定量化を行うための高感度な機器を試作することを研究目的とし実施した。補助金により照射するレーザー光の角度や偏光を精密制御するためゴニオメーターと試料の位置を正確に微動するための精密ステージを購入し、新しい光学系を組み立てた。試料表面へのレーザーの入射角を自由にかつ連続的に変えることができ、表面分子からの2倍波の強度のレーザー入射角度依存性を測定できるようになった。これにより分子の表面に対する配向角度をより精密に(近似を行うことなく)決定できるようになった。また、入射角に対する強度依存性から、分析の目的のための最適角度を決定できるようになった。補助金により直流高電圧安定化電源を購入し、レーザー2光子イオン化装置の高感度化を計った。より高い電圧を印可することにより、飛び出した電子の捕集効率が高ま理、より高感度な分析が可能となった。これらの装置を活用して高感度分析を行い、次のような検出下限を得た。レーザー2光子イオン化法……水溶液表面のピレン……0.2fmol金属板表面のBBQ……0.1pmolレーザー2倍波発生法……ガラス表面上のDEOC……0.2pmolこれらの値はいずれも従来法より大きく優れたもので、研究の目的はほぼ達成した。
著者
小佐古 敏荘 西村 和雄 沢田 一良 平野 尚 志田 孝二
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究は陽子ビ-ムによる簿層放射化法を用いたトライボロジ-計測法を、基礎実験、応用計測の両面から確立しようとするものである。研究においては以下の諸項目にわたって検討を加えた。(1)タンデムバンデグラ-フ加速器を用いた簿層放射化法の検討7MeVの陽子ビ-ムを鉄材料に照射し、^<56>Fe(p,n)^<56>Co,^<57>Fe(p,n)^<57>Co,^<58>Fe(p,n)^<58>Coの反応を起こさせ、数ケ月の短半減期放射化コバルトを鉄表面数十μmに作った。照射は大型散乱槽内で行い、照射ジグを作り照射野を特定できる形にし、照射電流もモニタできる測定系を整えた。(2)鉄試料中の放射化生成物分布の測定(1)で放射化されたテストピ-スに純Ge放射線検出器を用いて、生成核種を測定した。また(1)研磨装置を用いて〜1μm位づつ研磨して、減衰γ線をGe検出器で測定し、摩耗量対放射線減衰の校正曲線を作成した。(ii)標準デ-タとして、鉄の箔(約10μm)を購入しこれを積層させて放射化し、鉄内放射化分布を調べた。(3)上記の(2)の鉄研磨デ-タと箔の実験結果を比較の上、^<56>Co/^<57>Co,^<56>Co/^<58>Coの比の形で摩耗量が表せるよう実験デ-タを整理し、解折計算を行い,汎用な校正関数を作成した。(4)本方法を実際の機械摩耗部分に適用してみるために、自動車エンジン部品摩耗試験のためのテストベンチを作成した。(5)(4)のテストベンチのカムノ-ズ摩耗部に対して、陽子ビ-ムによる簿層放射化法を用いたトライボロジ-試験を実施した。試験に当っては、最適コリメ-タの検討、検出器の最適配置、自動計測システムの構築、オンラインデ-タ処理プログラムの開発などをおこなった。(6)本方法の総合的検討をおこない、実用に供せられる形でのまとめを行なった。
著者
伯野 元彦 鈴木 崇伸
出版者
東洋大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究の2年前の当初の目的は、日本の諸施設構造物は十分耐震的であるので、相当強い地震に対しても中破程度はしても、崩壊することは無く、その下敷となって犠牲者が数多く出るなどということはないので、それでも発生する震後火災から逃れるために、「近代的火の見櫓」という高層ビルの屋上などに設置されたビデオ・カメラなどによって、発生した火災の火元,避難路の状況(橋が落ちて通れないことはないかなど)を、オンライン的に収集し,そのデータに基づいて、ワークステーションによって避難シミュレーションを行い、住民に適当な避難路を示そうというものであった。しかしながら、現実には多数の木造家屋,ビル,高速道路,新幹線など、地震に対して堅牢かつ粘り強いと思われていた構造物が、脆くも崩壊し、6、300人以上の方々が亡くなった。このように、この研究開始時に想定していた構造物の崩壊は殆ど無いという仮定は崩れたが、この研究の主目的である地震災害を、震後なるべく早く把握するという事は、一層重要になってきたのである。地震後、何回もの現地調査によって明らかになった事を列挙すると次のようである。(1)強震後停電は必ず起こる。そのため、震後被害を早期に把握するための、例えばビデオ・カメラは、動作不能となってしまう。(2)その停電をカバーするためには、予備発電機が必要であるが、水冷式のものであると、震後の断水の影響のため、結局は使えない事が多い。容量は小さいが、空冷式の予備発電機を利用するしか方法はない。(3)電源は確保できても、折角集めた被害に関する情報を送る手段が地震のためやられるという次の壁が出現する。ただ、この手法が実現できれば、その効果は大変なものであるから、何とか今後も研究を続けて行かなければならない。
著者
伊藤 驍 渡辺 康二 北浦 勝 塚原 初男 長谷川 武司
出版者
秋田工業高等専門学校
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

3年間にわたって資料収集・調査観測した結果について整理し、成果の取りまとめを行った。雪の観測と並行して研究を進めているため現在も一部作業継続中のものがあるが,今年度の主要実績は次の通りである。(1)前年度行った秋田県の雪崩危険箇所の調査解析に引続き,今年度は宮城県の場合について資料収集を行い,発生要因8つを抽出して日本海側と太平洋側に面した両県の危険度や地域的特徴について多変量解析を適用して比較検討した(伊藤)。(2)雪崩と同様,地すベりについても宮城県の危険箇所に関するデータを収集し,両県における危険度や地域特性を整理した。特に危険度の大きいところはいずれも特別豪雪地帯に位置し,比較的高標高地で長大な斜面をもつところに集中するということが判明した(伊藤)。(3)地すベり冠頭部での雪気象観測を引続き行った。またこの観測における問題点を解決し,データ収集のテレメタリングシステムを確立させた。本研究によって開発された観測システムは次年度より横手市で採用されることが内定した(長谷川,伊藤)。(4)雪崩発生要因の一つとして斜面雪圧を重視し観測を行ってきた。この雪圧は斜面上の局所的凹凸地形に大きく影響され,山形県内ではこの地形のところで地すべりと雪崩危険箇所が重複していることが確認された(塚原)。(5)積った雪が融けて融雪水をもたらし脆弱な地盤を形成するが,この融雪機構を熱収支法や気象作用等によって説明し,地盤にいかに浸透するかを積雪層タンクモデルを使って解明した。この数値シミュレーションは実際の観測と良く合うことを検証し,福井等北陸地方の融雪地すベり発生機構のモデルとして整理した(渡辺)。(6)石川県内の雪崩事例を対象に雪崩の運動論を適用し,雪崩防護工に作用する衝撃力や雪崩の通り道について数値シミュレーションを行い良好な結果を得た。特に雪崩抵抗係数を慎重に取ること,雪崩の到達地点は地形の拘束を強く受けることなどをモデルを使って明らかにした(北浦)。
著者
三浦 宏文 小松 督 飯倉 省一 下山 勲 TADASHI Komatsu
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究は,宇宙機(宇宙ロボット,人工衛星など)の姿勢制御に関するものである.平成4年度は微小重力を模擬するために,剛体を6自由度で支える実験機構を設計し,作成した.平成5年度は主に垂直成分の微小重力模擬装置の制御について詳細な研究を行った.これまでは,微小重力を3次元的に模擬するのは難しいので,空気軸受けなどで2次元的な支持装置を作って実験するのが普通であった.そこで,本研究では,特別の創意工夫によって,3次元的に空中に浮遊する物体の模擬装置を開発した.姿勢についてはジンバルによって3方向に自由に,重心周りに回転できるような構造にし,重心の移動に関しては,水平方向には空気軸受けによって2次元の自由度を与え,垂直方向にはカウンタバランスを備えること(平成4年度)、およびロードセルを備えて加速度を検出してフィードバックをかけること(平成5年度)で重さをキャンセルした.空気軸受けのための空気は,ボンベを装置に搭載することによってチュウブによる外乱を防いだ.宇宙機の姿勢制御には,本研究ではまったく新しい方法を提案しようとしている.それは,宇宙機を複数個に分割し,それらをユニバーサルジョイントで結合し,このジョイントには内力が発生できるようなアクチュエータが備えられていて,相対運動を引き起こすことによって全体の姿勢を制御しようというものである.平成4年度は、おもにこの研究を行い、最終年の平成5年度はロードセルによる微小重力制御系についてのより実用を目指した研究を行い理論と実験の良い一致を見た.
著者
近浦 吉則 鈴木 芳文
出版者
九州工業大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

結晶の構造評価は局所的な基本構造とその構造の場所分布の2因子によって完全になされる。前者の基本的結晶構造はX線スペクトルによって解析される。一方、結晶の不完全性を含む物質の構造の場所分布は、本研究代表者らによるX線散乱トポグラフィで調べられる。そこで、両者の機能を有機的に組み合わせた局所的なスペクトロスコピーをともなうトポグラフィ(仮に、X線スペクトロスコピック散乱トポグラフィと称する)の開発が本研究の第一の目的である。また、X線回析トポグラフィの欠点の一つであった場所分解能の向上を各種のマイクロビームの開発により、シンクロトロン放射光の新時代においてサブミクロン分解能を達成する目処を立てることが第二の目的である。平成4年度にまず、高精度走査機構を含むシステムの設計を行ない、計22軸の位置制御を行なうコンピュータープログラムを完成させた。平行して、収束X線マイクロビーム自作完了。平成5年度は、上記走査装置の製作を行なうとともに、収束マイクロビームと位置敏感検出器を組み込み、珪素鋼単結晶中の方位分布トポグラフフの直接観察を試み、本法の有効性が確かめられた。平成6年度は、高エネルギー研究所シンクロトロン放射光実験施設において、スリット方式で平行白色マイクロビームをつくり、竹材中のセルロース結晶、珪素鋼および複合材料をX線散乱トポグラフ観察を行ない、2〜3μmの分解能を達成した。これは、これまでの本法の分解能を1桁向上させたことを意味する。これらの実験から、0.5μmの壁は2次元非対称反射のマイクロビームによって可能であることを結論した。さらに、システム全体の調整チェックのために、先端複合材料の構造評価を行ない、半導体検出器マルチチャンネルのシステムが所期の設計性能を持っていることを確認した。研究成果の一部は、研究期間中、6回の国際会議で発表された。
著者
山口 梅太郎 茂木 源人 山冨 二郎
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

わが国の石灰石鉱山では、数100mにも達する長大な立坑を利用した露天採掘が行われる。近年になって、ようやく、この立坑内での岩石塊の挙動が解明されるようになってきたが、これらの研究を踏まえて、立坑に投入された鉱石(石灰石)の品位調整を行うことの可能性を得ることを試みた。鉱石は、立坑ヘトラックで運ばれて投入されるので、トラック毎の品位変動が立坑排出口での品位変動にどう影響するかを、立坑現場での実験とこれをモデル化した実験とによって観測し、さらに立坑内での鉱石の挙動のシミュレ-ションによって解析した。その結果1.垂直立坑システムよりも、斜坑システムにおける方が鉱石の混合が促進される。2.斜坑システムの混合特性は鉱石の粒径によって異なる。これは斜坑内において粒度偏析がおきるためと考えられる。3.斜坑システム内の混合特性は、斜坑内での鉱石の降下挙動、とくに不連続性による混合特性と、シュ-トホッパ-部におけるファンネルフロ-に起因する混合特性の合成したものと考えられる。4.斜坑システム内での鉱石の降下挙動は、単純な速度分布を仮定することによってモデル化することができる。5.これによって、鉱石立坑における鉱石の混合特性の推定が可能になった。6.鉱石立坑が使用年月と共に拡大して、容量が変化した場合の混合特性の変化を求めることができた。7.投入鉱石の品位変動が立坑の排出口でどうなるかのシミュレ-ションを行った。等を結論として得ることができた。
著者
高原 淳 戈 守仁 菊池 裕嗣
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

水面上に有機シラン化合物を展開し縮合重合することにより水面上に高分子有機シラン単分子膜を調整した。水酸基を表面に有するシリコンウエハ-基板に単分子膜を垂直引き上げ法で移しとった。基板には水酸基が存在するために有機シラン単分子膜の水酸基と反応し、単分子膜は基板に固定化された。表面への固定化をX線光電子分光測定装置(XPS)、フーリエ変換赤外分光に基づき評価した。また固定化単分子膜は、従来の非重合性の単分子膜に比べて、環境変化、周囲温度の変化に対して極めて安定であることを明らかにした。293Kにおいてアルキル基を疎水基に有するオクタデシルトリクロロシラン(OTS)は結晶を、フルオロアルキル基を疎水基に有するパ-フルオロオクチルエチルトリクロロシラン(FOETS)は非晶性の単分子膜を形成することを電子線回折に基づき明らかにした。結晶性のFOETSの混合分子膜をシリコンウエハ-上に調整した。原子間力顕微鏡(AFM)観察、水平力顕微鏡(LFM)観察により混合単分子膜が相分離構造を形成することを明らかにした。また相分離がOTSの結晶化を駆動力とすることを明らかにした。さらに水面上に結晶性の脂肪酸とフルオロアルキルシラン化合物の混合物を展開し縮合重合することにより水面上に混合単分子膜を調整した。AFM観察、摩擦力顕微鏡観察により混合単分子膜が相分離構造を形成することを観察した。さらに脂肪酸が結晶性のドメインを形成することを電子回折に基づき明らかにした。脂肪酸は基板に固定化されていないために溶媒で選択的に抽出され、直径1-2μmのシリコンウエハ-基板を露出した小孔を有する単分子膜が得られた。この小孔へ化学吸着により種々の有機シラン化合物が固定化できることを明らかにした。特にチオール基を有する有機シラン化合物(MTS)を小孔に吸着・配向させた有機シラン単分子膜は牛血清アルブミンを選択的に吸着・固定化することが明らかとなった。
著者
船戸 康幸 高木 望 虫明 基 久保田 雄輔 赤石 憲也 長嶋 孝好
出版者
鈴鹿工業高等専門学校
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

1.LaB6陰極を用いたスパッタイオンポンプ構造の追求。ポンプ真空容器としては、直径6インチ、長さ200mmのSUS-304製とし、平行平板およびペニング型放電電極を設置した。陰極として厚さ5mm、直径50mmのLaB6円板を使用した。この形状でのグロー放電プラズマスパッタにより、容器壁にボロン系薄膜を形成し、水を主体とする排気実験を行った。測定系として、超高真空電離真空計、マスフィルタ型分圧計、ピラニ真空系を接続する。粗引きポンプで排気したあと、LaB6スパッタ放電を開始する。このときの放電パラメータと排気特性(Pump-Down特性、排気速度特性、分圧特性、)の相関について詳細実験を行った。その結果、ボロン及びLaB6膜の水に対する高排気速度の実験的検証を得た。:2.プラズマパラメータと排気特性の相関関係の測定。グロー放電プラズマの電子密度、電子温度、空間電位の測定を、ラングミュアプローブを用いて行った。その結果スパッタ放電とポンプ排気特性の関連が明白となり、さらに高効率の排気を得るための条件を追求した。ペニング型放電電極構造の基礎実験を行い、磁場の印可が有効であることの検証をした。放電途中のガス放出・吸収挙動を四重極質量分析計と作動差動排気システムとの組み合わせによって詳細実験を行い、本研究の主目的を検証した。:3.ボロン系薄膜の物性評価。生成薄膜の評価をX線光電子分光法を用いて行った。スパッタターゲット材料の分析およびサンプル片上生成薄膜の組成分析を行い、プラズマパラメータとの関連が明らかとなった。更に、薄膜の深さ分布測定から、酸素、炭素、等、ポンプ特性に重要な影響を与える成分の、膜中分布が理解できた。この結果を、壁とのリサイクリング挙動、気相中での分圧特性、ガス放出特性に関する従来の実験結果、分担者の理論的検討、と比較し、新しいタイプのスパッタイオンポンプの可能性に資する成果を得た。
著者
小林 正彦 真浦 正徳 前川 秀彰 藤原 晴彦 島田 順 黄色 俊一
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

1.精細胞の移植について、飼育条件による有核精子と無核精子の割合の変化を調べた。その結果、低温暗催青した非休眠性幼虫では無核精子の割合が休眠性幼虫に比べて多いことが明らかになり、現在使用しているB系統に二化性の遺伝子を導入し低温暗催青することにより、より効率のよいドニーの系統をえられることが判明した。2.カイコの分散型反復配列BMCI多重遺伝子族をベクターとし、クロラムフェニコールアセチル化酵素遺伝子をマーカーとし、熱ショック蛋白質遺伝子のプロモーターをもつプラスミドpBmhscatを構築し、カイコの培養細胞にリン酸カルシュウム共沈法により導入した。その結果、比較的効率よくゲノムDNAと組換えを起こしていることが明らかになった。これを精細胞に応用し、組換え精細胞および組換え体カイコが得られる高い可能性が示唆された。3.カイコの前胸腺刺激ホルモン遺伝子と休眠ホルモン-PBAN遺伝子について多型を検索し、それぞれ遺伝子座位を決定した。カイコの前胸腺刺激ホルモン遺伝子は第22連関群の2.7に占座し、精細胞移植法によりホモ致死個体が救出されたskuと同一の連関に属し、移植の指標に使えることが明かになった。4.異種間細胞の移植のため、エリサンの精巣をカイコに移植し移植適性を調べた。その結果、移植された精巣は体液中では消化されるが、精細胞の移植では細胞が健在であることが明らかになった。5.種間雑種を作り出すため、カイコの培用細胞とマウスの培養細胞の融合条件を検索した。その結果、400v/cmの至適の条件では効率よく融合細胞が得られることが明らかになった。6.遺伝子導入と細胞融合に用る電気細胞穿孔法の精原細胞への影響を調べた結果、300v/cm以下では精細胞まで分化し移植が可能であった。
著者
高橋 劭
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

この研究は豪雨機構の研究のため豪雨雲内の降水粒子の分布を全降水粒子について求められるビデオゾンデを開発することを目的とした。直径200μmより大きい降水粒子についてはフラッシュ方式を採用、降水粒子が赤外線束を遮るとストロボが作動、フラッシュがたかれ、粒子映像を静止させてビデオカメラで撮影、1680MHzの搬送波を変調して地上に送信するものである。一方、雲粒子の粒度分布の測定のため新しく雲粒子ビデオゾンデの試作を行った。このビデオゾンデの原理はポンプで外気を吸い込み、透明なフイルム上に雲粒を捕捉、顕微鏡で撮影、CCDカメラの映像を地上に送信するものである。この雲粒子ビデオゾンデの特徴は、フイルムを流しながらフラッシュを作動して雲粒の映像を地上に送信するもので、フイルムの固定による外気の吸引では雲粒が次々と重なり見かけ上大きな雲粒が観測されるがこのフラッシュ方式の採用により雲粒粒度分布の測定誤差を最小限にすることが可能となった。室内実験でのビデオゾンデのテスト後、平成7年11月15日から1ヶ月間オーストラリア・メルヴィール島で行われたMCTEX国際プロジェクトに参加、降水粒子ビデオゾンデ16台、雲粒子ビデオゾンデ2台を雲内に飛揚することができた。ここでの雲はHectorと呼ばれ雲頂は18kmにも達し、強い雨と雷は想像を絶するものであった。我々のビデオゾンデで初めてHector雲の降水粒子の測定が行われ、氷晶域の異常な活発化、霰の融解に伴う雨滴のリサイクル、それに伴う大凍結氷の形成等が明らかになり10個/cm^2にも達する多くの氷晶数は雷活動の活発さを説明するものであった。全降水粒子ビデオゾンデの試作とこれらの飛揚によるHector雲の降水粒子の測定は当初予定していた降水機構の解明に大きな成果があった。
著者
平野 宗夫 森山 聡之 橋本 晴行
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究の目的は、雲仙において、リアルタイムに土石流の予測を行う手法を開発し、予警報システムの確立を計ることである。まず土石流の現地観測を行い、ハイドログラフのデータの蓄積を行う。また建設省九州北部レーダなどのデータを収集し、降水レーダデータベースを構築する。次に、得られたハイドログラフ、水位と雨量などのデータをニューラルネットワークに与えて学習させ、予測システムの開発を行う。本研究で得られた結果は以下のとおりである。(1)普賢岳周辺の中尾川、湯江川において、超音波水位計、電波流速計などからなる計測システムを設置し、流下してくる土石流を観測した。'94年、'95年は例年にくらべて雨が少なく、得られたハイドログラフは小規模であった。(2)雲仙の時間雨量データの累加値と総雨量を入力とし、土石流による堆積土砂量を出力とするニューラルネットワーク・モデルを構築した。そのモデルの検証のために、水無川における雨量-土石流堆砂量の関係を土石流発生毎に、過去の事例を学習-次の事例に対して予測させた。予測結果は、本モデルが水無川における土石流堆砂量の予測に有益であることがわかった。(3)ニューラルネットワークを用いて水無川における土石流の流出解析を行った。土石流の流出に関する土砂水理学的式をもとにしたニューラルネットワーク・流出モデルは1993年6月12-13日の実測ハイドログラフをモデリングすることができた。さらに、その流出モデルは、1991年から1993年に発生した土石流の堆積土砂量を推算し、実測堆積土砂量と比較を行い、有効性を示した。(4)土石流の発生予測は降雨パターンを土石流発生パターンと不発生パターンに判別することと考え、クラス分類を目的としたLVQ・モデルを利用し、土石流の発生予測精度の向上を試みた。発生予測に用いたLVQは従来の階層型ネットワークに比べて、単純なアルゴリズムでありながら、高い精度で発生と不発生の判定が可能であった。また、従来の階層型ネットワークについては、その関数近似の特性を利用した土石流の発生限界降雨の評価手法を提案し、累加雨量と発生限界理論をもとに、その妥当性を示した。
著者
所 敬 山崎 斉 川崎 勉 奥山 文雄 大頭 仁 上川床 総一郎 百野 伊恵
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究の目的は,視標の移動方向が前後方向,水平方向の2方向に移動でき,呈示時間が設定できる動体視力装置を開発することにあった。この3要素を設定できるので3次元動体視力計と名付けた。この装置の特徴を以下に挙げる。(1)視標速度は市販の機器よりも広い範囲で可変であり,静止〜100Km/hまで前後と水平方向の両方向で7段階に設定できる。(2)視標呈示位置は前後方向70〜4m,水平方向±2.0度である。(3)短時間呈示は1/1000〜1secまて7段階に設定できる。(4)これら以外に視標サイズは4種,色は白,赤,緑,青,黄の5種,背景照度は0.1〜200cd/m^2まで8段階まで設定できる。この装置を制作し,調整を行い上記の性能を得ることを確認した。さらにこの装置を用いて測定をしたところ,前後方向の動体視力は視標速度を静止から100Km/hまで変えると低下することがわかった。背景輝度の影響は,背景輝度を0.3から200cd/m^2まで変えることで得られ,動体視力は輝度が0.3cd/m^2から100cd/m^2まで増加するが200cd/m^2では減少することもわかった。今後の課題は,高速道路の交通眼科や航空医学への応用を計るために,視標速度をさらに150Km/hまて向上させる必要がある。また,環境が動体視力に与える影響が大きいため,視標の種類,背景,背景照度などを考慮する必要がある。この装置は今後,眼精疲労や交通眼科の問題解決に役立つ機器である。
著者
深尾 良夫 山田 功夫 青木 治三
出版者
名古屋大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

最終年度の研究は大別して2つに分けられる。1つは前年度までに試作した改装CMG-3地震計を用いて、火山性微動の観測を行うこと、もう1つは前年度までの研究でメーカー規格との食い違いが明らかになったSTS-2地震計の感度特性を最終的に確立することである。第1の課題については1991年6月から約1年半雲仙普賢岳で試験観測を行い、特に火砕流に伴う震動記録を数多く記録した。これらの記録には通常の高感度地震計では捉えられない5-10秒の比較的長周期成分が明瞭に含まれており、広帯域地震計の威力を見せている。ビデオカメラによる火砕流記録と震動記録とを比較した結果、火砕流に伴う震動は地表に押し出された溶岩塊がゴロンと斜面を転がり始めるときに出るものであることが分かった。第2の課題については、感度特性が振巾・位相と共に固有周期140秒の速度型地震計との特性等価であることを2つの独立な方法で確認した。これはメーカ規格による固有周期120秒とは大きく異なり、解析にあたって十分な注意が必要である。またSTS-1地震計との並行観測を行い、STS-2地震計は周期50秒以上で地震計台の傾斜変動によるものではないノイズが卓越すること、このノイズは地震計を耐圧容器をかぶせることにより顕著に減少することを見出した。そこでSTS-2地震計用の耐圧容器を製作し、現在これを東海大学敷地内の地下1mに埋設しテスト観測中である(横浜市立大学と防災科学技術研究所との共同研究)。記録は地球潮汐を明らかに捉えており、この耐圧容器の効果の絶大なことを示している。
著者
津田 孝夫 中谷 いつ子 岡部 寿男 國枝 義敏 大久保 英嗣
出版者
京都大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

本研究は平成2年度から4年度まで実施された。作業としては、交付申請書の研究実施計画に沿って、自動ベクトル化/自動並列化コンパイラならびに仮想並列ベクトル計算機シミュレータを開発することとした。ただし、短期間で開発を進めるため、研究組織において既に開発した自動ベクトル化コンパイラV-Pascalを基にする。具体的な作業は、1.コンパイラの自動ベクトル化/自動並列化処理部の新規設計と作成、2.仮想並列ベクトル計算機シミュレータのための効率的なスタック機構/同期機構の設計と作成、3.コンパイラの目的コード生成部の新規作成、4.仮想並列ベクトル計算機シミュレータの作成、5.コンパイラのその他の各部の修正、6.システム全体の性能評価である。1.に際しては、他に類を見ない厳密な依存関係解析技術を新たに開発実装するとともに、粒度の大きな並列化を可能とするために、依存グラフをプログラム全体にわたって作成する手法を考案ならびに実現した。この依存グラフは、様々な並列実行の単位を想定して設計されている特徴を持つ。また、種々の粒度の並列タスクの候補を階層的に表現でき、かつ、タスク候補の分割・融合も容易なように設計されている。この新たに提案している階層的依存グラフを用い、各タスク候補の実行時間予測を行った上で、最適と思われる並列タスクを自動生成する技術を確立した。この時間予測では、本研究の設備備品費で購入した実験用計算機TITAN上で、各種実行時ライブラリの実行時間を計測したデータ等を基に、有効性を実際に検証した。2.のシミュレータとしては、日立のスーパーコンピュータS-820用のバージョンがベクトル命令のシミュレーションを含めて稼働している。並列同期/スケジューリング/スタック管理等の機構は、実行時ライブラリとして実現され、コンパイラが生成する目的コードと連携して、効率よく並列実行を進めるものである。