著者
市川 銀一郎
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.145-156, 2003-07-31
被引用文献数
1

当教室では内耳から聴中枢に至る各種情報を電気生理学的,またそれに準ずる手法の内から,非侵襲的に得られる聴性誘発反応・脳電図・双極子追跡・fMRIなどを用い《聴え》を見ることにより,聴覚障害の精密な部位診断法確立を目的として検討を行ってきた.聴覚情報は聴器から聴覚中枢路を上行し,聴中枢を経て言語中枢などに情報を提供する.1970年代よりmedical electronicsの発展が聴覚情報についての微細な検討を可能にした.1997年には日本脳波・筋電図学会(現日本臨床神経生理学会)による各種の誘発電位測定指針作成に当たり,当教室は聴性誘発電位の測定指針の作成を担当した.現在,わが国で実施されている本反応検査はこの指針に従っている.われわれは聴覚情報が内耳から聴中枢に上行する過程を連続的に<見る>ため対数時間軸表示による記録を行い臨床応用している.脳電図(脳等電位図;Brain mapping)は頭皮上に投影される電位分布を見ることにより聴覚路の動態を知る手がかりとなり,当教室はわが国で最も早くその研究に着手した.双極子追跡(Dipole tracing)は音の情報が上行する過程につき連続的にその位置,方向などを<見る>ことができる.fMRIでは聴皮質近傍の情報に限られるが,純音と語音とでは優位半球が異なるなど感音難聴における語音明瞭度の低下に関する病態を<見る>方法としての可能性を秘めている.これらの手法は,いづれも利点・欠点を有するが中枢聴覚路の病態を論ずる場合,有用な情報を提供してくれる.一方,耳音響放射(Otoacousitic emission;OAE)は蝸電図と共に詳細な内耳機能を非観血的に<見る>ことができる安定した現象である.近年,急速に臨床応用が成されている.途半ばではあるが,聴覚障害の詳細な病態をreal timeで<見る>ことにより速やかな診断・治療が行われる時代が近づいている.《聴え》を見ることは生涯の夢である.
著者
檀原 高 岡田 隆夫 高宮 信三郎 藤岡 治人 大草 敏史 藤沢 稔 前田 国見 深沢 徹 榎本 冬樹 藤本 幸雄 高崎 覚 各務 正 木南 英紀
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.502-508, 2004-01-30

平成15年6月6日に順天堂医学教育ミニワークショップが開催された.80名を越える教員が参加し,良質の多肢選択問題を作成するために討議を行った.会議に先立ち,平成14年度医師国家試験成績・共用試験のCBTと学内試験(基礎医学・臨床医学および卒業試験)との良好な正の1次の相関があることが示された(相関係数:0.65〜0.80).これらの結果が示すように,本学の学内試験は医師国家試験とCBTにとって良質な問題が作成されていることが示唆される.
著者
中村 洋
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.372-376, 2008-09

中高年にみられる関節痛のもっとも多い原因が変形性関節症osteoarthritis(OA)である.保存的治療として,安静,保温,運動療法に加えて,薬物治療が行われる.アセトアミノフェンは容易に購入できる鎮痛薬で,本邦では一日1.5gまで使われる.痛みが強い場合は非ステロイド性消炎鎮痛薬nonsteroidal anti-inflammatory drug(NSAID)であるインドメタシン,ジクロフェナック,ロキソプロフェンといった薬を使用するが,上部消化管障害などの副作用に注意が必要である.これらの薬剤はシクロオキシゲナーゼcyclooxigenase(COX)を抑えることによって,痛みや炎症の原因となるプロスタグランディンE_2(PGE_2)の産生を抑制して効果を発揮する.近年,胃腸障害を軽減するため,COX-2選択的阻害薬が使われるようになってきた.関節内へ薬剤を直接注入する治療法も医療機関では行われている.ステロイド剤は即効性があり,効果も劇的であるが,副作用を避けるため頻回に用いないほうがよい.ヒアルロン酸はその物理的性質と抗炎症作用により,OAの症状を軽減するとされている.副作用が少なく,定期的に注入して効果をあげている.現在販売されているサプリメントにはさまざまな種類があるが,グルコサミンはその作用が科学的に議論されている唯一の物質である.グルコサミンのOA治療への歴史は1960年代のドイツにさかのぼる.その後,1990年代後半から北アメリカで大ブームを巻き起こし,いくつもの臨床治験が行われた.有効性を示す研究結果があるが,否定的な意見もある.一方,グルコサミンの基礎的研究は盛んに行われており,抗炎症作用,軟骨分解酵素の抑制作用が明らかにされ, OAの症状を軽減するだけでなく,進行を抑制する可能性が克く示唆されている.
著者
白井 將文
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.335-342, 2002-12-12

わが国では更年期と言えば女性特有なものと言う考えが支配的であるが,男性にも更年期は存在する.ただ女性の更年期に相当する年齢の男性に女性に見られるような症状があるかと言えば必ずしもそうではない.しかしその症状の程度には差こそあれ多くの男性に,倦怠感・不眠・うつ傾向・集中力の低下・性欲の減退・勃起障害(ED)などがみられる.男性の精巣も女性の卵巣と同様加齢と共に機能低下,即ち精子形成能の低下やホルモン分泌能の低下がみられるが女性と違い精子形成は続いているし,男性ホルモン分泌の減少も緩やかで,しかもこれら変化は個人差が大きい.従って出現する症状も女性程激しくなく,個人差も大きい.この男性に見られる各種症状のうち男性にとって最も関心の高いのが性欲の減退とEDである.加齢と共に勃起機能,特に夜間勃起の減少が見られ,年齢と共に男性ホルモンの欠乏に伴うEDも増加してくる.これら症例に男性ホルモン補充療法を行うと勃起力の回復だけでなく,気力や体調の改善も見られる.しかし,前立腺癌の存在を知らずに男性ホルモンを使用すると前立腺癌が発育してしまう危険があるので,ホルモン補充用法前には必ず前立腺癌の無いことを確認すると共にホルモン補充療法中も常に前立腺癌に対するチェックが必要である.また最近EDに対する経口治療薬のバイアグラ[○!R]が加齢に伴うEDにも使用され良好な成績が得られている.これらホルモン補充療法やバイアグラ投与で男性のみを元気にしても,ホルモン補充療法の普及していないわが国の女性の多くは性欲の減退や膣分泌液の減少に伴う性交痛などから性交を希望していないことが考えられ,女性に対するホルモン補充療法や膣分泌液を補う目的のリューブゼリー[○!R]の使用なども考慮しながらEDを治療していく必要がある.
著者
平井 慶徳
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, 2001-10-19
著者
澤木 啓祐
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.312-316, 2003-09-30

東京箱根間往復大学駅伝競走は1920年(大正9年)に始まり,本年2003年に79回の歴史を刻んでいる.わが順天堂大学は1958年,初出場より本年まで46回連続出場を達成している.この間10回の優勝,18回の2位・3位を数え,参加全大学中,抜群の勝率を残している.この好成績の要因としては種々の医科学的アプローチの賜である.1966年,初優勝よりスポーツ生理学的指標である最大酸素摂取量を基盤としたトレーニング,1979年より血液性状によるコンディションチェック,脚筋力と競技記録の関連,1990年代より血中乳酸を指標としたトレーニング強度の改善など,生化学的検査を駆使し,出場選手のコンディションチェックの手法を確立し,持久性能力の改善手段として関連諸学科との協力体制を構築することにより『順天堂大学方式』としての評価を得ることができた.医科学的データに基づく<客観的指標>,現場のコーチングスタッフの眼力による<主観>との融合,学生選手と現場指導者であるコーチングスタッフとの信頼関係により大きな成果を得たものと確信している.今後,私どもは関連諸学科との連携により更なる改善を重ね競技力向上に邁進したいと考える.
著者
檀原 高 岡田 隆夫 建部 一夫 坂本 直人 富木 裕一 案浦 健 鈴木 千賀子 中村 真一郎 津村 秀憲 栗原 秀剛 小林 敏之 諫山 冬実 奥村 彰久 田村 剛 富野 康日己
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.651-656, 2007-12

定例の順天堂医学教育ミニワークショップが,2007年6月1日に開催された.50名以上の教員が参加し適切な試験問題の作成のための討議を行った.午前のセッションでは,予め作成していただいた定期多肢選択問題をスモールグループで検討修正を行った.午後のセッションでは,基礎医学系教員にはCBTにおける順次解答4連問を,臨床医学系の教員には4年次および5年次の臨床実習における口頭試験問題を作成していただいた.
著者
船曳 和彦 岡崎 圭子 仲本 宙高 有賀 誠記 相澤 昌史 金子 松五 蒔田 雄一郎 堀越 哲 富野 康日己
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.318-323, 2008-09

目的:順天堂東京江東高齢者医療センターは2002年6月1日に開院し,質と安全度の高い先端的な高齢者医療を提供してきた.開院後5年間における血液浄化室にて施行した血液透析患者について解析し,今後の高齢者に対する透析療法に活かすため,わが国全体の慢性透析療法の現況と比較検討した.対象・方法:2002年6月より2007年5月までの5年間に,当センター血液浄化室にて透析療法を施行された慢性維持血液透析入院患者および維持血液透析療法に導入された入院患者計431名(男性265名,女性166名)を対象とした.対象患者を1年毎に性別,平均年齢,新規血液透析導入患者数を統計学的に評価するとともに,新規血液透析導入患者の原疾患および入院中の死亡原因について調査し,日本透析医学会の統計調査と比較検討を行った.結果:毎年透析患者数は増加傾向で開業時と比較して直近で約3倍となっていた.5年間の平均年齢は,70.8歳(男性69.4歳,女性73.4歳)であった.また,5年間で計89名(男性61名,女性28名)が新規導入され,平均年齢は71.6歳(男性66.7歳,女性76.4歳)であった.患者の原疾患は,糖尿病性腎症46名(51.7%),腎硬化症17名(19.1%),慢性糸球体腎炎7名(7.9%)であった.当センター入院中に46名が死亡し,原因として感染症が最も多く(14名),死亡患者全体の30.4%を占めていた.悪液質/尿毒症により死亡した5名の入院時平均血清アルブミン値は,24g/dlと低下していた.結論:当センター血液浄化室にて透析療法を施行された患者は増加傾向であり,2006年6月からの1年間では平均年齢73.6歳と全国と比較して7.2歳高齢であった.原疾患も糖尿病性腎症が半数以上を占め,急速進行性糸球体腎炎の比率も高いことは高齢化に起因すると思われる.死亡原因としては感染症が最も多く,患者の高齢化や糖尿病患者の割合が多く免疫不全により誤嚥性肺炎や敗血症に罹患しやすいためと考えられた.悪液質/尿毒症による死亡者は全例が高齢で長期透析患者であり,低アルブミン血症を伴っていたことから当センター入院中の高齢長期透析患者に対する適切な栄養管理および透析効率の確保が一層必要と思われる.
著者
工藤 綾子 稲冨 惠子 佐久間 志保子
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.458-467, 2007-09
被引用文献数
1 1

目的:本研究は訪問看護師ならびに施設責任者の在宅医療廃棄物処理の現状を把握し,訪問看護ステーションの適正処理に関する教育的課題を明らかにすることを目的とした.対象:訪問看護師703名,施設責任者345名.方法:対象者には質問紙による郵送法調査を行った.調査内容は,(1)在宅医療廃棄物の処理状況,(2)医療廃棄物取り扱いに関する指導内容と方法,(3)感染性医療廃棄物に関する意識と取り扱い,(4)行政・企業・施設に対する要望などであった.調査結果:(1)訪問看護師が施設に持ち帰る廃棄物は注射器・注射針,点滴セット,血糖測定時のテステープ・カット針などであった.(2)医療廃棄物に関する講習会への参加経験がある訪問看護師は25%であった.(3)職員を講習会に参加させている施設責任者は34%であった.(4)施設に対しては医療廃棄物に関するマニュアル作成,感染症に対する学習の機会を要望していた.(5)行政・企業への要望は訪問看護師・施設責任者ともに知識の普及であった.結論:講習会参加については参加させている施設責任者,参加経験のある訪問看護師ともにその効果を認めているものの,職員を講習会に参加をさせている施設責任者は少なく,訪問看護師の在宅医療廃棄物に関する知識の普及と各市町村ならびに施設の廃棄システムを踏まえた感染性医療廃棄物の取り扱いマニュアルの作成が急務な課題であることが明らかになった.
著者
岩間 義孝
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.278-287, 2007-06

睡眠時無呼吸が頻繁におこると,睡眠が分断され日中に過度の眠気を伴い生活の質を低下させる.また,いびきをかくことも多く,ベッドパートナーに迷惑をかける.しかし,この睡眠時無呼吸症候群が臨床的に注目されている理由は,高血圧,糖尿病,心臓病,脳血管疾患などと密接に関連するからである.睡眠時無呼吸を有する患者は,一般人口と比較して,高血圧が約2倍,虚血性心疾患が約3倍,脳血管疾患が3〜5倍の頻度で合併すると報告されている.米国のデータでは,睡眠1時間あたり20回以上無呼吸がある患者をそのまま放置すると, 9年後には10人のうち4人は心臓病・脳血管障害などで亡くなっていたという衝撃的な報告がある.睡眠時無呼吸症候群が心血管疾患に影響を及ぼす理由は,繰り返す低酸素状態,交感神経の活性化による悪影響,肥満に伴う冠危険因子(高血圧・高脂血症・糖尿病など)の増加などが考えられている.また,睡眠時無呼吸症候群の治療が心血管疾患自体の予防・治療につながる.なかでも生活習慣の改善は睡眠時無呼吸症候群および心血管疾患自体の予防・治療にとって重要である.睡眠時無呼吸症候群の患者の中には,食事・運動をはじめとした生活習慣の改善をはかり減量に成功した結栄,睡眠時無呼吸が改善しCPAP治療(睡眠時無呼吸の治療機器)をやめられる方もある.眠りには,質の良い眠りと悪い眠りがある.良く眠れたときは,目覚めが良く頭がすっきりしている.活動的な質の良い生活を送るためには,良い睡眠は欠かせない.睡眠時無呼吸症候群の予防・治療を行うことにより,"健康に生きること"が約束されることになる.
著者
田中 亮太
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.2-10, 2006-03-31

成体の中枢神経組織には,ニューロン,グリアを新たに生み出す能力を持った神経幹細胞neural stem cells (NSCs)の存在が近年の研究で明らかにされている.この神経幹細胞を利用した中枢神経系の再生医療が注目され,脳梗塞,頭部外傷,脊髄損傷など克服困難とされてきた中枢神経系疾患への新たな治療法として期待が寄せられている.今回われわれは,内在性神経幹細胞を利用した脳梗塞の治療の可能性について,ラットの局所脳梗塞モデルを用い検討した.脳梗塞後4日目より,神経幹細胞増殖因子であるプロラクチン(PRL),神経細胞分化誘導因子であるエリスロポイエチン(EPO)をそれぞれ1週間ずつ脳室内に注入し,最長45日まで観察・検討を行った.運動機能テストではPRL+EPO群ではコントロール群に比し脳梗塞6週間後において優位な機能回復を認めた.一方治療群の脳組織ではBrdU/NeuN陽性の新生したニューロンが損傷部位とその周辺に優位に多数認められ,これら再生したニューロンが脳梗塞後の機能回復に関与していると考えられた.今後成人脳においても移植療法と同様に,内在性神経幹細胞を用いた機能回復を目的とした新しい治療法の確立が期待される.以下の事由により本文を削除。2007(平成19)年11月29日1.海外の共同研究者から,未発表の図表を含む論文を共同研究者の承諾なしに単著として発表した,という指摘が今年(2007年)10月になって正式文書として来信。2.著者もこれを認め了解したので,遡って掲載を取り消し。3.本件については順天堂医学53(4)紙上にて公告。
著者
王 美華 片山 佳代子 町田 和彦 黒沢 美智子 稲葉 裕
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.166-175, 2008-06
被引用文献数
1

目的:中国都市部高齢者のメタボリックシンドローム(MS)の実態と日常生活歩数との関連を明らかにすることを目的とした.対象:2004年3月の研究開始時点に中国天津市南開区にあるコミュニティ病院に登録された65歳以上の地域住民高齢者9,167人のうち,200名が健診と質問票調査に参加した.2005年2月に同じ健診を実施した.質問票調査と2回の健診を受け,かつ1年間の平均歩数を測定できた90名を解析対象とした.方法:質問票調査と健診を受けた対象者全員(200名)に万歩計を配布し,1週のうち任意の3日間,起床から就寝までの1日の歩数を1年間継続して記入するよう依頼した.この総歩数を記録日数で割った1年間の1日平均歩数を今回の日常生活歩数とした.MSの診断基準は中国のCDS(Chinese Diabetes Society 2004)に従い,構成因子5因子中3因子以上該当する者をMSとした.2004年と2005年の健診で2回ともMSと診断されなかった高齢者40名を非MS群とし,2回あるいは1回MSと診断された50名をMS群とした.解析には統計ソフトSPSS11.0Jを使用した.結果:対象90名は,男性49名,女性41名,平均年齢(±SD)70.2(±4.6歳,年間の1日平均歩数(以下歩数)(±SD)は5509(±3480であった.MS群(歩数4811±2580)と非MS群(歩数6380±4226)の歩数には有意な差が認められた(p=0.043).MS構成因子に全く該当しないグループの歩数は該当数1〜4のグループより有意に多かった(p=0.004).また,肥満群(BMI≧25.0)の歩数は正常群(BMI<25.0)より有意に少なく(p=0.004),拡張期血圧(DBP)≧90mmHg群の歩数はDBP<90mmHg群より有意に少なかった(p=0.045).歩数のカットポイントを各々5000歩,6000歩,7000歩,8000歩として2カテゴリ化し,MS構成因子との関連を見たところ,6000歩以上では肥満と,8000歩では肥満および拡張期高血圧が有意な関連が認められた.性,年齢を調整した多重ロジスティック解析の結果,歩数5000以上で肥満のリスク,歩数8000以上で肥満と拡張期高血圧のリスクが有意に低かった.結論:中国高齢者で日常身体活動量の客観的指標である日常生活歩数はMSと関連があることが示された.特に1日平均歩数5000以上で肥満,8000歩以上で肥満と拡張期高血圧のリスクが低いことが示された.
著者
小西 敏郎
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.465-471, 2002-03-22
被引用文献数
1

リスク管理には,過去のインシデントのレポートを集積して検討し対策をたてること,そして医師を含めてナースや医療従事者の個人個人がリスク管理面での医療知識レベルを向上させること,また医療従事著聞のコミュニケーションをよくして情報をできるだけ共有化すること,医療の標準化を図って医療内容を効率化して無駄な検査や治療を減らすことなどが重要である.これらのいずれにもクリニカルパスは極めて有効である.さらに重要なことは,クリニカルパスから逸脱する異常を患者自身あるいは家族が早期からチェックできることもクリニカルパスの大きな利点である.これからの医療システムにおいては,患者および家族からのチェックシステムも加えることにより,医療過誤を防ぎ,発生した異常に対して早期に治療を開始することが必要である.クリニカルパスは医療費の診断群類別の定額支払い制度(DRG/PPS)への対応として注目を集めているが,リスク管理の面でも極めて有用であるので,21世紀の医療変革にクリニカルパスの導入は必須である.
著者
横井 尚子 石川 正治 加納 章子 芳川 洋 市川 銀一郎
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.185-193, 2003-07-31

目的:音響外傷による急性感音難聴の薬物治療には,ビタミン剤・循環改善剤等とともに,ステロイドホルモンの投与が多く行われており,特にステロイドホルモンで高い臨床効果が得られている.ステロイドホルモンは鼓室内投与によって内耳障害に治療効果を示すと報告されている.そこでわれわれは急性音響外傷モデルを作成し,デキサメタゾンの鼓室内投与の効果を聴性脳幹反応(以下ABR)および蝸牛神経複合電位(以下CAP)を指標に検討した.対象:鼓膜正常,プライエル反射正常のハートレー系モルモット(体重約400g) 方法:全身麻酔の後,局所麻酔下に気管切開し,筋弛緩剤を投与し人工呼吸管理下においた.両側の中耳骨胞を開放し,鼓室内に銀ボール電極を設置した.音響負荷としては,耳介側方3cmの位置より105dBSPL,4kHz純音を30分間与えた.音響負荷後同一個体の一側の鼓室内にデキサメタゾンを,対照として反対側の鼓室内に生理食塩水を鼓室内に充満するよう投与した.10分後薬液を除去した.音響負荷前,負荷直後,薬剤投与直後,音響負荷1時間後・2時間後のABRのI波潜時,蝸牛神経複合電位(CAP)のN1の潜時・振幅・閾値について検討した.結果:潜時・振幅ともデキサメタゾン投与側と対照側との間には統計的には有意な差は認められなかった.しかし各個体毎に検討するとABRのI波・CAP潜時の改善がより多く認められ,ステロイドの効果が示唆された.結論:潜時・振幅ともデキサメタゾン投与側と対照側との間には統計的には有意な差は認められなかった.