著者
無藤 隆 田代 和美 柴坂 寿子 藤崎 真知代
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、幼稚園の保育を対象として複数の縦断的な観察研究を行い、幼稚園期における子どもの人間関係の体験の特徴と発達的変化を明らかにした。また、子どもの体験を大人がどのように理解しているかを、保育者と子どもの関わりの観察、保育者への面接等を通して検討した。6つの園で1年間あるいは2年間の縦断的な観察や面接を行った。その結果、いざこざに類したふざける行動に注目すると、対人的に微妙な調整を行う様々な機能を持っており、年齢の時期により機能の変化が見られた。クラスの中での子ども同士の評価が高い子どもについて、仲間入りに際してのトラブルが減少していった。評価が低い子どもについては、必ずしも減少せず、普段の評価が個別の仲間入りに影響していることが示された。ある園での保育のカンファランスの様子から、保育に対する実践的なレベルでの理解の難しさとその理解が進むなかで子どもへの関わりが変わっていく様子を示した。
著者
熊田 陽子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、性風俗世界(性風俗産業を中心に成る経済・文化・政治の複合的世界)の適法性をめぐる政治を明らかにしながら、日本の都市的生活様式の核である都市的"性"様式を解明することにある。平成22年度の成果は以下の通りである。第一は、「当事者」概念を使った本研究の方法論に関する検討である。本研究は民族誌的方法を用いた実証研究であり、実証性の確保には、調査研究方法、データの質・量、分析の妥当性などが鍵となる。研究の意義や意味を問う「当事者」議論の蓄積には、同時に実証性への問いが多く含まれる。現象学的な視点から「おんなのこ」(性労働者)と「私」(調査者)の関係を再考し、「当事者か否か」ではなく「(調査の場にいることを)許されるか否か」という点を重視して「当事者」概念を理解した本成果は、様々な実証研究に対する援用が可能である。第二は、本研究の軸となる性風俗世界と法の関係の検討である。詳細な分析の蓄積が薄かった「風営法」の条文を精査し、そのうえで、性風俗営業主体と性労働者が「適法性」を確保すべく行う諸実践を重点的に検討した。性労働者の視点を軸に、客や営業者とのつながりから性風俗世界を捕捉する本成果のアプローチは、(女性)性労働者と客・営業者を対立しあう存在として捉えることの多かった女性学や法学の成果に対して新たな視点をもたらす。第三は、「『おんなのこ』の民族誌」に向けた情報収集及び執筆活動である。東京都市部の性風俗店における参与観察調査の中で、性労働者と関係者を対象に、性労働に限られない様々な経験について情報を収集した。現在執筆中の本成果は、性風俗産業を経済・文化・政治の複合的世界として捉える本研究の根幹を成す。性の問題系から都市の人々の生を理解することは現代日本社会に生きる人々のありかたについて考えることに他ならず、都市研究を始め多くの研究分野に対する成果還元が可能である。
著者
泉田 勇輝
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度は主に二つの研究課題に取り組み、成果を得た。(i)有限時間で動作する熱機関、具体的には有限時間カルノーサイクルに局所平衡を仮定してその最大仕事率時の効率論を構築した。有限時間過程においても作業物質に熱力学諸変数が定義可能(局所平衡仮定)とすることで、熱力学的力と流れやこれらを結ぶ関係式について作業物質や熱源の熱力学変数を用いた新しい表現を導いた。これらの表現を用いて、有限時間カルノーサイクルが線形非平衡状態での最大仕事率時の効率の上限値を達成するモデルであることを示すことにも成功した。こうした局所平衡仮定に基づく熱機関の定式化は従来の非平衡熱力学と親和性が高く、非平衡蒸気機関の理論を構築する際の第ゼロ近似としての役割を果たすことも期待できる。以上の成果をまとめた論文を現在投稿中である。続いて(ii)結合振動子系における「同期のエネルギー論」の構築に取り組んだ。結合振動子がリズムを揃える同期現象は位相方程式によって簡潔に記述される非線形力学系の一例である。一方、リズム現象自体はエネルギーの流出入がバランスすることで維持される非平衡散逸系の典型例であり、非平衡熱力学の研究対象として考えることもできる。本研究では微小生物の鞭毛の流体力学的相互作用による同期現象を念頭に、結合振動子系にエネルギー論を導入した。まずそれぞれ円周上に束縛された二つの結合振動子に独立な白色ガウスノイズが加わった系のフォッカー・プランク方程式を考え、その解析解を導いた。続いて得られた確率分布関数を利用し、非平衡熱力学や揺らぎの熱力学を適用することで、結合振動子の振動に伴うエネルギー散逸率の公式を導出した。これを流体力学的相互作用するストークス球などへ適用し、同期・非同期によるエネルギー散逸率への影響を定量的に評価することにも着手した。これらの成果は日本物理学会において発表され、現在論文を準備中である。
著者
安田 次郎 末柄 豊 前川 祐一郎 上島 享
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

室町時代から戦国時代の奈良興福寺の大乗院門跡を中心にして、さまざまな「人のつながり」について基礎的なデータを蓄積し、寺院社会の構造や機能をあらためて考えるための手掛かりを得た。京都や奈良の門跡や院家は、貴族、武士、それに在地の諸勢力などの出身者が僧として、あるいは寺社の職員として出会って相互に結びつく場であったこと、僧たちはイエから切り離された存在ではなくイエや家族の利害を代表して行動したこと、寺院社会は異集団の出身者が出会い、結びつき、補完し合う場として機能したことなどの見通しを得た。
著者
徳井 淑子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

ロマン派の若者の間で流行した懐古趣味の服装について、その発端と背景を回想録・新聞記事・文学作品・風俗版画等から調査し、この流行のロマン主義ににおける意義を考察し、次の知見を得た。1.異装の起因が歴史物の芝居の流行にあることは既に指摘されているが、デュポンシェル制作の舞台衣裳で大成功したデュマ父の戯曲『アンリIII世とその宮廷』の上演が特に大きな影響を与えていること、つまり異装の背景には衣裳の時代考証を重んじるロマン派の新しい演劇思潮のあることが明らかになった。2.異装の流行を促した時代の土壌として、カ-ニヴァルの仮装舞踏会の隆盛と、ボエ-ムの言葉で知られる芸術家の自由奔放な生活態度が指摘されているが、仮装服もヴォ-ドヴィルやオペラ・コミック等の登場人物の扮装に取材され、舞台衣裳の影響の大きいことが具体的に確められ、こうした芝居の世界を日常生活にたやすく取り込む独自の生活感情を芸術家がもっていたことが理解された。異装は生活の中で想像世界に遊ぶ行為であり、これがボエ-ムの生活空間の特質である。3.舞台衣裳であれ仮装服であれ異装であれ、歴史服の知識は巨匠の絵画作品に求められ、従ってル-ヴル美術館や王立図書館版画室に通う画家が、いわば服飾史の専門家として舞台の衣裳係を務め、仮装服のデザイン書を著したこと、そして画学生の異装が過去の肖像画に取材されたことを明らかにした。一方、絵画は歴史小説の服飾描写にも影響を与えており、服飾をめぐって文学と美術と演劇が相互に密接に関わっていることから、服飾を含めた芸術の総合性をロマン主義の特質と見るべきであることを理解した。服飾の歴史に対する強い関心は、世紀後半に服飾史という学問に結実するから、懐古趣味の異装は服飾史学の成立に貢献したといえ、これはロマン主義の成果として位置づけられた。
著者
田中 望美 セージ クリスティー
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
人間文化論叢 (ISSN:13448013)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.113-129, 2006

本研究はSageとTanaka(2006b)によるTOEFL^[○!R] iBTとセンター試験の聴解を比較・対照した前研究に引き続き、テスティングを真正性の面からさらに深く考察してゆく。センター試験のための学生に対して不利になりうる教育を懸念し、センター試験の問いと基準(若しくは、対象言語領域)がこれまでの研究や理論及びTOEFL^[○!R] iBTの特徴に基づいて、厳密に調査されている。本研究の構成は、1)過去の研究における真正性と相互性に関する概念、2)テストにおける伝達能力の側面、3)センター試験とTOEFL^[○!R] iBTのテストの問いと対象言語領域の比較及び分析、4)聴解の真正性の今後の方向性と提案、となっている。要するに、TOEFL^[○!R] iBTが対象言語領域で必要とされる能力を測定している点、また統合テスト形式を採用しているという2点から、本研究はセンター試験の聴解はTOEFL^[○!R] iBTの特徴に倣ってさらに改定していくことができると示唆する。
著者
神原 啓介
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、オノマトペを用いた新しいヒューマンコンピュータインタラクション手法を提案し、それを実現する複数のシステムを作成、評価、発表した。オノマトペとは「ざわざわ」「ぐるぐる」といった擬音語・擬態語のことで、日常的な会話や文章の中で多く用いられている。オノマトペは、ものの様子や動き、感覚、感情を活き活きと表現できることや、柔らかく親しみやすい表現といったことが特徴となっている。このオノマトペをインタフェースに採り入れることで、コンピュータが苦手としてきた「感覚的」で「親しみやすい」インタフェースを実現することが本研究の目的である。そこで本研究では「オノマトペを声に出しながらポインティングすることで、そのオノマトペに応じた操作を行える」というマルチモーダルインタラクション手法を提案し、具体的な応用として、ペイントシステムとゲーム操作に本提案手法を適用した。また、これらのシステムをユーザテストによって評価した後、国内および国際学会で発表した。
著者
石田 千晃
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、ICTが現代日本社会において苦境に陥りがちな人々やその支援者にどのように活用されており、どのような教育的実践が、既存のフォーマルな仕組み(それによる社会構造)を可視化・相対化する契機を含んでいるのかを、検証することを目的とした。主な調査対象は、1. ボランティア団体、NPO団体、2.ボランティアやNPO団体にプラットフォームを提供する事業組織で、活動内容(事業内容)、教育・学習実践、ICTの活用方法をインタビューやアンケート調査で聴取し、それぞれの位相における実態を明らかにした。1.2と学習活動の性質を比較するため、3.自身の教育実践も分析対象とした。
著者
森 寛敏
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

アクチニド・ランタニドイオンを選択的に捕捉のために必須となる水和様式の解明を目指した理論的研究を行った。これらの元素は,放射性元素であるものが多く,また,原子番号に比例して増加する核電荷に由来して,その電子状態は,多数の電子が複雑に絡み合う(電子相関)のみならず相対論効果に支配されたものとなる。これまで,電子相関と相対論効果を同時に精度良く取り扱った理論計算は困難であったが,酒井・三好型のモデル内殻ポテンシャル法を拡張することでこの問題を解決できることを示した。
著者
金 〓〓
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
人間文化論叢 (ISSN:13448013)
巻号頁・発行日
vol.8, pp."3-1"-"3-12", 2005

Toshiko Tamura and Myung-soon Kim flourished in 1910-20 in Japan and Korea. In those days it was an act of a man to write. The feminine was demanded above all to the thing which a woman wrote by the literary world and the society, so that woman does not invade a domain of a man. A lot of studies about that the motherhood is one of a model of feminine, it was used to mobilize a woman for war, while militarism advances. Then is what kind of position was there the femininity at socially and culture in Japan and Korea which had a relation such as an empire and a colony. A purpose of this paper is what did such a demand of feminine have influence on works and the strategy of two woman writer. The work of Toshiko, "The woman author (ONNA SAKUSYA)", depicted a woman writer who immersed herself in "coquetry" by wearing white face powder as part of the creative process of writing novel. It is a unique method that the only woman was able to write, and "The woman author" became one of her representative work because the text is so feminine. But Myung-soon was criticized her work and her personality, too feminine to her mother was concubine that her work smell of face powder when a prostitute make up. A difference of evaluation for a work of two writers was a difference of a woman of an empire, or a woman of a colony. And, it was same in Japan and Korea that the prostitute is perceived as immoral, a danger, a threat to 'normal' femininity and, as a consequence suffers social exclusion, marginalisation and 'whore stigma'. But, in the case of Toshiko she was married, and she write a "Woman author" like prostitute to express her identity, it was only a performance, not her personality. In the case of Myung-soon, she wrote to overcome 'whore stigma', but the man gaze did not forgive that, she cannot acquire her identity. This shows that the woman writing is not same, and it is difficult to acquire her identity in marginal.
著者
三浦 徹 安田 次郎 神田 由築 新井 由紀夫 菅 聡子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究は、アジア(日本を含む東アジアと中東・イスラーム世界)の社会文化の特性を、比較研究を通して明らかにし、人類文化におけるアジアの可能性を見いだすことを目的とする。同性愛というテーマを主題にとりあげたのは、当該社会のなかで、両義的なイメージを賦与されていた現象を、比較文化の視点から研究することにより、新たな分析観点を探るためである。16年度は、以下の研究を実施した。1.韓国での調査・研究会(2004年9月23-25日) 男寺党(ナムサダン)とよばれる芸能集団の調査を、国立文化財研究所朴原模研究員の協力をえて実施し、同研究所と淑明女子大学で研究会を開催した。一般に儒教文化の影響で性についてのタブーが強いとされる韓国においても、日本と同様の性の役割に関わる問題群があることが確認された。2.基本資料の収集と文献データベース作成 15年度までに収集した文献データベース4000件に500件の追加を行い、全体の校正・整理を行った。なお、当初大学のホームページに公開を予定していたが、インターネットのセキュリティ管理が強化され、その技術的な問題が解決するまで公開を延期することとした。3.2年間の研究成果を問うために『越境する性:同性愛の比較文化史』(山川出版社)を刊行する。5名の研究分担者が執筆し、ヨーロッパ、イスラーム世界、日本中世、日本近世、日本近代の同性愛の文化を、比較の観点からとりあげ、アジア社会の柔軟な性文化とその変容が明らかにされる。
著者
吉田 康行
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

グランジュッテはクラシックバレエの基本的な跳躍動作の一つとして知られている.グランジュッテの最後には片脚での着地が必要となる.しかし,グランジュッテはこれまでバイオメカニクスの研究対象にはなってこなかった.本研究は着地動作におけるダンス技能を考察するために研究計画を立てた.そして,運動学と運動力学のデータを解析に使用した.グランジュッテのダンス技能は着地後にブレーキ力を制御する方略に現れることが明らかとなった.
著者
SCHWARTZ LAURE
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

西洋における日本美術への眼差しや研究の歴史を辿る中で、本研究では、優れた学芸員であり著名な知識人であったジョルジュ・サール(1889~1966)の思想と功績を明らかにすることができた。サールは、ルーヴル美術館初のアジア美術部門の創設に携わり、次いで同部門の国立東洋美術館(ギメ美術館)への移管を指揮し、そこで1941年より学芸員を務めた。本研究では、20世紀前半のフランスに影響を及ぼした極東美術、とりわけ日本美術の概念やその普及に関わる重要な歴史と発展について考察することができた。