著者
畑江 敬子 戸田 貞子 香西 みどり
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

われわれは保存した食物の安全性を確認したり、食べられるか否かの判断をする際に、しばしば味やにおいを手がかりにする。苦味および酸味はそれぞれタンパク質およびデンプンの腐敗のシグナルである。また、変敗臭やかすかな異臭も変質や腐敗のシグナルである。高齢者はこのような判断の機能がどの程度保持されているかについては、明確なデータは得られていない。そこで、65才以上の高齢者のべ248名の協力を得て、いくつかの味の閾値、ならびに腐敗のシグナルとなるにおいの閾値を官能検査によってしらべ、20才前後の若年者のべ127名と比較した。塩味についてはNaCl水溶液(8段階)、甘味についてはスクロース水溶液(7段階)、酸味についてはクエン酸水溶液(6段階)を用い水を対照として、濃度上昇法による2点比較法でしらべた。水と区別できる検知閾値を求めた後に、濃度を上昇させて何の味かわかる認知閾値の濃度を求めた。その結果、塩味の検知閾値と認知閾値、および甘味の検知閾値には、高齢者と若年者の間に有意の差(p<0.05)あり、高齢者は感度が低下していることがわかった。しかし、個人差が大きかった。においの閾値については、酢酸(10段階)、トリメチルアミン(11段階)、メチルメルカプタン(13段階)を用い、水を対照として官能検査を行った。いずれの試料についても高齢者は若年者より有意に閾値が高く、においにたいする感度が低下していることがわかった。しかし、高齢者の70%は自分のにおいに対する感度が低下しているという自覚がまったくなかった。以上のように高齢者は味にもにおいにも感度が低下しており、食物の腐敗や変質に対する直感的な識別能力が低下しているので、高齢者自身も自覚して注意を払う必要がある。
著者
長嶋 雲兵
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本年度は研究計画に従い、プログラミング環境と先に作成したプログラムの改良を行った。それにともない、ポテンシャル関数を決定するための断熱ポテンシャルを計算するための分子軌道計算のパラメータの決定を行った。断熱ポテンシャルを求める際の分子軌道法のパラメータは、全電子エネルギーを計算する際の基底関数と電子相関の取扱い方である。計算方法は、多配置参照配置間相互作用(MRSDCI)であり、用いた基底関数はダニングらの基底関数をDZにまとめ分極関数を加えた物(DZP)およびTZにまとめ分極関数を加えた物(TZP)である。軌道数は二酸化炭素2分子あたり60(DZP)と120(DZP)である。多配置参照関数の選び方は、重要な参照配置の候補が見あたらないので、まずHF電子配置1つを参照関数としてSRSDCIを行い、そこで0.05以上の大きな係数を持つ電子配置を参照配置としてえらぶ。そしてそれらをもちいてさらにMRSDCIを行い、そこで0.05以上の係数を持つ電子配置を参照電子配置に加えると言う方法である。HF配置を参照関数として用いたSDCIを行うと0.05以上の係数を持つ電子配置が1つ現れるが、それを参照関数に加えたMRSDCIを行うとそれの係数が小さくなると言う事を示している。TZP基底関数を用いた計算では、HF電子配置を参照関数としたSDCIの結果はHF電子配置が0.9以上の係数をもつのみで、それ以上の配置は全て0.03以下となった。HFとMRSDCIでは若干傾きが違うが、MRSDCIとデービッドソンの補正を加えた物はほぼ同じ傾向を示し、さらに計算方法が同じ物どうしではDZPもTZPもほぼ平行であった。さらに基底関数の改良に加えデービッドソンコレクションや自然軌道反復を行なった結果得られた断熱ポテンシャルは、常識的に精度の良い方法を取っても核間距離の近いところでは断熱ポテンシャル局面の曲率など、DZPを用いたMRSDCIの断熱ポテンシャルの形状とあまりかわらない結果が得られた。
著者
平野 恒夫 長嶋 雲兵 鷹野 景子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本年度は、1)剛体近似の代わりに分子自由度を許す分子性結晶構造予測プログラムMDCPを作成し、テストとしてアルコールなど若干の分子に適用して期待した成果を得た。2)MDCPプログラムの並列化をほぼ終了した。3)ab Initio分子軌道法の分子動力学への導入分子動力学の最大の問題点はいかにして良いポテンシャル関数を手に入れるかという問題である。我々は、力を分子軌道法で求めながら分子動力学の各タイムステップを進めていく方法をとることを考えていたのであるが、まず手始めに、炭酸ガスの分子性結晶の構造を化学式CO_2のみから予測することを試みた。すなわち、炭酸ガス分子の2量体に関する相互作用エネルギーを高精度のab Initio分子軌道法で求めてexp-6型のポテンシャル関数にフィットし、その結果得られたポテンシャル関数を使ってMDCPによる分子性結晶の構造予測をやってみたところ、常圧および高圧での結晶構造、および10万気圧あたりから始まる相変化まで十分な精度で予測出来ることが判明した。なお、本来の目的は、分子集合体についての分子動力学計算において、ポテンシャル関数を使うかわりに、分子動力学の各ステップで量子化学的に力を計算することにあるので、計算が早く、かつ精度がよいという密度汎関数法の適用を考え、予備的な計算を行った。
著者
長嶋 雲兵
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

化学物質の構造とその活性の間には線形で記述できないような複雑な因果関係があることが広く知られている。これを化学物質の構造活性相関という。従来これらの非線形的因果関係の解析には主に重回帰分析が用いられてきた。しかしながらもともとこの相関は非線形性が強いので、従来の線形の関連を期待する統計的手段を適用するには限界がある。本研究では生体の有する高度な情報処理プロセスをシミュレートするニューラルネットワークの特徴である非線形的な動作に注目し、その化学物質の構造活性相関への適用と展開を目的とする。平成8年度は、ニューラルネットワークシミュレータを本格的に構築した。用いたニューラルネットワークモデルはパーセプトロン型と呼ばれるものである。作成したシミュレータを用いて、ノルボルナン類の化合物の構造活性相関の研究を行なった。また再構築学習法を用いて、ノルボルナン類の化合物の構造活性相関の因果関係の解析を行なった。平成9年度はひき続き、ノルボルナン類の化合物の構造活性相関の因果関係の解析を行なった。加えてデータ間の距離を明示的に含む自己組織化の手法をニューラルネットに取り込み教師データ間の中間領域の予測精度を向上させ、学習方法によらない分類が可能となることを示した。さらに、化学分野に限らず広く振幅と周波数が同時に変化する時系列データの予想に対しても新たにニューラルネットワークを開発し、ニューラルネットワークが従来の線形回帰法に比べ精度の高い予測を行うことが明らかにした。
著者
宮本 乙女
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

1.研究目的:ダンス領域で成果を上げてきた「主体的なダンス学習場面としてのグループ活動」を柔道の学習にも当てはめながら、2つの領域における有効な「活用-探究」の学びについて考察した。2.研究方法:お茶の水女子大学附属中学校の中学2年生の柔道全14時間、ダンス全14時間を対象とした。柔道「大外刈り」ダンス「序破急」のグループ活動を精緻に分析した。技能指導においては専門家の知見も得て「活用-探究場面」を意識した学習指導を実践した。学習者の活動は、授業全体、および生徒のグループ活動をVTR撮影した。教師行動は、発話記録とVTR撮影で記録した。学習者に対する毎時間の形成的授業評価の調査を行った。分析は高橋健夫らの研究に基づいて行った。3.研究成果:形成的授業評価と期間記録により、柔道もダンスも評価の高い授業と認められた。専門家の観察により、技能的な成果も十分であると認められた。抽出授業におけるグループ活動は、柔道、ダンスとも、身体活動を伴いながら行われ、教師のかかわりは頻繁であった。柔道では、学習者の発話を拾いながら多様な視点からひとつの方向の原則原理に導くような問いがかけられ、教師が後押しした意見が最終発表内容に生かされている場合が多かった。肯定的フィードバックが矯正的フィードバックの2倍であった。ダンスでは、極限をひきだしつつ各グループを多様な方向に広げる問いや、特に矯正的、肯定的フィードバックが半数ずつ行われていた。指導者の専門種目であるダンスの方が助言は具体的であった。共通課題から多様に広げる方向を持ったダンスと、技能を集約して身につける柔道、どちらも、技能のポイントを教師から教えるだけでなく、学習者が探究する活動を保証し、発表しあい、多様な視点を認めていく指導により、満足感と上達のある学習になると推測できる。
著者
都甲 由紀子 駒城 素子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
生活工学研究
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.136-139, 2007
著者
平野 恒夫 村上 和彰 小原 繁 長嶋 雲兵
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

分子軌道計算は、材料化学や医薬品開発のために欠くことのできない手法であり、現在本方法は化学工業においても広く利用され始めている。分子軌道計算は、基底関数の数Nの4乗に比例する演算量および、補助記憶量を必要とするため、タンパク質等の巨大分子の計算は、事実上不可能であった。そこで、本研究では演算時間の大幅な短縮と補助記憶量の削減を目的として、分子軌道計算のための専用計算機MOE(MO Engine)とそれを用いた分子軌道計算プログラムの開発を試みた。このシステムの実現には、既存分子軌道計算プログラムの改良、MOE-LSI(MOE用高度集積チップ)の作成ならびにその専用ボードへの実装が必要である。本研究で開発しようとしたMOEは、パソコンにIEEE1394と呼ばれる標準プロトコルを用いて接続される専用並列計算システムであり、その最小単位であるMOEL-SIを、今回新たに開発した。性能は200MFlopsである。このMOEL-SI5個をボード上に実装した。5個のMOEL-SIはPPRAM-Linkを用いて相互結合されているので、1ボードあたり1Gflopsの性能を示す。一方、分子軌道法計算プログラムの改良としては、現在広く世界で使われているGAMESSをベースに行った。
著者
菅井 清美
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

20歳から64歳の年齢の異なる被験者8名を用いて、着用衣服素材の身体局所の皮膚温および衣服気候におよぼす影響を検討した。環境温度34℃、湿度45%、気流0.1m/secに調整した人工気候室内で、環境湿度のみを変化させた安静座位実験を行なった。着用衣服は綿/ポリエステルの二層構造からなるトリコット布で作製したシャツとズボンで肌側への着用の仕方をかえて、環境湿度変化の影響を比較した。実験開始約1時間前に人工気候室に入室した被験者は約10分間安静の後、裸体と下着の重量を測定し、シャツとズボンを着用した。温湿度センサ-と購入した皮膚温測定センサ-を装着後、ベッドスケ-ル上の椅子に安静座位状態をとった。実験時間は120分で、20分後に環境湿度を70%にセット上昇させ、70分に再び45%にセット下降させた。各センサ-を購入したサ-ミスタ温度デ-タ収録装置とさらにパ-ソナルコンピュ-タに接続して1分ごとに皮膚温と衣服気候値を得た。本実験環境は比較的暑く、環境湿度を上昇させることによって非常に蒸し暑くなり、間接的な身体加熱の状態となる。多量の発汗の後、環境湿度を低下させると汗の蒸発はその部位から熱を奪い、冷却する。身体から環境への放熱は、発汗とともに体深部から末梢部への血流の増加によって行われ、いずれも皮膚温に大きな影響を与える。皮膚温測定6部位のうち、躯幹部と末梢部をそれぞれ3部位ずつ測定した。初期安静時の皮膚温を放射状グラフで比較した結果、高齢者は躯幹部より末梢部の方が高く、若年者は躯幹部の方が高かった。高齢者の熱に対する耐性が若年者より小さいという事実は、こうした環境に対する生理的な適応からきている可能性が示唆された。素材の比較では綿側を肌側にしたほうが発汗後の温度低下は大きかった。購入したデ-タ収録装置は多点測定ができるので、測定点をふやして高齢者の生理変化を追うつもりである。
著者
角谷 詩織 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.75-87, 2006

不安な気持ちの現れや社会的ルール違反傾向を指標とし、テレビを中心とするメディア接触が青少年の意識や行動に及ぼす影響を検討した。首都圏40km圏内から無作為抽出された小学5年生(第1回調査)とその保護者1500組に対して、2001年2月より、毎年1回4年間の追跡調査を行った。第1回調査時での中学2年生、第4回調査時での小学5年生と保護者それぞれ350組ずつも調査対象とした。思春期の発達的変化がみられるとともに、子どもの社会的ルール違反傾向や不安な気持ちを高める要因は多様であること、その中で、テレビを中心とするメディアの要因も含まれることが示された。
著者
角谷 詩織 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.1, pp.97-105, 2004
被引用文献数
1

本研究の目的は、児童・生徒の理科に対する意識を、他の教科および諸活動に対する意識との比較によって捉えることである。首都圏および地方の小学5年生から中学3年生4,127名を対象とし、国語、社会、算数(数学)、音楽、体育、家庭科、技術、図工(美術)、英語、総合的学習、給食、休み時間、部活動の13の教科・活動に対する意識を調査した。分析の結果、理科は、中学2、3年生で好事きな教科としてあげる生徒が少ないことが示された。しかし、技術を除く他の12の活動についても同様に、学年とともに、特に中学2、3年生で、好きな教科・活動としてあげる生徒は他の学年よりも少ないことも示された。特に、中学3年生の女子では、他の教科と比較したときにも理科を好きな教科としてあげる生徒が少なかった。一方、男子の全学年、女子の小学5年生から中学2年生まで、他の教科よりも理科が好きな児童・生徒が多いとが示された。「理科嫌い」という問題が女子において顕著であること、同時に、思春期を迎える子どもを囲む学校全般で、教科・諸活動に対するポジティブな意識を高める実践の必要性が考察された。
著者
徳井 淑子 小山 直子 伊藤 亜紀
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

情報が伝達され、流行・流儀として定着したことは、そこに一つの文化が成立したことを意味する。ゆえに情報伝達のしくみを追究することは文化の形成過程を追究することに等しい。本研究は、服飾流行における情報媒体について、特に日本の近代、およびヨーロッパの中世・近代において考察し、それぞれの文明における情報伝達の特質と相違を明らかにしたものである。1 近代日本の愛用した「天平風俗」という文化的表象は、文化的概念「東亜」の将来が予告的に可視化されたものであった。つまり、近代日本における「可視化された情報」としての服飾は、文化的表象あるいは趣味(=taste)として感覚的な媒体でありながらも、それ以上に政治的概念を無意識のうちに浸透させる媒体でもあったと考えられる。2 中世ヨーロッパでは婚姻、祝祭、文芸活動を通した宮廷間交流が、16世紀以後はエンブレム・ブックの刊行が、涙模様など紋章に基付いた服飾意匠の汎ヨーロッパ的な伝播に貢献した。一方、ロマン主義時代のパリにおける歴史服の流行が、演劇と文芸とファッションの情報の相互媒介によることは、19世紀の情報伝達の特徴とされる。3 チェーザレ・リーパの『イコノロジーア』(初版1593年)における色彩シンボリズムは、15-16世紀のイタリアとフランスで書かれた複数の色彩論に典拠をもつ。これらの色彩論は、文芸作品における人物の服飾描写に大きな影響を与えたばかりか、近代初期のヨーロッパ人の服飾における色彩流行に影響を与え、ファッション情報のメディアとしての機能を果たした。
著者
デアウカンタラ マルセロ
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

自然生殖を前提とした「分娩者=法律上の母」には本来「卵子由来者=法律上の母」も含まれているため、分娩者が必ずしも卵子由来者とは限らない生殖補助医療において「分娩者=法律上の母」を母子関係確定の基準として適用すれば、首尾一貫性の問題が生じるという議論の整理を行い、問題点を明確にした。また、この首尾一貫性の問題を避けるために、生殖補助医療において「分娩者=法律上の母」および「卵子由来者=法律上の母」を同時に採用する余地があることが明らかになった。
著者
中居 功
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

2文字X、Yとそれらの逆元となる文字からなる語全体は語の結合を積とすることで代数学における群の構造を持つ。この群の元はXY平面の整数格子点で折れまがる折れ線を定める。平面曲線はこのような折れ線の、一般化した対象、つまり一般化されたX、Yの語と捉えられる。この観点から平面曲線全体の群としての構造を研究し、曲線のX、Yの語としての展開、また曲線の形式的対数を、自由リー環の元として考察し、部分的結果をえた。
著者
徳井 淑子 小山 直子 内村 理奈 角田 奈歩 新實 五穂
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

服飾流行における模倣論の構築には、時代と地域による多様な流行現象の構造分析を集積する必要がある。模倣を生む媒体とシステムは、時代と地域に固有の社会構造や経済の様態、あるいは政治文化によって異なるからである。ヨーロッパ中世では、祝祭や文芸の宮廷間交流が媒介となって服飾文様の伝播が行われる例があり、身体表象が社会秩序に組み込まれた17 世紀フランスでは、大量の作法書が流行を支えている。18 世紀後半に誕生するモード商は、オートクチュールのデザイナーの前身とも、大規模小売りの百貨店の前身ともいえる二重の意味において近世の流行を牽引している。男女の服装の乖離を生んだ19 世紀には、逆説的ではあるが、ゆえに異性装を助長し、ここには初期のフェミニズムの思潮背景がある。一方、近代日本では、西洋文化の受容としての洋装礼装の普及が、近代国家の成立過程に連動した政治性をもっている。芸術とファッションの近接が促された20 世紀は、デザイン・ソースとしての模倣と引用が創造性を獲得するに至っている。
著者
戸谷 陽子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本年度は、演劇・舞台芸術の書物に加え、過去10年間ほどに加速した政治経済的・文化的基盤と文化システムの変化について論じる基本的な研究書、学術雑誌等の書誌を収集・通読し理論化する作業は引き続き行ったが、研究最終年度であることを意識し、これまでに収集した資料や研究成果を「グローバル化した文化システムにおけるアメリカ舞台芸術」(仮題)というテーマのもとに集約すべく、概観しつつ整理する作業に重点をおいた。その実績として、演劇史の流れに深く関わる総括的な論文を発表した。また、過去10年間に加速した、演劇における知識や情報のグローバル化が、実際の演劇作品制作の現場にどのような影響をもたらしているか、また、伝統と現代、国境を越えたコラボレーションなどの試みがグローバリゼーションにより、どのような変化を遂げたかなどについての調査を開始した。そこで、具体的には、まず、国際演劇祭で流通する規格化されたプロダクションの詳細について、製作の過程、マーケティング戦略の実情などを丹念に調べ、これと芸術という概念の関わりを考察した。また、近年活発化している、国境を越えた、複数の民族や文化の担い手のコラボレーションによる伝統へのアプローチと、それらを巡る学術的な言説の変遷について考察を進めた。このため、来日している国際演劇祭のプロデューサや芸術監督にインタヴューを行い、また積極的に演劇祭や学会などについての情報を収集した。この成果は来年度に米国で開かれる学会で発表するべく準備中である。