著者
越智 博美 井上 間従文 吉原 ゆかり 齋藤 一 三浦 玲一
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、近代以降の日本が海外との交渉のなかで自己形成してきた事実に着目し、おもに日本と合衆国のあいだのトランスパシフィックな文化の相互交渉が、日本の文化および英米文学研究というアカデミズムに与えた影響の分析である。具体的には英米モダニズムの(特に合衆国を介した)文化・文学の受容、および研究体制が日本の文化や日本の文学研究に与えた影響を、太平洋戦争前後の断絶と継続性を踏まえて考察し、文化や想像力の相互干渉という視点を入れつつ理論化を目指し、またアジア太平洋研究でリードするカリフォルニアの複数大学の研究者・研究所とのあいだで研究の連携体制の構築を目指すものである。
著者
南 修平
出版者
一橋大学
雑誌
一橋社会科学 (ISSN:18814956)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.113-140, 2008-12

一八〇一年に創設されたブルックリン海軍造船所は、最盛期には約七万人もの労働者を抱える巨大施設であった。数々の歴史的艦船を建造し、港湾都市ニューヨークの繁栄を支えた同造船所は、そこに働く労働者や地域の人々の誇りであったが、第二次大戦後ニューヨークの港湾風景は次第に変化し、一九六六年造船所は閉鎖される。本論文では、造船所を巡る一連の変化が持つ歴史的意味を、そこに暮らし、労働する人々の生活世界を通して考察する。とりわけ、労働現場に焦点をあて、造船所で働く熟練工たちが保持していた秩序や価値観、男性主義的文化の存在を明らかにし、労働者間でつくられていた絆の持つ意味を論じる。また、家族やコミュニティと労働者たちとの関係についても考察を進め、造船所を中心に存在していた労働者の生活世界全体を明らかにする。造船労働の中心は高い技術を持つ熟練工であり、それらはほとんど白人男性で占められていた。巨大な艦船の建造という国家的事業に携わる白人男性熟練工は、自らの仕事に強い誇りと自信を抱いていた。しかし、新工法の登場による合理化の圧力は、彼らが維持してきた秩序を揺るがし始めた。白人男性で占められてきた熟練労働は次第に不要となり、労働力の流動化が進んだ結果、黒人などの非白人労働者の割合が増加、コミュニティ環境も大きく変化していた。もはや白人男性熟練工中心に築かれてきた生活世界は維持しえず、それは彼らをとりまく人種やジェンダーなどの社会関係の変化を示していた。また、この時期ニューヨークには公民権運動や反戦、フェミニズムなど様々な社会運動が現れるが、ブルックリン造船所の閉鎖はまさにそうした時代の予兆であった。
著者
田口 陽子
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、現代インドの都市における「公共性」のあり方を明らかにすることである。平成23年度は長期の現地調査を行い、南アジア研究における人格論を援用して、ムンバイにおける公共性を検討した。調査開始当初は、現地の都市計画と食物を扱う移民商人の活動の関係性に焦点を当て、人格を構成する「物質コード」(物質と規範コード、行為者と行為を切り離せないものとして考える南アジアのエスノ・ソシオロジーの概念)の概念を検討するべく、食物の授受や流通についてのデータを収集することを目的としていた。現地で調査を進めるにしたがい、現代ムンバイにおいてミドルクラスの「市民」における社会運動が活発化しており、それらの運動がおもに食物を扱う移民商人、露天商の啓蒙と排斥という一見矛盾する活動に力を入れていることがわかった。物質コードの授受や公共空間の再構成に直接かかわり変更を加えようとするそれらの運動に焦点を当てることが本研究にとって重要と判断し、「市民活動」を看板に掲げるムンバイ市の住民団体や英字新聞、政治団体を主な調査対象とした。具体的には、タブロイド紙の主導する美化キャンペーン、ミドルクラスの住民団体による市民活動、「市民候補者」を選出しようとする選挙運動への参与観察と主要活動家への聞き取りを行った。物質コードの概念は、ムンバイにおける「市民」や「市民社会」を分析概念としてのみではなく具体的でローカルなマテリアルとして捉えるために有効だと考えられる。そのうえで、本研究では、物質コードのやりとりに注目して現実生成の過程を観察することを試みた。具体的には、調査対象者の用語や行為、使用されるモノに焦点を当て、彼らによる「市民」の具現化と美学がどのような形で表されているのかを分析した。さらに、公共空間をめぐるミドルクラスの活動家と露天商らのコンフリクトに注目し、パーソンの重層性と空間的境界の変容を検討した。
著者
杉村 めぐる
出版者
一橋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

平成26年度において、雇用調整を目的としたいじめに対する労働組合の取組みに関するヒアリング調査を行った。具体的なヒアリング先は、港合同、名古屋ふれあいユニオン、おおだてユニオン、なかまユニオン、ソニー労働組合仙台支部である。ヒアリングでは、①どのようないじめが行われたか、②いじめに対して労働組合としてどのように取り組んでいるか、③解決に向けた今後の課題の3点を中心に、労働組合執行部およびいじめ被害者を対象に調査した。組合執行部だけでなく、いじめ被害者もヒアリングできたことは、大きな成果であるといえる。具体的な成果物は「雇用形態間格差は『労ー労対立』か」『研究論叢』52(2)である。
著者
福居 純
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.231-248, 1975-03-01

論文タイプ||論説
著者
三枝 令子
出版者
一橋大学
雑誌
一橋大学留学生センター紀要 (ISSN:1348768X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.15-26, 2006-07-26
被引用文献数
2
著者
古川 一郎
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、日系ブランドに対する中国消費者の「嫌いだけど買う」という、言説と行為の矛盾を説明する論理的フレームを構築し、データによる検証を行った。結論は以下の通りである。(1)嫌いだけど買うという言説と行為の矛盾は、反日という社会規範が引き起こしている。(2)実際は、中国消費者は日系ブランドが好きだから購入しているが、言説と行為の矛盾にほとんど無自覚である。(3)人々の対話は、社会規範の影響を受けている。この社会規範は対人関係の性質により大きく異なり、したがって対話の内容は相手により大きく異なる。「面子」という中国社会の規範の影響が大きく作用するとき、常に相手によって対話の内容が変わる。
著者
丸山 空大
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

平成26年度は、課題「フランツ・ローゼンツヴァイクの後期思想に関する研究」の最終年度として、平成25年度までの研究の成果をふまえつつ、ローゼンツヴァイクの教育論と律法についての見方に特に着目しながら研究を進めた。まず、初期から晩年にかけてのローゼンツヴァイクの教育論の変遷を追った。このことを通して、ローゼンツヴァイクが宗教教育によって一人ひとりのユダヤ人がユダヤ人としての自覚を獲得するというプロセスを重視していたことが明らかになった。このことを彼は「ユダヤ人になるJudewerden」ことと呼んでいる。彼は、初期から晩年まで一貫して、近代の(ドイツ・)ユダヤ人は家庭において自然にユダヤ人としての生活習慣や心構えを獲得するということができなくなっているから、あらためて「ユダヤ人にな」らなければいけないと考えていたのだ。このように初期思想と後期思想の連続性が明らかになったことで、後期ローゼンツヴァイクの、初期思想に対する自己批判の要点がはっきりとした。この「ユダヤ人になる」というプロセスは、初期思想の一つの到達点である『救済の星』においては、観念的に、読書と思考を通した世界観の変容として理解されていた。これに対し、後期では祈りや宗教儀礼への参加という実践的な要素が重視されるようになるのだ。しかし、このような儀礼の重視は、伝統的な正統派への退行を意味するのではないのだろうか。このような疑問を解明するために、ローゼンツヴァイクの思想を同時代の正統派の論客イザーク・ブロイアーと比較した。後期ローゼンツヴァイクとブロイアーは、律法の実践を重視することにおいて共通していた。しかし、前者においてはユダヤ人としての意識の獲得が律法の実践に先立つのに対して、後者においては逆に律法の実践を通してユダヤ人としての意識が涵養されると考えられていることがわかった。
著者
木本 喜美子 千葉 悦子 宮下 さおり 勝俣 達也 高橋 準 中澤 高志 萩原 久美子 野依 智子 早川 紀代
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、地方圏における女性労働史の実態調査による事例研究から、戦後日本の<女性労働と家族>の史的再構成への視座を得ることをめざしている。方法的関心は、近代家族論と階級・階層論を女性労働史に接合することにおかれる。具体的には、大手機業場を擁した福井県勝山市の織物産業における女性労働者に焦点をおき、その生活史の考察が中心となる。すでに調査を終えている零細機業場の集積地帯、福島県川俣町の事例も比較検討の対象として取り上げる。以上を通じて、主婦化が進展したとされる高度成長期に、結婚・出産後も継続的に就業する女性のライフコースが成立していたこと、およびその家族的諸条件および地域的特性を明らかにした。
著者
畑 孝一
出版者
一橋大学
雑誌
一橋研究 (ISSN:0286861X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.19-32, 1959-04-30

論文タイプ||研究
著者
栗原 尚子
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.781-789, 1980-12-01

論文タイプ||資料紹介
著者
田中 孝彦
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、科学研究費補助金によって購入および入手が可能になった米国国務省資料に加え、英国外務省および原子力開発庁の機密資料、さらには日本外務省によって部分的にではあるが公開された資料に基づいて、日本政府が核兵器に対しどのような態度をとっていたかについての実証史研究を試みた。本研究で得られた知見は、大きく以下の三点である。(1)岸政権の核実験反対および原子力関連政策は、岸信介の「独立の完成」というナショナリスティックな政策目的のもとに収斂する形で展開していたのであり、核実験反対政策は国内ナショナリズムの動員と吸収のため、そして、国力増進のために小型の戦術核兵器の保有への道をオープンにするという形で、岸のナショナリズムの中では整合性をもって構想されていたといえる。(2)さらに岸政権の核実験反対政策は内実を著しく欠いたものであった。米英への実験実施に対する抗議書は、それが手交される際外務省の上級スタッフによっては、それが国内向けのものであるとの説明がつけられ、時には、外務省内には核兵器保有論者が少なくないことを知らしめるような発言が、米英当局側にむけてなされたりした。これらを一つの原因として、この当時の日本政府および市民による反核実験運動や政策は、Genuineなものではないとの認識を米英政府関係者に植え付けることになったといえる。(3)岸政権においては、日英原子力協定において、民軍両用のCalder Hall型原子炉の日本による購入が決定したが、これは、米国に対する過剰な依存を避けるとともに、プルトニウムを蓄積し将来的に独自の核兵器保有(戦術核)のオプションをオープンにしておくための努力としての意味もあったと考えられる。このような知見に基づき、2002年7月に国内研究会において研究報告を行った。2003年には英国に国際交流基金の助成によって一年間の在外研究を行い、同年12月にはUniversity of London, Institute of Historican Research, International History Seminarにて口頭報告を行った。
著者
坂内 徳明 金澤 美知子 鳥山 祐介 ニコラエフ N. V. イリイナ O. N. 坂内 知子 ニコラエヴァ N. V.
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、ロシア近代の社会と文化に関する諸問題を考察する上で欠かすことのできない貴族屋敷(ウサーヂバ)という文化現象を特に近代ロシア文学の成立をめぐる「環境」として捉え、ウサーヂバ文化の意義について明らかにすることにあった。本研究の最終年度にあたる平成27年度には、これまで三カ年の研究成果を全体で11本の論文ならびに翻訳、さらに文献目録としてまとめ、成果報告書(176ページ)として刊行することができた。本研究の成果により、ロシア・ウサーヂバの文化史的意義の大きさが明らかになり、加えて、この現象がさらなる学際的な研究対象となることが確認された。
著者
中村 喜和
出版者
一橋大学
雑誌
一橋大学研究年報. 人文科学研究 (ISSN:04410009)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.3-48, 1991-09-10