著者
田近 栄治 渡辺 智之 佐藤 主光 山重 慎二 國枝 繁樹 竹内 幹 別所 俊一郎 林 正義 小林 航 油井 雄二 河口 洋行 菊池 潤
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

長期にわたるデフレと進行する高齢化のなかで日本の財政は、厳しさを増している。同時に経済のグローバル化のなかで賃金は伸び悩み、非正規雇用の増大など雇用の流動化が生じている。そうした経済状況のもと、本研究は税と社会保障を一体でとらえ、受益と負担の実態分析を踏まえ、政策への貢献を目指した。研究成果は個別論文としてだけではなく、雑誌特集号として出版した。そのほか国家戦略相を招聘した政策シンポジウムや、財務省・財務総合研究所との共催事業および書籍出版などにより成果の公表を図った。
著者
岡田 羊祐 林 秀弥 大橋 弘 岡室 博之 松島 法明 武田 邦宣 中川 晶比兒
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、独禁法違反事件に係る審判決を素材として、日本の判例法的展開を、経済学の一分野である産業組織論の視点から分析・評価したものである。日本では、米国・EUと比較して、独禁法の判例研究が経済分析を刺激するプロセスが十分に機能してこなかった。そのため、経済合理性の視点からみて特異な判断が採用されてきたこともあった。この空隙を埋めるべく、経済学者と法学者が共同して独禁法の審判決の違法性判断基準を理論的・実証的に分析した。その結果、近年、日本の独禁法審判決は、一部の行為類型、特にカルテル・談合、企業合併などの分野において、徐々に経済学的にみて合理的な判断基準が採用されつつあることが明らかとなった。
著者
平子 友長
出版者
一橋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究の成果は、カント最晩年における政治哲学を、非西洋諸大陸の先住民の先住権を否定する「無主の地」理論を装備した同時代の西洋国際法に対するラディカルな批判として解釈するものである。カントの世界市民法の概念は、非西洋世界に住む人々の先住権を基礎付け、西洋の植民地主義と対決するための論理を提供するものであった。
著者
宮地 尚子 後藤 弘子 坂上 香 大矢 大 田辺 肇
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

トラウマとジェンダーの相互作用を、(1)精神病理的側面から、(2)犯罪行為や逸脱現象の側面から、(3)文化創造的な側面から探り、明らかにした。(1)では複雑性PTSDの分析を行った。性被害に関するシンポジウムの開催、ハンドブックの翻訳・出版を行った。(2)では薬物依存女性のトラウマ被害の影響について論文にまとめた。加害者更生プログラムや修復的司法プログラムについて分析を行った。(3)ではメディア発信・アート表象に関するワークショップを開催した。(1)~(3)を統合し、トラウマの入門書を執筆・出版した。東日本大震災の発生に伴い、そのトラウマについてもジェンダー視点からの研究を行った。
著者
松木 栄三
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.652-668, 1974-12-01

論文タイプ||論説
著者
菊地 和也
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

私の研究は政治経済学(political economics)と呼ばれる政治学と経済学の学際的分野に属する。主な研究目標は、政党と投票者の間に、政治的情報の非対称性が存在する場合に、政党がどのような公約を掲げるかを明らかにすることであった。現実の選挙では、政党は政策決定において重要な情報を私的調査機関や官僚を通じて得るため、投票者よりも豊富な知識を持つ傾向がある。こうした状況を記述するために不完備情報ゲームを構築し、そのベイジアン均衡を分析をした。論文Kazuya Kikuchi (2010), "Downsian political competition with asymmetric information : possibility of policy divergence"(ジャーナルに投稿済み)では、政党が完備情報を持つ一方、投票者は不完備情報を持つ状況を分析した。別の論文Kazuya Kikuchi (2011), "Privately informed parties and policy divergence," Global COE Hi-Stat Discussion Paper Series 160では、Kikuchi(2010)のモデルを、政党は完備情報を持たず、状態変数に関する私的シグナルを受け取る状況に拡張した。いずれのモデルにおいても、政策乖離を伴う均衡、すなわち二政党が異なる政策を公約として選択するベイジアン均衡が存在することが示された。さらに、前者の論文のモデルでは政策乖離を伴う均衡がHarsanyiとSeltenの意味で一様完全であり、後者の論文のモデルではベイジアン均衡自体の個数がある意味で少ないことが示された。これらは、情報非対称性の下での政策乖離を伴う均衡に注目することに、一定の正当性を与えるものと解釈される。
著者
渡部 瑞希
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年4月から8月は、近年のタメルの特徴に関する論文執筆を行っていた。その論文のための補足資料を収集するため、現地調査の計画を立て、平成22年12月5日から23年1月13日までの約1ヶ月間、ネパールで調査を行った。第一に、ネパールで、やり残していた市場調査を行った。具体的には、調査対象地域のタメルだけでなく、そこに隣接するローカル市場において、出自民族構成、店舗年数の調査を行い、タメルと比較したうえで、タメルの特徴を浮かび上がらせることを目的とした。その結果、ローカル市場では、カトマンズの先住民であるネワール族が民族講とカースト間の相互扶助に基づく、比較的安定した商売を継続して行っていることがわかった。第二に、カトマンズ居住民の婚姻儀礼や民族講の儀礼に参加し、商売と儀礼、商売の関係とそれ以外の社会的関係との繋がりを確認した。その一方で、タメルは、こうした社会的紐帯に基づく商売が行われる場ではなく、移民商人が入れ替わり立ち替わりする不安定な市場であるため、詐欺行為や裏切り行為が多発する市場であることを明らかにした。第三に、そうした詐欺行為が多発するタメルの宝飾商売において、2009年にタメルで起きた「詐欺を働いた宝飾商人の摘発」に関する情報を収集した。情報は現地の新聞やタメルの商人からのインタビューを通じて行った。こうした補足調査の結果は、詐欺行為をはたらくタメルの宝飾商人が人間関係を明らかにする基盤であるため、重要である。これらの調査結果は、既に執筆中の論文に反映させている。
著者
阿部 謹也
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.94-99, 1961-07-01

論文タイプ||書評
著者
田辺 秀樹
出版者
一橋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究は、19世紀末から現代にいたる時代のさまざまな種類の大衆歌謡について、その歴史的変遷、作品としての構造(歌詞および曲)、地域による相違、社会的影響、〈高級文学〉との関連などを、幅広い視点から考察しようとするものであるが、本年度はまず基本的な資料の収集、機材の購入を行なった。具体的には、19世紀ドイツ・ベンケルザング関係、世紀転換期から20世紀前半の時代のウィ-ン・オペレッタ、カバレット関係の文献(書籍ならびに楽譜)、音声資料(レコ-ド,CD等)の購入、これらの資料を活用するためのコンピュ-タ-本体の購入が中心となった。これらを利用してのデ-タ入力,分類等は、今後長期的な計画にしたがって進められる予定であるが、すでに作業は開始されている。本研究の遂行のためには、今後さらに20世紀の大衆歌謡文化(具体的には大都市のカバレットの歌、ベルリン・オペレッタ、1920年代以降の流行歌、映画主題歌、第二次大戦後のLiedermacherやロック歌手のヒット・ソング等)についても資料を集め、政治、経済、社会情勢、外国文化の影響、いわゆる〈エリ-ト文化〉との関わり等に目を向けながら、総合的な考察をしてゆかなくてはならない。その意味でも、本研究への補助金が1年で打ち切られてしまったことは残念であるが、自費による研究を続行し、機会があれば再度の申請をしたいと考えている。なお、本研究のひとつの成果として、論文「陽気なミュ-ズの世紀末ーー世紀転換期ウィ-ンのオペレッタとキャバレ-」を執筆、これは木村直司編著『ウィ-ン世紀末の文化』(東洋出版)1990年10月発行)に発表された。
著者
山下 英俊
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,産業廃棄物税を題材とし,都道府県の産業廃棄物統計を用いて税導入に伴う産廃最終処分量の変化の要因分解を行い,主要な変化要因の中から税導入の影響が認められるものを抽出することで,産業廃棄物税の効果を定量評価することを目的とする。産廃税は,価格メカニズムを用いた廃棄物削減と,財源調達という二つの政策目的を有する。自治体によって導入形態が異なり、(1)事業者申告納付方式、(2)最終処分者特別徴収方式、(3)焼却処理・最終処分業者特別徴収方式、(4)最終処分業者課税方式の4種類に大別される。理論的には廃棄物削減への誘因効果は(3)が最も高くなることが示唆される。こうした制度設計の相違が最終処分量の変化に影響を及ぼしたか否かを検証する。21年度は、統計分析の対象として20年度に抽出した対象自治体のうち、データ入手済みの各県について、要因分解による分析を行った。加えて、岩手県についても産業廃棄物実態調査報告書を入手した。さらに、県別の分析結果の一部を先行的に研究集会などで報告をし、関係専門家との意見交換や分析結果の検討を行った。一例に三重県の分析結果を示す。三重県では産廃税の導入前後で産廃最終処分量が18万トン弱減少している。要因分解の結果、主要な減少要因は(1)化学産業の汚泥、(2)建設業のがれき、(3)建設業の活動低下、(4)建設業の汚泥であることが判明した。このうち、(3)は公共事業の減少によるものであり、(1)は後に廃棄物処理法違反で有罪判決が確定した石原産業による汚泥の偽装リサイクルによるものである。さらに、(2)及び(4)は建設リサイクル法に起因する可能性もある。したがって、主要な減少要因のうち、明らかに産廃税の効果と考えられるのは一部に過ぎないことが確認された。以上の成果を踏まえ、県別の分析結果及び全体の比較分析の結果をそれぞれとりまとめ、学術雑誌への論文投稿を進めている。
著者
石井 香江
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究は歴史・社会学的な手法を用いて、テレフォン・オペレーター職(戦前と戦後の一時期は電話交換手を、現在は主にテレワーカーやテレコミュニケーターと呼ばれる)と電信・電報オペレーター職の生成過程とその現状をめぐる日独比較を試みるものであり、歴史分析編と現状分析編の二部から構成される。ジェンダー化(特定の性別と関連する意味が付与されること)された職種として出発したテレフォン・オペレーターの現状を探り、その変動の兆しや変化を阻む要因を分析することが研究の主旨である。歴史分析編では引き続き職員の身上調査記録を分析し、現状分析編では日独の元職員(今年は主に電信技手)へのインタビューや社史(電電公社・NTTやドイツテレコム)の検討を進めている。本年度は日本で入手不可能な戦前のドイツ逓信省の郵便・電信吏員組合の発行した機関誌や電話交換手や電信技手の人事記録など、ドイツの公文書館(ベルリンとミュンヘン)に所蔵されている史料の分類・整理・翻訳作業を、夏に引き続き行った。その際に、全体像を把握できる基礎データを作成し、これらのデータをコンピュータ入力し、データベース化し、また、史料のキーワードや関連書誌データも添付する作業も行なつた。その他には、先行研究者との意見交換やドイツ・テレコムとその職員、日本でも元電信技手へのインタビュー、日本の逓信総合博物館(『逓信協会雑誌』など)・東京大学医学部(労働科学・政策に関する雑誌)・明治文庫(『読売新聞』など)所蔵の資料の調査を引き続き進めた。そしてこうした蓄積の上に、本研究に関わる研究史や論文を発表した。来年はこれをもとに学会発表をする予定である。この他にも、修士論文の一部をまとめた論考をドイツ学会で共同発表し、共著として出版することができた。
著者
菅野 則子
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.111, no.2, pp.240-256, 1994-02-01

論文タイプ||論説
著者
羽生 香織
出版者
一橋大学
雑誌
一橋法学 (ISSN:13470388)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.1013-1085, 2008-11
著者
山岸 俊男 坂上 雅道 清成 透子 高橋 伸幸 高岸 治人 品田 瑞穂
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-05-31

本研究は、人類に特有とされている高度な向社会性を、向社会行動をとることが自らの適応性の上昇をもたらす社会のしくみを作り出すことで形成され維持されているとする社会的ニッチ構築理論に基づき、一連の経済ゲーム実験、脳撮像実験、遺伝子多型分析を通して,一方では現代の人々がもつ心の文化差が、人々が集合的に作り出している社会的ニッチの違いを反映していることを示す証拠を提出すると同時に、もう一方では、現代社会に暮らす人々の向社会性のあり方の違いが、そうした違いを適応的にしている社会的ニッチの違いを反映していることを示す証拠を提供している。
著者
中丸 禎子
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

2010年度は、これまでの研究を発表し、今後の研究の方向性をより具体的に定める準備を行った。前半は、主に、これまでの研究成果の発表に努めた。「セルマ・ラーゲルレーヴ『エルサレム』の「周縁」性」では、これまでの研究の軸となる概念「周縁性」を総括すると同時に、新たな分析対象『キリスト伝説集』におけるユダの身体的特徴を分析し、「ユダヤ人」の表象研究の開始点とした。後半は、ラーゲルレーヴ『ボルトガリエンの皇帝』を軸に、「狂人」に関する口頭発表および依頼原稿の執筆を行った。この研究では、「狂人」を「脚部障碍」と関連付けて論じることはできなかったものの、北欧文化の重要な背景であるキリスト教と太陽信仰の混在したあり方を、一般読者に理解できる形で、かつ批判的に論じることができた。本研究計画の課題は、「脚部障碍」と関連付けた各テーマがそれぞれ広がりを持つため、必要な情報・資料が膨大で、論が煩雑になる恐れがあることであった。2011年2月・3月は、ドイツおよびスウェーデンに渡航し、研究計画書のドイツ語訳・スウェーデン語訳をもとに、外国人研究者らとディスカッションを行い、今後の研究に関する具体的な助言や、資料の情報提供を受けた。また、非公式ではあるが、論文のスウェーデンでの出版に関する可能性を提示された。更に、これまでの研究成果「日本における北欧受容」に関して、スウェーデン語で口頭発表を行った。この発表では、日本人研究者として、スウェーデン人研究者に対して、ラーゲルレーヴや北欧文学の新しい見方を示すことができたのみならず、日本近代史に対する興味を喚起することにも成功した。
著者
鵜飼 健史
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

私の研究課題は、ジョン・ロックが構成した人民主権論の分析である。ロックは人民主権を理論化したのみならず、人間(人民)と権力(主権)をそれぞれ論じ、両者の不可避的な接続関係を明確化し、これによって近代世界に比類のない影響を与えたといえる。本研究はこの近代社会の基本的政治構造の言説分析を行い、現代社会を分析するための視座を提供することを目的とする。以下、本論文が明らかにした点を述べたい。1主権論の歴史にロックを位置づけたことロックの歴史的な課題は、「人民が権力を持つ」という意味での人民主権原理の発明ではなかった。ロックにとって、問題は、個人を政治主体へと転換することであり、かれらの政治体制を正統化することである。この人民統治の原理の理論化にこそ、ロックの思想史における重要性を指摘することができる。2ロックの果たした理論的な功績を明らかにしたことロックの課題は政治主体としての「人民」の生成にあった。そして政治はその人民に適合したものへと組み替えられる。普遍的な人間の能力に合致した政治を論ずることが、『統治二論』の中心的な課題であった。ユートピア「アトランティス」に、こうした人民の自己統治の形態として読まれなければならない。3人民主権論の優越性を論及したこと個人の存在とその同意の体系を破壊する政治権力の暴発に対する人民の抵抗権は、コモンウェルスの自浄作用としての人民概念の再定位として機能する。政治主体としての人民の同一性を、抵抗権によって、永遠に更新し続けるのである。抵抗権は、(革命として)専制と(反革命として)マルチチュードの双方に対抗する。こうして、人民主権論は永久に続く政治原理として理論化された。