著者
渡辺 登喜子 渡辺 真治 河岡 義裕
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.10, pp.2705-2713, 2013-10-10 (Released:2014-10-10)
参考文献数
11

H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルス(以後,“H5N1ウイルス”と呼ぶ)が,世界各地に拡大している.それに伴い,ヒトにおける感染例も増えてきており,これまでに600人ほどの感染が確認され,60%近い致死率が報告されている.確認されている感染例が限られていることから,ヒトには比較的感染しづらく,感染したとしてもヒトからヒトへの伝播が起こりにくいと考えられている.しかし,ウイルス遺伝子の交雑やウイルス蛋白質のアミノ酸変異により,ひとたびH5N1ウイルスが,これまでよりヒトへ感染しやすくなり,さらにヒトからヒトへと効率よく伝播する能力を獲得すれば,致死率の高いH5N1ウイルスが世界的大流行(パンデミック)を起こす危険性がある.本稿では,最近の研究から得られた知見を元に,H5N1ウイルスがパンデミックを起こす可能性について議論したい.
著者
大類 孝 海老原 孝枝 荒井 啓行
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.11, pp.2746-2751, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

高齢者肺炎の大部分が誤嚥性肺炎であり,その危険因子として脳血管障害および脳変性疾患に伴う不顕性誤嚥が重要である.不顕性誤嚥は大脳基底核病変を有する人に多く認められる.ACE阻害薬,アマンタジン,シロスタゾール,半夏厚朴湯,葉酸,モサプリドなどの不顕性誤嚥の予防薬は,ハイリスク高齢患者において肺炎の予防効果を有する.また,カプサイシン,メンソール,黒胡椒アロマセラピーも嚥下機能の改善効果を有し,肺炎の予防効果が期待される.
著者
神田 隆
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.9, pp.1821-1825, 2017-09-10 (Released:2018-09-10)
参考文献数
10
著者
牧野 茂義 福田 隆浩 上田 章
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.323-325, 2001-02-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5
被引用文献数
2 2

症例は28歳,男性.発熱と全身倦怠感にて発症し,重度の貧血を認め,ヒトパルボウイルスB19 (B19)による赤芽球癆と診断した. B19-IgG抗体の産生により貧血は改善したが, 4カ月後にB19-lgG抗体が消失し貧血が再燃した.輸血とγグロブリン製剤投与にて貧血は改善したが, 2年経過した現在もB19-IgM, IgG抗体とも陽性で軽度の貧血を認めている.健康成人が何らかの理由でB19を排除できず持続感染を起こした稀な症例と考えられた.
著者
山口 正雄
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.8, pp.1451-1454, 2016-08-10 (Released:2017-08-10)
参考文献数
13

薬剤アレルギー(drug allergy)は,今まで国内にも国際的にも確立されたガイドラインがなく,眼前で起きてほしくない不運,あるいは予知・予測とはほど遠い偶発的事象と捉えられがちである.確かに,薬剤アレルギーは他の疾患と比べて扱いづらいところがあり,医原性(iatrogenic),そして正確な診断と有症率調査が難しいという特徴を持っている.薬剤アレルギーの患者数を「現時点で症状を有する数」として把握するのは不可能であり,薬剤アレルギーの既往歴を把握する必要があるが,患者の記憶および自己判断に頼らざるを得ない.そして,臨床現場で当該薬剤を投与される患者数を,短期投与から長期投与までを正確に全数把握するのも困難であり,投与患者総数に対して薬剤アレルギーを発症した患者の比率の算出が極めて難しい.薬剤アレルギーの診断基準が確立していないことも問題である.症状,機序が多様であるだけでなく,アレルギー機序で生じたのではない反応(例:X線造影剤によるアナフィラキシー)や,機序不明の反応も薬剤アレルギーに含めることも多く,検査についても万能なものがない.さらには,医師により薬剤アレルギーの解釈が異なっており,IgE依存性のI型反応だけを薬剤アレルギーと称する医師・研究者も少なくない. 2015年にJ Allergy Clin Immunol誌に掲載された米国の報告(平成25年3月19日に開催された,薬剤アレルギーに関するワークショップの概要)1)によると,drug allergyという用語自体が検討対象となっており,代案としてdrug hypersensitivity(薬剤過敏症)も検討されたが,後者については機序が免疫機序に限らない(例えば,代謝酵素欠損による副作用も含むことになる)という懸念が示されている.薬剤アレルギーのうちでも,内科医にとって重症度や緊急度の観点から特に注意を要するのは,即時型反応(アナフィラキシーや蕁麻疹)と重症薬疹である.筆者は,薬疹は専門外ではあるが,本稿では,即時型反応の最近の知見に加えて,重症薬疹に関して欧米の記載を読む際に注意しておくべきポイントについて触れておきたい.
著者
安倍 正博
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.305-313, 2015-02-10 (Released:2016-02-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は,意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance:MGUS)より進展し,発症する.骨髄腫細胞内で起こるゲノム不安定性や遺伝子プロモーターのメチル化などのepigeneticな制御の異常により特定の遺伝子が活性化あるいは不活性化し,骨髄腫は多段階の発癌ステップにより進行する.また,このような骨髄腫細胞自身の細胞遺伝学的な異常に加え,本症に特徴的な病態の形成や腫瘍進展・治療耐性の獲得に骨髄腫細胞と骨髄内のみならず,骨外の微小環境との間の複雑な細胞間相互作用が注目されている.近年,MMの進展に関する分子病態の解明や新規薬剤の登場により,治療パラダイムが大きく変貌している.
著者
横田 敏勝
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.14-18, 1993-01-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
4
被引用文献数
1 2

痛みを感じる脳頭蓋部の諸構造,それが刺激されたときに痛みを感じる部位,頭蓋内の発痛要因などの基礎的事項を記述した.また,片頭痛と高血圧症による頭痛の病態生理学を解説した.拡延性抑圧を強調した片頭痛の神経説が,血管説に取って代わる勢いであった.ところが最近では,新薬の治療効果を無視できないことも重なって,血管説が復活の気配を見せている.高血圧症による頭痛は,脳血管の自己調節機構と表裏一体である.
著者
二尾 健太 山口 太輔 坂田 資尚 下田 良 坂田 祐之 藤本 一眞 岩切 龍一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.8, pp.1939-1941, 2014-08-10 (Released:2015-08-10)
参考文献数
6

反応性amyloidosis(AMY)は慢性炎症により産生された血清amyloid Aの代謝産物が沈着し組織障害を来たす疾患であり,難治性合併症の一つである.症例は53歳,女性.反応性AMYによる急性腎不全を契機にCrohn病と診断された.消化管病変は胃・十二指腸から大腸まで広範に渡っていた.methylprednisolone(mPSL),granulocyte apheresis(GCAP),infliximab(IFX),dimethylsulfoxide(DMSO)等の集学的治療により症状は著明に改善した.通常反応性AMYは罹患期間が長期になるほど発症リスクが高くなるが,本症例の様に罹患範囲が広範な場合は早期より反応性AMYの合併に注意する必要がある.
著者
山田 正信 森 昌朋
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.720-725, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
10

中枢性甲状腺機能低下症(CH)は,下垂体から分泌されたTSHの量的あるいは質的な低下で甲状腺への作用が減弱し発症する.意外にも多くのCHの血清TSH値は基準値内を示す.CHの約60%は下垂体腫瘍を原因とするが,近年,頭部外傷やくも膜下出血後,GH製剤や種々の薬剤,コントロール不良のBasedow病の母親から生まれた児などが新たな原因として加わった.CHは高LDL-C血症などの脂質異常症の原因となり適切な治療が必要である.
著者
児玉 聡
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.1406-1410, 2014-06-10 (Released:2015-06-10)
参考文献数
7
著者
小野 正文 西原 利治
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.47-55, 2016-01-10 (Released:2017-01-10)
参考文献数
19

患者数のさらなる増加が予想される非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)患者の中から治療が必要な非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)や肝線維化進展症例を見つけ出すのは容易ではない.肝臓の組織診断がNASHと非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver:NAFL)を鑑別できる唯一の方法であるものの,NASHや肝線維化進展の可能性が高い症例を画像検査,スコアリングシステムならびにバイオマーカーなどを用いて診断し,適切な時期に肝臓専門医に紹介することが重要である.今後,有用な血液バイオマーカーの登場も期待されており,肝不全や肝細胞癌の高発症リスク症例の早期診断が内科医には求められる.
著者
山中 克郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.12, pp.2454-2459, 2019-12-10 (Released:2020-12-10)
参考文献数
8

救急患者の診察では,症状やバイタルサインから致死的疾患を想起し,red flag signがないか確認することが大切である.患者本人からの症状聴取が困難なときは,同伴者から情報を得るとよい.鑑別診断のヒントとなる重要なキーワードを病歴や所見から見つけることも,鑑別診断の効果的な絞り込みに役立つ.よくある疾患に対しては,典型的な症状があるかどうかを確認する.
著者
柴田 洋孝
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.702-707, 2008 (Released:2012-08-02)
参考文献数
9
被引用文献数
3

副腎不全のうち,原発性は副腎疾患によりコルチゾールが欠乏する疾患で,続発性はACTH低値によりコルチゾール欠乏をきたす.続発性ではレニン・アンジオテンシン系が正常なためアルドステロン産生は正常であるが,原発性ではアルドステロン産生も様々な程度で抑制される.原発性副腎不全は,自己免疫性が多く,感染症,腫瘍,浸潤性疾患,副腎出血,遺伝性疾患などによる.続発性副腎不全は,ステロイド治療に伴う視床下部-下垂体系の抑制によるものが多い.
著者
崎間 敦 大屋 祐輔
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.268-274, 2015-02-10 (Released:2016-02-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

高血圧緊急症とは,単に血圧の異常高値だけでなく,直ちに降圧治療を開始しなければ標的臓器障害が急速に進展し,致命的になり得る病態である.緊急症が疑われる症例には,迅速な診察と検査によって病態の把握を行う.ICU,またはそれに準ずる施設へ入院とし,直ちに経静脈的に降圧治療を開始する.今回改訂された「高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)」では,緊急症に対する初期対応から疾患ごとの標準的治療および切迫症の取り扱いについて解説している.
著者
金澤 素 福土 審
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.1, pp.17-24, 2013 (Released:2014-01-10)
参考文献数
17

機能性消化管障害(FGID)患者の病態として脳腸相関の異常が想定されている.大腸刺激時の局所脳血流量の変化を観察すると,健常者でみられる前帯状回を中心とした脳領域の賦活がFGID患者ではさらに亢進している事実から,内臓知覚過敏の原因の1つとして脳内プロセシングにおける感作と連合学習が示唆される.脳機能イメージングはFGIDの脳腸相関の病態ならびに治療効果を評価する有力な生物学的指標になりうる.
著者
筒井 裕之
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.6, pp.1115-1122, 2018-06-10 (Released:2019-06-10)
参考文献数
11

心不全に対する薬物治療は,利尿薬や強心薬による治療から神経体液性因子を抑制する治療へと,そのパラダイムが大きくシフトした.現在,アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme:ACE)阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(angiotensin II receptor blocker:ARB),ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)等レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(renin-angiotensin-aldosterone:RAA)系抑制薬及びβ遮断薬が心不全の標準治療薬として位置付けられている.欧米を含め,世界各国では,既にアンジオテンシン受容体―ネプリライシン阻害薬(angiotensin receptor neprilysin inhibitor:ARNI)サクビトリル/バルサルタン(LCZ696)とIfチャネル阻害薬イバブラジンも使用されている.また,糖尿病治療薬であるナトリウム・グルコース共輸送体(sodium glucose cotransporter:SGLT)2阻害薬のエンパグリフロジンとカナグリフロジンが心血管イベント,特に心血管死や心不全による入院を減少させることが明らかとなり,心不全を対象とした大規模臨床試験が我が国も含め進行中である.
著者
田中 正美
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.8, pp.1803-1808, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
25
被引用文献数
2

高齢者に多い本症は,高齢化社会を迎えて,今後さらに増加してゆくと思われる.日本人には失明の危険のある,巨細胞性血管炎(側頭動脈炎)の頻度は低いが,長期予後は必ずしも良好とは言えず,急性期ではステロイドに良く反応するが,慢性化して再発したり,減量が困難なことが少なくない.欧米の診断基準が利用されることが多いが,日本人向けの感度の高い診断基準が必要と思われる.