著者
林 成多
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.105, no.9, pp.609-624, 1999-09-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

新潟県三島郡和島村の大武遺跡において, 泥炭質堆積物からなる完新統から8種のネクイハムシ類を含む多様な甲虫化石群集が得られた.ネクイハムシ類について化石群集の産状を7つに区分した層相を基に検討した結果, 種構成と層相には対応関係があることがわかった.さらに, 新潟県を中心に東日本でのネクイハムシ類の現生調査から生息環境をまとめた結果, ネクイハムシ類が示す古環境と層相などから推定される古環境はよく一致し, ネクイハムシ類の化石群を解析することにより詳細な水辺~湿地環境を推定できること明らかにした.ネクイハムシ化石群の解析結果や他の化石, 産出層準の層相から, 大武遺跡の埋没谷は流水の影響下で砂質堆積物がまず堆積し, その後に浮葉植物群落を伴う止水域が出現した.止水域はやがて湿性植物が繁茂する湿地となった.この湿地は層準により止水域を伴う場合や, スゲ類やヨシが優占するなど環境が変化したという, 古環境変遷が推定される.
著者
吉本 充宏 宝田 晋治 高橋 良
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.113, no.Supplement, pp.S81-S92, 2007 (Released:2009-01-27)
参考文献数
29
被引用文献数
2 6

国内でも有数の爆発的噴火を繰り返す北海道駒ヶ岳火山の最新活動期の噴出物を中心に,爆発的噴火の堆積物の特徴や構造,それらの織りなす地形を見学するとともに,日本で最初にハザードマップが作成された火山防災先進地域の活動を視察する.
著者
後藤 和久 田近 英一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.117, no.4, pp.193-203, 2011-04-15 (Released:2011-08-12)
参考文献数
80

過去30年にわたって,天体衝突と顕生代における大量絶滅の関係を探る研究が行われてきた.しかし,両者の明らかな関係が見出せるのは,いまだに約6550万年前の白亜紀/古第三紀(K/Pg)境界だけである.本研究では,地質学的証拠,地球近傍天体観測データに基づく天体衝突頻度の推定,および月面のクレーターサイズや形成史などの最新の研究を総合的に検討した.その結果,K/Pg境界での天体衝突の規模は,5~10億年に1度程度の頻度の超大規模衝突だった可能性があり,K/Pg境界以外の絶滅境界で天体衝突の明らかな痕跡が見つからないという地質学的証拠とは矛盾しない.一方,K/Pg境界での天体衝突による大量絶滅のメカニズムについては,いまだに十分解明されていない.この理由のひとつは,衝突クレーターそのものに関する地質学的研究が乏しいことである.衝突現象の実態解明のために,衝突クレーター掘削計画の早期実現が望まれる.
著者
大井 信三 横山 芳春
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.117, no.Supplement, pp.S103-S120, 2011-09-01 (Released:2013-02-20)
参考文献数
49
被引用文献数
2 2

茨城県中・南部の常陸台地を構成する下総層群は,これまで房総半島の模式層序との対比が確立されておらず,地域内でも研究者によって様々な見解があり,異論が多かった.そこで新たに見いだされたテフラを広域に追跡することでテフラ層序を組み立てて,それを基準として堆積相解析やシーケンス層序学的解析を行った.その結果,下総層群を藪層,上泉層,清川層,横田層,木下層,常総層の6層を区分した.さらに,最終間氷期の堆積物である木下層に2つの堆積サイクルを認め,剣尺(けんじゃく)部層,行方(なめかた)部層を新たに設定した.本巡検では常陸台地における下総層群の各構成層について,案内者らの見解を紹介し,模式層序との対応を解説,議論する.さらに,テフラと堆積相の分布から推定される,木下層の堆積過程について概説する.特に堆積物供給量の違いを背景として,涸沼(ひぬま)を境界として南北で異なる堆積システムの時空変化について,常陸台地を縦断して比較を行う.
著者
巽 好幸
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.4, pp.244-250, 2004 (Released:2005-01-07)
参考文献数
29
被引用文献数
2 1

島弧の進化に関して, 検証可能な作業仮説を提示する. 初期マグマ活動によって形成された玄武岩質島弧地殻は, 下部地殻の部分融解により, 下部のマフィックな部分と上部の安山岩質の部分に分化する. 前者は, 島弧衝突過程で相転移を主要な原動力として分離され, 安山岩質の大陸地殻が誕生する. さらに成熟した島弧では, 安山岩質地殻の部分融解により, フェルシックマグマが生産される. IODPとその関連研究によって, この作業仮説の検証を試みる.
著者
岡村 聡 永田 秀尚
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.113, no.Supplement, pp.S93-S102, 2007 (Released:2009-01-27)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本コースでは,小樽から積丹半島東海岸に分布する多様な水底火山噴出物を見学し,それらの産状観察から海底火山活動の定置環境や噴火機構について考察する.これらは新第三紀中新世に活動した玄武岩,安山岩,流紋岩の多様な岩石種からなり,変質作用や変形をほとんど受けていない.特に玄武岩質マグマの噴出による枕状溶岩や溶岩噴泉によって降下堆積した水冷スパッターの産状など,浅海下で生じた火山噴火の定置環境の復元が可能な地域である.本地域に分布する新第三紀の水底火山噴出物は,高く連続する海食崖を形成しており,そこではしばしば岩盤崩壊が発生している.岩相的にはそれほど大きな差はないが,海食崖の高さや波食ノッチの発達程度,既存の亀裂の頻度や方向性,風化程度などの地形的,地質的な条件の違いによって,さまざまな規模や破壊,運動形態の異なる岩盤崩壊が発生しているのを観察する.
著者
佐藤 峰南
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.12, pp.983-993, 2018-12-15 (Released:2019-03-15)
参考文献数
72
被引用文献数
1

地球科学の最も重要な発見のひとつである白亜紀/古第三紀(K/Pg)境界の白金族元素の異常濃集が報告されてから30年以上が経過した.それ以降,世界中のK/Pg境界層から白金族元素の異常濃集が検出されている.日本の付加体である三畳紀-ジュラ紀の層状チャートは,非常に遅い堆積速度(1000年で数mm以下)をもつ遠洋性深海堆積物であり,大陸起源物質の混入が少ないという特徴を持つ.層状チャートは,堆積速度が遅く,連続的な堆積物であることから,層状チャート中には地質時代を超えた地球外起源物質付加の記録が残されている.本稿では,日本の遠洋性堆積物中に保存された後期三畳紀の巨大隕石衝突による地球外起源物質の流入履歴について,地球化学データを用いてレビューした.層状チャート中の白金族元素およびオスミウム同位体の地球化学データは,隕石のタイプや種類を推定する上で非常に有用な情報を提供する.
著者
尾上 哲治
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.12, pp.1021-1032, 2018-12-15 (Released:2019-03-15)
参考文献数
97

日本列島のジュラ紀付加体中には,パンサラサ海の遠洋域で堆積した三畳系〜ジュラ系層状チャートが広く分布する.層状チャートは,一般に泥質部と珪質部の互層から構成され,主に大陸起源の風成塵からなる泥質部の堆積と,生物源(放散虫)シリカの深海底へのフラックス増加による珪質部の堆積が,ある一定周期で繰り返し起こり有律互層が形成されたと考えられている.しかしながら珪質部において生物起源シリカフラックスがなぜ増加するのかといった,堆積環境の変動要因については明らかにされていない.本論では,未解決である層状チャート珪質部・泥質部互層の堆積機構を理解するために,(1)珪質部・泥質部の堆積速度,(2)珪質部・泥質部堆積時の古環境,(3)珪質部層厚変動の要因という3つの問題について総括した.
著者
新井 宏嘉
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.108, no.9, pp.575-590, 2002-09-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
85
被引用文献数
5 5

関東山地北縁部,跡倉ナップを構成する上部白亜系跡倉層には共役雁行脈が発達する.これを用い,跡倉層中の古応力場を解析した.雁行脈はその形態的特徴により,個々の脈が相似褶曲の形態を呈し,尖端が他の機械的異方面に連続しないもの(Aタイプ)と,Aタイプに比べて規模が大きく,個々の脈がシェブロン褶曲の形態を呈し,尖端が節理に連続するもの(Bタイプ)の2つに区分される.共役雁行脈はAタイプにのみ認められる.Aタイプは主に石英および緑泥石からなり,脆性-延性剪断帯で形成された.Bタイプは方解石および石英を主とし,節理形成後の開口で形成された.共役雁行脈から求めた古応力場は,最大圧縮主応力軸:北西-南東~北北東-南南西方向,水平,中間圧縮主応力軸:ほぼ鉛直,最小圧縮主応力軸:北東-南西~西北西-東南東方向,水平である.これらは跡倉層の重複褶曲構造のうち,正立褶曲群形成時後期に形成された.

4 0 0 0 OA 桜島火山

著者
小林 哲夫 佐々木 寿
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.120, no.Supplement, pp.S63-S78, 2014-08-31 (Released:2014-12-26)
参考文献数
57
被引用文献数
3

桜島火山は鹿児島湾最奥部を占める姶良カルデラの後カルデラ火山であり,その誕生は26,000年前である.歴史時代にも多くの噴火を繰り返したが,ちょうど100年前の大正噴火(1914年)で流出した溶岩で瀬戸海峡が埋め立てられ,大隅半島と陸続きとなったのは有名である.その後も山頂~山頂付近に生じた火口で活発な噴火活動を続けており,日本を代表する活火山である.本コースでは,桜島火山の歴史時代の噴出物や最新の火山地形を観察する.特に大正噴火の西側火口から噴出した火砕物質と溶岩流の産状を詳しく観察し,噴火の推移を考える.